人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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パーフェクトモルガン、叶わず。まあ次回までに石を貯めるだけやで(狂者の余裕)
どうでもいいですけど私はアルトリア顔はそこまで好きではありません。ですがモルガン顔は人生で1番好きです。あの何と言うか、とても良い意味キリッとしていない、とろんとした目がたまらんのです。他にも語りたいことは尽きませんが、とまあそんなことを友人に力説していたら何のこっちゃ、という顔で若干引かれました。



episode.12 集結、そして

【第12節】

「さてと、ごきげんよう『シュヴァリエ・デオン』、『シャルル=アンリ・サンソン』。また会えて嬉しいわ」

 

「僕もだ、白雪の如き白いうなじの君。これはきっと運命だ。やはり僕と貴女は特別な縁で結ばれている! そうだろう?」

 

処刑人サンソンは、血の跡がこびり付いた長鉈の切っ先をマリーへと向けて、彼女の挨拶に返答する。その顔はほの暗い笑みで満ちており、彼女との再会、そしてその運命を喜んでいるようだった。ゆったりとした2人の再会の挨拶を、警戒を解くことなくシグルドは見守る。

 

「処刑人としてひとりの人間を2回殺す、なんて運命は、この星では僕たちだけだと思うんだ」

 

「よせ、我々の目的はこの方の処刑ではない」

 

長鉈を構えたままマリーへ接近しようとするサンソンを制し、白百合の騎士デオンがそう告げた。そしてマリーの目の前に素早く移動すると美しい姿勢のまま跪き、彼女の手を取った。

 

「王妃よ。我が主の居城へとお越しください。そしてともに、()()()()()()()を成し遂げましょう。ヴェルサイユの華と謳われた貴女が憎悪のドレスを纏い、この国の滅亡を踊る姿を、どうか見せていただきたいのです」

 

そう申し出るデオンの手を、彼女は少し申し訳なさげに振りほどく。そして2人の間にシグルドが素早く入り込み、マリーをデオンの元から引き離した。目を見張って困惑するデオンへ、彼女は告げる。

 

「わたしは、あなたがたとは一緒には行かないわ。復讐なんて、望んでいないもの」

 

「…………どうして。どうして!! 貴女は憎んでいるはずだ! いや、()()()()()()()()()()()()()()!! 民に嘲られ蔑まれ殺された!それだけでは飽き足らず、貴女の愛した息子、そして娘は──!!」

 

そうだ。そんな仕打ちを受けたのならば、憎んでいるはずだ。憎まなければならないんだ。そうしたデオンの考えは、彼女の小さな微笑みによって言葉無く否定され、ただの疑問、そして”憎しみ”へと変化していく。

 

「……どうして、貴女はいつも微笑む。傷付いても、憎まれても……! 貴女が美しく、儚く咲けば咲くほど、私は狂っていく!!」

 

そして、白百合の騎士はその手に握る刺剣を構え直した。マリーの籠絡というデオンの目的が失敗したため、サンソンは彼の目的である処刑を果たすために再び長鉈を持つ。

今や、相互理解など不可能。そう判断したシグルドは躊躇いなく魔剣を実体化させ、先手を取られ負傷しているマリーの前に立ちはだかった。

 

「邪魔立てするか、竜殺し!」

 

デオンは地面を強く蹴って彼へ迫ると、その勢いのまま刺剣を繰り出す。シグルドは半身になって1本踏み出し、刺突を回避すると同時に、勢いづいたデオンへと肘打ちを差し込んだ。彼の肘はその鳩尾を捉え、そして彼の強力も相まって、空中で一回転して地面に落ちた。

 

その一瞬の攻防の隙を突いてサンソンが回り込みマリーへと接近するが、彼女は歯を食いしばってガラスの馬車を顕現させてこれを迎撃し、足止めを食った彼へ向け、シグルドはグラムを拳で打ち出した。

 

「ぬんっ!」

 

「ぐぅぅっ、がッ、うわぁぁッ……!!」

 

サンソンは長鉈でそれをなんとか受け止めたものの、追撃としてシグルドがグラムの柄に蹴りを打ち込んだことで後方へと吹っ飛んでいく。

 

「……さすが、ライダーを討っただけのことはある、一筋縄ではいかないようだね……。ならば──」

 

シグルドがサンソンへ攻撃を仕掛けたことで距離が空いたデオンは、彼がそちらに振り返る前に一手を打つ。

デオンが魔力を解放したことで、周囲には無数の百合の花が咲き乱れ、辺りを甘い香りが包み込んでいく。その香りに気付いて彼らが振り返った頃には、既に準備は整っていた。

 

「おぞましき悪夢の中、狂い咲く。王家の百合、永遠なれ──」

 

「……っ、いかん! マリー殿!」

 

咄嗟にそれがデオンの宝具だと感じ取ったシグルドは、叡智の結晶の輝きをルーンに乗せてマリーに投げ渡した。ルーンが彼女の手に収まった直後、狂い咲く百合がシグルドを覆っていく。

 

「惑い、酔いしれろ。『百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)』!!」

 

白百合の騎士。フランス王家のため人々を惑わせ魅力し続けたシュヴァリエ・デオン。その宝具は敵の精神へと作用し、そして心を奪う。

 

「幻惑……か……」

 

「シグルドおじさまっ……! ッあ、かはっ……!!?」

 

その美しい光景に魅了されたシグルドは、ガクリと膝を折り、グラムを支えに何とか膝立ちを保つことが精一杯となる。彼が直前に取った行動により、弱体無効の能力を一時的に得ていたマリーはそれを免れるものの、助ける間もなく背後からサンソンに腹を貫かれていた。

 

「ああ……やっと捕まえた。やっと君を、もう一度処刑してあげられる。そうだ、丁度いい。僕の腕を君に披露するよ、その方が安心だろ、マリー?」

 

突き刺した長鉈を彼女から引き抜くと、彼は崩れ落ちるマリーを丁寧に座らせた後、膝を着いて硬直するシグルドの元へと歩み寄っていく。そして、何処からか暗い煙が立ち込めた瞬間、サンソンの背後には断頭台が現れていた。直後、断頭台の足元から黒い手のようなものが伸び、シグルドに巻き付き引きずっていく。

 

「いい処刑人は罪人に苦しみを与えない。そして僕はその先を目指した。つまり……快楽。そうさ、その瞬間はまさに──死ぬほど気持ちいい。さあご覧あれ王妃! これが僕の───」

 

「サンソン。残念だけど、貴方の刃はもう錆び付いてしまっているわ。貴方がこの間違ったフランスに召喚されて、殺人者としての腕を上げていったのでしょう。けれど……処刑人と殺人者は違うのよ。人を殺すのが巧くなればなるほど、()()()()()という貴方の刃は錆びていくの」

 

掠れそうな声で、しかし力強く、マリーは彼にそう告げる。ゆらゆらと頼りなく立ち上がる彼女に対し、サンソンは返す。

 

「違う……僕はただ君のためにッ! もう一度君に会って、もっともっと最高の瞬間を与えられたら! そうすれば、()()()()()()()()()と思ったから……!」

 

サンソンは捕らえていたシグルドを放り捨て、許しを乞うように彼女にそう言った。そんな彼の様子を静かに、哀れむように見つめた後、マリーは残った力を振り絞ってガラスの薔薇を鋭く投げ付けた。

 

「……貴方は、わたしに許される必要なんてない。それは、貴方が一番よく分かっていたはずでしょう?」

 

投擲された薔薇が突き立ったサンソンの腕が、ガラスのように変化し、砕けていく。しかし彼は痛みに震えるでもなく、後退するでもなく、宝具の標的を彼女へと即座に変更して叫んだ。

 

「嘘だ……! 痛かったはずだ、怖かったはずだ……。君は僕を……フランスを憎んだはずなんだ!!!」

 

そんな彼の発言を、やはり彼女は、そして意識を取り戻しつつあるシグルドは、違和感と共に聞くのだった。

……やはり、何かがおかしい。これは、ただの狂化や異なる一面が強調されているというものではない。それなら、きっとこれは──。

 

──誰かの願い。そうあれかしという誰かの願望に侵された、彼らの悲痛な叫び。

そして、それを感じ取ったマリーが取る行動は、既に決まっていた。

 

「さんざめく花のように、陽のように──」

 

彼女が残る魔力をありったけ解放すると、彼女の足元から輝く結晶が発生し、そして背後からガラスの馬が彼女を乗せて走り出す。

彼女のすぐ近くまで接近してきていたデオンは結晶に巻き込まれ、目の前のサンソンはそれらを砕く勢いで彼女へと走り寄るが、やがて片足が結晶化して破砕したことで足を止める。

 

「咲き誇るのよ。踊り続けるの! 『白百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)』!」

 

結晶は完全に2人を包み込み、そして破砕させていく。それによって霊核を破壊されたデオンは崩れ落ち、地面に倒れ伏して彼女を見つめた。

 

(マスターを持たない状態で、あの傷での宝具の展開。王妃の体は持たないだろう。……ああ、貴女は。この狂ったフランスでも、民のためにと微笑みながら消えていく。そんな姿は、もう見たくなかった。なのに、私は───)

 

狂い咲き、そして散り落ちた白百合は、けれど満足そうに笑顔を浮かべ、愛おしげに、目の前に咲き誇る王妃を眺め、そして目を閉じた。

 

(───私はまた、貴女を愛してしまうんだ)

 

白百合の騎士は光の粒子となって空へと舞い、そして消滅する。

 

しかし、すんでのところで霊核の破損を免れたサンソンは、長鉈を杖に片足のままマリーの元へとにじり寄り、亡者のごとく彼女に手を伸ばす。

 

「マリー……! 君は、僕が───!!」

 

そして、言い終える間もなく、何者かの手によって彼は一瞬で何処かへと姿を消した。恐らくは竜の魔女、或いは城に待機する何者かが、彼を強制転移させたのだろう。

そうして、過ぎ去った戦場には結晶の花と、さながら薔薇のごとく真っ赤に血に塗れた王妃の姿が残ったのだった。

 

「……かたじけない。そして申し訳ない、マリー殿」

 

「気になさらないで、シグルドおじさま……。これがわたしの──マリー・アントワネットの生き方だから……。それよりも……シグルドおじさま」

 

彼女は弱々しい声でそう言葉を絞り出すと、彼に最後に頼み事をする。

 

「リツカに、伝えてほしいことがあるの。あのね───」

 

そして、彼女は最期にその伝言を彼に託すと、力なくぐたりと倒れ込み、しかし微笑みを絶やさないまま力尽き、消滅していった。

託されたシグルドは、何を言うでもなく静かに立ち上がり、マシュたちが向かった方向へと、振り返ることなく走り出した。

誰も居なくなったその跡には、ほのかに甘い百合の残り香が漂い、そして月の光を反射して美しく踊る結晶の花びらが舞うのだった。

 


 

「うっ……うぅ……! ふぐぁっ、くっそ……!」

 

俺は足に力を入れ、立ち上がろうと試みる。けど、やっぱり今の状態じゃまともに動けるはずが無かった。体勢を崩して顔面から地面にダイブするという試行を繰り返すこと数回。そのせいで、頭の1~2箇所にたんこぶが出来ていた。悔しさから土を握りしめても、結局は何の意味もない負け惜しみにしかならない。

 

「フォ……フォウ?」

 

「んぁ、ありがとフォウくん……。ははっ……、また起き上がれなくなっちゃったよ……」

 

地面に突っ伏す俺の頬に、ふさふさで気持ちのいい頬や胴体をすりすりとしてくれるフォウくんの頭を撫で、またもや自虐モードに陥りながら彼に言った。言葉に出してしまったせいで、何だか馬鹿馬鹿しくなって、俺は起き上がることを止めた。

それに、きっと彼女が欲しいのは謝罪なんかじゃない。俺が立って謝ったところで、それはつまり俺の自己満足に過ぎないんだから。

 

「……所長たちは、大丈夫かな」

 

モルガンのことを考えるのがどうしても辛くなって、俺は両足を(本当なら流水にすべきなのだろうが)冷たい池の中に浸して冷やしながら、他の皆のことを考える。

思えば、モルガンと口論になってからこっち、ずっと彼女のことばかり考えていた気がする。だからか、自分で所長の名を出したのがすごく久しぶりに感じた。

 

「所長は……怒ってるよなぁ。マシュは心配してくれてるよね、優しい子だし。ロマン教授はでも、相変わらずゆるい気がする……」

 

「フォフォ、キュウ……」

 

俺が独り言でぶつぶつ言うのに対し、フォウくんが何かしらの相槌を打ってくれる。言葉が通じてるかは分からないし、彼が何を言っているのかも不明。けど、自虐するか彼と話す(?)かの2択しかない状況かつ、前者から逃げた俺が取れるのは後者である今の状況だけ。それに、彼も満更でもなさそうだから、久々にモルガン以外の話題を彼との間で発していた。

……もっとも、ほぼ全身に傷を負いながら小動物と会話をする変な人、という傍から見れば奇妙な光景であることは、とりあえず伏せておくことにするが。そもそも、ここにはもうそれを見る人なんて1人もいないのだ──。

 

「それでさー、その時ダ・ヴィンチちゃんが言ったのがさー」

 

そして、いよいよもってただの雑談がスタートし始めた時、遠くから誰かの複数の足音と武具の擦れる金属音とが段々近付いてくるのが聞こえた。そして、

 

「先輩~~!!」

 

「──あっ、マシュ! それに皆も!!」

 

大きく手を振り、声を張り上げながら走ってくるマシュとそれに続く皆の姿を見とめて、俺は咄嗟に立ち上がる。……つもりだったのだが、体勢を前にする自分、動かない足、そして足は池の中。つまり!

 

「先輩~~!?」

 

ああ……水が冷たいナリィ……。自身が池の中に落っこちたことに気付くや否や必死に抵抗するも、右腕だけでは犬かきすらままならずに沈んでいく。

そして、よくよく見ると大して深くもない池で必死に暴れている姿を、マシュに引き上げられるまで皆に晒すことになった。

 


 

「…………」

 

崩れ落ち倒壊した家々。炎。竜に食い荒らされ、ほとんどが損傷した死体の数々。炎。理不尽に奪われ儚く散った親と子の愛。炎。炎。炎。

 

大昔──何千年も昔。とある妖精たちの住む国が、同じ(いや、違う)妖精たちの手によって滅亡した。その国に栄えた氏族は皆死に絶え、後に残るものは何も無かった。たった1人、『救世主』だけを除いて。

 

───彼女は覚えている。故郷を焼き払った(理不尽)を。愛してくれた人たち、そして彼女が愛したもの全てを奪い去っていった(悪意)を。いつだって彼女から愛を奪い去っていく、赤い、赤い、おぞましい怪物のような炎。

そして今日もまた、炎によって彼女の()()()ものが無くなっていった。

しかし、それでも、彼女にその理不尽を糾す資格などなかった。大義名分や目的、信念の有無に差こそあれど、彼女も自身の望みのために多くのものを手にかけてきた。

そして──。

 

「……もう、()()()()な」

 

ほんの少し前まで、炎の熱とは違う、心地よいぬくもりを持っていた3つの命があった場所で、彼女はその燃え滓を拾い上げてそう呟いた。

それは、3つの命の軌跡が全て焼失してしまったことへの嘆きの他に、もう1つの意味を孕んでいた。

 

彼女は思う。自身に何が残っているのか、と。

あれほどまでに渇望したブリテンを、全てを賭けてもいいと思うほどに好ましく思っていた娘を、大切だった人たちの遺産を、あらゆるものを失った。後継こそ着任しなかったが、彼女の玉座──女王としての証さえ簒奪された。

 

詰まるところ──空っぽなのにも関わらずこう表すのは皮肉だが──彼女には、意味のあるものなど何も残っていなかったのだ。

……だからこそ、知らなければならない。彼女には、一体何が足りなかったのか。何が欠如していたのか。

()()()()()()()。それを見つけるという目的だけが、今の彼女を突き動かしている。その先にさえ何も無かったとしても、今よりはきっとマシなはずだと、そう信じて。

 

「さて、そろそろ戻るとしましょう」

 

燃え滓を手放し、彼女は立ち上がる。そして、彼女のマスターのいる場所へと歩を進めた。彼女が初めて出会った、()()()()()()()()()()()()者の元へと───。

 


 

「へぇー、それで無茶して? 左腕がダメになって? でもって火の中に飛び込んで両足もやって? 現状動くのは右腕だけ、ねぇ…。はぁぁ……バッカじゃないの藤丸あなた!?」

 

「そうだぞ藤丸君! 無茶するなとあれほど!」

 

「か……返す言葉もございませぬ……」

 

そして案の定激昂する所長と、彼の警告を無視した挙句更なる負傷をしていたこともあり、珍しく怒った様子のロマン教授の2人に絞られている俺であった。

状況の説明から入り、そして所長から傷のことを聞き出されて今に至る。傷の応急処置をしてくれたマシュは、2人の怒りが収まるまで話も出来そうにないと判断したらしく、竜の魔女に蹴られて足を引きずるフォウくんを労わるように撫でていた。

 

「まぁまぁ、そのくらいにしてあげなよ2人とも。こってり絞るのは君らの任務が終わってからでもいいじゃないか。本人も反省してるみたいだし」

 

見かねたアマデウスさんが間に割って入り、2人を宥めてくれる。最初に分断されてしまった後に、俺たちを保護してくれていたとあって彼には強く出られないようで、2人は少しだけ不本意そうに言葉を飲み込むと、乗り出していた姿勢を正した。

 

「……そうね、悪かったわ藤丸。とにかく、お互い生きて合流できてよかった。けど、帰ってきた時は覚悟しておきなさい」

 

所長は心から安堵するように言うと、加えて帰還後の俺の運命を宣言する。

ボロボロの俺に寄って集って容赦ねぇ、とも思ったけど、そのやかましさがかえって今の状態には嬉しかった。生きて彼女らと合流出来たんだ、とより強く実感できたから、だろうか。

 

「あ、あの。立香さん、バーサー……いえ、モルガンさんはどちらに?」

 

ようやく2人の説教が落ち着いたことで、その間を狙ってジャンヌさんが声をかけてきた。モルガンは彼女に対して名乗ってなかったと思うけど、多分皆の話を聞くうちに分かったんだろう。しかし、彼女の名を聞いた瞬間、俺は頭の中がしどろもどろになってしまった。

さっきのことが、どうしても頭をよぎってしまうせいで、思考がまとまらなくなっているらしい。

 

「あ……えと……陛下は……」

 

「私ならこちらですが。何か用ですか、ジャンヌ」

 

俺が答えあぐねていると、ちょうど戻ってきたモルガンが代わりにそう答えた。

突然背後から聞こえた彼女の声に思わずぎょっとする俺を置いて、ジャンヌさんは姿勢を正して彼女に言う。

 

「モルガンさん。竜の魔女を……私の醜悪を討ってくださって、ありが──」

 

「あれは、お前などではなかった」

 

ジャンヌさんがお辞儀をして彼女にお礼を言おうとしたのを遮ってモルガンが言った。その予想外の反応に驚いたらしいジャンヌさんは、ぽかんとした顔で彼女の顔を見つめた。

 

「ちょうど良い、全員に通達すべきことでしたので、ここで明かしておきます。単刀直入に言うと、竜の魔女は聖杯の所持者ではありませんでした。あれは聖杯によって顕現した誰かの願い。ですので、聖杯の真の所持者を追う必要があります」

 

彼女の発言により、この場の全員がざわめく。皆、竜の魔女が聖杯の所持者だとすっかり思い込んでいたのだから無理もない。しかし、その少し後に、所長が妙に納得したような表情で言った。

 

「たしかに、聖杯が出現してないし、残留反応を見ても所持者にしては微弱だわ。それに時代の修正も始まってないときたら、そう考えるしかないものね」

 

「その通り。そしてジャンヌ、お前なら分かるはずだ。竜の魔女の誕生、フランスの壊滅。その2つを願う可能性を持つ者の正体を」

 

皆の視線が、ジャンヌさんのもとに向かった。

 


 

「ふむ、なるほど。当方も合点がいった」

 

その後、俺たちは遅れて合流した仮面の男──いや、あれはメガネで名前はシグルドさん。あの時俺たちを助けてくれた人だ──と状況を共有し、それぞれで休息を取っていた。

俺とシグルドさん、そしてロマン教授の野郎3人組、マシュとアマデウスさんの2人組、そしてソロのモルガンとジャンヌさんという布陣である。

所長は酷い頭痛が再発してきたらしく、管制室の面々にも休憩を促してから、頼りない足取りで仮眠室に向かっていった。

今は、彼女の様子を診て鎮痛剤を出してから戻ってきたロマン教授とシグルドさんが会話をしている、という状況だ。

 

「そう言うってことは、君は竜の魔女の正体に気づいてたのかい?」

 

「いや、そうではない。だがマルタ殿や、マリー殿が戦った2人のサーヴァントのように、ここに召喚されたサーヴァントの在り方には違和感があった」

 

「違和感、というと?」

 

「マルタ殿は些か例外に近いが、特に先程の2人には、どこか執念のような強い思い込み、或いは確信のようなものを伴っていたように思う。彼らが聖杯の所持者の願いと紐づいて召喚されたのであればそれも納得ができる、という話だな」

 

「なるほど、それが彼女らから検知してた狂化っぽい反応の正体か。いやぁ、本物のバーサーカークラスも混じってたから紛らわしいのなんのって! そうだ、バーサーカーといえば。藤丸君、あの黒い騎士との戦と……って、藤丸君?」

 

2人が色々と話して考察や情報共有をしている傍らで、俺はずっとボケっとしたまま考え事をしていた。そのせいでロマン教授の呼びかけにも気付かず、シグルドさんが肩を揺すってくれたことでようやくそれに気が付いた。

 

「あっ、ど、どうしたのドクター?」

 

「疲れてるところごめん、あの黒い騎士との戦闘がどんなだったか聞いておきたくて」

 

ボケっとしているのを疲労によるもの(間違いではないけど)と見たらしい彼は、そんなふうに尋ねてくる。俺は彼との通信を切った後のことを少しずつ思い出しながら説明し、あのことを疑問に思っていた。

 

「そういえばあの時──」

 

あの時、一瞬の内に起きた出来事。ウルトラマンとモルガンの姿が見えたと思ったら、いつの間にか黒い騎士の腕が斬られていた。

 

「何だそれ……彼女の魔術とかじゃなくて?」

 

「違う……と思う。陛下はその前には気を失っちゃってたから……。俺の体に変な反応とかは無いの?」

 

「いや、全然。バイタルがやや危険ってくらいだけど、これはその傷のせいだろうし」

 

「そっか……。もしあれをずっと使えたら、俺ももっと陛下と一緒に……一緒、に……」

 

”一緒に戦えるのに”。どうしてもその言葉が出せず、俺はそのまま俯いてしまう。そんな様子に異常を感じ取ったらしい2人は、一瞬顔を見合わせた後、じっと俺を見つめた。

 

「何かあったんだね、藤丸君?」

 

ロマン教授が、そう優しく尋ねてくる。しかしそのすぐ後には答えず、俺はただ黙って下を向いていた。あくまで、これは自分の中で解決すべきことだと思っていたからだ。でも、

 

「当方もドクター・ロマンも、それを決して笑うことはない。少しでも力になれるのであれば、どうかその悩みを打ち明けて欲しい」

 

いつの間にか、俺は心の内を吐露していた。

俺が彼女に対して抱く感情のことも、守りたいと思うことも、しかし結局は彼女を裏切ってしまったことへの罪悪感と自責も、一切合切をさらけ出していた。

”守りたいと思った。けど、守るどころか傷付けてしまった”

”寄り添いたいと思った。けど、彼女を半ば拒絶してしまった”

”死なせたくなかった。けど、それはただ独りよがりの偽善だった”

俺は、どうすれば……。

 

「藤丸君」

 

俺の告白が一度落ち着くと、ロマン教授がそう言った。

 

「やっぱり優しいね、君は。でも、自分を責めすぎだよ。人と付き合う中で価値観がすれ違うことなんて、そりゃあもう付き物さ。だから1度や2度、いやもっとすれ違ったっておかしくなんかない。けど、その上で大事なのは相手のことを分かろうとする気持ちを忘れないこと。分からないから、理解できないから離れるっていうのも確かに人間の性かもしれない。でもさ、”分からないからこそ分かりたい”って思うのも、また人間ってもんさ。君はまだ、彼女のことをもっと知って、理解したいって思ってるんだろ? ならボクは、君は間違ってなんかないと思うよ」

 

「立香殿。人は誰であれ、皆多くの側面を持っている。良い側面だけでなく悪しき側面も、人との関わりの中では向き合うことになる。一時はその側面に驚くこともあるだろう。拒否してしまうこともあるだろう。それでも、それを受け入れようと貴殿は奮闘し、結果として自責に走ってしまったのかもしれない。だが、それで諦めてしまってはだめだ。相手から逃げないこと、理解を諦めないこと、そして躊躇わないこと。それが、誰かを愛するということの1つだと、当方は思う。貴殿は逃げてなどいない。前を向け、胸を張れ、立香殿」

 

「っていうかそもそもさ、彼女がそれくらいでめちゃくちゃヘコむとも思えなくない? いつも飄々としてて切り替えも早いし、じっくり話し合ってみたら案外気にしてないかもだよ。それこそ、彼女を信頼してみてもいいんじゃないか?」

 

「それと、マリー殿からの伝言だ。彼女が言っていたのは───」

 

そして、シグルドさんはマリーさんが俺に向けてくれたという伝言を伝えてくれた。

 

「ドクター……。シグルドさん……。マリーさん……」

 

2人の慰めとマリーさんからの伝言を受け、どうしてか涙が溢れてきた。心身共に疲弊していた体に、3人の言葉はひどく堪えたみたいだった。

 

あ、そうか。これが誰かに寄り添ってもらう、理解してもらうってことの温かさだった。いつも家族や友だちと居たときは、こんなに思い詰めることも葛藤することもなかったから、半ば忘れかけていたんだ、この感じを。

あー、ちくしょう。寄り添いたいって自分で言ってる奴がこんなんじゃ、情けないったらありゃしないよな……。

 

「でも、ありがとう……」

 

少し焦げ臭い外套の袖に目を当ててしばらく涙を拭っていたが、そんな風に小さく感謝の言葉を伝えた。

感謝。そうだ、モルガンにもお礼を言うべきことがたくさんある。彼らの言う通り、もう一度彼女と話し合いたいことだってある。

 

「陛下に会いに……行か……ないと……」

 

しかし、2人の慰めで安堵したことで疲労が一気に襲ってきて、体力が底を尽きてしまったため、立ち上がろうとするのも虚しく俺は眠りの底に沈んで行った。

 

 

 

「藤丸君? ああ、寝ちゃったか。シグルド、横にしてあげてもらっていいかな?」

 

「了解。……改めて見ても酷い傷だ。英霊ならばともかく、人の身では相当に堪えるだろうが……」

 

「ホントだよ、医療担当としては一刻も早く帰ってきて欲しいところなんだけど……あっ、そうだ、君のあのすごいルーンで何とかならないかな? 医療担当が言うのは、何だか情けないけどさ」

 

「生憎と、今は品切れ(スキルチャージ中)だ。魔女殿……失礼、モルガン殿から返却されたルーン石も、改竄した回路で稼働させた弾みで破損してしまっていているようだ。魔力で再生成するにしても時間がかかる故、役に立てそうにない」

 

「うーん、そっか……。ごめん、無理を言って。ともかく、今は休ませてあげようか。しばらく思い詰めてたみたいだし体もボロボロだし、むしろほぼ一般人なのにあれだけ無茶して生きてるのがすごいもんだ。まったく、強い子だよ」

 

「普通の人間故にこそ、かもしれん。平和な世を生きていれば、危機管理は疎かに、不慣れになりがちだ。そこに彼の稀有なまでの勇気が加われば、もはや止める術はあるまい」

 

「危ない強さかもしれない、ってことだね。なるほど、所長が言ってたのはそういう……。まぁでも、なんていうか──」

 

ボクは眠る藤丸君の顔をチラッと見て、少しばかり呆れるような感じで言う。

 

「──モルガンとやっていくなら、それくらいは必要なのかもしれないね」

 

「……はは、そうかもしれんな。パートナーとは、そういうものなのだろう」

 

ボクの発言を聞いて、シグルドは小さくカラカラと笑った。考えてみれば、彼もパートナーとの間で深すぎるくらいの因縁がある人物だ。そういう人との関係性には、一家言あるのかもしれない。相当にアレな事情だから、こっちから聞いてみるのは憚られるけども。

……ボクも、そうなのかもだけど、ね。

 

「ねぇ、君は、彼らは上手くいくと思うかい?」

 

「彼ならば上手くやっていけるとも。人との関係に悩み、生と死の絡むような高度な葛藤にも真摯に向き合う姿勢を、きっと彼も身に付けていくだろう。普通の人間だからこそ、彼はより成長できる。まだまだ、強くなっていける。そうとも、彼なら上手くやるさ」

 

「……ボクが聞きたかったのはそういうことじゃあないんだけど……まぁ、その通りだね。うん、きっとそうだ」

 

「ああ。ところで、貴殿が聞きたかったこととは?」

 

「いや、いいさ。まだまだこれから、だろうからね」

 

「む、そうか?」

 

彼が鈍いのか、またはボクが早とちりしてるだけかもしれないけど。それに、藤丸君自身もまだ自覚してないみたいだし。これから先、たくさんの旅を共にしていくうちに、彼はもっと彼女の色んな面を知っていくだろう。そこでどう変わっていくかは、それこそ誰にも分からないことなんだろう。だから、ここでボクが言うのは何か違う気がする。

……とはいえ、どうにも藤丸君の話を聞いてると──。

 

(──ホの字、にしか聞こえないんだよねぇ)

 

こういうのはレオナルドのすることだと思いつつも、ボクは若い恋の芽生えを感じて、どうしてもニヤけてしまうのだった。

 


 

「おい」

 

「えっあ、はい! どうかなさいましたか、モルガンさん?」

 

「1つ、お前に頼みがある」

 

「わ、私にですか……?」

 

 

モルガンに連れられてジャンヌがやって来たのは、村を一望できる見晴らしのいい丘だった。そこに到着すると、モルガンは立ち止まり、背中越しにジャンヌに言った。

 

「この村の者たちのために、祈ってほしい。私などより、お前の方が余程適任だろう」

 

「え……?」

 

彼女のその予想外の要望に、ジャンヌは思わず戸惑う。

 

「意外か? ……いや、そうだろうな。だからこそ、お前に頼んでいるのだから」

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

振り返ったモルガンは、その表情から、そして妖精眼の力でジャンヌの困惑を見てとった。仮にもかの悪名高い魔女モルガンの頼み事、例え旅を共にしていてそのようなことをする人物だと思えなかったとしても、一体どのような要望かと思っていたところに、頼まれたのはただ祈ること。ジャンヌに限らず、他の誰であっても目を丸くしていただろう。

先入観からあらぬ疑いをかけてしまっていたことに対してジャンヌは詫びるが、モルガンは黙って首を横に振ると、彼女に祈るように促した。

意外だったとはいえ、祈りを捧げることに異論は無かったため、ジャンヌは気まずそうに頷いた後、静かに跪いて瞳を閉じ、祈った。未だ晴れぬ、罪の意識と共に。……或いは、それは祈りではなく──許しを、乞うていただけなのかもしれない。

 

 

 

「これで彼女らも鎮まるはずだ。助力に、感謝を」

 

「いえ、お気になさらず。これくらいの事であればいつでも、ええ。では私は戻りますね」

 

礼を告げるモルガンに、ジャンヌはそう答えるとその場を立ち去ろうとした。

彼女の、自身の内を全て見抜いてしまいそうな瞳が恐ろしくて、まるで逃げるかのようにそそくさと彼女は歩いた。しかし、

 

「ジャンヌ」

 

「……ぅっ、はい、なんでしょう?」

 

モルガンに呼び止められ、彼女ら思わず肩をギクリとさせて振り返る。モルガンは真っ直ぐに彼女へと歩み寄って来て、そしてその凍てつくような瞳で彼女を貫いた。

この期に及んでまだ迷いを払拭しきれていない自身の弱さを暴かれてしまいそうで、そうしたら何かが折れてしまいそうで、彼女は身動きが取れなくなってしまっていた。そして、モルガンがその口を開いた。

 

「お前がすべきことは、懺悔などではない」

 

そして、またもやの予想外の言葉に困惑し呆然としたまま彼女の顔を見るジャンヌに、彼女は続ける。

 

「私は言ったはずだ。竜の魔女はお前ではなかったと。いつまで、お前の名義を借りた分際でそれを汚し続けたこそ泥の罪を背負うつもりだ」

 

「……っ、けれどモルガンさん! きっと彼女が生まれたのだって、()が元凶であるならそれは───!」

 

「それがどうした」

 

「…………え?」

 

()()()()()()。他人の罪を背負うな、ジャンヌ・ダルク。お前がこの国を愛し立ち上がったから、今のこの国がある。そうした足跡がきっと、今を生きるマスターやマシュたちの生きる時代へと繋がっている。救国の英雄、果てのない善人。……お前は、それでいいのだ」

 

「モルガン、さん……」

 

「それでも、彼の者の所業を自身の罪と言うのなら。もう1度、その手でこの国を救って見せろ。この特異点で失われた命の未来を、取り戻して見せろ。それがお前の最大の贖罪になるのだから」

 

救世主とは、そういうものだ。

言外に彼女が含めたその意を、果たしてジャンヌは受け取れなかった。いや、受け取らなかったのだろう。彼女は、自身が救世主だなどとは、これっぽっちも思うことはないのだから。

 

「話は終わりだ。マスターの準備が整い次第、オルレアンへ侵攻する。それまで体を休め魔力を補っておけ」

 

モルガンは、ジャンヌに頼み事をしたときから今までの、ずっと変わらない無表情のままその場を去っていった。彼女の言葉を受け止めしばらく固まっていたジャンヌは、その後ろ姿を見つめる。

 

……自分は何者なのか。ラ・シャリテでシグルドと話してから、今も尚答えを出せていなかったこと。けれどそれは、ひどく簡単な答えでありながら、それでいて強く胸にまたたいた。

彼女は手に持つ戦旗を今一度握り直し、オルレアンの座す方へと目を向ける。

 

「……ジル。私は貴方を───」

 

そして、黎明近づく明け始めの空に、決意を新たにするのだった。

 


 

【???】

朽ちた生命のような、けれど何か恐ろしい存在の息吹のような。

生命の終着点のような、けれど終わりの、底の無い沼のような。

そんな、先の見えない暗闇を、ただ1人ぽつんと見つめている。

恐怖心は、何故か無い。むしろ、身を委ねてしまいたいような誘惑さえ感じてしまう。けれど、一度でもそれに身を許してしまえば、二度と這い上がれないのだろうと、そういった確信めいた直感に従い、ただひたすらに耐えるのだ。

……そんな夢を、ある日から見るようになった。通常通りなら、しばらくの間その闇に耐えて終わるだけ。しかし、いつからか。

 

”君は人形(マリオネット)。君は抜け殻(マリオネット)。君は亡霊(マリオネット)。君は私の■■■■(■■■■■)──”

 

そんな言葉を、誰かがかけてくる。

それを”違う”と言い返す気力も意志もそこには無く、ただ、諦めのようなものだけがそこにある。けれど、それを受け入れることだけは未だに拒んでいる。

そう、せめて、遥か遠くに見える小さな小さな光が、消えてしまうまでは。

そうやって、闇の中で光に縋り付く。まるで、それが自身を焼く火だと気付かず、そしてそれに吸い寄せられる羽虫のように。

 

──ああ、でも。ふと思えば分からなくなってしまう。自分は、一体何者なのか(本当に生きているのか)───。




マシュたちの会話はマジで原作通りで弄りようがなくなってしまったので、やむを得ずカットすることになりもうした。申し訳ない。
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