きっと、君の存在は   作:あすす

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「……いつの間に二人はそんなに仲良くなってたのかな? 何も聞いてないんだけど」

「いや、ちゃんと話したのはこの前が初めてだな。それでも仲良く見えるというのなら光栄だよ。俺もナナリーさんのことはもっとよく知りたいと思ってるから」

「ヴェスタヌの天才がハーレのいち受付嬢と親しげにしていたら、周りが黙ってないと思うけど?」

「なら周囲にバレないように秘密の逢瀬でもすればいいか?」

「ちょっとちょっとちょっと隊長! いい加減にしてもらえませんかねぇ!?」

「俺達がお願いしたこと覚えてますよねボリズリーさん!?」

 

 笑顔でやり合う二人が果てしなく恐ろしい。そんな容赦なく相手を煽りまくる上司を、危機察知能力に優れたヴェスタヌ勢がいち早く顔を引き攣らせて止めに入った。

 

「ロックマン殿とは穏便にってあれほど言ったじゃないですか! それ無意識に煽ってるんですか!?」

「そんなわけないだろう。俺はただアルウェスの反応をもっとよく見たいと思ってるだけだ」

「確信犯!」

 

 わぁわぁと賑やかさを増すヴェスタヌ騎士団サイド。とぼける上司と怒る部下達のやり取りは次第に激しさを増し、事態は混沌を極めんとしていた。

 

 そして、しばらくそれらを冷ややかに見つめていたアルウェスだったが、ややあってちらりとナナリーを一瞥すると、小さく息を吐いた。

 

「“もっとよく知りたい”ねぇ……」

「ふぐ?」

 

 掴んでいた鼻と口から手を離すと、彼から解放された彼女は真っ先に空気を味わうように、深く吸って吐いてを繰り返した。

 

「っ、ちょっとあんた! よくもやってくれたわね!」

「……」

「聞いてる!?」

 

 怒りと息苦しさから顔を真っ赤にさせて半泣き状態のナナリー。けれどアルウェスは珍しく反応を返さず、ただただ彼女を見下ろしているばかりで。

 

「……アルウェス?」

 

 まるで何かを考え込むかのように黙りこくってしまった彼に、さすがのナナリーも眉を潜めて様子を窺った。

 

「うん? 二人ともどうした?」

 

 そして、半ばにらめっこ状態で見つめ合うナナリーとアルウェスに気付いたのか、ボリズリーやヴェスタヌ騎士団勢も不思議そうに二人を見やる。

 

 ガヤガヤと人の声や食器の音が入り交う店内の最奥で、その空間だけが異様な静けさに満ちていた。

 

 グラスの表面に付いていた雫がするするとテーブルに落ちる。そうして落ちた水滴がフット部分を縁取るように円を描いた頃、それまで閉ざされていたアルウェスの口がゆっくりと開かれた。

 

「……まぁ、ちょうどいいかもしれないね」

「へ?」

 

 自身を見つめながらの言葉に、思わずナナリーがぽけっと呆けた。ようやく口を開いたかと思えば……“ちょうどいいかもしれない”?

 

 いったい何の話だと彼女が問い詰めようとした矢先、しかしそれを躱すようにアルウェスがつい、とその視線をボリズリーの方へ流す。

 

「そんなに彼女のことが知りたいのなら、僕から一つ提案があるんだけど、どうかな?」

「へぇ?」

 

 先程までとは一転して、どこか余裕すら窺えるアルウェスの言葉に、ボリズリーの口角も緩やかに上げられた。ナナリーも首をアルウェスとボリズリーの間を往復させることに忙しい。

 

 アルウェスは手の中のグラスをくるりと回しながら、まるで何でもないことのように軽く口にする。

 

「いっそ、魔法戦でもしてみたらどうかと思って」

「魔法戦?」

 

 ボリズリーは首を傾げた。始祖級魔法使いと謳われ、その実力も実際に他より抜きん出ている二人は、時間が合う度に魔法戦と呼ばれる魔法の模擬決闘を行っていた。

 

 高度の魔法力を有しているからこそ、彼等は騎士団や魔術師団の訓練で、どうしても相手の力量を見て己の魔法出力を調整してしまうことが多い。

 

 本気を出すことを、全力でぶつかることを、無意識に抑制していたのだ。そうしなければ、周囲が彼等についていけなかったから。

 

 けれど相手が同じ始祖級の魔法使いと呼ばれる彼なら、本気で臨むことができる。全力を出してもそれに応えてくれる。

 

 そういう意味でもアルウェスとボリズリーは、互いに貴重な存在であった。天才という孤高の領域に立つ二人にとって、その力を存分に発揮することを互いに許すことができる存在というのは、きっとこの先も決して多くない。

 

 だからボリズリーにとって、アルウェスとの魔法戦は自身の力を最大限晒すことができる、唯一の場なのだ。

 

 しかもその相手は今のところ彼にしか務まらないので、ヴェスタヌに帰る前になるべく魔法を交えておきたいところでもある。

 

 けれど。

 

「俺がアルウェスと? 別に構わないが、昨日もしたばかりだったよな?」

 

 昨日も、一昨日も、騎士団の集まりの合間に二人は魔法戦を実施していた。どちらも十数分程度の短時間であったけれど、そもそもこの二人の戦闘において、時間という概念はあまり勝負に干渉してこない。

 

 そしてもともと今日のアルウェスはナナリーとの約束があって、ボリズリーとの魔法戦は彼だって予定していなかったはず。それを彼女がいるこの場で提案するとなると、何かしらの目的があるのだろうが……。

 

 探るように目を細めたボリズリーに、アルウェスは少しだけ表情を緩めて微笑した。

 

「いや、君の相手は僕じゃなくて……」

 

 彼は迷うことなく手を伸ばした。水色の髪に指をさらりと滑らせて、添えた掌でその背中ごと引き寄せる。

 

 そして、ぽかんと口を開いたナナリーの肩をとんとんと軽く叩くと、まるで一切の隙も与えない極上の笑みを浮かべて提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──彼女と、魔法戦をしてみない?」

 

 

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