きっと、君の存在は   作:あすす

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そうして彼に指先を向けた、その瞬間だった。

 

 ──ガクッ!

 

「っ!」

 

 突如傾いた身体。全身にかかる負荷。

 

 ナナリーは目を見開いた。

 

 視界が縦に流れていく。水色の髪がごうごうと乱される。空気が肌を叩く。落とされていく。引っ張られていく。

 

(──っ、なんで!?)

 

 抗うように首を捻って地面を確認する。そして、目を疑った。

 

 ナナリーの真下には、【重力磁場】の魔法陣があったのだ。

 

 しかし、最初にいた地点の下にも、先程確認したはずの魔法陣が残っている。

 

 この短時間で魔法の重複展開はさすがにできないはずだ。それに二つ目の魔法陣が描かれている様子は微塵も見られなかった。

 

(どうして!? さっきちゃんと魔法陣の外に跳んだはずのに……まさかっ!)

 

 そこで即座にナナリーは指を鳴らして解除を試みた──己の身にかけられていた【幻覚魔法】を。

 

 すると最初にナナリーが確認し、その範囲外に出たと確信していた方の魔法陣が跡形もなく消えた。残されたのは、彼女の真下にある方の魔法陣で。

 

「……っ!」

 

 偽物の魔法陣を見せられていたのだと気付いたナナリーは、思わず歯噛みした。

 

(私が魔法陣の形成を確認してから回避するのを、読まれていたんだっ!)

 

 これには一連の流れを見ていたヴェスタヌ騎士団勢は大いにどよめき、ヘンリックも驚愕に息を飲み、身を乗り出して声を上げた。

 

「ボリズリー隊長、ヘルさんに幻覚魔法をかけていたんですか!?」

「彼女が跳んだ瞬間にね。幻覚魔法で嘘の魔法陣を見せて、その出方を窺ったんだ。そしてまんまと嵌った彼女が横に飛んだから、その地点に合わせて【重力磁場】を発動したんだよ」

「そんな……それってヘルさんの動きを読んでたってことですよね? そんなこと可能なんですか普通!?」

「だから君達の隊長はヴェスタヌ王国の頂点なんだろう?」

 

 圧倒的な地属性魔法だけでなく、優れた状況把握力や相手の心理を読み誘導する力。そしてそれらを戦いの場において最大限発揮できる精神的な強さ。

 

 どれをとっても一級品。各能力が抜きん出て、けれどバランスが非常に良い。

 

 そしてこの総合力の高さが、騎士として魔法使いとして、サレンジャ・ボリズリーがヴェスタヌ王国の天才と呼ばれる所以であった。

 

 改めて己の上司の凄まじさを目の当たりにして、ヘンリックは身体をぶるりと震わせた。

 

「ボリズリー隊長……普段の訓練や演習の時でもこれほどの戦い方は見せないから。正直驚いています」

「ナナリーもこういうのは敏感に気付く方なんだけど、さすがに彼が相手だと、そうもいかないみたいだね。まぁ単に集中しきれていないっていうのもあるだろうけど」

 

 アルウェスは視線を上げ、落下するナナリーを追った。その下には、ボリズリーが彼女目掛けて指を構えている。

 

「回避できたと油断した瞬間に本物の【重力磁場】が発動。次の攻撃を仕掛けようとしていた彼女は不意をつかれ、魔法をろくに行使できないばかりか【重力磁場】に引っ張られて真っ逆さまに落ちることになる。そのまま無防備の状態にある彼女を待ち受けるのは、この一連の流れを組み上げた彼の攻撃。そしてあの体勢から彼女はこれを回避できない──」

 

 背中から落ちるナナリーは振り返るように下を見て、こちらを見据えているボリズリーと目が合った。

 

「凄いよ君は。俺相手にここまで張り合うんだから。アルウェスの他にこんなにも戦える人がいるだなんて、俺もまだまだ世間知らずだった。君はきっとこれから伸びるだろう。アルウェスの隣に立つに相応しい。それが俺は楽しみで楽しみで仕方がない──けれど」

 

 ボリズリーがナナリーに向けてニコリと微笑んだ。

 

「悪いが、これで俺の勝ちだ」

 

 その瞬間ナナリーが目を見開いて。ボリズリーは彼女に魔法を叩き込むべく魔力を練る。

 

 そしてそれを絶対に避けられない至近距離から放って、高密度の魔力からなる彼の攻撃を直接受けた彼女の魔導具が、彼女の魔力を根こそぎ奪いにかかる──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──と、思うでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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