もうすぐ夏真っ盛り。僕は食堂でヒョロやガリと昼食を一緒にとっている。アレクシアと円満とはいかないが別れたので、こうして三人で気兼ねなく食事をしている。午後の実技では僕は五部に戻った。ヒョロとジャガはゼノン先生の不祥事で王都ブシン流の生徒が減少したため、繰り上げで七部になった。
「んで、アレクシア王女とはどうなったよ?」
同じ安い定食を食べるヒョロが言う。
「だから別れてそれっきりだって」
ついでに殺されかけた。
「もったいないですねぇ。チューもしてないんですよね?」
ジャガが言う。
「バカ言うな」
下世話でしょうもない話題だが、これぞモブって感じが一周回ってしてくるから不思議だ。
「そろそろブシン祭の季節ですねぇ。二人はもう選抜大会にエントリーしましたか?」
「あたり前だろ? 大会でアピールすれば女子の2人や3人簡単に持ち帰れるんだぜ」
得意げにヒョロが言う。ちなみにチェリー。
「むふふ、3人相手はちょっと大変ですねぇ」
ジャガが言う。言うまでもないがチェリー。
「シド、お前エントリーしてなかったよな?」
ブシン祭っていうのは2年に一度ある剣術の大会だが国内は当然として、国外からも名のある剣士が集まるため、優勝者は世界最強の一角と認識される。そしてこの学園には決勝戦に予選を無視して参加できる学園代表のシード枠があり、それを決めるのが選抜大会というわけだ。
だが僕はエントリーしていない。実力と正体を隠して、『パッとしないモブが実は最強でした』的なのなら陰の実力者ぽくって好みだが、才能ある姉に隠れたパッとしない長男シド・カゲノーとしては、そんなものに出て注目を集める気はこれっぽっちもない。
「僕は出な……」
「俺が代わりにエントリーしといてやったから感謝し、ブフゥッ!!」
「ヒ、ヒョロ君ッ!! 突然どうしたのですか!」
まるで突然金的を蹴られたかのように、椅子から落ちて倒れ込むヒョロ。僕でなきゃ見逃しちゃうやつだ。
「うん、完全に失神してる。保健室に運ぶから手を貸してくれ。あ、選抜大会のエントリーってキャンセルできたっけ?」
「さあ、どうでしたっけ。あ、ヒョロ君泡吹いてますね」
後もう少しで午後の実技。ほんの少しだが授業をサボる口実ができたなと思いながらジャガと二人がかりでバカを保健室に運んだ。そして午後の実技を終えた夕方、僕は選抜大会のキャンセルを頼みに学生課にいった。
「失礼しました」
「で、どうだったよ?」
外で待っていたヒョロとジャガが寄ってくる。
「トーナメントの組み合わせが決まってるから無理だってさ」
僕は溜め息を吐く。もう一回ヒョロをぶっ飛ばしても許されるんじゃないかと思いながら。
「まぁ元気出せって。いいとこ見せればモテモテだぜ?」
「そうですよ、ピンチはチャンスって言うじゃないですか」
僕は首を振った。
「勝ち負けじゃなくて、そもそも出たくないんだよ」
「ったく、仕方ねぇな。俺がいい店紹介してやるから元気出せよ」
「い、いい店ですか?」
鼻息を荒げ、気持ち悪さが増したジャガが言う。
「おっと、そっちの店じゃねぇよ。最近話題のミツゴシ商会だ。何でも目新しい物を扱ってるらしくて、中でもチョコレートだかって菓子が甘くてクソ旨いらしいんだ」
「甘いお菓子ですか、いいですねぇ」
「バッカ、自分で食ってどうすんだよ」
コントをやってるかのようにパシッ、とヒョロがジャガの頭を叩く。
「女にプレゼントするんだよ。女なんて甘いもんやっとけばちょろいもんさ」
「な、なるほど。さすがヒョロ君です、勉強になりますねぇ」
「だろだろ」
と得意気なヒョロ。正直高級菓子程度でこいつらに彼女ができる訳ないと僕はジト目になる。
「よっしゃ、行こうぜシド」
「行きましょう、シド君」
そんな僕の内心に全く気づかず、目を輝かせる2人。
「わかった、行くよ」
僕は溜め息と一緒に言った。久しぶりにこっちからみんなに会いに行くか。
ヒョロに案内される形で王都のメインストリート、一等地にあるミツゴシ商会の王都本店にやってきた。どの店舗も一等地に店を構えるだけあって繁盛しているが、特に繁盛しているのがミツゴシだ。商会長のガンマもさぞ鼻が高いだろう。
店舗は僕が陰の叡智と称して吹き込んだ前世の知識のせいか、前世でいうモダンな雰囲気でスタイリッシュな建物だ。イータがデザインしたらしいが、いいセンスしてるなと絶賛する。入り口に並ぶ客は全て貴族かその関係者。一目見ても上客ばかりで、学生服で貧乏くさい僕らは場違いにも程があった。最後尾に制服姿のお姉さんが現在80分待ちのプラカードを掲げていた。
「うわぁ、すごいですねぇ」
「80分待ちだって。どうする?」
感嘆の声を上げるジャガの隣で、僕は言う。僕一人だったら気配を決して気取られないように関係者口から入るが、この二人と一緒だとそうもいかない。
「寮の門限には何とか間に合いそうですが」
「ここまで来たんだし並ぼうぜ」
「でも最近は人斬りが出るって噂ですよ。あんまり遅くなるのは……」
「バーカ、ジャガバーカ。こっちには魔剣士が3人もいるんだ。返り討ちにしてやるよ」
ヒョロが勇ましいことを言っているが、もし人斬りが目の前に現れたら自分だけ真っ先に逃げるんだろうなと思う。
なにしろベータの話だと既にたまたま巡回中に発見した、騎士団の魔剣士すら返り討ちにあったらしい。個人的には人斬りイベントというのは、敵とも味方とも言えない陰の実力者が映えるイベント。相手がシャドウガーデンを騙っていなければ僕も第三者として参加できたのにと嘆く。
「おーい、早く並ぼうぜ。門限過ぎちまうだろ」
思考に耽って立ち止まっていた僕はヒョロに急かされて、列の最後尾に並んだ。
「お、お、お姉さん。き、綺麗ですね、ご、ご、ご趣味は?」
ヒョロが節操なくプラカードを持ったお姉さんに声をかけるが、百戦錬磨の微笑みにあえなく撃沈。だがダークブラウンの髪と瞳をもつ上品そうなお姉さんは、僕の方を見てニッコリと笑う。
「お客様、失礼ですが少しお時間をいただけますか? アンケートにご協力お願いします」
「僕のことでしたら、構いませんが」
「ありがとうごさいます」
「ぉ、お、俺も協力します!」
「じ、自分もです!」
ヒョロとジャガ、渾身のアピールをするも、
「お一人様で結構ですので」
お姉さんの言葉に返り打ちにあい、ヒョロとジャガが絶望の顔で僕を見ていた。僕はお姉さんに腕を組まれ、長い列の脇を通り抜けて店内に入る。
内装も表面的な華やかさより細部に力を入れた落ち着いた雰囲気で、商品も僕のあやふやな陰の叡智からよくここまでと感心するほど洗練されている。このままだと独占禁止法がないこの世界、世界中の流通・経済をミツゴシが支配するのは時間の問題だと言えるだろう。更にコーヒーやチョコレートは材料のカカオや豆がアレクサンドリアだけの固有種で独占できているから、ボーナスステージである。
従業員用の扉から廊下、階段と進み、また廊下を踏破すると扉があらわれる。扉の前に立っている二人の女性に扉を開けてもらい、中へ入る。レッドカーペットが引かれたそこには、規則的な円柱と輝く大理石の床でできたホールだった。奥には王が座る玉座のように豪奢な椅子が置かれ、その横に立っているのは一人の女性。
「久しぶりだな、ガンマ」
「はい。お久しぶりでございます、主様」
ガンマが優雅なモデルウォークで椅子の隣からこちらに寄ってこようとして、
「ぺぎゃッ!」
何もない床でこけた。ハイヒールを履いていたが、それと彼女の痴態に因果性はない……はずだ。
「ひ、ヒールが高いわね」
……少なくともハイヒールを履かない彼女がこけなかった記憶はない。鼻血が出ている鼻を押さえながらガンマは立ち上がり、側近らしい女性が用意したヒールが低いパンプスに履き替える。
「さ、さて。主様どうぞこちらへ」
「相変わらずだな、安心したよ」
ガンマの痴態は見なかったことにして、ホールを横切り段差で一段高い位置にある椅子に腰掛ける。天井から斜陽の光がホールに降り注ぎ、レッドカーペットの脇に跪く美女たちを照らす。行事で大規模な謁見があるときの王様は、こんな満足感を味わっているとすれば羨ましいと思いながら、軽い治癒をもたらす魔力を雨のように彼女たちに降らせる。
「褒美だ、受け取れ……」
「今日という日を、生涯の宝に致します」
ガンマは大袈裟だと思ったが、歓喜で震えるガンマはまだマシだったようで涙をこぼす者さえいた。
「それにしても、相変わらず繁盛しているようだな。見事だ」
「いえ、主様よりお聞きした神の如き知識のほんの一片を、微力ながら再現させていただいただけでございます」
「謙遜も度を越すと嫌味となるぞ」
例えばチョコレートなんてカカオ豆に砂糖を混ぜることでできるなんていい加減なものだ。後はアレクサンドリアでカカオを見つけた時に、これの中の白いやつがそうなんだとか言ったぐらいだ。あれっぽっちでチョコレートを作るなんて、僕なら完成品のチョコレートを知っていても無理だ。これが頭脳の差かと遠くを見る。
「現在、国内外の主要都市に店舗を展開しており順調に拡大しています。しかし重要なのは商会の展開に紛れてどれだけ陰に根を張れるかです」
「急いては事を仕損じる……ゆっくりでもいいから、着実に力をつけろ」
「承知しております」
そう言えばガンマはカジノとか銀行とか色々計画を練っていたがそっちはどうなったのだろうか。聞いてみようと思ったが、ガンマがそれより先に話し出した。
「主様が本日来訪された理由は察しております。当然、例の事件についてでしょう」
いや、違う。僕も『シャドウガーデン』を語る人斬りを探してはいるが、ここに来たのはそれとは別件だ。
「申し訳ありません。現在、捜査を続けていますが、未だ犯人はわかりません。しかし、今しばらくお待ちください。王都に現れた人斬り。漆黒の衣を纏い、シャドウガーデンの名を騙る愚者は、このガンマが必ず仕留めてみせます」
荒事はデルタとか、他の戦える七陰に任せろ。適材適所、イータの魔道具の補助がないと戦えないんだから、後方の支援に徹してくれ。と言いたくなったが、七陰の一人として僕と共に戦うことに憧れを持っているガンマに言っても無駄だろう。
「ガンマ」
だが、一応言っておこう。
「気負うな」
「えっ……?」
「ミツゴシ系列の商業をここまで拡大させた時点で、お前は十分によくやっている。そもそも単純な労働量なら戦うことしかできないデルタが、一番組織に貢献していないと言える。たった一つの尺度で物事を図るのは、愚者の所業としれ」
まあ、それを言うとデルタ以上に名ばかり盟主の僕が一番シャドウガーデンに貢献していないんだけど。とりあえず『シャドウガーデン』の方は問題なさそうだし、帰ろうか。
「ニュー、来なさい」
ガンマは僕をここまで案内したダークブラウンの髪の女性を呼んだ。
「この子はニュー。まだ入って日が浅いですが、その実力はアルファ様も認めています。雑用や連絡員として自由にお使いください」
「ニューです。よろしくお願いいたします」
流石に七陰みんな(脳筋デルタは除く)が忙しくなって、僕との連絡役が独立して必要になったのか。まあ『シャドウガーデン』が強化されているということだから、問題ないだろう。
「呼んだら来てくれ」
これが王女とか大貴族の跡取りとかなら一人くらい護衛というかお目付役とかがいても、当然だと思われるけど、表の僕がそんなことできるわけないからな。普段は隠れてもらって、必要な時に手を借りるか。あ、そうだ。
「今何時だ。それと、僕と一緒に来ていた二人は今何している?」
「ニュー、調べてきてちょうだい」
「時間的に、店内に入っている頃かと」
もうそんなに時間が経っていたのか。
「ニュー、二人を探すのを手伝ってくれ。あと安物のチョコを一つ、アンケートの報酬として用意してくれ」
「いえ、最高級のものを用意させてもらいます」
「……いや、あいつらが一人だけズルいと五月蝿くなりそうだから、安物でいい」
「ヤバイって、門限間に合わねーぞ!」
「シド君が遅いからですよ! アンケートでイチャコラと!」
「どちらかというと、ただのアンケート回答を二人が邪推したからだろうが」
元々二人の入店とガンマと別れはほぼ同時だった。下宿の門限ギリギリなのは、二人がこいつらが僕とニューの関係をしつこく聞いてきたからだ。チョコ売り場で待っていたから合流には五分もかけてない。僕だけチョコをタダでもらえたことを羨んできたが、どうせ失敗する告白の小道具をガンマ達にせびるのは間違っていると思ったからな。
「なぁ、何か聞こえなかったか?」
「自分は何も」
二人はほとんど聞こえてないようだが僕の耳は聞き逃さなかった。剣と剣がぶつかる音。誰かが下町とはいえ王都で戦っている。それもすぐ近くで。
噂をすれば……か。僕は足をとめ、音が聞こえた路地裏の方を見る。
「おい、どうした」
「門限過ぎちゃいますよ!」
「……ごめん。下宿の部屋に食べ物が何もないのを思い出した。このままだと、僕は昼の学食まで飲まず食わずで過ごす羽目になる」
「それは、たしかに大事だな」
「門限か生命かの問題ですね」
なんでお前ら、無駄にシリアスになっているんだよ。精神的にはキツイけど、一日ぐらいご飯を食べなくても死なないって。
「行け。お前たちだけでも、門限に……」
「シドッ……お前のことは忘れねぇ!」
「シド君の選択は、誰が何と言おうと正しかった……自分はそう思います!」
そういうとチョロいバカ二人は男泣きしながら、踵を返して走り出した。僕はこっそりと路地裏に入ると、跳躍して建物の屋根越しに音源へと向かう。さて、人斬りの正体は誰だろうか。個人的にはいきなり僕を切り刻んだアレクシアが怪しいと思っているが、先入観を持って捜査することはいけない。客観的に、事実を見極めて。
ようやく音源に辿り着くと、アレクシアが全身黒ずくめの男と戦っていた。何かおかしいと思っていると、黒ずくめが狂ったようにシャドウガーデンと繰り返すため、アレクシアの無罪が確定した。とりあえず見守っているとアレクシアが人斬りを倒したが、背後からさらに二人の黒ずくめの増援が現れた。
あ、こりゃ無理だなと理解する。最近腕が上がってきていたが、まだアレクシアにあの三人を相手にするのは無理だろう。助けてやるかと屋上から音もなく着地すると同時に、
「後ろに姉様がいるもの」
アレクシアの余計な一言で、黒ずくめが全員振り向いた。
振り返った隙を突こうとしたアレクシアは本当に僕がいたことに驚き、動きが止まる。黒服たちはアイリス王女がいると思って振り返ったら、僕がいて動きが止まる。うん。
「『シャドウガーデン』の名を語る咎人よ、疾く死ね」
先手必勝、戦場で油断する方が悪い。とりあえずアレクシアと最初に戦っていた黒服の両足を切りつけ、逃げられなくする。あとで背景を洗うために、生きていないと困るからな。まあ、プロパガンダを目論んだ『教団』の手先だろうが。
後から来た二人はまだ判断力が残っていたのか、一人を瞬殺した僕から潔く逃げ出した。
「逃げられるものか」
逃げた連中を追おうとすると、
「ま、待ちなさいッ……!」
後ろからアレクシアが止める。とりあえず話だけ聞いてやるかと振り返る。
「何だ!」
「私はアレクシア・ミドガル。この国の王女よ。あなたの目的を教えなさい。その力を何のために振るうのか、何と戦っているのか、そして……この国に牙を剥くつもりなのか」
「前にも答えたはずだ。『ディアボロス教団』を滅ぼすためだけに、我らはある」
これ以上放置して逃げられるわけにもいかないから、アレクシアとの会話を切り上げ黒ずくめの二人を追う。
「思ったより愚鈍な足だな」
すぐに追いついた僕は、先ほどの男のように足を切り落とし、逃げられなくする。
「これ以上逃げられても面倒だからな。……ニュー、出てこい」
「お見事です、シャドウ様。これほど早く確保されるとは、流石です」
「偶然だ。こいつらは任せる。……抜かるなよ」
あとはニューに任せることにして、僕は帰ることにした。
そして翌日の昼休み、まず手本を見せてやる、と言うヒョロに僕らは付いていくとそこは二年生の教室。ヒョロは廊下で相手を待ち、僕らは少し離れて見守る。
「上級生ですか、ヒョロ君やりますねぇ」
「そうかな?」
どうせ失敗するだろうにと思いながら待つと、かわいい系の少女が出てきた。
「あ……ア、ア、あにょっ! チョ、チョコこここここ、あなたにっ、こひぇ?」
「………………」
ヒョロは彼女にチョコを差し出すが、僕らから見えないがよほど酷い顔になっているらしい。相手の少女は完全にドン引きして受け取ろうとしない。というか僕の想像以上にひどい告白だな。アレクシアの時もあれくらい酷くやれば、あんなことにならなかっただろうか。ヒョロを放置して考えているとそこに、
「おい! 俺の婚約者に何か用か?」
筋骨隆々のイカつい上級生が現れ、ヒョロの肩を掴んだ。
「あ、いや、その」
「にいちゃん。ちょっと向こうで話聞かせてくれや」
そう言われて上級生に連れて行かれるヒョロ。
「あ、チョコは貰っとくわねー」
少女に慰謝料とばかりにチョコを取り上げられ、え? と声をあげるが、
「何だ、何か文句あるのか」
上級生のメンチに恐れをなす。そんなバカの助けを求める声と絶叫を聞きながら、僕らは次の告白の場だという魔剣士学園と同じ敷地にある学術学園と兼用の図書館に向かう。
「学術学園の生徒が相手か」
「はい。自分はヒョロ君と同じ轍は踏みません! 相手のことは全て調査済みです。交友関係から食事の好み、登下校時刻に、歩幅に歩数。さらには寮の部屋番号、いつも利用するトイレ、靴のサイズに匂い、それから下着の色とスリーサイズ、使用済みのコップから……」
「もういい、早く逝け」
これ以上聞くと耳が腐りそうだと思いながら、生理的に悍ましいゴミカスストーカーを送り出す。
「このジャガ・イモの勝利をご照覧あれ、ヒャッホー!」
その直後。
「キャアアァァァァァ!! この人、ストーカーです!」
すぐに遠くから女子の絶叫が聞こえてきた。女子生徒の悲鳴を聞きつけた生徒や図書館の職員にジャガが取り囲まれた。そんなジャガを見捨てて図書館の出口に向かいながら、このチョコをどうするか考える。
やっぱり姉さんのご機嫌取りに差し出すか。自分で食べる分はまた今度でいい。そう思っていると誰かとぶつかり、相手相手の持っていたであろう本が床に落ちる音がした。
視線を下に向けると桃色の髪の少女が、幾つもの本の中央で尻餅をついていた。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
僕が差し出した手を掴んだ少女を立ち上がらせ、周りの本を一緒に拾っていく。最後の一冊を拾い終わったあと、ちょうどいいかとチョコの箱を本の上に置く。
「え……、これって?」
「お詫びにあげる」
そう言って僕は図書館を後にした。
副学園長「おや、最近人気のチョコレートじゃないか」
桃髪少女「さっき図書館でぶつかってしまった男の子が、お詫びにってもらったんです」
お節介な老人「一生徒がたまたま持っているようなものじゃないよ。元々君へのプレゼントだったんだろう」
チョロい子「えっ……?」