人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン 作:グリッド無頼
episode.1 出動 ─セプテム─
【intro.1】
「───ああ」
半分が怪物のように変化した男が、全身から血を流して膝をつく。そのくぐもった嗚咽は、唾液と混合し粘り気を帯びた血液が、ゆっくりと垂れるように、どろりと口から漏れ出していた。もはや彼に痛みは無い。痛いとか苦しいとか、そういう境目はとっくの昔に通り過ぎていた。代わりに顔に浮かんでいるのは、満足気な笑み。
「……死ぬんだな、俺は。ああ、いや───」
彼は、僅かに釣り上がっていた口角をもう少しだけ釣り上げて、くつくつと渇いた笑い声を静かにあげた。……額に押し当てられた、銃口の冷たい感触に気が付いて。
「───てめえに、殺されるんだ」
銃を向ける自分には、その言葉の真意は今ひとつ分からなかった。自分に殺されるのであれば悔いや恨みは無いというのか、或いは今後の自分の生涯において、誰かを殺めたという十字架を背負い続けることを嘲っているのか。
分からなくてもいいと、自分は思った。彼の心は彼のもので、彼の思いは彼だけのもの。ただ、それだけのことだから。
それよりも無念なのは、彼への手向けの言葉が自分の口からは出なかったことだ。彼は、敵だった。同情も理解も出来ない、道を踏み外した人間だった。けれど、それでも───。
「……何が違ったんだろうな。俺と、てめえと」
───彼と自分は互いに、誰かが好きで好きでたまらなくて、誰かを愛して愛してやまない、ただの馬鹿な人間だったから。
そんな彼に対する、奇妙な友情のような気持ちと、手向ける言葉も浮かばない無念とを胸に抱きながら、けれど、引き金を引く指を止める動機にはならないことを、理解していたから。
流れ出す血は、止まらない。
溢れ出す涙も、止まらない。
目の前に倒れた、1つの骸を抱えて。
自分はただ、燃える空に慟哭した。
【intro.2】
「──────」
「……あっ、な、何? どうかした?」
別段疲れていたわけでもないのに、何故だかぼうっとしていたらしく、不意に肩を叩かれてすっとんきょうな声で返事をしてしまった。目の前に居たのは、表情が読めない(物理)ながらも何となく心配そうにオレの顔を覗き込む黒鎧だった。
彼は、ちゃんと目が覚めたらしいことを確認すると、オレの肩に左手を置いたまま右手の指を斜め下の方に向けた。その指先を目線で追うと、それはオレの手の中にある拳銃を差していた。どうしてこんなものを持ってるいるのだろうか、と一瞬戸惑ったものの、すぐに直前の状況を思い出して、彼にその拳銃を押し付けるようにして返した。どうしてそんな風に返してしまったのか、自分でもよく分からなかった。
「──────?」
彼は、急にぼうっとしたり銃を突っ返して来たりするオレの様子を変に思ったのか、僅かに兜を傾かせた。ぶさぶさの青いプルームが、それにつられてふさりと揺れる。けれど、彼の拳銃を装備ホルダーに仕舞う動作は迷いなく正確で、とても素早かった。この前、シミュレーター内部で見せた戦闘でもそういう風に見えたし、やはり銃火器の扱いには慣れているのだろうか。ただ、振り返ろうとした拍子に腰のホルダーに篭手の指先を引っ掛けて、拳銃を落っことしてしまっている辺り、自身の身に付けている鎧の扱いに関してはまだ不慣れらしい。
……その人物にとって全盛の状態で召喚されるはずのサーヴァントが、どうして自分の装備に理解の届いていない部分があるのか。それが、今目の前にいる黒鎧の人物のおかしな点だ。
──オレたちが、シミュレーター空間内で黒鎧と遭遇してから2日。モルガンの魔術による軽い拘束を受けた状態でカルデアに回収された黒鎧は、特に抵抗する素振りも敵対する様子もなく、シミュレーターでオレを助けてくれたこともあって、オレとモルガン、そして所長とロマン教授の取り調べを受けるとすぐに解放された。
ただ、取り調べとスキャンで分かったことは、黒鎧のクラスはライダーであり、鎧の内部は曖昧なモヤのように輪郭もはっきりしないながら一応男性であり、口や声帯に相当する機関(恐らくはそれ以外も)が実体化していないらしく発声機能が無く、ジェスチャーや筆談によってのみ意思疎通を図ることができる、くらいのもので、肝心の目的や来歴や正体、誰……或いは何に召喚されたのか、などに関する情報は全然出てこなかった。そもそも、自身が男であり、身に着けている黒鎧の正式な所持者ではないということ以外は自分でも分からない、らしい。目が覚めたら突然シミュレーター内の森林地帯に召喚されていて、アテもなくさまよっていた所、オレやワイバーンたちの喧騒を聞きつけて、あの遭遇に繋がっているとのこと。
とはいえ、彼がカルデアに仇なす者でなく、むしろ協力の姿勢を示しているため、追加の戦力なんてのは喉から手が出るほど欲しい存在である状況も手伝い、オレたちは彼を仲間として受け入れた。しかもしかもで丁度良いタイミングで、2個しか生きていなかったコフィンだが、修理班の尽力によりギリギリ壊れていなかったもう1つが稼動し、(本来は、魔術を使わなくてもモルガンがレイシフトできるようにと)定員が増えていたため、特異点攻略にも参加してもらえる状況だ。
また、真名が分からない都合上、便宜的に彼のことは『ライダー』と呼ぶことになった。
それが、昨日のことだ。
今は、朝食を食べに食堂に向かっている途中、廊下で彼のキョロキョロと周りを見ながら歩いている姿を見かけて、(もちろん、昨日のうちにスタッフの人が一通り施設案内をしてくれたらしいが、それでもカルデアはつくりが複雑だから)もしかして迷ってしまったのでは、と思って声をかけたら前述の通りに彼が拳銃を落っことして、たまたまこっちに転がってきたそれを拾った、という状況だ。
……彼からしてみれば、急に後ろから声をかけてきた奴が、頼んでもないのに銃を拾い、そして勝手にフリーズした挙句突っ返してくるとかいう、ザ・奇行みたいなムーブをオレはかましていたことになる。馬っ鹿じゃねえの。
「あっ……そうだ、もしかして迷った? オレに分かる場所だったら、案内するけど……」
自身の失態を誤魔化すように、オレは気持ち早口でそう言った。すると彼は、頼むというように2度頷くと、次いで左手を丸めて顎の斜め下に置き、右手の人差し指と中指だけを伸ばして、口の辺りと左手の上とを何度か往復させた。これは間違いない、日本人なら一度は見たことある、あのジェスチャーだ。
「ご飯……あ、食堂に行きたいってこと?」
世界広しと言えど、この独特のジェスチャーをするのは恐らく日本人だけだろう。すぐにそれを理解してそう返すと、彼は、そう! それ! とでも言うかのように頷きながら人差し指でオレを差した。どうやら大当たりのようだ。ということはつまり、彼は日本人か、或いは日本に近しい由来を持つサーヴァント……ということになるのだろうか。もしかしてオレ、そこそこ重要な情報を掴んだのでは? ということにはもうちょっと後に気付くが、今は懐かしいというか親しみあるジェスチャーを見て若干興奮していたし、一緒に腹を空かして食堂に向かっていた、という状況から彼に対して親近感を覚え、呑気にも、おおおーー! とか言って盛り上がっている始末である。馬っ鹿じゃねえの。
「それならオレも向かってたところなんだ。一緒に行こうよ、ライダー」
そんなこんなで、互いに「目の前のこいつはさては日本人だな。こんなよく分からない場所で、同郷の人間と出会えてなんか安心するなぁ」と思っている(?)オレたちは、気持ち軽い足取りで食堂に向かった。
「えー、どうなってんのそれ!?」
「ド、ドクター! 食事中にそういうのは失礼だと思いますっ!(ちらちら)」
「──────」
兜を左手で口元くらいまでずり上げて、その内部に潜む暗黒の中に食べ物を放り込んでは、手品のようにそれを消していくのを見て、ロマン教授は興味津々といった感じで身を乗り出し、兜の中身を覗き込もうとしていた。同じく不思議に思っていたであろうマシュは、ロマン教授を押さえつつも興味を抑えきれてないようだ。ちなみに穏やかな食べっぷりとは似つかず、プレートの上は大盛りである。
あの後食堂に着いたオレたちは、たまたま同じタイミングで来ていた彼らと一緒にテーブルを囲むことにした。その結果がこれである。
とはいえライダー本人はそんなに気にしていない様子で、でもさーとか言いながらマシュとわいわいしているロマン教授に対して、「まあまあ落ち着け、全然気にしてないから」と言うように、ひらひらと手を振って何事も無かったかのように再び食べ始めた。廊下でのやり取りとか、シミュレーターでのサムズアップとか、割かしノリのいい性格をしているのだろうか。あと、なんて言うんだろう、言葉も表情も介さないのに、モルガンよりもよっぽど喜怒哀楽が分かりやすい気がするのは何故かなコレ……。
「しかし、もうライダーと打ち解けてるとは思わなかったよ。マスターとしての素養は十分ってとこかな? ……あれ、聞いてる?」
「うぅっ、美味い! 美味すぎるッーーッ!! 食べるって幸せだー!」
さて、オレはどうしてさっきの3人のあれこれと、ロマン教授の話に全く反応を示さなかったのか。それは、実に2週間ぶりくらいのちゃんとしたご飯を食べれておもっくそ感動していたからだ。特異点ではお世辞にも美味いとは言えないレーション、帰ってきてからは味の薄い病院食、やっとこさ自室に帰れるようになったと思ったらシミュレーターに巻き込まれて、でもってモルガンの下着をのz蹴っ飛ばされたからその日も食べていない。昨日はオレとライダーの目が覚めるのが遅くて、取り調べが終わる頃には食堂の営業が終わっていた。
しかし、ライダーも出会った時から空腹だったらしいし(なにせ、ワイバーンを解体して食おうとしてたんだから)、オレとさして変わらないような状況だったと思うんだけど、落ち着いて静かに食べている。うーん、この
「あ……そうでした。先程、モルガンさんが先輩を探していらっしゃいましたよ。何でも、先輩にお渡ししたい物がおありだとか」
「え、マジで?」
オレがようやく落ち着きを取り戻し始めた頃、なんだかんだにこにこしながら食事をしていたマシュがそう言った。
モルガンが、オレに何か渡し物……。ぱっと思いつくので言えば、未だに預かってもらってた白銀の短刀のことかな? いや、でもモルガンとの秘密ってことにしてるし、妙に勘繰られると面倒になる状況を彼女が作るだろうか。そもそも、彼女も短刀に興味があって調べたいってなことを言ってたし、カルデアにいる間は使うことも無いだろうし、わざわざオレを探してまで返す必要がない。
と、なるとやっぱり──。
「……そういや、なんで藤丸君はインナーのままでいるんだい? 空調は良く機能しているけど、それだけだとちょっと肌寒いんじゃあないか?」
──やっぱり、それが1番心当たりだよなぁ。
シミュレーターでモルガンにK.O.された後、目が覚めた頃には、オレが身に付けていた外套が綺麗さっぱり無くなっていた。十中八九、彼女自身が持って行ったんだろうけど、特に何も言われなかったし、オレの方も他ならぬ彼女自身から貰った物を、また返せと言うのは何となく憚られるから、インナーでの生活を強いられる羽目になっているわけだ。ズボンが剥ぎ取られていなかったのだけはよかった。いや本当に。
事前とか直後の報連相が圧倒的に不足しているってのは、女王様としてどうなんだろう。まさか、公務のほとんどを1人で背負い込んでこなしてた……なんてことは無い……よね。
「とりあえず、後で会いに行ってみるか──っうわ!?」
オレが言い切る間もなく、突然けたたましい音が周囲に響き渡った。いつぞやのD・E爆発事件以来の、緊急事態を知らせる警報が鳴り響いていることに、呑気に飯をかっ食らっていたオレは数秒遅れてようやく理解が追い付いた。
ロマン教授とマシュは、警報が鳴ってすぐに席から立ち上がり、混乱を隠せない表情ながらも周囲の状況把握とパニック防止のため、近くにいたカルデアスタッフたちに声をかけていた。
「っ、オレも早く動かないと! ……って、ライダー!?」
食堂にいた全員より数手遅く動き出したオレは、何をすべきかと周りを見た時、食堂にいた誰よりも迅速に行動を開始していたライダーがダッシュで食堂の入口から飛び出していく姿を見た。恐らく彼は、管制室に向けて移動を開始している。
どうせここに居てもオレに出来ることは無さそうだし、何より管制室に行って警報の正体を確かめなけらばならないだろうし、オレはとっくに姿の見えなくなったライダーの後を追って、廊下へと走り出ていった。
「──え、特に何も無い? 誤報? へぇ……」
管制室に到着したオレたちは、何が起こったのかと室内にいたスタッフの人にすぐさま尋ねた。すると、ちょうど警報の解除措置をしていた人から誤報であるという旨を伝えられ、オレとライダーは呆気に取られた。少し間を置いて追いついてきたロマン教授とマシュも、安心半分、徒労感半分というような微妙な表情をしていた。
「まったくもー、誰だいこんな悪質なイタズラをしたのは?」
呆れた様子を隠す気も無さそうにロマン教授がそう聞くと、目撃者と思しきスタッフの数人が、苦笑いを浮かべながらオレたちの右側にあるデスクを指差した。その方向に注目すると、確かにデスクの裏に1人分くらいの影が伸びているのが見える。オレたちは互いに顔を見合わせてから、恐る恐るデスクに近付いた。すると───。
「やあやあモルガン! まんまと引っ掛かってくれたねェ、このかわい子ちゃんめ!」
突然、ダ・ヴィンチちゃんがすんごい愉快そうな感じで飛び込んで来た。彼女の張り上げる声に反応してか、デスク裏の影がビクっと動いた。ダ・ヴィンチちゃんが関わっているって時点で、もうしょうもない理由で起こった騒ぎであるってことに薄々気付いてしまったが、一旦はその気持ちを抑える。
それと、ダ・ヴィンチちゃんの発言と、影の動きから察するに、ここに隠れているのは……。
「あっ、陛下。もしかして、さっきの騒ぎ──」
「……皆まで言うな、マスター……」
オレがデスク裏に回り込むと、そこには何かを抱きかかえながらしゃがみ込むモルガンの姿が。彼女は、顔を隠すようにぷいっと背けると、ぼそぼそと、しかし確かに耳に届く声でそう呟いた。一体全体どうしてこんな状況になっているのか、たぶんダ・ヴィンチちゃんが1枚噛んでるってこと以外分からず、オレはモルガンとダ・ヴィンチちゃんに交互に視線を向ける。
そうしていると、やがてモルガンが小さく溜め息を漏らしてから顔を向け、怒っているのか拗ねているのか、といった微妙な表情をうっすらと浮かべながらオレをじっと見つめた。それが段々と睨みつけるような鋭さを帯び始めた瞬間に、彼女は不意に目を伏せてゆっくりと立ち上がった。
「…………屈辱です。
「モ、モルガンが凹んでる……!? あの、ちょっと、ホントに何があったの!?」
「…………………」
彼女は、再び黙り込んだ。もしかして言いたくないのかな。だったら、いちおうはこんな騒ぎになっちゃってる訳だから放置できるもんでもないし、真相を知るもう1人であるはずのダ・ヴィンチちゃんを強制連行して、モルガンのいない所で聞き出した方がいいかもしれない。
そう考えて、いつの間にやらライダーによって後ろ手に拘束され、マシュとロマン教授の両名に胡乱な目を向けられていたダ・ヴィンチちゃんの方に行こうとすると、
「おぅっ、ど、どうしたのモルガン?」
振り返りかけた直前、モルガンに右手をぱしっと掴まれ、突然のことに一瞬驚き戸惑ってしまい、変な声を上げてしまった。やけっぱちになっているのか、オレの手を握る彼女の力は少しばかり強かった。……若干、痛い。
「………先日の、埋め合わせの為にと……」
相変わらず目を伏せたまま、彼女はそう言って胸に抱いていた物をオレの方に突き出してきた。埋め合わせ……? あ、もしかして2日前の一発K.O.のことだろうか。そうだとしたら、その件に加え今回の騒ぎを起こしてしまったという負い目から、こんなにしょぼくれてるのかな。そんなことを考えつつ、いつになく控えめな彼女の様子に少し戸惑いを感じながら、差し出された物に目を向ける。
「あっ、これって……オレの外套?」
彼女が小さく頷く。じゃあこれは、2日前に持ってかれた外套であることに間違いなさそうだ。彼女の手からそれを受け取ると、彼女はちらちらとオレの顔を覗いてくる。早く着ろ、ってことだろうか。こんなに遠慮がちなモルガンが新鮮すぎて、正直なところもう少ししおらしい彼女を眺めていたかったが、その思惑を知ってか知らずか、彼女の握る力が次第に強くなってきていた。そろそろへし折られちゃうかな? ってくらいまで耐えてから、オレは空いている左腕で外套を広げ、それを着るという意思表示をした。すると彼女はすぐに手を離してくれた。
「あれ、ぴったりになってる!」
そして袖を通してすぐにその変化に気付いた。元々、小さな女の子を毛布みたいに包んであげるためにぶかぶかのサイズで作ったらしいこともあって、前までは高校男子のオレですら多少袖や肩幅が余ってしまうくらいだった。しかし、今のこれは袖の長さはぴったり、肩幅とかは体によく馴染みつつゆとりもしっかりと持たせられていて、まるでオレの為に仕立てられたオーダーメイド品のようだ。
もしかしなくても、モルガンがわざわざ作り直してくれたのだろう。彼女がオレを探していた、というのはこれを渡すためだったらしい。
「ありがとう、モルガン陛下! 着心地もバツグンに良くなったし、汚れとか傷も直してくれたでしょ? これからも、大事に着させてもらうよ。ほんと、ありがとね!」
「……礼は、1度だけで充分です。それと……実は、新しく追加した機能もあるのです。それらの試運転をしますので、これからシミュレーターに付き合うように」
照れ隠しなのか、彼女はまた顔を逸らしてしまったが、雪のような白肌をたたえた横顔は、ほのかに紅潮していた。
今後は滅多に見れないであろう、彼女のしおらしい姿。オレはまた、心臓に多大な負荷をかけることになってしまった。
「──さて、あっちは話がまとまったみたいだし? そろそろ吐いてもらうぞぅ、レオナルド」
「そうですよ、モルガンさんに悪意が無かったことは見て分かります! また何かしでかしたのではないですか、ダ・ヴィンチちゃん?」
「──────」
「あ、あれ? おかしいな、私の計算だと2人がいい感じにイチャついて、騒ぎのことはなあなあになる予定だったんだけど???」
「「「なるかぁ! /なりませんよ! / ──────!」」」
「おやおやまあまあ……終わったかなコリャ」
その後、皆に寄って集ってボコボコ(比喩、たぶん)にされたダ・ヴィンチちゃんから事情を聞いた。
何でも、朝からオレを探していたけど、何故かすれ違いまくってしまったらしく中々見つけられなかったモルガンが、途中で立ち寄った技術工房で、ダ・ヴィンチちゃんから「管制室のコンソールでこのボタン押せばきっと来てくれるよ」と教えられたため、無駄に探して時間を浪費するよりもそっちのが早いと思って起動したらこの有り様、ということらしい。案の定ダ・ヴィンチちゃんが黒幕じゃねえか! しかし、「実際に警報装置を作動させ、尚且つすぐに停止措置を取らずに騒ぎを拡大させたのは自分だ、レオナルドだけが追及されるのは筋が違う」というモルガンの申し出から、とりあえずダ・ヴィンチちゃんはライダーの拘束から脱した。
「でも、なんで陛下の
「それは、こやつが
「ふふふふふ天才だからね私は! 彼女の妖精眼を上手いこと抜け出す策は既に編み出していたってことさ!」
「その天才的発想とやらを、もう少し技術工房の運営への熱意に変えてくれりゃあね! 文句はそんなにないんだけどね!」
「あ! あーあ、せっかく
「なっ、何故そのことを!? あ、最近妙に物が減ってる気がすると思ってたけど、さてはレオナルド…!」
「~♩ (口笛)」
マジで1発くらいぶん殴っても怒られないんじゃねえかなこの人。この場にいた9割が心の中でそう思ったが、口にするのはぐっとこらえた。
しかしなんだろう、この流れ、何となく既視感があるぞ。具体的には、第1特異点へのレイシフト前日と似ている気がする。というか被害者がオレからモルガンに変わっただけじゃね? あれ、でもそういえば、
「そういえば、所長は? こういう騒ぎがあったら、いつもすぐに駆け付けて来るのに」
「……言われてみれば、確かに。レオナルドを追及するのに気を取られてたけど、もしかして所長のとこでも何か──」
ピピピッ、ピピピッ。
ロマン教授の言葉を遮るかのように、コンソールパネルから通信のコール音が鳴り響いた。特異点探索中に身に着けるリストバンドからの呼び鈴が、鳴るはずのない呼び出し音が、まるで助けを求めて喚くように鳴いている。
ロマン教授は、再びオレと顔を見合せた後、通信開始のボタンを押した。
「──やく、早く繋がりなさいよぉ! ……ああっ、ロマニ!! 藤丸は居る!? 居るわよね!?」
通信が開かれ、モニターに映し出された映像には、ひどく焦った様子の所長が映っていた。彼女の後ろに見えるのは、この前の特異点とは正反対とも言えるような、荒地だった。そして、画面にべったりと張り付くように顔を近付け、鬼気迫る表情でまくし立てるように所長がオレを呼び出す。
「しょ、所長!? どうしたんですか一体!?」
「ああ、よかった藤丸! どうしたのかってこっちが聞きたいわよ、目が覚めたら急にこんな荒野に放り出されてて……!」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ所長! 気が付いたらそこに───
「特異点……ですって? そんな、わたしにレイシフト適性なんて───っきゃああ!? 今はそ、そんな事より…………早く……すけに……! ……スペー……………トが───!!」
通話モニターに映し出された、彼女の現在地は、何故か第2特異点の中だった。そして、しばらくの会話をする間もなくノイズが画面を支配し始め、そして音声も映像も完全に途絶えてしまった。咄嗟にロマン教授がコフィンの使用状況を調べるように指示を出したが、その10秒後に返ってきた結果は、コフィンは全部空っぽ、使用した形跡も残っていないという、現状の謎を更に深くするもので、管制室は一層混乱に包まれた。
「───特異点へのレイシフト準備は、整っていますか」
そのどよめきと困惑の波を真っ先に破ったのは、モルガンだった。
今、一番にするべき事は何か。それは、ここで解決しようのない謎について騒ぎ立てることでは無い。理由や経緯はどうあれ、危険に晒されている所長と合流し、一刻も早く保護すること。
一時の混乱に沸き立った管制室は、彼女の言葉によってその優先順位と冷静を取り戻す。
「っ、レイシフト準備、確かもうほとんど出来てたはずだ! 皆、あとどれくらいで完了しそうだい!?」
「今は最終調整段階で……、あと10、いや5分ください! それで済ませます!」
「よしっ、頼んだ! 藤丸君とマシュ、2人は直ちにレイシフトスーツを着用してコフィン前に集合、モルガンは先に移動して転移魔術の用意、ライダーはボクとレオナルドと一緒に、特異点に持っていく物資を整理して合流! それじゃあ全員、散開!」
「「「「「了解! /はいっ!/ ……(無言で頷く) /OK、分かった! / ──!(敬礼)」」」」」
そして、5分後。
オレとマシュ、ライダーはそれぞれコフィンに入り、モルガンは前回と同様に転移魔術を起動する。
2回目の、この光景。さっきまでは所長を助けなければ、という焦りと使命感から一時的に忘れていたものの、やはり込み上げてくるものは拭えない。
……怖い。死ぬかもしれない、殺されてしまうかもしれない場所に、行かなければならないということが。
みぞおちの辺りから心臓近辺くらいが、きりきりと痛み始める。恐怖以外にも、緊張で体が強ばっているからだ。
(───でも、皆がいる。オレは、1人じゃない。だから、きっと大丈夫)
オレはコフィンのガラス越しに皆の姿を見る。そして、無意識的に懐に手を伸ばしていた。
すると、ドクンと脈打つような感触が指先に返ってくる。そして、ほんのりとした温かさを感じた。ついさっき、すれ違いざまにまるで手品のようにモルガンから手渡された
一度、ゆっくりと深呼吸をした。その後には、さっきまでの恐怖と緊張はほとんど無かった。
「よし、全員準備できたみたいだね。レイシフトが完了したら、まずは最優先で所長の保護を。特異点での任務の確認は、その後にしよう。それじゃあ藤丸君、合図を頼んだよ」
「了解。よし───」
この一言で、また戦いが始まる。けれど、躊躇っている暇はオレたちには与えられない。もう一度息をスゥっと吸い込み、間に合わせの覚悟を抱いて、オレは再び叫ぶ。
「───出動!」
そして意識が、光の中に溶けていった。
デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……