人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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episode.14 影 ─ファウスト─

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……

 


 

【第14節】

「し……シヌカト・オモター(1912~1968)……親方ぁ空から俺が……おふっ」

 

高所から飛び降りる恐怖にやられて、目のハイライトが消えた状態で発狂する俺の頭を、モルガンがえいっと叩いたことでようやく俺は正気を取り戻した。そしてそのままへたりと尻もちをつき、「それ見たか、無事に脱出できましたよ」とでも言いたげに涼しい顔をするモルガンを見上げる。

 

「……陛下、頼むからああいうのは先に言ってよ……」

 

「言ったとて、貴方はすんなり納得しましたか? 仮に躊躇されて脱出が遅れていたらことではありませんか」

 

「ぐぬぬ……」

 

くそう、この前に彼女が部屋に来てくれた時もそうだったけど、この人大事なことを後から言うきらいがあるから困る。しかし実際、あの場ではあれが正解だったし、城壁から黒泥を奔らせてそれに乗り、すごくふわりと着地してくれたから怪我も無いし、何も言い返せない。

 

「先輩、モルガンさん、大丈夫ですかーー!」

 

その後、壁に盾を擦りながら滑り落ちてきたマシュとアマデウスさんも追い付き、全員の脱出が確認できたことで完璧に彼女の正当性が証明されてしまい、俺は小さく溜息をついた。

 

「ところでマシュ。その……先の、あの怪物たちはどうしたのですか?」

 

そんな俺を傍目に、モルガンは口ごもりながらマシュにそう尋ねた。

……そういや、あいつらを前にしたとき脇目も振らずにぴゅーんと逃げ出してたな、モルガン。最初に見つけた時なんか俺にしがみついちゃって──。

 

「……………!?」

 

しがみついて、だとぉぉぉう!?

そのことを思い出した瞬間、俺は再び顔を真っ赤っかにしてあたふたとする。それに気付きニヤついた顔でアマデウスさんが小突いてきたが、幸いにも本人とマシュには見られていなかったようで助かった。

 

「あの怪物たちは、わたしたちが地下牢に転げ落ちた後、跡形もなく居なくなっていました。周囲を索敵しても遭遇する気配が無かったので、地下に囚われていた生存者の方に脱出いただいてからお2人を追ったのです」

 

「……ほっ、そうですか。ところで、生存者というのは?」

 

「この時代の、ジルさんでした。ご本人はジャンヌさんを追いたいと仰っていましたが、あまりに危険と判断しアマデウスさんが説得してくださって逃げていただいた、という経緯です」

 

「無事に逃げてくれてるといいんだけど」

 

「そうですか。……いずれこの特異点も修正されますから、気にするほどの事でもありせんね」

 

「……ともかく、これで特異点は解決できた、ってことでいいのかな」

 

「ええ。火が収まり次第聖杯を回収して──」

 

ようやく落ち着いた俺が尋ねたことにモルガンが答えようとした時───突如として、そいつは現れた。

 

「ッ!?」

 

その気配は得体の知れない悪寒を伴っていて、全員の背をゾクリとさせる。俺やマシュは心臓がドクンと飛び跳ね、あのモルガンでさえ警戒心を剥き出しにして杖を構え、冷や汗を流していた。

 

「…………」

 

独特な形状の銀の頭部に無機質な真っ黒の目を備え、そこからは血の涙のような赤と黒のラインが走っている。先端の反り返ったスリムな足、そして全身には道化師のような左右非対称の赤と黒、そして銀のラインが存在し、胸部中心には長方形でまるでブラックオニキスのような暗い輝きを持つ水晶体が埋め込まれている。姿形、そして何より大きさに違いこそあれ、その姿はまるで──。

 

「黒い、ウルトラマン……!?」

 

そいつは何も言わず何もせず、ただ黙って俺たち──いや、俺なのか?──を見続けている。一見して隙だらけだけど下手に動けば殺される、そんな恐ろしい予感が頭の中を支配し、俺たちはただただそいつと睨み合いをするしかなかった。

 

「君は……誰なの……!?」

 

それでも何とか声を絞り出し、俺はそいつに尋ねる。情けなく声が震えていたが、そんなことを考える余裕すらなかった。

そいつは俺の問い掛けに反応してか小さく体を揺らめかせると、どこからか響く声で答えた。

 

「……私は……『ファウスト』……」

 

その声は地の底から轟く空洞音のような不気味さを伴っていて、俺の全身に鳥肌が立つ。全身の神経がピリピリと緊張し、如実に告げていた。

──こいつは、ヤバい……!!

 

そして、それと同時に懐の短刀がドクンと脈打つような感覚を覚え、俺は思わずそれを外套の上から掴んだ。

 

「…………フッ、フッ、フ……」

 

それを見たファウストは、低く不気味な笑い声を上げると、まるで最初からそこにはいなかったとでも言うかのように、ふっと姿を消していた。同時に奴が放っていた強烈な気配も消え、俺たちは詰まっていた息を吐き出しては吸い込み、激しく鼓動する心臓を鎮める。

 

「はぁ、はぁ、何だったんだ、今の……」

 

「私も、あんなものは見たことがありません。ですが、あれ程の脅威を感じたのは、久々でした」

 

モルガンがそう言うだけの存在が、一体どうしてこんなところに? 突然現れて何もしないで行ったのは何で……?

それに、短刀があんな反応を示したのも初めてだ。てことはやっぱり、あれはウルトラマンと──。

 

ズドォォォォ……ッ!!

しかし、それらを考える暇もなく突然地面が揺れたかと思うと、俺たちの目の前には、

 

「ファウスト……!? うわぁっっ!?」

 

そこには、さながらウルトラマンの如く巨大化したファウストが現れて(ガイア着地して)おり、その巨体が陽の光を遮り逆光でその姿が暗く映し出されていた。そして、混乱する暇すら与えずに右手から紫のエネルギー弾を撃ち出し、俺たちを攻撃してきた。

その攻撃は俺たちから紙一重ずれた場所に着弾し、その衝撃で地面が爆発する。狙い澄ましたようなその爆発は、見事に俺と3人を分断して吹き飛ばした。運良くいい角度で地面に落ち、俺はゴロゴロ転がりながらその衝撃が収まるまで耐えていた。ようやく体が止まると、回る目と痛む体で起き上がり状況を確認する。そして、

 

「あいつ、皆を狙ってる……!?」

 

さっきまじまじと俺を見つめていた(ように思う)にも関わらず、ファウストは隙だらけの俺には目もくれず3人を率先して攻撃していた。

奴は地面を強く踏みしめると、そこからエネルギーを送り込んでマシュとアマデウスさんの足元に伝播させると、そのままエネルギーを爆発させて2人に大ダメージを与えて吹き飛ばす。

その後、爆発を回避し(いや、あれはファウストが敢えて彼女に当てなかったように見えた)走って俺と合流しようとするモルガンに向けて攻撃を開始し、回避先を読まれたモルガンはそのエネルギー弾の衝撃波を喰らい吹っ飛ばされ、地に伏してしまった。

 

〘 フッフッフ……〙

 

そして奴は彼女を指でつまみ上げてその自由を奪い、まるで俺に見せつけるかのようにしてこちらを向き、再び不気味な笑い声を上げた。

モルガンは気を失ってしまっているようで、ぐったりとして抵抗を示さない。その様子をわざわざよく見えるように掴み直して俺に見せ、奴は俺を挑発していた。それは多分、

 

「ウルトラマンに、なれってことかよ……!」

 

指先にちょっと力を入れるだけで殺せる状況で、わざわざこうして挑発してくるってことは、多分そういうことなんだろう。それに乗らなければ彼女が殺されるかもしれないという焦りと、何より狙いだと思われるウルトラマンじゃなくて3人を先に狙っていたことで怒りに駆られていた俺は、罠であることなど見え透いていたというのに、その感情の昂りのままに白銀の短刀(エボルトラスター)を抜刀した。刀身から眩い光が溢れ出し、俺の体を包んでいく。

 

〘 シュアッ!! …………フッ!?〙

 

俺は変身するとすぐに戦闘態勢を取る。しかし、ファウストはモルガンをすぐにこちらへと投げ渡してきて、俺は呆気に取られながらも両手で丁寧に受け止めた。彼女は泥と傷とを多く被っていて、ひどく弱々しく見える。

……そして、それに気を取られるであろうことも、奴の仕組んだ罠に過ぎなかった。

 

〘 ハハハ……ッ!〙

 

〘 グゥァッ……!?〙

 

モルガンを受け止めたことで抵抗がしづらくなったのをいい事に、奴は走り寄って俺のがら空きの腹に蹴りを入れてきた。防御しようにも、下手に動けば俺自身がモルガンを潰してしまいかねず、もし取り落としてしまえば彼女は無抵抗のまま地面に叩きつけられてしまう。そう、俺は奴の仕掛けた罠にまんまと引っかかってしまっていたのだ。

 

〘 グゥッ、ウアァ……ッ!!〙

 

奴は抵抗出来ない俺を蹴り、殴り、一方的に攻撃を加えてくる。敢えて強力な攻撃をせずコンスタントにダメージを与えてくるせいで距離を取れず、モルガンを安全な場所に降ろすことさえ出来ない。そして、顔面に拳を受けて仰け反ると、奴は体をぐるりと回転させその捻転を上乗せした回し蹴りで俺の脇腹を打ち、俺は城へと体を叩き付けられた。

それによってようやく距離を取れたが、奴が与えたダメージは大きく、立ち上がることは容易ではなかった。それでも、何とかモルガンだけでもと思って体を動かし、ウルトラマンの体重を支えきれずメキメキと崩壊する城を踏み台にして後方へと飛び下がる。

そこにはファウストの攻撃から復帰した2人が居て、俺は警戒の表情で盾を構えるマシュの傍にモルガンをそっと降ろした。驚いたような顔でこちらを見上げる2人を無視して、俺は立ち上がってファウストと向き直った。

一方的に殴れるという優位性を失うにも関わらず、奴は俺がモルガンを降ろすのをただ傍観していたようだ。そして優雅とも取れるような動作でゆっくりとこちらへと歩いて来る。

……かと思えば、突然地面を強く踏みしめてエネルギーを送り込み、それを伝播させて俺たちの足元で爆発を起こした。

 

〘 フッ、シュッ!〙

 

俺はそれを横に前転して回避し、起き上がりざまに片膝立ちのままパーティクルフェザーを放つ。油断していたのか、奴は右肩にその直撃を受け僅かに怯んだ。その隙に俺は立ち上がって右腕を胸の前に構え、エネルギーを解放しながら振り戻す。すると、淡い光が全身を包み込みウルトラマンはその姿を銀色から青銅白へと変化させた。

 

〘 シュアッ!!〙

 

そして姿勢を下げて構えると、ファウストは待っていたと言わんばかりに突然素早く動き出し、俺への意趣返しのようにその手先からエネルギー弾”ダークフェザー”を放ちながら接近し、その勢いのまま高く飛び上がり頭上から蹴り下ろしを繰り出した。

俺は両腕を引いた後に突き出してサークルシールドを展開、ダークフェザーを防ぎ切り直後の蹴りを両腕をクロスして受け止める。勢いよく腕を開いて弾き返すと、奴は空中で体を捻りながら上空へと大きなエネルギー弾を撃ち出し、それを空中で破裂させてエネルギーの雨”ダーククラスター”を繰り出し、それは俺と付近から離脱しきれていなかった3人を襲った。

 

〘 ウァァ……ッ!〙

 

咄嗟に3人の盾になるように前に立つと、シールドの展開を許す間もなく雨が全身を打った。やがて雨が止むと、俺はダメージで重く苦しい体を持ち上げ、3人から離れるために走り出してファウストへと接近し、そのまま右腕で渾身のパンチをぶちかました。奴は左腕を立ててそれを防御するも、その衝撃は奴を後方へと押し込むことに成功する。

奴がそれに怯む内に、俺は左腕を縦に右腕を横にクロスし、上体を捻りながら右腕を戻して立て、それを上空に伸ばしてフェーズシフトウェーブを射出した。3人を巻き込まないためには、メタフィールドで戦う他ない。

 

〘 フッフッフ……〙

 

そして、奴の不気味な笑い声だけを残して、俺とファウストはメタフィールド内に切り取られていった。

 


 

光と闇、その2つを内包する位相空間。そこにて、2つの巨人が対峙していた。

ウルトラマンは姿勢を下げて油断なく敵を見据え、対するファウストは不敵に笑いながら大仰に手を広げて敵の注目を引いた。そして、

 

〘 この瞬間を待っていた……!〙

 

〘 フッ………!?〙

 

ファウストは怖気の走る声でそう言うと、広げていた手を自身の頭上へと掲げた。先程の動作は、注意を引くだけでなくこれから行うことへの準備を兼ねていたのだ。

 

〘 私はファウスト。光を飲み込む、無限の闇だ。その力、見せてやろう──!〙

 

奴の手先から黒い渦が飛翔し、それが上空で破裂した。すると周囲のメタフィールドが次々と闇の位相空間”ダークフィールド”へと塗り替えられていく。ウルトラマンは場に満ちる闇によってその力を削られ、自身の能力が下降していることに気付く。

そう、ダークフィールドはファウストら闇の使徒に力を与え、逆にウルトラマンからは力を削り取る空間であった。

 

〘 クァ……ッ〙

 

先程までの戦闘でのダメージに加え、闇の力による負荷がかかりウルトラマンはその場に膝を着く。そして──。

 

〘 来い、()()()()()

 

ファウストが闇の中へ声をかけると、そこから倒されたはずのバグバズンが、更にその姿を変化させて現れた。

黒竜の如き強靭な翼、より獰猛化した爪牙、そして口部周辺から溢れ出すほどに滾る炎。奴はファヴニールの心臓を食らい、その力を増していたのだ。

 

〘 さぁ、これが最初の試練だ。貴様はまだ、弱すぎる〙

 

そう言うと、ファウストはバグバズンに指示を出し、ウルトラマンへの攻撃を開始させた。バグバズンは鳴き声を上げるとウルトラマンへと一直線に突撃する。彼は即座に横に回避し、奴の背後から反撃を試みるも、黒い翼がバサりと開きウルトラマンを弾き飛ばした。

 

〘 ウァッ……!?〙

 

そして地面に転がった彼へと素早く振り向くと、バグバズンは彼を抱きかかえてその翼で飛び上がり、高速で旋回した後に螺旋を描きながら地面へと急降下し、ウルトラマンを頭から叩き付けた。その衝撃たるや凄まじく、彼は仰向けに倒れ立ち上がることは出来なかった。

彼ほどではないにしろ高速度で地面に突っ込んだバグバズンも目を回してフラフラとしていたため、幸運にも直ちに追撃が来ることはなかったが、彼がよろよろと膝立ちまで持ち直す頃には、彼の活動限界が迫っていることを示すコアゲージの点滅が始まっていた。

一方で、ファウストはこの空間の壁を切り裂き、元の空間へ戻ろうとしていた。……ウルトラマンの仲間を排除しにいくのだろうか。少なくともウルトラマンはそう捉え、油断してがら空きになっているファウストの背中へ向け破壊光線クロスレイ・シュトロームを放った。

そのエネルギーの発生を感知した奴は咄嗟に振り向くが回避は叶わず、体をかばうように構えた左手でその直撃を受けた。

 

〘 ぐああ……!! ……………く、フフフ、面白い……! いいぞ、これからもそうして私を楽しませてくれ───!〙

 

その台詞を残して、ファウストは霧のように姿を消した。予想外の攻撃に撤退を余儀なくされたのか元々姿を消す予定だったのかは不明だが、それを考える暇を与えず、復帰したバグバズンが火炎弾をウルトラマンに直撃させる。

彼は再び地に手をつき、肩で息をする。もはや彼に反撃の余力は無く、バグバズンによるトドメを待つばかり───かと思われたその瞬間。

 

〘 ………?〙

 

一筋の赤い閃光が、闇を切り裂いた。

 


 

「む………ぐ………」

 

大地に伏した屍のような男は、遥か遠くで響く自身の”宿敵”の咆哮を耳に捉え、その霊基が最後の残り火(ガッツ)を燃やし始めると同時に覚醒し、のそりと体を起こした。

血にまみれたその体は最早風前の灯し火であったが、しかして彼は大地を踏みしめ、残る全ての命を賭して魔剣を構える。だが、今の彼には宿敵を討つ力など残ってはいなかった。

だからこそ、彼は宿敵ではなく──。

 

「当方の力………貴殿に託す。立て、ウルトラマン(立香)───!!」

 

彼は魂がそうだと吠える仲間へと、その魔剣を撃ち出した。そして彼の霊基は完全に崩壊し、その体はボロボロと光に消えていく。しかし、それでも尚、彼の魔剣が止まることはなかった。

……仲間の前に立ち塞がる不穏を打ち砕く、それが、シグルドという1人の英雄の姿だった。

 


 

〘 ………! シュアッ!!〙

 

ウルトラマンは、自身のコアゲージの中へと見覚えのある赤剣が光となって溶け込んでいくのを確認すると、それが仲間から託された希望であるということを感じ取っていた。

例えそれがほんの僅かなエネルギーに過ぎなかったとしても、ウルトラマンの体に喝を入れ再び戦意に火を点けるには十分なものだった。

 

〘 ハッ……!〙

 

彼はバグバズンが吐き出した4連火球を、まず右の拳で粉砕した後に左手の裏拳で続く2つ目を消し、そのまま左手を水平に打ち込んで3つ目を消すと、4つ目の大火球を力を溜めていた右腕のパンチで打ち砕いた。

その直後に、彼は複数のパーティクルフェザーを発生させて自身の前で小さく上昇させ、その落下に合わせてそれらを拳で打ち出した。バグバズンは翼をはためかせて跳ね除けようとするも、拳により勢いを増した光弾を止めることは出来ず、寧ろ翼に穴を穿たれて飛行能力を失った。

ウルトラマンは追撃の機会を逃さず、セービングビュートを伸ばして奴の足を掴んで転倒させる。そして──。

 

〘 ハァァ……!!〙

 

彼は右腕のコアオーダーを自身のエナジーコアへと当てる。その最後の1つが輝くと、変身者の右手の甲に貯蔵されていた魔力が光のエネルギーへと変換されていく。

 

───『擬似令呪/第3画装填(コアオーダー・サードアサルト)』。

 

それによって一時的に爆発的に擬似的な光のエネルギーを得たウルトラマンは、仲間から受け継ぎし絶技を解放する。

 

両腕を引いて構えると、エナジーコアから直結した強大な禍赤のエネルギーが迸り、やがて彼の前に赤き刃の長剣がその姿を現した。ウルトラマンが左腕で撃ち出すと、赤雷を幾重にも走らせる刃はバグバズンの堅牢な外殻をものともせずに突き刺さり、そしてそこへウルトラマンが渾身の拳を叩き込んだ。

 

───『竜穿つ禍赤の光刃(ベルヴェルク・シュトローム)』。

 

ウルトラマンがシグルドから受け継いだ、新たなる必殺技である。

その拳を受けた赤剣は莫大なエネルギーの爆発となってバグバズンの体内に満ち、そして内側から奴を爆散させた。そしてバグバズンは青い光の粒子となって、今度こそ完全に死亡したのだった。

 


 

「おーーい、皆ー!!」

 

「先輩……! ご無事で良かった……!!」

 

「立香! いやーあの状況でよく踏み潰されもせずに生き残れたもんだ!! ラッキーボーイってのは正に君のことかな?!」

 

俺はダークフィールドが消滅すると、ウルトラマンたちと一緒に巻き込まれたというふうを装ってマシュたちの所へ歩いていった。

マシュは余程心配してくれていたようで、俺が姿を見せるや否や目をうるませていた。アマデウスさんは大きく笑いながらバンバンと俺の背中を叩いてくれた。

モルガンはまだ気を失っているみたいだけど、その形の綺麗な胸が静かに上下しているのを見て一安心した。

その後、あれこれと2人と話していると、

 

「──くん、藤丸君! あっ、よかった繋がった!! 所長、復旧しましたよ!」

 

「あっ、ドクター!」

 

通信途中に切れたからか、いつものピピッという音も無く通信が再開し、目の前にロマン教授の姿が現れた。間もなくして所長も管制室内に駆け入ってきて、俺たちの生存を確認して大きく息を吐く。

ジャンヌさん、そしてシグルドが居なくなっていることについて2人は聞きたがっていたみたいだけど、俺はまずは帰ってから話す、としてはぐらかした。……ジャンヌさんは立派に使命を果たして、シグルドは俺を助ける為に残る命を投げ捨ててくれた。そんな2人の戦いを、ここでざっくりと話してしまうのはどうにも気が進まなかったからだ。

 

「……ん……マス、ター……」

 

そうしていると、ようやくモルガンが目を覚まして俺の方を見た。彼女はゆっくりと体を起こすと、座ったまま俺を手招きした。俺がそれに従って歩み寄ると、彼女は俺の体を少し眺めた後に安心したように目を閉じた。

俺がウルトラマンになって戦闘した、ということを理解していたのであろう彼女は、戦闘の痕を確認してくれていたみたいだ。

今はこうして何故だか大した傷もなく元気でいられてるけど、多分、十中八九、帰った途端に傷がドカンだと思われるため、俺はひっそりと恐怖しているのだった。

 

「マスター、聖杯の回収は?」

 

「いや、まだしてない。今から取りに行こうって話してたところで丁度陛下が目を覚ました感じだよ」

 

「そうですか。…………マスター、私は今、手酷い傷を負っていてあまり歩けそうにありません」

 

「あ……やっぱそうだったか。分かった、とりあえず回収は俺たちでして来るから、陛下はここで───おふっ」

 

「………………」

 

彼女の発言に対して俺がそう返答しようとしたら、彼女は急に魔杖で頭をえいっと叩いてきた。何事かと思って見ると、彼女はじとっとした顔で俺を見つめていた。

……俺、なんかやらかしたっけ?

 

バカ、察せよ立香!

 

察せって、何を!? てかバカってなんだよバカって……

 

彼女のその表情の理由が分かるのか、アマデウスさんが俺に小声で耳打ちするも、何のことか分からずに俺は首を傾げる。

 

……ったく、鈍感にも程があるぞ君は。いいか、彼女が言いたいことはつまりね──

 

そして俺は、さっと赤面した。

 

 

 

「あっ、ありました! 発見しましたよ、皆さん!」

 

「ナイスマシュ! ようしお疲れ!」

 

「おお……ありがとうマシュ……」

 

「よく見つけました、マシュ。これで帰還できますね」

 

そして、崩れた城の跡地から、深く埋もれていた聖杯をマシュが見つけ出し、俺たちは発掘作業の手を止めた。

マシュとアマデウスさんはそれぞれ自分の力で捜索していたが、俺の腕の中に居るモルガンは1人悠然と座ったまま魔術で瓦礫を破壊していた。そして俺は女王様に体良く扱われる哀れな臣下ムーブをかましていたのだった。けど、彼女の満足そうな顔を見ているとどうにも音を上げることが出来なかったんだよなぁ。

……ともかくマシュのお手柄によってようやく作業が終わり、俺は女王様を抱えたまま天を仰いだ。

そこに、小さな光の粒が舞い込んでくる。

 

「……おっと、僕もついに強制退去か。正直ここまで生き残れるとは思ってなかったけど、せっかくだからちゃんとお別れしようか」

 

「アマデウスさん……」

 

この特異点に召喚されていたサーヴァントだから、聖杯を回収したことでアマデウスさんの退去が始まっていた。

 

「竜たちの相手もめんどかったし、あの怪物たちを凌ぐのはダルかったけど、君たちと会えたのは本当に楽しかったよ。……サンソンの奴がどこ行ったかだけは気掛かりだけど、とりあえず今はお疲れ様ってね! 立香、マシュ、これからも特異点修復、なんとか頑張って。じゃあ、バイバイ皆──!」

 

そして、アマデウスさんは光の粒子となって退去し、座に帰って行ったのだった。

 

「ありがとうございました、アマデウスさん」

 

俺とマシュが彼が立っていた場所へとお辞儀をすると、それを見届けた後に所長が話しかけてくる。

 

「皆、本当によくやってくれたわ。色々心残りもあるかもしれないけど、すぐにあなたたちをこっちに帰還させるからじっとしてなさい。報告は帰ってきて傷が癒えてからしてもらうから、まずはゆっくり休んで」

 

「……了解!」

 

実際はほんの数日間の出来事に過ぎないんだろうけど、体感的には物凄い長い時間をここで過ごしていた気がする。

初めての特異点、色んな出会い、色んな出来事、色んな別れ。そうして、沢山のものを手に入れることもできたと思う。

だから俺は、それらを胸を張って報告するために、まっすぐに画面を見て、帰還の光に身を任せた───。

 


 

 

 

 

(皆さん離脱出来たみたいですね、よかった……)

 

自身を焼き尽くしていく炎のただ中で、聖女はそう考える。その穏やかな表情に対するように、目の前の男は声を荒げて叫んだ。

 

「ふざけるな……!! また愛しき聖女を目の前で失えというのか……!? 許さぬ、許さぬぞそんなことは………! 裁かれるのは、私だけでいい!!」

 

その男は、自身の霊基とほぼ直結した聖杯を無理やりに分離し、崩壊していく体の中で必死にそれに願いを叫んだ。

目の前の聖女には既に意識は無く、ただただ死を待つのみ。しかし彼は、そんなことは、それだけは許すまじと、聖女とさして変わりのない状態でありながら意識を保ち、願い続けた。

……しかし、例え願いが叶い聖女が生きながらえたとてこの炎の中では、と彼は絶望に近い感情に囚われる。

───が。

 

「──ジャンヌ!!! そこに居られるのですか!!?」

 

1人の男が、燃え盛る玉座の間の中へ飛び込んで来た。それはかつての彼、今の彼が勇気も力も無い矮小な人間と吐き捨て嘲笑った、ただ1人の男であった。

その男は、炎を意にも介さず、聖女を救い出すべくしてひたすらに声を張り上げ、奥へ奥へと突き進んでくる。

”勇気があれば、彼女を救えただろうに”。消えかけの意識の中で、彼はいつかその男に放った言葉を思い出し、そして心の内で静かに笑った。そうだ、その男は、勇気を振り絞りここまで来たのだと、嬉しいとも驚きとも言えない、不思議な笑いだった。

 

──聖杯よ。万能の願望器よ。まだその権限を有しているのならば、どうか聖女を……いや、ただ1人の、敬虔な少女を救いたまえ──。

 

この特異点で、今まで何かを破壊する為ばかりに使用されていた願望器は、初めて誰かを救うためにその輝きを放った。

その輝きに包まれた聖女は、ふわりと浮かぶと彼女を探し求める男の元へとゆっくりと近付いていく。

 

「ジャンヌっ───!」

 

そして、その男が彼女を受け止めたその瞬間、魔力と魔力の衝突による大爆発が、彼らを吹き飛ばしていった。

 

 

 

「…………う……ううん……」

 

黙々と、足を引きずりながら歩く男の背に、1人の少女が眠り小さな声を上げていた。あの爆発の中で、しかして彼らは生きながらえていたのだ。

それは、人間の可能性に希望を見出し、聖杯により強い想いで願いを捧げた男が叶えた、小さな奇跡であった。

 

彼女よりも早く目を覚まし、全ては解決したのだと感じ取った男は、彼女を背負って周囲の生き残っている村へと歩いていた。そして、彼は誰に聞かれるでもないのに、その願いを呟いた。

 

「……ジャンヌ。貴女が聖女としてある限り、貴女はこの国のために全てを捧げてしまう。ですから、どうか──」

 

そう、それは、炎の中での彼が叶えたかった願いと同じものだった。

聖女としての使命を背負う限り彼女は生きることが出来ないのであれば。

 

「──ただ1人の人間として、生きてください」

 

いずれここでの戦いもこの出来事も、人理には忘れ去られてしまうとしても。それは正しい歴史ではないと否定されるものであるとしても。

 

こんな道筋が、未来があったっていい───。

 

 

 

 

第1特異点 邪竜百年戦争オルレアン 【完】

 

 

おまけ

①未塗装(目以外)

【挿絵表示】

 

②未塗装

【挿絵表示】

 

③未塗装(目)

【挿絵表示】

 

④未塗装

【挿絵表示】

 

 

 




約1年をかけて、ようやくオルレアン完結です。第1特異点の時点でここまで時間かかってるとか、後々が怖くてしょうがない。
私はあまり他の方々の作品は拝見しないのですが(自作のクオリティに絶望する未来が目に見えているので)、絶対に他の人よりもグダってると思います。それでも毎度お読みくださる皆さんには感謝しかないです。
今後もまぁグダるかと思われますが、どうかお付き合いください。
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