ミホーク様は異世界でゆったり農業ライフを満喫したい   作:灰音穂乃香

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第三話『鷹の目、農業の為冒険者となる』

シロップはトットット国とシケナシ国の間に広がるシケアル森林に隣接する宿場町である。

現在、街は蜂の巣をつついたような大騒ぎに見舞われていた。

それも仕方ないことと言える。

一時間ほど前に村を立った商人と冒険者パーティー《千枚舌》が魔物の《大暴走》に遭遇したのだ。

 転移オーブで帰還した《千枚舌》の報告は冒険者ギルドを通じて領主のミョスガルトに伝えられ直ぐ様、上級冒険者と騎士団により討伐隊が組織された。

 依頼を放ったらかして逃げてきたのは褒められた事では無いが彼らの報告により迅速的に討伐隊を編成することが出来たのだ。

『私が彼らの立ち場なら同じような事をしただろう。

《千枚舌》の報告にはサイクロプスやミノタウロスのような大型の魔物を含む200体以上の魔物の群れあったことから《旅団》クラスか…』

 

討伐隊を指揮する女騎士-レベッカは騎士団長のから聞かされた言葉を反芻する。

 《大暴走》には魔物の数やそこに含まれる魔物のランク(脅威度や強さの指標、SからDランクまで存在する)により旅団、師団、軍団、大軍勢の四段階に分割される。

 旅団規模の《大暴走》は年に数度起きる小規模なものではあるが一般人や下位の冒険者からすれば脅威であることは変わりない。

 レベッカは行軍スピードを上げつつ何か違和感のようなものを感じていた。

 

『おかしい…』

 

その違和感がはっきりと形を成したのはシロップの街を出立して三十分が経過しようとしたところだ。

 魔物の姿が全く見当たらないからだ。

基本的に《大暴走》は大型の魔物の移動スピードに合わせて進行するためその侵攻スピードはかなりゆっくりとしたものだ。

 だが、それでも斥候や伏兵すら見当たらないのはおかしすぎる。

 元来、魔物の知能は低いとされているが《大暴走》の時に限って正規軍のように統率の取れた動きをするのだ。

 

『これは一体…』

 

疑問が尽きないレベッカだが斥候に出ていた冒険者の報告が更に彼女の脳を混乱させる。

 

その報告によればここから十五分程移動した場所で片刃の十字大剣を持った大男が魔物達を蹂躙しているのだと言う。

 だが、斥候の次の言葉にレベッカの混乱した頭は直ぐ様冷静な状態に引き戻される。

 

 「魔物の中に《骸骨魔道士-ワイトキャスター-》の姿を数体確認!!!」

 

骸骨魔道士は極大炎弾や極大雷撃等めて高威力な攻撃魔法や死者を操る死霊魔術、即死などの状態異常等の多種類の魔法を使うモンスターである。

単体の強さこそ詠唱中に討伐可能な為そこまでで脅威ではないが、《大暴走》等の他のモンスターと一緒に現れるとその脅威度は一気に跳ね上がる。

 《旅団》クラスであっても《骸骨魔道士》を放置していたが為に街一つ壊滅させられたという事も過去にはあったと聞く。

 

「《縮地》と《二重詠唱》のスキルが使える者は攻撃魔法を詠唱しながら私に続け!!!」

 

叫ぶと共にレベッカは走り出す。

スキルとは技能や技の事で《縮地》は高速移動、《二重詠唱》は二つの魔法を同時に行使を可能とするものだ。

 また、魔術の詠唱中は動くことが出来ないのだが《二重詠唱》を使うことで詠唱しながら移動することも可能だ。

 

そのまま走ること数分、レベッカ達は魔物と交戦する巨漢の男を発見する。

 まるで剣舞を見ているかの如く、流麗な太刀筋にレベッカを含めた討伐隊の全員が思わず見入ってしまう。

 僅か数秒、男が十体近い魔物をその剣技で解体する様子に見入っていたレベッカを含む、討伐隊の面々はその膨大な熱波によって直ぐ様、正気を取り戻す。

それは骸骨魔道士の魔法が今当に発動しようとしていることを示していた。

 骸骨魔道士達の頭上に顕現する火球に対して巨漢の剣士は腰だめに十字剣を構える。

 

 『まさか! あれを斬るつもりか!!!』

 

心の中でレベッカは叫ぶ。

 魔法を斬ることが可能かどうかと問われればレベッカは可能と答えるだろう。

 しかしそれはミスリルのような特殊な鉱物で作られた剣か付与魔法(武器や人体に魔法の特性を与える魔法)をかけた剣ぐらいだ。

 だが、付与魔法で魔法を斬ることができるとしても通常の火球や雷撃がいいところだ。

 現在、骸骨魔道士が行使しようとている魔法は恐らく、《獄炎弾-インフェルノ-》。

 火属性の魔法の中でも最上位に位置するものだ。

 ミスリルの剣でも切れるかどうかという代物。

 それでも男はそれを行うつもりなのだろう、黒い刀身が更なる漆黒に包まれる。

 男が何らかの付与魔法を使ったのだ。 

同時に残った魔物が一斉に飛びかかる。

 男が魔物を斬り伏せた僅かな隙に骸骨魔道士が《獄炎弾》を放つつもりだろう。

先ほどの剣技、しかも《旅団》規模の《大暴走》を一人で相手にできるほどの実力者だ。

ひょっとすると…そう思う気持ちと、もし男がこの戦いで死ぬことになったら。

 相反する、思考が脳内に交錯する。

しかし、躊躇は一瞬。

 

「そこの冒険者!! 後ろへ飛びなさい!!!」

 

声を上げるよりも早く男が後方へと跳躍、着地と共に骸骨魔道士を含む、魔物達に詠唱済みの魔法が炸裂したー。

 

 

魔法の群れとの戦いから数十分程が経過し、ミホークはどこかで見たような気のする長鼻の青年と共に騎士団を名乗る者達と共に近くの街へと向かっていた。

 正直、戦闘の間に割って入られたのは気分がいいものではないがそのような事で諍いを起こすのも大人げない。

 舗装された街道を進む馬車であるが、街に近づくにつれ周囲が騒がしくなってくる。

 話によると今から向かっているのは宿場町とのことから騒がしいのも当然と言えるだろうが、それでも騒がしすぎるような気もした。

 その理由は直ぐ様、明らかになる。

民衆による万雷の喝采だ。

 それは誰に対してのものだ?

無論、魔物の脅威から自分達を護ってくれた騎士団や冒険者達に向けたものだ。

それには勿論ミホークも含まれる。

 だが、海賊として活動していた時から恐怖の対象として負の視線しか向けられてこなかったミホークは喝采に対してどう対応すればよいか大きく困惑する。

 

 「旦那、手を振ってあげてください」

 

長鼻の青年-ウンソップの言葉に小さく手を振るミホーク。

 一層大きくる歓声。

 

『これはこれで悪くないかもしれないな…』

 

鳴り止まぬ喝采に小さく笑みを作るミホークであった。

 

 

 

 

 

 

 

凱旋の後、ミホークが案内されたのは冒険者ギルドに一室。

 磨き上げられた大理石張りの床に、値が張りそうな調度品が並べられた部屋にいたのは金属鎧を身に着けた男。

 ミョスガルトを名乗るその男はシロップの街とシケアル森林の一部を領地とする貴族で、今回の魔物の《大暴走》に対応するため、前線で指揮を取っていたらしい。

 貴族が最前線で指揮を取っているという事実からしてミホークからすれば珍しいのにミョスガルトの次の行動に更に目を見張る事になる。

 

 「今回は魔物の脅威から街を護ってくれてありがとうございます。

 謝礼は出来る限りのものを用意させて頂く所存です」

 

言ってミョスガルトは頭を下げたのだ。

 

「頭を上げてくれ、俺は出来る限りの事をしたまでだ」

 

妙にもぞ痒いものを感じてミホークはミョスガルトの頭を上げさせる。

 

「礼と言っては何だが、この世界について教えてくれ」

 

「っと言いますと?」

 

首を傾げるミョスガルトにミホークは自分が死んだ筈が気づいたら、この世界に来ていた事。

 自分が前世で海賊をしていた事などを包み隠さず話た。

 何故かは分からないが眼の前の男には全てを話しても良いような気がした。

 

「なるほど、話から見るにミホーク殿は転生者なのでしょうね」

 

「転生者?」

 

聞き覚えの無い言葉にミホークは尋ねる。

 ミョスガルト曰く、前世で未練を持ったものや不慮の死を遂げた者が稀に、この世界に生まれ変わったりするらしい。

 

『未練か…』

 

この世界の成り立ちや周辺国についてミョスガルトが話しているが頭に入ってこない。

 辛うじて、頭に頭に残せたのミホーク達がいる人間の国トットット王国と魔族の国シケナシ魔王連邦、獣人の国にモフモフ皇国の三国間では数百年前まで戦争が絶えなかったこと。

 しかし、三国の国境を跨ぐように出現したシケナシ森林の出現により、戦争は終結することとなる。

森から現れる数多の魔物。

危険な罠や、強力な魔物、希少な宝物等が眠る《迷宮》-ダンジョンを有するこの森への対応に追われたかだ。

 現在はシケナシ森林は三国で管理することが決まり、《迷宮》が発生した場合は各々の国で冒険者を派遣。

魔物の大群《大暴走》が発生した場合は三国合同で対処するなどの細かい決まり事が作られたのだ。

 

 『ふむ…』

 

ミョスガルトの説明に自分がこの世界に転生してきた理由をなんとなくだが察する。

 それはダンジョンに眠る宝物や強力な魔物などではない。

無論、それらにも興味はあるが、最優先すべきはそれではない。

シケナシ森林、一部を農地として欲しかった。

 色々考えたが、ミホークに未練があるとすれば趣味の農業に時間を割けなかったことぐらいだ。

 前世でも拠点としており、農耕をやっていたシッケアールとシケナシ森林は土壌が非常によく似ていた。

 無論、国有地であることは重々承知している。

だが、しかしこの欲求は止めることは出来なかった。

 

「一つ、尋ねたい」

 

「何でしょう?」

 

 首を傾げるミョスガルトにミホークは続けた。

 

「一坪程で良いのだがシケナシ森林の土地を貰う事は出来ないだろうか?

 いや、国有地であることは承知している。

だが、どうしてもあの土地が欲しいのだ!!」

 

前世を合わせてもここまで声を出したことは無いだろう。

 その大声か、はたまたミホークの望みが意外なものだったのか、ミョスガルトは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、口を開く。

 

「可能かどうかと言われれば可能でしょう」

 

その言葉に思わず身を乗り出そうとするのを留まる。

 

「それには、ミホーク殿が冒険者としてギルドに登録していただき。

 上位までランクを上げてもらってからになりますが、それでよろしければ」

 

ミョスガルトの提案にミホークの答えはイエス以外の何物もなかったー。

 

 

 




灰音です、4日ほど開けてミホーク転生3話目となります。
 暫く、現在執筆中の他作品の方を書くため、更新頻度が落ちることをご了承頂けたら幸いです。

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