陰の実力者を諦めて!   作:リーパ―

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選抜大会の裏表

 放課後、制服を着て生徒に紛れ込んだニューから接触があった。やはり『シャドウガーデン』の名を語った連中は『ディアボロス教団』の構成員・チルドレンだったらしい。魔力適性を持つ孤児に薬物や洗脳教育で育成した連中で訓練段階で九割が死亡、訓練終了時に精神が壊れて捨て駒としてしか使えない連中もザラだという凄まじい人材の無駄遣いだ。

 

 しかし訓練だけで九割の喪失が許容できるとなると、元々の母体も凄まじいはずだ。そこだけは素直に羨ましい。『シャドウガーデン』は質のいい人材が豊富だが、元悪魔憑きだけで構成されているので絶対数がまだ少ない。

 

 特にガンマのミツゴシ系列を末端は現地の人員を雇用するなどしなければ、遠からず拡大に元悪魔憑きの訓練・増員が間に合わないだろう。今も人手が必要な時はアルバイトや外注などでやりくりしているようだが、やはり正規雇用の人材の拡大が全体的な急務だと思える。

 

 おっと、思考が逸れた。

 

「ニュー、ガンマに今のうちに可能な限り教団の連中を始末しろと伝えろ。向こうがこっちを悪役に仕立てる前に、奴らの計画を可能な限り止める必要がある。それといつでもアリバイ工作のため、王都外の教団拠点襲撃計画を急いで準備しろ」

 

「はい、了解しました」

 

 今はまだ、人斬りが『シャドウガーデン』の一員だという噂などはない。もし『シャドウガーデン』が世界の敵になっても、拠点のアレクサンドリアは天然の要害と僕が入知恵した要塞で落とすのは難しい。それに攻められても構成員全員が世界でも上位の魔剣士なので返り討ちにする武力はある。

 

 だが『シャドウガーデン』盟主がカゲノー家の長男だとバレて、両親や家族に迷惑をかけるのは純粋に良くないと思う。

 

 そして何より、今の『シャドウガーデン』は世界の裏で暗躍する『ディアボロス教団』と人知れず暗闘する陰の実力者っぽい勢力なのに、表舞台に立たされたらただの武力組織になる。正体がバレてる実力者など陰の実力者じゃない。

 

「ゼノンの独断かも知れないが、王女誘拐なんてやるぐらい陰に隠れる気がないくせに。なのにひたすら暗躍しようとする姑息な連中が。最悪、アルファ達に悪いがゼータのプランを一部採用させてもらうかも知れないな」

 

 とりあえずまだ決定的な情勢にはなっていない。方針はこの陰謀がどんな形であれ、終わってから修正するとしよう。

 

「それにしても『シャドウガーデン』の名を外部に漏らしたのは誰だ? 組織名を向こうが名乗れなかったら、偽物説に多少は信憑性を出せたのに」

 

 デルタだろうか、それとも挑発に乗ってしまったイプシロンか。まあ、起きてしまったことは仕方ない。今はそれより出場しなければいけない選抜大会の方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔剣士学園最強の称号は一昨年まではアイリス・ミドガル第一王女のことだった。だから彼女が卒業後、学園最強の座をめぐる争いが起きると思いきや、誰もが想像しない人物が、絶対王者としてミドガル魔剣士学園の頂点に君臨した。

 

 その人物がローズ・オリアナ。ミドガル王国と同盟を組む隣国の王女で、留学生。オリアナ王国は芸術の国として武術の評価は低いはずだが、そんな国のお姫様が学園の猛者を蹴散らし、学園最強になるのは誰もが予想外だったといえよう。そしてこの学園の生徒会長でもある。

 

 しかも出自や実力や容姿に驕らず、人当たりがよく礼儀正しく裏表ない態度で学園中の人気を欲しいままにしている。どこぞの性悪王女にも見習って欲しいものだ。そして、……僕の選抜大会の一回戦の相手でもある。

 

 なぜか選抜大会で賭けが行われており、オッズを見れば僕が勝てば一万倍という聞いたことがないような超大穴となっている。つまりそれだけ僕は勝算がないと思われている。

 

 さて、ヒョロに無理やり参加させられたこの試合、どう立ち回ったものか。棄権という選択肢もある。大会で活躍して女子からモテモテと叶わぬ夢を見て、エントリーした二人は先日のチョコ騒動で上級生からのかわいがりで重傷とストーキングと女子寮侵入による謹慎によって棄権する事になった。

 

 僕も適当に理由をつけて棄権するか。勝ち目がない強敵を前に棄権する。それは確かにモブっぽい。だが、この大会には姉さんも出てるし、自分のトーナメント表とか見る時に僕の名前を見つけているかも知れない。もし棄権したと知れたらまた無駄なしごきをされるかも知れない。

 

 つまりこの場合は姉さんが別に扱かなくてもいいと思える程度に頑張って負ける、が最適解だと考える。それにわずかな勝算にかけて絶対王者に挑んで無様に敗北するのもモブっぽい。

 

 あと無断で申し込みやったのに僕を出場させたことを忘れてたヒョロは、後で全身打撲を全身骨折に悪化させてやろう。

 

 試合と試合後の覚悟を決め、僕は試合舞台に上がる。案の定、観客は全員がローズ会長を応援している。

 

『ローズ・オリアナ対シド・カゲノー!』

 

 審判が僕らの名を読み上げる。

 

 ローズ会長の蜂蜜色の瞳と、僕の漆黒の瞳が火花を散らす……気がした。

 

『試合開始!!』

 

 開始と同時にローズ会長の細剣は美しく、鋭い軌道を描きながら僕の胸に迫る。

 

 本来ならモブには反応できないだろうが、僕はギリギリ反応して受け止めようとして……後ろに自分から飛んでぶっ飛ばされた。

 

「くっ、まだ……まだだぁぁぁ!」

 

 倒れるもすぐに立ち上がり、今度はこちらの番だと魔力で身体強化して全力ダッシュ……のフリをして、ローズ会長に切り掛かる。当然それも加減しているので受け止められ、鍔迫り合いになってから押し返された隙をまた突かれる。

 

「このぉぉ!」

 

 だが今度は吹き飛ばされず、ローズ会長と痛み分けを狙うように突きを放つ。だが、渾身(に見える)突きは呆気なく躱されて、反撃の太刀を受ける。

 

 そう、これこそ真のモブの戦い。泥臭く粘り、粘り続けるも最後はあっけなく負ける。派手に血糊とか吐くと目立って印象に残るかも知れないし、何度も何度も立ち上がるのなんて最後まで諦めなかった粘りからの逆転勝ちという主人公ポジの戦いだ。

 

 真のモブとは最初から後先考えず絶対強者に挑み、粘るも最後は無様に負けるもの。え、そんな立ち回りのヒロインもいる? 僕は美少女じゃないから、モブだ。

 

 そんな強者に弱者が必死に追い縋る泥試合がもう五分、ローズ会長の攻撃も二十回は喰らっている。そろそろいいか、僕の何度目かわからない稚拙な攻撃を躱したローズ会長が、僕を攻撃すると同時に後ろに跳び倒れたフリをする。最初と同じだが、今回はこっそりと用意した血糊袋を噛み砕き、吐血を演出する。

 

「……勝者、ローズ・オ……!」

 

 審判が勝利宣言するギリギリで、フラフラになりながら立ち上がる……演技をする。

 

「き、君……、本当にまだやるのか?」

 

 もう吹けば飛ぶほど弱りきった僕に、審判が確認を取る。僕はもう声を出すのもしんどいように緩慢な動作で頷く。ローズ会長の顔もこれまで以上に真剣になる。

 

「彼の目は、まだ死んでないようです。ですが、次で終わりです」

 

 おおっ、なんてらしいセリフなんだ。期待通りの反応をしてくれたローズ会長に感謝し、今までより多くの魔力を剣にのせる。ローズ会長も魔力に驚きながら、自身も剣に魔力をのせる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 鬨の声をあげ、僕は全身全霊の走りをする。今までで一番の速さは、されどローズ会長に見切られ剣を受け止められる。

 

 ここだぁ!

 

 僕は意識を集中させ、ローズ会長の剣が当たる部分だけ魔力量を減らした。結果、ローズ会長の剣は僕の剣を両断し、僕もその勢いのまま斬撃を喰らって倒れ伏す……演技だ。

 

『勝者ローズ・オリアナ!!』

 

 倒れ伏し動かない僕を見て、審判が勝利宣言を行う。それを聞いた観客達は勝者を讃える。そして僕も、いよっしゃぁぁぁ!と内心で喝采をあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わった後、僕は担架で保健室に連れて行かれそうになったが、隙をついて逃げ出した。調べられたら実際は無傷なのがバレるからだ。廊下を歩きながらさっきの試合を振り返り、なかなかのモブムーブができたのではと思っていると、声がかけられた。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

 声の主を見ると学術学園の制服を着た桃色の髪の美少女がいた。誰だっけと考え、この前図書館でチョコをあげた子だったことを思い出した。

 

「お怪我、大丈夫ですか?」

 

「う、うん。見た目は酷かったけど重傷はなかったから、魔力による回復でしばらく激しい運動をしなければ大丈夫だって」

 

 実際はそもそも無傷だったけどね。とりあえず近くのテラス席に腰を下ろす。

 

「よかった。試合、見てました」

 

「情けないところを見せちゃったかな?」

 

「あまり剣術の試合とか見ないんですけど、諦めずに何度も挑んですごくかっこよかったです」

 

「え、えっと、かっこよかったの……?」

 

「はい……」

 

 頬を染める少女に危機感を覚える。個人的にはモブっぽく無様に負けたつもりだったが、あれを格好良く思う要素があったのか。そして観客のほとんどが内心では、彼女のように僕にも注目していたのか気が気じゃなくなってきた。

 

「あの、これ……」

 

 少女はおずおずと小さな包みを差し出した。

 

「……これは?」

 

「クッキー焼きました、お返しに……」

 

 試合を見せてくれたお礼みたいな感じかな。それにしてはかなり手際がいい……っていうか、試合見てからだと明らかに速すぎるな。時間的に、まだ生焼けぐらいしか焼けないだろ。

 

「ありがとう」

 

 とりあえず受け取っておこう。焼けきってないなら、持って帰って自分でまた焼けばいい。

 

「も、もしよければ、友達からお願いします」

 

「友達? いいよ」

 

 ヒョロとジャガは厳密にいうとたまたま部屋が隣同士だからつるんでいるだけで、友達というと微妙なところだから、彼女がある意味では僕の学園での友達一号ってところだろうか。

 

「やった! やりました! お義父様、友達になれました!」

 

「は?」

 

 少女が話しかけた方に目をやると、白髪交じりの髪をオールバックにまとめた渋い長身の男性がこっちに歩いてくる。あの人はルスラン・バーネット学術学園副学園長。かつてはブシン祭で優勝経験もある、文武両道の優れた魔剣士だ。

 

 そして彼を養父と慕う彼女は、その養女のシェリー・バーネットか。王国一の頭脳と評され、国内外にアーティファクト研究で広く知られている天才研究者。今まで学術学園に接点はなかったから、個人的に重要人物だと判断したが忘れていた。

 

「シド・カゲノー君だったね」

 

「は、はい、バーネット副学園長」

 

「そう緊張しなくていい。怪我はいいのかい」

 

「き、奇跡的になんとか……あ、ローズ会長が手加減してくれたのかも?」

 

 まずい。この人には魔力で回復して、もう治ったなんて言い訳は通じない。魔剣士としての経験が、あれだけ攻撃を喰らって表面上の傷だけなんてありえるかと見破るはずだ。

 

「そうだな、ローズ君なら力加減を間違えないだろう。でも、ちゃんと医師に見てもらいなさい」

 

「はい、絶対に」

 

 見せません。怪我してないのがバレるから。

 

「この子は研究一筋でね。今も騎士団から依頼を受けてアーティファクトの解析に没頭している。だから、ろくに友達もいないんだ」

 

「もう、お義父様!」

 

拗ねる娘に、はははと笑って誤魔化す父。アットホームを絵に描いたようだ。

 

「今はこうして笑っているが、昔はいろいろあったんだ。できればシェリーと仲良くしてやってくれ。これは一人の父としてのお願いだ」

 

副学園長は真剣な表情で、シェリーは養父の心配性に困ったように微笑んだ。

 

「……微力を尽くします」

 

「では後は若い二人に任せるとしよう」

 

 親しげに僕の肩を叩いて、副学園長は去っていった。

 

「あの、よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく」

 

「それで、どうしましょう? あ、そうだった、まずはお医者様に見せないと。ごめんなさい、うかれてて」

 

「いや、さっきも言ったけど激しい運動さえしなければ、日常生活を送れるくらいは回復しているから」

 

「あの、本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「魔剣士って、すごいんですね」

 

「魔剣士って、すごいんだよ」

 

 その後は彼女手作りの素朴なクッキーで軽くお茶をして別れた。その翌日から、療養の名目で五日ほど学園を休み、いい機会なので王都に集まりつつあるというディアボロス教団狩りに精を出した。

 

 復帰した日、クラスのみんなは少しだけ僕を見直したという反応をしたため、あれはモブっぽくなかったんだなとわかった。

 

 




モブ構成員「『シャドウガーデン』らしき者により、あちこちの拠点が襲撃され、予定より人員の集まりに支障をきたしています」

痩騎士「仕方がない。多少人員が少なくとも、計画を実行するしかあるまい(どうして、こうなった?)」

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