陰の実力者を諦めて!   作:リーパ―

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更新が長らく途絶えていました。過去最も長い文にモチベーションが削られて、なかなか進みませんでした。誠に、申し訳ございませんでした。


ミドガル魔剣士学園占拠事件

 復帰した翌日、魔剣士学園生徒会選挙の説明のため午前中最後の授業が少し早めに終わった。

 

「失礼します」

 

 教室の扉が開いて、ローズ現生徒会長と生徒会選挙の候補者が演説のため、入室した。

 

「本日はお時間をいただきありがとうございます。生徒会の補欠選挙について、説明に参りました」

 

 ヒョロと一緒に二人の話を聞き流していると、ふとローズ会長と目があった気がした。

 

「おい、生徒会長俺のこと見てたぜ」

 

 ヒョロが無駄に前髪を整えながら言う。

 

「そだね」

 

「おいおい、生徒会にスカウトされるかもな」

 

「そだね」

 

生徒会にスカウトされるなら、お前は今ローズ会長の横に立っているはずだろうがと思う。

 

「おいおいおい、めんどくせーのは嫌いなんだけどよ」

 

「そだね」

 

僕も隣にいるような素直になれないめんどくせーバカは嫌いだ。生徒会に入って会長にお近づきになりたいって言えばいいのに。そんなことを考えていると、

 

「ん? これは……!」

 

 僕は普段から練った魔力を体内で制御の訓練をしているのだが、その制御がうまくいかなくなった。まるで外部からの介入で、魔力の制御が不安定になったみたいに。目を閉じて集中すると、その原因は外部から魔力が奪われ、体内の魔力バランスが崩れているのだと理解する。

 

 何が起こっている? 思わずさりげなく周囲を見ると、誰も異変に気がついていないようだ。ふと自慢の耳と勘が、何かが教室に近づいてくる音と気配を感じた。

 

 今度はなんだと思っていると、凄まじい爆音と共に教室の扉が吹き飛び、クラスは騒然とする。

 

 直後、抜剣した黒ずくめの男たちが乗り込んできた。そして先頭の男が出入り口付近に置いてあった剣を破壊する。

 

「全員動くな! 我らは『シャドウガーデン』! この学園を占拠する!」

 

「そのまま席を立つな。全員手を上げろ!」

 

「……嘘だろ」

 

 思わず呟いてしまう。こいつらは、そう、やりやがった。全宇宙の少年が学生生活で一度は妄想する、『学園がテロリストに占拠される』をやりやがった。思わずこいつらが『シャドウガーデン』を騙っていることすら忘れて興奮してしまう。

 

「すっげぇ……」

 

 自然と感嘆の言葉が漏れる。前世と今世、もはや数え切れないほどした妄想が、今目の前で現実に起きている。感動のあまり、絶頂さえしそうだ。少しづつ状況を飲み込み始めた生徒たちを黒ずくめの男は剣で威圧する。

 

 ふと、彼らの服が人斬り以来僕が最近狩り続けた『ディアボロス教団』のものだと気がついた。あれだけ狩ったのに、まだいたのか。彼らのゴキブリ並みの数としぶとさに呆れていると、ローズ生徒会長が腰の細剣に手をかけ、彼らと対峙する。

 

「ここがどういう場所かわかっていないようですね。魔剣士学園を占拠する? 正気の沙汰とは思えません」

 

「武器を捨てろと言ったはずだ」

 

「お断りします」

 

「ふん、見せしめにはちょうどいいか」

 

 そんな様子を見て、僕は気づいた。ローズ生徒会長、魔力が使えないのに気がついていない?

 

「……ッ! いったい何が!?」

 

 魔力を使おうとして、ようやく彼女は魔力が使えないことに気がついたようだ。細剣を構えた彼女の顔が動揺する。

 

「クク……ようやく気付いたようだが、気付いたところで、もう遅い!」

 

 黒ずくめの男が三下の笑いかたをしながら、剣を振いローズ会長の細剣を砕く。 まずい、まずい、このままだと。

 

「魔力がなければ、魔剣士の剣は防げない。授業で習わなかったか?」

 

 魔力の強化も技術もないひ弱な体では、防ぐことも躱すこともままならないだろう。僕は椅子を蹴飛ばし駆けた。

 

 脳の処理能力が加速し、世界の動きが緩やかになる。テロリストにクラスで最初に殺されるのは、いつだってモブの役目。その理念に基づき

 

「やめろおおおおおああああああッ!!」

 

 魂の咆哮と共に、僕は二人の間に割り込み、ローズ会長を突き飛ばす。黒ずくめの凶刃は僕の上半身を左肩から右腰にかけて切り裂いた。体から力を抜いて、仰向けに崩れ落ちる。傷口から少なくない血が流れ出し、その染みは床を染め上げる。

 

「そんな……!!」

 

「キャアアアアァァァァ!!」

 

 ローズ会長は悲痛そうな声をあげ、誰かの悲鳴が教室に響く。

 

「シド・カゲノー君……! バカ。なぜ私をかばったりしたの……?」

 

 ローズ会長が僕の頭を抱き抱える。僕はゆっくりと視線をローズ会長の方へ向け、やがて目を閉じる……傷はそこそこ深いが致命傷ではないせいで、瞳孔が開きかけた虚ろな目の再現が面倒だったので誤魔化すためだ。

 

 口から血を吐きながらも、ローズ会長の反応がいいため絶妙な場面となったことに思わず微笑んでしまう。

 

「シド君ッ! なんでっ……」

 

 ローズ会長の嗚咽と共に、僕の頬に一つ二つと雫が降り注ぎ、頬を撫でていく。

 

「今から大講堂に移動する! そいつのようになりたくなければ、おとなしくついてこい!」

 

 ローズ会長は僕の頭を優しく床に置き、他の生徒と共に教室から出ていく。ありがとう……、シド・カゲノー君……と、僕に言葉を投げかけて。

 

「シド……」

 

「シド君……」

 

 最後の二人となったヒョロとジャガも、教室を出る直前に僕を見た。やがて生徒と黒ずくめたちの足音が遠ざかり、周辺は静寂に包まれた。…………もういいかな?

 

 少しだけ目を開けて教室に誰もいないことを確認すると、起き上がり傷口を細い糸状に練った魔力で傷口を塞ぐ。あれだけ大勢の前で怪我を負ったのに、傷がなくなってたら不自然だからね。

 

「僕が幾度となく妄想した『テロリストの学園占拠』をやってくれたのは感謝するけど、『シャドウガーデン』の名を騙ったことを許すつもりはない」

 

 とりあえずもう起きるかどうかわからないから勿体無いが、この機会にテロリスト殲滅RTAに挑戦してみよう。僕は状況把握のため屋上から学園中を見渡す。生徒や教職員は入学式や有名人の講演会など全校行事をするための大講堂に監禁されているようだ。

 

 学園内の警備は全滅。学園の外には騎士団が包囲網を敷いているが、魔力を阻害する力の境界から中に入ろうとしない。やはり騎士といえど人間。命の危険があるところにむざむざ飛び込んだりはしない。校舎内にいるのは隠れている生徒を探し回る黒ずくめのテロリストだけ。

 

 屋上から全てを見下ろしていると、思わず高笑いをしたくなる。『屋上から全てを見下ろす』なんて、影の実力者のようでいいじゃないか。とりあえず僕らに扮するため、真昼間からまっくろくろすけになっている美的センスゼロのクソダサ集団を始末しよう。

 

 スライムスーツの一部を切り分け硬質化させると、指弾の要領で間抜けどもを狙撃していく。あいつら、魔力阻害で身体強化ができない相手なんだから主兵装は剣じゃなくて、銃とか飛び道具にすべきだろうに。

 

 そうした方が万が一剣とか持たれても、一方的に蜂の巣にすることができ……いや、武器が奪われることで相手が抵抗する余地を与えることを避けたのかな。まあ、どのみち僕に始末されるんだから、どっちでも一緒か。

 

 とりあえず外にいるやつは全員始末したから次は校舎内を……あれ?

 

「シェリーじゃん。なんで捕まってないの?」

 

 廊下内を自分なりに気をつけながら走っている桃髪の少女がいた。……全然隠れられてないけど。ほら、今もすぐそこの廊下にいる黒ずくめがシェリーに気づいて近づいている。僕はシェリーに近づく黒ずくめを狙撃しながら、RTAを中断してシェリーの行動を見守ることにする。

 

 黒ずくめがいなくなった廊下を急いで進むシェリーにこのイベントのキークエストの予兆を見出した僕は、とりあえず見える限りの黒ずくめを始末する。そして、シェリーを陰ながら助けるため、ついでに『屋上を華麗に飛び降り着地する』。これもやってみたかったんだよな。

 

 そしてさっきの屋上からは死角になっていたところにいる黒ずくめたちを再び始末して、シェリーの障害を先に排除しておく。というか近づいて気がついたが、シェリーはペタペタうるさいスリッパを履いていた。そりゃ黒ずくめがよってくるはずだ。とりあえずシェリーにスニーキング系の適性は皆無だ。スリッパ以外にも周囲への警戒がダメで、あれじゃ訓練しても戦闘員になるのは難しいと思わせられる。

 

 とりあえず講堂の外にいる黒ずくめは全員始末したはずなので、シェリー先輩のクエストを見届けていると、考えながら歩いていたためコケて、手に持っていた円盤が空を飛んでいた。もしあれがキーアイテムだった場合、落ちて壊れてクエスト失敗は笑えないので、円盤をキャッチして渋々シェリー先輩の前に現れる。

 

「シド君……! 大丈夫!? 酷い怪我……」

 

 僕の制服のシャツの血染めから大怪我を負ったことを想像したのか、顔を青ざめる。

 

「大丈夫。傷の深さから主要な神経や臓器は無事なはずだし、一応傷は魔力の糸で応急処置的に塞いであるから」

 

 僕はシェリーの心配を解決しようとしながら、シェリーを睨む。

 

「そんなことより色々と言いたいことがある。考え事しながら歩くのはやめましょうとか、独り言はやめましょうとか、足元に注意しましょうとか、何よりそのペタペタうるさいスリッパを脱がないと音ですぐ存在がバレますよ」

 

 シェリーはすぐに頷き、スリッパを脱いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『強欲の瞳』? それが、今の魔力阻害を引き起こしている原因ってこと?」

 

 あれから隠密系適正ゼロのシェリーを目的地の副学園長室まで連れていくと、副学園長室の資料を取り出しそのアーティファクトの説明をしてくれた。

 

「この『強欲の瞳』は周囲の魔力を吸収しそれを溜め込みます。そのため強欲の瞳が発動するとその周辺は魔力の錬成が困難になるのです」

 

「でも僕は傷の縫合のために微細な糸状の魔力を使えたし、黒ずくめの人たちは普通に魔力を使ってたけど?」

 

「吸収させたくない魔力の波長は、記憶させることができるんです。そうでなくては使用者本人の魔力まで吸収してしまいますから。他にもシドくんがやったように『強欲の瞳』が感知できないほど微細な魔力や、容量を超える強大な魔力などは吸収し辛いです。そもそもそんな強大な魔力は我々には扱えませんが」

 

魔力吸収・蓄積のアーティファクトか。なんとか事件のドサクサに紛れて奪取できたら、イータのいいおもちゃになりそうだな。

 

「これだけでも扱いが難しく厄介なアーティファクトですが、強欲の瞳は溜め込むだけ溜め込んだ魔力を、一気に解放してしまうようなのです」

 

「一気に解放って、そりゃマズイな」

 

 何百人もの魔剣士見習いから魔力を奪い取ったら、それが一人は微々たる量でも総量は相当なものになる。その相当な量が時間経過で倍倍になる。

 

「はい。シド君……学院の生徒や職員は全て大講堂に集められたと言ってましたよね」

 

「うん。校舎の最上階から遠目にだけど」

 

「魔力吸収の効率を考えるなら、当然大量の魔力……。在学する多くの魔剣士が囚われている大講堂に『強欲の瞳』を置くはずです。もし、溜め込まれた魔力が『強欲の瞳』の許容量を超えて、一気に解放されてしまったら……学園が吹き飛びます」

 

「うわぁ……」

 

証拠隠滅という点では『シャドウガーデン』的に、そっちの方がいいかもしれないが。実行犯も目撃者も全員死亡、外から様子を伺うだけの騎士団はまだ『シャドウガーデン』の名乗りを聞いていない可能性が高い。幸い三年の姉さんは、課外活動で学園にいないから巻き込まれる心配はない。最終手段に意図的に膨大な魔力を吸収範囲内で解放して、『強欲の瞳』の誘爆を狙うか。

 

「この『強欲の瞳』は以前私が研究し解明したものです。その危険性を考えて、お父様は学界では発表せずに国で保管してもらうことにしたんですが……どうしてこんなことに」

 

「同型のものがあったか、盗まれたか……。それより、『強欲の瞳』の対処法とかってあるの?」

 

「はい、あります」

 

そう言ってシェリーはさっきの小汚い円盤を取り出した。

 

「このアーティファクトは、『強欲の瞳』の制御装置なのです。本来、『強欲の瞳』はこの制御装置を使い、魔力を長期保存するためのアーティファクトですから、このアーティファクトは魔力の解放を止められるはずです」

 

 ただシェリーによるとアーティファクトの起動するための調整が不完全なので、そのための道具を取りに行かないといけないらしい。僕が取りに行ってもいいがどれがどれだかわからないかもしれないので、シェリーも連れて行くことになった。

 

「しっかり捕まってよ」

 

「けどシド君、大怪我してるのに、私をおんぶして大丈夫ですか?」

 

「伊達で魔剣士やってないから」

 

 シェリーは全く体を鍛えてない。だから彼女を振り落とさないよう、等身大ゼリーを背負っているように慎重に、建物を移動する。と言っても『強欲の瞳』が吸収しない最低限の魔力でも、僕だったら十分もあればいけるんだけどね。あっという間にシェリーの研究室まで来ると、もう僕にできることはない。シェリーは倒れている騎士たちにショックを受けてたが、アーティファクトの調整を思い出して急いで始めている。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

 

 シェリーに声をかけたが、集中しているのか全く反応がない。まあ、あれならトイレから戻るまで僕がいないことに気づきもしないだろうと思い、勝手に行く。

 

「ん?」

 

 トイレを終わらせると足元から新しい音がする。誰かが歩いているような音、人数は……四から六人くらいか。どうせシェリーが調整を終えるまでは暇なんだ。様子を見に行ってみると、汚い赤髪のチンピラとそれに従う黒ずくめが四人いた。

 

 敵のネームドキャラか。そういえば、前にニューが世界でも上位の実力になるファースト・チルドレンの一人が確認されたとか言っていたと思い出す。確か二つ名っぽいのがついていて……名前は……『反客遊戲』のレなんとか君、だったかな。

 

 とりあえず敵だし、殺してもいいよねとまず後ろにいた二人を仕留める。つもりでスライム弾を発射したのだが後ろの二人を貫通して、前にいた二人まで倒してしまった。

 

「は?」

 

 生き残ったチンピラが驚きの声をあげるが、僕もあまりにあっけなく死んであれっ、と思った。こんな雑魚に時間をかけることが惜しくなった僕は先ほどの部下と同じようにチンピラもスライム弾で仕留める。

 

「ニューが言ってたネームドってこいつだと思うんだけど、思ったよりしょぼかったな」

 

 いつものドーピングもなかったし。そう思っていると新たな気配が僕の背後に現れるが、僕は気配の主に声をかける。

 

「ニューか?」

 

「シャドウ様、遅くなりましたが報告いたします」

 

「頼むよ」

 

「現在『シャドウガーデン』は学園の周囲に潜伏し待機しております。指示があればいつでも動けます」

 

「うん」

 

「ただ、魔力が制限された状況下での戦闘にはリスクが伴います。普段通り動けるのは『七陰』の皆様ぐらいですが、現在王都にいるのはガンマ様だけです」

 

 うん、アウト。魔力吸収の環境じゃイータ謹製の魔道具は使えないだろうから、来てもデメリットの方が高いだろう。もしガンマが乗り込んできて、ミツゴシが『シャドウガーデン』の資金源だということが外部にバレるのだけはまずい。王国にしろ、聖教と教団にしろ、碌なことにならないだろう。

 

「それで……あの、ガンマ様はあまりこういったことが得意ではないというか……」

 

「センス皆無だからな。来ても足手纏いにしかならないからこっちに来させるな。僕の名を使ってもいい」

 

「あの……はい。わ、私も普段の半分ほどの力しか出せませんので……」

 

「そうか」

 

「ガンマ様が現在全体の指揮を執っています。魔力が制限された状況はそう長くは続かないとガンマ様は予測しており、無理をせずそれまで待てばいいと」

 

 間違っていないが、ガンマの考える魔力制限が解除される時は、『強欲の瞳』が許容限界を迎える時だ。向こうが許容限界を察知して止めるならまだしも、気がつかなかったら膨大な魔力で守る僕以外は学園ごと吹っ飛ぶ。

 

「教団側はシャドウ様が大講堂と学園周辺以外の人員を殲滅されたので、騎士団の牽制と人質の監視で手一杯となっています。騎士団は学園周辺を囲っていますが、この中で戦力になりそうなのはアイリス王女と増援の部隊長以上くらいです。王宮側の意向と平時の対立が混ざり、指揮権の問題から連携は厳しいでしょうね」

 

「うちもそういうのには気をつけないとね。そういう意味だと、独立行動しているゼータとその部下が心配だな」

 

 諜報部隊だから他と連携不足になるのは仕方ないが、その結果独断行動に出る危険性がないとはいえない。

 

「……それはともかく、シャドウ様からの指示がなければ、動きがあるまで待機ということになりますが、よろしいですか?」

 

 とりあえずこっちも情報を話すか。そう考えた僕はシェリーから聞いたこと、そしてシェリーが今制御用のアーティファクトを調整していることを語る。

 

「そういうわけだから、学園の周囲のみんなは距離を取らせろ。もし向こうが『強欲の瞳』の容量を測れない間抜けだった場合、この学園が吹っ飛ぶ巻き添えを食うことになる」

 

 構成員一人ごとに悪魔憑きを見つけて、治療・訓練と手間がかかるのだ。向こうの自爆に巻き込まれて殉職させる余裕なんて、『シャドウガーデン』にはない。

 

「わかりました。すぐにでも、伝えます」

 

「それと、もしかすると僕の独断で『強欲の瞳』を誘爆させるかもしれん。それをガンマに伝えておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 情報交換を終えるとシェリーの研究室に戻る。案の定、シェリーは僕がいなかったことに気づかなかったようだ。何もすることがないので本でも読んでいるとシェリーがペンダントを見せてきた。

 

「……できました」

 

「お疲れ様」

 

 シェリーの計画では、学園のあちこちにある有事の際の地下道から大講堂に行くことになっており、再び彼女を副学園長室に連れて行くと、壁の本棚の一冊を奥に押し込むというスイッチにより秘密の地下室が現れた。こういうのってロマンがあるよなーと思いつつ、傷ついた身で助けたことへのお礼を言うシェリーを送り出す。

 

「日がいい具合に暮れてきた。これからは……シャドウとして動くか」

 

 スライムスーツを身に纏い、『シャドウガーデン』盟主のシャドウに早変わり。だがどのタイミングで大講堂に入るべきだろうか。中にいる黒ずくめの人数なら、シェリーが『強欲の瞳』を無力化しなくてもボスっぽい奴以外は倒せるが、それやるとシェリーの努力が無駄になる。自分がされて嫌なことはやってはいけないね。

 

 すると『強欲の瞳』が無効化された後か。だとするとやはり主役級がピンチの時に乱入する……か。この学園で主役級と言ったらアレクシアかローズ会長だよな。ならシェリーがやった後に、乱戦になったら二人を探してピンチになったら乱入する、乱戦が起きなかったら僕が黒ずくめ全員を倒す。よし、これでいこう。

 

 しばらく待っていると魔力の制御が普段通りになったので、そっと様子を伺うとローズ会長をはじめとする生徒の反抗が起きていた。観察して戦況を伺うと、数は生徒が大幅に有利だが半分以上の生徒は長時間の魔力吸収で弱体化している。その生徒達を守るため戦力の一部が裂かれてむしろ生徒達が数的劣勢を強いられている。

 

 これはそろそろかなと思っていると、ローズ会長が魔力切れになり凶刃が迫っている。よし、ここだ。

 

「漆黒旋」

 

 ローズ会長の前に現れた僕はローズ会長の周りにいる雑魚を殲滅する。

 

「見事だ。強き身と心を持つ者よ。魔力とは量ではない。制御され、研ぎ澄まされた魔力は膨大なだけの虚飾を断つ。最後の剣を忘れるな。それがお前の剣をより高みへと導くだろう」

 

「あ、……ありがとうございます」

 

 視線だけローズ会長に向けていた僕は改めて敵を見る。突然乱入した僕に誰もが「あいつは誰だ?」って思っているだろう。これでこそ、空気を読み待った甲斐がある。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者。……『シャドウガーデン』を騙る咎人ども。冥府で我と敵対したことを悔やむがいい」

 

 最初は純粋に剣で斬り合うことも考えたが、何時まで生徒達が戦えるかわからない以上、僕がやるべきはテロリスト殲滅RTAその2である。片手の剣で牽制しつつ、もう一方の手から発射されるスライムで仕留めていく。遠距離から狙撃し始めるとそれを阻止するべく向かって来たやつもいるが、うん弱い。一合にすら持たない雑魚を切りながら、時に軽くジャンプし空中で回転しながら生徒が邪魔で狙撃できなった奴を狙撃する。

 

「この程度で『シャドウガーデン』を騙るとは……、己の身の程を弁えろ」

 

 5分もかからずこの場にいた雑魚どもは全滅した。あとはあのボスっぽい仮面の男をと思っていると、姿を消し学園中に火がついていた。

 

「逃げられると思っているのか? 愚かな」

 

 魔力を押さえて魔力追跡されない努力をしているようだが、あいにく僕の感知力の方が高い。僕は一直線にその男がいる、副学園長室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 副学園長室に火をつける仮面の騎士に僕は声をかける。

 

「自分のテリトリーでこのような騒ぎを起こすとは何を考えている、ルスラン・バーネット学術学園副学園長」

 

 そう、ボスっぽい仮面の男の正体はシェリーの養父、ルスラン副学園長だった。ルスランは仮面と鎧を火の中に投じてこちらを見る。

 

「貴様はシャドウ……よく見抜いたな」

 

「姿勢と重心、歩き方のわずかな癖、隠すつもりならもっと努力するべきだったな」

 

 僕以外が気づいたかは怪しいけど。

 

「なるほど、いい目をしている。そして剣に生きた身として、感じる君の力は凄まじい。ゼノンでは相手にもならなかっただろう」

 

「一つ聞かせろ。動機はなんだ? 我らに今回の罪を被せたとしても、お前もただではすむまい。事件の間、ずっと音信不通の行方不明だからな」

 

「動機……か。かつて私は剣の道で頂点に立った」

 

「ブシン祭の優勝……ではないな。なるほど、ラウンズに上り詰めたか」

 

「理解が早くて助かるよ。ブシン祭など、表の世界しか知らない凡夫の祭りでしかない。無法都市、聖騎士、そして貴様ら『シャドウガーデン』と教団。本当の頂点にとっては、ブシン祭など通過点でしかない」

 

「だが私は頂点に立ってすぐ病にかかり、一線を退いた。苦労して上り詰めた私の栄光は一瞬で終わった。それから私は病を治すすべを探し求め、アーティファクトにその可能性を見出したのだ」

 

「それが『強欲の瞳』ということか」

 

「それはもう少し後だ。私はルクレイアというシェリーの母でアーティファクトの研究者に目をつけた。賢すぎて学界に嫌われた不幸な女だ。だが研究者としては最高峰の知識を持っていて、彼女の立場は私にとって都合のいいものだった。私は彼女の研究を支援し、彼女は研究に没頭する。彼女は富も栄誉も興味がなかったから、いい関係だったよ。そしてついに私は『強欲の瞳』に、私が探し求めたアーティファクトに出会った。 だがね、あの愚かな女は『強欲の瞳』が危険だと言って、こともあろうに国に管理してもらおうなどと言い出した。だから殺してやった。身体の先から中心へ突いていき、最後は心臓を突き刺し捻った」

 

「…………」

 

「シェリーは何も知らず、何も疑わず、母親の研究を引き継いでくれた。私が仇だとも知らずにね。可愛い可愛い、愚かな娘だ。母娘二人のおかげで強欲の瞳は完成した。あとは魔力を集める舞台を整えてちょうどいい隠れ蓑を用意するだけで済んだよ。今日は……私の願いが叶う最高の一日だ」

 

「最高の一日……?」

 

 クックッと僕は嗤う。先ほど義娘を嗤ったルスランに対する当て擦りのように。

 

「最悪の一日の間違いだろう? 今日ここでお前も部下と同じように死ぬ。我らの名を騙らなければ、もう少しその歓喜を噛み締めることができたというのに」

 

 僕は漆黒のスライムソードをルスランに向けた。

 

「こうして向き合えばわかる。今の私では分が悪い。悪いが、最初から全力でいかせてもらうぞ」

 

 そういうとルスランはいつものドーピングと『強欲の瞳』に蓄えられた膨大な魔力を取り込んでいく。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!! 素晴らしい……素晴らしいぞぉ……力が戻り、病が癒える……! わかるか、この荒れ狂う力が! 人間の限界を遥かに超えた魔力がッ!」

 

 体のあちこちに文字が刻まれる、なんかすごいパワーアップをしたルスランが剣を抜く。

 

「まずは貴様で試すとしよう」

 

 ルスランの姿が消えた。 だが、動きを見切っている僕は背後からの横切りを剣で受け止める。

 

「ほう、よく防いだ」

 

「その大層な強化は見掛け倒しではあるまい。とっとと本気で来い」

 

「少し見くびっていたようだな。これはどうだ」

 

 またしてもルスランの姿が消えた。 同時に連続して斬撃が放たれる。だが、僕には届かない。 四回全てが防がれるとルスランが姿を現した。

 

「これも防ぐとはな。認めよう、貴様は強い」

 

 そして余裕の笑みで僕を見据える。完全に力に酔って、僕を侮っている。もともとシェリーと母親の話で不愉快ではあったが、ますます不快になってきた。

 

「その強さに敬意を表して、私も本気を出そう」

 

 ルスランの構えが変わる、剣を上段で構え、膨大な魔力をそこに集めていく。剣に魔力が渦巻き、白く輝く。

 

「私に本気を出させたことをあの世で誇るといい」

 

 その一撃は、確かに凄まじい威力と速度だ。だが、 僕を討つにはまだまだだ。漆黒の刀はそれすら容易く受け止めた。

 

「何ッ! これすら受け止めるかッ!」

 

「逆に聞くが、……まさか……この程度か? 元ラウンズ」

 

 至近距離でルスランは僕を睨みつけるが、僕はこんなにご大層な計画を立ててこの程度かと思っていた。顔……というよりは視線に出ていたのだろう。ルスランの屈辱の感情を顔全体に現れる。

 

「ぐッ……まだ、これからだ!」

 

 ルスランの剣が加速し、その斬撃は流星の如く宙に美しい軌跡を残す。

 

「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 雄叫びと共に繰り出される無数の白い剣撃は、しかしそのすべてが僕の漆黒の刃によって弾かれる。

 

「アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 ルスランの剣を受けていたが、やがて思う。飽きた。それが、この戦いが終わりを迎える理由だった。

 

 漆黒の刃が振り抜かれ、ルスランが弾き飛ばされた。彼の身体は机を吹き飛ばしながら床に転がる。

 

「ぐッ……ば、馬鹿な……!」

 

 ルスランは痛む身体を抑さえて立ち上がる。傷はすぐに回復するが、気のせいか古代文字の光が薄くなっているようにも見える。 僕を倒すために学園中の生徒から奪い取った魔力が尽きて来たのだろう。

 

「まさか、これほど苦戦するとはな。ククッ、大したものだ。だが貴様がいくら強かろうと貴様らはもう終わりだ」

 

「終わり、とはどういうことだ……?」

 

「ふん、一連の事件はすべて貴様ら『シャドウガーデン』の仕業になるよう手はずを整えている。証拠も、証言も、全て用意してある。これで貴様らは叛逆分子として世界中から追われる身……戦いでいくら強かろうとも、どうにもならんよ」

 

 ルスランは嗤った。その歪んだ顔でシャドウを見据える。

 

だが、僕もまた嗤った。仮面の奥で喉を鳴らし、低い低い嗤い声が漏れてくる。 そして、やがてそれは学園中に聞こえるかと思うほどの大笑いになる。

 

「何がおかしい」

 

「それしきのことで終わると思っている貴様は、あまりに滑稽でな」

 

「負け惜しみだな」

 

 ルスランから笑みが消える。ルスランに対し何もわかっていない、とでも言うように僕はかぶりを振る。

 

「もとより我らは日陰者。陰にひそみ我が道をゆく我らに、黒き汚名がいくら降り注がれようと、元より暗き陰がより暗くなることはない。もし貴様にできるなら、世界中の罪を我らに背負わすがいい。だがそれは無為なことだ。教団という闇を照らし、裁くこと叶わぬ世界など恐るるに足りん」

 

「世界を敵にして恐れぬというか。それは傲慢だぞシャドウ!」

 

「傲慢? おかしなことを言う。事実を言うことの何が傲慢なのだ。それに貴様の今の言葉で我らの今の目標が定まった。これから我ら『シャドウガーデン』は……」

 

 その言葉が副学園長室に響き渡る。それを聞いたルスランは顔を青ざめ、理解できない物を見るかのように僕を見る。

 

「正気か、貴様。貴様たちがやろうとしていることは、この世界全てと戦争するに等しいのだぞ」

 

「惰弱なる世界など我が打ち砕いてやる。我が言が傲慢というなら、我が傲慢を力を持って打ち砕いて見せよ、元ラウンズ!」

 

 ルスランが咆哮と共に駆け、上段から白い剣が僕めがけて振り下ろされる。

 

 そしてそれは、僕の頭を割る直前で逸れた。

 

「何ッ!!」

 

 鮮血が舞う。ルスランの右手首に、漆黒の刃が突き刺さっていた。

 

 ルスランは即座に剣を左手に持ち替えて後退しようとする。だが、

 

「馬鹿なッ!」

 

 それより早く左の手首に漆黒の刃が突き刺さる。 それでも後退しようとするルスランにシャドウのスーツが、顔を隠すフードをつけたコートが流動して襲い掛かる。

 

「ぐッ……ガッ……!」

 

 目で追うことすら敵わない無数の刺突は、ルスランに反撃も許さずにその四肢を貫いていく。ルスランに突き刺さるそれは、次第に四肢の端から体の中心へと狙いがずれる。

 

「身体の先から中心へ突いていき……」

 

 シャドウの時の低い声が刺突の合間に響く。まるで何かを思い出すように。

 

「最後は心臓を突き刺し捻る……だったな?」

 

 その声と同時に、ルスランの心臓を漆黒の刃が貫いた。

 

「なっ……!!」

 

 ルスランは口から血を吐きながらも、胸を貫く漆黒の刃を掴んで抗う。

 

 ルスランの視線が、部屋のあちこちを燃やす炎の輝きで照らされたフードの奥の顔に届く。

 

「ガッ、アグッ! 貴様ッ、まさかシ……!」

 

 ルスランが何か言おうとした瞬間、フードの奥の少年は嗤い、漆黒の刃が捻られた。

 

「ガッ、アガッ……アァッ……!」

 

 そして心臓を捻り壊した漆黒の刀を引き抜くと、大量の血が流れ落ちる。 ルスランの目の光が消えてゆく。

 

 最後に残ったのはやせ細った初老の男の死体と、その胸に埋め込む制御装置と一体化した『強欲の瞳』だった。

 

 男は戦利品を得るように死体から『強欲の瞳』を抜き取ったその時、小さな足音が響いた。

 

「お義父様……?」

 

 返り血を浴びたシャドウが振り返った、その先に……桃色の髪の少女がいた。

 

「お義父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 桃色の髪の少女はシャドウの横を走り抜け、ルスランの死体に寄り添う。

 

「嫌ぁぁぁ……お義父様、何で……どうして……!!」

 

 少女はやせ細った死体に縋りついて涙を流すが、義父の身体はもう動くことはない。哀れな娘を一瞥すると、シャドウはその場を無言で背を向ける。お前は何も知らなくていい……、と思いながら。そして少女の切ない泣き声を聞きながら、闇夜に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……!」

 

 半焼した学園の前で声をかけられて、黒髪の平凡な少年は振り返った。

 

「やぁ、どうしたの?」

 

「ここに来れば会えるって聞いたので……。お話ししたいことがあって……」

 

 桃色の髪の少女は少年を見つめて話す。

 

「いいよ。事件の事情聴取まで時間があるから。学校も夏季休暇が前倒しになって、休校中だし」

 

 結局、ルスランの言葉通り、王国と騎士団は学園占拠事件は謎の武装集団『シャドウガーデン』による犯行と判断した。『シャドウガーデン』とそのリーダーとされるシャドウは、王国の外まで手配書が回る指名手配犯となり、情報提供が求められている。

 

「あの……先日はありがとうございました」

 

 桃色の髪の少女はペコリと頭を下げた。

 

「シド君のおかげで、本当に助かりました」

 

「うん。大変だったよ。今度からはあんなうるさいスリッパを履いたまま、逃げないようにしてね」

 

「一人だったら、私は何もできませんでした」

 

「気にしないでいいよ。僕一人でも、何もできなかっただろうから」

 

「それで、今日は報告があって……私留学することに決めたんです」

 

「あぁ、それでその荷物。何処に行くの?」

 

 桃色の髪の少女の側には大量の荷物があった。

 

「はい。今から馬車に乗ります。ラワガスまで」

 

「都市国家郡の学術都市か……。すごいね、世界最高峰の研究所じゃないか」

 

 このミドガル王国と仮想敵国である隣国のベガルタ帝国の中間の北西の海域にある都市国家郡。『貿易都市グラズヘイム』、グラズヘイムの一区画に存在する聖教の総本山『宗教国家オルム』、『アルテナ帝国』、そしてシェリーの留学する『学術都市ラワガス』を中心とする共和性連邦の諸島郡で、観光・リゾート地としても有名な場所だ。あと出無精のイータがたまに研究資料などを盗みに行っている場所でもある。

 

「私、やらなきゃいけないことができたんです。それには今の知識じゃ足りないから。それに……ここにいる理由も無くなりましたので」

 

 少女は切なげな表情で校舎を振り返った。優しい養父を懐古しているのだろうか。

 

「そっか、がんばってね」

 

「はい。シド君とは、もっとお話したかったんですけど……」

 

「大丈夫。きっといつかまた会えるさ」

 

「はい、またいつか」

 

 桃色の髪の少女は微笑んで、少年の横を通り過ぎ馬車に向かう。

 

「あ、ちょっと待って」

 

「はい?」

 

 少年に声をかけられて、少女は振り返る。

 

「やらなきゃいけないことって、何か聞いてもいい?」

 

 少年の問いに少女は困ったように微笑んだ。

 

「秘密です」

 

「そっか」

 

「ただ、もしすべてが終わったら……私の話を聞いてくれますか?」

 

「……いいよ」

 

「じゃあ、またいつか」

 

「うん」

 

 二人は微笑み、互いに背を向けて歩き出す。少年は目的地へ、少女は留学先に向かう馬車へ。

 

「私は、必ず……」

 

 ふと、風に乗って少女の呟きが少年の耳に届いた。誰にも聞かれないはずのその小さな呟きを、少年は確かに聞き取った。

 

 少年はふと振り返って、小さくなっていく少女の背中を見つめた。少しして少年は振り返り、何事もなかったかのように歩き出した。

 

 二人はもう振り返らなかった。

 

 

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