ミホーク様は異世界でゆったり農業ライフを満喫したい 作:灰音穂乃香
ミホークがこの世界に来てから半年が経過、これまでに数々の依頼をこなし最上位ランクであるA級冒険者まで残り数個の依頼をこなすまでになっていた(この世界において冒険者のランクは駆け出しのCランクから超ベテランのAランクまで存在しており高難度の依頼を複数こなすことで上昇していくのだ)。
「しかし、ダンナがこの世界に来てからたった半年でAランクに届くかどうかってところまで来てるって本当にスゴイっす」
手綱を握りながら感慨深げにウンソップが言う。
ウンソップにはミホークが転生者であることは伝えてあるのだ。
自分の事のように嬉しそうに話すウンソップにミホークも思わず笑みを漏らす。
だが、それも数秒。
すぐさまその表情が険しいものとなる。
「ダンナ?」
そんなミホークにウンソップが怪訝な表情を浮かべる。
「ウンソップ、馬車を止めろ」
「了解です」
しかしそれもほんの数瞬、直ぐ様ミホークの指示に従い馬車を停車させる。
それが上空に姿を見せたのはそれから直ぐのことだ。
それは10メートルを越える巨体に鋭い牙と爪を持ち。
それは背に蝙蝠のような巨大な翼を、腰からは長い尾を生やし。
それの全身は深紅の鱗に覆われ、口からは小さく火の粉が漏れ溢れていた。
即ちそれはー
「ド、ドラゴンっ!?」
「ほう…」
悲鳴に似たような声を上げるウンソップ。
対して、ミホークは何処か楽しげな表情を浮かべている。
この世界においてはウンソップの反応の方が普通なのだ。
何故ならば龍は魔物の中において最上位の存在でおり、一体だけでも大暴走に相当する脅威であるからだ。
「そう怯えるな、弱きものよ」
龍が口を開き、言葉を発する。
「我は赤龍王、シャンク。
風の噂で大暴走をたった一人で壊滅させた猛者がいると聞いたものでな。
1度手合わせしてみたくなってな…」
「せ、赤龍王ーッッッ!」
驚愕したような声を上げるウンソップ。
「知っているのか? ウンソップ??」
「知っているも何もシケナシ魔王連邦国の現国王ですよ!!」
尋ねるミホークに興奮したように話し出すウンソップ。
「シャンク様は龍人と呼ばれる龍に変身できる種族で内乱が続いていた魔王連邦国を一人で平定された凄腕の冒険者なんですよ!」
「ほぅ…」
ウンソップの口から早口で語られる、シャンクの武勇伝に興味深げに頷く。
「一人で内乱を平定したのは些か誇張が過ぎるがな…」
苦笑するように答えるシャンク。
「我は三度の飯より戦うのが好きでな、強者の噂を聞けば東から西へと何処へでも向かったものだ…」
「為政者としてどうなですかね…それ?」
何処か呆れたように呟くウンソップ。
「少しばかり長話が過ぎたが我と戦ってくれるか? 冒険者よ。
お主が、A級冒険者を目指しているのも知っている。
我を満足させてれればミョスガルトに口利きしてやっても良いぞ?」
「面白そうだな、良いだろう…」
シャンクの言葉に笑みを浮かべながら答えるミホーク。
「この身体で戦うのは少々難儀だからな人型に戻るまで暫し待つがいい…」
言うや否や、深紅の龍は眩い光を放つ。
「うわぁ!」
「つっ…!」
驚いた声を上げるウンソップと目を細めるミホーク。
光は直ぐに収まり、そこには見覚えのある赤毛の男が立っていた。
年齢は40手前、身長は2メートルあるかどうかといったところ。
口元には無精髭を生やし、開いたシャツから覗く胸板は厚い。
左目にある傷がなかったり左腕が健在であるがその姿はミホークの知る男-四皇【赤髪】のシャンクスそのものであった。
『よもやこの世界に来て奴と再びやり合えることになるとはな…』
顔に笑みを浮かべながらミホークはウンソップを下がらせ、背中の愛刀《夜》を構える。
対するシャンクは腰を落とし左の拳は握り、右の拳を貫手の構えを取る。
よく見ればどちらの拳にも鱗が覆っている。
「いざ尋常に」
「参る!!」
どちらからともなくそう言うと二人はぶつかり合ったー。
この時の戦いを間近で見ていたウンソップは語る。
「いやー、あれは生きた心地はしなかった…神話で語られる神々の戦いってこんな感じだったんでしょうね…。
本当に何であれに巻き込まれたのに生きてるんですかね?自分???」
っと。
事実、二人の戦いは凄まじくミホークの斬撃は大地を切り裂き、シャンクの繰り出す拳は山肌を抉る程であった。
飛び交う拳と剣劇は巨木を易易と薙ぎ倒す。
「ははっ! まさかこれ程の強者とはな!! 我は嬉しいぞ冒険者ミホーク!!!」
「あぁ! 俺もだ赤龍王!」
笑みを浮かべながら二人は幾度となく己の獲物をぶつけ合う。
二人が戦いを開始して数時間が経過、戦闘によって周辺は完全に更地へと変わっていた。
『そういえば…』
シャンクの拳を夜で受けながら今更のように思い出す。
『ウンソップは無事だろうか…?』
辺り一帯の惨状を考えるとかなり絶望的な気もするが…。
「連れの男の事なら荷馬車ごと我が結界を張っておいた」
ミホークの心中を察したのか、シャンクが答える。
「我も中々に満足できた。
次の一合で終いにしよう」
「あぁ…」
シャンクの言葉に頷くミホーク。
二人は互いに距離を取ると獲物を構え、再度ぶつかり合ったー。
「ふっ、はっ!」
裂帛の声と共に鍬で土壌を耕していく…。
あの後…シャンクとの戦闘を終えた後、彼は約束通りミホークをAランクへと推薦。
めでたくAランクへ昇給したミホークはシケアル森林の一部を領地として
貰い受け、こうして開墾に精を出している。
時折、冒険者ギルドから大暴走の討伐依頼や公務をサボってシャンクがちょっかい出しに来たりはするが概ね満足した生活を送れている。
「んっ…?」
唐突に影が落ち、ミホークは小さく首を傾げる。
「久しいな!ミホーク!! また手合わせに来たぞ!!!」
『いや、久しいって…三日前に来たところだろ!!』
などど心の中でツッコむミホークだが、その顔は何処か嬉しそうだったー。
前回の投稿から1年近く空きました、灰音穂乃果です。
おまたせしてスイマセン、ミホーク様は異世界でゆったり農業ライフを満喫したい最終話を投稿させていただきました。
今まで、応援して下さった方々に最大の謝辞を述べつつ後書きとさせて頂きます。