陰の実力者を諦めて!   作:リーパ―

3 / 13
『シャドウガーデン』結成

 あの廃村で悪魔憑きの腐肉塊を手に入れてから、約一月。僕は予想外の出来事に頭を痛めていた。

 

 今までは順調だったのだ。魔力を流し込み、自身の魔力が肉体に与える影響を観察する。会話することができず、五感と体内魔力による観察結果から推測するくらいしかできなかったが、言語能力が残っていても肉体をいじった痛みとかでうるさいだけかもしれないので不満はなかった。

 

 だが魔力制御能力が上昇し、魔力暴走を制御できるようになった途端、腐肉塊が金髪美少女エルフになるのは完全な予想外だった。かろうじて人型の腐肉が健常な肉体になったのは、夢としか思えなかった。

 

 現実に目から背けたいと思いながら、彼女が入っていた檻を覆っていた覆いの布を投げ渡す。体が戻ったことに呆然としていた彼女も、自身が全裸なことに気がつき慌てて体を隠す。

 

 そこからは自己紹介だ。僕はこの辺の領主カゲノー男爵家の長男、シド・カゲノーです。両親のオトン・カゲノーとオカン・カゲノー、姉さんのクレア・カゲノーの四人家族です。

 

 そうやって話し合った結果、悪魔憑きであったことが知られているから故郷には帰れないし他に頼る当てもない、助けられた恩は返したいと言われた。流石に行き先のない少女を何の当ても無く放り出すほど、僕は良心を失っていない。

 

 えっ、良心があるやつは人体実験をしない? 返す言葉がないが、結果的に彼女が助かったし、腐肉は人体じゃないからセーフ。

 

 カゲノー家に連れ帰ってもいいが、ブラコンの姉さんをはじめ、みんなを納得させるような言い分ができるか、そもそもパッとしない長男がこんな美少女エルフを家に住ませたいと言って受け入れてもらえるか、と懸念が多い。最悪は事情を知らない父さん達がエルフに話をした結果、彼女が元悪魔憑きだとバレることだ。

 

 その場合、張本人の彼女や悪魔憑きを治した僕、カゲノー家がどんなことになるかわからない。

 

 悪い意味で不確定要素が多すぎて、危険すぎる。考えた末、彼女が一人でも大丈夫になるまではこの廃村で匿うことにした。幸い将来に備えた盗賊狩りで得た金がここだけでも五百万ゼニーはある。彼女一人なら当分養う程度はできるし、独り立ちできる程度になったら彼女も盗賊狩りをしながら生きればいい。

 

 彼女もその決定を受け入れたところで、ふと彼女が自分の名前を話していないことを思い出した。

尋ねると一度だけ名前を教えてくれた後、今までの名前を名乗るのは危険だから新しい名前をつけて欲しいと言われた。

 

 少し考えた後、フレイヤ・アールブという名を与えた。意味を聞かれたので知る者がいない豊穣の女神の名だと答えた。異世界の女神の名前なんて知らないから別にいいよね。

 

 それからは昼は姉さんや両親と魔剣士の訓練や貴族の勉強に取り組み、晩はフレイヤにさまざまな事を教えた。魔力制御・身体強化技術から魔力による短期間睡眠・睡眠学習法などの応用、スライムゼリーによる戦闘服と武器の作り方、そして剣術と格闘術、気配操作など前世で陰の実力者になるために培った技術をほとんど教えた。偶にはフレイヤにせがまれて一緒に寝て、僕の不在がバレる前に急いでカゲノー家に帰ったこともある。

 

 そんな生活を続けてしばらく、フレイヤは元々のセンスもあったのかすぐに幾つもの技術を習得して、もう独り立ちしても大丈夫だろうと僕は思った。

 

 僕はフレイヤにもう独り立ちできるだけの力がついたことを告げ、何か困った時は僕のところに戻ってきてもいいと告げた。

 

 フレイヤは恩が増えるばかりで返せていないことに悩んでいたが、最終的に僕への恩返しとは別にやりたいことがあったらしく、僕の元を離れて行った。

 

 だがそれからしばらくした後、彼女はひょっこりと帰ってきた……新たな悪魔憑きを連れて。

 

 思わず悪魔憑きって捨て猫のように拾ってこれるのかと思いながら、フレイヤに言われるがままに治療する。すると今度は銀髪に泣きぼくろの美少女エルフに戻った。

 

 仕方なく僕はまた彼女を廃村に匿った。時にはフレイヤに請われて、悪魔憑きの元へ出向いたりもした。その時、偶に変な連中と戦う羽目になったがなかなかに強かった。そこらの盗賊とは比べ物にならないほどに。

 

 そしてある時、フレイヤは自分が悪魔憑きの秘密を調べるため、王都の図書館や教会の秘匿資料などで悪魔憑きについて調べていた。その途中で悪魔憑きの噂を聞き、本当だった場合は保護する、自分一人だけだと厳しい時は僕に助けを求めてきたらしい。

 

 そしてフレイヤの調べによると世界を滅ぼそうとした魔人ディアボロスと人間・獣人・エルフから現れた三人の勇者の御伽話は歴史的な事実であり、悪魔憑きの発症者は全員その三人の勇者の末裔に当たるらしい。かつては悪魔憑きの治療法もあったらしいが、長い時間の中で忘れ去られて、今ではディアボロスと勇者達自体が存在しなかったと貶められた。

 

 そしてそれを行なったのが教会……『聖教』と言われる宗教組織と、その背後で暗躍するディアボロス教団……らしい。

 

 しかしフレイヤもなぜ聖教がそんなことをしたのか、ディアボロス教団がどのような活動を行う組織なのかはまだ突き止めきれてないらしい。

 

 それからフレイヤは自身が見つけたディアボロス教団に関する資料や今度の自身の方針を話していたが、基本回収した悪魔憑きを僕に治療して欲しい以外は自分一人で動くらしいので聞き流していた。僕として僕が関わらないフレイヤの行動、まして読めない古代文字で書かれた古文書より、ディアボロス教団の方がまだ関心があった。

 

 世界を陰から支配する秘密結社……陰の実力者を目指していた頃だったら、陰の実力者の敵として挑んだかもしれない。だが今の僕にとっては、自分やカゲノー家に危害を加えなければ、どうでもいいと思う。フレイヤや他の悪魔憑きを助けるのだって結果的に一度助けてしまったから、はいさよならと見捨てることができなくなっただけだ。

 

「私は、私と共にディアボロス教団と戦おうという意志を持った元悪魔憑き達と、対ディアボロス教団の組織を作ろうと思っているの。だからシド、私たちの盟主になって」

 

「え?」

 

 いや、君が主導して組織を作るんなら君が盟主になればいいじゃん、なんで元悪魔憑きでない僕が盟主になるんだよ。

 

「悪魔憑きの治療法を復活させて、私たち悪魔憑きを救ってくれたシド。貴方こそが私たちの希望、私たちの盟主になるべきだと思うの。煩わしいと思う雑事は全て私がどうにかするわ。だから、どうかお願い!」

 

「…………わかった、引き受けよう」

 

 頭を下げるフレイヤの根負けする形で、僕はフレイヤが作ろうとする対ディアボロス教団を掲げる組織の盟主になることが決まった。ただ後で振り返ると、世界を陰から支配する組織の敵対する強者……前世の僕がなろうとして、死と共になる気概を失ってしまった陰の実力者そのものなので、僕も無意識のうちにフレイヤの提案に惹かれていたのかもしれない。

 

「組織名はどうしましょうか?」

 

「そうだな……シャドウガーデン、ってのはどうだろう?」

 

「シャドウガーデン……悪くない響きね、それにしましょう」

 

「ならフレイヤ、これから僕がスライムスーツを纏っている時はシャドウとよべ。僕も君のことをアルファと呼ぶ」

 

「アルファ……わかったわ、シ…ャドウ」

 

そしてフレイヤと共に他の僕が助けた悪魔憑き達に、ディアボロス教団やシャドウガーデンのことを話すと、自分たちもシャドウガーデンに入りたいと言い出した。その結果、悪魔憑きを治した順にベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータ、イータのコードネームが与えられた。こうして対ディアボロス教団組織『シャドウガーデン』とその盟主のシャドウ、そしてシャドウを支える初期メンバー『七陰』が結成された。

 

 あれ、もしかして今の僕って陰の実力者っぽくない?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。