陰の実力者を諦めて!   作:リーパ―

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かなり間隔が空いてすみませんでした。
ちょっとリアルで時間がなく、投稿が遅れました。


陰の蠢動

 結局、僕が留置所から解放されたのは五日後の夕方だった。

 

「おら、さっさと行け」

 

 乱暴に背中を押されて建物から追い出され、後から僕の荷物が投げ捨てられた。下着姿の僕は荷物から服を着て靴を履く。両手の指の爪は全て剥がされたため、やたらと時間がかかった。このままだと不便だから、魔力を使い爪を治癒する。

 

 僕は一通り支度を終えると大きく息を吐いて歩き出す。大通りを行き交う人の流れが、殴られ血まみれの僕に注目する。僕はもう一度息を吐く。

 

「あの騎士ども、地獄に堕ちればいいのに。できる事なら僕自身が地獄に叩き落としたい」

 

 散々なぶってくれた悪徳騎士を愚痴り終えると、大きく息をして思考を落ち着かせる。気配を探ると少し後ろに怪しい影。

 

「尾行は2人か」

 

 まだ誘拐犯は捕まっていない。当然アレクシアの安否も不明。

 

 僕は自分が無罪放免されたと思うほど脳みそお花畑じゃない。証拠不十分だったから釈放されただけで、容疑はまだ晴れていない。

 

 僕は俯き憔悴した様子を装いながらアパートへと歩く、その途中。

 

「後で……」

 

 すれ違いざまに囁きのような、ほんの小さな声が耳に届く。そして記憶に残るささやかな香水の香り。

 

「アルファか……」

 

 夕方の大通りは多くの市民が行き交い、彼女の姿はどこにも見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し遠回りしてミツゴシ系列の軽食チェーン『まぐろなるど』でサンド二個、ポテト、オニオンリング、紅茶をテイクアウトする。無駄な拷問による肉体と精神の疲労から晩御飯を作る気力が残ってなかったのだ。自室の明かりをつけると、薄闇の中からアルファが歩み出た……何故か学生服のコスプレで。

 

「食べるかと思って買っておいたのだけど」

 

 そう言う彼女の手元には、僕と同じ包みが握られていた。

 

「もらえるならもらっておくよ。五日間、碌な食事がでなかったんだから」

 

 僕はまず自分の包みからマグロカツサンドとオニオンリング、紅茶をベッドの側の机の上に出してベッドに座る。完食するとまた次のエビカツサンドとポテトを出して食べる。横でアルファも自分の分らしいサンドを食べている。

 

五日越しのまともな?食事にありついて一息ついた僕は靴を脱ぎ上着をハンガーもどきにかけ、アルファに現時点での調査結果を尋ねる。

 

「今回のアレクシア誘拐事件、僕を尋問した騎士たちは共犯でいいよね」

 

「ええ、そして主犯は王都のディアボロス教団の最大派閥、フェンリル派よ」

 

「なんで教団がアレクシアを狙ったか、わかる?」

 

「おそらく濃度の濃い『英雄の血』だと考えているわ」

 

「って事は、彼女はまだ生きているよね」

 

「死んだら、それ以上血を抜けないでしょ」

 

 確かに、馬鹿なことを聞いたな。

 

「騎士団の動きは?」

 

「アイリス王女を中心に動いているようだけど、教団が潜り込んでいるから、捜査はロクに進んでいないわ。あなたを犯人に仕立て上げる動きがあるから、あなたが犯人にされるのは時間の問題ね」

 

「ほっといても、僕が犯人になりそうなのに、仕事熱心だね」

 

「早く解決させたいんでしょうね。貧乏男爵家のパッとしない学生ならちょうどいい」

 

「アレクシア王女が戻らないと解決にならないのに、涙ぐましい努力だね」

 

 まあ、その生贄の羊が自分たちを狩らんとする狼群の長だった時点で、彼らの計画は水泡に帰したのだが。

 

「そういえば、騎士団の体験入団だかでいなかった姉さんは何してる?」

 

「学園に帰ってきて、あなたが捕まったって聞いたらあなたを助けようと騎士団の留置所を襲撃しようとしたから、生徒会長のローズ・オリアナに関節を決められて反省室に軟禁されたわ」

 

 姉さん、何やってるんだろ。僕を解放しようとして、自分が捕まったらどうしようもないじゃないか。

 

「ところで、あなたがなぜ王女様とロマンス繰り広げていたか説明してもらえるかしら」

 

 アルファが半眼で僕を睨む。

 

「お隣さんの腐れ縁との賭けで負けてアレクシア王女に振られる前提で告白したら、婚約者候補の当て馬にされたのさ」

 

 僕の失敗は告白相手に性悪のアレクシアを選んだことだ。生徒会長のローズ・オリアナ先輩だったら、先輩の性格の噂から考えると、諭すように優しく振ってくれたに違いない。

 

「呆れた。そもそも賭けに負けなければ良かったんじゃないのかしら」

 

「魔力についての筆記テストだったんだけど、世間の理解が低いせいで教科書の内容をうっかり否定してしまって、赤点になったんだ」

 

「……それなら仕方ない、と言いたいところだけど、あなたがきちんと教科書を確認してれば済んだ事でしょ」

 

「返す言葉もない。おかげでこんなことに巻き込まれるから、反省しているよ」

 

「そうして。それに私たちをもっと信頼して。あなたが私たちに事情を話してくれてれば、もっと早く釈放できるようにできたわ」

 

「君が言うってことは、できたんだろうね」

 

 アルファは僕に代わってシャドウガーデンをまとめ上げてる。その彼女ができると言ったらできるのだろう。アルファは立ち上がるとスライムスーツを纏い、窓を開け片足をかけようとして、止まる。

 

「忘れてたけど、あなたを尋問していたあの二人だけど、とりあえず消しておいていいかしら」

 

「一応あれは彼らの表の仕事でもあったわけだからね。消して騎士団・教団双方に警戒されると困るし、今は放置でいいよ。ただこれ以上僕に罪を着せるなら、僕が直接手を下す」

 

「……わかったわ。そろそろ行くわ。あなたはしばらく大人しくしていて」

 

 ふと気になったことを尋ねた。

 

「今更だけど、なんでうちの制服着てるの? それとアルファって欠点ってある?」

 

「制服についてはふざけただけよ。忙しい私たちを放って、アレクシア王女とロマンスを繰り広げた当てつけでもあるわね。欠点については、どうしてそんなことを聞くのかしら」

 

「アレクシアが『自分は人を欠点で判断する。欠点がないのは大嘘つきか頭がおかしいかのどっちかだ』って言ってたから、アルファにも欠点ってあるかなと思ったんだ。他のみんなはわかってるけどね」

 

 僕の説明を聞いてアルファは少し首を傾ける。やがて、イタズラっぽく微笑んだ。

 

「私にも欠点はあるけど、あなたには教えないわ。昔あなたが言ってたじゃない。『女は秘密を着飾って美しくなる』って」

 

 詳しい事は準備ができてから伝えるわ。そう言ってアルファは窓の外に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が釈放されてから二日、アルファ達と教団の双方から動きがあった。準備ができたと、今夜、アレクシアが誘拐された林道に来いと書かれた招待状。いよいよ誘拐事件も終幕。もうアルファに見られているのだが、あえて雰囲気作りのために部屋の内装を一新することにした。

 

「なぜか盗賊に殺された行商人が持っていた幻の名画『モンクの叫び』、それにアンティークランプ、高級なヴィンテージワインに最高級のワイングラス、よし」

 

 今までコツコツ集めたコレクションで模様替えを行えば、なんと言うことでしょう。安っぽいアパートの一室がたちまち、高位貴族の本邸の一室に早変わり。アンティークランプが絵画、机、椅子などを厳かに照らし、部屋の雰囲気をまとめ上げる。

 

 暖炉とかあるともっと映えるかもしれないが、貧乏貴族の下宿にそんな洒落たものは存在しない。ちょっと残念に思いながら、椅子にゆったりと腰掛け連絡役を待つ。そして、スライムスーツを纏ったベータが窓から入ってきた。

 

「準備が調いました」

 

「そうか」

 

「アルファ様の命により近場の動かせる人員は全て王都に集結させました。その数114名」

 

「114名……か。アルファ、デルタもいれば問題はないか」

 

そもそもシャドウガーデンの構成員は基本的に全員元悪魔憑きである。ガンマみたいな頭の痛い例外はあれど、質ではあのドーピングなしに上回れることはないだろう。

 

「作戦は王都に点在するディアボロス教団フェンリル派アジトの同時襲撃です。襲撃と同時にアレクシア王女の魔力痕跡を調査、居場所を突き止め次第確保に切り替えます」

 

 僕はただ頷き、先を促した。今のところ作戦に問題はなさそうだしね。

 

「作戦の全体指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様が取り私はその補佐を。イプシロンは後方支援を担当、デルタが先陣を切り作戦開始の合図とします。部隊ごとの構成は……」

 

「待て」

 

 悪いがベータの報告を遮らせてもらう。

 

「今朝、面白い招待状が届いた」

 

 そう言って届いた招待状をベータに投げる。危なげなくベータも受け止め、中の文に目を通す。

 

「これは……」

 

「デルタには悪いが……プレリュードは俺のものだ」

 

 そう言って椅子から立ち上がり、ベータが入ってきた窓から街の夜景を見る。

 

「時は満ちた……今宵、我らは世界にその牙を示す」

 

 さあ、まずこんな間抜けな呼び出しを行った馬鹿の顔を拝みに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が呼び出されたのは、僕とアレクシアが使っていた林道、その奥だった。奥の方とはいえ、決して寮から遠くない。大声を出せば寮に届きそうなもんだが、こんな場所で僕に容疑を被せて殺すなんて不意打ちでもするのだろうか?

 

 いつ刺客が襲いかかってもいいように、あたりをさりげなく注意をしていると何かが飛んできたので躱して、地面に落ちたそれを見ると、アレクシアのローファーだった。おそらくゼノン先生が持っていたのと対をなすものだろう。

 

「おい、色男。避けんじゃねえよ。殺す前にお前の魔力痕跡をつけなきゃいけなくなるじゃねえか」

 

「お前が下手くそなのが悪いんだろうが。少し早いが、お前が犯人だ、シド・カゲノー」

 

 ローファーが飛んできた方に視線をやると、僕を可愛がってくれた悪徳騎士達が林道から姿を現した。

 

「やっぱりお前ら、犯人とグルだったのか。王女を一刻も見付けないといけないにしては焦った感じがなかったんだよね」

 

「ちっ、バレてやがったか。もっとも、あんな手紙に騙されてのこのこ此処に来た時点でお前は馬鹿だ」

 

 二人は剣を抜き、無遠慮にシドの間合いに詰め寄る。確かに向こうは完全装備、こっちは制服だけで学園配布の模擬剣すら持ってきていない丸腰だ。

 

「さて、シド・カゲノー。王女誘拐の容疑で逮捕する」

 

「抵抗するなよ、抵抗しても無駄だけどな」

 

「一つ聞いてもいい? アレクシア王女が見つからなければ、下手人にされた僕が死んでも事件を解決にはならないし、担当した君たちもタダじゃ済まない。なのにどうしてこんなことをする?」

 

「大丈夫だよ。この計画を主導する方が王城に強いコネを持っているからな。圧力をかけて、この事件を犯人死亡で解決したことにしてくれるんだよ」

 

 何馬鹿なことを言ってるんだろうか。一国の王女が行方不明になったんだ。アレクシアが見つからない限り、国は威信を賭けて解決しようとするだろう。多分黒幕は僕を主犯にした後、こいつらが真実をバラさないうちに始末して、犯人と事件担当者の連続死で事件を有耶無耶にするつもりなのだろう。

 

 そういうつもりではこいつらは教団にとってアレクシア(正確には彼女の血)より価値がないと見限られたということだ。うちはそんなブラックにならないよう、アルファ達に言っておかないと。そんなことを思いながら、僕を殺そうとのこのこ近づいてきた騎士を隠し持っていたスライムスーツで串刺しにする。

 

「お?」

 

 そしてスライムスーツの棘を騎士の体から引き抜く。肺まで貫通しているが、わざと主要な肺動脈は傷つけないようにしたので出血は傷の大きさに対してそこまででない。同時に騎士との間合いを詰め、顔を思いっきりぶん殴った。騎士の男は自分に何が起きたのかわからないまま、痛みに倒れる。

 

「てめぇ何しやがった!!」

 

 もう一人の騎士が慌てて切り掛かってきたが、あまりに未熟だった。見所はある程度の学生を装っていたとはいえ、こんなやつを刺客にするとは、教団と騎士団も人手不足なのか。それとも事件の対策によっては切り捨てるため、あえて無能にしたのか。

 

 どちらにせよ、こんな奴らに僕の相手が務まるとは舐められたな。そう思いながら手にスライムソードを持つと、魔力を纏わせ騎士の剣を真っ二つにし、返す刃で剣を振った腕を切り落とす。

 

「あああああああぁぁぁあッ!!」

 

 腕の傷口を見て発狂したみたいに喚いている。見るからに隙だらけだったので、両膝から下も切り落とす。体は地面に無様に倒れ、這いずりながら僕から距離を取ろうとする。

 

「て、てめぇ、騎士団にこんな事をしてただで済むと思うなよ……! お、俺たちが死んだら真っ先に疑われるのはてめぇだ! ひ、ひぃッ……! て、てめぇはもう終わりだ……! 終わりだ……!」

 

「大丈夫。下宿を出る時、誰にも見つからないように(窓から)出てきたから、僕が自分の部屋にいたって言ったら疑わしいけど僕の仕業とは思われないよ。手紙も完全に燃やしたし、魔力痕跡もろくに残していないし。それに何より、」

 

 スライムスーツを全身に纏い、シャドウガーデンの盟主シャドウに僕はなる。

 

「夜が明ければ……総ては終わっているのだから」

 

 そう言うと這いつくばった騎士を持ち上げ、先に倒した騎士の四肢も切り落とし、もう一人をその上に放り投げた。

 

「どうせもう直ぐ出血で死ぬだろう。それまで我を狙った愚かさを悔いるがいい」

 

 拷問したことはこれでチャラにしてやると寛大な気分になりながら、隠れているベータの方に向かう。その時、遠くで爆音が轟いた。

 

「あれはデルタか。相変わらずやることが派手だな。ベータ、とりあえずアレクシア王女のいる拠点に向かうぞ」

 

 足の行き先をベータから、騎士が僕に当てようと投げたアレクシアのローファーへと変える。あれを使えば魔力痕跡を追跡することもできるだろう。案の定、アレクシアの魔力痕跡を追えた僕とベータは、死にかけの悪徳騎士を放置して林道から王都市街地にでる。

 

 そのまま屋根の上を走っていると、地面から隻腕の巨人が出てきた。よく見ると左腕は何かを抱き締めるかのように胴に癒着している。 その反動か右腕はアンバランスなほど肥大化しており、爪が人間の半身くらいあった。

 

「魔人化実験の被験体か?」

 

「おそらくその通りかと。どうしましょうか?」

 

「ベータ。お前はどうしたい?」

 

「叶うなら、助けたいと思います。ですが私では、あのようになってしまうと完全に助けることは……」

 

「我はできる」

 

 僕はそういうと屋根から被験体めがけて跳躍する。

 

「『アイ・アム・リカバリーアトミック』」

 

 突きに合わせて魔力が彼女に流れ込む。僕の魔力は彼女の魔力暴走を制御し、その体は白い煙を上げながら萎んでゆき、少女ほどの大きさにまで小さくなった。そして、その左腕から短剣がこぼれ落ちる。

 

 それは赤い宝石の入った短剣。

 

『最愛の娘ミリアへ』

 

 柄にはそう刻まれていた。

 

「ベータ、悪いがガンマのところに連れて行ってくれ。目的地はわかっているから、後から追いつくこともできるだろう?」

 

「はい、直ぐに戻って参ります」

 

 短剣を拾い倒れている少女を背負うと、ベータは一目散にガンマのところに向かう。衛兵や騎士団が周りを包囲しているが、僕もベータも彼らを飛び越え、目的地へと向かう。

 

 隠し扉を壊して押し入り、地下の秘密アジトにワクワクしながら進むと、アレクシアとアルファ達から聞いた黒幕のゼノン・グリフィがいた。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……」

 

 

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