ジョ術廻戦   作:春の綿雪

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 お待たせしました。




扉の先

 

 談話室のテーブルの上。

 

 本になった矢文ちゃんが背中を痛めないように、承太郎さんが敷いたコートへ横たえて、露伴先生が表紙に指をかけるのを僕は横から見ていた。

 

 短い付き合いではあるけれど、矢文ちゃんは真面目で、努力家で誰かが困っているのを放っておけない健気な女の子だと思う。

 

 先生の言う疑念も理解できないわけじゃあないけど、こんな小さな女の子を疑うのはなんだかチョッピリ心が痛むなぁ。

 

「基本的に、僕の『ヘブンズ・ドアー』の能力で本になったものの最初のページは、本人のプロフィールが記されている。 その後は日常的な生活習慣や趣味、そして直近の記憶、過去の記憶と続く……開くぞ」

 

 ぱら……紙がめくれる乾いた音がする。

 

 

「……えっ?」

 

 

 開かれた矢文ちゃんの記憶を一目見て、僕は、いいや仗助くんも、花京院さんや承太郎さんまでもが驚きを隠すことができなかった。

 

 1ページ目に書き込まれていた内容はさっき露伴先生が言った通り、彼女のプロフィールがつまびらかに書き込まれている。 項目ごとに花柄の縁取りがされているあたり年頃の女の子ってカンジ。 内容もただただフツーの幼少期の思い出だ。

 

 驚かされたのはそんなことではなく、そのすべてのページが黒く、それこそ明かりの届かない廃墟の奥に居座る暗闇を彷彿とさせるほどに暗黒だったからだ。

 

 不気味を通り越して奇妙さを感じるページのすべてが、白い文字で、書きこまれている。

 

 

「……僕の『ヘブンズ・ドアー』で真っ黒いページが出たのは、野良犬の死骸から死に際の記憶を読もうとした時だけだ。 つまり、彼女は()()()()()ってコトか?」

 

「はあ、何言ってんだぁ!? 矢文ちゃんは生きてるだろうが!!」

 

「うるさいぞバカ、あくまで可能性のひとつだ。 静かにしていろ」

 

「けど、死んでいるなら鈴美さんみたいに生前の記憶があらわれるんじゃあないんですか……?」

 

「死体ならページが黒くなって記憶を読むことができないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ。 だってのにこうして情報が書き込まれているんだよ康一くん。明らかに異常ではあるんだ」

 

 

 ページをめくりながらそういう先生の言葉が僕の頭の中でぐるぐると回る。

 

 黒いページは死んでいる証。それなのに彼女の記憶は書き込まれて続いている。

 

 死んでいるのに、生きている。

 

 連想する。

 

 なんだかそれは、まるで花京院さんと彼女自身が戦い倒して見せた……。

 

 屍人(ゾンビ)のようじゃあないか。

 

 

「そら、康一くん。呆けていないでここを見てみてくれよ。 新しい異常がでてきたぜ」

 

 

 恐ろしい想像が首をもたげたものの、口に出すことができないまま矢文ちゃんの記憶の検分が続いていく。

 

 日付は去年のゴールデンウィーク直前。

 

よっぽどショックな出来事が起きたのか、今まで黒地だったページが白い色の激流で泡立ったようにぐちゃぐちゃに渦巻いてしまっている。

 

 

「日付はちょうど一年前、彼女が呪霊の存在を認知した時期と一致している。 ……少なくとも彼女に()()()()()()()()()()()ということは間違いなさそうだ」

 

「……その出来事というのは、すでに今までのページに出ていたようだな。 ココを見ろ」

 

 

 承太郎さんの言葉に従ってよくよくその混沌としたページの泡や激流の境界線を観察する。

 

 

「なんだ……? よく見て観るとなんだかこの、ざらついた形は……」

 

「コレよぉ……『字』じゃあねえか? ホラ、ひらがなの」

 

「ああーっ! ホ、ほんとだ……!! 『ん』と『け』が重なっている!!」

 

「いままでのページの黒色がすべて文字だったのか……!?」

 

 

 ページを戻してみれば、プロフィールや、罫線、枠に至るまで、黒く染まったページに書き込まれた白い文字だと思っていたそれらすべてが、埋め尽くされた文字の間に生まれた『余白』だったということがわかる。

 

 隙間なく詰め込まれた文字はきっと、僕の最近になって急に厚みがでてきた人生の記憶を同じように敷き詰めたとしても、9年分ものヒトの記憶をこんなふうに黒く塗りつぶすことなんて、きっと無理だ。

 

 

「東方仗助、この()()を一つずつ浮かせてこっちの紙に出せないか?」

 

「イヤ、できねえし、仮にできたとしてもどんな順番で書き込まれているのかまではわからねえっスから、文章にもならないと思うっスよ……」

 

「なんだ、使えんヤツだな」

 

「テメ、この……!!」

 

「後にしろ仗助。 少なくとも彼女が()()()()()()()を、この時知ったということは確かだ。 ……次のページに進めてくれ」

 

 

 苛立つ仗助くんを諫め承太郎さんが仕切りなおす。

 

 混沌としたページが数日分続いた後、先生の能力で通常みられる白地のページにかわり、一言。

 

 

 

『こんな世界に生まれたくなかった』

 

 

 

「オイオイオイオイオイオイ……ページがまともになった途端にコレか。 ()()()()()()()()()のかはわからないが、人生に絶望するにはずいぶん早すぎるんじゃあないのか?」

 

「なあ露伴センセイ、早いとこ次のページにしてくれ!」

 

 億泰君から急かされてめくられたページは、打って変わって乱雑な文字が大量に踊っていて、焦燥が見てとれた。

 

 

『すぐにでもこの町から逃げ出したい』

 

『何ならこの国にいたくない。 できるだけはやく出ていきたい』

 

『けど今は我慢しないと、私に彼らの力は見えないんだから、できるだけひっそり、目立たず……来年8月まで』

 

 

「思考がそのまま文章になっているから、理由がわからないね……」

 

「どうして海外に行きてえなんてなっちまうんだ? 暮らしやすいだろぉ、杜王町」

 

「『来年8月』つまり今年の8月なわけだが……確かに今年にはいってから俺たち、スタンド使いに遭遇してばっかだしなぁ……」

 

 

 億泰君、仗助君の言うとおりだった。

 

 杜王町は、再開発が進んでいて近隣の町の中では都心に負けないほど過ごしやすいという人もいるほどに発展していて、『逃げ出したい』と思うなんて普通じゃない。

 

 けれど、仗助くんが承太郎さんと出会ったその日から今現在に至るまでの間に、僕たち全員がスタンド使いと出会わない日が1週間以上続いたことはほとんどなかったように思う。

 

 

「……スタンド能力かはわからないが、黒いページの内容はやはり()()に関する情報である可能性が高そうだね」

 

「予知……か、ずいぶん昔、波紋を極めた高僧ならば他者の未来をも見通すことができたというがのう」

 

「少なくとも呪霊やスタンドへの知識はこの時点で頭に入っているようだな」

 

「え……?」

 

 

 花京院さん、ジョースターさん、承太郎さんの言葉を僕は、10秒ほどの時間をかけてようやく飲み込んだ。

 

 未来の知識。 しかもきっと、彼女がまったく望んでいないような内容が、そんなものが突然頭に入ってきたら……けど、『生まれたくなかった』とまで思ってしまうなんて……彼女はいったい何を知ってしまったのだろう?

 

第4部終了後のストーリーどこから見たいですか? 選ばれなかったのは閑話やら回想やらでたぶん細切れで書きます。

  • 呪術、高専(玉折前)から
  • ジョジョ、第5部から
  • 第4部と第5部の間のオリジナル
  • すっ飛ばして呪術原作1巻から
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