人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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Lost Record.1 ある母子の記録

「お父さん、いつ帰ってくるの?」

 

幼い少女は、その純粋な瞳で、いたいけな思いのままで母へと尋ねる。

 

「お父さんは……ね、今はまだお国のために頑張ってお仕事してるから、しばらくは帰ってこられないのよ、アニー」

 

母はその幼子、愛しい娘の頭をそっと撫でながらそう答える。……もちろん、嘘だ。でもそれはきっと優しい嘘。幼子の父は既に亡く、しかしそれを伝えるにはまだ早いと、母はそれを隠した。せめて、もっと心の整理をつけられるようになってから。そう考えてのことだった。

しかし、幼子がそんな配慮を真っ直ぐに受け取れることはなかった。

 

「でも、アニーのおたんじょうび……」

 

それに、彼女はもうすぐ誕生日。いつもは仕事で多忙な父も、その特別な日には必ず帰ってくる。だって、今までがそうだったのだから、今回もそうであるはずと、彼女は信じていた。

その日は、大好きな父と大好きな母と一緒に居られて、そして父がたくさん抱っこしてくれたり頭を撫でてくれたり遊んでくれたりする、彼女にとっての何よりも幸せな1日のはずだった。

それなのに。

 

「ごめんね、アニー。お父さんもすごく残念がってたけど、どうしてもダメなんだって。でも、お母さんは一緒だから、我慢して、ね?」

 

「…………やだ。そんなのやだ!」

 

「アニー?」

 

幼子は母の手を振り払い、目に涙を溜め、その小さな胸の内のワガママを吐露する。

 

「お父さんがいないのなんていや! だって、お母さんちっともアニーと遊んでくれないんだもん!」

 

幼子は、母が身籠っていることは分かっていても、最近は彼女と遊んであげることが難しいのだということも分かってはいても、やはりそれでも、構ってほしいと願ってしまうのだ。

 

「で……でもアニー、こればかりはどうしようもなくて───」

 

「アニーのおたんじょうびよりもおしごとのほうが大切なの? アニーよりもおなかの子のほうが好きなの? ……アニーのことなんて、どうでもいいの……!!」

 

「違う、違うよアニー!」

 

「ちがわないよ! ううっ……ううう──っ!」

 

幼子は溢れる涙をそのままに、彼女の肩を抱こうとした母の手を叩いて扉の方へと走っていく。最近になってようやくしっかりと手が届くようになった取っ手を引っ掴んで、彼女は突き飛ばすように扉を開いた。

 

「お母さんのバカ! べーっ、だ!!」

 

そして、扉の前に立っていた誰かにぶつかる勢いで脇目も振らずに駆けていく。後ろから呼び止める母の声も、彼女の足と涙を止めることは叶わなかった。

幼子はただ走り続けて1人で森まで踏み入り、そして彷徨うことになる。本当は、母に追いかけてきて欲しかったのに。

母は来客に対応せねばならず、空元気を出して客をもてなすため奮闘する。本当は娘を追いかけたくても、それを出来る体ではなかったためそれも叶わずに。

 


 

「あっ、フェイさん!!」

 

1人残されたまま、不安と焦燥とに襲われ続けていた母は、夜の闇の中に、星々の煌めきのような銀の長髪が揺らめくのを見とめ、思わず声をかける。そしてその背に眠る我が子の姿を捉え、知らず知らずのうちに涙を流していた。

その妖精が愛娘を下ろすや否や、彼女は礼を言うのも忘れてその子を抱きしめる。そして娘も、大好きな母を抱き返す。

 

妖精はそれを見届けた後、長居もせずに再び夜空の星々の海へと溶け込んで行ったのだった。

 

「アニー、ほらおいで」

 

「……うん!」

 

母は椅子に腰掛け、娘を手招きする。彼女は、座る時は決して足を組まない。なぜなら──。

 

「……えへへ」

 

彼女の膝の上が、娘の特等席だからだ。以前よりも少しばかり窮屈だけれど、娘はむしろ、背中に当たる暖かいぽかぽかを楽しむのだ。

そして、母は遅い夕食を嬉しそうに食べる娘を見つめ、そっと頭を撫で、抱きしめる。

 

「ねぇ、お母さん」

 

「なぁに?」

 

「このぽかぽか、お父さんにも分けてあげたいね」

 

「………そうだね。またいつか、皆で───」

 

母は、何も知らない無邪気な娘の、けれど暖かな言葉を、寂しくも嬉しく思うのだ。例え目から涙がこぼれ落ちても、それはきっと、悲しみなどではない。

彼の遺した愛は、こうして強く、輝いているのだから───。

 


 

───これは、失われた1つの記録。

すれ違いを越え、さらに強く結びついた、ありふれていて、それでいて尊く素晴らしい家族の絆。今やそれは炎の渦へと消え、その軌跡は失われた。

けれど、その愛に立ち会った1人の妖精は、それを忘れることはない。記録には残らず、しかして彼女の記憶の内で、きっと暖かく、輝き続ける。

母と子に父が遺した愛が、決してその輝きを失わなかったように───。

 

そうした小さな輝きを拾い集めて、彼女はまた、歩いていく。その人生の答えが、待っている場所へ。




次回、オルレアン完結(予定)。
多分長くなるので(本文と投稿期間的な意味で)、どうかお待ちを。
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