お気に入り登録130突破ありがとうございます。
どんどん大きくなる反響に驚いてます。
2023/02/12
一部、気になった箇所があったので改稿しました。
展開としてはほぼ変わりがないので読み飛ばしていただいてもかまいません。
「……え?」
驚くべきことがおきている。 億泰さんの目の前でズタボロになった呪霊が掴みあげられて藻掻いているのだ。
おそらく彼のスタンド『ザ・ハンド』の仕業だが、だからこそおかしい出来事。
『ザ・ハンド』はスタンドなのだ。本体の億泰さんも呪術師ではない。呪霊にダメージを与えるためには呪力が必要なのに! そもそも見えていないはずなのに、なぜ掴みあげているの!?
「億泰さん!? なんで、それ、見えているんですか!?」
「い~や、ちっとも見えねえ。けどよ、お前が吊り上げられてたからよぉ、どこにいるのかすぐわかったぜ!」
いやそんな、吊り上げられていたからって、相手がどんな形しているかまではわからないでしょうに……
「矢文ちゃんあきらめな、まだ付き合い短いけどよ。億泰はそういう直感で動くとこ、けっこーあるぜ」
呆然とする私に仗助さんが遠い目で言った。まだ一週間足らずで一体どんな体験をすればそういう認識になるの?
ここまでで約1分。4級といえどもそれくらいの時間があれば最低限動けるまでには回復する。推定『ザ・ハンド』の手を長い舌で弾き、部屋の奥へ飛び移る。
「おおっ! ヌルっとして消えた!」
スタンドから呪霊の感触を感じなくなったのだろう。気持ち悪そうに手の平を振り回し、ハンカチで何度もぬぐっている億泰さんに私は、急いで告げる。
「億泰さん、伏せて!」
「うおお!?」
億泰さんが慌てて伏せた直後、その背後の壁が一部砕ける。
舌での攻撃だ。体を完全に回復するための時間を稼ぐ気らしい。
「そうは、させない!」
私は、仗助さんの腕から飛び出し、Dioのポーズ(ナイフ投げ時)をとり目の前に鉄球が装填された小さいクロスボウを構築する。
「な、なんだぁ!?」
「奇妙な姿勢をしたと思ったら……クロスボウが!?」
「超能力ってヤツです! オバケが見えはじめてから、できるようになりました!」
驚く二人に簡単な説明をしつつ、呪霊に狙いを定め、引き金を引く。
飛び出す鉄球を避けようとする呪霊、しかし、そこで億泰さんが再び動く。
「いくぜぇ、鉄球が飛ぶ先の空間を削り取るっ!」
ガオン!
空間が急速に閉じて呪霊が引き寄せられ、鉄球が急加速する!
「ぐえっ」
ガツンッ、と鉄球が頭にヒットした呪霊は短い断末魔をあげて、そのまま消え去った。
ヤモリのような呪霊が消えた後、改めて家を見て回り、問題がないことが分かったところで、私は億泰さんに尋ねた。
「……どうして入ってきたんですか? 見えないのに……一方的に攻撃を受けたら、大怪我なんかじゃあすまないかもしれないのに……どうして?」
「ここは俺んちだしよ……それにお前、戻ってこなかったら引っ越せって言ったよな、つまりよぉ、どうにもならない相手と出くわして死ぬかもって意味じゃあねぇか」
顔を上げると、いつの間にか目の前でしゃがみこんだ、真剣な表情の億泰さんと視線が合う。
「今日あったばかりの女の子によお、そんなことを言わせてそのまま見送ったら、兄貴はきっと怒る。 『ぼさっとしてんじゃねえ億泰、すぐに追いかけろ』ってよ?」
大きな右手で撫でられる。ちょっと乱暴だけれど、暖かくてとても優しい手つきだった。
涙で視界がにじむ。
前世の記憶を思い出してから今日まで、必死に取り繕って強い自分を演じてきた。
記憶にある知識は、すべてが他人事、
わかっていたのは、この世界で自分に待つ未来が明るいものではないこと。
抗うために努力をした。
けれど、結局のところ私は
今まで折れなかったのは、前世で焦がれて引きつけられた人々と同じ世界に生きているという喜びと自負からだった。
「う、うぅ~」
「な、なんで泣いてんだぁ~!?」
億泰さんに慰められて、一緒に部屋の外に出ると、入った時とは全く様子が違っていた。
「おっ! 億泰、矢文、ちょうどよかったぜ! あらかた直し終わったところでよ、その部屋で最後なんだ」
仗助さんは私が泣いている間に呪霊の発生源となったあばら家の中をスタンドで治して回っていたらしい。
……気を使わせてしまっている! どうしよう、穴があったら入りたい。
「……大口叩いたのに、結局助けてもらってすいませんでした」
「いや、気にすんなってそんなこと」
「そうだぜぇ、それに矢文がいなけりゃあ、俺はずっと仗助ん家に泊まることになってたかも知んねぇしよ」
うう、二人のやさしさが痛い。 いつか挽回しないと……。
私は掴んでいた億泰さんの裾をはなして、電話番号と住所をメモして二人に手渡す。
窓の外は日が傾いて、町がオレンジ色に染まりはじめていた。
「これ、私の家の連絡先です。もし、またどこかでオバケの仕業を疑う現象に出くわしたら、よかったら連絡してください。きっと力になりますから!」
「お、いいのかぁ!? 助かるぜ、またよろしくな!」
「それじゃあ、私は帰ります。そろそろお母さんが心配するだろうから」
「ちょっと待ちな、その恰好じゃあ怒られちまうだろ」
仗助さんが手をかざすと引き裂いたワンピースがあっという間に元に戻っていく。
しかも、裂いた箇所が花のような織り込みにアレンジまでされている。
「わあっ……ありがとうございます!」
「気を付けて帰んなよ」
家に帰りついて数時間後。……私は布団の上で悶えていた。
「恥ずかしいどころじゃあないよおおおお……女の子にされちゃったあああ」
前世が男だったとしても記憶を得たのは一年前、9年女の子として過ごしてきて、急に男の記憶をねじ込まれたところで性の自認は今世の性別だ。
問題なのは、前世の記憶のせいで客観的な自分の様子を想像してしまうことで、恥ずかしさが尋常ではなくなっているのだ。
「うう~、今度どんな顔して二人に会えばいいのよ……」
あんな対応をされたら、少女は簡単に恋に落ちちゃうんだからねっ、わかってんの!?
セリフもタイミングもあまりにも良すぎるんだけど!
結局、なんで彼のスタンドが呪霊に干渉できていたのか聞きそびれちゃったし。もし、誰のスタンドでも呪霊に攻撃ができるのなら、どうにかして眼鏡の呪具を量産すれば彼らも呪霊から自衛ができるようになるはずだ。
……そしたら、会えなくなっちゃうなぁ。
「……いやっ! 乙女かっ!? いいことじゃん! 私の危険もその分離れていくんだからさぁ!」
……もう寝る。明日の私に任せよう。
「てなことがあったんスよ、承太郎さん。スタンドだけでもびっくりなのにオバケもいるなんてグレートにビックリしました」
「そうか…………仗助、その矢文という少女を来週末呼び出してくれ。そのオバケの専門家に心当たりがある」
「え!? 承太郎さん、霊能力者の知り合いもいるんスか!?」
「ああ、俺がスタンドに目覚めた時から付き合いのある古い友人の一人だ」
「もしもし、ああ、俺だ。……呪術師の卵を俺の親戚が見つけた。どうやら独学で呪霊を祓っているらしい」
「このままではその子の命にかかわる。週末に仙台まで来てくれ」
「杜王グランドホテルで待っているぞ、夜蛾」