人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン 作:グリッド無頼
デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……
【第8節】
「「「えぇー!? 藤丸/藤丸君/先輩 が消えたーー!?」」」
藤丸の元に向かったシグルドが連れ帰って来たのは藤丸とモルガンではなく、2人がいなくなっていたという報せだった。
オルガマリー、ロマン教授、マシュの3人はその報告に口を揃えてそう叫んでいた。
「ああ。彼らが目覚めて移動したのかとも考え周囲を探索してみたが、見つけられなかった。ただ、恐らくは危険な目に遭っていることは無い、と当方は推測する」
驚き慌てふためく3人とは対照的に、シグルドは至って冷静に答える。彼のその意見に、当然というか何と言うか食ってかかるオルガマリー。
「そんなこと、何を根拠に言えるのよ!?」
「うむ、まずはこれを見て欲しい。周囲を探っていた時に発見した物だ」
彼女の反論に一切怯まず、彼はポケットからとある物を取り出した。
「何よそれ……ガラスの薔薇? これがどう証拠になるの? たしかに、これが自然に見つかるのは変だけど……」
「当方がこの地に召喚されたのは5日前。それから間もなく、とある2人組と出会い短期間ではあるが行動を共にしていた。この薔薇は、そのうちの1人が生成していた物と同一であると見て間違いない」
「じゃあ、藤丸たちはその2人が連れていったかも……ってことかしら?」
「当方はそう推測する。この周辺一帯にいたワイバーンは少年とコンタクトを取る前に全て始末した。故に奴らに食われた、或いは連れ去られた可能性は限りなく低いと言えよう」
「あのワイバーンの群れを全て、ですか!? ……あ、そういえばあの時……!」
ジャンヌは彼の発言を聞き、マルタが戦闘中に口走ったことを思い出した。
──ワイバーンたち! 彼を止め……嘘、なんで1匹もいないの!?──
「あの時ワイバーンがいなかったのは、貴方が彼らを倒してくださっていたから、だったのですね!」
「さすがは北欧の竜殺し……、並々じゃあないな……」
ジャンヌに続き、ロマン教授が感嘆の声をこぼした。
「……ちなみに聞くけど、その2人組の居場所って知ってるの?」
オルガマリーはあくまで冷静に追及の姿勢を崩さず、シグルドに質問する。すると彼は少し考え込んでいるのか、急に黙り込んだ。
「ちょっと、聞いてる? ねぇって──」
「詳細な場所は当方も知っていない。だが、風の噂でどこかの村に滞在していると聞いたことがある」
「わっ、急に喋らないでよ驚くでしょ!」
オルガマリーが声をかけると、シグルドは彼女の言葉を遮って話し始め、それに驚いたオルガマリーが反射的にそう言った。するとシグルドは再び黙り込み、無言のまま彼女をじっと見つめる。その無機質な目で捉えられ、彼女は少々怯んでしまう。
「あ……えっと……。話せって言ったり喋るなって言ったり忙しくて悪かったわ。あなた、何を考えてるのかその仮面で分からないんだもの」
「そうか、それは失礼をした。今後はなるべく善処しよう」
「あくまで外す気は無いんだね……」
オルガマリーへの彼の返事に、ロマン教授がそう言った。どのような素顔をしているのか、という事は彼に限らず他の皆も気になっている事ではあったのだが。
「ああ。それと、1つ訂正を。これは、決して仮面ではない」
「「「「え?」」」」
ジャンヌ、マシュ、オルガマリー、ロマン教授の4人のセリフが1つに収束する。そして、
「これは、当方の”
「「「「な……な……」」」」
「なんだその面白機構はーーー!!!」
そして意外にも、最もその事実に食い付いたのはオルガマリーによって椅子に拘束されたダ・ヴィンチだった。
「…………ひどい」
黒竜によって一瞬のもとに焼却されたラ・シャリテの惨状は、まだ人の生死と向き合ったことのなかった少女にそう悲痛な声を漏らさせるには余りある光景だった。
「……残念だけど、その街に生命と呼べるものは残ってない。弔いを済ませたら、早く移動した方がいい。誰にとっても、目に入れていいものじゃないからね」
「……はい、ドクター」
マシュ、シグルド、ジャンヌの3人は、ラ・シャリテにたどり着いた後にそれぞれ散開し、瓦礫や倒壊した建物の下敷きになっている遺体を見つけ出して弔っていた。
とはいえ、マシュはこの惨状を前に動揺してしまい、他の2人よりかなり遅れてその作業に入った。しかし、
「うぶっ……!!?」
彼女が退かした瓦礫の下から出てきたのは、瓦礫に潰されて上半身と下半身とが分離し、そこから焼けただれて変色した臓物を垂れ流して、割れた頭蓋の瞳から焦げた眼球をぶら下げた、見るも無惨な子供の遺体だった。
マシュは込み上げる吐き気に耐えられず、その場で嘔吐した。口内に広がる吐瀉物の味と、辺りに充満する人の肉の焼ける臭いとが彼女の精神を追い詰めていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「マシュ、大丈夫!? やっぱり君は休んでた方がいい、こんなの君にやらせていいことじゃなかったんだ! 2人にはボクから説明するから!」
「ぅぇ……、すみません……」
マシュは涙目のままその場を後にする。どれだけ「可哀想」とか「弔ってあげたい」と思っていても、それを上回るおぞましさが彼女の感情をぐちゃぐちゃに掻き乱し、それと向き合うことを拒ませた。
集合場所の広場まで戻ると、シグルドとジャンヌが回収した遺体を埋葬している最中だった。
「キリエライト殿、戻ったか。……何も言わなくて構わない、しばらく休んでいるといい」
埋葬した遺体に祈りを捧げるジャンヌの代わりに、シグルドがマシュに声をかけた。その青白い顔色を見て察しがついたのであろう彼は、マシュに休むように言うと彼女が来た道を辿っていった。
「……察してくれたみたいだね。彼の言う通り、今は休んで気持ちを落ち着かせよう」
「はい……」
マシュは広場から少し離れた所にある建物の跡に背中を預けてうずくまる。火の消えた街に残った、生命の暖かみがまるで感じられない無機質な冷たさが彼女の背に伝わってくる。
(何も、出来なかった……)
心の内で、マシュはぽつりと呟いた。
3騎のサーヴァントと対峙したとき、混乱を御せずにモルガンに取り残されてしまったこと。モルガンを追いかけていった藤丸を止めることも援護することも出来なかったこと。タラスクとの戦闘で手も足も出ないまま気を失ってしまったこと。この街の人々を助けられなかったこと。弔うことも、満足に出来なかったこと。
それらへの後悔が、自責の念が、彼女の体を震えさせていた。
(先輩は……モルガンさんは……ご無事なのでしょうか……)
脳裏に焼き付いた先の遺体の惨状がフラッシュバックし、再び込み上げる吐き気に耐えながら、その姿が2人の未来を示唆していないことを祈った。
死者を悼む祈りを出来なかった彼女にとって、それだけが思いつく限りの今できることだった。
(やはり、妙だ。ここには元々の住民の他に避難民も居たはず。しかしその割には……)
シグルドは、街の内部を捜索していてずっと違和感を感じていた。
遺体の数が、あまりにも少なすぎるのだ。彼とジャンヌが見つけたのは、ほんの十数人分の遺体のみ。街道や広場に1つの遺体も残っていなかったというのも不自然。
一部を残して脱出に成功した。
いや、その時間的余裕は明らかに無かった。そもそも、一切の混乱が無く完全に統制されてでもいない限り、それほどまでにスムーズな避難など不可能。逃れられたとして、せいぜいが数人だろう。
最初からこの街にはほぼ人がいなかった。
いや、それも有り得ない。主要な都市オルレアンが既に竜の魔女の手中にあり、ヴォークルールも壊滅した以上、大人数を抱えられる場所は近くにはない。
森林地帯を抜けなければならないリヨン、山間部をくぐり抜けなければならないティエール。
オルレアンと共に占領されているパリは論外であるとして、少なくとも疲弊した人々が1日足らずで移動を完了できる場所ではないだろう。
とすれば、一体何故なのか。
彼は無惨な子供の遺体を回収して布に包み──ジャンヌとマシュの目に入らないようにするためだ──広場に戻った。
「聖女殿。あちら側に居たのはこの者のみであった。やはり奇妙であると考える。故に、この者の埋葬が済み次第、しばらくこの街を調査しても構わないだろうか」
「分かりました。この方の埋葬は私が執り行っておきます。貴方は、調査を優先してください」
「了解、感謝する」
彼は遺体をジャンヌに託し、詳しく街の調査に乗り出そうとした。
「わたしも、行きます」
そこに、マシュが声をかける。依然として顔色は優れないが、その目には強い力がこもっていた。
「承知した。ただ、厳しければすぐに中断することを約束してほしい」
「……分かりました」
「では、まずはこの通りから──」
彼女が素直に頷いたのを確認してから、シグルドは調査を開始した。
「ときに、ドクター・ロマンはどちらへ? キリエライト殿の調査の同行には異を唱えそうにも思えるのだが」
調査の最中、シグルドさんが黙々と同行するわたしに声をかけてくれた。遺体の捜索とは比べるべくもありませんが、それでも死した街を探るのは決して気持ちのよいものではないですから、少しでも気を紛らわせる術を用意してくれた、のでしょうか。
「え……あ、ドクターですか? ドクターはわたしが休ませていただいていたときに、オルガマリー所長から”お話があります”とお声がけされ、ダ・ヴィンチさん共々連行されていきました」
「なるほど。……しばらく戻って来ることは無さそうであるな」
「ですね。それに、所長の”お話があります”イベントで(精神・肉体問わず)無傷で帰還した人は驚異のゼロと言われていますし」
「それは中々手厳しいな」
「はい。ですが最近の所長は比較的穏和なので、もしかしたら初の無傷の帰還が成されるかもしれません」
「ほう。……ああ、手厳しいと言えばもう1つ。あの少年──藤丸立香殿と言ったか。彼の側に居た白き小動物もキリエライト殿の仲間か? ”怪しい奴だ”と言われ威嚇されてしまったものであるが故、誤解を与えてしまったのならあれにも謝罪せねばなるまい」
「え、それって……!」
彼の言葉を受け、わたしは急いで盾の収納スペースの中を探る。フォウさんの定位置は基本的にはここかわたしの肩の上。そのどちらにも居ないとなると──。
「居ない……! では、フォウさんも先輩と一緒に……?」
「ふむ。だが、下手に孤立するよりは彼らと共にいた方が安全だろう。そう心配することはない、キリエライト殿」
「……そう、ですね。ありがとうございます、シグルドさん。それと、わたしのことはマシュ、と呼び捨てにしていただけると助かるといいますか……」
「そうか。では今後はそうしよう」
素直に要求を受け入れてくれるシグルドさんの様子に、わたしはホッと息をつく。わたしよりよっぽど強く冷静で、わたしとジャンヌさん、そして先輩を助けてくれた人から”殿”付けで呼ばれるのはあまりに心地が悪いですから……。
……それにしても、暖かい人ですね。
その無機質な仮面──いや、メガネ──と振る舞いから、どうしても冷淡で機械的な印象を受けてしまいますが、その裏には相手への気遣いが多く秘められている、と思うのです。
決して驕らず。決して相手を敬う心を忘れず。
その怪しい風貌からは想像もつかないほど、彼は紛れもなく
……迷い無く道を歩む彼の背は、すぐ後を追っているはずの、英霊としても人としても未熟なわたしには、とても遠く感じられた。少しでも気を抜いてしまえば、すぐに見失ってしまいそうで──。
「ぐぁっ!!」
そして、思わぬ形で本当に見失うことになってしまいました。
「……あれ? シグルドさん?」
一瞬のうちに目の前から彼が消え、わたしは戸惑いながら辺りをきょろきょろと見回す。しかし彼の姿は見つからず、ふと足元に目を向けると、そこには不自然な穴が空いていた。中を覗き込んで声をかけてみると、返事が1つ。
「大丈夫ですかー、シグルドさーん!」
「……当方に問題はない。しかし、相当に巨大な空洞が存在しているようだ。手掛かりが無く、登るのは難しい」
「えっと、たしか収納スペースに……あ、ありました! ロープを下ろしますので少々お待ちを!」
「かたじけない」
わたしは辺りを再度見回し、ロープを括り付けられる場所を探す。開けた通路のちょうど真ん中で落下したため、中々見つけられずにさまよっていると、穴の中から大きな声が響いてきた。
「……そこから離れろ、マシュ!!」
「え……? わわっ、きゃああー!?」
すると、穴から周囲の地面に亀裂が走っていく。それはわたしのすぐ足元まで迫ってきており、わたしは飛び跳ねるようにそこから距離を取る。
「シ、シグルドさーん!!」
そして、彼を残したまま地面が崩落を始めてしまった。轟音を響かせ、空洞へと土砂が流れ落ちていく。直径にして70メートルほどの円形の穴を地面に開いた後、ようやく崩落が収まった。
焦る心を抑えつつ、まだ完全に終息したとは限らないため様子を見、穴の端に大きめの瓦礫を投げて足場の安定を確認してから動き出す。
「な、何事ですか!?」
そこへ、騒ぎを聞きつけたジャンヌさんが駆け付けた。
「ジャンヌさん、大変なんです! シグルドさんが崩落に巻き込まれて……!」
「なっ……すぐに探しましょう!」
「はいっ!」
わたしとジャンヌさんは急ぎつつもあくまで慎重に穴の底へと下り、何とか下までたどり着くと、まだ崩落の残滓で舞ったままの土煙の中を捜索する。しかし、発見は難しい。何しろ、彼は瓦礫の下に埋まっているはずなのだ。
案の定、なまなかには発見することなどできず、わたしたちの中で不安が肥大化していく。焦りが足をもつれさせる。心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。
───だが、その不穏を打ち砕くのが
「ふぇっ!?」
瓦礫を押し退け地中から突如として生えてきた腕を見て、わたしは思わず驚きの声を上げてしまった。その腕は付近の瓦礫を掴むとそれを支えに本体を起き上がらせた。そこに灯る青い光が、痛む頭を覚ますために左右に振られ、土煙の中に残像を一瞬残す。
「中々に危ないところであったな。
「シグルドさん……! ご無事だったんですね!」
「ああ。それなりのダメージを負ってしまったが、霊基には影響無し。お騒がせした」
相変わらずの淡々とした口調から、彼が強がりを言っている訳では無いということが伺える。
……中々に凄まじい耐久力ですね。と考えつつ、わたしは胸を撫で下ろした。
しかしそれも束の間、
「お2人とも……! あ、あれを!」
ひどく焦った様子のジャンヌさんがこちらへと向かって来た。段々と土煙が晴れ、彼女が指差す方向が見えてくる。と、そこには──。
「いやぁー参った参った。まさかお説教フルコースCメニューを完走するとは……ってあれ、皆どうしたのそんな驚いたような顔して?」
「ド、ドクター! あれを見てください……!」
「うん? どれどれ………っはぁ!?」
そこに鎮座する、巨大な黒い塊。穴から射し込む夕日は、その外殻を黒光りさせ腕部先端の鋭利な爪を輝かせていた。割れた背部には戦闘の痕跡による羽の損傷が見られる。その正体は──。
「バグバズン………の、抜け殻……?」
その光景に、わたしたちは息を飲んでしばらく硬直してしまっていた。
「ドクター・ロマン。そちらが回収する試料はこれで十分だろうか」
「うん、ありがとう。今は少しでもスペースビーストの情報が欲しいからね。……っとそうだ、もし残ってたら羽も回収してもらえるかな? もしかしたらウルトラマンのエネルギーの残滓が残ってるかも」
「承諾した」
彼は短く返事をすると、もう一度穴の底へと降りていく。すっかり日も暮れてしまい、明かりもない中ではあの服装は闇に溶けていくかのようだ。というかあのメガネ、もしや暗視の機能も付いてるのかな? ライトも持たずに行っちゃったけど……。まぁ、大丈夫か。そんなドジを踏むような人でもないだろうしね、彼。
穴の底でバグバズンの抜け殻を発見した後、混乱と状況を整理するため、ボクらはラ・シャリテで夜を明かすことにした。マシュにああ言った手前、なるべく早くここから立ち去らせたいのは山々なんだけど、バグバズンのサンプル回収も捨て置ける問題じゃあない。
それに、今は皆疲れてる。マシュは心労と疲労とが重なってぐっすりと眠っているし、ジャンヌも戦闘の傷と魔力の枯渇もあって、魔力消費を抑える意味も込めて小さく寝息を立てている。
ちなみにレオナルドは工房に幽閉され、幽閉した張本人の所長も色々と疲れたようでダウン。
うーん、今夜は眠れなさそうだな、こりゃ。
「それにしても、進化……か」
抜け殻があった、ということはバグバズンが成長した証拠になる(……同時に、この街の人々が奴に食い荒らされたというおぞましい事実も、浮き彫りになってしまったのだが……)。
報告によれば、ヴォークルールでの一戦ではウルトラマンが基本的には優位に立っていたらしいけど、それに拮抗する、あるいはそれ以上の力を手にした可能性もある。
……しかし、ウルトラマンが必ずしもボクらの味方だとは限らない、んだよなぁ。現在までに報告された3件の目撃情報では、総じてボクらを助けるために戦っていたという。2回にわたる所長の救出と、ヴォークルールでのモルガン救出。そして、スペースビーストと敵対しているという事実。実際、ウルトラマンがいなかったら最悪全滅してた可能性も十分にあった。敵の敵は味方、だといいんだけど……。
いやでも、行動の明確な目的も理由も、そもそも意思疎通が出来ないんじゃ分からないしなぁ……。
「うーーーん、分からん!」
ボクも今はそれなりに疲れてるし、解決できない問題は今は放っておいて、ちょっとでも頭を軽くしよう。そう考えてボクはさっきまでの思考に匙を投げる。
「どうした、ドクター」
と、ちょうどそこにシグルドが戻ってきた。
「ん? ああいや、なんでもない。それよりも羽は……回収出来たみたいだね、ありがとう」
「うむ。だがライトなどを借りていくべきであったな。暗いが故、少々手こずってしまった」
……前言撤回。この人割とドジを踏むタイプの人かもしれないぞ。
そういえば、彼はどうしてボクらに味方してくれるんだろう? 状況と本人からの意思表示もあったからこそ信頼出来ているけど、理由はまだ聞いてなかった。
「……そうだ。シグルド、どうして君はボクらカルデアに味方してくれるんだい?」
「当方が協力する理由、か」
羽をケースに収め、マシュが光源確保のために設置したカンテラの前に腰を下ろしたシグルドに、ボクはそう話しかける。彼は魔剣グラムを霊体化させ、腰に提げた2本の短剣の手入れをしながら静かに答えた。
「藤丸立香殿、彼の行動を見たためである」
「え……藤丸君の?」
「当方は彼らがあの3騎のサーヴァントとの戦闘を開始したタイミングで遭遇していたが、ワイバーンたちの処理を優先し加勢はしなかった」
あの時には、彼は既にボクらの付近まで接近してたのか。そういや、たしかに捉えていた霊基反応の数、1つ足りてなかったな。最後の1人はシグルドだったのか。
「そしてワイバーンを追って森を進んでいたところ、足を引きずりながら走る彼の姿を見た。相当な無理をしていることは当方でも簡単に判別できた。そんな状態でありながら、自身の命をも顧みずに誰かのため、仲間のため、守るべきもののために走り続ける。その勇気を、当方は好ましく、誇らしく思った。それをあの場で絶たせる訳にはいかず。故に、当方は彼を助けることを選択したのだ」
彼は淡々とそう語る。手入れを終えた片方の短剣を腰に提げ、もう一本の手入れを始めながら続けた。
「彼が信じたものであれば同じこと。故に当方は貴殿らカルデアにも協力することを決めた。此度のカルデアの危機を救ったのは当方ではない。紛れもなく、藤丸立香殿であろうな」
「……そっか。改めて感謝するよ、シグルド。それと、今後ともよろしくね」
「ああ」
相変わらずの短い返事をすると、それきり彼は黙り込み武具の手入れに専念する。
明日からは藤丸君を探して近隣の村を巡ることになるだろうし、マシュとジャンヌにはしっかり休んでもらわないと。だからこそ、周囲のスキャンを欠かす訳にはいかない。まあシグルドに任せておけばよっぽどのことがない限りは大丈夫だろうけど、それじゃあまりに無責任だからね。うん、やっぱり今日は寝れないや……。
ボクは少しばかりウトウトとする目を擦り、武器を研磨する鋭利な音が空っぽの街へと響いていくのを聞いていた。
(しっかし、藤丸君たちはどこまで行ったのかな。できるだけ早く合流したいが……明日のうちにできるといいんだけど……)
ボクはデスクに頬杖を着きながらそう考える。場所が分からない以上、しらみ潰しで探すことになるんだろうなぁ。丸一日かかったりしてね、はは……。
……そして、本当に丸一日かかることになるとは、この時のボクは薄々勘づいてはいたが逃避したのだった。
「ライダーとバーサーカーがやられたみたいね」
「……そのようです」
「で、アンタはライダーに任せて逃げてきたおかげで、こうして生きてるって訳ね」
「……っ」
「ま、いいわ。流石に相手が悪かったんでしょう。相手は竜殺し、それも北欧の大英雄。
竜の魔女は、愉快とも不愉快ともとれる引き攣ったような、或いは不敵な笑みを浮かべる。
「……ま、初戦はあの小娘の運の勝利ってとこかしら。こっちとしても足掻いてくれた方が楽しいもの、むしろ好都合よ。そうでしょ、ジル?」
「ええ、ええ! その通りですともジャンヌ! 今の貴女、その身を焼く復讐の炎に身を委ねる貴女こそが本当のジャンヌ……! 証明しましょう、見せしめましょう、その憎悪を!!」
竜の魔女の側に控える異様な風貌をした魔術師は、その今にも零れ落ちそうな眼球を嬉しそうに細めてそう言う。
「くくっ。楽しみね、過去の愚かで間違いだらけの私をこの手で否定できるなんて。……さて、今日はもう私は休みます。明日は久々にあのバグバズンとやらに命令を下すつもりですし」
竜の魔女はすくと立ち上がり、跪く白百合の騎士に背を向けた。
「……そうそう、斥候に出してたワイバーンがこんなものを回収してきたのだけど。私には誰のものかさーっぱり見当もつかないけど……アンタなら分かるんじゃない? あ、あの処刑人も分かるかしら?」
竜の魔女は振り返ること無く、どこからか取り出したガラスで出来た薔薇を騎士の前へと放り投げる。騎士はその薔薇を見ると目を見張り、そして硬直した。
「この薔薇は……!」
「じゃ、後は好きにしなさい。以前も言った通り、あなたがたに求めるのはこの国へ憎悪と死、そして破滅をもたらすこと。サーヴァントならば、マスターの命令は絶対でしょう?」
そう言い残し、竜の魔女は寝室へと消えていく。取り残された白百合の騎士は、ガラスの薔薇を握りしめて立ち上がり、何かに取り憑かれたかのような顔をして廊下へと歩き去っていった。
「……さて」
それぞれ去りゆく2人を見送った後、彼は城の地下にある牢獄へと向かった。拷問、処刑、禁固。様々な絶望が染み付いたそこは酷く冷え冷えとし、ゆらゆらと揺らめく蝋燭の火が彼の影を浮かび上がらせる。そして、2日ほど前に捕らえた者の所へと彼は歩を進めた。
「やぁ、元気かな
「貴様ッ……!」
彼の呼び掛けを聞き、ガシャンと音を立てて牢屋の鉄格子に掴みかかったのは、彼──竜の魔女のお付の魔術師『ジル・ド・レェ』の過去の姿、まだ精神を病まずにいた頃の彼だった。
「貴様! まだ……まだジャンヌに、このような残虐を強いているのか!?」
「強いる、ですと? 何を言うか、これは彼女自らが望んだことだ! いい加減に認めるといい。彼女こそ……竜の魔女こそ本当のジャンヌ、我らが聖処女のあるべき姿であると!」
「……っ、貴様こそ何を言う! 私が、いや貴様が信じたジャンヌは……、こんな残虐を是とする方では無かったはずだッ!!」
「……ああ、我がことながら全くもって情けない。まさかここまで現実を見られぬ愚者であったとは。まあいい、お前もいずれは
「クソっ、ここを開けろ! その腐った首、この手で断ち切ってくれる!」
「ふん。その程度の障害すら越えられぬただの人間風情がよく吠える。お前に力さえあれば、お前に勇気があれば、あの忌まわしき炎から彼女を救い出せたろうに」
「…………!!」
「だが私は違う。私は彼女を炎から救い出す。彼女を焼く炎を、この国の焼却をもって消し去る。焚べる薪が無くなれば、火は自然消えていくものだろう。それが私の、彼女への愛の究極。お前もジャンヌを愛しているのなら分かるはずだが?」
「……違う。……違う! そんなことでは彼女は救えない! 復讐の炎は決して消えない! その火傷──彼女の心にこびり付く罪悪が、永劫に彼女を苦しめる! 彼女の優しさを、善性を信じたからこそ私は、貴様はッ、彼女に従うことを決意したはずだろう!! 本当にジャンヌを愛しているのなら、こんなこと……ッ!!」
「はぁ、これ以上お前と話していても時間の無駄のようだ。せっかくお前もジャンヌの側に置いてやろうと思っていたのに、残念だよ。安心したまえ、ここは安全だ私が保証しよう。この素晴らしき特等席で、ジャンヌの復讐を見届けるといい」
「待て、何処へ行く! くそっ、待て! 待てえぇぇ──!!」
黒い魔術師は不気味に笑いながら、上階へと階段を登っていく。薄暗い牢獄には、1人の男の声と鉄格子を叩く音とが虚しく反響するだけだった。
「む、どうかしたか、聖女殿」
シグルドは背後から歩いてくる気配を察知し、そう声をかけた。気付かれたジャンヌは少し驚きつつも返事をする。
「……あ、シグルドさん……。すいません、急に目が覚めてしまって」
「ふむ。……ならば、ドクター・ロマンを見習うべきだな」
シグルドは、ジャンヌの言葉を受けスクリーンを見ながらそう言った。
そこには睡魔に負けデスクに突っ伏しているロマン教授の姿があった。頬杖を着いていたのがきっと悪く働いてしまったのだろう。
「あはは……そうかも、しれませんね」
「……何か、思い詰めておられるのか」
「え……?」
「当方の目には、今の貴女はそういう風に見える」
シグルドのその見透かしたような言葉に、ジャンヌは一瞬怯む。しかし、他の誰にも聞かれる心配は無く、また英雄として信頼できる彼だからこそ、彼女は胸の内を明かすことにした。
「……きっと、私はこの国を……愛すべき人たちを守り導くために召喚されたのでしょう。……貴方は私を聖女と呼ぶけれど、私が生前抱いた夢は多くの人々に血を流させ、そして憎悪を──あの魔女を産み落としてしまいました。……なら、私は何者なのでしょう。罪深い夢を語って人々を誑かした魔女? 救国という大義に溺れて畏れを忘れた愚かな小娘? それとも──」
ジャンヌは胸を押さえながら、とつとつとそう話す。少人数とはいえ、焼却された人々の遺体と向き合い、弔い、祈った彼女は、自身に潜んでいたものがそのおぞましい光景を作り出したのか、と思わざるを得なかった。自身の過去を疑わざるを得なかった。その念は彼女の首を緩やかに、しかし確実に締め付けていた。
「……自身が何者なのか、何が正しいのか。たしかに難しい命題であるな」
彼はジャンヌの言葉にそう返答する。そしてほんの少し思考のために沈黙すると、そのまま続けた。
「だが、自己という存在を最後まで肯定し、自らの手でそれを証明した者を当方は知っている」
「…………」
「当方はこの地に5日前に召喚された。無論ただ放浪していた訳でなく、竜の魔女を打倒すべく各地の勢力を削いで回っていた。そこで出会ったのが彼の者──名を、『エリザベート・バートリー』。彼女は竜の魔女のサーヴァントとして召喚されていた、未来の彼女『カーミラ』伯爵夫人を打ち倒し、そして消滅した。彼女は、例えそれが未来の自分であったとしても、そうはなりたくないと声高に叫び、真正面から否定し、そして掴み取ったのである」
「…………」
「己を信じる。己が信念を貫く。容易なことでは無いが、貴女はそれができる強さを持つ人間であると考える。少なくとも、当方は
「…………っ」
ジャンヌは、彼の言葉をただただ聞いていた。そこ言葉を飲み込むには、少々の時間を必要とした。ただ、彼の思いやりがじんわりと心に染み込んでいくのを感じていた。
「……えと、ありがとう……ございます。少しだけ、迷いが晴れた気がします。まだ答えは出せませんが、それでも──」
「そうか。少しでも役に立てたのならば何よりだ」
「…………ふふ。ほんと、謙虚な方ですね。あの、もしよろしければ、エリザベートさんのお話を……もう少し、詳しく聞かせて頂けませんか?」
「……承諾した。語り下手な当方でよければ、彼の者の戦いを、武勇を詠おう」
「ええ、お願いします」
ジャンヌはカンテラを挟んだ彼の向かい側に腰を下ろし、その声に耳を傾けた。
1人の男の低く落ち着いた声が、1人の女の武勇を紡いでいく。高飛車で、傲慢で、愉快で。変えることのできない未来の自分を突きつけられ、それでも尚その未来を否定し
2話連続でモルガンもウルトラマンも出てこないカルデアパートってマジ?
尺の使い方絶望的に雑魚すぎるくないこの人?