きっと、君の存在は   作:あすす

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 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「それじゃ、魔法戦のルールを説明するよ」

 

 開けた演習場の中央に、ボリズリーとナナリーが少し距離を取って向かい合わせて立つ。

 

 その二人の中央に位置するアルウェスは、掌に乗せた魔導具をそれぞれ二人に差し出した。

 

「二人にはこの魔導具を胸に着けてもらうから。今回は専門の治癒魔法使いがいないから、身体に受けた魔法攻撃を無効化してくれるこれを使う」

「……待て、そんな魔導具があるのか?」

「個人的に僕が研究しているやつだよ」

 

 アルウェスが手にするブローチ型の魔導具は、身に着けた対象の身体に薄い魔力のべールを纏わせる。

 

 そしてそのべールに、対象が行使する以外の魔法が触れると、対象の魔力を以てして魔法を無効化してくれる代物だ。

 

 これまで魔法無効化の技術は魔法研究の最難関領域とされており、ナナリーのハーレの制服、ウーデン・スケウエーに宿る効果がこれに該当するが、その詳細は未だに未知の部分が多く残されている。

 

 そこでアルウェスが魔術師長として魔法無効化の研究を担当した結果、限定的な使用条件下ではあるが、魔法を無効化する魔導具の作成に成功したのだ。

 

「……アルウェスが表舞台に出るようになってから、ドーラン王国の魔法研究部門は確実に飛躍したよな」

「褒めてくれてありがとう……とは言っても、この魔導具もまだまだ不十分で、実用には不向きなんだよね」

 

 肩を竦めて感心を見せるボリズリーに、アルウェスは珍しく不貞腐れたように眉を寄せた。

 

 魔法を無効化する魔導具──つまりこれさえあれば、対魔物戦から対人戦において、圧倒的有利を得ることができるはずだった。

 

 けれど残念ながら、今の段階でこの魔導具の効果発動時間はせいぜい十分が限界で。

 

 しかも己の魔力で魔法を無効化するため、着用するだけで自動で魔法を無効化してくれるウーデン・スケウエーと違い、無効化の度に魔力が大幅に消費されてしまうのが最大の難点であった。

 

 本来は魔物との戦闘で攻撃を回避するために開発されたものだが、魔力残量が鍵を握る実戦ではかえって不利になりかねない。

 

 そのため、こうした模擬決闘や魔法戦で使用するくらいしか用途がないというのが現状なのである。

 

「なるほど。つまりこれがあれば、魔法による怪我を防ぐことができるのか。万が一にもナナリーさんを傷付けずに済みそうで安心したよ」

「君ならそう言うと思ったから、この魔法戦の制限時間は、魔導具の効果持続時間である十分。それまでに魔力切れで戦闘不能になった方の負けで、十分経っても決着がついていなければ、その場合は両者引き分けってことでどう?」

「そうだな。俺は問題ないよ」

 

 そう言って、ボリズリーはアルウェスの手から魔導具を受け取る。

 

 十分。まあ妥当だろう。決して長い時間とは言えないが、それだけの時間があれば彼女の戦い方を理解するには充分だった。

 

 ウォールヘルヌスでアルウェスと鬩ぎ合い、さらにその後シュテーダルとの戦いに臨んでいたところを見るに、彼女の魔力量は相当なものなのだろう。一つ一つの魔法の精度も威力も申し分なかった。

 

 だから、どうせやるなら時間をかけて魔法を出し惜しみされるより、短時間で全力で向かってきてもらいたいと思うのだ。

 

 彼が、ボリズリーが知りたいのは、アルウェスが認めるナナリーの魔法であったから。

 

「ナナリーも、それでいい?」

「うん」

 

 そして彼の目線の先で、ナナリーもアルウェスから魔導具を受け取ると、左胸の部分にピンを刺して固定した。

 

 その表情に先程までの絶望感は見られず、集中しているのか良い意味で引き締まり、覚束なかった重心もしっかりと身体の中央に据えられているようで。

 

 どうやらアルウェスが言っていた通り、緊張は完全に解かれているようだった。魔導具の感覚を確かめる碧色の視線に、もう迷いは感じられない。

 

「ちなみに使い魔の召喚はなし。それから立ち合いは僕とヘンリック・コーパス副隊長。魔導具があるから大概のことは大丈夫だと思うけど、万が一僕等が危険だと感じた場合は、時間内であっても止めに入るからそのつもりで」

「よ、よ、よろしくお願いします……」

 

 アルウェスの斜め後方で控えめに頭を下げるヘンリック。その顔が、どこか青褪めて見えるのは気のせいではないだろう。

 

 彼の複雑な心境をありのまま理解できるヴェスタヌ騎士団勢は、観客席からヘンリックのことを心から応援していた。

 

(ヘンリック……頼んだぞ!)

(俺達の精神平和のために!)

(いやでも副隊長で止められますかね? だってあの二人ですよ?)

(ロックマン殿がいるから大丈夫だろ)

(そのロックマン殿も参戦し出したらどうな……うぎゃっ!)

(((やめろ頼むから不吉なこと言うなっ!!)))

 

 何故か盛り上がりを見せている(ように見える)観客席を不思議そうに一瞥したアルウェスは、気を取り直して懐から懐中電灯を取り出すと、その文字盤を見つめる赤い瞳をすっと細めた。

 

「二人とも準備はいいね? コーパス副隊長の宣言で開始するから」

 

 おずおずとヘンリックが前に出てくると、アルウェスはそれきり閉口した。

 

「ああ」

 

 ジリ、と軽く足を開いて、ボリズリーは姿勢を構える。

 

「いつでも」

 

 そして向かいのナナリーも同じように肩幅分足を開いたかと思えば、こちらは少しだけ膝を曲げて重心を落とした。

 

「「「…………」」」

 

 観客席にいるヴェスタヌ騎士団勢が、ごくりと息を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 その場にいる誰もが、静止。

 

 まるで、時すら止まってしまったかのような、無音と不動がどこまでも広がる空間。

 

 ほんの一瞬が永遠のように。けれどその永遠は、実はほんの一瞬で。

 

 研ぎ澄まされた空気が最高潮に張り詰めた、その瞬間。

 

 ヘンリック・コーパスが動いて──そして、腹の底から声を張り上げた。

 

 

 

 

「は──始めっ!」

 

 

 

 

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