人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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……おお、あなたでしたか!

見てください! 冠位戴冠戦のお蔭で、遂に私はやりましたよ!

レベル120! 宝具レベル5(実質9)! 金フォウ・足跡全MAX! スキル・アペンド全解放&全強化! クラススコア全解放! 絆レベル15! そして、冠位戴冠!
どうです! 素晴らしいでしょう! これでモルガンを、最強のサーヴァントとして祀れます!

ヒャハ、ヒャハッ

私はやったんだああああああああ!!!

ヒャハハハハハハァーッ!!!





episode.3 欠片 ─オーメン─

───クソっ、都に戻ったら、兵役なんてほっぽり出して逃げてやる。誇りなんてクソ喰らえだ、死んじまったら笑い話にもなりゃしねぇ。こんな思いをするのはもう御免だ。

 

首都への道を往く集団、その最後尾を走る男は、心の中で悪態をつき続けていた。それは、先の戦場──いや、あれはもはや屠殺場とでも言うべきか──からずっとまとわりついてくる恐怖から、必死に目を逸らすための心理的措置であった。未知の、大きな力を持った何かに襲われて恐怖し、逃避する。それは人間、ひいては動物の本能としてごく自然な行動であり、彼が特別に臆病だったとか、薄情であったとか、そういうことでは決してなかった。

ただ彼は、その悪態の反芻が胸中に巣食う恐怖を際限なく燻らせ、より深い闇に心が染まっていくことに気が付くことができなかった。その歪みにこそ奴らは根を張り、生まれ落ちるということを知らぬが故に。

 

ふと彼は、自身の体の動きが、頭で思い描き実行していたはずのものと少しズレ始めているという感覚を覚えた。それは次第に拭いきれない違和感となり、やがて彼は思い至ることになる。彼の身体は、既に彼の物では無くなってしまっていたことに。

 

───クソが。

 

それは、恐怖を克服できなかった者の、1つの末路であった。

 


 

「ぬぁっ、な、なにをする! 痛いではない───か?」

 

「………っ!? どうして……そんな!?」

 

突然、背後から伸びてきた鞭のようなものに肩を打ち据えられ、薔薇の女性が痛みに驚く声を上げて振り返った。それに釣られるように皆が視線を後方に移すと、誰とも知れずに悲鳴が上がった。ついさっきまで確かに味方だったはずの兵士の1人が、突如として凄惨不気味な怪異へと変貌を遂げていたからだ。

各所に人だった頃の名残としてなのか、ムカデの足のようにわきわきと動く手指が点在する一対の触手を備え、体液を殺戮肉塊の内部に満ちていた黒い粘液へと置換するために、醜く裂けた口や全身の至る所を突き破って生え出ている細長い触手の根元から大量の血液を排泄し、絶えず小刻みに震えながら全身をぐねらせているその姿は、未だ恐怖の燻りに囚われていたわたしたちを戦慄の大渦に突き落とすには余りあるものだった。ライダーや薔薇の女性が身構えるよりも先に、触手死体は素早く触手を走らせる。

 

「ひぃっ……!?」

 

その触手は、マシュの背に捕まっていたわたしの頬を掠めると、そのまま後方にいた悲鳴を上げていた兵士の、大きく開いた口へと突き刺さるように潜り込んでいった。マシュがそれを止める間もなく触手が再びうねると、兵士の下顎が丸ごと引きちぎられ、そのままささくれを剥がすような要領でみぞおちの辺りまでが縦に引き裂かれた。満杯のたらいをひっくり返すかの如くおびただしい量の血を吹き出して、兵士が倒れる。誰がどう見ても、間違いなく、それは死んでいた。動くはずなんてなかった。しかし、

 

「なっ……なな……何がッ、一体何が起こっている……!?」

 

上顎より下に大きな亀裂を刻まれたその死体から、小さな触手が無数に生えうねり、そしてその亀裂が殺戮肉塊に備わっていたグロテスクな捕食口のような様相へと変化していく。やがて死体は再び動き出し、僅かな皮膚と背骨のみでかろうじて繋がっている首を垂れ下げながら仰け反り、大口をガパガパと開閉しながらわたしたちへと迫り始めた。

 

「──────!」

 

あまりの恐怖に腰を抜かしてしまったらしい兵士の1人が、這々の体で逃げようとするのを見留め、奴らはその兵士を標的に定めた。大口死体が両足をバネのようにぐにゃりとしならせて飛びかかり、それを阻止すべくライダーは担いでいた男を地面に寝かせると、フルプレートの鎧とは思えない瞬発力で駆けて兵士の前に駆け付け、その人を片手で掴んで後方に放り投げて安全を確保し、カウンターを撃ち込むべく小銃を構えた。しかし、彼が引き金を引くよりも早く、大口死体が垂れ下がっていた頭部をちぎり取って投げつけ、その予想外の攻撃に怯んでしまったライダーは、頭部自体は弾き飛ばしたものの狙いの修正が間に合わず、組み付かれてしまった。頭から彼を飲み込もうと、汚く粘液を撒き散らしながら開閉する口の端を、寸でのところで受け止める。一見すれば膠着状態だが、大口死体の両手は自由で妨害し放題、ライダーにとっては窮地もいいところだった。

 

「マシュっ、わたしはいいからライダーの援護に───マシュ?」

 

「あ……あぁぁ……」

 

偶然か、あるいは何某かの悪意によるものか、ライダーが弾いた頭部はマシュの足元へと転がってきていた。

目の前で、瞬きの間に奪われた生命。尊ばれるはずの、素晴らしいもの。その残骸が、道端に打ち捨てられた牛糞の如き様相でそこに転がっている。命の尊さが陵辱される様をまざまざと見せつけられ、マシュは怒るでも悲しむでも、悔やむでも憐れむでもなく、ただただ、怯えてしまっていた。……それしか、出来なかったのだ。

彼女は顔を真っ青に染めて、震える体を支えるだけの力さえも入らなくなった膝がかくんと折れ、ぺたりと尻もちをつく。ともすれば、今すぐにでも泣き出してしまいそうな表情をしていた。

 

「マシュっ、しっかりしなさい! マシュってば!!」

 

マシュの背におぶられていたから、同じく尻もちをつく形で放り出されたわたしは、曖昧な呼吸をしながら小さく縮こまって震える彼女の肩を揺らすが、完全に戦意を喪失した彼女の目を覚ますには至らなかった。

 

「くっ、こやつめ、余の太刀筋を見切っているのか!」

 

そんな傍らで、ライダーの援護に向かおうとした薔薇の女性を触手死体が阻んでいた。奴は彼女の振るう剣の軌道を正確に把握・予測し、そのほとんどを回避しつつ、挟撃を仕掛ける兵士たちを軽くあしらっていた。

1人は斬りかかった剣を触手で奪われ、それを逆に腹部に突き刺されて倒れ、1人は薔薇の女性の攻撃をかわすための楔として利用された後に、掴まれた首の骨をボキリとへし折られて動かなくなった。

そしてまた、二度と動こうはずもないその兵士たちは、新たな敵となって彼女の前に立ち塞がる。

 

「──────!!!」

 

そして、今までギリギリで押さえ込んでいたライダーだったが、抵抗する彼に抱き着くように絡みついた大口死体の手に、腰部後方に差してあったサバイバルナイフを抜き取られ、それを背中から深々と突き立てられた。声は無く、けれど確かに苦悶の叫びを上げているであろう彼の手が、遂に口の端から離れてしまった。

瞬きの間もなく、ほんの一瞬で、ライダーに大口死体が食らい付く───。

 

 

 

「───()()()()()()()()()!」

 

その刹那のタイミングで、どこからか藤丸の声が響いた。その次の瞬間、目を疑うようなことが起きていた。

 

「えっ……モ、モルガン!?」

 

突然、さっきまで大口死体と取っ組みあっていたライダーの位置に、何故かモルガンが立っているのが目に入り、わたしは思わず驚いて声を上げてしまう。

 

「消えなさい」

 

ライダーという支柱を失い落下する大口死体に、モルガンが黒剣を無慈悲に下から突き刺した。そのまま間髪入れずに黒剣から魔斧へ変形させると、柄を両手で掴み魔術を解放する。魔斧の刃先、その鈍い輝きが一際強くなると同時に、無数の呪詛がひしめく黒泥が迸り、そのおびただしいまでの濁流は大口死体を内部から破裂させ、バラバラに弾け飛散した肉片をも黒泥が溶かし尽くしていく。

そんなほんの数秒で、ライダーを窮地に陥れていた大口死体は跡形もなく消えてなくなった。

その様子を見ても、恐れも怯えもせずに攻撃を仕掛けてくる刺殺死体は、腹に突き刺さった直剣を口内から生え出た触手で掴んで引き抜き、驚異的なリーチで振り回しながら彼女に接近していく。しかし、彼女は全く焦りもせず、なんなら回避行動すら取る気配も無く刺殺死体を眺めていた。そして、奴が先程の黒泥の奔流が引き起こした通り雨の降る中へ踏み込むのを確認すると、彼女は左手の指先からきらきらした光の粒を雨中に放つ。すると、見ていると怖気のしてくるような呪詛が蠢いていた黒泥の飛沫が、清く透き通った水雨に変換されていく。

 

「飾り立ててあげましょう」

 

彼女はその雨の中へと、再び指先から1つの輝く光弾を撃ち込んだ。降り注ぐ雨はその魔術を反射する無数の鏡となり、一瞬間でおおよそ無限回の反射を繰り返しながら奴を穿っていく。抉り抜かれ貫かれ、ささくれ立ったりちぎれたりした筋繊維がその姿をバサバサと広げ、光弾の作り出す残像とが重なり合うその様子は、まるでイルミネーションされたヒノキのようだ。もっとも、悪趣味なことこの上ないデザインではあるのだけれど。そして再び、数秒もしないうちに人の形など見る影もないゴミクズのような肉片群が出来上がっていた。

 

「ライダー、大丈夫!? 今、手当てを──!」

 

そんな数秒の蹂躙を横目に、背中に深々とナイフを突き立てられているライダーを見て、藤丸がそう声をかける。しかし、彼が何かをする前に、ライダーはそれを制止して近くに横たわる瀕死の男を指差した。

でも、と渋る藤丸の肩に右手を置いて、彼はグッと左手の親指を立てて見せた。藤丸は何か言いたげな口をもごっと動かして、しかしそれをつぐんで頷くと瀕死の男の傍に走り寄って行った。

 

とはいえ、やはりライダーもかなりの深手を負っているだけあって、ふらふらと揺れながら辛うじて立ち姿を維持しているだけで、少しでも気を抜いたら倒れてしまいそうだ。

それでも、敵は決して待ってはくれない。大口死体と刺殺死体が稼いだ合計10数秒で、首折死体はわたしとマシュのすぐ近くまで迫っていた。やはり奴らもさっきのスペースビーストの特性を引き継いでいるらしく、わたしの攻撃手段である魔術弾なんてのは、あまりにもささやか過ぎる抵抗だった。逃げようったって、うずくまるマシュを抱えて動くだけの筋力も体力もわたしには無い。

 

「──────!」

 

結局わたしが何も出来ないうちにすぐ目の前まで接近してきた首折死体が、わたしたちに襲いかかろうとする直前に、ライダーが奴に全身をぶつけるようにして体当たりし、もつれ合いながら地面に伏せた。彼は素早く的確に受け身を取ると、マウントポジションをとって奴の胴体に渾身のパンチを叩き込み、手足をビクビクと痙攣させるソレの片足を掴んで、戦闘中にも関わらず雨水のしずくを衣服や髪から優雅に払っていたモルガンの方に投げ飛ばした。

 

「……む、中々に不躾な猟犬ですね。女王の身繕いを遮るなど───まぁ、いいでしょう」

 

そう言って、彼女がふっと目を閉じると、雨によって濡れた地面が次第にその深みを増し、真っ黒な影に覆われたような様相に変化する。影の正体、呪詛で形成されたその領域に蠢く、人の手の形をした無数の呪塊は、投げ込まれた首折死体を影の底へ引きずり込むように地面に縛り付けた。抵抗はおろか身じろぎの1つさえ奪い取った彼女は、魔斧を再び黒剣へと変形させてゆっくりと奴に近づいて行く。

 

「ちょうど、試したいこともありますからね」

 

ゾクリと、背筋が凍り付いた気がした。

……その後の様子は、とてもじゃないけど恐ろしくて見ていられなかった。咄嗟に、マシュの視界からそれを遮ってしまったくらい。もっとも、今のマシュがどれくらい、出来事を脳内で処理できているか分からないのだが……。

 

「ライダー……!」

 

「──────」

 

その一方で、携行アイテムの1つだった治癒力増強状態(毎ターンHP回復)を付与するスクロール(※ダ・ヴィンチ印品)を使って、簡単な応急処置を見よう見まねで施して戻ってきた藤丸は、ほとんどの力を使い果たし両手両膝を着くライダーに駆け寄り、心配そうに顔……兜を覗き込んだ。ライダーは藤丸が差し出した手をぐっと掴んで上半身を立て直すと、肩掛けベルトを引っ張って小銃を手に持った。僅かに震える銃口が狙うのは、薔薇の女性と交戦している触手死体だ。

彼は片膝立ちに姿勢を直し、照準を正確に定めると、彼の腕を肩に回して姿勢を安定させている藤丸に向けて、耳を塞ぐように合図をした。藤丸がすぐさま耳を塞いで半目にするのを確認した後、彼は触手死体が背後を見せ、完全な死角になるタイミングを狙って銃撃を放った。

 

「──っしゃ、ビンゴ!」

 

全くの意識外からの銃撃を背中にもろに受け、触手死体が風穴をいくつも空けながら大きく怯む様子を見て、藤丸が小さくガッツポーズをする。

その隙を逃さず、薔薇の女性は縦の一文字に赤黒の剣を振り下ろし、奴の右肩を捉えた斬撃はそのまま上体の右側を切り飛ばした。

 

「許せ、我が同胞よ───!」

 

そして一瞬、悔しいとも悲しいともとれる表情をその愛らしい顔に浮かべた後、彼女はトドメの連撃を叩き込もうとした。が、

 

「なっ……!?」

 

「ああっ、マシュ!! しまった……!!」

 

切り飛ばされた触手が、本体とは別に勝手に動き出し、空中をひるがえりながらマシュ目掛けて一直線に伸びた。抵抗はおろかまともな判断さえできる状態ではかったマシュは、あっさりとそれに捕らえられてしまった。近くにいたわたしは鞭のようにしなる触手で弾き飛ばされ、ライダーも、彼に肩を貸していた藤丸も間に合わず、触手死体が残った左側の触手で、ロープを繋ぎ合わせるみたいにしてそれを手繰り寄せる。そして、捕らえたマシュを薔薇の女性の前に突き付けた。

 

「……ああぁぁっ、いやあぁぁッ!! 離してっ、離してぇぇ………!」

 

そこに至って、ようやく自分が人質にとられてしまったことを理解したマシュは、完全に取り乱してじたばたと暴れながら泣き叫んだ。

 

「く……余の兵士をどこまで貶めれば気が済むのだ、この下衆がっ……!」

 

今度は、明確な怒りを顕わにして薔薇の女性が吐き捨てる。しかし、効果は覿面だ。彼女はどうしても攻撃する手を止めなくてはならなくなった。なまじマシュが半狂乱になってしまっているため、連携も協力も出来ないし、両腕ごと押さえ付けられているマシュが自力で脱出なんてのは論外だ。

……皮肉にも、マシュは今、奴の身を守る最高の()となってしまっている。

加えて、なんてタチの悪い連中なのか、奴はどうすればわたしたち人間が焦り、自分が優位に立てるのかという一端を理解しているらしい。

 

「……はぐっ、あ゛……ぁぁッ……!」

 

「マシュ……! クソっ、あの野郎!!」

 

こちらが手出しできないのをいいことに、触手死体は人質のマシュを弄ぶように締め付けを強め、そして更に怯えさせるためにか首にまで触手を巻き付ける。挙句の果てには、首を圧迫されたために必死になって息を吸おうと大きく開いた彼女の口内に、彼女の腕よりも平気で太い触手をねじ込んでしまう。

奴による最初の犠牲者──大口死体となった兵士と同じか、あるいはそれ以上に恐ろしい死が口から這い入ってくるのを想起して、マシュはついに涙を決壊させ、鼻水や唾液やら、色んなものと一緒に垂れ流しながら言葉にならないくぐもった声で絶叫した。

 

一刻を争いながらも迂闊に動けない状況を前に、一歩目を切り出したのはライダーだった。彼は藤丸の手助けを受けながら立ち上がると、ふらつきながら藤丸から腕を外し、一人で奴の方に近付いていく。藤丸にしては珍しく、そんな彼を止めるでも追いかけるでもなく、固唾を飲んで様子を見守っていた。

奴ににじりにじりと歩み寄りながら、ライダーは肩から提げた小銃を取り外し、それを地面に放り投げる。次いで腰のホルスターに納まっていた拳銃を取り、同じく捨てるとそれら奴の目の前、彼の手の届かないところに蹴っ飛ばした。そして、スっと両手を上げて武装解除をアピールする。

 

「な、まさか貴様、奴に降伏する気か!?」

 

ライダーのその行動に、薔薇の女性が彼を追及するような声を上げた。しかし彼はそれを止めず、むしろ彼女に向けて首や手をクイッと動かし、「お前も真似をしろ」という合図を送った。反論しようとしてか、彼女が一歩ライダーに近付こうとすると、触手死体がマシュのことを音の鳴る玩具とでも思っているかのようにぶらぶらと揺らしながら締め付け、呻き声を上げさせる。

それを見て、薔薇の女性はライダーを訝しむような表情を浮かべながら渋々といった様子で剣を地面に突き刺し、そこから数歩後ずさった。

 

彼らの行動に、自分が完全に優位に立ったことを確信し、油断したらしい触手死体は、ほんの僅かにマシュに対する拘束を緩めたようだ。それを察知したライダーは、両手をぐっと握りしめてすぐに開き戻した。それは彼からの合図であり、合図を受け取った藤丸が手元から何かを思いきり投擲した。

 

「所長、目と耳を閉じて!」

 

その後、すぐに彼はそう言いながらわたしに覆い被さるようにしながら触手死体に背を向ける。ライダーと薔薇の女性、2名の戦闘要員に注意が向いていた触手死体は、警戒の蚊帳の外にいた非戦闘員のわたしたちの行動になど目もくれず、気付きもしなかったようだ。

ライダーの背後から、彼と触手死体の間に落っこちた物に、奴が気付いた頃にはもう遅かった。

 

「──────!」

 

それは、ライダーが携行していた閃光手榴弾であり、肩を借りていた間にひっそりと藤丸に渡していたもので、既にピンを抜かれていたそれはすぐに炸裂した。急激な化学反応によって瞬間に爆発的な熱量が発生し、それに伴う閃光と爆音とが無警戒の触手死体を襲い、奴は金属を擦り合わせるような甲高い悲鳴を上げて大きく怯んだ。

そのチャンスを逃すはずもなく、ライダーは躊躇う素振りも見せずに背中のナイフを自ら引き抜いた。傷口から、彼を形成する魔力が煙のように吹き出すのも厭わず、彼はマシュに絡みつく触手の根元を切断する。本体が混乱しているためか、切り離された触手もうねうねとするばかりで意図を持った行動はせず、ライダーはマシュの胴体を締め付けていた触手を力づくで引きちぎり──マシュを、万が一にもナイフで傷付けないためだ──、口内を侵していた触手を引きずり出して彼女を解放すると、駆け付けた藤丸に彼女を預け、ようやく混乱の解けた触手死体へと右鉄拳を叩き込んだ。

その強烈なアッパーは奴の腹部を重く深々と捉え、会心の一撃となって空中高くへとかち上げる。最後の力を振り絞った一撃の後、ライダーは倒れ込みながら薔薇の女性の方を向き、空を指差した。トドメを決めろ、というメッセージだ。

 

「なるほど、中々に食えぬ奴よ! ともあれお主の献身無駄にはせぬ!」

 

藤丸とわたしの様子を見て何かしら作戦があったことを察し、同じく目と耳を庇って閃光手榴弾のインパクトを回避していた薔薇の女性は、それを受け取って赤黒の剣を大地から抜刀する。そして、陽の光を反射する刀身を煌めかせながら軽やかに跳躍した。

 

「───天誅!!」

 

風に吹かれて舞い散る薔薇の花びらのように、可憐に空をひるがえる彼女は、空にのたうち回る触手死体の歪んだ姿を頭から真っ二つに両断し、

 

「おおおおおッ!!」

 

可愛らしくも勇猛なウォークライを放ちながら、目にも止まらぬ速さで追撃を無数に叩き込み、奴を跡形の分からない肉片群へと解体した。

ソレはもう、二度と動くことは無い───。

 


 

「マシュ、もう大丈夫、皆があいつらをやっつけてくれた。もう大丈夫だよ、大丈夫だから───」

 

「うっ……うぅぅ……」

 

オレの服を掴み、しがみつくようにしながら静かに泣きじゃくるマシュの背を、そっと撫でながらなんとかなだめようと務める。あんな大きな盾を振るうには、あまりにも不釣り合いに細く小さな体が、がたがたと震えていた。

彼女がこんなに怯えている詳細な原因は、遅れて合流したオレには分からないけれど。こうして触れていると、不思議と彼女の感じている恐怖が流れ込んでくる気がする。それに、周りの酷い有様を見れば、何があったかの想像なんてオレでもできる事だった。

でも、それを知ったからといって、何もしてあげられない自分が恨めしい。気の利いた言葉の1つさえ、オレの口からは出てくれないのだから。

 

「……藤丸」

 

泣き止まないマシュを放っておく訳にもいかず、ひたすらになだめていると、頭を押さえながら怪しい足取りで所長が近付いてくる。彼女はオレの正面まで来ると、ゆっくりと膝を折って座り込み、マシュの頭にそっと手を置き優しく撫でた。

 

「……ねぇ、所長。こういう時、()()()()()()ならどうすればいいんでしょうか? 分からないんです、どうしたらいいのか……」

 

歯がゆさから、オレはつい所長にそんな質問をしてしまった。

 

「そう、ね──」

 

所長は、マシュの頭を撫でながら少しの間黙り込んだ。

 

「……ごめんなさい。わたしにも、分からないわ。この子は、あまりにも特別すぎるもの。大きな力を誰かから受け継いだだけの、まだまだ小さな女の子──」

 

そう言いながら、所長は上着を脱いでマシュに被せる。かたかたと震える、華奢な姿が見るに忍びなかったからだろうか。

 

「……そんな子にさえ、オレは頼りっきりなんだ」

 

口に出してしまうと、不思議とより一層強く印象づいてしまうもので、むくむくと大きくなる悔しさから下唇を食いしばっていた。

泣き疲れたのか、所長に撫でられて安心したのか、気を失うようにして眠ってしまったマシュの手を、ぎゅっと握り締める。涙の軌跡がてらてらと僅かに光る、紅潮したままの頬が、貼り付いた前髪の隙間から覗いていた。

この小さな手に余る力を振るうことを、明日にはきっとまた、オレは強要しなくっちゃあならない。それがどうしてもやるせなくて───。

 

あなただって、おなじなクセに

 

「──え?」

 

唐突に所長が、虚ろな目で放ったその言葉の出処を、ひどく感情の無い平坦な口調で言ったワケを、オレは理解することが出来なかった。まして、

 

「……え……なんでわたし、笑って……?」

 

彼女のものだとはとても思えないほどに歪んだ、満面の笑みを浮かべていた理由なんて、分かるはずもなかった。

 

────────────

 

───────

 

──

 

「しょ……所長……。ま、マジに笑うと結構怖いんですね、知らなかっ──」

 

「そっ、そんな訳ないでしょ! 馬鹿言わないでよ、このちょーぜつ美人カルデア所長が鬼のようですって!? 失礼しちゃうわよ、ホント! だっ、大体ね、わたしの無事を喜ぶ言葉の1つも出てこないってどーゆう事よ!!?」

 

「あっすんません許してくだびぁぁぁぁ!!」

 

完全に眠ってしまったマシュを、持参したタオルを枕に地面に寝かせた後、どうにも釈然としない雰囲気に耐えかねてオレが切り出すと、マシュを優しく撫でていた、さっきまでの聖母の如き彼女はどこへやら、般若いや、修羅の面相でオレの両耳を左右から引っ張る所長。顔を赤くしながら、割とマジで引きちぎられそうなくらいの火力で引っ張られて、オレは変な悲鳴を上げた。

でも、本気で憤慨しているというよりは、さっきの奇妙な彼女の姿を誤魔化すとか、さっきの戦いで植え付けられた恐怖心忘れようとしているとか、そういう類のもののように感じられる。マジに怒ってるのなら引き剥がそうとも思ったかもしれないけど、そんな風な所長をぞんざいに扱ってしまうのは気が引けた。

オレがボコされることで所長の恐怖が和らぐのなら──。

 

「……のろま……愚図……。助けに来てって言ったら、すぐに来なさいよ……」

 

ふと、耳から痛みが消えた。ついに内側の神経がプッツンしてしまったかと一瞬焦ったもののそんな事はなく、シンプルに所長が手を離してくれていたからだった。耳を掴んでいた手は、そのまま下にずり落ちて行って、オレの胸の辺りまで到達する。それに同期するように、オレの顔を睨みつけていた所長の顔が下を向く。

そして、彼女が小さな声で漏らした、文句なのかそうじゃないのかよく分からない言葉を飲み込もうとした瞬間に、

 

「ぶっ!?」

 

何の意図か全く分からない頭突きが飛んできた。顎入った、顎入った! グギギ……。

あんまり痛くは無かったけど、驚きが勝って目を白黒させていると、そそくさと所長がマシュの方へと離れて行ってしまった。

……うーん、オレ、また何か間違えたのかなぁ。そんな風に思いつつ、ほんのりと暖かくなった短刀に手を伸ばしていた。

 


 

「マスター、こちらへ」

 

「あ、うん。ライダー、歩ける?」

 

「──────」

 

あの後、かなりしんどそうな状態になっていたライダーに再び肩を貸していると、モルガンが声をかけてきた。いつぞやの夜襲の時みたいに、肩を貸していた方がライダーの魔力も回復して傷の治りも良いかと思って、オレは頷くライダーと共にモルガンの呼ぶ方へと歩いていく。

 

「うげ……」

 

そこにあったのは、目を背けたくなるような凄惨な現場だったが、彼女に逆らうとワンチャンオレも仲間入りしてしまう可能性があるので、大人しく呪影の領域に踏み込む。モルガン曰く、オレたちには悪影響が無いように調整してあるとのことだが、それでも身震いするような怖気が足先から走った気がした。

 

「これを見てください」

 

直視をしないように努力していた死体を指差して、モルガンが無慈悲にもそう言い放った。横目でチラ見しただけでバラされているってのが分かるのに、それをちゃんと見ろ、というのだから残酷極まりない。SAN値がもってくれることを祈りながら、オレは恐る恐る目を向けた。

 

「…………う、動いてる……」

 

彼女に言われなくても分かる、「どのくらいやれば死ぬのか」を試した跡がMAXに現れているのを見て、胃の中身が込み上げそうになったが、なんとか抑えてそれを上回る異変を口にする。

四肢は分断されているし、胴体は何分割にもされているし、一部は溶かされてドロドロになっているのに、動いている。生きている。バラバラになった各パーツが、互いに結合を求めて寄り集まろうと蠢いている。

 

「驚異的な生命力、と有り体には言えますが。察するに、これはそんな域を優に超えていると考えていいでしょう。肉片……あるいは細胞片でしょうか。ほんの僅かでも残していては、この生物は生命活動を停止しないようです」

 

「マジかよ……。プラナリアとか可愛く見えてくるレベルじゃん……いやプラナリアは可愛いかつぶらな瞳が(現実逃避)」

 

「一先ず、この個体たちは魔術で抹消しますが。先の戦場に残してきた残骸群は、恐らく手遅れかと」

 

……生物として、あまりにも完成されたデザインと、言えないこともないのだろうか。ある程度以上の知能を有していて、生命力も桁違いに高く、無数の個体を分割して行動させることで死滅のリスクを低減させると同時に捕食活動の効率を飛躍的に高めている。加えて、圧倒的な成長スピードまで兼ね備えている。

おまけに、モルガンのような制圧力を持つ魔術師でもなければ、完全に倒し切れないとまできた。スペースビーストって、一体なんなんだ?

 

「とはいえ、肉体の再生にはそれなりに時間を要するようです。まぁ、故にこそ人間の肉体を乗っ取るのが手っ取り早い方法だったのでしょうが。それもここで終わりですから、しばらくは脅威にはならないと考えてよいかと。カルデアとの通信が回復次第、報告と対策の考案を行うとしましょう」

 

「……そうだね」

 

色々と厄介事が積み重なっていく、という感じがして少しげんなりしつつ、モルガンにそう返事をする。

 

「……本当に、死体を残す訳にはゆかぬのか?」

 

すると背後から、話を聞いていたらしい赤装束の女の子(?)が、とても悲しそうな声でそう言うのが聞こえた。彼女は、彼女が切り刻んだ触手死体の残骸を拾い集めて、それを抱くようにしながら近付いてくる。

 

「ええ。放っておけば、じきにソレも再生して人を襲うでしょう」

 

「………………そう、か。せめて、残った者たちだけでも丁重に弔ってやりたかったが……やむを得ぬのだな」

 

彼女は、そう言うときっぱりと、しかし後ろ髪を引かれるような面持ちで肉片群を呪影の領域に置いた。

 

「始末を、頼む。余の兵士たちに、どうか死の安息を」

 

命を奪われて尚、その死骸を巣に虐殺の限りを尽くす怪異となり続けるよりも、それを断ち切って永遠の安眠につかせるのが、人としての情けだろう。

モルガンは、オレたちに呪影の領域から出るよう促すと、そこに魔力を更に流し込んだ。そして、影を燃料にするようにして青い炎が場を包んでいく。

立ち上る煙が、どうか天に召されていく兵士たちの魂を導いてくれるようにと、オレは手を合わせていた。ライダーも、ふらつく体に鞭打って同じように手を合わせた。赤装束の女の子は、空に祈るように両手を広げていた。

……モルガンは、何もしない。ただ、淡々と火葬を執り行うだけだ。

 

思えば……この場面に本当に立ち会うべきなのは、マシュだったのかもしれない。

そんな一抹の後悔の念を抱きつつ、オレは合掌する手に少し力を込め、更に頭を深く下げていた。

 


 

デッデッデッテッデレデレデンンネェクサァス……




やばい、もう3話分の尺使ったのにセプテムの話が全然進んでなァい! それもこれも、ぺドちゃんがスペースビーストとして使いやす過ぎるのがいけないんや……俺は悪くねぇ!
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