妖精環事件   作:大場鳩

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同級生の証言

ーー以上をもって埼玉県立かまいど高等学校児童集団失踪事件を妖精環事件と呼称する。

 

 

 

 

 

 

 

 

《同級生の証言》

 

幼稚園の頃って誰とでも遊ぶじゃないですか。

男の子とか女の子とかあまり関係なかったし、公園で出会った初めて会った子とも普通に打ち解けておままごととか鬼ごっこしてましたよね。

 

元々母親同士が仲が良かったんです。所謂ママ友って奴ですね。だから小学校低学年くらいまではお互いの家にも行き越してました。

 

でも年齢が上がってくると趣味の違いとか話の合う合わないが出てきますよね。後は学区が違うのが大きかったかな。彼女とは自然に遊ばなくなりました。

 

だから高校で再会した時もあまり会話はしてませんでした。二年になってからは殆ど廊下ですれ違って挨拶する程度の仲です。

 

私は漫画とか小説が好きなんです。

一方で彼女は本は読むんですけどノンフィクション系のものばかり。ワイドショーでも触れられてたけど優等生なんですよ。

おまけに何というか映える子なんです。美人で、私と違って華があるというか。ただそこにいるだけで注目され人が集まってくる存在。

 

だから事件当時もネットとかで悲劇のヒロインみたいな扱いされてて、何といか「やっぱりなあ」って思っちゃいました。

 

彼女の「撫子」ってあだ名は小学校の頃からです。振る舞いが毅然としていて性格も爽やかで澱みがないところが大和撫子みたいだねって先生が言ったのがきっかけで、それが高校でも続いて教室でも「なでちゃん」て呼ばれてたみたいです。

 

「澤近さん」

 

声をかけられたのは近所の大型ショッピングモールの立体駐車場前の前でした。母親の買い物に随伴してました。目当てのラノベを買ったのでベンチで待ってようとしたら先に彼女が座ってたんです。

 

「やっぱり澤近さんでしたか」

「うん久しぶりだね」

 

久しぶりに会った彼女はなんというか大人びてました。服装とかもそうなんですけど雰囲気がなんというか同年代っぽくなかったです。マスコミ避けだと思うんですけどフードを被って黒いマスクをしていて、有名人がお忍びの時にするみたいな格好でした。

 

例の事件が大きくなりすぎたせいだと思います。

全国で毎日のようにニュースになってましたから。七竈高校に通っているってだけで無関係な生徒まで取材対象になってた時期もありましたから。戻ってきた後の彼女は相当大変だったと思います。

 

「撫ちゃんも買い物に来たんだ?」

「すこし人を待ってるのです」

 

誰を待っているのかは分かりませんでした。ただ両親とかではないと思いました。事件以来、ご両親がすごく過保護になっちゃって外出とか許されないって、でも彼女はちょくちょく家を抜け出してるって話を母から聞いてました。

 

「あの、事件のこと大変だったね」

 

事件については話題に出すべきかどうか迷ったのですが思い切って言いました。彼女だって事件については散々言われたくもないことや聞かれたくないことでうんざりしているだろうと思ったけど、触れないのも不自然だったから。

 

「私は他の方に比べたら運がいい方ですから」

「クラスのみんなはまだ入院してるんだね」

「はい市内の病院にいて面会謝絶になっています」

 

たわいのない会話をしました。

彼女、復学はしてましたが殆ど引きこもりに近いと生活を送っていたそうです。もしかしたら会話をする相手に飢えていたのかもしれません。

 

定期的に警察署で事情聴取しているとか、毎日のようにマスコミに追いかけ回されてると早く授業を受けたいとかそういう話を聞きました。多分ストレスが溜まっているんだろうなとも思います。

 

「じゃあまた」

「うんまたね」

 

はい会話はそれだけです。しばらく話した後で買い物を終えた母が来たのでそれ以上の話はしていませんし今彼女が何処にいるのかも知りません。

 

いえすいません。嘘を吐きました。

ひとつだけ質問をしました。

 

「ねえ撫子ちゃん」

「うん?」

「貴方たちは三カ月間、一体何処にいたの?」

 

それはする必要も意味も皆無な詮索でした。

寧ろ無神経で心無い恥ずべき最低な行為です。

 

好奇心に負けてしまったんです。

ただ目の前に下がったカーテンの向こう側がどうなっているのか、そこに何があるのか知りたくて仕方がなくなるのと同じでした。

 

でも言い訳をするなら、多分誰も同じことを思っていたはずでした。クラスの子も、私の親も、先生も恐れる様に一度も口にはしませんでしたが気になっていたはずです。彼女を追いかけまわすマスコミやその報告に期待する無関係な人たちも。あの事件を知る人なら誰もが気になったはずなんです。

 

「……あのね」

 

彼女は怒ったりはしていない様子でした。

心を痛めたり不快な顔も見せませんでした。

ただ少しだけ困ったように何というかバツが悪そうに、でも優しげに目を細めながらこう言ったんです。

 

「あのね実は異世界に行ってたんだ」

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