人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……


episode.2 決起 ─オリジン─

【第3節 いまは遙か■■■■】

 

「………ところで。いつまでそんな格好で呆けているのです。私を召喚したのであれば、無駄な行動は慎むように。さぁ、立ちなさい」

 

オレはようやくそこで思考を取り戻し、立ち上がってモルガンに向かい合った。改めて見ても、この世の人とは思えないような美しい姿をしている。人形ように美しい女性、とたまに形容されているのを耳にするが、彼女の場合はそんな言葉ですら全然物足りない。露出の多い服装故か、一見して淫靡な雰囲気を纏っていながら、彼女固有の雰囲気はとても清楚なもので、相反するそれが共存していることが異質さを加速させていた。

 

「えっと……。君はオレのサーヴァントになってくれるってことで……いいんだよね?」

 

そんな彼女の雰囲気にどぎまぎとしながら、なんとか絞り出したオレのその無遠慮な言葉に反応してか、彼女はほんの僅かにムッとしたように表情を変え、鋭さを帯びた視線でこちらを見る。そして、ス、と彼女の持つ杖がオレに向けられた。扉から差し込む淡い月明かりが、魔杖の表面を這って鈍く輝かせている。

 

「……言葉には気を付けなさい。先も言った通り、貴方は私の臣下です。ですので、相応の礼儀というものを弁えて貰わなければ困ります」

 

しかし、その言葉にはやはり不可視の重圧が強く伴っている。彼女に抗おうという意思が、根本から消え去っていくような、奇妙な感覚。またしてもオレは反論を口にできなかった。

 

「は…はい。ええっと……モルガン陛下。オレのサーヴァントとして、その力を貸してください。オレには、貴女の力が必要なんです」

 

「……まあいいでしょう。ギリギリですが及第点です。では正式な契約を、ここに」

 

彼女の、雪のように白く華奢な左手が動き、それだけなのにひどく艶やかな動作と感じさせるように人差し指を伸ばし、オレの右手のそっと触れた。すると、そこにある令呪が少し熱を帯び、淡く輝いた。モルガンとの魔力パスが、繋がったということだろう。

 

「オレは藤丸立香。モルガン陛下、これからよろしくお願いします」

 

「………どうにか無事に契約出来たようね、藤丸。まさか、こんなサーヴァントを召喚するなんて……。貴方、もしかしたら才能でもあるんじゃない?」

 

モルガンとのやり取りが終わると、ようやく彼女の放つ重圧から解放されたのか、所長がオレに話しかけてきた。マシュは──。

 

「あ……ぅ……」

 

どうしてか、目を見開いてカタカタと震えていた。確かに、モルガンに今のところ怖い人って感想を抱くのは否めない。オレだって、実のところはそうだ。けど、こんなに怯えるような恐ろしさをもっていたようには感じなかった。一体、どうしたんだろう?

 

「マシュ、大丈夫?」

 

「……っ!? は、はい、マスター。なんでもありません、大丈夫です」

 

「ほんとに? 無理してない?」

 

「…………はい、問題ありません。ごめんなさい、ご心配をおかけしました」

 

オレが声をかけると、我に返るようにマシュが反応した。どうやら思考もままならない状態だったようで、たどたどしく曖昧な返答が返ってくる。しかし、一旦は金縛りのような恐怖感から解放されたようで多少落ち着いたらしく、少しだけ顔色が悪いがいつもの様子に戻った。

 

「ともあれ、こんなサーヴァントを召喚できたんだったら、例のセイバーも倒せるんじゃないかしら?」

 

「あー……っと、そうだな。勝ち筋は見えた。というより、現状最高の引きをしたんじゃねえか、坊主。俺的には……最悪だがね」

 

なにやらクー・フーリンは妙に気になる物言いをしていたけど、今はセイバーのことに関して聞くべきだ。

 

「最高の引き……。そのセイバーって何者なんですか?」

 

「あなたの力をもってしても倒せない敵と言っていたわね。クー・フーリン、あなたより強力なサーヴァントなんて、そうそうはいないと思うのだけど?」

 

クー・フーリンは少し考えるように黙り込み、チラとモルガンを見て、言った。

 

「おおよそこの世で知らぬ者はいない、世界で最も有名な聖剣を携える、1人の王。その聖剣の名は……『エクスカリバー』。そう、奴の真名は、騎士王『アルトリア・ペンドラゴン』だ。アーサー王、って言やぁ分かりやすいか?」

 

「………ほう。妙な巡り合わせもあるものだ。ここでその名を聞くとは」

 

モルガンは何かいい事を聞いたとでも言わんばかりの、妖しい笑みを浮かべていた。モルガンといえば、アーサー王の円卓を崩壊させた魔女だったはず。アーサー王伝説が世界的に有名な分、彼女の魔女としての悪名も同様に知れ渡っていることになる。歴史とか伝承とかに疎いオレですら知っているのだから、そういうことだろう。しかし、その人生をかけてまで憎んだ相手に相見えることになるというのに、どうして笑みを浮かべているんだろうか。

 

「モルガン陛下、なんだか嬉しそうだけどどうしかしたの?」

 

「ふふ、当然でしょう。この手でアルトリアを葬ることができるのです。私から王の座を奪った、あの愚妹を。いずれは踏み潰してやろうと思っていましたが、よもやこうも早くその時が来ようとは私も予想していませんでしたので」

 

モルガンは嬉々として語る。その様子はオレが思い描いていたような、勇ましい”英雄”とは、遠く離れていた。彼女を味方とするのは、本当に正しいことなんだろうか? 一瞬、そんな考えが頭をよぎるが、この特異点を解決しない限りはどうしようもない。たとえそれが英雄らしからぬ者であったとしても、今は信じるしかない。だからオレはその考えを早々に切り捨てた。

……それにしても、愚妹? って言ってたけど、アーサー王って男の人じゃなかったっけ? まぁ……いいか。

 

「さて、用事が無いのであれば早くアルトリアのもとに案内しなさい。なに、私が出るのです。奴の聖剣が齎す勝利など、この私には遠く及ばないということを証明してあげましょう」

 

モルガンは待ちきれない様子。ロマン教授から聞いていたバーサーカークラスの特徴には、理性の欠如というのがあったが、今のところ彼女にはそういう傾向はほとんど見られない。しっかりと意思疎通もできるし会話もできる。しかし、アーサー王に対する憎しみ──あるいは、それ以外の何かの感情だろうか──に関しては、どこかタガが外れてしまっているように感じる。そういう面ではやはり、彼女もバーサーカーなのだろう。

 

「あ……その……。いえ、すみません。やはりなんでもありません」

 

どこか楽しげなモルガンとは打って変わって、マシュが不安そうな顔をしながら口ごもるようにそう言った。なんだか、何か思い悩んでいるようだ。

 

「なるほど。真名解放による宝具の使用ができないことが不安なのですね、マシュ?」

 

「え……!? ど、どうして……!」

 

突然、彼女の心境を見透かしているかのようにモルガンがそう言った。すると、見事に図星をつかれたらしいマシュが困惑の表情を浮かべて狼狽えた。まだ1度もマシュの戦闘を見ていない、つい先程召喚されたばかりのモルガンに看破されたとあっては、当然と言えば当然だけれども。というか、何で名前まで? まだ名乗ってなかったよね、マシュ。

 

「私は最高位の妖精ですので、人の嘘を見抜きその真意を覗く程度のことはできます。下手な嘘は控えるように」

 

──『妖精眼』。それは彼女が生まれ持つ、特殊な瞳がスキルとして昇華されたものであり、あらゆる嘘を見抜く能力を持つという。これを早々に明かしたのも、彼女の言う無駄を省くということへの布石なのだろうか。

 

「………はい。モルガンさんの言う通りです。今のわたしは宝具を使うことができません。いくらモルガンさんとクー・フーリンさんが協力して下さるとはいえ、いざという時にわたしの切れる手札が無いというのは、少し不安で…」

 

宝具とは、英霊が英霊であることと、その英霊の武勇の象徴である、逸話や武器の事を指す。正規の英霊であれば、真名を解放することでその真の力を発揮させ、強力な切り札として扱うことができる。それは相手を滅する攻撃であったり、自らを強化するものであったり、加護を与えるものであったりと、英霊によって異なる。だからこそ、相手の知り得ない最大の鬼札となりうる重要なピースなのだ。マシュは今、それが自分には使えないということが不安なのだという。

 

「わたしは、あの炎の中でわたしに宿る英霊の方にとある契約を持ちかけられました。”英霊としての力を与える代わりに、人理焼却の原因を排除してほしい”と。しかし、彼はわたしにこの力を与えてくれた後すぐに消えてしまい、真名をお聞きすることができませんでした。なので、わたしは真名解放が行えないのです」

 

彼女のその発言を聞いて、ある疑問が浮かんできた。オレにはあの巨人が宿っている。マシュの中に眠っていた英霊のように何か取引を持ちかけてきた訳でもないし、とりわけ何かオレから代償を求めている訳でもなさそうだった。巨人は何が目的でオレに力を貸してくれたんだろう? そういえば、所長はあの巨人はどんな英霊の情報にも合致しないと言っていた。じゃあ、あの巨人は一体何者なんだ……? そんな風に考えているオレをよそに所長が言った。

 

「宝具が使えない……。たしかに英霊の真名が分からないんじゃどうしようもないわね……。はぁー、マスターが優秀であれば、契約したサーヴァントくらい解析できる筈なのにねぇ」

 

「ふむ。たしかにマスターは未熟が過ぎるようですね。私も今しがた自覚しましたが、マスターの魔力量が不足しているようで、霊基出力が普段より格段に低下しています。端的に言えば、レベルが1の状態です。ですので、私の持つスキルも一部が封印状態にあるようですね」

 

「え゛」

 

それはつまり、オレのマスターとしての能力が低くてサーヴァントの管理ができないどころか、能力に制限を加えてるってことなのか!? うわーどうしよう! ”オレのサーヴァントとして戦って欲しい(キリッ)”なんて言っちゃってたよ! とんだ地雷マスターじゃないかオレ!

 

「せ、先輩、落ち着いてください! 真名が分からないとはいえ、先輩があの場所で助けようとしてくれたから、彼はわたしに力をくれたんだと思います。でなければこうして生きることも戦うことも出来ていませんでした。ですから、どうか気に病まないでください」

 

マシュ……。

 

「たしかにそうよね。わたしも藤丸がいなければとっくの昔にスケルトンどもに殺されていたか、ビルの下だわ。マスターとしての能力は低いけど、サーヴァントを従える者としてはなかなか悪くないんじゃない?サーヴァントとの関係が悪化して最悪令呪を切る、なんてことも全然有り得るんだから、その点藤丸なら問題なさそうだもの」

 

所長……。なんて熱い手のひら返しなんだ……。

というか、目をつけられている事を覚悟していたが、案外大丈夫そうでちょっと安心した。カルデアで見た時の、切羽詰まったような所長の雰囲気とは違い、少しだけ明るい顔をしているようにも見える。改めて、助けることができて良かったと思う。これも、あの巨人のおかげなのだが……。

 

「フ、何を勘違いしているのか知りませんが、この程度、私がアルトリアを下すのに何ら支障はありません。寧ろ、丁度いいハンデというものでしょう。すぐに終わってしまうというのも物足りませんので」

 

モルガン……。冷たく事実を突きつけてくるだけかと思ったけど、冷静に判断して適切な評価を下しているだけなんだろう。さりげなく、オレの能力不足をカバーしてくれるという旨を伝えてくれている辺り、口ではああ言うが結構臣下には甘いんじゃないだろうか。

 

「おーおー、モテるねぇ坊主。だが気を付けな。女の執念ほど恐ろしいものは無いぜ?」

 

何故だかクー・フーリンは生ぬるい視線をオレに向けている。彼には、何かしら経験があるのだろうか。どこか遠くを見るような目をしている気もする。………ちなみに、『幸運D(E)』というステータス(のろい)を彼が背負っていることを知ったのは、もっと後のことである。

……オレの件で話が脱線してしまったが、今まで画面外で話を聞いていたロマン教授が顔を出して言った。

 

「あー、マシュ。たしかに宝具を使えないのは不安かもしれない。だけどボクが思うに、今はまだその力が目覚める時が来てないだけなんじゃないかな。君の持っている宝具は、その盾だろう? なら、恐らく君の中の英霊は何かを守るために戦ったはずだ。相応しい時、相応しい覚悟を持って、そして君が何かを守りたいと強く願った時に、きっとその宝具は答えてくれるはずだよ」

 

「ドクター……。分かりました。今はまだ使えませんが、いつか必ずこの力をものにして見せます。それが、あの名前も告げずに去った英霊の方への、せめてもの手向けになる筈ですから」

 

下を向いていたマシュの顔が前を向く。本当の英雄・英霊には遥かに及ばないとしても、その顔に確かな決意をたたえて。なんだ、結構いいとこあるじゃないかロマン教授。ちょっとだけ見直したぞ。……画面端から顔だけ覗かせてるんじゃなければ、もっと格好ついたんだけどなぁ……。

 

「さて、と。お嬢ちゃんも気持ちの整理がついたみてぇだな。女王様もお待ちかねだ、さっさとセイバーのとこへ向かうとしようぜ」

 

クー・フーリンの言葉に、モルガンを除くカルデアメンバー全員が緊張の表情を浮かべる。これから、この特異点の元凶であろう存在と対峙しにいくのだ。生半可な覚悟では死ぬだけだろう。しかし、今更立ち止まったところで何の意味もない。それこそ、無駄死にだ。それを理解しているからこそ、各々に緊張や不安はあれど退くような気配はどこにもなかった。

 

「よっしゃ、お前ら皆いい顔だ。ひよっこどもにしては上出来だな。んじゃ、着いてきな」

 

クー・フーリンが屋敷の門から外に向かう。俺たちもそれに続いた。しかし……。

 

「………! 皆、気をつけて! 敵性反応、それもこの反応はサーヴァントだ!」

 

門を出てすぐ、悲鳴を上げるようにロマン教授が警告する。が、そのサーヴァントはもうそこに現れていた。

 

「大きな魔力の波を感じて来てみれば。まだ居たんですねぇ、生き残り」

 

大きな黒い外套を身に纏い、”し”の字のような大鎌を携えた、生気の感じられない肌の女性がそこにいた。鎌は血に濡れ、その全身からは濃厚な血の匂いと殺気を放っていた。

 

「チッ、ここでランサーに出くわすとはツイてねぇな! 幸先悪ぃぜちくしょう!」

 

クー・フーリンが忌々しげに吐き捨て、臨戦態勢になる。マシュも盾を構え、オレたちの前に立ち塞がった。しかし、その中で1人だけ悠々とした態度を崩さない者がいた。モルガンだ。

 

「ふむ、サーヴァントか。丁度いい、アルトリアと戦う前の肩慣らしを兼ねて、マスターに私の力というものを見せてあげましょう。おまえたちは下がっていなさい」

 

モルガンはオレたちの最前線へと歩み出て、その杖を構える。

 

「見ない顔ですね、見たところサーヴァントのようですが、何者です?」

 

「そんな無駄話を興じる暇があるのなら、さっさと攻撃してきたらどうだ? それとも怖気付いたか? なに、命乞いをするならとっとと済ませるがいい」

 

モルガンがランサーを挑発する。特異点に影響されて理性が欠けてきているのか、それともプライドの高いサーヴァントだったのか、ランサーはあっさりと挑発に応じる。

 

「言わせておけばァ!」

 

ランサーがモルガンに飛びかかるようにして大鎌を振るう。モルガンはそれを易々と回避し、ランサーの後ろに回り込む。そのまま右手の杖を逆手に持って頭上に掲げると、杖が十字槍のような見た目に変化し、モルガンがその槍を虚空に向けて一突きする。

 

「死になさい」

 

一見無意味な動きのように見えるが、魔術により空間を転移した刺突がランサーに襲いかかった。しかし、相手も腐ってもサーヴァント。ランサーはギリギリでその刺突を受け止める。

 

「チィ、魔術師風情があぁぁ!」

 

ランサーが怒りの声をあげ、再びモルガンに向かって突進する。ランサーの横振りに対して、モルガンも再び武器を変形させて応じる。今度は真っ黒な剣のような形状になり、ランサーの攻撃を受け流した。そのまま下段に斬撃を繰り出すもランサーは真上に飛び上がって回避する。しかし、それはモルガンの狙い通りの行動だった。すかさずモルガンが左手から空中のランサーに向かって黒い玉のような物を飛ばす。空中のランサーはそれを避け切ることができずに直撃を受けた。

 

「内側から……壊れる」

 

そしてモルガンが左手に残るもう1つの黒い玉を握り潰すと、ランサーが口から血を吐いて地面に墜落した。そこに、モルガンがトドメの攻撃を放つ。

 

「潰れなさい」

 

剣から再び杖の形に戻し、杖の先端を地面に突き刺す。するとランサーの頭上から空間を転移した魔術が落とされ、その一撃でランサーの霊核が崩壊した。断末魔も無く、地面に血溜まりだけを残してランサーは消え去っていた。

 

「ふむ、所詮はこの程度か。これでは肩慣らしにもなりませんね。期待外れもいいところですが──」

 

モルガンはランサーが呆気なく敗北したのが癇に障ったのか、忌々しげに言う。しかしすぐに切り替えてオレに向き直った。

 

「どうです、マスター? これが貴方の召喚した、女王の力です」

 

それは能力不足であるオレへの最大限の励ましのつもりなのか、それともただ単にその力を誇示したに過ぎないのか。それは分からなかったが、モルガンがとんでもないサーヴァントだと再認識するのにこれ以上の場面はなかった。

 

「す、すごい……」

 

オレはそのあまりに一方的な戦闘に言葉を失い、それ以上の言葉は出てこなかった。

 

 

 

モルガンがランサーを蹂躙してから暫く後、オレたちはクー・フーリンの案内のもと、セイバーがいるという大空洞、ロマン教授がノリノリで命名した”変動座標点0号”へと向かっていた。その道中で、オレは気になっていたことを所長に尋ねることにした。

 

「所長、令呪っていうのがサーヴァントへの命令権だっていうのはドクターからの説明で聞いたんですけど、具体的にはどんなことができるんですか?」

 

「あら、ロマニの奴通常の聖杯戦争での令呪の説明したのね?たしかに、普通であれば令呪っていうのはサーヴァントへの強制命令権という認識で構わないのだけど、カルデア式召喚での令呪は少し違うのよ」

 

そこまで言うと、所長はクー・フーリンに向かって言った。

 

「ねぇ、クー・フーリン?たとえばあなたが藤丸のサーヴァントとして人理修復に協力するとすれば、藤丸を裏切ろうなんて思うかしら?」

 

「あ?何言ってんだ、あんた。んなもん裏切ったところでメリットなんてこれっぽっちもありゃあしねえだろ。その、人理ってのが無くなっちまえば俺達も消えちまうんだからな」

 

「そう、現状のカルデア式召喚で呼び出されたサーヴァントには、マスターに離反するメリットがないの。だから、藤丸の令呪は強制命令権としての意味合いはほとんどなくて、より簡略化して補充しやすくしたものが与えられてるのよ」

 

早速さっきのロマンレクチャーが一部無駄になった瞬間である。やっぱりなんかイマイチ頼りにならないなロマン教授……。

 

「いい? 令呪っていうのは、それ自体が膨大な魔力の結晶体みたいな物なの。だから、命令権の代わりとして強力な魔力のブースターとしての使い方をするのがカルデア式の特徴ね。ああ、命令権としての権能も多少は持たせてあるけどね。まあざっくりと、3回きりの一時的超強化っていう認識でいればいいわ」

 

「3回きりの超強化………。なるほど、勉強になりました、所長。ついでなんですが、令呪以外にオレがサポートできることって無いんですか?」

 

「うーんと、そうね……。あなた自身は魔術を使えないから、そのカルデア制服に備わってる補助魔術機能くらいかしら」

 

「え、この制服って何か仕掛けが?」

 

「カルデア制服には3種類の術式が刻み込まれているの。普段はただの服でしかないけど、魔力を通すだけで起動ができるからあなたでも使えるのよ。こういうのは”魔術礼装”っていって、本来なら他の礼装もカルデアで開発して順次実戦投入する予定だったんだけど……」

 

所長の表情が曇る。今のカルデアの様子では、恐らく開発は中止を強いられているだろう。

 

「いえ、そこまでで十分わかりました。ちなみに、この制服についてる魔術って何なんですか?」

 

「まず1つが”応急手当”の魔術ね。致命傷を回復するなんてことはできないけど、少しの傷ならこれで治せるわ。2つ目は”瞬間強化”。ごく短期間だけサーヴァントの攻撃力をグッと引き上げる魔術ね。そして3つ目が”緊急回避”。サーヴァントの運動能力を引き上げて敵からの攻撃を回避させる魔術よ。汎用性と生存能力を重視した構成になっているのがわかるでしょ?」

 

この制服にそんな機能が着いてたとは……。ロマン教授め、なんでこんなロマンの塊みたいな要素を教えてくれなかったんだ!

 

「ちょっと試しに使ってみてもいいんじゃない? 1回使うと再使用までに時間がかかるけど、変動座標点0号までには回復するでしょ」

 

意外と気に入ってるのかなその呼称……。たしかにどれくらいの効果があるのか気になるし、試しに1回使ってみるか。オレはモルガンに向かって、魔術を使おうとした。しかし、

 

「む、なんです。この私をモルモットにしようと言うのですか」

 

「あっ、いや、ごめん……」

 

モルガンにじとっと睨まれ、オレは魔術を発動しようと構えた手を引っ込めた。

 

「あ、あの。マスター、わたしでよければぜひお試しください」

 

ちょっとしょんぼりとするオレにマシュが声をかけてくれる。やっぱり持つべきは気遣いのできる後輩だな、うん。オレの場合は先輩の方があまりにもぶっ飛んでるから……。

 

「ありがとうマシュ……。じゃあ、ちょっと試してみるね」

 

オレは礼装に魔力を送り込み、魔術を発動させようとした。

 

「………あれ?」

 

オレが試そうとしたのは緊急回避。しかし、いくら試しても何も起こらない。おかしいな、手順は合ってるはずなのに……。

 

「………これもだめ?」

 

次に、オレは瞬間強化を試る。しかし、やはり何も起こらない。何これ、バグってんじゃないのこの服?

 

「………あっ、なんだか体が楽になりました」

 

3度目の正直、応急手当だけはなんとか発動してくれたようだ。だけど、なんで他の機能が使えないんだろう……?

 

「もしかして藤丸、あなたビルから飛び降りたときに制服の魔術回路を壊したんじゃないでしょうね?」

 

「……………それだあああ!」

 

というかそれ以外に要因が考えられない! しくじった……。まさかこの制服にそんな機能があるだなんて思ってなかったんだぁ!

 

「何やってんのよ藤丸……」

 

所長が呆れを隠さずに言う。クー・フーリンは吹き出し、マシュは半分呆れたような顔で微妙な苦笑いを浮かべていた。モルガンに睨まれるわ、魔術回路は壊れてるわで、オレのテンションはまた少しだけ下がった。

 


 

【第4節 歪んだ騎士王】

オレの魔術礼装騒動からしばらく歩き続けた後、ようやくその大空洞の入口にたどり着いた。

 

「ここが、セイバーが陣取ってやがる空洞だ。この最奥のだだっ広い空間に奴がいる」

 

「いよいよか……」

 

武家屋敷の時のように、モルガンを除くカルデアメンバーが緊張の面持ちになる。

 

「クー・フーリンの言う通り、奥にすごく強力なサーヴァント反応がある。そこに入ったら、もう後戻りはできない。しかも、霊脈の影響か空洞内は通信が不安定になりそうなんだ。ボクらもできる限りの手は尽くすけど、すまないがカルデアからのサポートは期待しないでくれ」

 

ロマン教授が言うように、引き返すならここが最後のチャンスだ。この先に進めば、後はもう生きるか死ぬか、倒すか倒されるか。その二つに一つだ。それでも、オレたちの覚悟は揺らがなかった。

 

「せっかくここまで来たんだ。今更引き返すなんて、出来るわけないよね……!」

 

「はい、マスター。マシュ・キリエライト、気合いをいれて解決に臨みたいと思います!」

 

「こんなわけの分からない場所で野垂れ死になんてまっぴらごめんだわ。なんとしてもカルデアに帰ってやるんだから!」

 

「総員、士気は十分のようですね。では出陣します。私の後に続きなさい」

 

全員が覚悟を改め勇気を振り絞るのを確認すると、モルガンが先頭になり空洞へ入っていき、オレたちもそれに続こうとした。しかし、

 

「っ! お前ら、さっさと空洞に入れ!」

 

突然クー・フーリンが叫び、オレと所長を引っつかむと空洞内に放り投げた。

 

「うわぁっ!」「きゃぁっ!」

 

またしてもオレは所長の下敷きになった。というか、クー・フーリンがそういうように投げたのだろうか。そしてマシュが盾を入口の方向へと構えた瞬間、巨大な矢が空気を切り裂きながら盾へと一直線に飛んできた。

 

「チッ、アーチャーの野郎やっぱり生きてやがったか! このタイミングで戻ってくるとは、つくづく運が無ぇなぁ俺!」

 

クー・フーリンが悪態を付きながら矢が飛んできた方へと向かう。

 

「おいお前ら! アーチャーは俺に任せて先に行け! 後で追いつくからよ!」

 

アーチャーが、連続で放った矢に紛れながら接近し双刀で奇襲を仕掛けるのを、クー・フーリンは妙に慣れた具合に防ぎながら言った。

 

「……! 分かった、また後で! 行こう、皆!」

 

オレたちは空洞の奥へと走り出した。そして、オレたちが空洞の奥へと消えた後、クー・フーリンは獰猛な笑みを浮かべてアーチャーと対峙した。

 

「さてと、そろそろテメェの顔も見飽きて来たんでな。ここらで決着といこうじゃねぇか!」

 

「ふん、まあいいだろう。”貴様と漂流者たちとの分断”という最低限の目標は達成した。後は貴様を排除するだけなのでな」

 

その黒いアーチャーは、クー・フーリンにも劣らない程の笑みを浮かべ、双刀を構え直す。

 

「ではお望み通り、貴様の大好きな白兵戦といこうか!」

 

アーチャーの言葉を受け、クー・フーリンは杖を槍のように構えた。

 

「いくぜぇっ!」

 

そして、2騎のサーヴァントが衝突した。

 

 

 

クー・フーリンと別れた後、空洞内を進んでいると、オレたちはやがて大きな空洞にたどり着いた。そして、それと対峙した。

 

「──来たか、漂流者」

 

そこに居たのは、全身を漆黒の鎧で包み禍々しい黒の聖剣を携えた1人の女性。その全身からプレッシャーを放つ彼女こそ、騎士王アルトリア・ペンドラゴン……! しかしそのプレッシャーをものともせず、モルガンは先陣を切って踏み出していく。

 

「ほう。しばらく見ない間に随分と様変わりしたな、アルトリア」

 

「貴様こそ、随分と衰えたものだ。その程度の霊基出力でこの私に歯向かおうなどと、かつての貴様であれば考えもしなかったろうに」

 

両者の言葉が交わされる。そのそれぞれに不可視の重圧が伴っているが、スキルのランクはモルガンの方が高いため、セイバーの重圧はオレたちに届かずにかき消されているようだ。初めてモルガンと対面したときの圧に比べれば、かなり御しやすい。だからオレたちは震えることなくセイバーを見ることができていた。そしてセイバーの言葉にモルガンが返す。

 

「何を言う。おまえを葬るのにはこの程度で十分ということだ。本気を出してすぐに終わってしまうのでは、あまりに味気ないのでな」

 

モルガンはセイバーを挑発するように言う。それに反応した、という風ではなく寧ろ奇襲を仕掛けるように、

 

「ならばその言葉、試してやろう!」

 

と言うやいなや、セイバーは一瞬間に間合いを詰めモルガンに斬りかかった。不意を突かれたのかモルガンは一瞬反応が遅れるも、杖を剣に変形させその斬撃を受け流す。その後も何度も剣戟が交わされるが、セイバーの攻撃をモルガンは見事に捌いていた。セイバーの一撃は重いが、モルガンは足りない筋力をセイバーを上回る敏捷でカバーし斬り結んでいる。しかし、彼女の真価は剣技ではなく魔術にある。恐らく、セイバーの狙いは絶え間の無い攻撃による魔術の封殺だろう。加えてモルガンは鎧などを身に着けず、肉体的な鍛錬を重ねた英霊とも異なるため、一撃でも食らってしまえば致命傷になりうるという危険がある。そのためモルガンは下手に動くことができずに、防戦一方になっていた。

 

「どうした、防ぐだけではどうにもならんぞ! 大口を叩いていた割には大したことないな!」

 

セイバーの言う通り、このまま受け続けてもジリ貧でモルガンが負傷してしまうだろう。しかしその戦闘のあまりの激しさに、オレもマシュも援護に向かえないままでいた。

 

「くっ、おいアルトリア、お得意のっ、騎士道とやらはっ、どうしたっ!」

 

セイバーの言動に違和感を覚えたのか、モルガンが攻撃をいなしながらセイバーに問いかける。

 

「騎士道だと? 笑わせるな、そんなものでどうやって国が守れる!」

 

セイバーはそう言うと、聖剣の魔力開放を上乗せした一撃を放つ。モルガンは辛うじてその一撃を受け止めたものの、衝撃を殺しきれずに仰け反ってしまい、その隙に再びセイバーが斬撃を放った。

 

「うあぁっ……!」

 

今度こそモルガンは受け切れずに、手から武器を落として吹き飛ばされ、地面に倒れた。しかしその絶好の機会を捨て、セイバーは追撃せず吐き捨てるように言い放つ。

 

「民を統べるのに必要なのは、慈悲の心でも騎士の誇りでもない。絶対的な力による恐怖の支配だ。円卓? 平等? ふざけるな。そんな綺麗事で、国の主など務まるものか! そのようなこと、貴様が1番よく知っているだろうに!」

 

その言葉にマシュの拳が握りしめられる。どうしてか、彼女は悲しそうな顔をしていた。オレも、伝承として知るアーサー王の様子とあまりにもかけ離れているその言葉にショックを受けていた。所長もオレと同じように驚愕を顕にしている。そんな中、モルガンはよろよろと立ち上がりながらその顔に激しい怒りを浮かべ、叫ぶようにして言う。

 

「ふざけているのはおまえだ、アルトリア……! おまえは───()()()()()()()()()()()()()! 民を守り、平等を重んじ、最後までブリテンの為に尽くした、正しく理想の王。それがおまえだ、いや、そうであるべきなのだ、おまえは!」

 

モルガンのその叫びには、どことなく憧れや理想を踏みにじられた悲しみのようなものが混じっていた。その様子に誰も言葉を発することもできず、ただ彼女の悲壮な、慟哭のような言葉を聞いていた。そして、そのまま彼女が続けて叫ぶ。

 

「私は、そんなおまえだったからこそ嫉妬した! 何もかもが私とはかけ離れていた! 私に出来なかったことをおまえは成し遂げた! それが、今はこれだと……? 見損なったぞ、アルトリア───!」

 

モルガンは取り落とした武器を拾い、魔術を放とうとするも、

 

「ふん、何度やっても無駄だ……!」

 

セイバーは再び距離を詰め、モルガンに斬りかかる。あの一撃を食らってしまえば、今度こそモルガンは死んでしまうだろう。しかし、セイバーの剣がモルガンを襲うことはなかった。

 

「わたしは、あなたを知りません……! でも、心が騒ぐのです! モルガンさんの言う通り、あなたは()()()()()()()()()()と、心が叫んでいるのです! だから……わたしはあなたを否定します。ここで、倒します!」

 

何故なら、マシュがモルガンの前に立ち塞がり、セイバーの攻撃を受け止めたからだ。彼女の手に握られる盾は、空洞内を照らす光の柱のようなものの光を反射して、鈍く輝いていた。

 

「その、盾は……!」

 

セイバーが一瞬、マシュの盾を見て目を見開く。その一瞬を突いて、モルガンが魔術を放った。

 

「モルゴース……!」

 

モルガンの足元から呪いを纏った黒い泥のようなものが地面を這い、セイバーを飲み込む。全身を呪いに蝕まれながらも、しかして致命傷には至らず、セイバーは泥を切り払いつつ2人から距離をとる。

 

「……いいだろう。ならば、我が宝具をもって貴様らを灰へと変えてやる。私を倒すというのであれば、全身全霊をもってその”円盾”が真の守りであることを示してみせろ!」

 

セイバーは聖剣を構え、その魔力を開放していく。

 

「まずい、あのセイバー、宝具を使うつもりよ! だめ、今のあの子じゃ耐えきれっこないわ……!」

 

その様子を見た所長が厳しい表情でそう言った。

 

「そんな……! くそ、どうすれば………!」

 

オレは必死に考える。巨人に変身する……? いや、この空洞内では落盤を引き起こしかねない。セイバーの宝具の展開を阻止する……? いや、オレにそんな能力なんてない。魔術礼装も強化系は全てお釈迦だ。なら、今のオレがすべきことは……!

 

「ちょっと藤丸、何してるの!? 早く戻りなさい! あなたも宝具の餌食になるだけよ!」

 

所長が叫ぶ中、オレはマシュの元へと走り出していた。

 

「啼け、地に落ちる時だ……!」

 

セイバーの持つ聖剣が、魔力を集束・加速させることでその刀身は見る見るうちに膨大な魔力と闇を帯びていく。

 

「卑王鉄槌、極光は反転する。光を呑め───」

 

セイバーが聖剣を頭上へと掲げる。そして…。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

膨大な魔力と闇の奔流がマシュに襲いかかるその直前、オレは間一髪で盾の裏に滑り込む。直後、爆発でも起きたかのような轟音と共に、セイバーの宝具とマシュの盾とが衝突した。

 

「うっ、くううぅぅ………!」

 

盾越しからでも伝わるほどの凄まじい衝撃。それを、マシュがたった1人で受け止める。なんとか押さえ込んでいるが、それも時間の問題だろう。その証拠に、マシュは目の端に涙を浮かべ、腕や足は悲鳴を上げて震えている。なら、オレがすべきことは……!

 

「マシュ! オレの魔力、いくらでも持って行っていい! だから、何としても防いでくれ──!」

 

オレは負傷したモルガンに魔術礼装で応急手当の魔術を施した後、そう言いながら少しでもマシュの支えになれるように全力で盾を押さえる。

 

「先……輩……!」

 

マシュが潤んだ瞳でオレを見る。震える手足に力を込め直し、盾を押さえる。”守りたい”という強い意志が、彼女の中で急速に芽生えていく。その想いに応えるように、深い闇の中の盾に僅かな光が灯る。儚く、今にも消えてしまいそうな、けれど確かな光が。しかし、その光は闇をかき消すにはあまりにも弱かった。

 

「まだ……もっと……強く………!」

 

マシュが更にその想いを強くする。少しずつ、少しずつ光が強くなっていく。だが、セイバーが更に力を込め闇もまた勢いを増す。このままでは、押し切られる……!

 

「藤丸! マシュに令呪を!」

 

闇の外から所長が叫ぶ。ハッとしたオレはすぐに令呪に力を込めた。

 

「令呪を以て命じる! マシュ、セイバーの宝具を止めてくれ!」

 

令呪の1画が焼けるように熱くなり、そこに貯蔵されていた膨大な魔力がマシュに流れ込んでいく。

 

「ああああああっ!」

 

マシュの咆哮と共に、盾が一際強い光を放ち、セイバーの闇をかき消していく。やがて目の前に顕れたのは眩い白亜の壁。マシュの宝具が、彼女の想いに応えその真の力を発揮したのだ。それを見届けたオレは、再び令呪に力を込める。

 

「令呪を以て命じる! モルガン、次の一撃を全力で放て!」

 

その対象は、マシュが耐え凌ぐ裏で魔術の詠唱を行い、逆転の一撃を練っていたモルガンだ。

 

「………! ええ、任せなさいマスター!」

 

モルガンは流れ込む魔力を次々と魔術へと変換していく。そして、セイバーの放っていた闇が完全に消え去った。マシュは、セイバーの宝具を見事に防ぎきったのだ。

 

「よく耐えました、マシュ。あとは、私が」

 

魔術を完成させたモルガンが、崩れ落ちるマシュにそう言い、オレたちの前に立った。彼女は、ゆっくりと瞳を閉じ、囁くような、けれど不思議と全身に駆け巡るかのような声で詠唱を開始する。

 

「それは絶えず見た滅びの夢───」

 

モルガンが詠唱を行うと、辺り一面がオーロラのようなものに包まれ、場の雰囲気が変化していく。彼女が練っていたのは、ただの魔術ではなく……。

 

「報いは無く、救いは無い。最果てにありながら、鳥は明日を歌うでしょう───」

 

それは、モルガンの宝具だった。空から天色の柱が降り注ぎ、それぞれの放つ呪詛と魔力とが、合わせ鏡のように無限回の反射を繰り返し、研ぎ澄まされていく。そして。

 

「どうか標に。『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』」

 

セイバーの足元から高濃度の呪いと途方もない魔力が溢れ出し、それらが実体をもって槍のようにセイバーを貫いた。

 

「う、ぐわあああぁぁぁっっ!」

 

セイバーはその圧倒的な魔力の渦に蹂躙され、モルガンの宝具が終息する頃にはボロボロの状態で地に伏していた。そして、モルガンがトドメを刺すためにセイバーの元へ歩いて行く。

 

「く…くく……。私とした……ことが……。よもや……己の鏡如きに……遅れをとる……とは…」

 

息も絶え絶えに、掠れた声でセイバーが言う。

 

「……アルトリア。おまえに、その姿は似合わん。宝具に私の名を加えてまで、おまえが暴君になる必要などなかったのだ。円卓、そして民と共にあるおまえこそが、本当に強いおまえなのだから」

 

モルガンが、喧嘩をした妹を諭すように言う。そしてセイバーが声を絞り出して言った。

 

「ふ……。認めるのは……業腹だが……。貴様らの……勝ちだ。我が首……持って行くがいい」

 

そんな言葉とは裏腹に、セイバーは清々しそうな顔をして一切の抵抗を止めた。

 

「ああ。さらばだ、アルトリア。再び見えることがあれば、その時こそは輝ける円卓と共に」

 

モルガンは手に持った剣をセイバーの心臓に突き刺した。そしてセイバーは影のように地面の中へと沈んでいき、消滅した。

 

「か……勝てた……」

 

令呪の連続使用に加え、2人分の宝具の魔力消費を受けて朦朧とするオレは、その一言を皮切りにバタリと倒れる。

 

「藤丸! マシュ!」

 

倒れるオレとマシュの元へ、所長が駆け寄ってくる。

 

「所長……皆……やってくれましたよ……!」

 

オレは途切れ途切れに勝利を告げる。

 

「このバカ、無茶し過ぎよ……! でも、よくやったわ2人とも……!」

 

所長がオレとマシュを抱きしめる。

 

「生きててくれて……ありがとう……!」

 

彼女も、どれだけ心配していたのだろう。オレたちを抱きしめるその手は、震えていた。所長の腕の中には、気を失っているものの心なしか嬉しそうな顔をしたマシュがいた。それを見てオレは安堵し、体から力を抜き所長に身を預ける。そこにあった穏やかなぬくもりを、オレはしみじみと感じていた。ふと、懐にあるあの短刀が僅かに温かくなった気がした。

 

「所長、マシュをお願いします」

 

その後、ある程度回復したオレはそう言って、少し離れた場所で1人大聖杯を見上げていたモルガンの元へ向かった。

 

「モルガン陛下、お疲れ様」

 

そう声をかけると、彼女がゆっくりとこちらを見た。

 

「ああ……マスター。……先程は、見苦しいところを見せてしまいました。それに、魔力を使いすぎたようで今はもう魔術が使えません……」

 

少しバツが悪そうにしながらモルガンが言った。さっきセイバーに対して叫んでいたことを言っているのだろうか。

 

「いや、そんなことないよ。寧ろ、カッコよかった。オレにも、あのアーサー王が正しいなんて、思えなかったし。やっぱりすごいや、モルガン陛下。流石に、陛下が吹っ飛ばされた時はどうなることかと思ったけどね」

 

「そう……ですか」

 

あらゆる嘘を見抜く瞳を持つ彼女は、オレの言葉が本心からの言葉であることを理解しているからか、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「貴方も、先程の令呪は良い判断でした」

 

「そっか、よかった。オレに出来ることなんてあれぐらいしかなかったから、邪魔じゃなくて」

 

互いにボロボロの状態で、オレとモルガンはそうやって互いの健闘を讃えあっていた。そうしている内にまた、懐の短刀が温かくなったように感じた。

 

「よう、お疲れさん。俺が来る前に倒しちまうとは大したもんだぜ、あんたら」

 

そこで、アーチャーとの戦闘を終えてクー・フーリンが合流してきた。相当に激しい戦闘だったようで、いくつもの切り傷ができていたが本人はいたって元気そうだ。

 

「クー・フーリン! 無事でよかった!」

 

「へっ、この俺があんな野郎に負けるわけねぇだろってな。ま、ちっとばかし苦戦しちまったが。っと、そろそろ俺も強制退去か。セイバーが倒されたんなら、道理か」

 

ここからの退去が始まり、クー・フーリンの体が光の粒子になって消え始めた。

 

「じゃあな坊主。お前さんの無鉄砲さ、忘れるなよ。あとまあ、あの嬢ちゃんたちとモルガンを大切にしてやんな。今度会うことがあったら、そん時はランサーとして呼んでくれや」

 

爽やかな笑顔を残して、クー・フーリンは座に帰って行った。

 

「ありがとうございました、クー・フーリン」

 

ピピッ。オレのバンドが音を鳴らし、ロマン教授からの通信が来たことを告げる。

 

「ああ、よくやってくれた藤丸君! セイバーの霊基反応の消失をこちらも確認したよ。こっちもついさっき通信が安定してね、いやーハラハラしたよー」

 

相変わらずのゆるゆる感だが、今はそれがなんとも懐かしくありがたく感じた。

 

「ってあれ? 藤丸君、空洞内で誰か別の人と合流でもしたのかい?不明の生体反応を2つキャッチしているんだけど………というか、片方はすごくデカい反応だぞ……?」

 

「え? いや、新しく合流した人なんていませんけど?」

 

「あれ……おかしいな。まだそっちとの通信が完全に安定して……」

 

ロマン教授がなにか不穏なことを言ったすぐ後に、そいつは現れた。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。全く見込みの無い子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

そこにいたのは……。

 

「レフ……!? 無事だったのね……!」

 

所長が心底嬉しそうな顔をして走り寄っていくのは、生存が確認されていなかった、レフ教授だった。

 


 

【第5節 銀色の巨人】

 

「レフ……!? 無事だったのね……!」

 

抱えていたマシュを地面に寝かせ、所長が突如現れたレフ教授の元へと走り寄っていく。

 

「レフだって……!? レフがそこにいるっていうのかい!?」

 

ロマン教授が驚愕の声を上げる。

 

「おや、その声はロマニ君じゃないか。君も生き残ってしまったのか。いやはやまったく…」

 

そこまで言った後、レフ教授はその顔を恐ろしい形相に歪ませて続けた。

 

「どいつもこいつも、統率のとれていないクズばかりだ!」

 

「レフ……?」

 

駆け寄る所長の足が止まった。心から信頼していた男の豹変した様子を見て、不安げな表情を浮かべている。

 

「やめておきなさい、オルガマリー。あの男は……危険です」

 

妖精眼で何かを察知したのか、モルガンが所長に警笛を鳴らす。

 

「やあ、元気そうで何よりだ、オルガ。まったく、本当に予想外の事ばかりで頭にくる。その中でも最も予想外なのが、君が生きているということだよ。爆弾は君の足元に設置したというのに」

 

「………………え? な、何を言ってるのよ、レフ……?」

 

所長の顔が見る見る青くなっていく。

 

「いや、生きているというのは語弊があるな。君の肉体はとっくの昔に消えてなくなっているのだから。ここにいる君は残留思念がレイシフトしただけの、ただの虚ろな魂でしかない。カルデアに帰ってしまえば、それも消滅してしまうだろうがね」

 

「カルデアに……戻れない……? もう私は死んでる……? 嘘……そんなの嘘よ!」

 

足を止めていた所長が、モルガンの制止を振り切ってレフ教授の傍へと駆け寄っていく。

 

「嘘ではないよ。しかしそれでは生涯をカルデアに捧げた君があまりにも哀れだ。だから、せめて今のカルデアがどうなっているのか見せてあげよう」

 

レフ教授がそう言うと、聖杯の力で時空が歪み、ロマン教授との通信が途絶すると共にカルデアスが映し出される。

 

「な……なによ、あれ……! カルデアスが真っ赤に……!」

 

レフ教授が、気味の悪い笑顔を浮かべて所長に言う。

 

「あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ。良かったねぇオルガ? 今回もまた、君の至らなさが悲劇を呼び起こした訳だ!」

 

所長は目の前の出来事が理解できずに呆気にとられつつも、レフ教授に言い返す。

 

「ふ……ふざけないで! わたしの責任じゃない……! 失敗なんてしてない……! わたしは死んでなんかない……! ただ、躓いてしまっただけよ……!」

 

次第に目の端に涙を浮かべながら所長が叫ぶ。

 

「アンタ、一体誰なのよ! わたしのカルデアスに何をしたのよぉっ!」

 

レフ教授が先程の笑顔を一瞬で消し去り、所長に冷たく言い放つ。

 

「アレは、君のではない。まったく、最期まで目障りな小娘だったなぁ、君は。せっかくだ、最後に君の望みを叶えてあげよう。”君の宝物”とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲と思ってくれたまえ」

 

「なっ、なに……!? 体が…浮いてる……!?」

 

何にも触れられていないにも関わらず、所長の体が宙に浮く。

 

「所長……!」

 

オレはしばらく呆然としていたが、ようやく思考を取り戻して所長の危機を悟った。

 

「カルデアスはブラックホールのようなものだからね。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、無限の死を味わうといい」

 

所長の顔が真っ青になり、恐怖からか涙を流し始める。

 

「いや……いや、いや、助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない! だって、まだ褒められてない! 誰にも認められてない! やっと、私を背負ってくれる人と会えたのに!」

 

所長の体がカルデアスへと向かっていく。オレはなんとか所長を助けようと走る。

 

「いや……! やだ、やめて! まだわたし、何も出来てない!」

 

しかし所長がカルデアスへと進む速度は上がっていく。このままではどうやっても間に合わないと悟ったオレは、懐の短刀へと手を伸ばす。

 

「いやあああっ! たす……助けて……、助けて藤丸っっ!!」

 

所長は泣きじゃくって目を閉じながら、オレの名を呼んだ。”助けて”と、そう言った。

 

「所長ぉぉぉっ!」

 

そう叫ぶと、走りながら白銀の短刀(エボルトラスター)を鞘から引き抜いた。その瞬間、刀身から迸った眩い光に包まれ、オレは銀色の巨人へと変身していた。そしてそのまま間一髪で所長を掴み、突然目の前に現れた巨人に困惑したような表情をしたモルガンの傍に降ろす。

 

「ほぉ……。48人目のマスター適性者でありながら、同時に”適能者(デュナミスト)”であったというわけか。いやはや、つくづく君を生かしておいたのが悔やまれる」

 

レフ教授はもはや不快感を隠そうともせず、巨人となったオレを見てそう言った。

 

「まあ、いい。私もこの特異点に楔を打つために”彼の者”から最高の戦力を引き連れて来たところだったからね。寧ろちょうどいいタイミングだよ」

 

ロマン教授が言っていた、2つ目の巨大な生体反応………。まさか!

 

「さあいけ、『ガルベロス』」

 

その言葉を残してレフ教授が姿を消すと共に、低い唸りと甲高い叫びとが混合した声を上げながら、狂犬の双頭と目の無いおぞましい顔をもち、巨人と同等の大きさを誇る巨大な怪獣”スペースビースト”が出現した。これが、この巨人が戦うべき相手なのか……!? オレとガルベロスの足元で、モルガンと所長がマシュを抱えて空洞内からの離脱を図るが、2つの超巨大生物の重さに耐えきれなくなった地面が崩れ、それに伴って落盤が始まってしまった。このままでは、みんな瓦礫の下敷きだ……! まずは、皆を助ける!

 

〘 ハアァァッ……!〙

 

オレは胸にある禍々しい形をした赤い水晶、”エナジーコア”へ右腕をかざし、エネルギーを解放しながらその腕を振り戻す。すると、巨人の力が解放され、その姿が変化した。頭部と胸の鎧のような部分はそのままに、銀色であった全身が青銅のような色に変化し、肩にプロテクターが生成されたことで更に鎧を着込んだようなシルエットへと変貌する。胸のエナジーコアには天色に輝く水晶体”コアゲージ”が、両腕の前腕部にある腕輪のような部位”アームドネクサス”の内、右腕のみに”コアオーダー”がそれぞれ形成された。それは、傍から見ればまだ不完全な、錆にまみれた鎧のように見える姿だった。オレは左腕を立て、そこに右腕をクロスさせ両腕のアームドネクサスを合わせる。そして右腕を構え、頭上へと伸ばす。

 

〘 ハァッ!〙

 

右腕から”フェーズシフトウェーブ”が射出され、辺りがドーム状に空間から切り取られていく。そしてモルガンたちが落盤に飲み込まれる寸前で、一帯は”メタフィールド”へと変化した。ここでなら、十全に戦える……!

 

〘 シュアッ!〙

 

オレは姿勢を下げ両腕を構える。そしてガルベロスが狂犬の双頭から火球を吐き出したのを引き金にして、2つの超巨大生物の戦闘が始まった。オレは右腕に光の剣”シュトロームソード”を形成しガルベロスの火球を切り裂きつつ走る。そしてすれ違いざまに片方の狂犬の首を落とした。しかしガルベロスは怯まずに腕を振って攻撃し、オレはその直撃を食らって後ろへと怯み、そのままガルベロスの追撃を食らって吹っ飛ばされた。だが、立ち上がると同時に右腕からカッター光弾”パーティクルフェザー”を放ちガルベロスにダメージを与える。ガルベロスが僅かに怯んだ隙に接近し、再びシュトロームソードで切り裂こうとするも、ガルベロスは両腕を振り降ろして応じる。それを両腕で受け止めると、ガルベロスはそのまま腕に力を込めてオレを押え込み、狂犬の首がオレの左肩に噛み付く。

そして同時に、確かに落とした筈のもう1つの首も動き出し足に噛み付いた。

 

〘 ウァァッ…!〙

 

逃れようにもガルベロスが押さえ込んでいるため動けず、ダメージを受け続ける。やがて胸のコアゲージが点滅を始め、メタフィールドの継続可能時間の限界が近づいていることを告げる。このままだと、まずい……!

 

「──オークニーの雲よ!」

 

その時、上空から1本の光の槍が降り、ガルベロスの胴体に直撃した。魔力が回復したモルガンが、魔術で援護してくれたのだ。ガルベロスが悲鳴を上げてオレを放す。すかさずオレは噛み付かれている足で渾身の蹴りを放ち、噛み付いていた首もろともガルベロスを吹き飛ばした。そしてその最大のチャンスを利用し、最大火力の技を構える。

 

〘 ハァァァ……!〙

 

両腕を引いた後、胸の前で両腕を合わせ、抜刀をするように腕を開きながら右腕に最大出力のシュトロームソードを形成し、右足を後ろへ下げると同時に右腕を斜め上へと振り上げ、そこへ大量のエネルギーを集束しシュトロームソードを超出力・超質量の刃へと進化させた。そして、音速で移動する技”マッハムーブ”と共に、立ち上がったガルベロスへと接近する。

 

これがオレの持つ最大威力の技───

斬り拓け、未だ名もなく意志もなく(クリーヴレイ・シュトローム)』だぁぁぁ!

 

ガルベロスは斜めに両断され、青色の粒子となって爆発し、そして霧散した。ガルベロスが完全に消滅した後、メタフィールドが崩壊を始め、落盤が終わり大きく荒れているが静かになった空洞へと戻った。それと同時にオレの変身も解ける。オレはモルガンたちに悟られないように合流を図った。

 

「モルガン陛下! 所長! マシュ! みんな無事!?」

 

「ああよかった、無事だったのね藤丸!」

 

「先輩、ご無事でなによりです……!」

 

ガルベロスとの戦闘中に目を覚ましたようで、マシュもオレの無事を喜んでくれた。しかしその傍らで、オレを疑うような目をしているモルガンがいた。彼女の妖精眼が、オレの嘘を見抜いたのだろう。それを察知し、オレはモルガンに耳打ちする。

 

「お願い、今は黙っておいて……!」

 

「………いいでしょう。この場では不問としてあげます」

 

モルガンは一瞬だけ怪訝そうな顔をするも、要望を聞き入れてくれた。そして、ロマン教授との通信が回復し、ロマン教授が言った。

 

「ああよかった、みんな無事だ! 藤丸君、一体何があったんだ!? とんでもないエネルギーを感知したんだけど!?」

 

オレはロマン教授にガルベロスとの戦闘をあたかも近くで見ていただけのように伝えた。

 

「所長の言っていた、例の銀色の巨人か……。君たちを襲うことなく、レフ教授が呼び出した超巨大生物だけを倒して消えてしまった、と。とりあえず、もうすぐその時代の崩壊が始まるから、君たちをその時代から退去させるよ。その後で詳しく報告してくれ」

 

ロマン教授が特異点から俺たちを帰還させようとする。しかし、

 

「ちょっと待ってください、ドクター。このままじゃ所長が……」

 

「しまった……。このまま所長をこっちに戻したら、消えてしまうのか……」

 

オレとロマン教授が頭を抱える。それを見て所長が今にも泣きそうな顔になるも、モルガンが言った。

 

「いえ、その件なら既に解決の目処が立っています。安心しなさい」

 

「えっ、どういうこと!?」

 

「あれを使います」

 

そう言うとモルガンは大聖杯を指差した。

 

「かつてこの地で行われていたという聖杯戦争。その真の景品たる大聖杯がここにあり、その聖杯戦争のサーヴァントは全滅しました。つまり、この大聖杯は既に完成しているのです。これを用いて、オルガマリーの魂を物質化してカルデアへと持ち帰ります」

 

かつてこの地で起きた聖杯戦争。その歴史のうちのどこかで、”本当の魔法”が行使されたことがあるという。その大魔法とは、人間の魂を物質化するというものだったらしい。

 

「なるほど……。でも、カルデアに戻った後はどうするの?」

 

「それに関しても問題ありません。私に任せておきなさい」

 

「……分かった。何から何までありがとう。よろしくお願いします、モルガン陛下」

 

そして、オレたちは奇跡を見た。

 


 

【最終節 グランド・オーダー】

特異点Fから帰還した藤丸君は、魔術礼装で緩和されていた傷が一気に開いて倒れ、医療班に搬送された。マシュはデミサーヴァントとしての力に目覚めたことで入念なメディカルチェックが行われた。そして、所長はモルガンがカルデアに来るとすぐに作成した魔術人形に魂を宿され、カルデアに生還した。ボクは、状況の全てが奇跡的に噛み合い、無事とは言えずとも全員が生還してくれたことを心の底から喜んでいた。すぐにでもパーティーを開きたい気分だったけど、そういう訳にもいかない。特異点Fが解決されると同時に、カルデアスが地球上に7つの特異点を観測したからだ。ボクはしばらくカルデアスタッフたちと共に特異点へのレイシフト準備を整えるのに専念し、ついに藤丸君が回復して目を覚ました時、ボクは彼にこの事実を伝える。

 

「まずは生還おめでとう藤丸君。そしてミッション達成、お疲れ様。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、よく乗り越えてくれた。その事に心から尊敬と感謝を送るよ」

 

藤丸君は少し照れくさそうにしていたが、ボクのただならぬ雰囲気を察したのかすぐに引き締まった表情に戻る。

 

「しかし特異点Fが解決した後、新たに7つの特異点が観測されたんだ。そして、現状でマスターとしてレイシフトが可能なのは君だけだ。酷かもしれないが、ボクはこう言うしかない」

 

ボクは息を吸い込んで、意を決する。

 

「君は、特異点Fの歪んだ歴史を見事に修正し生還した。それと同じことをあと7度繰り返してもらうしか、世界を救う方法はない。”たった1人で”、この7つの人類史と戦わなくてはいけない。マスター適性者48番、藤丸立香。君に、カルデアの……人類の未来を背負う覚悟はあるか?」

 

藤丸君は押し黙り、俯いてしまった。けど、それは無理もないこと。いくら特異点から生還したとはいえ、彼はつい最近までただの一般人でしかなかったのだ。そんな人間が人類を背負えと言われても、すぐに頷ける訳もないだろう。けれど……。

 

「たった1人、ではありませんよ、マスター。私は貴方のサーヴァント。どんな特異点であろうと、この私と共にあれば解決なぞ造作もありません」

 

特異点Fで召喚され、藤丸君のサーヴァントとして大活躍を果たしたモルガンがそう声をかける。その透き通るような声が、藤丸君を包み込んでいく。

 

「わ……わたしも、先輩の旅に同伴します! だから、どうか顔を上げてください、先輩!」

 

デミサーヴァントとして覚醒し、藤丸君のサーヴァントとなったマシュが、モルガンに続いて言った。

 

「カルデアスタッフも、全力で藤丸をサポートするわ。ロマニはああ言っているけど、あなたを決して1人で戦わせなどしないわよ!」

 

1度は肉体をレフの爆弾で失いながらも、正しく奇跡的に生還した所長も、そう言った。

皆の声援を受け、藤丸君は顔を上げる。そして、言った。

 

「オレには、1人で人類を救う力なんてありません。でも、支えてくれる仲間がいる。だから、逃げません。逃げずに、戦います。それが、オレにできることなら!」

 

ああ、そうか。藤丸君はもう、決して1人なんかじゃなかったのか。

 

「ありがとう。その言葉でボクたちの運命は決定した。たとえ、どんな結末が待っていようと、カルデアは人類の未来継続のために人類史に立ち向かう。生き残るには、未来を取り戻すには、これしかない。以上の決意をもって、作戦名をファースト・オーダーから改める」

 

ボクはボク自身でも覚悟を決めるように言う。

 

「これはカルデア最後にして原初の使命。人類守護指定”グランド・オーダー”。魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!!」

 

そう、ボクたちカルデアの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

第0章 特異点F 炎上汚染都市 【完】

 




ウルトラマンの形態説明
・アンファンス
銀の巨人。スペックも原作と同様。ウルトラマンの保有する形態の、全ての元となるベース形態。変身者それぞれの力を得て別々の姿に派生するその特性は、ある種、幼少期の子供の成長に似ている。この形態は所謂セーフティモードを兼ねており、エネルギーの消費が最低限に抑えられているため、変身者の体力・生命力の限界が来ない限りはほぼ無限に活動できる。ただし、各種能力に制限がかかり出力も大幅に制限されるため、スペースビーストを打破するにはやや力不足である。

・ジュネッス・ロワン
青銅白の巨人。藤丸立香がデュナミストであるときの固有形態。形態変化によるリミッター解除が行われ、シュトロームソードが使用可能となる。最大威力の技はクリーヴレイ・シュトローム。令呪の残り回数を示すコアオーダーがあり、令呪を使用することで変身者右手甲に蓄積された膨大な魔力を装填、それらを光のエネルギーに疑似変換し一時的に全ての技が高威力となる。
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