人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン   作:グリッド無頼

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先日、グリッドマンユニバースを見て心がユニバースしました。口を開けばインパーフェクトとUNIONを口ずさんでいる変なのがいたらそれ自分です。


episode.3 束の間の休息、夢

デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……


 

【第3節】

燃えていくヴォークルールを後にした俺たちは、南にある森へと向かっていた。先頭を歩くフードの女性はマシュとこの国の現状に関する情報を交換しながら歩を進め、2人の話を聞きながら何か考えている様子のモルガンを抱えた俺もそれに続いた。

皆がそれぞれ特異点に関する考察をしている一方で、俺は腕の中の存在に思考を遮られて話が一切入ってこない。

か細く、華奢で、美しい。まるで儚い、ふとした瞬間に消えてしまいそうな氷の結晶。

でも腕の中の彼女は温かく、確かに息をして、そしてずしりと重い。

そんな正反対の感覚に囚われ、俺の思考は延々と同じ所を巡っていた。いつの間にか俺の肩に乗っていたフォウくんが頬をてしてしとしても気が付かない程だ。

 

「……マスター。私の顔をそんなに見つめて、何か変事でも?」

 

しかしながら、思考の対象本人から声をかけられれば、俺は一瞬で我に返っていた。

 

「え!? いや、違うんだ、えと……」

 

彼女に言われて初めて、俺は彼女の顔をじっと見つめていたことを自覚する。まあ、ついこの瞬間に我に返ったのだから分かろうはずも無かったといえば無かっただろうけど。

お返しと言わんばかりに顔を見つめ返され、俺は先日と全く同じようにどきまぎとしてしまう。妖精眼を持つ彼女に対して嘘は無意味、「貴女のことを考えていました」と正直に告白するより他ない訳だが。当の本人に正面切って言うのは……どうにも恥ずかしい。

 

言い訳を考えようにも、さっきから頭の中にモヤがかかったかのように妙に思考が鈍い。

しかし、俺が答えを探っている内に、ヴォークルールで途絶えたっきりうんともすんとも言わなかったリストバンドが音を鳴らす。

 

「ごめん、ちょっと通信……!」

 

突如差した一筋の光明にすがるように、俺はすぐさま(両腕が塞がっているから、思いっきり膝を上げて)通信開始のスイッチを押した。リストバンド君マジGJ……!

話をはぐらかされてムッとするモルガンの顔を、この時ばかりは無視するしかなかった。

 

「あっ、よかった繋がった! って、毎回これ言ってる気がするなぁ。今映像を繋げるから……。よし、オッケえええぇぇ!!?」

 

通信が繋がると、スクリーンの向こうでロマン教授が急に大声を上げた。

 

「ちょっと、ロマニうるさい! 一体どうしたって………………え?」

 

彼の声に驚いた所長はスクリーンから顔を覗かせると、そのまま硬直した。

 

「ほほう! これはこれは……」

 

そしてニヤニヤしながら俺たちと慌てふためく2人を眺めるダ・ヴィンチちゃん。

ずっと思考の渦に呑まれていたせいですっかり頭から抜け落ちてしまっていたが、俺はモルガンをお姫様抱っこしているのだ。2人が驚くのも当然の反応だろう。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、一体何が!?」

 

「ふ、ふじ、藤丸、何してるの!? あなたがモルガンをおひ、お姫様抱っこなんて!」

 

「あ……その……これには深い訳が……」

 

「君たちってそんな関係だったのか!? くそう、そうならそうと早く言ってくれれば!」

 

ダメだ、まるで話を聞いてくれそうにない。混乱を極めた2人はスクリーンに張り付かんばかりの勢いで迫ってくる。唯一余裕そうだったダ・ヴィンチちゃんは満足そうな顔をして立ち去ってしまったから、向こうで2人を制止してくれる人もいない。加えて、この期に及んでも俺にも正常な思考は戻ってないし。

2人の混乱はしばらく収まらず、ようやく落ち着いたのは俺たちが森に到着した頃になった。

 

 

 

「……なるほどね。状況は分かったわ何でお姫様抱っこなのかは納得いかないけど」

 

俺たちが経緯を説明すると、所長は後半を食い気味にそう言った。

 

「何を言いますか、オルガマリー。私は女王です。半端な扱いは許されませんので当然の帰結と言えましょう?」

 

「だからってあなたねぇ……。はぁ、もういいわよ……」

 

所長はなんの迷いも無く涼しい顔でそう言い切るモルガンを見て反論を諦め、眉間を押さえ込んだ。

 

「えーっと、さっきは取り乱してすまなかった。とりあえず皆無事そうで安心したよ。ところで、そちらの人は?」

 

状況を飲み込んだロマン教授は、俺たちの騒動を呆れた様子の苦笑と共に傍観していたフードの女性について尋ねてきた。

 

「あ、この人は俺たちを助けてくれた人で、えっと……」

 

そういえばまだ名前を聞けていなかったんだった。俺が言葉に詰まると、自然と全員の視線がフードの女性へと向かう。

 

「……頃合いですね。立ち話というのもなんですし、一度腰を落ち着けましょうか」

 

そう言うと彼女は近くの手頃な切り株に座った。俺はその正面にあった倒木の上にモルガンを降ろしてその隣に座り、マシュも俺の隣に腰掛けた。モルガンを降ろしてようやく、俺の元にしっかりとした思考が戻って来た気がする。

 

「まず最初に、誤解が無いように断っておきたいのですが、私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。信じていただけますか?」

 

俺はそっとモルガンに目配せする。そして彼女が小さく頷くのを見て俺はフードの女性に向き直り首肯した。すぐに信じると言えないのは申し訳ないけど、用心するに越したことはないだろう。

 

「ありがとうございます。では単刀直入に申しますね。私の真名は『ジャンヌ・ダルク』。この地の何者かによって召喚されさまよっていた、クラス・ルーラーのサーヴァントです」

 

「え……!?」

 

彼女の言葉に、俺たちは動揺を隠せなかった。ジャンヌ・ダルク……。この国を焼却して回っているという竜の魔女。彼女が、本当に……? でも、彼女が俺をワイバーンから助けてくれたのは間違いなく事実だ。どういうことだ……?

 

「混乱するのも無理はないと思います。正直なところ、私にもよく分かっていません。ですが、この国には今、”2人の私”がいるようなのです。今こうして話している私と、この国を焼いているもう1人の私の2人が」

 

ジャンヌ・ダルクが、2人……? どういうことなのか理解しようと必死に頭を働かせる俺の隣で、モルガンがぽつりと呟く。

 

「聖杯の力、か」

 

「何か分かったの、陛下?」

 

「特異点Fで、我々は黒いアルトリアと対峙したでしょう。私にはどうにも、あれが奴の本来の姿だとは考えられない。竜の魔女も、あまりにも伝承と違いすぎている。だとすれば、聖杯が引き起こす何らかの変化………恐らくは特定の英霊の性質を反転させるという異常性。それが作用している、と考えられます」

 

「じゃあ、あのアーサー王や竜の魔女は偽物……ってこと?」

 

「簡潔に言えばそうですね。聖杯が作り出した偽物、或いは”イフ”の姿か。加えて言うなら、あれだけの規模の竜の召喚など聖杯無しではほぼ不可能ですから」

 

「聖杯そのものを取り込んでるって説もありそうね。特異点Fの時はレフが邪魔してきて確認できなかったから、何とも言えないけど」

 

「どの道、どう考えても聖杯に関与していそうなのは竜の魔女だし、ボクもその推理が正しいと思うよ」

 

「ということは、竜の魔女が聖杯の所有者である可能性が高いと考えられますね」

 

合点がいったという顔でマシュがそう言うと、モルガンが首肯する。

 

「なら、俺たちの当面の目標は竜の魔女を見つける事だね。ジャンヌさんは、この後どうするんですか?」

 

「私も、この国の罪の無い人々が焼却されていくのを黙って見てはいられません。再びオルレアンを解放し、竜の魔女を排除する。啓示も手段も見えなくとも、目を背けることは出来ませんから。それで、もしよろしければあなた方に同伴させて頂ければ、と」

 

ジャンヌさんはそう俺たちへの協力を申し出てくれた。これは願ってもない戦力増強の好機だろう。俺は二つ返事で快諾した……かったけど、モルガンの表情を見てそれを止めた。

彼女の顔はまるで、得体の知れないものを見るような………信じ難いものに出会ったような、そんな表情に引きつっていた。その目線の先にあるのは、ジャンヌさんのにこやかな顔だ。

 

「陛下、どうかした……?」

 

俺がモルガンに声をかけると、彼女はハッとしたようにこちらを向き、さっきまでの表情を消した。

 

「い、いえ、何も。ええ、戦力の増強はしておくに越したことはありません。何より……」

 

彼女は一度言葉を切り、チラとジャンヌさんの顔を見る。

 

「何より、あれは1()()()()()()()()()()()()()()

 

彼女は意味有りげにそう言った。一体、それの何が問題なんだろう……?

 

「そう……だよね、うん。ジャンヌさん、こちらからもお願いします」

 

先程のモルガンの表情や発言を疑問に思いつつも、俺は立ち上がってジャンヌさんに手を差し出した。

 

「よかった。では、これからよろしくお願いしますね。ええと……」

 

彼女と握手を交わしつつ、こちらの名前を言ってなかったことを思い出す。

 

「あ、すいませんすっかり。俺は藤丸立香と言います、よろしく」

 

俺が自己紹介をすると、マシュが続いて自己紹介をした。

 

「わたしはマシュ・キリエライトです。先程は避難民の防衛を手伝っていただいて助かりました。今後とも、よろしくお願いします」

 

マシュはそう言うとぺこりとお辞儀をする。そうか、だからあの時ジャンヌさんの後に続いてマシュが追いついてきたのか。

 

「わたしがカルデア所長、オルガマリー・アニムスフィアよ。協力の申し出、感謝するわ」

 

スクリーン越しに所長がそう言うと、ロマン教授がそれに続く。

 

「遅まきながら、初めまして。ボクはロマニ・アーキマン。カルデアの医療部門のトップを務めさせてもらっています。藤丸君たちの支援、よろしくお願いします」

 

ロマン教授が自己紹介を終えると、最後はモルガンが自己紹介をする……と思っていたけど、彼女はまた無言で微妙な顔のままジャンヌさんを見ていた。

 

「あの、陛下……? さっきからなんか変だけどどうしたの? 何だったら俺の方から紹介するけ……」

 

「クラス・バーサーカー、藤丸立香のサーヴァント。……これで十分でしょう」

 

俺の言葉を遮って彼女がそう言う。やっぱり、様子が変だ。機嫌が悪い、という感じでは無さそうなんだけど……。理由を聞こうにも、今のままじゃ教えてくれそうもない。

どうにも引っ掛かるけど、今はそっとしておくしか無さそうだ。切り替えの早い彼女のことだから、きっとすぐにいつもの彼女に戻る……はず。

 


 

いつになくそっけないモルガンの態度で少し重い空気のまま、俺たちは明日からの動向について話し合い、夜営の準備に取り掛かった。

 

「そういえばドクター、なんで通信が切れちゃったのか分かった?」

 

俺はジャンヌさんの指示で薪に使えそうなものを拾い集めている際中に、(所長は休憩中らしく不在だったから)ロマン教授に尋ねてみる。ワイバーンの襲撃、バグバズンの出現、そしてスペースビーストではなくウルトラマンを攻撃してきた謎の黒い騎士。それらをカルデアにデータとして送れないのは厄介だ。

 

「うーん、ボクらも原因究明のために急ぎ調査をしてたんだけどまだ分からないんだ。スペースビースト……バグバズンだったっけ? とウルトラマンが戦闘したって話だけど、両者とも謎が多いから取れるデータは取っておきたいし、早いとこ対策したいんだけどね」

 

「そっか…」

 

通信の途絶は厄介だけど、俺がウルトラマンだってことを隠す上ではありがたい事なのかも?

 

「それにさ、巨大怪獣と巨人の戦いなんて特撮ヒーローものみたいじゃないか。そんなのロマンしかない! ボクもこの目で見てみたい!」

 

おおうロマン教授この野郎。

 

その後、彼とあれこれ話しているうちに薪が集まり、俺は皆の所に戻ることにした。

 

「わぁ、お上手ですねバーサーカーさん! もしかして夜営には慣れていらっしゃるんですか?」

 

「……私の旅では常に夜営を強いられていたからな。嫌でも身に付くものだ」

 

俺が皆と合流すると、先にマシュが収集してきた薪にモルガンが火付けをしていて、その慣れた手つきにジャンヌさんが素直に賛辞を述べていた。先程のそっけない態度も少し緩和し、モルガンとジャンヌさんの多少のやり取りが聞こえて来る。せっかくの会話を邪魔するのも悪いから、俺は近くにいたマシュの方に向かった。

 

「あ、お疲れ様です先輩。集めた物はこちらに置いてください」

 

「オッケー、って何だこれ!?」

 

彼女に指示された場所には、既に大量の薪が置いてあった。もしかして、これ全部マシュが集めてきたのか?

 

「マシュ……これ、1人で?」

 

「はい。夜営の経験はありませんでしたので、どのくらい集めればよいか分からず。わたしもデミとはいえサーヴァントですから力も体力もありますし、とりあえず多く集めておくことに越したことはないかと思いまして」

 

そう話す彼女は少し楽しげで、何だかわくわくしているようにも見える。

 

「もしかして、初めてのキャンプでテンション上がってる感じ?」

 

「そう……なのでしょうか。でも、カルデアの個室以外で夜を明かすのは初めてですし、そうかもしれません」

 

やっぱり、言葉の端々にわくわくとした気持ちがにじみ出ている気がする。そんな彼女の雰囲気に影響されてか、肩にいるフォウくんも楽しげだ。

 

「実を言うと、俺もキャンプはちっちゃい頃に1回だけ行ったっきりでさ。任務中とはいえ、わくわくしちゃうよね」

 

さっきまではモルガンの態度が気になってそんな気分ではなかったけど、今の2人を見ている限りは大丈夫そうだから、俺にも少しずつわくわく感が戻って来ているらしい。

特異点という危険な場所で、マシュみたいに強いわけでもないのにわくわくできるなんて、やっぱり楽天家なんだなぁ、俺。

 

「よーし、じゃあ俺ももう少し集めて来ようっと!」

 

「あ、わたしも行きます!」

 

「フォウフォーウ!」

 


 

「……すげぇー」

 

俺とマシュはその後、更に大量の薪を収集してきた。薪に使い切れない、とモルガンは呆れたように言ったあと、余分な薪を利用し、陣地作成スキルで小さなログハウスのような小屋を作ってしまった。ただの木の枝が、彼女のスキルで丸太のように働いているのである。

 

「うーん、これはもうロッジだぁ」

 

それを見たロマン教授はそう声を漏らしていた。すっかり野宿ってつもりだったけど、これなら普通に宿泊と言えるのでは? などと考えつつ、森の中の秘密基地のようなそれに、内心大興奮している俺とロマン教授なのであった。

 

その後、あれやこれやとやっている内に夜になり、俺は明日に備えて早めに休むことにした。

サーヴァントに睡眠は必要ないらしく、モルガンとジャンヌさんは夜通しで見張りをしてくれるという。マシュは完全なサーヴァントではないから、念の為睡眠を取っておくらしい。

 

「それじゃあ、おやすみ、皆」

 

そう言って俺は小屋に入って横になり、目を閉じる。

今日だけでも、色々な事が起きたなぁ。横になった途端にその疲労がどっと押し寄せ、俺はあっという間に眠りの底へと意識を放り投げていた。

 


 

「ふむ、もうほとんど治っているのか。存外に便利なものだな、サーヴァントの身とは」

 

私は日中に折れた右足を動かしてみて、もう既にそれが回復していることに感心する。妖精國にいた頃の私でも、これ程の傷を治すのにはそれなりの時間を要していたものだ。

とはいえ、回復には相応の魔力を消費するらしい。魔力の無駄を省く為にも、今後は一層被弾に注意せねばならんな。

 

「あの、バーサーカーさん。あなた方がバグバズンと呼ぶ巨大な怪獣は、今後も襲って来るのでしょうか?」

 

足の具合を確かめていた私に、ジャンヌが声をかけてきた。

 

「そうだろうな。前回スペースビーストと遭遇した時は、私たちを始末するように指示されていた。それに、ヴォークルールで真っ先に私を狙ったのも少々気掛かりだからな」

 

地中に潜っている生物とは、大抵は聴力が発達しているものだ。地上の生物が発する足音や振動などで位置を把握して強襲する。普通に考えれば、より大きな音を立てている方に注意が向く。

だというのに、バグバズンは逃げ惑う避難民を無視して真っ先に私を狙って来た。恐らくは私がワイバーンからの攻撃を回避した時に位置を把握したのだろうが、それにしても妙だ。

しかし、奴が私たちの始末を命じられていると考えれば辻褄が合う。

だとすれば、奴は間違いなく再び私たちを狙って襲ってくるはずだ。

 

「不意を打たれて足を折るなど、屈辱もいい所だ。今後も邪魔をしてくるなら、早々に駆除しておくべきだろう」

 

それに、あの見た見は私の好むところでは無い。率直に言って、気持ち悪い。虫唾が走る。マスターの対応が遅れていればあんなモノに食われていたかもしれないと思うと、ゾッとする。

 

「それより、だ。ジャンヌ、先程の発言は本気で言っていたのか」

 

しかし、バグバズンのことも重要だが、それ以上に聞きたいことが私にはあった。

 

「え……先程のって?」

 

「この国の民に、本当に恨みはないのかと聞いている」

 

先程、ジャンヌは”この国の罪の無い人々”と口走った。命を賭けて国を救い、その果てに魔女と罵られ石を投げられ、そして火にかけられた。フランスという国を救った後に、フランスという国に裏切られた。そんな人間が一抹の恨みも抱かぬなど、私には到底信じられぬ。

 

「……ええ、恨みなどはこれっぽっちも。私は国を救う聖女になるには、あまりにも血で汚れてしまいましたから。魔女と呼ばれたのも無理のなかったこと。そんな私が死ぬ事で誰かが笑顔になれたのなら、きっとそれで良かったのです」

 

 

……なんだ。奴は一体、何を言っているのだ。

……何故だ。何故一切の偽りなくそう言い切れる。

……なんなのだ。この、胸をかきむしりたくなるような感覚は。

 

「あの、バーサーカーさん……?」

 

「……ちっ、くだらない質問をした。今のことは忘れろ。ぶり返すこともするな」

 

「は、はぁ……」

 

ジャンヌは戸惑うような表情を浮かべた後、曖昧な笑顔を浮かべる。

やはり私には聖女とやらの思考は理解できぬな。

きっと奴は、どうしようも無く狂っている。取り返しのつかないほど、壊れてしまっている。

私には、国を焼いて回っている竜の魔女の方がよっぽど───。

 

「……私はマスターの様子を見てくる。お前はこのまま見張っていろ」

 

得体の知れない嫌悪感にかき乱される頭を冷やすために、私はそう言ってその場から立ち上がる。今だけは、どうしてもジャンヌと距離を置きたかった。

 

焚き火から離れるだけでも、涼しい夜風が吹き抜けて肌の熱を少しずつ吸い取ってくれる。

少しの間夜風を浴び、幾分落ち着いた私は先程気まぐれで作った小屋を覗き込み、マスターの様子を確認する。

 

「……もう眠ったのか」

 

ついさっき私たちに挨拶をして横になったマスターは、既に眠りについていた。寝息を立てて、ぐっすりといった風に眠っている。マシュは先程、「眠る前に少しだけ空を見てきます」と言って外出したため、今この小屋にはマスターしかいない。

しかし私の声を拾ったようで、マスターが腕から外して置いていた通信機から声が聞こえて来た。

 

「まぁ、相当疲れていただろうからね。ずっと歩き詰めだったろうし、ワイバーンとの戦闘、そしてウルトラマンの出現もあった。それに加えて、ここまで君を抱えていたんだろう? 最近まで一般人だった藤丸君には十分な負荷になっただろうさ」

 

「あと、あなた一応バーサーカーなんでしょ? 全っ然そんな風には見えないけど。バーサーカーは通常7クラスの中でも1番魔力消費が多いんだから、相応に藤丸の消耗も大きいだろうし」

 

「それは臣下、いやマスターとして当然の義務でしょう。私という英霊の力を借りるのです、それくらいのことは耐えてもらわなければ困ります」

 

「たしかにそれを言われたらどうしようもないけど……。にしたってお姫様抱っこはちょっとやり過ぎじゃないかしら?」

 

「先も言いましたが、私は女王ですので、相応の扱いを要求したに過ぎません。勿論、そこに他意はありませんよ」

 

やたらと騒ぎ立てていたが、一体何を勘違いしているのか。最初からそうだと何度も説明しているだろうに。

まぁその、なんだ。

 

…………実際に横抱きにするよう頼んだのは、マスターが初めてですが

 

しかし私のその呟きは、誰の耳に止まることもなく夜の闇に紛れて消えていった。

 

 

「それにしても、藤丸君はよく君を抱えてしばらく移動できたものだね。彼ってそんなに鍛えてたのかな?」

 

なんだアーキマン、私が重いとでも言いたいのか? 否定は……しないが。

 

「ああ、マスターには軽い魔術を施しました。カルデア式召喚の原理を少しだけ利用した、言うなればごく軽微な”狂化”を施す魔術を。私が彼に掴まったのもそのためです」

 

マスターに掴まった後に魔術を乗せた声をかけ、彼の首肯をもって簡易的な契約を行った。召喚するサーヴァントに狂化を施すのと近い行為のため、カルデア式召喚を応用したのだ。

それ以外に、バグバズンとの戦闘で負った傷と前回のように呪いが残っていないかを確認する意図もあったが、マスターとの約束がある手前、口には出さない。

 

「ええぇ、何だそれ!? え、藤丸君は大丈夫なのか!?」

 

「心配には及びません。効果は身体能力をほんの少し向上させるだけです。副作用として、幾分思考が鈍くなっていたと思いますが」

 

事実、マスターは私を抱えている間、ずっと私の顔を見て呆けていた。キャスパリーグがちょっかいをかけても全く意に介していなかったしな。

 

「ていうか、さらっととんでもないことしないでよね。天才はレオナルドだけで十分だってのに……。それにしても、狂化って……。全く、あなた藤丸のことを何だと思ってるのよ?」

 

オルガマリーが少し不安そうに聞いてくる。

何をそんなに簡単なことを聞いているのか。これ程までに単純明快な答えもないはずだが。

 

「マスターは私のものでしょう。質問の意図が分かりませんね」

 

モニター越しの2人は絶句し、豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 

私のものなのだから、ある程度は私の好きにさせてもらう。

私のものなのだから、遠慮なく利用させてもらう。

 

「ですから、マスター。()()()()()()()()()を見つけるまでは、よく働いて貰いますよ」

 

木々の間をすり抜けて窓から差し込む月光が朧気に浮かび上がらせる彼の寝顔に、私はそっと、そのように語りかけていた。

 


 

【■■. 1】

───夢を見た。

見知らぬ場所、それはそれは美しい玉座の間。頭を垂れて跪く、まるでファンタジーの世界の住人のような者たち。

そして、華美な装飾が施された玉座に腰掛ける1人の王。その顔は王冠から垂れるベールに隠されてよく見えないが、体つきからそれが女性だということは判別できた。

女王はおもむろに立ち上がり、ひどく聞き覚えのある──けれど何故か思い出せない──声で言った。

 

「私は妖精(お前たち)を許さぬ。私は妖精(お前たち)を救わぬ──」

 

その声に感情と思しきものはなかった。一切の期待も希望もない、ただただ冷たく空虚な声。

しかし、ゆらゆらと揺れるベールから覗く彼女の瞳に、静かで真っ暗な、深淵のような絶望と憎悪とが浮かんでいたことを、俺はよく覚えている───。

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