『カフェ・ドゥ・マゴ』は杜王町駅前で『れんが亭』と一二を争う人気店だ。
『れんが亭』が大正ロマンを感じさせる料理を出すのに対して、この店は店の外観、内装、料理に至るまで洋風で統一されている。
ストローでアイスミルクティーを軽くかき回し、かららんっ、と氷の音を立てる。
私の対面で目を閉じて、紅茶に口をつけた由花子さんがカップをそっとテーブルに戻した。
その美しい所作はテラス席に目を向けた通行人を次々と店に誘導していく。
「呪霊に、呪術……そんなドブの泥みたいなものがこの世界にはあるのね」
カフェに着くまでの道中、由花子さんの話す内容のほとんどは康一さんのこと、どれだけ思っているか、(康一さんが、康一さんの)どんなところが好きか、どんな癖があるか、苦手なこと、得意なこと等など、興味のない私もすでに康一さんの知識は彼の家族と由花子さんに次ぐ知識量になってしまった。
そして、カフェについたところで私に話のマイクが渡り、呪霊のこと、呪術のこと、今この杜王町にある事件の火種『チリ・ペッパー』と『石仮面』について。
できるだけ簡潔にわかりやすく話したが、彼女の表情からして『ふ~ん、でも私と康一君とは関係のない話ね』とか考えていそうだなぁ。
「失礼ね、康一君ならきっと自分に直接関係なくても協力をするわ」
「え……口に出てました?」
「わかりやすいのよ、表情が……あたしだって、この町に愛着くらいあるわ」
頬杖をついた由花子さんからの呆れた視線に顔が引きつる。
私がケッコウわかりやすいタイプなだけじゃあなくて、あなたが鋭いんじゃあないかな……。
「けど、手掛かりすらないんだから『謎のスタンド使い』も『石仮面の持ち主』も正体を探りようがないわね」
彼女の髪の毛と同化しているスタンド『ラブ・デラックス』の射程は約20m前後、切り離して使うこともできるが髪の毛に視覚や聴覚、探知能力などは備わっていないため、索敵や情報収集には向いていないそうだ。
「それよりも、どうやったらあたしは康一くんに振り向いてもらえるの?」
「あ……それはですねー」
どうしようかな、「最初に思いきり苦手意識を持たれてしまっているから、まず『知り合い』から『友達』に格上げしてもらうところから」とか言ったらひっ叩かれそうなんだよなあ~。
今日はまだ放課後に、呪霊を倒しに行ってないから早く終わらせたいんだけれど、どう伝えれば平和的にこの場を乗り切れるだろうか……。
言葉に迷っていると、だんだん由花子さんの眉間にしわが寄りはじめる。
「なによ、何も考えていないなんて言わせないわよ。言いづらいことであろうと、この際受けとめるからはっきり言ってちょうだい!」
テーブルから身を乗り出して迫る彼女の圧に押されて、背もたれに体をぴっしりつけて体をそらしながら唸って考える。
そんな中、ふと隣のテーブルから
座ったのはおそらく女子高生だろうか、黒い髪をショートよりも短いウルフカットに切りそろえて、少しイラついた様子でキョロキョロと周囲を眺めている。
服装はなんだか、『つい先日に、家出をしました』ってカンジの年頃の女の子なら雑に感じる私服のコーディネートで、椅子に男物の暖かそうなコートをかけている。
そして、彼女の周りにはおそらく
「へあっ!?」
「なによ急に変な声だして……なんかそこにいるの?」
私の反応に気づいた由花子さんが私の視線を追うが、何も見えないことから呪術に関連することだろうと、アタリをつけて聞いてくる。
私はそっと頷くと、シャボンを作る銃を握り日常的にするようになった波紋の呼吸をより一層強くはじめた。
少女はイラついていた。
先日、酒と異性に狂った肉親から金稼ぎの道具として黒服の連中に売り飛ばされそうになったから、全員を酒瓶で殴って家を飛び出した。
いままでも何度か家出はしたが今回は近隣の友人に頼るとその友人ごと売られる気がしたので頼る相手は一人しかいなかった。
ギャンブルや風俗と金遣いが荒く、何かヤバい仕事で大金を稼いでくる男だったが、不思議と話は合うし好みも似通っている。
それに、特別
そんな彼に電話をかけて、あれよあれよと関東圏を飛び出したのが昨日深夜のこと。
駅近くのデパートが開いてすぐに、美容院で見た目の印象を変える為にヘアカットをして店を出たら
デパートで言伝を残しているかとも思ったが何もナシ。
駅周辺を歩きまわっても影形もない。
彼と離れて体質が復活したのかつかれてきたし、ついには午後になってしまった。
行き違いになった可能性を捨てきれず、近くのカフェのテラス席に座り込んだ。
「あの……」
視線を向ければ、不安そうな表情の子供。
おもちゃの銃を握りしめてこっちを見ている。
面倒ごとだ。
「……なに? 迷子? 悪いけど私すっごく疲れてるの。ほか頼って」
「いいえ……ちょっとだけ動かないでもらっていいですか?」
身体に虫でもついていたのか。けど、答えるのも億劫で、投げやりに椅子に体を預けた。
それを見て何を思ったのか、子供は深呼吸を一度すると、握っていた銃の引き金を引く。
ぶわわわっ、パアンッ
銃口から飛び出したシャボンがあっという間に私を包んで、次の瞬間はじけとんだ。
「ちょっと!? なに、すん……の?」
明確な変化があったのだろう、戸惑った様子の彼女を置いてすぐテーブルに戻る。
あれだけ大量の呪霊に憑かれていたら誰だって疲れる。私だってそうなる。
呪力で強化したシャボンを波紋で操作して、ほとんどの呪霊は祓ったし、生き残りもしばらくは彼女に近づかないだろう。
席に着くとちょうど頼んだプチシュークリームの盛り合わせが来ていたらしい。
先に紅茶といただいていた由花子さんの表情を見るからにかなりおいしそうだ。
カップを片手に手を伸ばした時、後ろから肩を掴まれた。
「ね、あなた私の彼と知り合いだったりしない?」
「はい?」
振り返れば先ほどの引き寄せ体質の女子高生。
そのまま流れるように持ってきた椅子に座って話しはじめる。
「そ、私の彼。口の端にこんなカンジの傷跡があってさ、ガタイのいい黒髪してるの」
「……知り合いにそんな人はいないですけど」
「そう……さっきはありがとね。あんなことできるの、私は彼しか知らなかったからさ」
その人は呪術師なのだろうか、だが、少なくともそんな人を私は見たことがない。私の答えに、彼女は一瞬残念そうにしたがすぐに切り替えたのか私の手を握ってきた。
「私、
「!……的場矢文です。的あての的に場所の場、
菊美さんは、ニコニコと笑って私の手を何度も振る。
なんだか豆芝みたいな人懐っこさがある人だ。しっている気がする苗字だけど……?
和やかな雰囲気が生まれたが、横から由花子さんの冷たい声が聞こえた。
「ちょっと、あなた。今あたしは彼女と大事な話をしているの。邪魔しないでくださる?」
「……その大事な話って、恋の話じゃあない?」
菊美さんの言葉で空気が凍り付いた。
「一目でわかるわ、あなた恋してる目をしているもの。しかも、1回こっぴどく振られてるんじゃない? 髪まで真っ白になるなんて、相当ショックだったのね」
「……振られてなんかないわよ」
いや、あれは広義的に見れば振られていると思うんだけど……。
私のプチシューを一つ摘まみながら、真顔の由花子さんに言葉を続ける。
「せっかくだし、私にも話してみなさいよ。どうやら恋愛経験的にもこっちが先輩みたいだからね、私と彼の馴れ初めが案外参考になるかもよ?」
「……その彼ってのはどこにいるのよ」
楽しそうな表情のまま固まった菊美さんに由花子さんが追撃をかける。
「あなた、
「そんなわけないでしょ! ……彼は少なくとも女と関係を切るとき、中途半端な対応は絶対しないわ! 私のことはともかく彼を悪く言うのは一線を越えているわよ、あんた!」
「じゃあ勝負、しましょうか。その彼が杜王町にまだいるかどうか」
「やってやるわよ」
「あの、私……用事があるので」
「「あなたは審判やって頂戴、この女が不正しないようにね!」」
「……はい」
売り言葉に買い言葉、あっという間に話が面倒な方向に転がっていく。
一言断って、そっと席を離れようとしたけれど、がっつり腕を掴まれてしまい私はあっという間に会計に向かって引きずられていった。
第4部終了後のストーリーどこから見たいですか? 選ばれなかったのは閑話やら回想やらでたぶん細切れで書きます。
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呪術、高専(玉折前)から
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ジョジョ、第5部から
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第4部と第5部の間のオリジナル
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すっ飛ばして呪術原作1巻から