さて、今回は主人公の初戦闘です。
「確認するが、矢文ちゃん、本当に見えていないんっスね?」
「見えていませんよ? ペンが空中に浮いているようにしか」
「グレート……マジで霊能力者ってやつなのか」
目の前で浮遊するペンを目で追いながら返事をする。
『呪術廻戦』の世界が混ざったこの世界で、術式を持っていたとしてもスタンドは認識できなかった。
対して彼らも先ほど祓ってみせた呪霊を全く認識できていなかった。
やはり、そこはそれぞれの世界観が適応されているらしい。
現在私たちは路線バスに乗って億泰さんの家に向かっている。
その合間にお互いの奇妙な常識のすり合わせを行っているのだ。
「その、スタンド? というのは霊能力とはまた別ものなんですね。 私も実演してもらえなければ信じられませんでした」
「それはこっちのセリフっスよ。 あれから肩が軽くなったから信じるが」
スタンドの存在を知らないテイで話す私に、仗助さんは蠅頭が乗っていた方の肩を回して神妙な表情をする。
「……本当によぉ、俺んちにその、オバケってのはいるのか?」
「間違いなくいます。 億泰さんにはっきり心霊スポットから帰ってきた人と同じオーラが見えますから」
独学と言った手前(原作知識はあるが指導は受けていないので事実)、正式な名称を使うことはできないので、呪霊を『オバケ』、残穢を『オーラ』と言い換えて会話をする。
初対面から比較して三段くらいテンションの落ちた億泰さんは、しょんぼりと呟いた。
「あの家には引っ越したばっかだけどよぉ、ちゃんと不動産屋には兄貴が前の家主のことも確認したんだ。 曰くもなんともないただの引っ越しだったよ。 荒れてはいるけどよぉオバケが出るような家じゃあねえと思うんだけどなあ」
虹村家の家は、ひび割れてはがれた壁にところどころ苔が生え、窓の各所に板が打ち付けられた文字通りあばら家だった。
前世で原作を読んだ時も思ったがなぜか周囲に薄い霧ができているようにも思える洋館は、とても人が居住できるような建物には見えない。
「……何を見て、オバケが出るような家じゃあないですって?」
「いやあ、住んでみるとけっこう居心地イイんだぜぇ……へへ」
「さすがに無理があるぜ、億泰」
言い訳を述べる億泰さんへ振り返り、詰め寄る。
「いいですか、『家が荒れている』それだけでオバケにとって最高の住処になります。 彼らのエサは『人間のストレス』! 不安も怒りも、悲しみも、全部彼らの成長材料になります! 荒れた家は周囲の人間が自然に負の感情を向けてしまうシンボルになるんです。 ……不謹慎になるけれど、あなたのご家族が亡くなったことで、よりそういった悪いオーラが集まってあの家に集まっていたオバケが一息に育ったんでしょう」
私は着ているワンピースの裾を4方向に裂いて、2つずつ筒状に繋ぎ即席のズボンのような形に整える。
裂けすぎてワンピースの中が丸見えになったけど、今日はスパッツを履いているのでまだ、前衛的なファッションで済んでいる。
「お、おい」
「いいですか…… 30分! もしそれ以上経っても、私が戻ってくることがなかったら絶対に中に入っちゃあいけません! そのままこの家を捨てて、どこかへ引っ越して!」
言いたいことを一方的に述べた後、戸惑う億泰さんたちを振り切って、ほぼ廃墟と言っていい億泰さんの家に入っていく。
正直、中には何級の呪霊が何匹いるのか全く分からない。
二週間という短期間に同じ通りの住人が二人も死んでいる。
片方は町の住人に愛された交番の警察官。もう片方は引っ越してきたばかりとはいえ、電柱に引っかかった変死体。
物々しい洋館というロケーションも相まって、短期間に相当な成長を遂げたのだろう。
四級との一対一ならきっと何とかなる、けれどそれ以上は未知数だ。
馬鹿なことをしていると思う。だけれど、相手はスタンド使いではない。
それならば、彼らが乗るべき土俵ではなく
この一年、術式も波紋もできる限りの修練を積んだ。
呪力を武器にのせるのも、激しく動きながら波紋を維持するのも十分は余裕でできるようになっている。
方針は見敵必殺! 見つけ次第波紋で強化した身体能力を駆使して呪力を込めた武器を叩きこむ!
身をかがめて両腕を構え、1階の1部屋1部屋を確認し、呪霊の姿がないこと確認する。
ギシ……リッ
……上方向で音。 2階だろうか、階段へ向かう。
踊り場近くから、残穢が点々と2階の一室へ続いている。
わかりやすく誘い出されている。だが、私に遠距離で行える攻撃はない。
だから、ノってやる!
波紋の呼吸を強く意識し、シュトロハイム宜しく5段飛ばしで階段を駆け上がる。
そして、そのままの勢いで部屋に飛び込んだ。
「げきょあ?」
部屋の出入り口に潜むようにしていた猿とネズミが混ざったような姿の呪霊は、階段の音で判断していたのだろうか、想定していたタイミングと異なる私の突入をそのまま見送り、不思議そうな声を上げる。
私はそれに構わず、構築した『S.P.Q.Rの字入りスコップ』を床に突き刺し、それを支点にしてぐるりと回転し、跳び蹴りを食らわせる。
「うらあ!」
そのままマウントを取りスコップを何度も何度も、動かなくなるまで突き刺す。
呪霊の上半身にあたる部分が複数のパーツに分かれた頃にようやく、私は手を止めて一歩二歩と後ろに下がる。
この呪霊はおそらく四級かそれ以下のなりそこない。
しかし、不意打ち以外での正真正銘の戦闘で初めて討伐した呪霊だ。
「やった…… 私やれたんだ。 やった! やっ――」
ぎゅちりっ
「ぎゅっ、ぇあ!?」
突然、首が強く締め付けられ体が浮き上がる。
ガランっ、とスコップが床に転がり、体が左右に揺れる。
視線を天井にやれば人面のヤモリのような呪霊が舌を私に巻き付けていた。
やられたっ、死角からの攻撃。しかも理解していたのかはわからないが、首を絞められているせいで波紋を練ることができない!
呪力で身体を強化して抵抗するが、現状吊り上げられたこの状況を逆転する手段が思いつかない。
意識が薄れて段々と力が抜けていく、このまま死ぬのかな。
……ああ、意識が薄れてきたからか、億泰さんが睨んでるのが見える。
申し訳ないことしちゃったなぁ、ホントの事故物件になっちゃうや。
「その子を離しやがれえ! ダボがああ!」
ガオンッ! ガオンッ! ガオオンッ!
「おい、しっかりしろ!」
ガッシリと抱き留められる感覚の直後、薄れていた意識が急浮上する。
視線の先には、不自然に体がズタズタになった呪霊が