人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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V! V! V! ビクトリー!
どうも、イベントクエストの第7節が尊すぎて先に進めない人です。
なんと言いますか、もう一生、藤丸君とモルガンにはイチャイチャしててもらいたいですね。
ところで皆さんは水妃モルガンは召喚できましたか? 自分は無課金勢だった(意味深)のですが、無課金で手に入れれる石のほとんどと、いつかモルガンの新規霊基が来るはずと貯めていた石を全て使った結果、天井しました。宝具レベルは1止まりでした。せめて……2に……したかった。
でも水妃モルガンが尊すぎるのでおっけいです。


episode.9 re:揺れ動くもの ─トラスト─

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……

 


 

【第9節】

「──だからね、恋をすることって大切だと思うの!」

 

「だから何の話だ。さっきからしつこいぞ」

 

目が覚めた後、私は現在地に見当をつけるために高台へと登り周囲の様子を確認していた。……のだが、何故か追走してきたマリー・アントワネットに恋だの愛だの、ごちゃごちゃと訳の分からぬことを聞かされていた。

話を聞く気は無い、と何度も言っているのに全く退く気配がない。むしろエスカレートする勢いだ。

 

「私はもう、恋をすることも無ければ何かを愛するつもりも無い。分かったならとっとと立ち去れ」

 

「んもぅっ、頑固な人ね!」

 

「こちらの台詞だ、まったく」

 

頑なに話を聞こうとしない私に対抗するかのように、マリーも負けず劣らずの頑固さで食い下がってくる。

こちらは既に周囲を確認し、端から土地勘も何も無いこともあるが見ただけでは判別がつかず(遠く離れていなければ、森での戦闘の跡などを確認できたのだが)、足で調査することを決めた。が、何としても行かせてくれる気はないらしい。

 

「恋もしない、何も愛さないなんて、人生の9割を損しています! どうか考えを改めてくださいな!」

 

人生の、ほぼ全て──?

 

「………黙れ」

 

「え……?」

 

「黙れ。私はもう、何も愛したくない───!!」

 

「あぅ……」

 

マリーが怯んだ隙に、私は装備を回収するために、くるりと踵を返して村の方へと向かう。

 

「……私たちを保護してくれたことは感謝している。だが、その恩にかまけて人の内を荒らすような真似はするな。それと案内は不要だ、自分の足で歩いた方が早い。情報の共有がしたくばマスターとしろ。ではな」

 

不安げにこちらを見るマリーに私はそう言い残し、振り返りもせずその場から立ち去った。

 

自分でもよく分からないほどに、私はやけに苛立っていた。いつもであればあのような戯言を真に受けることも無かったはずだ。苛立ちの理由を知ろうとしても、他人の内を暴くこの妖精眼()は、自分の内だけは暴いてくれない。

……不便なものだ。マリーが心から「()()()()()()()」ことをありありと突き付けてくるくせに、自身のわだかまりの補完は何一つしてくれないのだから。

とにかく、今はじっとしている心境ではとてもなかった。

 

「こっちか……」

 

自身の装備が出す魔力反応を追い、私は村人が好奇や懐疑の視線を向けてくるのを無視して村の中を進む。そして発生源となっている家の前に着くと、扉に手をかけようとした。が、

 

「お母さんのバカ! べーっ、だ!!」

 

内から扉が開き、中から1人の幼女が飛び出してきた。咄嗟に回避すると、その幼女は振り返りもせず何処かへと走り去っていく。

そのほんの少し後、家の中から心配そうな面持ちで、大きく腹の膨らんだ女性──妊婦、というやつか?──が出てきた。

 

「待ちなさい『アニー』! ああっ……!」

 

身篭っているためか満足に動けないようで、彼女は家の前でつまづく。腕を掴んで体を支えてやると、彼女は小さくよろけた後に体勢を立て直した。

 

「す……すみません、助かりました。あの子、ぶつかりませんでしたか?」

 

私は首を横に振って応えると、彼女はホッと息をつき、アニーと呼ばれた幼女が走っていった方向をみて今度は小さく溜息をついた後、私の方へと向き直った。

 

「ええと……旅のお方、でしたよね。お騒がせしてすみませんでした。あの、お体の方はもう大丈夫なんですか? 結構な重体に見えたんですが……」

 

「ああ、問題ない。それより、私の服を保管しているのは貴女か?」

 

「あ、はい。なんですけど、すぐにはお返し出来ないというか……。とりあえず中へどうぞ」

 

彼女の誘導に従い、私は家の中に入る。農村といった村の雰囲気に違わず、豪華なもの、華美なものの無い質素で庶民的な家だった。

 

「どうぞ、お掛けください」

 

私は彼女に言われるまま椅子に座り、自然と足を組んだ──いつの頃からか身に染み付いていた癖のようなものだ──。

彼女は机の上に置いてある私の服を手に取ると、私の正面にある椅子に座った。

 

「これ、ですよね。すごく傷付いていたので少し補修してたんですけど、まだ間に合ってなくて……」

 

ふむ。たしかに私の服はランスロットめの銃で貫かれ、右腕の袖もまた奪われたナイフの投擲によって穴を穿たれていたな。だが……。

 

「随分と達者な腕だ。上手くやる」

 

「あ、そうです? ふふ、実は村で1番お針子には自信があってですねっ」

 

その発言に違わず、補修された痕はほとんど目立っていない。通した糸なども目立たないように工夫されており、彼女の腕が窺える。

……魔力を通せば勝手に直るものだが、それを言うのは些か野暮が過ぎるというものだ。無駄は嫌いだが、努力を無下にするほど私も落ちぶれてはいない。

 

「えと、それでですね、見慣れないつくりの服でしたしすごく傷付いていたので、まだ終わってないんです。何かお急ぎのご用があるのでしたら、間に合わせで凌ぎますけど……」

 

「いや、いい。少々気が変わった。しばらく貴女の作業を覗かせてもらうことにする」

 

どうせ、今周辺を調べてもマスターがあのような机上でうなだれるポンコツになっている以上は、身動きなど取れもせぬだろう。

 

「え……ええ!? そんな、わたしの作業なんか見てても、面白く……ないですよ?」

 

「構わぬ。なに、邪魔をしようという訳ではないのだ。それとも、何か見られては困ることでも?」

 

マスターの地元にはそのような童話があると聞く。たしか、『鶴の意趣返し』といったか。

……微妙に違う気もするが、今はどうでもよいことだ。とにかく、私はその裁縫の作業が見たいのだ。

 

「いえ、そんなことは……。まぁいっか。あ、後から退屈だーって言われても知りませんからね!」

 

そう言うと彼女は背後の机に振り返り、器用に針に糸を通す。素早く玉結びを作ると、既に裁断してある黒い布地を服の脚部の裏から縫い付けていく。

 

「き、緊張しますね、誰かに見られてると……」

 

その言葉とは裏腹に、彼女の手つきにはほとんど淀みが見られない。スイスイと、軽やかな手つきで作業は進んでいく。

 

───やはり思い出す。私の、小さな小さな、けれどかけがえも無く大切な友人のことを。初めての上出来の作品を、ぼろぼろと泣きながら自慢してきた日のことを。

”いつか私も、彼女が作った服を着てみたい”と願ったのは、いつだったか───。

 

……今の私では、到底似合いませんね。

 

過ぎ去った時は戻らない。やり直しはきかない。何度も何度も突きつけられた事実だ。

そんな幼い願いも彼女という友人も切り捨て、あらゆる手を尽くして玉座に君臨した。そんな私では、純粋無垢で真っ直ぐな彼女の()を着るに値しないのだから。

 

───ああ、それでも。かつての友人を想うなど玉座では1度も出来なかったこと。

存外に、面白いものだな。

 


 

「う~ん、ちょっと休憩ー……。って、ほんとにずっと見てたの!?」

 

「ええ、中々に楽しませてもらいました。礼を言います」

 

「そ、そうですか。それならよかったです(変わった人だなーこの人……)」

 

変人だと思われていることを妖精眼で見抜き、まぁ妥当かと思いつつ改めて部屋を見回した。よく見ると、半ば程開いたタンスや棚の中にある衣服はほとんどが彼女が作ったもののようだ。その中に1つ、作りかけの服が見えた。

 

「これは……」

 

「あ、それはですね──」

 

彼女は椅子から立ち上がるとこちらに歩み寄り、その服を手に取った。

 

「もう少しで誕生日なんです、あの子。『アニー』っていう名前で。最近はこの体ですから遊んでもあげられないですし、いつもあの子に作る服も質素なものばかりですから、とびっきり良いのを作ろうと思って」

 

彼女は服を優しく撫でた。

 

「……この布地、わたしの夫が遺してくれた物なんです。夫はお国のために兵士として働いていました。最後に帰ってきたときに、”とびっきり良いのを買ってきたぞ”って」

 

彼女は優しい顔にどうしようもない悲しみをたたえて、ひどく寂しげに微笑む。

 

「……竜か」

 

「いえ、戦争です。休戦間近というときに、戦闘で命を落としてしまったそうです。……結局、休戦も叶いませんでしたが……」

 

「……そう、ですか」

 

竜に殺されたのであれば。竜の魔女の手にかかったのであれば。特異点の修正に伴い彼女の夫は生存できたのかもしれない。だがそれが異常の生じる前であるなら、決して覆ることはない。過ぎ去った時は戻らない。きっと、彼女の胸に残るのはどうしようもない悲しみだけ。

 

……ならば、やはりそうなのだ。

愛とはいつも、自身を傷付けるものでしかない。何もかも大切なものを奪い去っていく呪いでしかないのだ。

そうだ、私には愛というものなど───。

 

 

「───でも、わたしは。彼を愛して良かったって、心からそう思うんです」

 

「……なに?」

 

「昔から世話焼きな人で、生まれつき体の強くなかったわたしを、両親以上に気遣ってくれてました。それに、わたしが裁縫をするようになったのも彼のおかげなんですよ」

 

彼女は作りかけの服を1度置くと、棚の引き出しを開いて、中から手のひらほどの大きさの箱を取り出した。その中には、細かい傷にまみれて先端の折れた針と、穴だらけでボロボロに崩れた針山が入っていた。

 

「これ、10歳のときに彼が街行きの荷車に忍び込んで、そこで買ってきてくれた物なんです。わたしの誕生日の贈り物に、って」

 

彼女は箱を閉じるとそっと胸に抱きしめる。そしてくすくすと笑いながら続けた。

 

「でも、彼ったら帰りの荷車に乗り損ねて、それに気付いた村の人が街まで戻ったら、それはそれは大泣きだったらしいんですよ。……そういう向こう見ずな所も、好きでした」

 

「……………」

 

「ああっ、ごめんなさい惚気話なんて……!」

 

私の沈黙を退屈と勘違いしたらしい彼女は、箱を引き出しの中に仕舞うと慌ててそう言った。

 

「いえ、よいのです。貴女は夫を……愛していたのですね」

 

私の反応が予想外だったのか、彼女は一瞬きょとんとしたものの、すぐに頷いて答えた。

 

「……はい。そんな彼との間にできた子ですから、アニーも、この子も、わたしは大好きなんです」

 

彼女は大きく膨らんだ腹を愛おしそうに優しくさする。

 

「彼はもう、いないけれど……。でも、彼がわたしにくれた愛は、何一つ無くなってなんかないって、そう信じてます」

 

愛は、無くならない……?

 

「わたし今、幸せですから。そして、この幸せをくれたのは彼だから。だから……そうなんですよ、きっと。ううん、絶対に」

 

彼女はそう言うと柔らかな笑みを浮かべた。そこに先のような悲しみは無く。ただただ、愛している。幸福を噛み締めている。……初めて見る類の顔だった。

 

「…………」

 

何を言えばいいのか。どう考えたらいいのか。

分からない。知らない。理解できない。

 

それなのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。胸が苦しいのだろう。

どうしてこんなにも、()()()()と思うのだろう。

愛なんてもう信じないと、そう誓ったはずなのに。愛のせいで、いつもいつも辛い思いをしてきたのに。

 

「……なーんて言いつつ、さっきまでアニーと喧嘩しちゃってたんですけどね!」

 

彼女は、あはは……、と苦い笑い声を上げた。

あまりにも不可解な言葉を受け混乱する私の頭は、彼女のその苦笑に逃げ道を見出したようだった。

 

「娘は……迎えに行かなくてもいいのですか」

 

「えっと、迎えに行きたいのは山々なんだけど……。多分だけど村外れの森まで行っちゃったと思うんです。あまり無理がきかない体なもので……」

 

「……そうですか。では代わりに私が迎えに行きましょう。貴女には服の補修の恩がありますので」

 

「え!? いやそんな、お気遣いなさらなくても! ……ほんとに、いいんですか?」

 

おどおどとした様子で尋ねてくる彼女に、私は黙って首肯した。すると彼女はむむむっといった感じで唸った後に続けた。

 

「じゃあ、お願いします。心配なのは本当ですし、改めて話し合いたいな、と思うので」

 

「ええ、任せなさい」

 

「あ、あとこれを。貴女がたが持っていた物もわたしが預かってましたので。なんというか、やっぱり見慣れない物ばかりですから、改めて田舎者なんだな~って……」

 

田舎者というか、私たちがこの時代にそぐわないだけなのだが、言ったとて伝わるものでもないだろう。だから、とりあえずそれは言わずに彼女から装備の入った袋を受け取った。

 

「礼を言います。では、私はこれで。アニーのことは任せておくように」

 

私はあくまで冷静さを欠かないように努めながら、それでも少し足早に扉へと向かう。そこに手をかけると、

 

「あっ、わたし『ゾーイ』っていいます。あなたのお名前は?」

 

……そういえば、互いの名も知らないうちに交流していたのか。私としたことが、とんだケアレスミスを。

しかし、真名をそのまま伝えるのはこの場においては悪手に思える。私も魔女としては名の知れている部類だろう、無闇な暴露は危険だ。とはいえバーサーカーでは通りも悪いはずだ。なら……。

 

「そうですね、……では、フェイと呼びなさい」

 

「分かりました。フェイさん、アニーをよろしくお願いしますね」

 

ぺこりと頭を下げる彼女に、私は返事もせずにただ頷き、外に出た。後ろ手に扉を閉めて深呼吸を1つすると、先程までの胸の苦しさは消えていた。

……そうだ。迷うことも惑うこともない。私は私の正しいと思ったことを貫くだけだ。ほんの一瞬の気の迷いに過ぎないのだ、先の感情は。

そう自分の中で結論をつけ、私は丘の裏手にあるという森へ向けて歩を進めた。

 

「む……」

 

その途中、机にうなだれるマスターの姿を見かけた。すると途端に、少しの苛立ちが戻ってくる。相変わらず、理由も分からないままだ。

 

……私は一体、何に苛立っている?

あのポンコツに命を救われたことか? いや。

マリーに愛を説かれたせいか? いや。

思うように臣下が働かないことか? ……いや。

ふと、彼は私に気付いているのかいないのか知らないが私と目を合わせた。やはりウトウトとしているのかそれも一瞬で、彼はすぐに瞼を下ろして再び机に突っ伏した。

 

……或いは、私は苛立っている訳ではないのかもしれない。一種の拒否反応、アレルギーのようなものなのではないだろうか。

だって、私にとって彼は───。

 

「……ああ、アニーを迎えに行かなければ。遅くなればゾーイも心配するでしょうから」

 

自分にそう言い聞かせ、私はまた足早にその場を後にした。

頭の片隅に、彼の青空を宿した瞳が焼き付いたまま。

 


 

「どうしよう、迷っちゃった……」

 

村はずれの森の中、1人の幼女が帰り道を見失って途方に暮れていた。何度も行き来した道が、どうにも見当たらない。

 

(……やっぱり、やめておけばよかったかな)

 

いつもであれば踏み込まない奥地へと、今日の彼女は進んでしまっていた。風に乗って、何か嗅ぎ慣れたことのない変な匂いが奥の方から漂ってきて、好奇心に駆られたからだ。せめて目印をつけておけばよかったのだが、年端もいかない幼子がそれを思いついたのは後になってからだった。

次第に日も暮れ始め、辺りは少しずつ暗さを増していく。そうするとより一層帰り道が分からなくなり、彼女は目に涙を溜めながら歩いた。いつ泣き出してもおかしくないだろう、そんな状態で歩き続けていると、

 

(……あれ、誰かいる?)

 

バキッ、という木の枝(にしてはやけに音が重い)を踏み折るような音がして、もしかしたらお母さんが迎えに来てくれたのかもしれない、という期待を胸に彼女は飛び出した。

しかし……。

 

「お母さ………ひっ!?」

 

そこにいたのは、竜だった。迂闊にも声をかけながら飛び出してしまったため、それはすぐに彼女に気付き、じりじりとにじり寄って来る。

 

「あ……あ……」

 

今まで歩き詰めだったこと、そして目の前の怪物への恐怖とが重なり、彼女はへなへなとその場に膝をつく。竜は低い唸り声を上げながら尚も歩み寄ってくる。その鋭い口から漂う硫黄の臭気が、彼女が追っていたものの正体をここに明かしていた。それは彼女のすぐ傍まで接近すると、大きく口を開き───。

 

(助けてっ、お父さん……!!)

 

───そのまま、倒れ込んで事切れた。

 

「え……!?」

 

よく見ると、それは背中が大きく抉れ、そこと口から大量の血を垂れ流している。

幼女に見せるにはあまりにグロテスクなその光景は、助かったはずの彼女の体をガタガタと震わせ、恐怖に怯えさせるには十分なものだった。恐怖に染まった体は、近付いてくる足音と声を敏感に捉えた。

 

「やはり攻撃性が低いですね。しかし素早くて耐久力が高い、と。……この個体も、斥候といったところですか」

 

竜の背後から、そう呟きながら1人の女性が歩いてきた。

森の清流のように透き通る声、風にたゆたう銀の長髪、そして女の子ですらも見惚れてしまいそうな美貌。もはや森の妖精のようにしか見えないその女性は、竜を倒したことをさも当然のことであるかのように平然とこちらに歩いてくる。最初は竜の死骸を改めに来たようだったが、その陰になっている幼女を見留めるとそちらへと目的を替えた。

 

「貴女がアニー、ですね?」

 

「あ……ぅ……うん、アニー……」

 

「無事のようですね。ゾーイ……貴女の母が心配していますので連れ戻しに来ました。すぐに村に戻りますが、よろしい?」

 

「……あ……はぃ……分かった、です」

 

目の前の女性が差し出した手に掴まって立とうとしたが、彼女の足はガクガクと震え、そして生暖かい液体が伝っていく。羞恥に頬を染め、彼女は女性から手を放してその場にもう一度座り込んだ。

 

「おや、立てませんか」

 

「……そぅ……じゃなくて……あの……」

 

恥ずかしさと、襲われそうになった恐怖と、帰り道を知っている人と会えた安心とがごちゃごちゃになり、彼女は泣き出してしまう。

突然のことに女性は目をぱちくりとさせ、しばらくは様子を見ることになった。

 


 

「ごめんなさい……」

 

「謝るべきは私ではありませんよ。村まではもうしばらくかかりますから、それまでに貴女の母への弁をまとめておくように」

 

私にしがみつくようにしておぶられているアニーが、しおらしく小さな声で謝るのに対してそう返答すると、彼女は泣き腫らした目を閉じて私の背にうずくまった。

彼女がひとまず落ち着いた後、彼女の恐怖の証を近くに流れていた川で洗い流し、竜の翼膜から作成した簡易的な外套を羽織らせて背負い、今に至る。

 

「お母さんなんか……きらい」

 

アニーが、顔をうずめたままそう呟く。

随分と可愛らしい嘘をつくものだ。私の目には全く逆のことがはっきりと見える。

それを指摘してもよかったが、敢えて言わずにいることにした。

 

「そんなことを言えば、貴女の母が悲しみます。本人には、言ってはなりませんよ」

 

「…………」

 

アニーは何も言わず、ただ私の背中の服をぎゅっと握りしめた。

 

その少し後、歩き疲れと泣き疲れ、そして緊張が解けたのとが重なったようで、彼女は私の背中で眠りに落ちたようだった。

穏やかな寝息、背中から感じる小さな体温。

 

───ほんの少しだけ。ほんの少しだけ、”あの子”の事を思い出す。

このような穏やかな時を、もっとあの子と過ごせたのなら。

しかし、そんな考えを私はすぐに放り捨てた。過ぎ去った時は戻らない。もう、何をしようと意味は無い。考えるだけ、無駄というもの。私は無駄が嫌いだ。……嫌いなのだ。

 

…………それは、それとして。

 

「お母さん……抱っこぉ~……」

 

「……ふ。本音がだだ漏れですね」

 

愛いやつよ。

 


 

「あっ、フェイさん!!」

 

村に戻る頃にはすっかり辺りは暗くなり、不安に駆られたのかゾーイは家の前でうろうろとしていた。そして私を見留めるとすぐにこちらに声をかけた。

 

「今戻りました。少々遅くなりましたが、この通り無事に。アニー、着きましたよ」

 

「うんぅ……おうち?」

 

私はアニーの体を揺すって起こし、家に入るとベッドに彼女を座らせる形で降ろした。

 

「ああアニー、アニー……! 心配したんだから……! 大丈夫? 怪我してない? 具合は悪くない? ああ、お腹空いたよね、ご飯用意してるから一緒に食べよう!」

 

「お母さん、苦しいよっ……」

 

私がアニーを降ろすや否や、ゾーイはアニーをぎゅっと抱き締め、涙を溜めながらまくし立てるようにしてアニーに言う。

そして苦しいと言いつつも、むしろ嬉しそうな顔をして抱き締め返すアニー。

数十秒ほどそのままの状態が続き、ようやく落ち着いたらしいゾーイが私の方を向く。

 

「フェイさん、本当にありがとうございました。あなたが出発した少し後に、森に竜が出た、って話を聞いて、不安で不安で……。あなたが居てくれて本当によかった」

 

ふむ。村にマリーたちの魔力反応が見当たらないと思ったら、見回りにでも行ったか。私も何体か討伐してきたが、まだ残っているやもしれぬ。攻撃性は低い傾向にあったため、直ちに危険が生じる心配は無さそうだったが。ともあれ、

 

「そうですか。であれば、私も足を運んだ甲斐がありました」

 

「あの、よろしければお礼も兼ねてご夕飯、食べていきませんか? だいぶ遅くなっちゃいましたけど……」

 

「礼には及びません。そもそも、貴女への恩を返すために向かったのですから。それとせっかくの誘いですが、今は遠慮します。少々、やるべき事がありますので」

 

「……そうですか。じゃあ、服の修復は任せておいてください! 明日には完璧に直してみせますから!」

 

「ええ、期待していますよ。では、私はこれで」

 

「ばいばい、妖精さん。助けてくれてありがとう、今度一緒に遊ぼうね!」

 

ゾーイが頭を下げ、アニーが手を振りながら見送る中、私は外に出る。

 

空には多くの星々が瞬いており、丸い月が周囲を朧気に照らしていた。

私は夜風を浴びながら、昼間に周囲を見渡した丘の上へと再び登った。

 

……斥候と思しき竜がいた、ということは。この村も、既に竜の魔女に狙われているということだろう。まだ様子見をしている段階だろうが、近いうちにこの村も危険に晒されることになる。

出来ることなら、そうなる前に竜の魔女を───。

 

「……? 私は一体何を……」

 

そのようなことは。そんな、善人のようなことは、考えることが無くなって久しい。

……誰かを、自分以外の誰かを、守りたいだと? 何故だ。何故、今更そんな感情が……。

 

「……分からない、か」

 

昼間の苛立ちの原因も、今のこの感情の原因も分からない。私はその複雑な心持ちのまま、夜空を見上げた。

 

【挿絵表示】

 

初めて知った(或いはもう忘れてしまった)、人の愛。うわべだけの言葉ではなく、心の奥底からの嘘偽りのない愛情。

愛などもう信じない。もう、何も愛したくない。そう願っているのも1つ事実。しかし、どうしてか彼女らの愛は───()()()()と、思ってしまうのだ。

今までの自分を、自身で裏切っているかのような感覚。それがどうにも、私には気持ちの悪いものだった。

 

……裏切り。もしかすると、それなのかもしれない。

あの時、私はマスターの援護やマシュ、ジャンヌとの連携を無視して突貫した。そして、その前には彼の意志と信条を、土足で踏みにじった。ある意味では、彼を裏切ったとも言えるのではないか。

だって。私は魔女で、凍て刺す冬の嵐で。そして……卑しい罪人なのだから。

 

───それなのに。彼は命を賭して、拙い魔術回路をあれだけぐちゃぐちゃにして、身体をボロボロにして。そこまでして、私を助けた。彼にとって私は裏切り者で、助ける理由も無いはずなのに。

或いは。それが彼の性質なのか。誰であれ、仲間であれば、守るべきものであれば、手を差し伸べるのか。

……そんな底抜けの善性は、真っ直ぐさは、勇気は、あまりにも───。

 

───そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

私の脳裏には、目には、まるで太陽の残像のように彼の瞳が焼き付いて───。

 

「誰だ」

 

ふと、背後に足音と気配を感じて振り返る。と、そこには。

 

「……マスターでしたか。何か用でも?」

 

噂をすれば、か。

 

「あ、いや……中々帰って来ないから、ちょっと心配で」

 

そのボロボロの身体で、杖に身を委ねるほどに弱っているその身体で、私の様子を確認するためだけにわざわざここまで?

……なんなのだ、この男は?

 

「私なら問題ありません。用が無いのなら、さっさと休みなさい」

 

いつこの村が襲われるか分からぬのだ。マスターには一刻も早く身体を治して貰わなくては困る。私は彼から視線を逸らし、背を向けた。さっさと帰れということを態度で示すためだ。

 

「……ねぇ、まだ怒ってる……?」

 

それでも彼は私に声をかけてくる。

怒るだと? 何故私が貴方に対して怒らねばならない? むしろ、怒るべきは貴方の方だろうに。

 

「何がです。私は何も、怒ってなどいませんが」

 

怒るべきマスターの方が私の機嫌を伺うという状況に、私は小さな苛立ちすら覚えながらそう言い放つ。

 

「……………ごめん」

 

「だから、何の話です」

 

それでも彼は、今にも消え入りそうな小さな声でそう言った。何故謝る? 貴方が謝るなど、お門違いも甚だしいというのに。

どうして、貴方は───。

 

「本当に、ごめん。俺、何も分かってなかった。意地になって、君の言う事を何も聞こうとしなかった。でも、これだけボロボロになってようやく分かったよ」

 

彼は、さっきの消え入りそうな声とは全く違う、はっきりとした声でそう続けた。

……彼に私を責める気が無いのなら。せめて、私は彼の言葉を受け止めなければならない、ということか?

私は振り返り、彼の瞳を覗き込む。相も変わらず、澄んだ青空がそこにあった。

 

「君の言う通り、俺はただの人間だった。少し無茶しただけでこのザマで、結局君を守ることなんて1人じゃ出来なくて……。でも、でもさっ」

 

彼はそこまで言うと言葉を区切り、1歩私の方へと足を踏み出した。彼の青空が、私のすぐ傍までに近づく。手を伸ばせば、きっとその空に手が届きそうだ。

 

「『たった1人じゃない』って、あの時君が言ってくれた言葉がさ、俺はすっごく嬉しくて。それが無かったら、きっと俺は走り出せなかった。だから……、俺も君をひとりぼっちにさせたくなくて、空回ってた。それでも、君を守りたいって気持ちだけは、絶対に嘘じゃない」

 

……ああ、本当に。貴方は、どうしてそんなにも───。

 

「だから……。こんな俺でも、マスターって呼んでくれるなら。俺と一緒に、戦ってほしい。今更、だけどさ」

 

貴方はどうしてそんなにも、私に寄り添おうとするのですか。

突然私と彼との間を吹き抜けた比較的強い風が、彼の体幹を崩した。私は咄嗟に手を伸ばして彼を支える。

 

「怒ってなどいないと、言ったではないですか」

 

彼が私を責めないのなら。私は彼を認めましょう。言葉で伝えましょう。彼の無辜の罪悪感を、私が壊しましょう。

私が出来ることなど、壊すことしか無いのですから。

 

「それに、貴方が私を守れなかったなんて、そんなことはありません。あの時確かに私の命を救ったのは、紛れもなく貴方の勇気でした。…………かっこよかった、ですよ」

 

「─────」

 

【挿絵表示】

 

ふふ。貴方も、可愛い顔をするのですね。

 

「『貴方らしさを大事にしろ』と言ったのも、私でしたね。貴方らしさがそれをさせるなら、それを支援するのがサーヴァントたる私の役目でしょう。ええ、共に。共に手を取り戦いましょう、我がマスター」

 

私は彼の体勢を立て直すと、そう続けた。

彼の瞳が少し潤い、端にはしずくが溜まっていた。嬉しいときは、人間は涙が出るのですね。ゾーイも、アニーもそうでした。

しかしそれも一瞬に、彼の顔はその瞳のように晴れ渡る。

 

「……! うん、ありがとうモルガン!!」

 

彼の顔にあった翳りは消え、そこにあるのはいつもの彼の、能天気が似合う笑顔だった。

……能天気なのは構いませんが、大切なことを忘れているようですね。

 

「……ところで、マスター」

 

「うん? 何、モルガン?」

 

この、愚か者(ポンコツ)め───!

 

───私が彼を愛することは無い。彼に恋をすることも、きっと無い。

けれど、けれど。今は彼の、馬鹿らしいほどのお人好しを。彼の、真っ直ぐで晴れ渡る瞳を。

……信じてみようと、思うのだ。

 

そして、彼との何でもない時間が過ぎていく。

その裏で、失意へのカウントダウンが刻一刻とその数を減らしていることに、私も彼も気が付かないまま。

 


 

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……




あ、episode.6の最後らへんにもしれっとサイレント修正を加えました。興味がある方はどうぞ。拙いものですが。
それにしても夏祭りといい今回のイベントといい、公式からの供給が多くて脳が溶ける……
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