妖精環事件   作:大場鳩

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竈井市在住の証言/上級生の証言

 

《竈井市在住の証言》

 

例の事件ね。大変な騒動だったよね。

 

暫くはネットもテレビもどこもあの話題で持ちきりだったし日本国民で知らない人はいないんじゃないかな。

 

クラス丸ごと行方不明って前代未聞だよね。例えば修学旅行中のバスの転覆事故なんて過去に数件あったけどそれとも違うよね。生死不明。それも白昼堂々校内の誘拐って話なら尚更じゃない。

 

えっ誘拐かどうかは分かってない。

だったっけ。しばらくワイドショーで追ってたけど最近は見てないからなあ。

 

確か当初から手がかりはゼロだったよね。教室は授業中の様子のままだったとかで現代のメアリー・セレスト号事件なんて見出しの週刊誌も見たよ。あの時は何にも分からないなんて正直気味が悪い事件だなって思ってた。

 

警察だって総力上げて探しますなんて会見してたけど発見当日まで成果らしいものはなかったそうじゃない。どうせお隣が拉致したんだろって国際問題にまでなりなかけて元々険悪な状態なのが更にピリピリしてたっけ。

 

うちにも中学生が二人いるからあの頃は門限とか決めてうるさく言ってた。いやでも良かったよ。生徒さんたち戻ってさ。本当に良かった。あの時の速報のテロップだと殆ど全員無事保護されたって話じゃない。重症の子とかもいたみたいだし一人だけ所在不明らしいけど最悪の結末にはならなかった。何よりだと思うね。

 

そういえばあれからちっともニュース出てないね。事件解決したからかな。結局首謀者だった例のグループのこともわからずじまいだったし。怪しいカルト団体っていうことだけでさ。うん解散総選挙もあったし話題はそっちに移っちゃったよね。でも結局原因が公になってないのは解せないねえ。三ヶ月の間生徒さんたちがどこで何してたのかは、

 

お茶の間の皆んなが気になってるんじゃないかな。

 

 

《上級生の証言》

 

家が学校のすぐ近くなんです。

二階に自室があるんですがカーテンを開けると校舎が見えます。こんなに近いからすごく便利だなって入学当初は思ってました。同じ部活の子に幾ら寝過ごしても遅刻しないねってよく揶揄われます。

 

でも今はちょっと後悔してます。

ここまで家が近いと忘れ物したら取りに行くはめになるし、それはまだ良いんですけど朝起きてすぐ学校だから心の切り替わりが上手くいかなくて。

 

中学までは通学路が長かったから歩いてるうちによしもうすぐ学校だ、よし勉強頑張るぞってなってたのにその時間がなくて。帰る時もなんだか学校気分が抜けないっていうか。

 

それと知り合いに家から出てくるのを見られたくないです。

「ああここが貴方の家なんだ」って視線がなんか嫌だっていうかプライバシーが保たれてない感じがします。だから家が近くにあるのがすごくではないけれど苦痛で、あの事件があってからは更に嫌になりました。

 

多分この気持ちは同じ境遇じゃないとなかなか分かってもらえない気がします。

 

ええ二階の窓から見える校舎はちょうど例の教室なんです。昨日まで同じ場所で勉強をしていたはずなのに彼らだけがいなくなってしまってその理由も分からないのが怖くて家にいる時までそんなことを考えたくないからだからあれ以来カーテンも開けてませんでした。

 

あの日、あの人たちが戻ってきたあの日の夜、私は遅くまで試験勉強してたんです。模試で志望校のa判定とりたくて頑張ってました。蒸し暑くてでもエアコンをつけるほどじゃなかったから思い切ってカーテンを開けてたんです。

 

一区切りついた時でした。もう少し頑張ろうってコーヒーを入れようとして椅子から立ち上がった時でした。何か校舎の方で一瞬ちかりと光るのが見えたんです。例の教室で何かが青く光っているのが見えました。

 

いえ何がかがは近いとはいえこの距離からでは分かりません。警備員が二十四時間体制になったのは知っていたのでそれの見回りなのかなと思うようにしてコーヒーを入れに行きました。

 

途中から救急車とパトカーのサイレンが気になりました。この辺りは集合住宅地も幾つかあって高齢の方も多いからそういうことはよくあるんですけど音の感じからひっきりなしに集まっていくのがわかりました。

 

野次馬です。気分転換というか気晴らしというか。

校舎の光も気になっていてなんとなく胸騒ぎみたいなのもありました。それでふらふらと学校までの道のりを歩いていました。

 

校門前は既に人だかりでした。

昇降口前に数台のパトカーと救急車が五台くらい停車していて、救急隊員やお巡りさんたちが忙しなくしていました。何があったのかは分かりませんでしたが失踪事件が起きた時と同じくらいの何かがあったのは確かでした。

 

「見つかったんだってさ」

 

野次馬のなかにいたパジャマ姿の中年女性がそう教えてくれました。名前は知らないけど近所のおばさんで、熱に浮かされたみたいに目が爛々としていました。

 

『彼女』に会ったのはその後です。

 

帰り道でした。

自宅のすぐ目の前の壁に誰かが寄りかかってたんです。

2-Bの「撫子さん」だってことはすぐに分かりました。後輩だし面識はないんですけど元々校内でも有名な「園芸部」のひとりでしたしワイドショーでも顔写真は公表されてましたから。

 

撫子さんが何故そこにいるのかは分かりませんでした。

今思うと教室から飛び出て助けを呼びに行こうとしていたのかもしれません。制服を着ていたけれど雨の日の校庭で寝転がったみたいに汚れていました。ぐったりしていて立っているのも辛そうな様子でした。

 

「……ですか?」

「えっ?」

「……の何月ですか?」

 

呆気に取られました。だって状況に削ぐわないですよね。

助けて下さいとか救急車呼んでくださいとかなら分かるけど今聞く事なのって思いました。揶揄っているのかなとさえ考えました。

 

「今は何年の何月ですか?」

 

あれって定番の台詞ですよね。過去に行ったつもりが未来に来ちゃったとかそういうあれですよね。スピルバーグくらい観ますから分かります。

 

ええ、あの件で暗記した単語全部出てっちゃって模試の結果は散々でした。

 

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