人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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試験ラッシュ、再び。という訳でだいぶ遅くなってしまいました。本当に申し訳ない。え? いつも遅いだろって? やめてください刺さりすぎて死んでしまいます。
それはそうと、モルガンのピックアップが来るぞーー! 私、実はバーサーカーの方のモルガンは無課金で宝具5、レベル120、フォウくん全盛り、コマンドカード全強化済にできているので(これは自慢です、誰に何と言われようとこの称号だけは墓まで持っていく)、今回でもう1人当てることが出来ればアペンドも全開放のパーフェクトモルガンにできる……!! 水妃モルガンでのバッドラックが、こっちに回ってくれることを祈るばかりです。


episode.11 炎 ─アヴェンジャー

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……

 


 

【第11節】

「マスターは距離を取って遮蔽の裏へ。ワイバーンたちの攻撃も考えられますので、一箇所に留まらず位置を変えて対応しなさい」

 

「了解! 気を付けて、()()!」

 

「──ふ。任せておきなさい、我が臣下よ。貴方には援護の片手間に玉座の支度を命じます」

 

「それは無理かなぁ!」

 

俺はモルガンとそう言葉を交わした後、広場を抜けて比較的火の手が回っていない家屋の裏に滑り込む。そして振り返って見ると、既に彼女と竜の魔女との戦闘が始まっていた。

 

竜の魔女が戦旗を掲げると、モルガンの足元から巨大な火柱が立ち上がった。彼女は素早くサイドステップして回避し、着地と同時に杖を黒剣に変形させ下手から斬り上げる。刀身から斬撃波が飛び竜の魔女へと一直線に向かうが、奴の戦旗で弾かれ、軌道の逸れた斬撃波は奴の後方に居たワイバーン数匹を両断して消滅した。

 

「これならどうかしらっ!!」

 

そしてそのすぐ後に、竜の魔女は戦旗に炎を纏わせてモルガンへと接近し、両手で横に一薙ぎする。モルガンは即座にかがんで下を潜り、それと同時に地面に左手を沈み込ませ、左手を黒泥で覆った。そして彼女に向けて竜の魔女が振り下ろした、燃え上がる戦旗を左手で受け止める。

そのまま、彼女は黒剣が一瞬輝くと同時にを突き出すも、竜の魔女はその刺突を見切って蹴り上げ、黒剣は彼女の手から空へと舞い上がった。

 

「ワイバーン!!」

 

すかさず竜の魔女がワイバーンに指示を飛ばし、ワイバーンはその命令通りにモルガンの黒剣を咥え取った。

 

「ちっ……!」

 

モルガンは小さく舌を打つと、屈んだまま竜の魔女に足払いを仕掛けた。剣を見上げていた竜の魔女は咄嗟には回避出来ずに足元をすくわれ、戦旗を手放してその場に転倒する。

そこにモルガンが奪い取った戦旗を突き刺そうとしたが、

 

「ふっ!」

 

瞬時に受身を取っていた竜の魔女は足を突き出してモルガンの腹部を捉え、そのまま彼女の勢いを利用して空中へと投げ飛ばす。モルガンは竜の魔女の上を飛び越えて後に着地し、燃える戦旗を自身の後方へと放り投げた。両者とも武器を失い、素手で相手と向き合う。

とはいえ、両者とも魔術の心得を持つ者。ステゴロで徒手空拳ということは当然なく、触媒を用いないでの魔術合戦の開幕となった。そして同時に、

 

「待てコラー!!」

 

モルガンの黒剣を咥えたまま旋回するワイバーンと俺との、壮絶な死闘(笑)が繰り広げられていた。他のワイバーンたちは待機を命じられているのか、他の場所の襲撃を命じられているのか消極的で、俺もモルガンも実質的な一騎討ち状態だ。しかし、

 

「ほらほら、逃げてばかりじゃなくて少しは反撃してみなさい!!」

 

「おまえこそ1発くらい当ててみたらどうだ? まるでズブの素人のようだがな」

 

魔力に糸目をつけずに火柱を乱立させる竜の魔女と、今にも枯渇しそうな魔力でやりくりしているモルガンとでは、当然撃てる魔術に差が生じてしまう。彼女は火柱の隙間を上手く縫って回避したり、最小限の魔力消費で済むようにして相殺させたりと、技術でカバーして被弾を抑えているもののやはり反撃には転じ切れていない──それでも焦りや苦しげな表情を1つも漏らさないのは彼女の精神性の強さからか──ため、このままじゃ埒が明かない。

せめて武器があれば近接でのアドバンテージと、彼女の場合は魔術の選択肢が増えるという利点もあるが……。

 

「ちくしょー! 降りて来ーーい!!」

 

俺の方も空を飛ぶワイバーンに追い付く手段などなく、結局は指を咥えて見ていることしか出来ない。どうすればあれに手が届くんだ?

ウルトラマンに変身……は無理だ。体力的な問題もあるが、そもそも1度変身した後は一定時間のインターバルが必要だ。実際にそういう事態に出くわした訳じゃないが、何故かそうだと分かるんだ。ともかく、連続しての変身は出来ない。

じゃあ、石ころでも投げ付けてみるか……いやいや、それこそ現実的じゃない。あの高さまで威力を持たせてぶん投げるほどの膂力なんて俺にある訳がない。

一体、どうしたら……!

 

「フォウ、フォー、フィーウ!」

 

その時、足元からフォウくんの小さな鳴き声が聞こえてきた。

 

「フォウくん! 良かった無事で……って、それってまさか!」

 

彼の無事を喜びつつ抱き上げると、彼は何か白い服の切れ端のようなものを咥えて持ってきてくれていたようだ。それを受け取って見てみると、

 

「やっぱり、俺の制服! ほとんど燃えちゃってるけど、使えるかも! フォウくんナイスありがとう!!」

 

俺はフォウくんの頭をわしゃわしゃと撫で回したあと、制服の切れ端を左腕に巻き付けて魔力を通してみた。すると、奇跡的に生きていた魔術回路に当たる。

 

「この感じ……瞬間強化か! よし、これならいけるかも……!」

 

チャンスは1回。礼装のCT(チャージタイム)的にも、俺の身体的にも。

小さく鳴き声を上げ、心配そうな──といっても、俺には彼の表情はよく分からないけど──表情で見つめるフォウくんの背中をさすってから、村への移動中にモルガンから渡された袋の中から水筒を取り出した。誰かが補充してくれたらしく、水は満タン。これをぶつけたらダメージになる、はず。

俺はワイバーンに狙いを定め、水筒を握りしめると共に瞬間強化を発動させる。

 

「ごめんダ・ヴィンチちゃん墜ちろカトンボぉぉぉ!!」

 

そして諸々を叫んで左腕を駆け巡る激痛を誤魔化しながら、思いっきり水筒をぶん投げた。左腕を犠牲にして放たれたその砲弾はワイバーンへと真っ直ぐに向かっていく。そして、

 

「(※ビューティ)フォーウ!!」

 

それは見事にワイバーンに直撃し、奴は悲鳴を上げて黒剣を取り落とした。作戦は成功、だけど俺の左腕はだらりと垂れ下がり、動かすことはおろか力を込めることすら出来なくなってしまっていた。感覚はあるから、神経がイカれて無さそうなのは救いだけど……しばらくは、使えたもんじゃ無さそうだ。

でも、前回に比べりゃマシだと思う。前回は全身がイカれてロクに動けなかったんだから、十分に歩けるなら俺は幸運だろう。

 

「よし、これを陛下に……!」

 

俺は落下し地面に突き立った黒剣を拾い上げる。見た目よりも重く、両腕でバランスを取れない今は少し辛かった。左腕をぶらぶらと情けなく振り回しながら、俺はモルガンの元へと向かう。

 

「なんだよ、これ……!?」

 

しかし、行く手を阻むかのようにして炎の壁がそこに出来上がっていた。多分、竜の魔女の火柱が連鎖して壁のようになってるんだろうけど……。くそっ、馬鹿げた魔力量だ……! モルガンは無事なのか……!?

 

「フォフォ、フィーウ!!」

 

「フォウくん? どうし……ってマジかよ!?」

 

俺が炎の壁を前にして怯んでいると、フォウくんが肩の上で後ろに向かって鳴き始めた。どうしたのかと思い後ろを向くと、背後から激昂したワイバーンが猛追して来ていた。そりゃそうだ、水筒をぶち当てられて何もして来ない訳がなかった!!

でも、隠れられそうな場所も逃げ込めそうな場所も、もう炎の壁の中だ。左右は無理、逃げ場無し、後ろに行ったらワイバーンにモグモグされてゲームオーバー……。

うおお、こうなったらもうやるしかない!

 

「フォウくん、しくじったらごめん──!!」

 

「フォ!?」

 

耐熱性の外套に出来る限りの体とフォウくんをねじ込んで息を吸い込み、俺は燃え渦巻く炎の中へと飛び込んだ。

 


 

「ちょこまかと、いい加減にくたばりなさい!」

 

マスターがワイバーンを追いかけてこの場を離れた後、竜の魔女は更にその攻撃の手を激しくしてきた。それに、例え火柱をかわしてもすぐに消えることは無く、しばらくは炎が残り続ける。そのため必然的に私の移動できるスペースは少しずつ無くなっていく。

 

火柱を連鎖的に放って周囲を切り取った竜の魔女は、右手を鉄砲のように構えると指先に魔力を集束させ、その魔力弾を撃ち込んで来た。私は足先に魔力を込めて地面を蹴り、黒泥を吹き散らしてその威力を減衰させるものの、高密度の魔力弾を相殺することは出来ず、黒泥の壁を突破してきた魔力弾は私の胸を捉えた。

 

「くっ……!」

 

「へぇ、案外可愛い声を出すじゃないですか。これは死に際の断末魔が楽しみですねえッ!」

 

ニヤりと鋭く笑うと、竜の魔女は地面を蹴ってこちらへと飛び込んでくる。その勢いのまま繰り出される飛び蹴りをすんでのところで受け流し、反撃として右手の指先に魔力を込めて手刀で横に一振りするが、奴はそれを右腕を立てて受け止め素早く私の手を掴むと、私の腹の前に体を滑り込ませ私を背負い投げた。

 

「あうぁッ……!!」

 

私は地面に叩き付けられ、竜の魔女は私の手を離さず関節部を捻ってくる。可動域の限界以上に動かされて関節がギシギシと悲鳴をあげ、口からも小さく悲鳴が溢れる。

右腕が逆方向に曲がりかける寸前で、私は左手から呪詛の塊を飛ばし、それは奴の右腕の篭手に直撃すると炸裂し、篭手を内側からバラバラに分解させた。少々怯んだ奴は私の手を放り投げて解放する。

 

「ふふふ、ここまで粘った相手は初めてです。でも、大した攻撃もして来ないのでは味気無い」

 

完全にこちらを見下している様子の竜の魔女は、攻撃の手を止めてそう言ってきた。

 

「少し猶予を上げましょう。魔術を組み上げるなり武器を探すなり、好きにして構いませんよ」

 

そう言うと奴は臨戦態勢を解除し、その宣言通りに何もしてくるつもりはないようだ。

とはいえ、私は先程の魔術で残りのほぼ全ての魔力を使い切っている。そも、このような時間を設けられたとして私には価値が無い。()()()()()()()()()()()()

故に私は息を整え、いま少し残っている疑問を解消することにした。

 

「一つ聞こう、竜の魔女。おまえは、家族の事を覚えているか?」

 

「家族……? ふん、夢だの愛だの家族だのと馬鹿馬鹿しい。この憎悪こそが答えだと──」

 

「私は覚えているかどうかと聞いている」

 

また冗長に語り出そうとする竜の魔女の言葉を遮り、要点を直接言うように促す。

 

「そんなの当然───」

 

すると、奴は答えに窮して黙り込んだ。

 

「かつて立ち上がった理由を、かつて掲げた夢を、かつて信じたものを、覚えているか。 そして、その憎悪の理由が分かるか?」

 

私は奴に畳み掛けるように問いかける。奴は依然として答えに窮したまま、次第に苦しげな表情へと変わっていく。

ふむ。やはり、奴はジャンヌ・ダルクではないようだ。

 

憎悪には、怒りには、理由が必ずある。

かつて信じたものに裏切られたから恨む。理想を踏みにじられたから怒る。大切なものを奪われたから憎む。

そうだ、私は覚えている。故郷を失った日の憎しみを。仲間を奪われた怒りを。そして理想を壊された憎悪を。

 

理由すら思い出せないのなら、それはもはや生きた人間の記録ではない。ただ憎悪を燃やし続けるという、ある種の概念的な存在だ。

故に、()()()()()()()()。そうあれかしという願望の果てに生まれた歪み。

 

「おまえは、()()()()()()()()()()?」

 

「──っ、うるさい……! 黙れ……黙れ黙れ黙れ!!」

 

私の問い掛けに、竜の魔女は先刻の余裕をかなぐり捨て、感情を剥き出しにして声を張り上げる。奴の体に魔力が瞬く間に充填され、それに呼応するように周囲の炎が勢いを増した。

 

「理由なんて必要ない……! 私の身から迸る炎が、憎悪がッ! それが答え! 私こそが本当のジャンヌ・ダルクなのよ───!!」

 

奴は咆哮を上げ、その魔力が最高潮に達した瞬間にそれを獄炎として爆発させる。

 

「全ての邪悪をここに! これは我が憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──!!」

 

私は瞬間的に死を悟る。が、身構えることはしなかった。

 

「死ね……! 『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!!」

 

足元から避けることの出来ない程巨大な火炎流が迸り、そして無数の杭が私の全身を貫いていく。足を、腕を、腹を、胸を、心臓を、その杭が貫き燃やし尽くしていく。

薄れゆく意識の中で、しかし私はほくそ笑む。

 

”必ず助けなさい、マスター”

 

───そして、心の中で彼に賭けるのだった。

 


 

「……っ、皆ストップ! その先に生体反応!」

 

「生体反応って、先輩ではないのですか!?」

 

「違うわ、藤丸の反応じゃない! っていうかこの反応ってもしかして……!!」

 

わたしはリストバンドがキャッチした生体反応を見て、村に走る3人を引き止めた。そして、モニターが映し出す文字に気付く。

 

”該当データあり”

 

藤丸の場合はこんな表記ではなく、”No.48 藤丸立香”と表示されるはずなのだ。だから、そこにいる何者かは藤丸ではない。しかし他にカルデアから現地にレイシフトした人間は1人もいない。

じゃあ、そこにいるのは──。

 

「ん? おやおや、奇遇だねぇオルガ、マシュ、それにロマニ。元気だったかな?」

 

「レフ教授……!!」

 

その姿を捉え、マシュは咄嗟に盾を構えて臨戦態勢を取る。しかし、その様子を見てもあいつはその不気味な笑みを崩さずに言う。

 

「おっと、そう邪険にしないでくれたまえ。なに、今は君たちに手出しをするつもりはないのでね」

 

「レフッ!!!」

 

私はモニター越しのレフに向かって大声で叫んでいた。感情の制御なんて効かない。効くわけもなかった。

 

「なんで……なんであなたが敵になるの!? どうしてあんなこと……カルデアを、世界を燃やすなんてことをしたの!!!」

 

「いつにも増してやかましいなぁ、君は。たった1度裏切ったくらいで、そんなに私のことが嫌いになってしまったのかい? いやいや悲しいなぁ」

 

「答えなさい、レフっ!!」

 

「……っ、そうです、答えてくださいレフ教授! そうして頂けないのなら、わたしはあなたを拘束しなければなりません。そんな乱暴はしたくありません!!」

 

わたしとマシュがそう言うのに対し、レフは呆れたように頭をポリポリとかく。

わたしたちの様子を見て事情を察したらしいジャンヌも臨戦態勢に入り、アマデウスはレフの背後に回り込んで包囲した。

 

「まったく、つくづく愚かで面倒な集団だよ君たちは。せっかくこの場は見逃してあげようと言っているのに理解出来ないとはね」

 

レフはそう言って(見せかけだけの)柔らかい笑顔を歪ませ、本性の通りの不気味な笑顔へと作り替える。わたしたちの質問には、あくまで答える気はないらしい。

 

「正直に言って、君たちに興味は無いんだよ。私が期待しているのはそう……()()()()()()()()()。そのための準備で忙しくてね。邪魔をするのなら、退いてもらうよ」

 

「ウルトラマンですって……!? なんであなたがその名前を……!?」

 

「さぁ、どうしてだろうね? まぁオルガ、君ならそのうち分かると思うがね。さて、時間も惜しい、退くならこれが最後のチャンスだ」

 

「……マシュ、気を付けて! レフの奴は本気だ! だから、悪いけど君も本気で対応するんだ! ここで人理焼却の犯人を捕まえるためにも……!」

 

ロマニがそう警告すると同時に、笑ったままレフが手のひらから禍々しい紫電の走るエネルギー弾を撃ち出した。悔しそうに一瞬目を伏せたマシュは、強く盾を握りしめてそれを受け止める。しかし、

 

「くあっ!?」

 

マシュの盾をもってしてもそのエネルギー弾は防ぎきることができず、マシュは盾諸共吹っ飛ばされてしまった。その衝撃たるや凄まじく、余波でマシュが元いた位置の地面が僅かながら抉れていた。

 

「マシュさん! ……お許しを、見知らぬお方……!!」

 

マシュが吹っ飛ばされるのを見て、ジャンヌがレフに向かって戦旗を叩き付ける。が、レフは素早く懐から何かを取り出すと即座に左手で逆手に持ち、その戦旗を受け止める。そしてその何かが禍々しく輝くと同時にエネルギー波が発生し、直撃したジャンヌは痺れるかのようにして墜落してしまった。

 

「……うっわマジかよ」

 

「おや、君は何もして来ないのか。やれやれ、カルデアの連中も彼を見習ってくれればいいのだが」

 

マシュとジャンヌが一蹴され、半ば引いているかのような表情でアマデウスが呟くと、レフは満足そうに彼を見てそう言った。そして、先程取り出していた何か──黒く輝く、小さい薙刀を連想させる物──を懐に仕舞い込み、その場を去ろうとする。

 

「待ってください……レフ教授……!!」

 

マシュが盾を引きずりながらも彼に追いすがり、そう言った。レフは足を止め、背中越しからでも分かるような大袈裟な溜息をつくと、ひどく面倒そうに振り向く。

 

「何度も言わせないでくれたまえ、私は忙しいのだよ。なにせ、ここに与えたスペースビーストが全くもって下らない無駄な使われ方をしたものでね。このままではとてもじゃあないが勿体無い。だから、少し細工をしてあげなければならないのだよ」

 

「やっぱり、スペースビーストも君も差し金か、レフ!」

 

「おっと、少々喋り過ぎたかな。これだからしつこいのは鬱陶しい」

 

そう言うとレフはにじり寄るマシュの足元に、もう一度エネルギー弾を撃ち込んで彼女を無力化する。

 

「私の慈悲だ、この場では命は見逃してあげよう。どの道潰える命だ、少しは長い方がいいんじゃあないかな? ハッハッハ……」

 

「待ちなさいよレフ……! 待って……うっ……!?」

 

わたしが負け惜しみのように放とうとした言葉を、突然襲ってきた強烈な頭痛が遮る。そして、頭の中でレフの笑い声がひどく反響していた。あの日からずっと聞こえている、()()の笑い声が……。

その笑い声を残して、レフは夜の闇の中へと溶けて行ってしまった。

 

「所長、大丈夫ですか!? マシュもジャンヌも、無事なのかい!?」

 

頭を抑えてうずくまったわたしを見て、ロマニが慌てた様子で状況を確認する。

まだ僅かに体が痙攣している様子だが、ジャンヌは立ち上がって無事を報告し、悔しさで顔を歪ませながらマシュが盾を引きずって戻ってくる。

 

「うっ……はぁっ、ごめんロマニ、もう大丈夫よ……」

 

急激に襲ってきた頭痛はこれまた急激に治まっていき、耳鳴りも一旦は姿を消した。誰も命を失うことは無かった。しかし、レフを捕らえることは出来なかった。

 

「すまない、僕の力でどうこうできる奴だとは思えなくてね……」

 

「お気になさらず、アマデウスさん……。貴方だけでも負傷が無くてよかったです」

 

申し訳なさそうに言うアマデウスに対し、マシュがそう答える。無理もない。あれだけの実力差を見せつけられて、あくまで部外者のアマデウスが首を突っ込める訳がない。

……あんな魔術、見たこともない。それに、あの黒い薙刀みたいなのは何なの? 結局、レフの目的や真意を知るどころか、更なる謎と、そして悔しさだけが残されてしまった。

 

「……レフの生体反応、ロストしてる……。もうあいつは遠くまで行ってしまったみたいだ。とりあえず今は、藤丸君と合流しよう。もし竜の魔女と遭遇したら、その時はとにかく逃げるんだ。いいね、マシュ」

 

「………………はい、ドクター」

 

マシュ以外の2人もそのロマニの言葉に頷き、村への移動を再開する。

レフが心に落としていった影に、わたしとロマニ、管制室のメンバーを含めた全員が後ろ髪を引かれるような感覚を胸に抱いたまま。

 


 

あああああッッッ!!!

 

外套越しからでも感じる物凄い熱、隠しきれなかった脚部から走る激痛。堪えきれずに溢れ出した悲鳴すらもかき消される炎の中で、俺はただひたすらに走り抜ける。

この苦痛が永遠に続くかのような錯覚に陥りかけた瞬間、それまで体を覆っていた炎の嵐が消えた。なんとか、壁は越えられたらしい。

1度黒剣を放り投げて、必死にのたうち回って脚部の火を消そうともがいた。

段々と火が消えてくると、俺は外套をひっぺがして肺に酸素を送り込む。重度の火傷の場合、神経や血管ごと焼かれてしまって痛みすら感じなくなると聞いた記憶がある。(激痛に悶える今の俺に思い出す余裕などなかったが)痛みがあるなら、致命的な火傷を負う前には突破できたということだろう。

そして、無事だったらしいフォウくんは、解放されると同時に俺の足を舐めてくれていた。

声にならない低い呻き声を上げつつ、俺は唯一動かせる右腕で地面を這い、黒剣を掴んだ。しかしそれ以上は動くことが出来ず、俺はモルガンの様子を捉えるべく顔を上げる。

 

「───あ」

 

そして…………。

 

「あ……は、ははッ!! なぁんだ、大したことないじゃないですか! 久々に骨のある相手かと思えば……煽るだけ煽ってこの程度!! 思い知りなさい、私の憎悪の正しさを!!」

 

「へい……か……?」

 

竜の魔女が高らかに笑いながら罵詈雑言を吐きつける先にあったのは───。

 

「陛下ぁーーーッ!!!」

 

無数の杭に全身を貫かれ、その骸を炎に晒しているモルガンの姿だった。

頭が真っ白になり、目の前がチカチカと明暗し始める。そして、俺の絶叫を聞きとめた竜の魔女が、戦旗を拾いつつ俺の方へと歩いてくる。

 

「アンタ、さっきのサーヴァントのマスターだったわね。ねぇ、どうかしら? 目の前でご自慢のサーヴァントが殺されてるのを見るのって、どんな気分?」

 

「フォウ! フォ、キューー!!」

 

「私はコイツに聞いてんのよッ!」

 

「……っ、フォウくん……!」

 

呆然としたまま動かない俺の代わりに、竜の魔女を威嚇して立ち塞がってくれたフォウくんを、奴は無造作に蹴り飛ばした。余裕に見える態度の割に、奴は相当に苛立っているようだ。

彼の小さな悲鳴でようやく我に返った俺は、情けなく地面に這いつくばったまま竜の魔女を睨みつける。そんな俺の様子を愉快そうに見下した表情で、奴は俺の首を掴んで持ち上げた。

 

「あがッ……、放、せッ……!!」

 

「ふっ、さっきのヤツよりずっと面白そうじゃない。気に入ったわ、アンタは私のおもちゃにしてあげる。せいぜい良い声で泣きなさい?」

 

「いや、だ……! 俺は……陛下の──!」

 

苦しさからか、恐怖からか、それとも悔しさのせいか、目から涙が溢れる。

……それでも。嘘だっていい、ハッタリだっていい。諦めたくないんだ。こんな別れなんて、認めたくないんだ……!!

 

俺は右手に力を込め、心の内で叫ぶ。

そして、奴に向けて──いや、自分自身に向けて──叫んだ。

 

俺は、モルガン陛下の臣下なんだ───!!

 

”だから、勝ってくれ。こんな奴に負けないでくれ。俺の、モルガン陛下──!!”

 

その願いに、その叫びに呼応するように令呪の一画が輝き、俺の右手の黒剣へと膨大な魔力が流れ込んでいく。そして───。

 

 

「よく言いました、我が臣下よ」

 

「……はぁっ!? あッ、ああああッ!?」

 

黒剣の輝きの中からモルガンが現れ、俺の首を掴んでいた竜の魔女の左腕を切り落としていた。そのまま畳み掛けるようにして、今度はモルガンが奴の首を掴み上げる。

 

「なんでッ……アンタが……!!」

 

戦旗を振り回して抵抗を試みる竜の魔女に対し、モルガンが自身の右腕に天色の剣を突き刺すと、奴の右腕の内側から無数の剣が生えてきた。悲鳴を上げて戦旗を取り落とす竜の魔女に向けて、モルガンが直前の疑問に答える。

 

「思念体などいくつでも。魔術勝負で私に勝てるなどと思ったか。 私の名を、おまえは既に彼から聞いているだろう?」

 

「……魔女、モルガン──!!」

 

あの一瞬。彼女の黒剣が、刺突を繰り出す直前に輝いた時。彼女は霊基の本体を黒剣に宿すと同時に、持ちうるほぼ全ての魔力を使って思念体を生成していたのだ。だから、体を元に戻す時に令呪の魔力を必要としていたようだ。俺が諦めずに令呪を使うと信じて───。

竜の魔女が目を見開いた後、モルガンは首を握る手に更に力を込める。そして、右手の黒剣を奴の腹へと突き刺し、そのまま捻じ回した。どす黒い血が凄まじい勢いで吹き出し、奴は血の混じったくぐもった悲鳴を上げる。

 

「さて、おまえは先程こう言ったな。彼をおまえのおもちゃにする、と」

 

彼女が突き刺した黒剣を引き抜くと、首を握る左手から青い炎が燃え上がり始める。

竜の魔女に話しかけるその声は酷く冷たく、そして凄まじい重圧を伴っていた。

 

「彼は私のものだ。おまえのようなこそ泥にくれてやるものなど、何一つ有りはしない」

 

「あああッ……!! 熱いぃ……ッ!?」

 

彼女の炎は瞬く間に肥大化していき、やがて竜の魔女を飲み込んでいく。

まるで、その最期を再現するかのように───。

 

「みじめに、無様に。此度は聖女でなく、異端の魔女でなく、そして英雄でさえなく。ただ、罪人のように死ね」

 

「いやぁぁ……!! 助けてジルっ! 私の……私の復讐は正しいんでしょっ……! お願いだから助けてッ!! だって……だってここには───!」

 

その慟哭を響かせながら、竜の魔女は青い炎の中で塵と化し、そしてボロボロと崩れ去った。そして手の中に残った一握りの灰を風の中へと預け、モルガンはぽつりと呟いた。

 

「そうだ。ここには、おまえには、()()()()

 

大将首を獲られ混乱のままに逃げ去っていくワイバーンたちの喧騒と、薄れていく炎の残滓である火の粉が舞う、何も無くなってしまった村の中に、俺とモルガンは2人寂しく残された。

 

「立てますか、マスター」

 

そして、返り血に塗れた姿でモルガンが手を差し伸べてくれた。でも───。

 

「…………………」

 

俺は、彼女の手を取れなかった。

あの炎の壁の中で、俺は身を焼かれることの辛さを体感した。だからこそ、竜の魔女があれを強いられて憎悪する気持ちも、何となく理解できてしまったような気がするんだ。

そう、だからこそ───。

 

あんなに酷い殺し方をする必要なんて、なかったじゃないか。分かってあげることだって、できたかもしれないじゃないか。

 

そう思ってしまったんだ。

令呪で彼女に、竜の魔女を倒せと命令しておきながら。命を奪われた人たちを見て、竜の魔女を討伐するべきだと何度も考えておきながら。

俺は、彼女を───()()()()と、感じてしまったのだ。

 

「………………………そう、ですか」

 

その恐怖を彼女は妖精眼で見抜いてしまったのか、それとも俺の表情がそれを語っていたのかは分からない。けれど、そう言うと彼女は悲しそうに目を伏せる。

そして杖を振るって俺の足元に小さな黒泥の池を作ると、指先から光の粒をそこに落とした。すると黒泥が透き通った水に変わっていく。

 

「しばらくここで休んでいなさい。この水は自由に使って構いませんので、患部を冷やしておくように」

 

彼女はそう言い残すと、俺にくるりと背を向けてこの場を離れ、何処かへと歩いて行ってしまった。

1人残された俺は、彼女が作ってくれた池を覗き込んで、そこに映る自分の顔を見つめる。そして、右手を思い切り振り下ろした。バシャリと水が飛び散り、俺の体を濡らした。

 

「最低だ、俺……」

 

何が彼女をひとりぼっちにさせたくない、だ。

何が彼女を守りたい、だ。

……何が、彼女の臣下だ。

俺自身が彼女をひとりぼっちにして、傷付けて、あんな悲しそうな顔をさせて。そして、彼女は俺を信じて、命を賭けて竜の魔女を倒してくれたのに、それをおぞましいことだと思っておきながら。

 

両足は動かせない。左腕には力すら入らない。彼女を追いかけたくても、追いかけて謝りたくても、この体は動いてくれない。

 

まただ。また、俺は去っていく彼女の後ろ姿をただ見ていることしかできないんだ。

 

「…………ちくしょう」

 

俺はただ、最低で不甲斐ない己自身を恨むことしかできなかった。この役立たずな体を走る傷の痛みと、胸を握り潰すような罪悪感に焼かれながら───。




ちなみに昨日までに30%くらいしか書けていなかった今回ですが、モルガンピックアップが来るということで、ぴったりのタイミングでようやく来た休日の今日、一気に書いてきました。なので少し雑かもしれない
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