人理修復 withウルトラマンネクサス&モルガン 作:グリッド無頼
【第4節】
窓から差す木漏れ日を顔に浴びて、俺は目が覚めた。2度寝したくなる欲求に抗い、上体を起こして背伸びをする。それでも、俺の中の悪魔は2度寝をしろと欠伸で訴えてくる。
やっぱりやって来やがったか、睡魔め……! 今日こそはお前には負けないぞ!
「起きましたか、マスター。よく眠れたようで何より」
俺が毎朝恒例の激闘を繰り広げていると、ちょうど小屋の中に入って来たモルガンがそう声をかけてきた。
「ふぁぁ……おはよ、モルガン…。いい朝……ふぁ……、だね……」
モルガンという俺の
などと正に道化のようなことを考えつつ再び背伸びをし、しぶとく抵抗する睡魔を押さえつけてからモルガンの方を見ると、彼女はじとっとした目で俺の顔を見ていた。
俺なんか変なこと言ったかなぁ。そう思って発言を振り返ると、
「あ! おはようございます、モルガン陛下!」
俺は背筋をピンと伸ばしてさっきの言葉を訂正する。よりによって、目の前に本人がいるのに呼び捨てにしてしまった……。
「全く、寝起きだからといって私への敬意を忘れるとは、呆れます」
「ごめん、俺朝は弱いんだよね、アハハ……」
まぁ、おかげさまで睡魔は消え去った訳だが。
「それと、そのふざけた寝癖を早く正すように。不敬が過ぎますよ」
「……まじ? そんなにひどうっわぁひでぇ」
モルガンに言われて頭に手を回すと、いつもと明らかに異なる形で髪が触れる。それだけでも分かる寝癖の酷さに、俺は自身の言葉を遮ってげんなりする。
「て言っても、櫛も無いし、頭を洗えそうな場所も無いんだよなぁ……」
「……我が臣下よ。女王と共に旅をするのです、身だしなみを整える道具程度は常備するものでしょう。今回ばかりは大目に見ますが、以降は容赦しませんので、善処するように」
そう言いつつ、彼女は小屋の壁から木の枝を1本抜き取り、指をパチンと鳴らす。すると、手の中の枝が見る見る形を変えていき、やがて1つの立派な櫛に変化してしまった。
『道具作成EX』。それは彼女が持つスキルの1つで、様々な道具や魔具を容易に生成する能力を示す。
彼女は、このスキルと陣地作成スキルを組み合わせて使用する事で、建築や部屋の修復を可能にしているという。
彼女にとって、櫛を1つや2つ作り出すことくらい、なんてことは無いだろう。
「今回だけ、特別です。昨日の働きに対する褒賞とでも受け取りなさい」
そして、彼女はその櫛を俺に差し出した。今までに見たことも無いような立派な櫛だったから、俺はすぐには受け取れず躊躇する。
「え……こんな立派なの、貰っちゃっていいの?」
「ええ、私は女王ですから。臣下の働きには、相応の褒賞を与えて然るものでしょう?」
そう言いながら、彼女は中々受け取らない俺に直接それを手渡しにきた。彼女の顔が目の前まで迫って来て、俺は無意識に彼女の瞳を覗き込んでいた。
「あ───」
その、瞳の中には──。
「……? どうしました、マスター」
息を飲んで硬直した俺に、彼女が不思議そうに声をかける。
「え? あ、いや、何でもない……。ありがとう、モルガン陛下。大切にするよ」
俺は1度気を取り直し、彼女から手渡されたその櫛をじっくりと眺める。元がただの木の枝だとは思えないほどに綺麗で、少々クールでダークな感じのある、本当に女王様から下賜されたような(いや、この場合は実際にされた)格好いい櫛。一目見て、触れて、それだけで俺の宝物になった。
「さて、私たちは外で待機していますので、身だしなみを整え次第すぐに出て来るように」
相変わらず切り替えの早いことで、彼女はそう言い残すと俺を置いて外に出て行ってしまった。
俺は見事なまでに爆発している髪を櫛でとかしながら呟く。
「1人で何でも出来ちゃうんだもんなぁ、モルガン」
特異点Fで所長の為に作成した魔術人形。ガルベロスに付与された呪いの解呪。魔術による単独のレイシフト。爆発で荒れ果てた部屋や施設の修復。木の枝からの小屋の建築。俺の手の中にある櫛。そして、その圧倒的な戦闘力。
彼女がいなければ、この短い期間だけでどれだけの苦難を強いられていただろうか。
「
ふと、俺の口から自然とそう声が漏れる。
彼女と自身の能力を比べる、なんておこがましいことをした訳じゃない。自身の能力の平凡さを悲観した訳でもない。
ただ単純に、モルガンの為に何かしたい。そんな感情が湧き上がってきたからだ。恐らくそれは、彼女の瞳に夢で見たあの瞳と似たものを感じたことに起因している。
真っ暗な絶望と憎悪、それが夢で見た瞳にあったもの。それと同じ絶望が、彼女の瞳にもうっすらと浮かんでいた。
ただ1つ、違うところがあるとすれば。
「なんで……あんなに悲しそうな目をしてるんだろう」
嵐のように苛烈な憎悪ではなく、氷のように深く胸に突き刺さる悲しみ。それが彼女の瞳には強く表れていた。
俺が知らない、彼女の
彼女は一体、どんな過去を───。
「マスター、いつまで待たせるつもりですか。たかだか寝癖の直しに時間をかけ過ぎですよ」
「え……あっ、ごめん! 今行くよ!」
彼女に外から声をかけられ、俺は急いで懐に櫛を仕舞い込み、緩めていた制服のベルトを引き締めながら外へ出る。
胸の内に、少しのわだかまりを残したままで。
「全員揃ってるわね。それじゃ、昨日の決定通りにまずはラ・シャリテへ向かいなさい」
俺が朝食を摂り終えると、昨日のうちに決めておいた時刻通りに通信が開始し、所長が俺たちに指示を出す。
今は少しでも多く情報が欲しい。竜の魔女の居場所やバクバズンの行方、ワイバーンたちの動向など得るべきものは多い。
「了解。行こう、皆」
俺たちは森の中を進み、ラ・シャリテへ向かう。が、俺は先程のことが無性に気になり、今ひとつ気が引き締まらない。少しモルガンと話したいと思うものの、どうしてか話しかける言葉が浮かばずにまごついてしまう。
何だか、ヴォークルールからずっとこんな調子な気がする。モルガンのことが気になって、物事に身が入らない。こんな状態じゃあ、任務もままならないぞ……。
「そ、そうだ。モルガン陛下、足の具合は大丈夫? もう治っちゃったみたいだけど……」
流石にこのままではダメだと思い、森の出口に差し掛かった辺りで、まずは会話のとっかかりを掴もうと俺はぎこちなく彼女に話しかける。
「ええ、この通り。戦闘も十分に行えますので心配には及びません」
「そっか、よかった」
咄嗟に出た言葉ではあったが、彼女の足の具合が心配だったのは本心だったから、俺は胸を撫で下ろす。
しかし次の瞬間、
「狙われたのが私でよかった。仮にマスターが襲われていれば──」
「い……いいわけ、無いだろ!」
彼女が続けて言ったことに、俺は反射的に、叫ぶようにして反論してしまっていた。
前を歩いていたマシュとジャンヌさんは驚いて振り返り、俺の反応が意外だったのかモルガンは目をぱちくりとさせる。
しかし、昨日からずっと心にわだかまりを蓄積していたため、俺は半ば八つ当たりのように彼女に言う。
「君が傷付いてよかったなんて、そんな訳あるかよ! 君が傷付くのを見るくらいなら──」
「”自分が傷付いた方がマシ”、とでも言うつもりですか」
元々、反射的・衝動的に口から出た言葉だったこともあり、彼女に鋭く図星を突かれて俺は言葉に詰まる。
一方でモルガンは、ふぅ、と短く息を吐き出し、その冷たい瞳で真っ直ぐに俺を捉える。
「いいですか、マスター。サーヴァントはマスターを守るものであって、守られるものではない。そもそも、マスターが死ねばサーヴァントも同時に死ぬ。ですので、マスターを守るためにサーヴァントが負傷する、などというのは至極当たり前の事だ。貴方が未熟であるのは重々承知しているつもりでしたが、そんなことすら理解出来ていなかったとは思いませんでした」
「わ……分かってるよそんなこと!でも……!」
「分かっていないから、そんなことを言うのでしょう。分かっていないから、ワイバーンからの攻撃を庇おうなどという無謀なことをしたのでしょう。あの時、貴方がすべきことは私を置いて逃げることだった。そも、あの街の者たちを助けようとしたこと自体が間違っていたのだ。歴史が正しく修正されれば元通りになるのだからな。貴方の意思を尊重して、敢えて昨日の内に触れなかった私が愚かだった」
「……っ! そんな言い方……!」
「事実だろう? 仮にジャンヌの救援が間に合っていなければ、
「………………それは……」
「無理だな。確実に死んでいただろう。今のおまえには、マスターであるという自覚も、人類の存亡を背負っているという責任感も無い。おまえが死ぬということは、私も、マシュも、カルデアも、人類の未来も。その全てが無駄となり消えていくということだ。この際だ、はっきりと言っておくぞ
「……! この、野郎っ!」
彼女が言っていることが正しいということは、痛い程に分かる。分かってしまう。
俺がどうしようもなく愚かだということも、苦しい程に分かる。分かってしまう。
でも、俺にだって俺なりの意地がある。
俺にだって、俺なりの考えも想いもある。
だから俺は素直に引き下がることができず、彼女の声が孕んでいた重圧にさえ抗って、負け惜しみと分かっていながら言葉を吐き出す。
「お、落ち着いてください2人とも! 今は喧嘩してる場合ではないでしょう!?」
マシュとジャンヌさんが仲裁に入るも、火が着いてしまっていた俺は2人の制止を無視して続ける。
「俺が未熟で馬鹿だなんてことは、俺が1番よく分かってんだよ! でも、誰かが傷付くのを黙って見てるなんて俺にはできないししたくない! 俺だってこの際はっきり言ってやる、よく聞けよモルガン!」
俺が諦め悪く食い下がってくることが意外だったのか、それともすっかり呆れ果てたのか、モルガンは口をつぐむ。
「確かに俺は人類最後のマスターだ。だけど、そんなふうに犠牲をすっぱり受け入れて人類を救えるなんて思っちゃいない! 君や大事な人を切り捨てて得た未来なんて欲しくない! ああ、俺だって死にたくないさ! でも、死なせたくもないんだよ!」
俺は1度言葉を切り、冷たく俺を見据えるモルガンの瞳を半ば睨みつけるように強く見つめ、彼女に1歩踏み寄ってから続ける。
「俺は、君を──」
君を助けるためなら、死にたがりの阿呆にでもなってやる。
しかし、その言葉は最後まで言うことは出来なかった。
「お取り込み中のところすまない! 目的地の周辺に巨大な敵性反応を検知した! サーヴァントの霊基反応もある、それも複数だ! 戦うにしろ逃げるにしろ、警戒してくれ!」
「……なんだってんだよこんな時に!」
ロマン教授の警告に、俺は苛立ちを隠すことが出来ないまま目的地の方へと目線を向ける。そして、思わず声を失った。
「巨大な敵性反応とは……あれのことか」
俺と同じく目的地へ目線を向けたモルガンが、その上空に滞空する巨大な黒い竜を睨み付けながらそう言う。
まさか、ヴォークルールで兵士の人から聞いた、竜の魔女が操るという竜か!?
「まさか……! だめ、やめて! そこには大勢の人が……!」
そして、その黒竜が口の中に火炎を滾らせるのを見てジャンヌさんが叫ぶ。
しかし、その叫びも虚しく……。
「やめてえええぇぇぇ!!」
黒竜は巨大な火炎弾を吐き出し、その眼下に広がるラ・シャリテを……一撃の元に壊滅させてしまった。俺は咄嗟に懐へと伸ばしていた腕を引っ込め、間に合わなかったことを後悔する。
ジャンヌさんはその場に力なく座り込み、俺たちもそのあまりの呆気なさと凄惨さに唖然として硬直していた。
「そん……な……」
「……! まずい、敵性反応がそっちに向かってる! 身構えてくれ皆!」
ロマン教授の警告通り、黒竜とその周辺のワイバーンたちが一斉に俺たちの方に向かって来る。よく見ると、黒竜と数体のワイバーンの上には人影が見える。彼がさっき言っていた、サーヴァント反応か……!
「敵の正確な数を把握した……って冗談だろ!? サーヴァントの数は、5騎だ……! ダメだ、急いでそこから離れるんだ!」
「……先に行ってください。私はここで待ちます。せめて、真意を問い質さなければ……!」
「ジャンヌさん、無茶です! ドクターの言う通り、早く……!」
「いや、もう間に合わんな」
マシュがジャンヌさんの手を引いて連れて行こうとするが、時すでに遅し。モルガンの言う通り、敵影はすぐ目の前まで迫って来ていた。
黒竜は俺たちの前に着地し、その頭上にいる人物は俺たちを眺めると、その顔に鋭い笑みを浮かべる。
「──なんてこと。まさか、こんな事が起きるなんて!」
その人物はジャンヌさんと瓜二つの見た目で、彼女と全く同じ声でそう言うと、高らかに笑い始めた。
「なんて滑稽、なんてちっぽけ! ああ、笑い死んでしまいそう! ねぇ見て『ジル』、あの哀れな小娘を………そっか、今回は連れて来てなかったわね」
黒いジャンヌは、そこまで言うとその顔から笑いを消し去り、激しい憎悪を剥き出しにした目を向けてくる。
「……本当、この国はなんて愚かなのかしら。こんな小娘に縋るしかなかったなんて……!」
「貴女が、竜の魔女……。どうして国を焼くなどというバカな事を……! どれほど人を憎めばこんな所業を行えるのです!!」
「バカ、ですって? 愚かなのは私ではなく、
「それは──」
ジャンヌさんが言葉に詰まる。が、俺もマシュも、フォローには向かえなかった。だって、モルガンが言っていた通りじゃないか。フランスを救うために戦ったのに裏切られ、挙句の果てには火炙り。最期まで聖女然としていながら、心では憎くて憎くて仕方なかった。そう言われても全くおかしくないし、むしろ当たり前っていうか……。
それでも、何とか状況を打開する策を得ようと、俺はモルガンを見る。しかし、彼女は酷く冷めたような顔で2人のやりとりを傍観していた。
何だか、彼女の瞳がまた少し暗くなってしまっている気がする。そして、やはりとても悲しそうな……。
「私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。ああ……。人類が存続する限り、この憎悪は収まらない。だから、このフランスを死者の国に作り替える。それが、死を経て新しい私になったジャンヌ・ダルクの救国です」
黒いジャンヌは酷く乾いた声でそう言うと、黒竜へ指示を出して飛び上がらせる。そしてジャンヌさんを睨み付けて言った。
「貴女は私が捨てたただの残り滓。私の憤怒を否定するというなら、そのやせ衰えた貧弱な霊基で、お綺麗な聖処女サマの救いとやらを見せてみなさい。そして、私はそれを喰らい尽くしてやりましょう」
貧弱な霊基って……? そういえば、ジャンヌさんのマスターって誰で、何処にいるんだ? いや、はぐれサーヴァント……って所長が言ってたっけ。なら、魔力を供給してくれるマスターはいないのか?
もしかして、今のジャンヌさんは本調子じゃない……?
「あ……貴女は……、貴女は一体、何なのですか!?」
「言ったはずです、私は死を経て
黒いジャンヌはそう言い残すと、周辺のワイバーンに跨っていた3人のサーヴァントに、俺たちを襲撃するよう指示を出した。
指示を受けたサーヴァントは地上へと降り立ち、俺たちと対峙する。
1人は、中性的な顔立ちで美しい刺剣を構え、まるで三銃士のような装備を身にまとった白百合の騎士。
1人は、十字の杖を持ち紫の長髪をたなびかせた、修道女のような装いの女性。
そして、もう1人は……!
「Arrr……thurrr……!!」
あの時、俺を攻撃してきた黒い騎士だ……!
その3体の敵はにじり寄り、徐々に俺たちとの距離を詰めて来る。
「な、なによこれ!? ジャンヌ、貴女の霊基出力かなり下がってるじゃない! まさか、はぐれサーヴァントだからロクな魔力供給を受けれてなかったの!?」
黒いジャンヌの発言を受け、改めてジャンヌさんをスキャンした所長が悲鳴に近い声を上げた。
「す、すみません! 騙そうという訳ではなかったのですが!」
「ああんもう! とりあえず逃げるのよ! 数的には互角だけど、実力に差がありすぎるわ! 現状まともに張り合えるのはモルガンだけだし!」
「っていうか、さっきの黒いジャンヌも合わせてサーヴァントは4人だった! ボクらがキャッチした霊基反応は5つ、もう1人近くに居るかもしれないってことだろ!? 無理無理、勝てっこない!」
「ですが、そう簡単に逃げられそうには……!」
皆の混乱が加速していく。……考えろ、まともにやり合って勝てる相手じゃ無いのは明白、せめてこの状況を抜け出す手段を……!
どうやったら戦闘を避けれる? どうすれば誰も犠牲にしないで済む?
考えろ、考えろ、考えろ……! マスターなんだろ、俺は──!
──くそっ、ダメだ! 思考がまとまらない! モルガンにあんな大口を叩いておいて、何でこんな……こんなことすら、俺は……!!
「……ふん。総員、四の五の言わずに武器を構えなさい。無様に背中から斬り殺されたいのなら、止めはしませんが」
俺たちの混乱を他所に、既にモルガンは1人臨戦態勢に入っていた。彼女の指示を聞き、腹を括った他の2人も遅れて臨戦態勢に入る。
結局、マスターらしいことなど一切考えられないうちに、またしてもモルガンが俺たちをまとめ鼓舞してくれる。
あんな大口を叩いておいて、結局は彼女におんぶにだっこかよ……!
何なんだよ、
そんな風に、俺はどこかこの状況に対するものとは別の焦燥感を抱きながら、魔術礼装に魔力を通して支援の準備を行う。
「俺がサポートする! 皆、何とか踏ん張って……って、モルガン!?」
俺が皆の支援に回ろうとすると、モルガンは俺を鬱陶しそうに一瞥した後、敵の方へと走り出してしまった。
くそっ、さっきの事で意地になってるのかあいつ! 俺に言えたことじゃないけど……!
「分断する……!」
彼女は走りながら右手の杖を縦に振り抜き魔術を放つ。すると、彼女の足元からどす黒い魔力の濁流が迸り、敵に襲いかかった。
3体の敵はそれぞれ濁流を回避し左右に別れ、孤立した黒い騎士がくぐもった叫びを上げながらモルガンへと接近する。
「Moooorgaaaan!!!」
黒い騎士はある程度近づくと飛び上がり、手に持つ黒く変色した丸太を彼女に向けて思い切り振り下ろす。
モルガンは横に回避するが、黒い騎士は叩きつけた丸太を躊躇いなく放り捨て、目にも止まらぬ速さで彼女の腹に回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐぁっ……!!」
その追撃速度に回避も間に合わず、直撃を受けたモルガンは森の中へと吹き飛ばされ、木に叩きつけられてしまった。
「Aaaaaarrrr!!!」
黒い騎士は再び咆哮を上げると、よろよろと立ち上がるモルガンの元へと走っていく。
「モルガン……!」
俺は彼女の元へ向かおうとするが、残った2騎のサーヴァントが俺たちの前に立ち塞がった。
「行かせる訳にはいかないな。君たちの中で最も厄介なのはあの魔術師。バーサーカーが押さえている間に、私たちが君たちを殺してあげよう」
「無駄な抵抗はやめることです。そうすれば、一瞬で楽にしてあげますから……!」
言い終えると同時に、白百合の騎士は素早い動作でマシュへと踏み込み、鋭い刺突を繰り出してきた。マシュはすんでのところでそれを受け止めるが、白百合の騎士は攻撃の手を緩めずに次から次へと刺突を繰り出す。
マシュも必死で防御しつつ、隙を見てシールドバッシュや切り払っての反撃を行うが、まるで舞うかのようにひらりひらりと回避されてしまう。
彼女の武器は大盾、一撃の破壊力に長ける分それ相応に隙が生まれてしまうため、反撃をかわされるということは相手に隙を晒してしまうことに繋がってしまう。
「そこっ!!」
「くぅ……!」
無論、それを見逃すサーヴァントではない。白百合の騎士はその間隙を見事に穿ち、マシュに少しずつ痛手を負わせていく。
まずい、このままじゃジリ貧だ……!
「抵抗はやめろと言ったはずです、大人しくしなさい!」
「こんな所では、終われません……!」
一方でジャンヌさんと紫の修道女は、それぞれが手に持つ戦旗と杖とを激しく鍔迫り合わせ、一進一退の攻防を繰り広げていた。
両者共にほぼ互角のように見えるが、所長が言っていたようにジャンヌさんの霊基は不完全らしく、所々力負けして押し込まれてしまっている。あの修道女、見かけによらずパワーがあるぞ……!
更に、修道女は杖での攻撃に際して時折閃光による攻撃を織り交ぜることで、ジャンヌさんにパターンを悟られにくくすると同時にジャンヌさんの勢いを削ぎ落としていた。
「あれってまさか浄化の類か!? 見た目に違わず聖職者としての技も備えてるのか、あのサーヴァント!」
その閃光を見たロマン教授がそう声を上げる。ちくしょう、見た目とのギャップがあるのか無いのかよく分かんねぇ!
だけど、こっちもこのままじゃジリ貧か……!
「ああもう! せめて、せめてジャンヌが本調子だったら……!」
本調子……。今のジャンヌさんは、マスターがいないはぐれサーヴァントの状態で魔力不足。その上、恐らく
後者はともかく、前者だけなら……!
「所長! はぐれサーヴァントって、俺と契約出来ますか!?」
「え? ええ、出来ることは出来るけど……まさか、藤丸あなた……! やめなさい、カルデア式召喚以外でサーヴァントとの同時契約なんてあなたの体にどんな負担がかかるか……!」
俺の意図を察したのか、所長は慌てて制止する。
「でも、今はそんな事気にしてられない! このまま負けるかどうかなんです、やってみる価値ありますよ!」
「………………。分かった、あなたを信じる! やり方は通常の聖杯戦争と同じ、特異点Fでロマニから教わってた方法よ! 藤丸、絶対に何とかしなさい!」
「所長……! はい、任せてください!!」
俺は所長の了承を受け、ジャンヌさんの方へと右腕を伸ばし、令呪に力を込める。
ようやく、あの時のロマンレクチャーを活かすときが来た。
「───告げる!
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!」
「……! それは、させないよっ!」
俺が詠唱を始めると、それに気付いた白百合の騎士がターゲットをマシュから俺に変更して襲いかかって来た。でも、それを黙って見てるような後輩じゃあないんだよ……!
「させないのは、こちらです!!」
注意が逸れた白百合の騎士に、マシュが背中からその大盾をぶん投げる。
その意表を突いた攻撃に白百合の騎士は面食らい、回避出来ずに直撃して地面を転がっていった。
「ワイバーンたち! 彼を止め……嘘、なんで1匹もいないの!?」
俺の妨害をさせまいと猛攻を仕掛けるジャンヌさんの攻撃を防ぎながら、紫の修道女がさっきまで近くにいたはずのワイバーンに指示を出す。しかしそこにワイバーンの姿は1匹もなく、修道女の混乱を招くだけだった。
理由は分からないけど、この好機を捨てる訳にはいかない。契約に集中を……!
「聖杯のよるべに従い……ぐぅぅっ……、
この意、この理に……従う、のなら───」
俺の右手の令呪が焼けるように熱くなっていく。多分、ジャンヌさんの不足している魔力を一気に充填しようとパスがフル稼働しているんだろう。特異点Fでの令呪使用に勝るとも劣らないその苦痛。でも、ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るんだ、俺!!
「───我に従え!
ならば……っ、この命運、汝が旗に……預けよう───!!」
瞬間、ジャンヌさんの体に眩い閃光が迸り、彼女と打ち合っていた紫の修道女は怯んで彼女から距離を取る。
そして、その場に膝を付きそうになる俺の体をジャンヌさんが支えてくれた。
「ルーラーの名に懸け誓いを受けます! 貴方を私の主と認めましょう、立香さん!!」
再びジャンヌさんの体に光が迸り、辺りを照らした。しかし、眩し過ぎるほどのその閃光は、何故だか苦ではなく、むしろ優しく包み込むような暖かさを持っていた。
そして、彼女が羽織っていたマントが光とともに消えていき、彼女の体には俺でも一目で分かるくらい力に満ち満ちていた。
「あれは……霊基の再臨か! ジャンヌのサーヴァントとしてのレベルが上昇したんだ!」
「ありがとう、立香さん。貴方のおかげで、力がどんどん湧き出て来ます! 貴方は少し休んでいてください!」
ジャンヌさんはそう言うと、さっきまでとは比較にならない程に力強く駆け出した。
彼女は再び攻撃を仕掛けてきた修道女の一撃を、今度は力負けする気配すら見せずに軽々と受け止める。更に、浄化の光に対する反応速度も格段に上昇していて、敵にペースを握られることなく戦闘を進めていた。
また、素早く盾を回収したマシュも再び白百合の騎士と向かい合う。
先程の盾の投擲によるダメージは大きかったらしく、白百合の騎士の動きは明らかに鈍くなっていた。事実、刺突の頻度がさっきよりも低下し、回避も舞うようなものではなく寸前でなんとか避けきっているような状態になっている。
実力の差を完全に埋めるほどのアドバンテージではないにしろ、これならマシュにも勝機はあるはずだ。
「2人とも、ここは任せた……! 俺はモルガンの所、に……!」
俺は2人にこの場を任せ、黒い騎士と単身戦っているモルガンの所へと、傍から見れば酷く頼りない足取りのまま走り出す。
「無理するな藤丸君! そんな体力じゃ……!」
「無理じゃ、ない! それに、俺が出来ることなんて、これくらいしかないんだよ……!!」
「でも、君の体が──」
プツッ。
ロマン教授の制止を跳ね除け通信を一方的に切断し、俺は倒れ込みそうになる体に何度も鞭を打って走る。
見ると、2人の戦闘の痕跡が森の木々や地面をなぎ倒し、抉り取っていた。それらは森の奥へ奥へと続いておりその激しさを物語っている。その跡をたどり、俺はひたすらに走る。
まだモルガンとのパスが途絶えた感覚は、無い。
「頼むから……無事でいてくれ……!」
何度も躓き転倒するが、それでも走る。
火が着いてしまった口論で、思いがけず奥底から飛び出した、俺自身もきっとその時まで自覚できていなかった本心。
死にたくないけど、死なせたくもない。
要は、わがままなんだ。
でも、俺はその心を裏切りたくない。例えそれがただのわがままに過ぎなくても、意地でも貫いてやりたい。
だから俺は走る。その理由が、そんなくだらないものだったとしても。
デッデッデッデッデレデレデンンネェクサァス……