人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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試験が重なって少し遅くなりました。あの日程とボスラッシュ考えたやつを1発ぶん殴ってやりたいですね。
去年の9月末に第2部6章を攻略して心をへし折られて以来、トラウマになってストーリーを進められていませんでしたが、ようやく重い腰を上げて6.5章、7章を攻略しました。くっそ面白かったです。6章が何だったのかと叫びたくなったくらいには。
某Oさんとのラストバトルでモルガンを出陣させ、見事生存させることに成功した無謀なマスターがいたらそれ自分です。


episode.7 竜殺し ─ドラゴンスレイヤー─

 

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……


 

【第7節】

──約36時間前──

 

「ちょっと、藤丸!? 藤丸!! あのバカ、通信切りやがったわ! ああんもう、何考えてんのよ!!」

 

「お、落ち着いてください所長! きっと藤丸君にも何か考えが──」

 

「うっさい! あいつはまだ素人なのよ!? 無策で突っ込んだに決まってるわ!」

 

わたしはロマニが宥めようとするのを一切意に介さずにモニターを叩く。藤丸が無鉄砲なのは特異点Fでよく思い知ったつもりだったけど、これは流石に予想外。

そういえばさっき、ヴォークルールでモルガンを庇おうとしたって言ってたわね……。あいつ、あの時から全然反省してないじゃない! 誰かを守ろうって心意気は大事だけど、後先考えずにやろうとするのがあいつの欠点、帰ってきたらもう1回説教してやるんだから!!

帰って、来たら……。

 

「まずい、藤丸君のバイタルがどんどん不安定になってく……! このままじゃ、疲労困憊で意識を失ってしまうかもしれない……!」

 

ロマニの言う通り、通信機が伝達する藤丸の体力は、見る見るうちに規定値オーバーに近づいていく。もし本当に気絶しちゃったら……もし、そんな状態でサーヴァント同士の戦闘に巻き込まれでもしたら、絶対に殺される。

 

「……!? なんだ、藤丸君にダメージが……!!」

 

そして、追い討ちをかけるかのように、彼のバイタルが見る見る低下していく。さっきまでの、自身の無理が祟っているような低下の仕方にはみえない。だとしたら、もしかしたら──!

 

「何かから、攻撃されてる……!? 嘘、藤丸……藤丸ッ……!!」

 

わたしは通信のコールボタンを連打する。しかし、いくら押しても何も反応がない。この期に及んで無視を貫いてる訳ないだろうし、まさか本当に……?

嫌な予感が冷や汗となって背筋をつたっていく。心臓の鼓動が早くなり、不安で心が満たされる。全てが終わってしまうのではないか、という恐怖に吐き気が込み上げてくる。

この半年間で、何度も何度も味わったこの感覚。最近になって、ようやく治まってきたと思っていたのに。

 

───もうすぐ死ぬだろうねぇ、彼は。

 

「……!! うる、さいッ!!」

 

そしてその不安を加速させるように、わたしの耳元で()()の声が鳴り響く。特異点Fで骸骨兵から逃げ回っていた時からずっとまとわりついてくる、人ならざる者の声。ひどく耳障りで、体の奥底から震えが込み上げてくる。

何よりわたしの不安を掻き立てるのは、その声が、喋り方が、()()()にそっくりだということ。例え裏切られたとしても、それでもかつてはあいつを信じていたのは事実。信じていたものを失うというのは、どうしようもなく辛い。そして今また、信じたものが失われるかもしれないのだ。

 

「お願いだから……出なさいよ……!!」

 

わたしの願いも虚しく、一向に通信が繋がる気配はない。そして。

 

「藤丸君のシグナルが、途絶え……ました」

 

「───!!」

 

ロマニが、その絶望的な事実を伝える。確かに、通信機が伝えてくれていた藤丸のバイタルの一切が、急にぱったりと見えなくなった。

わたしは歯をかみ締め、拳を握りしめる。そのまま拳を振り上げ、モニターにそれを思いっきり叩き付けた。

信じられなかった。信じたくなかった。だってこんなにもあっけなく、こんなにも無情に全部が終わってしまうなんて、わたしじゃなくたって素直に受け入れられる訳ないじゃない。それでも、次第に頭の中が真っ白になっていくのを嫌でも感じてしまう。体から力が抜け、その場に膝を着く。

叩き付けられた拳が当たっていたのは、偶然にも通信のコールボタン。でも、当然それに反応する者などいる筈が──。

 

「──む、このボタンであったか」

 

「……え?」

 

突然、通信が繋がった。そこから聞こえてきたのは藤丸の声ではなく、何故か映像は地面を映して揺れていた。しかし、そんなことを気にしている余裕は今のわたしには(もちろん、ロマニにも)になかった。

 

「藤丸……? 藤丸なの……!?」

 

「藤丸君、何があった!? 急に君のバイタルが見えなくなったんだ、何があったのか説明して………って、うわぁ! 誰だお前ぇ!?」

 

ロマニが話している途中に、通信機のカメラが向きを変えられ、それを持っている人物を映し出した。

そこに映っていたのは、顔全体を黒い仮面に覆い隠した1人の男の姿だった。その仮面に輝く青の双眼が、わたしたちを真っ直ぐに捉える。

 

「まさか、あなたが藤丸を……!!」

 

わたしはその双眼を睨みつけるようにしてそう詰め寄る。男は少し困惑するように首を傾げた。

 

「どうやら、酷く誤解されているらしい。当方はただ、この機械を持ち主の少年から預かっているだけなのだが」

 

「嘘よ! あなたが藤丸を……ッ、それで、奪ったんでしょ!?」

 

「所長、冷静に……! 落ち着いてくださいってば!!」

 

「うるさい! 大体、こんな怪しいヤツなんて信用出来るわけないじゃない!!」

 

わたしは八つ当たりに近い形で男に叫ぶ。それを見かねたロマニが制止しようとしたけど、それでもわたしは冷静になれなかった。

 

「うるさいうるさいって……! くそう、レオナルド! 余裕こいてるヒマがあったら所長を抑えてくれ、冷静じゃない!」

 

「えー。うーん、まぁいっか。それじゃあ失礼して……」

 

ロマニの指示を受けたレオナルドが、わたしを後ろから抱きしめて引きずっていく。

 

「ひゃあっ!? ちょっと、離しなさいよ!」

 

「おやおやオルガ、お肌のハリがよろしくないぞよ? それに、そんな顔をしてたらシワが出来ちゃうぞっ」

 

そしてついで(いや、寧ろ本命?)と言わんばかりにわたしの体をまさぐってくる。

むず痒さと恥ずかしさに顔を赤くする様子を楽しむように、彼女はけらけらと笑いながらまさぐる手を止める素振りすら見せなかった。

 

「あっちょっ、やめてってば!」

 

「いいや、止めないね! せっかくの可愛い顔がシワで台無しになんて、この私に限って見逃す訳がないんだ!」

 

「は……はぁ? ……ひゃうっ、はひっ、ちょっとレオナルっ、くすぐらないでぇっ!!」

 

彼女はそのまま、わたしの体の色々なところをくすぐってくる。くすぐりに弱いわたしは、笑いを堪えられずに彼女の腕の中で暴れ回る。次第に彼女の腕が下がっていき、床の上をのたうち回るような体勢になっても尚、わたしはくすぐられ続けた。

 

「ひやぁぁぁっ! んぁっ、やめへぇ~!!」

 

「くくく……、ふはーはっはっは……!!」

 

しかし、レオナルドによるくすぐり責めは、まだまだ始まりに過ぎなかったのだ……。

 


 

「ひやぁぁぁっ! んぁっ、やめへぇ~!!」

 

「くくく……、ふはーはっはっは……!!」

 

うん、何だかレオナルドに任せたのは失敗だった気がする。寧ろ火に油を注いでしまったような気がする。一瞬その後悔から頭を抱えたけど、もう背に腹はかえられない。

ボクは小さく深呼吸をして、画面に映る男に向き直った。

 

「えーと、取り乱してしまって申し訳ない。それで、藤丸君──その通信機の持ち主は、本当に無事……なんですか?」

 

「ああ。疲労困憊状態だったため今は眠っているであろうが、命に差し迫った危険は無い」

 

男は淡々とした事務的な口調でそう言う。その口調からは、嘘をついているという様子は見受けられなかった。そもそもよく考えてみれば、仮に藤丸君から通信機を奪ったとして、わざわざボクらカルデアと連絡を取ってまで嘘をつく必要なんて無いはず。

所長だって落ち着いて考えれば、同じ結論にたどり着いたはずだ。とりあえず彼女が落ち着く(この調子だといつ落ち着くのかは想像もつかないんだけどね……)まで、彼との対話はボクが受け持っておこう。

 

「……良かった。ところで、預かっているということは、もしかして彼を助けてくれたんでしょうか?」

 

「いや、当方は少年とその仲間が瀕死に追い込んだ英霊に止めを刺したに過ぎない。助けた、と言える程のことは、何も」

 

「そんな、少なくともモル──彼の仲間が治療を要する事態となれば、相当に危険な状況だったはずです。2人を助けていただいて、ありがとうございました」

 

ボクは謙遜する彼に向かって深く礼をする。完全に信頼できるかどうかは正直まだ分からないけど……。今は藁にでも縋りたい状況だ、彼を信じるしかない。

 

「そうか。ところで、そちらから周辺の魔力反応などを調査することは可能か?」

 

「はい、可能です。丁度こちらも周辺の状況を把握したかった所ですから」

 

「であれば早急に頼む。少年から、戦闘中だという仲間の援護を依頼されたのだが、周囲の残留魔力が濃く今一つ魔力反応を掴めず難儀しているのだ」

 

「援護……! それは心強いです、すぐにスキャンするので少々お待ちを!」

 

援護に行くなら、マシュやジャンヌと合流するってことだよね。彼女らの退去が確認されなければ、藤丸君が生きていることの裏付けにもなる! ボクは逸る気持ちを抑えて周囲をスキャンする。

それにしても、残留魔力が濃い、か。もしや、モルガンの戦闘の痕跡だろうか。彼女の放つ魔術はどれもこれも高威力、つまり多量の魔力が込められたものばかりだ。特に、あの黒い濁流を引き起こす魔術は少しの間黒泥が残るから、魔力が残留しやすいんだろう。

だけど、それだけ相手のサーヴァントは手強かったってことだ。命に危険は無い、と言ってたけど、やはり藤丸君とモルガンの状況が気になるな……。

スキャンが完了するまで、ボクはそんな風に考えを巡らせる。そして、

 

「スキャン完了! そこから南西、右手の方向に進んでください!」

 

「了解した。それと、今後の便宜の為に当方の真名を伝達しておこうと思う」

 

男はその無機質な双眸で真っ直ぐにこちらをとらえ、その真名を口にした。

 


 

「やあぁっ!!」

 

「……ちぃっ!」

 

マシュは白百合の騎士の刺突を咄嗟に屈んで回避し、そのまま下段から盾を振り上げて反撃するが、切っ先は間一髪で刺剣によって軌道を逸らされ、惜しくも彼(彼女?)の左頬をかすめるに留まった。

 

「まだまだ、です!」

 

マシュは振り上げた盾を即座に切り返して斜め下へと切り払う。騎士は後方へとステップしてかわし、マシュは追撃のために飛び上がって渾身の力で盾を叩きつけた。

その追撃はまたもや間一髪で回避されるも、マシュはすかさず地面に突き立った盾を軸にして体を捻転させながら回し蹴りを放った。

盾によって1度白百合の騎士の視界から身が隠れたことも手伝い、マシュの脚は見事に騎士の左脇腹を捉え吹っ飛ばす。

 

(先程の黒騎士さんの攻撃法、見よう見まねですが、上手くいきました! ようやく、威力のある一撃です!)

 

 

 

「はっ、せいっ、とりゃあー!!」

 

一方、マシュの戦闘の隣ではジャンヌが紫の修道女と接戦を繰り広げていた。魔力供給が成された彼女は修道女とも互角に渡り合う。

ジャンヌは戦旗による連撃の手を緩めることなく攻め、修道女の決め手と成り得る浄化の光柱を封殺していた。力勝負ではほぼ互角であるが、修道女には浄化によって勝負を決めることが可能であるというアドバンテージがある。一方でジャンヌには現状戦旗以外の攻撃手段がなく、それを抑えつつ攻撃を続け、相手の体勢を崩すことを狙っていた。しかし、

 

(思っていた以上に、タフな方のようですね……。愚直に打ち込むだけでは、埒が明きません)

 

ジャンヌは思考を巡らせる。修道女が無防備になる瞬間、防御の間隙はどこにあったか──。

 

彼女は少しずつ、相手に違和感を与えないように攻撃の勢いを抑えていく。連撃で崩せないのなら(押してダメなら)相手の動きを見切る(引いてみろ)

攻撃の手が緩んだのを好機と見た修道女は、ジャンヌに対し渾身の横振りを放ち、それを受け止めたジャンヌと修道女との距離が開いた。

 

「光に消えなさい!!」

 

修道女はすかさずそこに浄化の光柱を追撃し、一際強い光柱がジャンヌのいた場所を突き上げた。その衝撃により辺りは舞い上がった土煙に覆われ、ジャンヌの姿を隠す。そして、

 

「はああぁぁっ!!」

 

一瞬の沈黙の後、土煙を切り裂いてジャンヌが飛び出し、強力な光柱を繰り出すために無防備になった修道女に素早く接近する。

その勢いのまま戦旗を下段から切り上げ、咄嗟に杖を構えた修道女はすんでのところで受け止めたが、勢いを殺せずに仰け反る。ジャンヌはがら空きになった腹部へと強かに戦旗を打ち込んだ。

 

「あぁっ……!!」

 

吹っ飛ばされた修道女は、マシュの回し蹴りを食らって同じく飛ばされて来た白百合の騎士と背中合わせになり、マシュとジャンヌの思わぬ奮戦を忌々しげに睨みつける。

 

「ちっ、あのマスターの魔力供給を阻止できなかったのはやはり痛かったか……!」

 

「……そのようですね。このままでは、彼女らを討つのは難しい」

 

腹立たしげに吐き捨てる白百合の騎士に対し、紫の修道女はあくまで穏やかにそう答える。そして彼女は大きく息を吸い込んで息を整え、1歩前に出た。

 

「あなたは1度帰還して、マスターに状況を報告してください。私は宝具を解放して彼女らと戦います」

 

「……! 了解だ、私が居ては巻き添えを食らうか邪魔になってしまうかもしれないからね。お言葉に甘えて、1度下がらせてもらうよ」

 

修道女の言葉を受け、白百合の騎士は戦線を離脱し、修道女は合流したマシュとジャンヌの方へと1歩踏み出す。

 

「もう一度、お聞きしましょう。貴女がたは、ここで諦める気は無いのですね? 竜の魔女の企みを阻止すべく戦うのですね?」

 

修道女は、妙に落ち着いた穏やかな口調で2人に問う。

 

「……ええ、そのつもりです。貴女がたに道を譲ることは、できません」

 

修道女と同様に穏やかに、またそれと違って確かな意志を込めてジャンヌが返答する。

マシュもまた力強く頷き、盾を握る手に力を込めて戦う意志を示した。

2人のその様子を見て、修道女は柔らかな笑みを浮かべる。

 

「──ああ、よかった。これが運命、なのでしょうね」

 

彼女は1度言葉を区切り、自身の胸にそっと手を当てる。その姿、その声は、どこか安心したような様子で──。

 

「私の真名()は『マルタ』。クラス・ライダーの名のもとに、主の命を果たしましょう」

 

「聖女、マルタ……!?」

 

その名を聞いたマシュは、思わずそれを復唱していた。

 

(聖女マルタ。救世主の言葉に導かれ、その魅力と美しさで竜を説伏し鎮めた(メロメロにした)、”完璧なひと”。もし逸話、伝承の通りだとしたら、彼女は……!)

 

「さあ、私の元へとおいでなさい! 『愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)』!!」

 

そして、マルタが宝具を解放する。

獰猛な牙の生えた獅子の頭と、背中には強靭な甲羅を背負い、巨大な爪をたたえた3対の足、そして槍のように鋭い尻尾を備えた巨大な竜、『タラスク』が彼女の背後の虚空から歩み出てきた。

タラスクは2人に向かって咆哮を上げ、耳をつんざくその爆音に、2人は思わず耳を押さえてその場に膝を着く。

 

「う……っくあぁ……!! や、やはり彼女はっ、ドラゴンライダー……!!」

 

咆哮にかき消されていることを知りつつも、マシュはそう声を上げずにはいられなかった。

ライダークラスのサーヴァント(他クラスでも一定のサーヴァント)は、騎乗のスキルを有する。そのランクは各英霊により様々だが、通常であればどれだけ優れた騎手であろうと、幻想種の頂点たる竜を乗りこなすことは不可能である。が、ことマルタにおいては例外的に竜をも乗りこなす特殊な能力を持ち、その象徴が彼女の宝具たるタラスクなのだ。

 

「タラスク、彼女らをやっつけて!」

 

マルタの呼びかけに彼はもう一度短く咆哮を上げて答え、口内に火炎を滾らせる。そしてチャージが完了すると、彼は1度空を仰ぎ、顔を振り下ろしながら燃え盛る炎を放射した。

マシュとジャンヌは咆哮の衝撃で身動きが取りづらくなっていたものの、左右に飛び退け転がるようにして消し炭を回避した。

 

しかし、彼女らにとって状況は最悪。マスターによる令呪や魔術礼装のサポートも無く、そして藤丸立香の魔術回路の拙さによって、距離が開くと魔力供給が行えないという致命的な弱点も相まって、能力こそ発揮できるものの魔力切れも視野に入る2人は、まさしく孤立無援の状況だった。

そして、目の前に立ち塞がるは強大な竜。2騎のサーヴァントとの戦闘ですら苦戦していた今の2人には、相当に手に余る代物だ。

 

「くっ……、やあぁっ!!」

 

2人は果敢にもタラスクへと攻撃するが、その強固な外殻に阻まれ全く痛痒を与えられず、寧ろタラスクの反撃を受ける機会を増やす事にしかならない。

純粋な質量と鋭利な爪とのコンビネーションで繰り出される斬撃(その実、ただのひっかき攻撃に過ぎない)は、大盾を支えるマシュの腕と足を震えさせ、苦痛に顔を歪ませるに十分な威力を誇っていた。

そしてマシュがギリギリで押さえたタラスクの腕の後ろからジャンヌが飛び出し、戦旗による刺突を繰り出すが、タラスクは容易にそれを咥え取り、そのまま彼女を振り回して地面に叩き付ける。その衝撃でジャンヌは口から血反吐を吐き出し、立ち上がることは容易ではなかった。

 

ジャンヌを一蹴したタラスクは、先の一撃で膝が笑っているマシュに向けてもう一度と腕を振り下ろし、マシュは地面に膝を着きながらも必死で押さえる。しかし、タラスクは尻尾を回して彼女のがら空きの脇腹を打ち据えた。攻撃を押さえていたマシュもまた、タラスクによって押さえ込まれていたのだ。当然防御など間に合わず、マシュは盾を落として吹き飛ばされ地面を転がっていく。受け身をとるだけの余裕も、今の彼女には無かった。

 

マシュはその一撃によって気絶し、ジャンヌは未だ立ち上がれない。タラスクは今1度咆哮を上げ、ジャンヌをその巨体で踏み潰すべく足を上げ、それを彼女へと落とした───はずだった。

 

「またしても援護が遅くなるとは。全くもって情けない」

 

「なっ……誰!? っていうか、はぁ!? 何してんのアンタ!?」

 

ジャンヌへと落とされたはずのタラスクの巨大な足は、危機一髪で助太刀に現れた1人の男によって受け止められていた。

流石のマルタにも、タラスクの巨体を人が、それも片手で易々と受け止めている光景は異常だったようで、素っ頓狂な驚愕の声を上げる。

 

「ぁが……ッ、あ……なた……は……?」

 

口の中に血が残るジャンヌが、絞り出すようにして男の名を尋ねる。

男は答えずに、タラスクの足を両手で掴み、あろうことかその巨体をぶんぶんと振り回して投げ飛ばした。

 

「タ、タラスクーー!?」

 

数十メートルは飛んだタラスクの元へ、マルタは急いで駆け寄っていく。

そして男は振り返り、ジャンヌをひょいと横抱きにして、その場から少し逸れた場所へと彼女を下ろした。本来であれば、羞恥心から赤面して大暴れしていたであろうジャンヌも、今はぐったりとして何の抵抗も示さないでいる。

そして男は懐からルーンを取り出し、ジャンヌの体に押し当てながら何事か唱え始めた。

 

「ジャンヌ、マシュ! 2人とも酷い怪我……!霊核には傷が届いてないみたいだけど、大丈夫か!?」

 

「ぁ……ロマン、さん……」

 

男が、詠唱しながらジャンヌの手に通信機を手渡した。気絶したままのマシュと、口から血を垂れてぐったりとするジャンヌを見て、ロマン教授が心配そうに声をかける。

 

「それより……この人は……?」

 

「大丈夫、彼は味方だ! それも、最高の助っ人で間違いないよ!」

 

「よし。これでしばらく安静にしていれば、傷は塞がるだろう。この場は当方がケリをつける、貴女はここで休んでいるといい」

 

詠唱を完了した男は、光を放つルーンをジャンヌに握らせて立ち上がる。そして右腕を横に伸ばして手を開くと、後方から彼の武器であろう赤き長剣が彼の手に飛び込んで来た。その長剣を手に、彼は体勢を立て直したタラスクの方へと歩んでいく。

 

「だめ……あの竜は……危険です……」

 

「問題ない。武に生きる者故に、覚悟あり。竜であれば、相手にとって不足なし。当方も存分に腕を振るえるというもの」

 

男はジャンヌにそう言い残すと、背中にマルタを乗せて猛烈な勢いで走ってくるタラスクと対峙する。

 

「こちらの戦闘態勢は完全である。来い」

 

走りながら咆哮を上げ、その勢いのままタラスクが突進するが、男は右手の赤剣を地面に突き刺し左腕でタラスクを受け止めた。

 

「なんてデタラメな力なのよ! ええい、このっ、このっ!!」

 

タラスクと力比べをし、信じ難いことにジリジリと押し勝っている男の姿に、またもやマルタは驚愕を隠せず、半ばやけくそ気味にタラスクの背中から杖で男を殴りつける。が、その適当な攻撃に男は一切動じず、タラスクを左腕で突き飛ばすと地面から赤剣を抜き、逆手持ちのまま体を捻りながら飛び上がる。

 

「ぬぅん!」

 

回転の勢いが乗った高威力な斬撃が縦に振り下ろされ、禍々しい赤の刀身がタラスクの強固な外殻を切り裂く。傷口から滝のように血が溢れ、タラスクは堪らず悲鳴を上げて後退した。

 

「タラスクが、斬られるなんて……!?」

 

力勝負では敵わないと悟ったタラスクは、傷に呻きながら火炎を滾らせ、男に向かって放射する。しかし男は素早くバック転して回避し、即座にナイフを5本取り出して空中に放り投げ、それらを殴り飛ばして攻撃する。

 

「はっ!」

 

そのナイフには先の赤剣ほどの威力はないが、男の正確な狙いにより1本はタラスクの右目に、そして残りは赤剣で付けた切創に突き刺さり、その激痛にタラスクは転げるようにして再び後退する。

 

すかさず距離を詰めてくる男に対して、タラスクはそれでもマルタを守るように立ち塞がる。

彼のその覚悟に答えるように、背後でマルタが最大級の浄化の光柱を練り上げ、男が赤剣を振りかぶった瞬間にタラスクの陰から飛び出した。

 

「こんのおおぉぉぉ!!!」

 

「む……!」

 

光柱は地面から斜めに射出され、男を直撃して後方へと吹っ飛ばした。男は光に焼かれながらも空中で受け身を取り、力強く地面に着地してすぐに立ち上がる。

 

「これでもだめ、か。……タラスク、まだやれる?」

 

自身の最大級の光柱をぶつけても立ち上がる男の姿を見て、マルタはタラスクに声をかける。「当然だ」と言うようにタラスクは一声吼え、彼女の意図を汲んで甲羅の中に四肢と頭、そして尻尾を仕舞い込む。

マルタとタラスクの、最大最高のコンビネーションアタックの準備が為されていく。

 

「最後に、1つだけ尋ねます。アンタ、一体何者? せめて、その名前だけでも教えてくれないかしら?」

 

タラスクが準備を完了すると、マルタが男に向かってそう尋ねる。

次の一撃で男を殺すか、殺せずに反撃を受け敗北するか。どちらにせよ、彼女にとってはここが男の名を聞く最後のチャンスだった。男は一瞬の沈黙の後、1度武器を下ろして答えた。

 

「承諾した。貴女とその竜の戦い、そして覚悟に敬意を表し、その願いを聞き入れよう。当方の真名は『シグルド』。我が魔剣『グラム』を以て、貴女を狂気の枷から解き放とう」

 

「……()()()()()()、ちくしょう。いいわ、貴方にやられるなら、それはそれで悔いはない!」

 

シグルドという名を聞き、マルタは合点がいったというような清々しい顔でタラスクの背後に回り込み、杖を思いっきり振りかぶる。

 

「食らいなさいッ!! 私とタラスクの、全力の連携技よ!! いっけええぇぇッ、タラスクーーー!!!」

 

そして、彼女は杖でタラスクをフルパワーで殴り飛ばし、飛ばされたタラスクは丸まったまま四肢から火炎を放射し、さながら炎の竜巻のようにシグルドへ一直線に突き進む。

 

「貴女の全力に、当方も全力で答えよう」

 

しかしシグルドは慌てず、冷静に、腰を深く落として構えを取る。マルタとタラスクの全身全霊に、彼もまた宝具を以て答えようとしているのだ。

 

シグルドが魔力を解放すると、彼の前に赤雷を迸らせながら多数のナイフが踊り狂う。彼はそれらを殴り飛ばし、やがて目の前に現れた魔剣グラムの力を極限まで引き摺り出し、左腕でそれを射出した。

 

「絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ──!!」

 

先に射ち出されたナイフたちは猛進するタラスクの外殻を削り、貫き、その勢いを削ぎ落としていく。そしてさながら赤い稲妻のようにグラムが空気を切り裂き、タラスクに突き刺さる。

 

「───『壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)』!!!」

 

そして、突き刺さったグラム目掛けてシグルドが全力の拳を叩き込み、引き摺り出した魔剣の力をタラスクの内で爆発させた。その赤き閃光がタラスクを包み込み、焼き尽くしていく。

 

「ああっ……きゃああぁぁぁッッ……!!!」

 

その余波は後方にいたマルタをも飲み込み、タラスク程では無いにしろ彼女もまたその閃光に焼かれていく。

そして閃光が収束すると、タラスクは跡形もなく消え去り、残ったのはボロボロになり地面に力なく座り込むマルタだけだった。

シグルドは彼女の元へと歩み寄り、赤剣グラムを構える。ここで、彼女を狂化という枷から解放する為に。

 

「感謝。貴女と魂の削り合いが出来た事、嬉しく思う。あの巨竜にも、伝えておいて欲しい」

 

「……ふふ。竜を懲らしめた私が、今度は竜殺しの手で討たれるなんて。なんだか皮肉かなぁー……」

 

マルタは穏やかに笑い、握っていた杖を手放す。そして、ジャンヌの方を見て言った。

 

「ねぇ、聖女ジャンヌ・ダルク。私の代わりに、ラ・シャリテの人々の為に祈ってあげていただけますか? せめて最後くらいは……聖女らしくありたいんです、私だって」

 

「……分かりました。私は聖女などではありませんが、彼らの魂の安寧のために、祈りを捧げることを約束します」

 

「ありがとう、ジャンヌ。じゃあお礼に、1つ情報をあげる。あのバグバズンとかいう怪獣、あれは竜の魔女の仲間よ。人間や竜を襲って()()()()()()()()()、不気味な怪物。放置した方が勝手に育ってくれるし被害も出すから、竜の魔女は好きにさせてるみたい。でも、気をつけて。万が一サーヴァントが食べられでもしたら、あれがどんな力を持つのか分からないから。……私があげれるのは、これくらい」

 

「いえ、ありがとうございます、聖女マルタ。貴女と竜の魂に、どうか安息がありますように」

 

「うん、ありがと。……シグルド、お願い」

 

「承諾した。貴女の戦い、そしてかの竜の戦いを、当方は忘れないだろう。さらばだ、美しき竜使いよ」

 

シグルドは赤剣を振り上げ、マルタを切り裂いた。鮮血が吹き出し、マルタの霊基が崩壊していく。そして、その霊基にかけられていた狂化の呪いも、共に解けていった。

穏やかで、それでいてどこか悔しそうな顔で、マルタは空を見上げた。

 

「……まったく……。聖女に虐殺なんて……させるんじゃないってぇの……」

 

ゆっくりと目を閉じ、柔らかな微笑みをたたえ、マルタは光の粒子になって青い空へと溶けていく。

聖女でありながら、サーヴァントとしての鎖に囚われ人々の虐殺に加担させられていた英霊。誰か、己を止められる者を待っていたのだろうか。……或いは、死を乞うていたのか。

彼女が最期に見せた微笑の正体は、果たして───。

 


 

「さて、当方は貴殿らのマスターの元へと向かうつもりだ。聖女殿とドクター・ロマンはここで待機し体を休め、キリエライト殿が目覚め次第状況の共有を行う。この方針で異論は無いだろうか」

 

「うん、こちらからの異論は無し。よろしく頼むよ、シグルド」

 

彼は頷き、来た道を引き返していく。その後ろ姿を見送った後、ジャンヌは全身の力を抜き、木を背にもたれかかった。

 

「かなりサバサバとした方なのですね、彼は」

 

彼女はマシュと自分を助け、更にはその前に藤丸をも助けていたというシグルドが、一切驕らず尊大な態度も取らずにいたことに静かに驚いていた。加えて言うならば、あれだけの戦闘(宝具まで使用した)の後にも関わらず、ほぼ休息も無しに藤丸の元へと向かったということもある。

様々な驚きに思考を翻弄され、ジャンヌは彼への印象をぽつりと呟いた。

 

「うん、あれだけ合理的にきびきび動く人ってのも中々珍しい。ここに来る時も、道が分かるように木に切れ込みを入れて目印を付けてたしね」

 

「しかし、先程の戦闘でかなりの魔力を消費したように思えるのですが、大丈夫なのでしょうか?」

 

「ああ、それね。それは多分、彼が”竜の心臓”を持っているからだ。竜の心臓は、鼓動する度に魔力を生成すると言われている。もし本当なら、彼はほぼ無尽蔵の魔力を扱えるのかもしれないよ」

 

「す……すごいですね。でも、あの方の行動を見ていると納得です……」

 

「うん、敵じゃなくて本当に──」

 

と、ロマン教授が言いきらないうちに管制室の扉が開き、ガクガクと震える足で壁伝いに歩いてくるオルガマリーの姿が覗いた。

 

「ロ……ロマニィィィィ……」

 

「しょ、所長!? どうされたんですか!? (っていうかいつの間に部屋の外に? 妙に静かだなーとは思ったけども!)」

 

産まれたての子鹿のように震え、よろよろと頼りない足取りでモニターの前のデスクにたどり着くや否や、そこにだらりと倒れ込むオルガマリー。

 

「よくもぉぉぉレオナルドなんかにぃぃぃぃ」

 

その姿はさながら歩く死体、ゾンビのようだ。

そして彼女の後ろに満面の笑みで続くダ・ヴィンチが、興奮冷めやらぬ様子で言った。

 

「クックック……。いやぁ楽しかったねぇ!! ウッフフ、可愛い声、たぁくさん聞かせてくれてありがと、オ・ル・ガ・ちゃん♥」

 

「「「「「通報した(※管制室スタッフの方々)」」」」」

 

「残念ここはカルデアだ!」

 

ワイワイガヤガヤと盛り上がる管制室、顔を押さえてデスクに肘を着くロマン教授、そして生気のない顔でデスクに突っ伏すオルガマリー。

 

(何をなさっているのでしょうね、この人たち……?)

 

1人取り残されたジャンヌは、スクリーン越しからその様子を見て、曖昧な笑顔を浮かべながら呆れる他なかった。

 


 

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……




筋力A+ってすげぇ!!!!!!!!!
あ、お気づきのことかとは思いますが、章分けとタイトル付けをしました。タイトルが特異点名と(数字)だけじゃ芸がないんじゃね、と友人に指摘されたので追加した次第です。中身は変わってませんので、もし混乱を招いていたらごめんなさい。
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