LEGENDS to restart 未来からの来訪者と、再会を願う現代の子供達 作:natsuki
結晶により生み出された部屋。
或いは……結晶を切り取ったような部屋。
その中心にある人工物、その高台には一人の女性がいた。
正確には、女性ではなく、その女性をモチーフにしたAIであったのだが。
「戻った……のか?」
階下に立つ、彼女の子供が告げる。
AIは、語りかける。
「ああ……、この結果は最高の科学力を持つAIにも、計算することは出来なかった。君たちならば……絶望の未来を乗り越えた君たちならば、自分が選んだ道を、胸を張って進めるだろう」
踵を返す。
「ありがとう、アオイ。そして……子供達」
だが。
「私がいる限り、タイムマシンは止まらない……。どうやら、私そのものがタイムマシンを復旧する、システムの一部と化しているようだ」
「何だよ、それ……! そんなのってあんまりちゃんだぜ……」
「済まないな。君たちの冒険を、見ていてずっと思っていた……感じていたことがある」
それは、自由だ。
その自由さが、素晴らしく、そして、羨ましい。
「仲間を思い徒党を組んだり、強さを求めて戦いに身を委ねたり、大事な物を守るために大きな敵に立ち向かったり、捕まえて戦って自分だけの宝物を探したり……」
「アギャ、アギャス!」
アオイの前に立っている、白と青の鶏冠が似合う雄々しいポケモンは、言う。
それを聞いて、女性は笑みを浮かべる。
「フフ……、その翼で大空を翔け回ったりも、したことだろう」
一歩、前に進む。
「私も、君たちのように、自分だけの宝物を見つけたいと……そう思った。そしてそのために……私は今から、過去へと向かう」
「そんな! せっかく……、せっかく会えたのに!」
アオイの隣に立つ、精悍な顔立ちの、背の高い少女は言う。
「これは、タイムマシンを止めるためでもある。このままではタイムマシンは、止まらない。きっと過去のポケモンをこのまま排出し続けることだろう。エリアゼロもいつまで耐えるか分からない……。ならば、過去に行く。何しろ、私自身が夢にまで見た古代の世界を、見たくてたまらない。冒険に胸を躍らせる……、やっと、やっと意味が分かった気がするよ」
「……そんなの、」
「ペパー、今まで真実を言えず……済まなかった。オリジナルを受け継いだ私には分かる。君の母親は……君を、本当に愛していたよ」
「今更言うんじゃねえよ! ……そんなの……、そんなのずりいよ……!」
ペパーは、絞り出すように言った。
「そうだな、済まない。……ペパー、コライドン、アオイ。少し寂しいが、お別れだ」
左手を挙げる女性に、ペパーは声を掛ける。
「……母ちゃん!」
「さらばだ、自由な冒険者達よ! ボン・ボヤージュ!」
そして、そして……そこで、女性は過去へと旅立った。
そう、そしてこれは今までの私のモノローグ。
或いは、走馬灯のようなものだったかもしれないな……。
人間であろうとロボットであろうと、過去から未来へ、未来から過去へ移動すると肉体が持たないだろうと言われている。過去のポケモンがその姿を保ったままエリアゼロにいるのは、ポケモンと人間とは違う、何か別の物質があるのだろう――確かオーリムはそんな研究をしていた。
そして――目を覚ますと、そこは砂浜だった。
パルデアとは違う、長閑な風景。
空気を感じると、明らかに違うそれは――過去へと到着したという意味なのだろう。
しかし――。
「ここは、何処だ?」
いずれにせよ、私はこの場所が何処なのかを確かめなくてはならない。
ポケモンが居るのか、人間が居るのか、どちらも居ないのか……。もし最後だったら、タイムマシンを使った意味など何一つなかった。今思うと、タイムマシンすら何処に行ったのか定かではないが……。
ふと、空を見上げると、大きな山の上に真っ暗な穴が開いていた。
「あれは……あれは何だ?」
一先ず、話が分かる人間に会いに行こう。私はそう思い、一歩また一歩と前に進むのだった。