一時間の間に菊美さんの言う「彼」を探して見つける。
もし、その「彼」が見つからないないし、見つかっても彼女を騙して捨てていくつもりだったなら菊美さんの負け。見つけた後、放置した理由があってそれがまともな理由だったなら、由花子さんの負け。放置したわけではなく、入れ違いになっただけなら勝負ナシ。
負けた際のペナルティは、相手の考えた敗北の宣言。
審判を言いつけられた私は、二人にひとまずそういうルールで勝負を始めてもらった。
菊美さんは最終的に彼氏を見つけられる。由花子さんは菊美さんの「彼」がどんな人物にしろ恋愛の参考になる。
何より
聞き込みを始めてすぐ、姿を消したデパートで職員がまっすぐ外に出ていったところを、さらに目撃情報を集めると、ホテルの方面に向かってからデパートに一度戻り、駅前の公衆電話で電話をかけて誰かと話していたことが分かった。
「きっとグランドホテルの予約を取ろうとしていたのよ、彼お金の使い方に遠慮がないから。確認しに行きましょう!」
「待ちなさい。制限時間は一時間、いちいち現地に行って聞きまわっていたらきりがないわ」
菊美さんは自分の推理を確定させるため早速ホテルへ向かおうとするが、由花子さんがそれに待ったをかける。
そして、私に何枚かの小銭を手渡してきた。
「この子の知り合いが今グランドホテルに滞在しているわ。ホテルのフロントの他にその人にも連絡してもらって確認しましょう。女の恋愛は一生を左右するわ。使えるものは何でもつかうのよ」
「……悔しいけど同意するわ。悪いけど、お願いできる? その間に私たちも聞き込みを続けてみるから」
私が電話をかけてきて、承太郎さんは何か起きたのかと心配してくれたが事情を説明すると「やれやれだぜ」をいただいてしまった。
結局、ホテルの方面では菊美さんの言う「彼」らしき人の目撃情報は得られなかった。
しかし、その間に行われた聞き込みでタクシーの運転手から駅の踏切を超えて西の方面に向かったということがわかったので、最終的に三人で学校側から順にローラー作戦を決行することになった。
……30分後。
「はあ、はあ、もおっ! ホントどこにいんのよあのバカはー!」
「ふう、ふう、残り時間10分、ね。……もうこの先は大きな霊園くらいしか残ってないわ」
日暮れが近づいてきて周囲は段々と薄暗くなっている。
半ばマラソンのような速度ではじめたローラー作戦は、女同士の意地なのか、その速度を次第にヒートアップさせつつ、驚くほどの速度で進められた。
というか、今の今まで波紋もなしに走り続けていたのに、ほんの少し息を切らせている程度とか、この二人の体力どうなってるんだろう。
由花子さんはまあ、スタンド使いは妙に傷の治りが速いみたいだし、スタミナもその範疇なら納得がいくけど、菊美さんは一般人のはずだよね。
道中、何度も呪霊が引き寄せられていたし、もしかしたら彼女は身体能力の底上げの代償に、奴らからおいしく見える天与呪縛でも持っているのかもしれない。
勝負は一見菊美さんが不利に見えるが、目撃情報から考えると一度はデパートに戻ってきている辺り彼女を騙しているとも言えず、入れ違いになったようにも見えるので、実情は勝負ナシに近い。勝敗は後日次第といったところだ。
「個人宅をのぞけば、後はこのレストランだけですね」
「『トラサルディー』ね……もし呑気にメシなんか食ってたら張り倒してやるわ」
「それ、いいわね。ついでにあたしも一発殴らせてもらってもいいかしら」
「全然かまわないけど、あいつの体金属みたいに丈夫だからビンタの方がたぶん痛がるわよ」
残った場所は原作でも登場した、あのレストラン。
聞き込みを続ける道中で、女子というものは無言でいることはほぼ不可能。この1時間ほどすっかりで打ち解けた二人から、物騒な会話が聞こえる。
どちらも強気な性格であったから最初こそギスギスとした雰囲気だったけど、後半になってくるとツッパっている学生に絡まれた時なんか、連携して地面にキスさせていたくらい。
今日が初対面とはとても思えないほどだ。
「なにしてるの矢文。さっさと行くわよ」
「せっかくだし何か軽く食べていきましょう。ここのお代は全部私がだすわ」
「は、は~い!」
店内にはテーブルが2つ。そこに人の姿はない。
扉を開けてそれを確認した直後、菊美さんはガックシとうなだれ、由花子さんは小さくため息を吐いた。
「まあ、そうよね……」
「いらっしゃいマセ、Oh……
「ちょっと人探しをね、夕食に影響が出ないくらいの軽食をいただきたいのですけど」
「わかりました、少々手を拝見しても?」
言われるままに私たちはそれぞれ手の平を差し出すと、店主の男性、トニオさんはひとりひとりじっくりと見つめてほんの少し困った表情をする。
「お嬢様方、それぞれひどく体調が乱れていマスね。アナタは髪を中心に背筋の筋肉がこわばっていまス。アナタは、寝不足が原因で肌が荒れ気味、それに足腰がこっていますネ。そして……アナタ」
由花子さん、菊美さんがそれぞれの不調を言い当てられて戸惑う中、私を静かにトニオさんは見つめた。
彼は人の手の平を見ることで人の体調を把握し、スタンドの力で効能を高めた食材を料理してそれを補い快適な状態に治す。なんだろう……自覚がない大病でも患っているのだろうか。
「アナタは……全身がひどく消耗していマス。寝不足、筋肉痛、関節の疲労、何より肺に多大な負荷を日常的にかけていらっしゃいマスね?」
「あ、あー……」
しまった。最近やっと気にならなくなったけど、深夜の呪霊狩りは明らかに常人の体にかかる疲れから逸脱するものだ。波紋の呼吸で疲れを軽減できるようになってすっかり油断してた。
焦る私にトニオさんは、表情を柔らかいものに変えて言葉を続ける。
「ワタシは普段、お客様の不調に対して詮索しないコトにしていマス、ですが
「あなた……虐待でもうけているの?」
「距離をとることもひとつの手段よ? 私は逃げ場にはなってあげられないけど、愚痴や相談くらいならいくらでも聞いたげるから」
「アリガトウゴザイマス……」
言いたいことを言い終えたトニオさんがスタスタと厨房に向かうなか、私は両親を疑いはじめた2人の誤解をとくか頭を悩ませることになり、最終的に料理ができるまで、吸血鬼うんぬんの説明を省いた波紋の説明をしたうえで『美容にも役立つ』と話題を誘導し、呼吸の練習に付き合うこととなった。
「うわああああトニオさん、あなた天才なんじゃあない!?」
「舌がとろけるわああ!」
「あたしっ、生まれ変わっちゃうううっ!」
料理を食べて間もなく、私たち3人に大きな変化が起きた。具体的にどんな過程を経たのかはとても男子に見せることも聞かせることもできないので省くけれど、それぞれがとんでもなく洗練された。
由花子さんは真っ白だった髪がおそらく以前よりもより黒くみずみずしくしなやかに、菊美さんも肌がまるで赤ちゃんに戻ったみたいになった、そして私は……
トニオさんによると、私の運動量に耐えられるように料理の栄養を最大限、肉体が利用した結果だそうだけど、なんというかスゴイね、人体!
「皆様、不調はすっかり回復したようで何よりデス」
「ええ、すっかり。……『彼』とははぐれたけれど、こんなにおいしい料理と、何より新しい友人ができたんだから、最高とは言えないけど今日は良い1日だわ」
「いいえ……どうやら最高の1日ってやつみたいよ」
菊美さんが良いことを言って〆ようとした直後、由花子さんがそれを訂正して入り口を見遣る。
チャリーンとドアベルが鳴り、扉が開く。
姿を現したのは、黒髪で体格がよく、口元に傷のある男。そして、肩に芋虫のような呪霊。
私は、この男を知っている! 否! この呪霊と、この顔のキズを知っている!
菊美さんの苗字の時点でなぜ気づくことができなかったのだろう。気づけていればこの不自然な臨戦態勢を彼に悟られることもなかったろうに。
目が、合う。
間違いなく生命体としての格が違う。
こちらを見る目は完全に羽虫を見るような冷たい視線だ。
「ちょっと! どこ行ってたのよ甚爾! 私たちがどれだけ探したと思ってるわけ!?」
つかつかと距離を詰めたベシンッと菊美さんの平手が彼の顔面に直撃した。
知らず張りつめていた空気が霧散する。
「いてえな……悪かったよ。買っておいた別荘が廃屋になってたもんでな、他を借りる金を作ってたんだ」
「はあ~~? 買ったの今年って言ってなかった!? 何があったら壊れんのよ!」
「さてな、
ぐずる菊美さんを腕に抱きこみあやしながら、視線は由花子さんに向いている。
この人、多分わかって言ってるわ……恐ろしい。
対して由花子さんは素知らぬ顔。
ウソでしょ、全く悪びれもしないよこの人。
「俺の女が世話になったようで……店主、代金は俺が出す。いくらだ?」
「今回は軽食でしたからネ、3人で1万円にサービスしておきマス。ぜひ今度はお2人そろってご来店くだサイ」
「おう」
「由花子、矢文ちゃん、今日はありがとうね付き合わせちゃって、落ち着いたらまた会いましょ、きっとよ!」
「ええ……またね」
手早く会計を済ませて店を出ていく物理最強系彼氏さんを追いかけるように、菊美さんは私たちに挨拶をして薄暗くなった町に消えていった。
「私たちも、帰りましょうか」
「はい……」
こうして恋愛がらみの怒涛の放課後は、幕を閉じたのでした。
あれ……結局恋バナできてなくない!?
第4部終了後のストーリーどこから見たいですか? 選ばれなかったのは閑話やら回想やらでたぶん細切れで書きます。
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呪術、高専(玉折前)から
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ジョジョ、第5部から
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第4部と第5部の間のオリジナル
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すっ飛ばして呪術原作1巻から