陰の実力者を諦めて!   作:リーパ―

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ミドガル魔剣士学園狂想曲

 僕は15歳になり、晴れて王都にあるミドガル魔剣士学園に入学した。大陸最高峰の魔剣士学園と評され、国内はもちろん国外からも将来有望な魔剣士たちが集うという。 姉さんは特待生として学園の敷地内の寮に住んでいるが、僕は平均よりやや上の成績の一般生徒として入学したため、下町のアパートに下宿している。

 

「おっす、シド」

 

「シドくん、あとちょっとで置いていくところでしたよ」

 

 今僕に話しかけたのは、ヒョロ・ガリとジャガ・イモ。二人とも僕と同じ男爵家の出身で、僕と部屋が隣だったため、気がつけば一緒につるむようになった。二人とも次男坊で跡取りでないため、一緒にいても不自然でないし、二人の動きから僕が「天才の姉の影にいる冴えない長男」を振る舞うにはどうすればいいかいい見本になる。

 

「シド、お前、今日の放課後、わかってるよな」

 

「わかってる。ちゃんと告白すればいいんでしょ」

 

 このやりとりは、この前授業中の小テストで最下位になった人は「学園の女子(アイドル)に告白」しなければならないと罰ゲームを決め、それが僕だったためだ。

 

魔力関係の科目は僕が独学で至った知識と世間一般の知識に隔たりがあることもあり、魔力がなかった前世の知識も役に立たない。結果として、僕は最下位に甘んじることになった。

 

「で、やっぱアレクシア王女に告白するんですか?」

 

「お前が振られるところ、バッチリ見てやるからな」

 

 アレクシア・ミドガル王女殿下。僕たちと同級生で、このミドガル王国の第二王女。そして今日、僕が罰ゲームで告白する相手である。学園のアイドルにはもう一人、他国から留学してきた先輩で母国の王女、そして生徒会長という人もいるがこちらは全く接点がない。そしてアレクシアの姉のアイリス第一王女殿下はすでに卒業している。同じ振られる告白でも、まだ同級生という接点があるアレクシア王女の方が敷居が無いという事である。

 

 だからか自分ならイケると自惚れたアホが入学してから2ヶ月でもう百人を超え、そして『興味ないわ』という冷酷な一言で返り討ちにあっている。 最もお互い将来は政略結婚するだろうから、あくまで学園内での青春の一部としての関係で終わると理解しているが。一日に一人は告白されて振っているから、僕が罰ゲームで告白して振られてもよくあることで片付く。そういう打算もある。

 

 そして今日の放課後、僕はアレクシア王女を学校の屋上に呼び出した。屋上の出入り口の建物の影からヒョロとジャガが僕の告白を見張っている。

 

 気分は観客の前で演技する舞台役者だ。アレクシア王女は白い髪を肩のところまで伸ばし、姉さんのように切れ長で赤い瞳を持つ、クール系で整った顔立ちの美少女だ。もっとも僕はアルファたちを含め女性ばかりのシャドウガーデン唯一の男、美女は見慣れているため大して緊張はしていない。

 

 だがもし僕じゃなくヒョロやジャガが告白していたらすごく緊張しているので、緊張しているふりをする。そう、僕は小心者で罰ゲームで告白し振られる友人を嘲笑う小物で、権力には秒で媚を売る碌でなしのあの二人のような告白をしなければならない。

 

 神と世界よ。刮目し、見届けよ。これこそ『告白を強要され緊張の極みにありながら、なんとか高嶺の花に告白するモブ学生』の告白だ!

 

「ア、ア、ア……アレクシアおうにょ」

 

 ア、ア、アでスタッカートを刻み……でビブラート、アレクシアの音程は上下に揺れ、おうにょで迫真の活舌を披露。今朝彼女に告白した学生みたいな贈り物はない。あの二人は緊張と資金のなさから贈り物を用意したりはしないだろう。

 

「す、好きです……!」

 

 視線はアレクシア王女を避け地面を彷徨い、膝は小刻みに震わせる。 手を突き出すことすら恐れ多いと、両手はぴっちりと胴につける。

 

「ぼ、ぼ、僕と付き合ってくぁさぃ……?」

 

 セリフはあくまで普通、退屈なまでに王道を突き進みながら、発音、音程、活舌は明後日のほうにブレまくり、ラストは小さい語尾からの疑問形で自信のなさを極限アピール。 よし、これであとはアレクシア王女に振られるだけで「よろしくお願いします」……はい?

 

「ええっと、いいんですか?」

 

「ええ、お受けします。あなたみたいな人を待っていたわ」

 

 思わずまるで緊張していない素に戻って確認するも、受諾の返答は変わらない。

 

「それじゃあ、一緒に帰りましょうか」

 

 微笑を浮かべながら足を屋上の出入り口に返すアレクシアを、僕は追いかけ、追いつき、彼女を寮まで送り届けるとまた明日と別れ、その足でアパートの自室に戻る。なんでラブコメ主人公ルート入ってんだぁぁぁ、と内心絶叫しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日の学校、昼の食堂で。

 

「おかしいよね」

 

「おかしいな」

 

「おかしいですね」

 

 僕たち三人の意見は一致した。今まで全員振ってきたアレクシア王女が急に僕みたいな男爵家の男子と付き合うなんておかしいと。

 

「正直言ってお前にアレクシア王女と付き合えるだけのスペックはない。俺ですら怪しいレベルだぜ?」

 

 偉そうにヒョロが言うが、お前はただのノッポだ、オシャレな癖にセンスが悪いだろうがと言い返したくなる。少なくともアレクシア王女に釣り合うスペックはない。

 

「シド君が付き合えたんなら自分もいけたかもしれませんね。あー、自分が告白すればよかったなぁ」

 

 ジャガが自分にもチャンスがと嘆くが、小柄でイモっぽい男子である。どこから、どんな角度から見てもアレクシア王女に付き合えるとは思えない。アレクシア王女にどんな考えがあって地方の地味な貴族子弟と付き合うことを決めたか知らないが、告白したのがこいつなら流石に振ったかもしれないやつだ。

 

「いや実際いいもんじゃないよ。なんか裏がありそうで怖いし、そもそも住む世界違うわけだし」

 

「だろーな。お前に俺みたいな器量は無いし、もって一週間ってところか?」

 

「3日ぐらいでしょう、周りを見てください」

 

 ジャガの言葉に周囲を見渡すと、食堂の人間がそれとなく僕を見てヒソヒソ話していた。 僕の耳はちょっと特別なので、ヒソヒソでもよく聞こえるが、

 

「ほら、あれが……」

 

「嘘ー! なんか普通……」

 

「何かの間違いじゃ……」

 

「あ、私ありかも……」

 

「えー!」

 

 とか。

 

「弱み握って脅したらしいぜ……ヒョロ・ガリって奴が言ってた」

 

「マジかよあいつ絶対殺す……」

 

「演習で事故に見せかけて……」

 

「ここでやらなきゃ男が廃る……」

 

 とか。

 

 とりあえず機会があればヒョロ・ガリをボコボコにリンチすることを決めながら、その目の前にいるヒョロ・ガリに苦情を言う。

 

「僕がアレクシア王女の弱みを握って脅したなんて言いふらすヒョロ・ガリってやつがいるらしいけど……同姓同名の君に心当たりはある?』

 

「俺じゃねえよ。親友を疑うのか?」

 

 お前、棚ぼたな幸運に恵まれた友人を妬んで、そういうことするタイプだろうが。モブの友情は儚く脆い。

 

「全く王女を脅しでもしたら、僕どころか一族皆殺しにだってなりかねないってわからないのかな」

 

わざと大声で言う。こうすれば僕が王女を脅したと言う悪質な噂はすぐ否定されるだろう。それより今はアレクシアだ。

 

「いいじゃん、付き合えば。あわよくばいい思いできるかもしれないぜ」

 

 ニヤつきながらヒョロが言う。

 

「ですね。たとえ間違いでも王女と付き合えるんですから、多少の障害で怯んではもったいない」

 

 アホ言うな。それで目立って万が一シャドウガーデンについてのあれこれがバレたら、シャドウという裏の顔ではなくシド・カゲノーという表の顔が、世界中から追われるだろうが。姉さんや両親は巻き込みたくないっていうのに。

 

「しかしこういう結果になったのであれば、罰ゲームのことは隠さなければなりませんね」

 

 とジャガが言う。

 

「だね。バレたら面倒なことになりそうだ。だから頼むよ、特にヒョロ」

 

「俺? 俺は漏らさねーよ?」

 

「もちろん自分も漏らしませんよ」

 

「マジ頼むからな」

 

と口では勇ましいが、不審がったアレクシア王女に詰め寄られたら秒で自白するんだろうなと思っている。だとしても一本の藁にも縋りたい立場なのだが。

 

そう思って貧乏貴族向け980ゼニーの日替わり定食をさっさと完食しようとすると、僕の向かい側に金持ち向け十万ゼニーの日替わり定食がメイドによって手際よく並べられる。そしてその席の前に立つは、件のアレクシア王女。

 

「この席、いいかしら?」

 

「ど、どどどどど、どうじょ!」

 

「こ、こここここ、こんな席でよければ、ぜひぜひ!」

 

 うん、君たちはこうなるだろうと思っていたよ。さっきまで自分でも付き合えると大口叩いていたのが夢のようだ。僕は無言で席を勧める。そんなことより早く完食して、この場を立ち去りたい。僕が黙々と食べるからか向こうも話を振ってこない。

 

「ごちそうさま、じゃあまたね」

 

「ちょっと待ちなさいっ!」

 

 無視して立ち去りたいが、そんなことをしたら後が怖いので大人しく席に戻る。

 

「あなたって午後からの実技科目は王都ブシン流だったわね」

 

「そうだよ」

 

この学園は午前の基礎科目と午後の実技科目に分かれており、基礎科目はクラスごとだが実技科目は選択式でクラスも学年もごちゃ混ぜ。数多の武器流派から自分に合った授業を選ぶわけだ。

 

「私も王都ブシン流だから一緒に受けようと思って」

 

「いや無理でしょ、だってアレクシア1部じゃん。僕5部だし」

 

 ブシン流はかなり人気の授業で、1部50人でなんと9部まである。1部から9部は実力ごとに分けられて、僕は入学して間もないがすでに5部だ。何せ偶に特待生の姉さんに勝っていたのだ。そんな僕が9部だったら姉さんがどんな反応をするか、考えるだけでも恐ろしい。姉さんは5部で不満かも知れないが、学年ごっちゃ混ぜなのだから入学したてで中の中は快挙な方だろう。ヒョロとジャガ? もちろん9部だ。

 

「私の推薦で1部に席を空けてもらったから大丈夫よ」

 

「それはどう考えても大丈夫じゃないやつだ。僕は知っているからな」

 

「なら私が5部に行こうかしら?」

 

「やめてくれ、僕の立場がなくなる」

 

「2つに1つよ、選びなさい」

 

「どっちも嫌」

 

「王女命令よ」

 

「1部行きます」

 

 こうして僕の昼食は終わった。案の定、ヒョロとジャガは最後まで置物だった。 あいつら、全身甲冑着て飾りの鎧の振りして警備する仕事に就職すればいいんじゃないかな、きっと誰も中に人間がいると気づかないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1部の教室での感想は優遇されすぎだろ、の一言に尽きる。教室はでかい体育館のようで更衣室・風呂?・軽食場???などが備わっていて、扉もメイドさんがいちいち開けてくれる。軽食場はいらないだろと内心突っ込んだ。

 

 さっさと着替えてストレッチをしながらアレクシア王女を待っていると、黒いスリットの入ったチャイナドレスのような道着を身につけたアレクシアがきた。正直、5部の道着なので目立つことこの上ない。そうこうしているうちに授業が始める。

 

「今日から新しい仲間が入った」

 

「シド・カゲノーです。よろしくお願いします」

 

 さすが1部というべきだろうか。見渡せば重要人物がそこら中にいる。あそこのイケメンは公爵家の次男だし、あそこの美人は現役魔剣騎士団長の娘だし、そして顧問の先生はなんとこの国の侯爵兼剣術指南役だったりする。しかもまだ28歳という若さの金髪イケメンだ。 確かゼノン・グリフィ侯爵だったか。

 

「みんな仲良くするように」

 

敵意7割、好奇心3割のお世辞にも仲良くする気があるとは思えない視線を受けながら、授業を受ける。

 

 瞑想による魔力制御からはじまって、素振やら基礎的な内容が続く。 やっぱり基本は大事だ。強い人は基本を大事にする。 周りのレベルも高いしお世辞抜きでいい環境だといえるだろう。 何よりこの王都ブシン流が非常に理にかなっているため、練習に参加していて苦にならないって素晴らしいことだ。

 

「君は王都ブシン流が好きかい?」

 

「そう見えます?」

 

「ああ、楽しそうだ」

 

「まあ、理にかなっていて、やりがいがあると思います」

 

「王都ブシン流は知っての通りブシン流から分裂して出来たまだ新しい流派だ。伝統のブシン流、革新の王都ブシン流、はじめは風当たりも強かったがアイリス王女のおかげで今やこの国でブシン流に次ぐ流派とまで言われるようになった」

 

「ゼノン先生も、王都ブシン流を盛り上げた剣士の1人だと聞きますが」

 

「アイリス王女に比べれば微々たるものだがね。それでも私は王都ブシン流は自分が育ててきたと思っている。だから王都ブシン流を好きになってもらえたなら嬉しいんだ。すまない、練習の邪魔をしたね」

 

そう言って他の生徒の様子を見に、ゼノン先生は去っていった。僕が教えた剣を、アルファたちが振るのを見るような気持ちということだろうか。最もガンマとデルタの剣を見ると自分が教えたと思いたくなくなるが。

 

 そんな益もないことを考えていると今度は実戦形式の稽古をアレクシア王女と組んで行う。実力差を不安に思ったが、稽古の目的を理解しているのか力も速さも魔力もなく、本当に技を確認しているだけだ。

 

 アレクシア王女は天才・王国最強と名高い姉と比べられて、凡人の剣と評されている。だがこうして対峙するとただ地味なだけで、基礎・基本に忠実な努力の結晶である。学習能力がなかったり飽き性な獣人コンビに見習わせたいものだ。

 

「いい剣ね」

 

「ありがとう、ございます」

 

「でも、嫌いな剣。自分を見ているようだわ。終わりにしましょうか」

 

 気がつくと授業が終わっていたらしい。片付ける彼女に僕も続き、着替えたらアレクシア王女を振り切って帰「待ちなさい」れなかった。僕はアレクシア王女に引っ張られて何故かゼノン先生の前に連れて行かれた。

 

「それが、君の答えというわけかな」

 

「ええ。私、彼と付き合うことに決めたから」

 

「いつまでもそうやって逃げられる訳じゃないよ」

 

「大人の事情は子供には分かりませんの」

 

 厳しい目でアレクシア王女を見るゼノン先生と、それを笑顔で流すアレクシア王女。

 

 大体の事情を理解した僕は、引いてしまった厄ネタにマジでヒョロとジャガ変わってくれと絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は放課後の校舎裏でアレクシア王女を問いただした。

 

「つまり君とゼノン先生は婚約者で、僕はその当て馬に選ばれたって理解でいい?」

 

「ええ、そうよ。ただ婚約者じゃないわ、婚約者候補よ」

 

「どっちでもいいよ。他にどんな候補がいるか知らないけど、ゼノン先生に張り合える有望株はそうそういないでしょ」

 

「よくないわ、まだ決まってもいないのに強引に話を進めてきて困っていたのよ」

 

「それこそどうでもいいよ。悪目立ちしたくないし、悪いけど君たちの事情に巻き込まれるつもりはないから」

 

「……あら、薄情ね、恋人のクセに」

 

「恋人? 君にとって僕はただ下級貴族出身だから扱いやすい、都合のいい当て馬でしかないだろ?」

 

「ええそうよ、でもそれはお互い様よね」

 

 アレクシアは嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「お互い様? いったい何のことだ」

 

「あら、惚ける気? 罰ゲームで告白してきたシド・カゲノー君。非道いわ、乙女の純情を弄ぶなんて」

 

 シクシクと明らかな嘘泣きしながら、乙女の純情など欠片も持ち合わせてなさそうな女が言う。

 

「なんのことだい? 罰ゲームで告白だなんて、証拠でもあるのかい?」

 

 僕は不思議そうな顔を取り繕って返す。内心、あいつら裏切ったな、と諦めながら。アレクシア王女の性格からして、もう裏どりも済ませてあるだろう。少なくともベータなら裏は取っている。

 

「ヒョロ君とジャガ君だったかしら。あなたのお友達に話しかけたら、顔を真っ赤にしてペラペラと聞いていないことまで全部喋ってくれたわ。いい友達ね」

 

 僕は今すぐあのバカ二人に『フォトン・レイ』を打ち込み、肉片を一片も残さず蒸発させたい衝動に駆られた。

 

「みんなが知れば、この先あなたは平穏な学園生活には戻れないかも知れないわねぇ」

 

 えげつない。そんなことになったら今は勿論、王城に話が行くと将来まで響く。もしそうなったら学園を生徒ごと『アイ・アム・アトミック』で蒸発させるか、自主退学してシャドウガーデンの盟主シャドウとして本格的に行動するか、真剣に現実逃避しながらアレクシア王女、いやアレクシアの沙汰を待つ。

 

「とりあえず恋人のふりを続けてもらいましょうか。期限はあの男が諦めるまで」

 

「諦めると思う? 僕は所詮男爵家の人間だ。正直当て馬には力不足だよ」

 

「分かっているわ。時間が稼げればいいの。後はこっちで何とかするから」

 

「なるべく早めに頼む」

 

「……ごちゃごちゃうるさいわね」

 

そう言いながらアレクシアは懐から金貨を取りだして指で弾く。反射的に空中でキャッチしようとするがそれを予想していたアレクシアに妨害され地面に落ちる。地面に落ちた金貨を改めて確認する。間違いない、一枚十万ゼニーの金貨だ。

 

「拾いなさい」

 

「……へぇ、僕が金でなびく男に見えるとでも?」

 

「見えるわ」

 

「……フッ……その通りだ」

 

 僕は大人しく地面に落ちた金貨を拾う。本来、僕はこんなことをしなくてもいい。今王都で話題のミツゴシ商会は実はシャドウガーデンのフロント企業で、ミツゴシの商会長は七陰の一人ガンマだ。彼女からお金が入り用でしたらいつでも言ってくださいと言われているし、長年の盗賊基金もある。だがしかし、楽して大金を稼げるならそれに乗らない手はない。

 

 アレクシアは再び懐から金貨を取り出し指で弾く。一回地面に落ちて跳ね上がった金貨をすかさず空中でそれを受け止める僕。

 

「よしよし、いい子ね。それで、ちゃんと私の私の言うことを聞いてくれるわよね? 『ポチ』?」

 

「勿論ですとも」

 

 性格の悪さが滲み出た笑みを浮かべながら三度目の投擲、軌道は魔力を使わないといけないほど高く、それゆえ遠くまで飛んでいく。

 

「ほ〜れ、取ってこ〜い」

 

 僕はまるで飼い主が投げたおもちゃを拾いに行く犬のような気持ちを味わいながら金貨を追った。

 

 

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