「よお、またあったな」
再会は日課の呪霊狩りでのことだった。
修業の成果か、昨年は避けていた4級へ完全に
「雑魚の数が少ないとは思ったが……ボランティアでパトロールか」
おかげで昼間は隣町まで走るハメになった。
そんな風にぼやく彼は、ポケットに手を入れたまま私を見下ろしている。
「伏黒おねえさんの彼氏さんですよね……? こんな真夜中にお散歩ですか?」
「しらばっくれやがって、仕事だよ。お前のせいでこの町にはひとつしか無かったがな」
「……私、4級が祓えるようになったばかりですよ? そんなことあります?」
呪霊に最初から強い個体は実はそう多くない。大半は滞留した呪力から蠅頭として生まれ、呪力が多く集まる場を巡りながら自らの力を高めていくのだ。
つまり、私が日々雑魚呪霊を祓うことは自然と、杜王町に強い呪霊が現れることを予防しているということになる。
けれど、ひとつだけ? 少なくとも私は昨年おそらく3級以上の呪霊を何度かこの町で目視している。当然、実力が足りないからその場は逃げてやり過ごすしかなかった。
幸い、呪術師が祓ったのか、どれも数日後には見かけなくなったけれど。
この町で発生した個体でなくても隣町の仙台から等級の高い呪霊はやってくる。正規の呪術師がいる分で裏社会から回ってくる依頼が少なかったとしても、ひとつだけということはありえないと思うんだけど。
「ああ、つまりこのひとつだけの依頼が
「!!」
「わかったら来な……見稽古、つけてやるよ」
驚く私を無視して、歩き出す。
彼はきっと今、気分で行動している。いつでもかもしれないけど。
ひとまず私は、この町に潜むその規格外を頭の隅に追いやり、彼を追いかけながら名前を名乗った。
「私っ、的場矢文です! お名前、聞いてもいいですか!?」
「
先行する甚爾さんに連れられてきたのは、杜王町の駅前の市街地だ。
東側のこのエリアは結構前に再開発を受けていて、呪霊が好む古びた建物は比較的少ない。
とても等級の高い呪霊がいるとは思えないけれど……。
「ここだな」
「コンビニですか?」
彼が立ち止まったのはオーソンの前。ここは昼間、お母さんが働いているコンビニだ。
私も何度も来ているけれど、低級の呪霊を見かけることはあれど強い呪霊の気配はかけらも感じたことは無い。
困惑する私にかまわず、彼は薬屋側にあるコンビニの壁に右腕をスッと伸ばすと、そのままズルズル飲み込まれていく。
「入り口を擬装してやがるな、行くぞ」
「は、はい!」
躊躇なく入っていく甚爾さんについていくと、中は住宅街になっていた。
しかし、そこに人の気配はない。
道路に気配がないのは夜なのだから当たり前だ。しかし、駅前のこの立地で周囲全ての建物に人の気配がないのは異常でしかない。
けれど、目を凝らして見てみても
「……ここ変です。何もなさすぎます」
「マナーが良いんだろうよ、皿から舐め取るくらいにな」
そう言って甚爾さんはいつの間にか取り出していたトンファーを両腕に下げてゆっくりと道を進んでいく。
入って最初の道をポストのある右側に、次はそのまま道なりに左へ、壊れた自動販売機のある道を右へ……。
「こりゃあ、不完全だが領域だな。空間がループしていやがる」
「……領域」
再び現れた
どうしてかこの道を、どこかで見聞きしたような気がするのだ。
歩きながらお互いに思考に耽って数秒。背後に突然呪力が発生した。
「せいっ!……うわあ」
発生場所のポストの影へ私は蹴りを叩きこむが、むにゅっとした感触と独特なニオイですぐに後悔した。
「うわ……きったね」
「うっさいです! 呪霊かとおもったんですう~!」
私の惨状に甚爾さんが引いたリアクションをするが、思い切り表情は笑っている。
もう、どうしてこんなところに突然
靴底を一生懸命地面に擦り付けている私を見てさらに甚爾さんは笑うが、すぐに表情を戻して背後に顔を向ける。
そこに居たのは、呪霊ではなかった。だが人でもなかった。
強いていうならば、複数の呪力が複雑に絡みながら無理やり人の形をとっているように見えた。
その足元には、同じく呪力が渦巻いた大型犬のような塊。
「呪胎か。この様子なら、あと半年もあれば孵るか」
「そん、な……」
私は思わず呆然とした声をあげる。だが、彼の見解に呆然としたのではない。目の前の呪胎の正体に見当がついてしまったからだ。
この道は、
「わざわざ目の前に出てきたカモだ。片づけるぞ、見てろよ」
「ま、待ってください! その人たちは、まだ正気です!」
「あ?」
トンファー構えた甚爾さんを大声で制止する。
呪胎は私に一見無防備に振り向いてみせた甚爾さんに無反応。
考えろ、私っ! 彼に彼女たちがまだこの世に留まる理由を伝える方法を!
なぜ呪術師の私には彼女たちが呪力の塊に見えるのか!?
本当に彼女たちは正気のままなのか。
確かめる為私は、ポケットから取り出した
この目薬が、『見たいものを見えるようにする』なら!相手の魂をヴィジョンとして見ることもできるはず!
濃密な呪力の中にたたずむ少女と犬の姿。輪郭だけだったそれらがはっきりと
同時に呪力の流れがはっきりと、小道中に一人と一匹の呪力が張られているのが
呪力を感じ取れないのは、その小道が
きっと杜王町に等級の高い呪霊が現れてもすぐにいなくなるのは、この道に喰われているからなんだ!
私はすぐに
作り出すのはノートと鉛筆。それをすぐに彼女にさし出した。
「申し訳ないけれど私たちはきっと、あなたの声を聴きとれない。だから筆談で、話を聞かせてください」
『……』
カリ、カリ、とノートに鉛筆がこすれる音が数分響き、彼女の身元が、ここに至る経緯が書き込まれる。
内容は原作と変わらず、自身と小道の認識も『この小道から離れられない』ということだけだった。
きっと死後、無意識で鈴美さん、もしくはアーノルドは領域を展開し、術式を使い続けているのだろう。
『自身の死』そのものが一種の縛りとして機能しているのだ。
パタリ、ひととおりの『事情』が書き込まれたノートを閉じた甚爾さんは、再び武器を構えた。
「関係ねえな」
「なっ」
「こいつらが呪いに呑まれるまでにその殺人鬼を探して殺す義理はねえ。殺したところでこいつらの呪力が散る保証もねえ。何より、金にならねえ」
元々彼は高額となる呪霊討伐の依頼をこなすつもりでここに来ているのだ。最優先の物差しが『金になるか』ということになるのは自明だ。
「……お金があればこの人たちを見逃してくれるんですか」
「あ? ……そうだな、1億くらいあれば見逃してもいいかもな」
「言いましたね?」
明らかに吹っ掛けてきた甚爾さんの目の前で術式を再び発動する。
今度は両腕を水平に構えたブチャラティのポーズをとる。
構築するのは『ポルポの隠し財産の黄金と宝飾品』!
傷がつかないようにミスタがランチで使用していた白い布を先に構築するのも忘れない。
「16億くらいあると思います。
「……おう」
呆然とする甚爾さんの後ろに、鈴美さんのドン引きした表情がはっきりと見えた。
第4部終了後のストーリーどこから見たいですか? 選ばれなかったのは閑話やら回想やらでたぶん細切れで書きます。
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呪術、高専(玉折前)から
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ジョジョ、第5部から
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第4部と第5部の間のオリジナル
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すっ飛ばして呪術原作1巻から