人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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しばらくぶりです。時期的に色々と忙しかったので、投稿が遅れました。
いつの間にか評価が赤くなっていてびっくりと同時に嬉しくなりました。まだまだ未熟なので、不釣り合いな評価かもしれませんが、いつか追いつけるまで今後ともどうぞよろしくお願いします。
え? そんなこと言う割に、アイシールド21(アニメ)とコウノドリ(ドラマ)にどハマりしてただろって? ち、違う! Netflixが勝手に!





幕間の物語(1~2) 上

───1度、考えたことがある。

「彼ら」の恐怖感情はどこに行くのか、と。どこへ()()()のか、ではなくどこへ()()のか、である。

彼らにも、怯えることもあれば怖がって震え、涙を流すこともある。ただ、それは極めて限定的で短期的なものだ。通常の人間とは比べ物にならない程に。それはまるで、()()()()()()()()()()かのようだった。

仮に、本当にそうだとしたら。その何かはどこにあって、そして集約された恐怖は何を齎すのだろう───。

 


 

ぺろり、ぺろり。電気の消えた部屋の中に、小さな水音が響いている。首の辺りに感じる生暖かさとくすぐったさから、多分誰かにそこを舐められているらしい。とはいえ、こういうことをする正体なら察しはつく。

 

「……くすぐったいなぁ、まだ朝じゃないでしょフォウくん……」

 

第1特異点からの帰還後、俺は当然のようにぶっ倒れて医務室にぶち込まれ、1週間以上は経ってからようやく自室に帰ることを許された。

医務室に入って最初のうちは痛みでとても休めたものではなく、医療メンバーの皆の尽力のおかげで傷が塞がってきてからは、よく分からない注射やら採血やらの祭り、ついでに食事も病院食のように薄味で、贅沢を言うようだが娯楽としては物足りなく、精神的に休まる暇がなかった。

そんなこんなでしばらく抑圧された後の、ようやく自室でとれる静かな眠りを阻害されたことで、俺はちょっとばかし苛つきながら目を覚まし、暗がりの中で俺の首筋を舐めるフォウくんを触った。と思っていたが……。

 

「……ん?」

 

俺が首あたりにて触ったのは、何故かフォウくん特有の上質なモフリティではなく、ゴワゴワボサボサしたぼろ雑巾のようなもの。その違和感から俺は意識を半分くらい取り戻し、そして首筋に走るくすぐったさの他に鋭い痛みが混じっていることに気付く。そして───。

 

「うおわああぁぁ!!?」

 

きゃっ……!

 

俺は自身の首に何かが噛み付いているらしいことに気付き、驚きのあまりその何かを無理やり突き飛ばしてしまった。

それはとても小さな悲鳴を上げて床にごつんと落ち、もぞもぞと動いている。それにビビりながら壁を背にして移動し、手さぐりで電気のスイッチを入れると、寝起きなのもあって強い光に一瞬目が眩んだ。

次第に目が慣れてくると、そこには──。

 

う……いたぃ……

 

「おん……なの……こ?」

 

また小さな声を上げながら体を起こす、見るからに幼い女の子がいた。その赤と灰の髪はひどく傷んでいてぼさぼさで、着ている服もひどく粗末でボロボロになってしまっている。長い間体を洗っていないのか、鼻を突く悪臭が部屋中に満ちていた。

そしてよく見てみると、その子は口から血を垂らしていて、俺は突き飛ばしてしまった時に口の中か唇を切らせてしまったのかと思い、その子に近付いて膝を着く。

 

「……えと、ごめんね、大……丈夫?」

 

半べそをかくその子は、しかし俺の声に反応してか、伸び過ぎて頬の辺りまである前髪の隙間から俺の顔を見上げる。その薄暗い灰色の瞳には光が無く、どうしてかモルガンに似ているように感じてしまった。

女の子は俺の問いには答えず、ふるふると頭を横に振った。そしてその小さくか細く、まるで腐っているかのように変色した指で俺を差した。カタカタと震える痛々しい指先に気を取られつつも首筋に手をやると、

 

「わっ、血出てる……!」

 

そこからは鮮やかな血が流れ出しており、そのことに呆気にとられていると、女の子が俺の手を強引に(この子、見た目の割に力がある!)引っ張ってうつ伏せにすると、俺の頭をお腹に抱いて再び首筋に顔を近付け、生暖かい小さな舌を俺の傷口に這わせて血を舐め取り始めた。

ぞわぞわとした妙で強烈な快感が背中を駆け抜け、全身から力が抜けて弛緩する。抵抗などできず、俺は耳のすぐ上でこくり、こくりと鳴る喉の音を聞いていた。

 

いつまでこうしていたのだろう───と、意識がぼうっとして蕩け始めた時、満足したのか不意にその子が口を離した。頭の上からぽたぽたと唾液と思われるものが落ちてきて、かなりだらしない動作であったことが窺える。

そして、意識が段々はっきりしてくるとその悪臭に再び気付き始めて、さっきまで快感に打ちひしがれ横たわっていた自分はどこへやら、がっしりと押さえ付けられている頭以外をじたばたと動かしてみっともなく抵抗する。

すると、女の子はやんわりと頭を離してくれて、俺は物凄い勢いで起き上がって後ずさり、

 

「きっ……君、誰!? な、何、さっきの!?」

 

さっきまではあの快感で気に留めることが出来ていなかったが、冷静になってみると自分の血を吸われていたという事実に直面し、女の子に若干の恐怖感を抱きながら、上擦った声で問いかける。

しかしその子は何も答えず、ちょこんと立ち上がってとことこと俺の方へ歩いてくる。そして、

 

「……………ありがとう

 

とてもとても小さな声でお礼……を言った、らしい、多分。虫の鳴き声かのような、透き通っていながらどこか濁ったような、混沌とした響きだった。その声にやはり聞き覚えは無く、俺はますます目の前の子の正体が掴めなくなる。

目的も素性も知れない、とにかく訳の分からない女の子に、どうしても拭い切れない恐怖を感じて顔が引きつっているのが自覚できた。

そういうことも女の子にはお見通しであるらしく、

 

「……大丈夫、怖くないよ。このことはすぐに忘れちゃうから

 

「え……?」

 

女の子が再びその混沌を発すると、意識が光に包まれ、俺は抵抗することも名前を聞くことも出来ないまま意識を手放していた。

 


 

ピピッ、ピピッ、ピピッ。3重にかけておいた目覚ましの最終防衛ラインが鳴り響くと共に、再三自動で点灯した電気に照らされる部屋の中で、俺はゆっくりと体を起こした。久々に静かな睡眠がとれて、とても気持ちのいい目覚めだった。

ベッドから降りて洗面所に向かい、ぬるま湯でバシャバシャと顔を洗い流してからうがいをした後、真っ白な部屋と対称的な真っ黒なシャツのままモニターを開き、現在時刻を確認する。

 

「ん、メッセージ来てる?」

 

そこにはメッセージが届いていて、差出人はまあ案の定所長だった。

 

『朝食を摂ったら、AM9:00までに所長室に来なさい。遅刻厳禁!』

 

「9時か……えーっと今は──やっべ、55分じゃん!? あわわわわわ……」

 

寝過ぎた!

俺用に支給された制服は第1特異点で焼失して、予備も件の爆破工作のせいで無くなっていたらしく、残る着るものはモルガンがくれた外套しかない。シャツの上に乱暴にそれを着て、その内ポケに入れておいた、これまたモルガンがくれた櫛を取り出しながら部屋から飛び出した。

……朝ご飯、食べる暇なんて無いよー!

 


 

「『われわれは必要なことを生憎と知らず、知っていることはものの役に立たぬ』か……。はぁ、耳が痛いわ……」

 

わたしは藤丸を待つ片手間に、モルガンから先だって報告を貰っていた『ファウスト』について、知識としては知っていたけど実際に手に取って読んだことは無かったため、改めて調べつつカルデアの蔵書から引っ張ってきて目を通していた。

……のだけれど、敵についての情報を探るつもりが、とんだ説教をされている気分になってしまった。

 

如何せん、第1特異点での探索において、重要な局面でわたしたちは全くサポート出来てなかったんだもの。スペースビーストやレフが出てきた時に限って機器類は動作不良になるし、魔力探知も最後ら辺は全然意味なかったし……。

 

「何より、わたしが駄目じゃない……」

 

わたしにとって1番腹立たしいのは、他の何でもなく自身の無能だった。要所要所で襲ってくる頭痛のせいで度々ダウンしてしまうし、指示も甘くて藤丸やモルガンの暴走を止められなかったし、ロマニがいなければ取り乱したまま戦力増強のチャンスを失ってた可能性大だし、立てた作戦もほとんど意味なかったし……。

はっきりと言ってしまえば、わたしは管制室でうるさく喚いていただけなのだ。

 

「はぁ……」

 

わたしはがっくりと肩を落とし、読んでいたファウストをしおりも挟まずに放り出して机に突っ伏した。

何だか、とても久しぶりにこうしてうなだれたような気がする。グランドオーダーが始まるまでは、こんなことしてる暇すら惜しくて、とにかくひたすらに働かないと不安で壊れてしまいそうだったから。そこに自責の念まで加わってしまえば狂ってしまいそうで、湧き上がる不安を理不尽に職員たちにぶつけることで逃げ回っていたから。

それに、あの頃は。

 

「レフ……」

 

そうだ、あいつがうなだれそうなわたしを支えてくれたから、こんなことしていられないと奮い立てていた。

でも、あの頃のあいつはもういない。今は、あいつはわたしたちの敵に成り果ててしまった。

特異点Fから帰還した後も、きっと冗談だって、1発はたいてやればいつも通りに「冗談だって、怒るなよオルガ」と冷や汗混じりの苦笑いを返してくれるって、現実逃避の理想を描いてた。この状況もカルデアの崩壊未遂も、全部あいつのせいだって、分かりきっていたのに。

……しかし、そんな理想も露と消えた。あいつはわたしたちを邪魔者としか見ておらず、大事にしてた──風に見せかけていただけ、なのかもしれないけれど──マシュにさえ手を上げた。スペースビーストをけしかけて皆を襲わせたのもあいつ。もう、言い逃れなんてできない。

 

「いたっ……! つぅぅ……」

 

その悔しさ、寂しさ、無力感からつい机に左拳をどんと叩き付けてしまったが、そこが今は包帯に巻かれた火傷の患部だったことを失念していて、その痛みで自爆するわたし。情けないやら痛いやらで、何だか泣き出してしまいそうだった。というより既にちょっと涙目だった。しかし、

 

「──すいません遅くなりました! あっでもギリギリセーフですよね、ね、所長!」

 

「へ? うわっあぁぁ! ちょっと藤丸、ノックくらいしなさいよ!」

 

最悪なことに、うなだれて涙目の姿を、刻限まで残り15秒のギリギリで所長室の中に駆け込んできた藤丸に目撃されてしまった。

大慌てで体を起こし、乱れた髪とか潤んだ目を隠そうと焦るあまり、勢い余って椅子がバランスを崩して後ろに倒れる。

がっしゃんと音を立てて背中側から床に落ちて、またやっちゃった、しかもよりによって藤丸の前で! という羞恥心に駆られる。それによってひっくり返った虫のようにじたばた暴れるわたしの気持ちなど知る由もなく、

 

「あのぅ……大丈夫ですか、所長?」

 

「見てないで助けなさいよぉ、この馬鹿丸!」

 

「馬鹿丸て……」

 

呑気な顔でこちらを覗き込む顔が無性に憎たらしくて、また恥ずかしさも相まって結局また理不尽に彼にいちゃもんをつけてしまうのだった。

 


 

「とまぁ、報告はこんな感じです」

 

「なるほど、じゃあデータにまとめるからちょっと待ちなさい」

 

今日の呼び出しの要件は、言うまでもなく第1特異点での報告をさせるため。彼からの報告は基本的にずっと固まって動いてたモルガンと共通していて、それぞれ矛盾がなく確かな情報であることが分かる。

……やけに感情のこもった、色々と修飾された言葉に彩られる報告から、要点だけを引き抜いていくのは結構骨が折れる作業になった。モルガンの淡々とした事務的な報告という下地がなければもうしばらくかかってたかも。

 

しかし彼だけが持ってた情報、それも中々に興味深いものもいくつかあった。

藤丸が脈絡もなく取り出して振るったとかいう光のような何か、復活した上に更に進化して現れたというバグバズン、ウルトラマンがシグルドの力を吸収したという話。

それに、ファウストの発言や対ウルトラマンに特化した空間侵蝕能力やら、ウルトラマンと奴らの明確な敵対関係も見えてくる。

そーれにしても藤丸のやつ、やけにウルトラマンと縁があるわね……。確認できてる全部の出現ケースで戦闘に巻き込まれてるじゃない。あの、メタフィールド? とかいう固有結界らしきものにも巻き込まれまくってるし……。

偶然、かしら?

 

「あれ、どうしたんですかその手?」

 

うんうん唸りながらコンソールをいじるわたしの、包帯に包まれた左手を見た藤丸が、不思議そうに尋ねてきた。

 

「ああこれ? 火傷よ、火傷。通信途絶を直そうとして、発電施設の方に問題ないか確認しに行ったら、いつの間にかね。多分、スチームか何か食らったんだろうけど」

 

にしては結構深い火傷だったんだけど、他に思いつかないし。両手がやられなかっただけマシよね。

 

「ってか、わたしよりあなたの方でしょ問題は。ロマニから大部分は回復したって聞いたけど大丈夫なの? ま、ここに呼び出したわたしが言うことじゃないかもだけど」

 

「あ、はい。おかげさまで。ここまで普通に走ってきましたし。ちょっとまだ左腕の動きが鈍いかも、ってくらいです」

 

「……そう、よかった。でも──」

 

コンソールを叩く手を止めて、彼の顔を見る。そして椅子から立ち上がって、座ったままの彼に近付いていく。きょとんとしたままの彼の右の頬に手を伸ばし、そこに残る鋭利な切創の痕をそっとなぞった。彼は少し頬を赤らめて、体を硬直させたまま焦点だけを震わせながらわたしの指を見る。

そして指を離して、その場にかがみ込んで彼のズボンの裾を少しめくる。そこにはやはり、単純な傷の治癒だけでは消えることの無い、火傷の痕が大きく痛々しく残っていた。本人はまだそのことに気付いていないのか、自身の前に跪くわたしを見て再び頬を赤らめ、あたふたとして膝を上下に遊ばせている。

そういう様子が、どうにも嗜虐心をそそる。モルガンの言っていたこと、なんとなく分かってしまいそうだ。

しかし、今はそんな場合じゃない。

 

「……ごめんなさい。こんな傷、負わせることになってしまって」

 

「え……」

 

楽な旅路、傷の無い道順だとは最初から思ってなかった。 けれど、十分な医療道具や探索資材、それに人材を揃えた当初の計画のままいけていれば、負傷リスクの分散やまとまった戦力での探索で、ここまでの傷を負わせることは無かったはずだ。

それに、彼以外の作戦参加者なら少しは魔術に通じる者たち、普通の人々とは生きていく世界が違う。だから多少傷が残っても問題は少ない。けれどよりによって、本当に本当の一般人である藤丸にこんな傷が残ってしまったら、いつかグランドオーダーを成し遂げて日本に帰った後、いつもの暮らしに、元通りに戻れるのかしら───?

 

「……いいんです。いいんですよ、所長。気に……しないでください」

 

彼の声は震えていた。

ああ……また、やってしまった。わたし、ほんとに無神経。嫌になる。

普通に考えてみれば、ロマニの性格上、藤丸にそういうことを相談してない訳がなかった。藤丸は、きっと考えないようにしてたんだ。人生経験の豊富な大人ならともかく、1人の少年に過ぎない彼に、心の準備がそう早くに出来るはずないもの。

 

「……もう、無茶するのはやめて。まだまだ、6つも特異点があるのよ。第1特異点みたいに無茶し続けたら、もっと酷いことになりかねない。そんなの──」

 

──いつか、命だって。

そんなの、見たくないのよ……。

 

「……分かりました。本当の本当に必要な時にしか、しないようにします」

 

「そもそもしないようにしろっつってんの!」

 

「所長──」

 

わたしはいつの間にか、涙目になっていた。彼よりも歳食ってるはずなのに、大人気ないったらありゃしない。でも、ここまで来たら恥も外聞もないわ。そもそも文字通りだし。

しかし彼はわたしの顔をまじまじと見た後、急に吹き出した。

 

「ちょっと、何笑ってるの! 笑って誤魔化せるような問題じゃないのよ!」

 

「あははっ、だって、説得力ないじゃないですか! ドクターから聞きましたよ、ドクターたちが俺の治療に専念してる間、医療スタッフが抜けた分の仕事全部受け持ってたって。そんなの無茶ですよ無茶!」

 

「なっ、それは……!」

 

マズイわね、完全にその通り過ぎて返す言葉が無いじゃない! 何か言い返さないと……! しかし、言うことを必死こいて考えていた時、不意に藤丸がそっと言った。

 

「俺たち、もしかしたら似た者同士かもしれないですね」

 

「へ?」

 

「所長、さっきうなだれてたじゃないですか。俺もへこんだ時とかよくうなだれますし、なんか、親近感湧くっていうか。無茶するところもそうですし、言い負かされると考え込んで口つぐむ所とか」

 

「………ふ、くすっ、それって似てるに入るの? ほんのちょっとの共通点ってだけじゃない」

 

「そうですかね、いやまあそうかも?」

 

「ちょっと、言い出しっぺが怯まないでよ。それに──」

 

”藤丸と似た者同士……か。ちょっとだけ腹立つような、けど何故か嬉しいような。”

 

「それに?」

 

「……いや、何でもないわ」

 

無神経っていうか、察しの悪い所も一緒ね。

 

「えー、なんですかそれー」

 

「言わないったら言わないの。ていうか似た者同士だっていうならそれくらい察せるでしょ?」

 

「あっずるい!」

 

わたしたちはそんなくだらないやり取りをして、少し顔を見合わせたあと、揃って吹き出した。

無茶云々に関しては有耶無耶にされちゃった感があるけど、この際仕方ないわ。今後はわたしが絶対に止めてやる。……勝手に暴走して周囲の制止を聞かなくなることだってある、それもわたしと同じなら、まあちょっとくらいなら看過せざるを得ない……か。悪い所は似てない、と思いたいけどね。

そんなこんなで、いつの間にかさっきの重たい空気は無くなっていた。笑ったからといって、問題が解決する訳じゃない。けど、落ち込むよりも笑ってた方が何十倍も良い。

能天気、か。正直彼がカルデアに来たときはその能天気さが気に食わなかったけど、何だか、悪くないのかもしれないわね。

 

あー、こんな笑ったの久しぶり! 忘れてたなー、この感じ。ちょっと、やる気出てきたかも。

 

「じゃ、わたしからの用事は終わり。ごめんなさい、時間取ったわね。次の特異点攻略まで、たるまない程度に休んでおきなさい」

 

「了解。今後も頼りにしてます、一緒に頑張ってきましょうね、所長!」

 

そう言うと、彼は笑顔で所長室を後にした。

人類史の存亡を背負う、1番重い立場にいる人物。わたしも、少し前まではそうだった。もしかしたら、彼がそれを一緒に背負ってくれているから、こうして肩の力を抜いて笑うことも出来るようになっていたのかもしれない。

わたしはもう一度椅子に座り直して、コンソールを叩く。仕事は山積み、彼との対話のために捻出した隙間時間はもうすぐ終わり。さっさと頭を切り替えて行かないと終わりが見えない。

少し頭が痛くなるけど、それでも、

 

「頼りにしてる、か」

 

いつぶりだろう、そんなことを言われたのは。誰かに認められたい、なんて思ってたくせに、わたしは周囲の人を遠ざけるようなことばかりしてた。認めてくれる可能性のある人を、ことごとく突き放しては失望させていた。

自分にとっての道標だと信じて疑わなかったレフを失ってからというもの、今まで見えてなかったものが段々見えてくるというのはどうにも皮肉だ。

それでも、道の先にある標なんかじゃなくて、近くを一緒に走ってくれる誰かがいる。それだけで、頑張れることだってあるらしい。

まだまだ先は長い。わたしにだって、次がある。だったら、次こそは今回の汚名を返上して立派に司令をこなしてやるわ!

 

わたしはコンソールを叩く指を、心なしか踊らせるようにして仕事に精を出すのだった。




幕間の物語はまだ続きます。思ったより長くなりそうだったので、上下に分けて投稿する構想に移行しました。下は60%くらいしか完成してないので、もう少しお待ちを。……こいつ、お待ちを、しか言ってねぇな?
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