人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン 作:グリッド無頼
episode.1 出会い ─エンカウンター─
【intro.1】
どれくらいの間、気を失っていたのだろうか。あの炎の中で、オレは死んだと思っていたのだけど……。どうにか脱出できた、のだろうか? 今までのことを含め全て夢だったのではないか、と頬をつねってみたけど、目は覚めなかった。
「ここは……?」
辺りを見渡すと、そこにあったのは深い森林と遠くに見える遺跡のようなものだった。カルデアは標高6000mの雪山にあるとロマン教授が言っていた。じゃあ、目の前の森林は一体なんなんだろう? 仮に、なんとかして外に出られていたのだとしても、この景色は有り得ないはず。
………というよりオレ、この森に見覚えがあるぞ。カルデアで見た夢に出てきた、あの森じゃないのか?
「………とにかく、このままじゃ埒が明かない。あの遺跡に行ってみよう」
もしかしたら、あの子も助かって、ここに来てるかもしれないという淡い希望を抱いて。
森林は深く、踏み込んでしまえば背の高い木々が遺跡を視界から隠してしまう。森の中を彷徨う経験などした事の無いオレであったが、不思議と迷うことなく、驚く程にあっさりと遺跡に辿り着くことができていた。或いは、何かに導いてもらっていたのかもしれない。
遺跡の中は室内であるにも関わらず明るく、外からはかなり大きく見えたが一本道で、これまた迷うことは無くしばらく歩いていると、奥に祭壇のような物が見えた。
「これ………なんだろう………?」
恐らくは遺跡の最奥に位置しているであろうその祭壇の上には、見たこともない装飾が施された台座があった。そして、その上にあったのは…………。
「鞘に収まった……短刀……かな」
古ぼけて、見た目には今にも崩れてしまいそうな遺跡には似つかわしくない、美しく輝く白銀の短刀のような物がそこにはあった。そしてオレは、無意識に、或いは、再び何かに導かれるように、その短刀に触れた。
その瞬間だった。
「……………っ!?」
短刀から光が溢れ出し、オレはその光に飲み込まれた。そして、いつの間にか遺跡ではなく、真っ暗な空間に浮いていた。そして、突然のこんな状況に陥り慌てふためくオレの前に、眩い光と共にそれは現れた。
「銀色の…………巨人………!?」
オレの目の前には、俺の身長を優に超える巨大な何者かがいた。それは、磨きあげられた鉄のような銀色に輝く姿で、兜を思わせるような頭部、そしてどこか禍々しい形をした赤の水晶を胸にたたえた鎧の胴の、巨人だった。巨人はその無機質とも感じられるような双眸でもって彼方を見つめていた。
身動きも満足に取れず、目の前には得体の知れない謎の巨人がいる。だというのに、オレの体は全くと言っていいほど危機感を覚えていなかった。
「貴方が………俺を呼んだんですか?」
オレの問いかけに、巨人は答えない。しかしその一方で、彼方を見ていた目が、オレに向けられる。少なくとも、声は届いているようだ。
「どうして──」
オレの次の質問は、最後まで口から出すことができなかった。
「いやああぁーーーっ! だっ、誰か───!」
誰かの悲鳴が聞こえた。助けを求める誰かの声が、聞こえた。
オレは、あの子を救えなかった。結局は、何も出来なかった。だから、今度こそは助けるんだ……! 方法なんて知らない。オレにどうにかできる問題な訳がない。それでも、今度こそ、絶対に助けるんだ!
「早く……助けに行かなきゃ!」
巨人が、頷いた気がした。そしてオレはまた、光の奔流にのまれていった。
【intro.2】
どうして!? どうして!? どうして!? 地獄のような街に蔓延る骸骨兵から必死に逃げ惑うわたしの口をついて出てくるのは、全部そんな疑問ともただの嘆きとも、どっちともとれない叫びばかり。3年前に父が亡くなってからずっと、アニムスフィア家の当主として、カルデアの新たな所長として頑張ってきたのに。わたしは偉大すぎた父の後を継ぐには未熟で、職員からの不満だってわたしの耳にいくらでも入ってきた。誰も認めてくれない。誰も分かってくれない。でも、結果さえ出せば、それは全て覆る。だから、辛くても孤独でも、誰にも受け入れられなくても、今挫けちゃ、何もか終わりだから……。だからここまで頑張ってきたのに!
それが起きたのは半年前。カルデアスが放つ、文明の存続、ひいては人類の存在を証明する光が、2016年を境にぱったりと消えてしまったのだ。各所からの抗議や部下の困惑、ただでさえギリギリで保ってきていたわたしには、そこが限界だった。わたしのような小娘に、人類史など背負えるわけがなかった。何度も何度も、嘔吐を繰り返した。何度も何度も、放り出したくなる欲求と闘った。しかし、ただ1人だけだけど、レフが支えてくれたおかげもあってなんとかまた踏ん張り続けてきた。特異点解決のために、できることなら何だってしてきた。この特異点を完璧に解決すれば、何もかもが良くなるに決まってるって、そう信じてきた。なのに。なのに。レイシフトまでの最後の瞬間に、なにもかもが狂ってしまった。謎の爆発のせいで、全てが台無しになってしまった。涙を流す暇ですら与えられない。だったら、わたしって一体なんの為に頑張ってたんだろう……?
「きゃあっ! うぅ……」
わたしは足元の瓦礫に躓いて転んでしまった。そうだ。私は躓いてしまったのだ。カルデア所長として、人類を背負う者として、最後の最後で。わたしにはもう、何も残ってない。カルデアも、各地からかき集めたマスター候補生も、レフも、全て全て、躓いた拍子に落としてしまった。何もかも失ってしまったなら、わたしはもう、ただの小娘に過ぎないのだ。
「誰か……誰か助けてよぉ……」
だって、情けなく誰かに助けを乞うなんて、カルデア所長だったわたし、人類を背負っていたわたしには、決して出来なかっただろうから。でも、そんな声に応える者などいる訳ない。いつだってそうだ。こんなわたしのSOSに応えてくれる人なんて、どこにだっている訳がない。
ここまで来て、ただの小娘になって、死ぬ。馬鹿みたいだ。わたしは自身を嘲笑う。追いついた骸骨兵達が、手に持った剣を振りかぶった。
「もう、どうにでもなっ───」
その時だった。声が聞こえてきたのは。
”諦めるな!”
眩い光と共に、流星のようにそれは現れた。
───銀色の、巨人。
巨人は、現れると同時に地面に拳を叩きつけ、骸骨兵達を一撃で粉砕してしまった。それは巨人にとってはただの一動作過ぎなかったのだろう、しかしそれによってコンクリートは砕け散り土煙が立ち上る。衝撃でわたしの体は小さく飛び上がり、お尻から地面にぽさりと落ちた。立ち上がろうにも、上手く足が動いてくれない。完全に、腰が抜けてしまったみたいだ。
そして巨人は静かに拳を引くと、わたしの方を向いて……頷いた。
「助けて……くれたの……?」
巨人は答える事無く、再び光に包まれ姿を消した。目の前で起きたことに一切の理解が及ばず、呆然とする。しかしすぐに我に返り、腰が抜けて動かない足を必死にさすって叩いて、なんとか動こうとしたがまるで効果がない。今の騒ぎを聞きつけて、周囲の骸骨兵たちが集まってくるかもしれないのに。
せっかく、助けてもらったのに……!
「所長! 大丈夫ですか!」
そんな時、不意に背後から声をかけられ、わたしは振り返る。取り乱しかけて慌てていたわたしを現実に引き戻すには、もはや懐かしい、
「……! あなたは……!」
そこに居たのは、ここには居るはずのない、あのとき説明会から追い出したマスター候補生だった。
彼は巨人の一撃でひび割れた地面を駆けて、こちらへと向かってくる。
「所長、立てますか? もうすぐ他の敵がやって来ます、隠れましょう!」
「あ……わた、わたし、腰が抜けちゃって………!」
情けない……! 助かったのなら、目の前にカルデアの人間がいるなら、わたしは”カルデア所長”にならなきゃいけないのに………!
それは、一種の強迫観念。わたしが必死にしがみつき、同時にわたしに呪いのように纏わりつくモノ。
だって、それだけがわたしにあった、わたしの存在意義なのだから。カルデアを、人類を背負って生きる。それがわたし。だから──。
「掴まってください、オレが背負います!」
──だから、誰かに背負ってもらうなんて、初めてだった。今の今まで、わたしは誰にも受け入れてもらえなかったのだから。誰もわたしを助けてなどくれなかったのだから。だから、わたしはその未知の感覚に一瞬戸惑う。でも、危機が迫っているのにそんなことでまごまごしている訳にもいかない。わたしは彼が差し出した背に掴まり、身を預けた。彼はすぐさま走り出し、その場を離脱する。
揺れる彼の背を、少しだけぎゅっと握り締めた。わたしのブリーフィングで眠りこけた、憎たらしい筈の彼の背中が、どうしてかとても頼もしくて、温かくて……。
なんだかわたしはまた、ただの1人の娘に戻ってしまったかのように、少しだけ涙を流していた。
【第1節 燃える街】
「所長! 大丈夫ですか!」
オレは変身が解除されると直ぐに、自身があの巨人であったことを悟られないように背後から、座り込んでいる所長へと駆け寄る。
「……! あなたは……!」
「所長、立てますか? もうすぐ他の敵がやって来ます、隠れましょう!」
オレは、巨人になった時に周囲に見えた骸骨兵たちが直ぐに警戒に来ることを察知していた。
「あ……わた、わたし、腰が抜けちゃって………!」
目の前で、巨人が骸骨兵たちを粉砕してしまったのだ。いくらそれが自身を助けてくれた存在であったとしても、驚きや恐怖で腰が抜けてしまうのも無理はないだろう。それに、見るからに彼女は怯えている。動揺や混乱が見え透いた表情で、ガタガタと震えていた。なら、
「掴まってください、オレが背負います!」
オレは所長へと背を差し出す。所長は一瞬躊躇うような仕草を見せたが、それどころではないと判断したようで、オレの背に掴まってくれた。所長を背負うと、全速力でその場から駆け出し、骸骨兵が居ないビルの中に滑り込んだ。念の為骸骨兵がいないことを再度確認して、所長を降ろす。
「ここならしばらくは安全だと思います。所長、ご無事でよかった。オレは──」
「藤丸立香、でしょ? わたしのブリーフィングで寝るような不届き者の顔と名前、忘れるわけがないじゃない!」
「うげ、やっぱり目を付けられてましたか、アハハ……」
あんな目にあった所長が、今は落ち着いていることにホッと胸を撫で下ろす。もしかしたら、取り乱してまともに会話できない状態に陥っていたかも知れないから。
その安心の後に、何か胸が熱くなるような感覚を覚える。あの謎の巨人のおかげとはいえ、今度は誰かを助けることが出来た。それが嬉しかったのかもしれない。
「しかし、助けられたのも事実です。礼を言います、藤丸」
「え? あっ、ああ、はいっ」
オレが悪いとはいえ雷を落とされた印象しかなかったから、こんなに素直に感謝してくれたのが、意外というかなんというか。
………なんか、少し目が赤いような……? 頬も朱に染まっている気がする。しかし考える暇もなく所長が聞く。
「それで、どうしてあなたがここにいるのかしら。あなたは管制室にはいなかったはずでしょう?」
「実は、オレもよく分かってないんです。管制室で爆発が起こった後、オレは管制室に向かったんです。そしてもうダメかと思ったら、ここに来ていました」
「えっ? ちょ、ちょっと待ちなさい。何であなたが管制室に戻る必要があったのよ? どうして避難しなかったの?」
「それは……あの子、桃色の髪の女の子が管制室にいると思って……助けに行くつもりだったんです」
「…………あなた、本気で言ってるの? 他人の為に自分の命を捨てるような行為をするなんて、馬鹿げてるわ。自分がどうなってもいいなんて思ってるんじゃないでしょうね?」
「それは……」
オレには、答えられない。実際にオレは自分のことなんて考えられてなかった。あの子を助けようとする一心で、彼女に逃げろと言われても逃げることができなかった。あれはただの自己満足でしかなくて、いわゆる自己犠牲なんて高尚なもんじゃない。たしかに、あれじゃあただの自爆でしかなかった。
「いいこと? まずは自分を大切になさい。他人を助ける資格のある人間は、自分で自分を守れる人間だけなんだから」
「……気をつけます」
「……説教をしている場合じゃなかったわね。ところで藤丸、あなたとわたし以外にここに人間は確認できていないのかしら?」
「残念ながら、今のところは所長しか……」
「そう……。なら、とりあえずしばらくここに身を隠していましょう。骸骨兵がいる中を歩くのは危険すぎるわ」
オレは頷き、割れた窓から慎重に外の様子を伺う。予想していた通り、骸骨兵たちが集まっている。ざっと見ただけでも10体はくだらない。中央突破は自殺行為、丸腰で戦おうなんて以ての外だ。そもそも行くあてもないし、所長の言う通りほとぼりが冷めるまではここでじっとしているしかない。
「ねえ、藤丸。あなたも見たの? あの巨人」
「え? あ、はい、所長の悲鳴を聞いて向かったら、ビルの影から一瞬だけ」
「わたしはあの巨人に助けられたの。あっという間に居なくなってしまったけど……。あんな巨人、データベースでも見たことも聞いたこともないわ。どんな英霊の記録とも一致しないのよ。もっと太古、神代の時代であれば幻想種の可能性もあるけど、ここは2004年だもの。まず有り得ないわね」
「あの、すいません。えいれい、とか幻想なんちゃらって、なんなんですか?」
オレは聞いたことがない単語に首を傾げる。オレはどうしてカルデアに連れてこられたのかもよく分かってない人間だったということを、今しがたオレも所長も思い出したようだった。
「ああ……そうだったわね。あなた、素人も素人だものね。いい、英霊っていうのは───」
所長が解説を始めようとした時だった。
ズガアアァァ!! 大きな衝撃と共にビルが揺れた。
「なっ、なんだ!?」
「こ、今度はなんなのよぉっ!?」
オレたちの混乱をよそに、ビルはそのまま倒壊を始めてしまった。オレが逃げ込んだのは、ビルの2階。今から階段を降りようとしても、間に合わない……! 助かるには、もうこれしかない!
「くそっ………! 所長、失礼します!」
「えっちょっ、きゃああっ!」
オレは所長を抱えて、窓から飛び出した。体は重力に引かれ、地面へと落下していく。幸か不幸か、下にはクッションがある……! 骸骨兵たちがまだそこにいる!
「うおおおわああああ!」
バキッガラガラドガッ! ビルの前にいた骸骨兵を2体ほど下敷きにして、オレは着地した。いや、着地なんて言えるものではなかっただろう。所長を下敷きにする訳に行かず、俺は背中からもんどりを打って倒れたのだから。目論見どおり、骸骨兵が多少の緩衝材となりギリギリで骨折は免れたものの、殺しきれなかった落下の衝撃が体を迸る。
「ぐがッ…!」
息が詰まり、身動きが取れない。しかし周囲には下敷きを免れた骸骨兵数体がいる。彼らに恐怖なんてものは存在していないのだろう、倒壊するビルなど気にも留めずにこちらに注目する。さらに最悪なことに、自由を失ったオレの体は、所長を抱き抱えたままだ……! こんな状態では変身することもできない。いよいよ、詰みだった。
「ち……くしょ……ぉ」
飛びかけた意識が紙一重で見せるぼやけた視界には、抵抗を試みる所長と、嘲笑うようにカラカラと音を鳴らして武器を構える骸骨兵たちが映る。ちくしょう、ここまでか……!
───そう思った時、俺たちの前に彼女が現れていた。
「やあああっ!」
オレたちを囲んでいた骸骨兵たちが、次々と吹き飛ばされていく。朦朧とする意識の中で、オレは骸骨兵たちと戦闘する彼女を見る。それはもはやただの人間ではなかった。大きな武器を手に、次々と敵を倒していく。まるで、物語でしか見た事のなかったような、”英雄”のようだった。意識がはっきりとし、ようやく自由を取り戻してきた体を起こして、所長を解放する。そして戦闘を終えた彼女は、オレたちに向き直って言った。
「お待たせしました、”マスター”。『マシュ・キリエライト』、助太刀に参上しました」
マシュ・キリエライト。それが彼女の名前…。印象的な挨拶、どころじゃないなこれ……。
【第2節 火中に咲く氷の花】
彼女の身長を優に超え、地面に先を置くときに酷く重々しい音を響かせる巨大な盾を武器として軽々と振り回し、少々防御面積が心もとなく思えるものの、強固そうな鎧に身を包んだマシュは、オレがカルデアでみたマシュとはあまりにもかけ離れていた。
「マシュ……無事だったんだね……!」
「はい。気がついたらこの街にいて、わけも分からずスケルトン達と戦闘しながら探索をしていたところ、お二人の姿を発見して……」
「マシュ、あなたその姿、まさかデミサーヴァント……!? どうしてこのタイミングで成功したの…!? というか、マスターってことは……!」
驚いた様子の所長が、いきなりオレの右腕を掴む。オレも気づいていなかったが、そこには赤い翼、あるいは盾の紋章のようなものが浮かび上がっていた。
「やっぱり……。マシュがサーヴァントになって、藤丸がそのマスターに……。ああもう、訳わかんないわよこの状況!」
「あの、何度もすいません、所長。サーヴァントって何ですか?」
「え? ああ、そうだったわね。説明しようとした矢先にビルが……」
そこまで言って、所長は急に身構えた。
「しょ、所長?」
「まだ気を抜く場面じゃないわ! ビルに来た衝撃、それをぶつけてきた何かがいるかもしれない! マシュ、わたしと藤丸を守りなさい!」
「……! はい! お2人とも、わたしの影に!」
所長が言った通り、オレたちがマシュの盾に隠れた瞬間、遠くから何かが飛んできた。それは降り注ぐ雨のようにして彼女の盾を鳴らし、周辺の地面を打ち砕いていく。
「遠距離攻撃に正確な狙撃……! まさか、アーチャーのサーヴァントでも居るっての!?」
「くううぅ……!」
攻撃を受け止めるマシュが、少しずつ押されている。彼女の顔は苦しそうに歪み、汗をだらだらと流している。ここままじゃ、もたない……! やむを得ない、巨人に変身を───!
「───
その時、背後から何者かの声が聞こえた。そしてそれが放った火の玉が、オレたちを攻撃していた者がいるであろう場所へと飛んでいき、そこで爆発する。すると射撃の雨が止み、マシュは盾をガシャリと地面に降ろして膝を着いた。かなり際どいタイミングだったようだ。
「誰!?」
そしてオレたちは振り返る。そこに居たのは、ローブを纏いフードを被った長身の男だった。
「よう、お疲れさん。よく防いだな。おかげで奴の潜伏場所を割り出せたぜ」
「あ、あの。危ないところを助けていただきありがとうございました。あのまま受け続けていたら、耐えられていたかどうか……」
「いいってことよ。この程度、貸しにもなんねえ。っと、一応ここから離れるぞ。俺が外すとは思えんが、奴があの程度でくたばるとも思えないんでね。着いてきな」
男はオレたちに背を向けて歩き出した。オレたちは1度顔を見合わせるも、今はあの男に従う他ない。一瞬の躊躇いの後、男の後に続いた。
「さてと、ここなら安全だ」
男が案内してくれたのは、道場と蔵のある、くたびれた武家屋敷だった。窓はことごとくが割れ、所々壁が崩れているが、敵の気配はたしかに何処にもなかった。
「んで、あんたらは──」
ピピッ。彼の言葉を遮って、オレの左腕に装着されているバンドが音を鳴らした。あれ、これどうやって操作するんだ? 適当にボタンを押すと、目の前には懐かしい人の顔が現れた。
「………あ! よかった、繋がった! 無事かい、藤丸君!?」
「ドクター!」
「その声は……ロマニ? 何であなたが仕切ってるのよ!? レフ、レフはどうしたの!?」
「うえぇ!? しょ、所長! 生きていらしたとは!」
「そんなことよりレフは!?」
所長がロマン教授を責め立てるように聞く。ロマン教授は困惑していたようだが、すぐに状況を飲み込んで落ち着きを取り戻して言った。
「………所長。どうか落ち着いて聞いてください。ボクが指揮をとっているのは、ボクより上の階級の生存者がいないからです。生き残りは20人に満たず、その中に……レフ教授は含まれていません」
「……っ! コフィンのマスター候補生達はどうしたの!?」
「……47人が危篤状態です。医療器具も足りません。助けることができても、精々が数人で………」
「ふざけないで! すぐに全員冷凍保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回しで構わないわ、死なせないのが最優先よ!」
「す、すぐに手配します!」
「お願いだから、死なないで……! 47人の命なんて、わたしに背負える訳が無いじゃない……!」
「所長……」
所長の顔が険しくなり、肩が震える。しかし、それも一瞬で、すぐに切り替えるように話し出した。気丈に振舞っているけど、きっと、所長も不安を押し殺しているんだろう。それは彼女が所長だから、オレとマシュの先導者である者としての自覚があるからだろう。でも、オレにはどうしてかそれが無理をして作り出している虚勢にみえて仕方がなかった。
「………状況は分かりました。とりあえず、こちらの状況を共有します。よく聞きなさい」
所長が、オレと合流した後の出来事をロマン教授に報告していく。………… あれ……。なんか忘れてない?
「…………」
ハッと思い出して、男を見る。やはりというかなんというか、話を遮られた挙句放置されて少し複雑な顔をしてる!
「マシュがサーヴァントに……。そして突如現れ瞬く間に姿をくらました巨人……。とにかく、改めて皆無事でよかった。通信が全然繋がらないから心臓が止まりそうだったよ」
「あーっと、もういいかね?」
待ちぼうけをくらって若干機嫌が悪くなった男がオレたちに話しかける。
「まあ俺もあんたらの会話聞いて大体は分かったがよ。とりあえずそちらさんの状況を説明してくれんかね。あんたらは俺が久々に見た”まともな人間”なんだからな」
「あなたが、藤丸君たちを助けてくれたという方ですか?」
「おう。そういや名乗ってなかったな。俺はキャスターのサーヴァント、真名は『クー・フーリン』。この街じゃ唯一の、話の分かる者さ」
「なるほど。そこの嬢ちゃんがサーヴァントで、坊主がそのマスターか。そんでこの特異点とやらの解決を目指してる、と」
所長はクー・フーリンと名乗る男に、カルデアの事とオレたちがここに来てからのことを伝えた。ちなみにその間、オレは英霊についてロマン教授から教えて貰っていた。
「へっ、解決とは大きく出たな。あのとんでもない野郎とやり合おうって訳だ」
「とんでもない野郎って、一体?」
「この土地の心臓、そこに陣取ってやがる、この狂っちまった聖杯戦争で最強のサーヴァント。セイバーが、そこにいるのさ」
「最強の……サーヴァント……」
「俺も認めるのは悔しいが、俺と嬢ちゃんの2人でどうこうできる相手じゃねえ。せめて俺がランサーで現界していりゃ、多少はマシだったろうがな」
「そんな……。ようやく希望が見えてきたというのに……。すみません、わたしの未熟で……」
「待ちなさい。要は増援が必要……ってことね?」
それまで黙って考え込んでいた所長が、なぜか待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「キャスター、この辺りで霊脈に近い場所はあるかしら?」
「………? ああ、あるぜ。すぐそこの蔵さ」
「ふふん。マシュ、藤丸、着いて来なさい」
「は、はい。了解です、所長」
「所長、何するつもりなんです?」
「いいから着いてくる!」
そしてガラクタだらけの蔵に着くやいなや、所長が切り出す。
「たしかに、霊脈といい感じに繋がっているわね。よし、マシュ、その盾を置きなさい。ここに、宝具を媒体にして召喚サークルを作成するから」
「了解。宝具、設置します」
「召喚サークル……ってことは、新しいサーヴァントを召喚するってことですか?」
「ええ、そうよ。カルデア式召喚の真髄を見せてあげるわ」
所長はニヤリと笑みを浮かべた。
「────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ
汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、
天秤の守り手よ────!」
オレが詠唱を行うと、マシュの盾の上に形成された魔法陣に、いくつもの球体が現れ回転を始める。そして稲妻を走らせながら高速で回転し、その球体が虹色の光を纏う。そして大きく広がったかと思えば、それは3本の帯へと姿を変え中心に浮かんでいた光に一気に集結した。そして一際強い輝きとともに光柱が立つ。その衝撃でオレは思わず怯んでしまい、尻もちをついてしまった。やがて、その光柱の中に1人のサーヴァントの姿が現れる。
そこにいたのは。美しい白銀の長髪、透き通るような白い肌、そして見惚れてしまうほどの美貌を持った───。
「………私を召喚したのですね。バーサーカー、『モルガン』。”妖精國ブリテン”の女王にして、”汎人類史”を呪い続ける者。それで問題がないのなら、サーヴァントとして力を貸しましょう」
玲瓏な声と氷のような冷たい瞳の、ひどく無表情な女性だった。
「貴方が、私のマスターのようですね」
オレは、その美貌と氷の瞳に射止められてしまったかのように、口を開くことも、立ち上がることさえも出来ずにいた。
「たとえマスターであれ、私が女王であることは変えようの無い事実。貴方には、私の臣下としての働きを期待します」
本来であれば、マスターとはサーヴァントを従える者。令呪という束縛をもって、あくまで使い魔として扱うべき”魔術”である。しかし彼女の声には、有無を言わせぬ重圧があった。いや、もしかしたらその声に聞き惚れていたのかもしれない。ともあれ主従が逆転しかねない彼女の言葉に、オレは反論することすらできなかった。オレだけではない。近くにいた所長も、マシュも、クー・フーリンも、ただひたすらに押し黙っている。ロマン教授に至ってはとっくの昔に通信画面からフェードアウトしていた。クー・フーリンに関しては、気圧されているというよりは、何やら複雑そうな表情を浮かべているようだったが。
「……異論は無いようですね。では、そのように。ああ、それとも───」
彼女は、その無表情だった顔に妖艶な笑みを浮かべる。今まで見たこともない程に妖しく、無意識的に惹き付けられてしまうような不思議で不気味な笑み。オレは息を飲む以外の一切の行動を封じられたかのように、ただ黙って、食い入るようにその氷の瞳を見つめていた。そして彼女が、ぞくりと背中を指でなぞるような声で言った。
「───それとも、夫として扱って欲しいですか?」
バーサーカー、モルガン。どうやらオレは、とんでもないサーヴァントを召喚してしまったらしい……。思考を放棄した頭が捻り出した結論はそれだけだった。
デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……
原作の流れに沿う(初手で所長と合流しながら)