〇の妹   作:星屑村

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アナザーリポート1 蜂の妹

俺には妹が二人いる。

とはいっても彼女達と俺の間には血が繋がっていないし、ぶっちゃけそれどころか彼女たちは人間ですらない。

だけど間違いなく俺にとっては大切な、可愛い妹なのである。

 

 

 

「チキショー!美神さんのバカヤロー!」

 

今、ある山の中で俺は走っている。

美神さんは俺の修行のために受けたのだという安い報酬(とはいえ俺自身の懐や収入を考えると目ん玉飛び出るような額なのだが)の仕事、普通なら栄光の手で一発決めれば終わるようなものだ。

 

しかし相手は普通ではなかった。つーかどう考えても報酬に釣り合うレベルより数段上である。現在文殊もストックがそこまであるわけでもないので形成を立て直すために逃げることにした。

 

意識のある悪霊や魔族が相手ならハッタリをかますのだが生憎相手は知性の欠片もない。その上パワーだけは人一倍強いもんだから攻撃が空ぶった時の風圧もものすごい。

 

「コンチクショー!これでもくらえ!」

 

風圧でこけそうになる体をなんとかひねってサイキック・ソーサーを投げ、それにひるんだ相手にすかさず文殊を突っ込む。

 

刻まれた文字は≪滅≫。かつて再生怪人とはいえメドーサを一発で葬ったこいつによってめでたく悪霊は消滅した。

 

「ハァ……ハァ…、あー全く酷い目にあった」

 

そうボヤいて座り込んだ俺の背中から突然声が聞こえてきた。

 

「相変わらず凄まじい威力だな」

 

その言葉と共に突然現れた翼の生えたスタイルのいい魔族、それは俺の知り合いの――――――

 

「ワ、ワルキューレ!?」

 

「久しぶりだな」

 

魔界正規軍大尉ワルキューレであった。

 

「なんだってお前が人間界に?」

 

「任務だ」

 

「ま、まさか今の悪霊に関係があったとか言わないよな?」

 

「察しがいいじゃないか」

 

つまり今俺が戦ってたのは魔族絡みの案件だったと?というか……

 

「じゃあなんで助けに来んかったんじゃー!」

 

「助けに入ろうと思ったら終わっていたんだ」

 

喚く俺にワルキューレは一言そう返したのみだった。

 

「思う前は楽しんで見てたんじゃなかろうな?」

 

「フフ……」

 

「否定せんかー!」

 

んな厄介な案件を人間に丸投げするなや!と薄い笑みを浮かべるだけのワルキューレにぶつけていると、更に新しい声が加わってきた。

 

「連絡がなかったけど終わったのかい?」

 

それはワルキューレに負けず劣らずのグラマラスボディの持ち主な―――

 

「ああ、任務は完了だ。こいつがターゲットを倒した」

 

「ポチ……?」

 

「ベス、パ……」

 

あいつの妹だった。

 

お互いの姿を認めて暫くの間、沈黙が場を支配する。何故なら俺とベスパの関係は複雑だからだ。

彼女にしてみれば俺は命の恩人で妹のペットで姉の恋人、姉妹をたぶらかして自分や主を裏切らせた人間。俺にとって彼女はあいつの妹で短い間とはいえ家族みたいに過ごしたこともある魔族。

 

そして、お互いがお互いの想い人を……

 

「久しぶり、だな」

 

「……」

 

俺の言葉にもなんの反応も返さないベスパ。いつもの俺なら空気を和ませるようにここで飛びかかったりするのだろうが、流石に今はそんな気に一切ならなかった。

 

「ベスパ、帰還するぞ」

 

静寂を破ったのは傍観者に徹していたワルキューレだった。

ベスパはその言葉を聞くと無言のまま転移してその場を去っていった。

 

「あ、おい!」

 

「横島、今回の件は少しばかり厄介なものになりそうだからここで私達に会ったことは伏せておいてくれ」

 

「お前もちょっと待てよ!」

 

「悪いな、いずれ説明する」

 

そう言い残してワルキューレも転移していった。

 

「なんなんだよ……」

 

ちなみに帰ったら雑魚相手にいつまで時間をかけていると美神さんに怒鳴られた。彼女たちの言いつけ通りワルキューレ達のことは伏せておいたが、うっかり文殊を使ったことを喋ってしまい折檻されてしまった……、チクショウ。

 

 

 

それから数日後、いつものように事務所で書類整理をしている美神さんがボヤいた。

 

「はあ、なかなか大口の依頼が来ないわねえ」

 

「それだけ危険な目にあわずに済むんだからいいじゃないっすか」

 

「何言ってんのよ!でっかいスリルとお金が手に入るからこの仕事はやりがいがあるんじゃない!」

 

「俺はでっかいスリルは味わってもお金は手に入れてませんよ!?」

 

「悔しかったら早く一人前になることね!」

 

「認める気なんて更々無いでしょーがー!」

 

「いやーねー、そんな訳ないでしょ。オーホホホ」

 

「嘘やー!俺はこの先一生この女に搾取され続けるんやー!」

 

「人聞きの悪いこと言うなー!」

 

「まあまあ…」

 

こうして俺をシバき倒さんとする美神さんをおキヌちゃんが宥めてくれてる脇でシロがしみじみといった風に呟いた。

 

「しかしたまには強い敵と戦ってみたいでござるよ」

 

それに返すは相棒(というと当人たちは否定するのだろうが)のタマモ。

 

「私はパスよ、油揚げさえあれば十分だもの。お金はいいけどスリルはごめんだわ」

 

「ふん、相変わらず怠惰な奴でござるな」

 

「私はあんたみたいに単純な犬じゃないもの」

 

「なにを!」

 

「やる気?」

 

「あんたらもうるさーい!」

 

売り言葉に買い言葉で喧嘩を始めようとするシロとタマモにおキヌちゃんのお陰で矛を下ろしかけていた美神さんの機嫌が再点火されていく。そんな事務所に広がるいつものような風景に水を差したのは事務所そのものだった。

 

「美神オーナー、お客様です」

 

「飛び込みの依頼?誰かしら?」

 

「ワルキューレさんです」

 

「ワルキューレねぇ。まあいいわ、通して」

 

「分かりました」

 

美神さんが人口幽霊壱号に自分たちのところまで通すよう伝えてからしばらくすると、春桐魔奈美の姿に化けたワルキューレが現れた。

 

「この女性は誰でござるか?」

 

「人間じゃないみたいね」

 

「ほう、私を一目で見破るか」

 

人間でないことが一発で見破られ、ワルキューレは感心した後元の姿に戻る。

 

「紹介するわ。こっちはワルキューレ、魔界正規軍の大尉よ」

 

「軍人さんでござったか」

 

「魔族にも知り合いがいたのね」

 

「まあね」

 

「ちなみに神様にも知り合いはいるぞ」

 

俺の言葉に絶句するシロタマ。確かにビックリするよな。

 

「で、こっちが人狼のシロに妖孤のタマモよ」

 

「なるほど、犬神という奴か。しかしこの事務所は相変わらず非常識だな」

 

「まあそれより用件を聞こうかしら。世間話しに来たんじゃないんでしょ?」

 

ワルキューレの感想を流しつつ本題を促す美神さんに彼女も俺を見ながら応じる。

 

「ああ、その様子だと横島は約束を守ってくれたようだな」

 

「おかげで美神さんに折檻されたけどな」

 

「いつものことじゃないのか?」

 

「俺は折檻受けんのが好きなんちゃうわー!」

 

すると俺とワルキューレのやり取りを見て訝しげな顔になったおキヌちゃんが話に入ってくる。

 

「あの、どういうことですか?」

 

「なに、先日こいつが山中で除霊した時に私達は出会っているのさ」

 

「それを私達に内緒にしてたってこと?気に入らないわね」

 

丁稚が雇い主に隠し事、しかも仕事の内容に関わるそれであったことが大層不愉快だったのであろう美神さんが俺をギロリと睨みつけ、俺はすかさず泣いて謝った。

 

「堪忍やー、仕方なかったんやー!」

 

「で、今日はそのことについての説明に来たということだ」

 

そんな俺を無視して本題に入るワルキューレに、美神さんも仕事モードになる。

 

「こいつが退治した悪霊は魔族の影響をうけて格段にパワーアップしていた」

 

「やっぱりか」

 

「ああ、大体下級魔族程度の強さと言っていいだろう」

 

「どおりで無茶苦茶強かったわけだ…」

 

うげーっとなる俺を横目で見つつ美神さんも話の中から疑問を呈する。

 

「魔族の影響って言ったわね?どういうことかしら」

 

「まず前提としてあの戦いの後、神魔のデタントは一気に進みしばらくはお互いに自分達からの人間界干渉を控えるという風潮になった」

 

「えぇっと……、あの戦いとはなんでござるか?」

 

ワルキューレが話し始めた内容が良く理解できないシロがおずおずと尋ねると、ワルキューレも驚いた顔をする。

 

「知らないのか?」

 

「私も知らないわね」

 

「シロちゃんは当時里にいたしタマモちゃんはまだ生まれてなかったから」

 

「なるほどな。後で説明してもらうといい」

 

「ええ。とりあえず続けて」

 

「分かった。まあそういう風潮になっても反対する過激派というのは存在するものだ」

 

話の腰を折らないよう事情の説明は後回しにして続くワルキューレの話におキヌちゃんが泡を食ったような顔で食いついた。

 

「まさか、またアシュタロスみたいな魔神が攻めてくるってことですか!?」

 

「いや違う。中級以上の魔族はむしろデタントに賛成なんだ」

 

「そりゃまたなんで?」

 

確か魔族には闘争本能みたいなのがあったはずだ。アシュタロスを倒した人間を倒して名を上げてやるぜみたいなバトルジャンキーも多そうなもんだが。

そう思う俺に対して美神さんが解説してくれた。

 

「わからない?アシュタロスみたいな最上級の魔族をほぼ人間達だけで倒したのよ?しかもそれは宇宙意思の後押しのおかげでもある」

 

「つまり反対して行動を起こしてもどうせ失敗するからってことですか?」

 

「なるほど。そりゃバナナの皮でスベって転んだり頭に一斗缶ぶつけたりで失敗したくないわな」

 

「バナナの皮…」 「一斗缶…」

 

俺のつぶやいた言葉にシロとタマモが微妙な顔をする。

 

「加えてアシュタロスの反乱の原因が神族側にもあるということを神族の最高指導者が認めたということも一役買っている」

 

「そりゃまた随分と思い切ったことしたわねー」

 

「それだけあの事件が大きいものだったということだ」

 

ウワーって顔をする美神さんにワルキューレも苦笑しながら返す。

 

「じゃあ下級魔族の方たちが反対する理由は?」

 

「単純に自分達の本能を満たす闘いができなくなるからといったところだな」

 

「じゃあ悪霊を強化したのは下級魔族ってこと?」

 

「そうだ。どうやらあの場所に偶然魔界との小さなチャンネルが開き、そこにいた下級魔族が一緒に流れてきた地脈の力を得てパワーアップしたようだ」

 

「最悪の偶然ね…」

 

「そいつは力を得たおかげでそのゲートから人間界に行くことができない。そこで霊や土着の凶悪な妖怪達を強化してアシュタロスを倒したお前達二人を狙っている」

 

そう言って俺と美神さんを指差すワルキューレ。……っておい!?

 

「俺まで!?」

 

「当たり前だ。お前は知らないだろうが今神魔で一番有名な人間はお前なんだぞ」

 

「だからなんでだよ!?謂わば俺は美神さんというカレーライスに添えられた福神漬けみたいなもんだぞ!」

 

「謙遜するな。アシュタロスの企てた数々の作戦を打ち破ったのはお前だろうが」

 

だからそれは主に美神さんだし俺までとばっちりで魔族に狙われても嬉しくないわい!

 

「そうですよ!横島さんは頑張ったじゃないですか!」

 

「さすが先生でござる!」

 

「なんか信じられないわ」

 

しかしおキヌちゃんはそんな俺の思いとは裏腹に労ってくれるしシロも尊敬の眼差しを向けてくる。うさんくさそうなタマモは普段ならイラっと来るだろうが今回ばかりは心底賛成である。まったく……、

 

「皆して俺を過大評価しすぎだっつーの!」

 

「まあ、確かにそこは認めてあげてもいいわよね」

 

「美神さんまで……。俺は、あいつになんにもできなかったのに」

 

まさかの美神さんからも認められて驚きはしたがやはり胸を張れるようなもんではないと思う。そんな気持ちで後半は聞こえないようつぶやくように言ったのだが、生憎この場には感覚が鋭いのが二人もいた。

 

「話を続けるぞ」

 

「ああ、すまん」

 

それを見ていたワルキューレも一度コホンと咳払いをして仕切り直しを図る。

 

「というわけで私達の任務はお前達二人の護衛と影響を受けた連中の始末だ」

 

「実際襲ってくるのは悪霊や妖怪でしょ?護衛してもらうような大層なものかしら?」

 

「なに言ってるんすか!俺だって散々粘ってようやく文殊で倒したんですよ!?」

 

「しかも、もしかするとそういった手合いが連続で現れるかもしれん」

 

俺とワルキューレの言い分に納得したのかそれとも単に言ってみただけか案外素直に美神さんはそれを聞き入れてくれた。

 

「なるほどね。まあ一銭にもならない敵にそんな苦労する方がおかしいか」

 

そこにおずおずとおキヌちゃんが手を挙げる。

 

「あの、私”達”って他にも誰かいるんですか?」

 

「ああ。二人を一人が護衛するより一人が一人を護衛する方が確実だからな」

 

「確かにね」

 

「一理あるでござる」

 

シロとタマモは納得しているがそんなのもったいn……いやいや非効率というものだ。

 

「そんなこと言わずにずっと一緒にいればいいじゃないですか!もう風呂もベッドも」

 

「おどれは他に考えつかんのか!」

 

リソースの効率化と護衛の確実性を考えた俺の意見具申はなぜか美神さんに即刻却下され、熱い思いとともに床に沈まされる。

 

「安心しろ横島、お前の護衛はグラマラスな女だ。お前のタイプだろう?」

 

「なに!?もしかしてお前か?」

 

「いや、私は美神令子の方を護衛させてもらう。それとそいつはすでにお前の家の周辺を張っているぞ。」

 

「ってことはもしかして、もしかして……」

 

彼女は俺の考えを的確に読み取ってくれたようだ。ニヒルに笑ってこう言った。

 

「ちゃんと常に一緒にいるようにな」

 

「おっしゃー!待っててね美人の姉ちゃーん」

 

「あ、ちょっと横島さん!」

 

グラマーで美人な姉ちゃんが家で俺を待っている!これはもうそーゆーことに違いない!俺は考えていたこともとりあえず後回しにしておキヌちゃんの止める声も無視し家までダッシュで駆け出した。

 

 

 

美人の姉ちゃんにワクワクしてスキップしながら家に帰る俺の脳内では……

 

「あ~ん、横島さんって護衛も必要ないくらい強いのね」

 

「ハッハッハ、あんな奴ちょちょいのちょいですよ」

 

「私、あなたに惚れちゃいそう…」

 

「お嬢さん、うかつに俺に近づくと火傷するぜ」

 

「それでもかまわない、あなたを私に刻んで!」

 

なんて緻密な未来予想図が展開されていた。

 

「わ~はっはっは~!ついに、ついにわが世の春が来たでー!」

 

来るであろう桃色の未来に思いを馳せていると、なぜか警察に職務質問されてしまい家にたどり着くのが遅れてしまったのは余談である。

 

 

 

「フッフッフ、ようやく帰って来たぜ」

 

ようやく家に着いた俺は思わず顔がニヤけてしまう。この中に未来の嫁さんが……、いやいや気が逸って第一印象を悪くするなど愚の骨頂。ここは元気よく、

 

「さあ、あなたの護衛対象横島忠夫が帰ってきましたよ~!」

 

そう言って勢いよくドアを開けた俺の目の前にいたのは…、

 

「あ、ああ。おかえり」

 

ポカンとしてつい普通に応対してしまったベスパだった。

 

「どうせこんなこったろーと思ったよドチクショー!」

 

 

 

衝撃の再会から一時間、俺達は会話もなく気まずい雰囲気を作り出していた。

 

「あ、あのさ」

 

「なんだい?」

 

「俺と一緒にいるのはいいんだけど、こんな狭い家で戦闘ってなったら…」

 

「その辺は大丈夫さ、この辺りを眷属達に張らせているからね」

 

「な、なるほど」

 

そしてまた会話が止まる。

が、この気まずい雰囲気を壊してくれたのはなんとベスパの方だった。

 

「あんたさ」

 

「お、おう」

 

「なんであんなこと言いながら帰って来たんだい?」

 

「え!?いや、それはその、ワルキューレの奴が俺の護衛は俺のタイプのグラマラスボディな女だって言うから……」

 

しどろもどろになりながら答えるとベスパも目を細めて毒づいた。

 

「まったく、大尉め」

 

「それが帰ってきたらお前だしよ、嘘は言ってねえけど手ぇ出せねえじゃねえかってな」

 

「なんで私だと手を出せないのさ?」

 

意地悪な質問だと思う。なんかこいつの顔ニヤニヤしだしたし。

 

「んなもん、お前が俺の妹だからに決まってんだろ」

 

「は?」

 

でもこんな答えは予想してなかったのか、こいつの顔がさっき俺が帰って来た時みたいにポカンとする。

 

「お前だけじゃねえ、パピリオだってそうさ。血は繋がってねえし種族も違うけど」

 

「ポチ…」

 

我ながらちょっとくさかったか?なんて考えていたら、

 

「そんな血の涙流しながら言われたらせっかくのいいセリフが台無しだよ?」

 

呆れ顔でツッコまれた。

 

「しょうがないやんけー!お前いい女なんだからよー!」

 

「ああ、はいはいわかったよ」

 

我ながらどうかと思わんでもないが、あいつとは似つかぬスタイルの美人に煩悩がたぎってしまうのは男として不可抗力だと思う。

とりあえず落ち着いてからふと気になった疑問をこちらもぶつけてみることにした。

 

「そういやベスパ」

 

「なんだい?」

 

「お前晩飯どうするんだ?」

 

「たんぱく質ならなんでもいい」

 

「え!?俺からたかるのか!?」

 

「冗談だよ、ちゃんと軍の携帯食料を持ってきてる」

 

「そうか、そりゃよかった。いや本当に」

 

美神さんのとこに行かないとまともな飯も食えない勤労苦学生としては二人分の食事の安定供給なんてとてもじゃないが望めない。護衛のために破産なんざシャレにもならんからな。

 

「こんな本とか買わなきゃもちっとマシな生活できるんじゃないのかい?」

 

そう言って呆れた目のベスパが取り出したるは俺のお宝……って!?

 

「コラー!人のお宝勝手に漁ってんじゃねえ!」

 

「漁るまでもなく普通に置いてあったんだけど」

 

「うぐ」

 

「それになんだいこの部屋の汚さは?逆天号にいたときのお前の掃除の出来は本当によかったのに」

 

「それはそのぉ、私の丁稚根性がなせる技と申しますか……」

 

こうなるともうひたすらにへりくだるしかない。そもそも俺って男はベスパみたいなタイプの女にそこまで強く出られないのだから。

 

「まったく、しっかりしてくれよ。……お前は、アシュ様を倒した男なんだから」

 

アシュ様と言うその言葉に俺の心臓は跳ね上がるように感じた。

 

アシュタロス―――

自分が悪であることに耐えられなかった魔神でこいつらの父親。

そして、ベスパの想い人……。

 

「神魔の間ではどうだか知らないけど、人間の間じゃあいつはオカルトGメン主導で腕利きのGS達が倒したことになってるんだ」

 

「…………」

 

俺の言葉にベスパも憮然とした態度ながらも耳を傾けてくれる。

 

「世間一般じゃ俺なんて『名もない見習いGS』か『人類の敵に見せかけたスパイ』でしかないんだよ」

 

「だから、変わらないってのかい?」

 

「それだけじゃねえさ。俺はどこまでいっても煩悩まみれの男でしかない。シリアス気取ったって役に立たないレベルにまで霊力が落ちるんだ。そんな俺のことを愛してくれたあいつの為にも、俺は俺らしくなきゃって教えてくれたのはお前だろ?」

 

「!……そう、だったね」

 

「ということでその本返して」

 

「って、今までのシリアスブチ壊しじゃないかー!」

 

スパーンとベスパにハリセンでしばかれたがこればっかりはなぁ?

 

「今言ったじゃねえかー!俺にシリアスは似合わんのやー!!」

 

「それでももうちょっと雰囲気ってもんがあるだろう!?」

 

「おあずけくらっとる男がそんなもん読めるかー!」

 

「は?おあずけ?」

 

ついうっかり零した本音に思わずベスパの目が点になった。

 

「い、いやなんでもないぞ!」

 

「あんた、まさかルシオラの次は私を狙って!?」

 

「違うんやー!義妹とのめくるめく情事なんてってちょっとドキッとしたこともあったけど期待はしてないんやー!!」

 

「なに寝ぼけたこと言ってんだ!」

 

こうして俺とベスパの漫才はあまりの騒がしさに様子を見に来た小鳩ちゃんがやってくるまで続いたのだった。

 

 

 

「まったく、昨日は小鳩ちゃんに危うく変な誤解させるとこだったじゃねえか」

 

「あんたが義妹に欲情とか言うからだろうが!」

 

「俺はそんなストレートに言ってねえ!ところでお前俺が学校の間はどうするんだ?」

 

「お前のそばにいるに決まってるじゃないか」

 

「どうやって?」

 

ベスパみたいな美女を侍らせて授業を受けるというのも乙なもんだが、流石にクラスで滅茶苦茶な騒ぎになって護衛どころじゃないだろう。非ッッッ常にもったいない話だが。

そこら辺のことはベスパも分かっているのか、

 

「こうやってさ」

 

そう言うと蜂の姿に変身した。そういやそんなことできたっけな。

 

「しかし俺のそばにずっと蜂がいたら騒ぎになるんじゃないか?」

 

それを聞いたベスパ蜂はカバンの中に入って行った。うむ、なかなか利口な奴め。

 

 

 

「横島君ここのところよく学校に来るわね~」

 

「まあ俺もいい加減真面目に学校に行かなきゃヤバくなってきたからな」

 

登校した俺を出迎えて話しかけてきたのは机妖怪の愛子。収入に直結するから気は乗らないが留年なんてしたらオフクロからどんな目に遭わされるか……。

 

「分からないところがあったら遠慮なく聞いてね。勉強の分からない友達に教える、これもまた青春だわ」

 

「お前はそれ以外に言うことないんかい」

 

お約束みたいな会話をしているとまた新しく教室に入ってきた奴がこちらに向かってくる。

 

「おはようございます」

 

「あ、ピート君おはよー」

 

「お前も相変わらずイケメンだなー、おい」

 

「学校について早々リアクションに困る絡み方は止めてください、って横島さん?」

 

「なんだ?」

 

俺の方を警戒したような目で見たと思ったらピートが耳元で小声で話しかけてきた。

 

(横島さんのカバンから魔の気配を感じるんですが……)

 

(ああ、今ちょっと護衛がついてんだよ)

 

(護衛!?いったいなにがあったんですか!?)

 

(まあ後で話してやるからさ)

 

「ちょっと二人とも、いきなりヒソヒソ話しだしてどうしたのよ?」

 

「あ、ああいやなんでもねえよ」

 

「少し気になったことがあるだけですから」

 

「ふぅ~ん」

 

誤魔化す俺とピートにやや不審そうな目を向けていた愛子だったがすぐに興味をなくしたのか他の女子たちの方へ話しに行った。

 

 

 

昼休みになるといつものようにピートから弁当を強奪した俺達は屋上にいた。

 

「なるほど、そういうことだったんですか」

 

「横島さんも大変じゃノー」

 

「まったくだぜ。そういう手合いは雪之丞の方に行けっての……」

 

ため息をつく俺に苦笑していたピートだったがあいつが今近くにいないことを察したのか問いかけてくる。

 

「で、その護衛の方は今どこに?」

 

「なんか眷属達から報告を聞くって行っちまったぞ。しばらくしたら戻ってくるだろうけど」

 

「眷属がいるってことはかなり強力な魔族じゃないんですか!?」

 

「そりゃ力は強いが、お前らも知ってる奴だしなぁ」

 

「知ってるって……」

 

「い、いったい誰なんジャー?」

 

「ベスパ」

 

「「」」

 

二人が絶句しているところにベスパが戻ってきた。

 

「おお、帰ってきたか。なんなら元の姿に戻ってもいいぞ、主に俺の目の保養のために」

 

「……」

 

「うわ、ちょ、刺すな刺すな!」

 

「なんか、普通に馴染んどりますノー」

 

「まあ、横島さんですし」

 

「おいコラ!二人とも助けやがれ!!」

 

 

 

放課後になると俺は事務所へと向かった。ピートとタイガーはなにかあったら協力すると言っていたが正直あいつらじゃなあ……。ピートはともかく特に美神さんと犬猿の仲なエミさんとこのタイガーが戦力になるとは思えん。

 

「ちわーす、横島忠夫やってきましたー!」

 

いつものように部屋に入るとなんだか空気が重いような気がする。

 

「ああ、やっと来たのね」

 

「美神さんが俺が来るのを待っていた!?これは俺に愛を伝えようとしていたからなんですね!美っ神すわ~ん!」

 

とりあえずお約束のルパンダイブ。しかしというか案の定というかその返事は、

 

「おどれはそれ以外やることないんかー!」

 

「まあまあ美神さん、その辺で」

 

美神さんの肘鉄によって撃墜されるという憂き目を見てしまう。それを見ていたワルキューレは苦笑しながら話しかけてきた。

 

「本当に変わらんな、せっかくお前好みの護衛を付けてやったというのに」

 

「そうだ、てめえワルキューレ!よくも騙しやがったな!!」

 

俺の抗議に心底心外だとでも言わんばかりの表情を浮かべるワルキューレ

 

「なにを人聞きの悪いことを」

 

「見た目はタイプでも手は出せねえだろうが!」

 

「そうか、お前にそんな良識があったとはな」

 

クソ、本気で言ってるのかからかわれてるのか分からん!

 

「あ、あの結局横島さんの護衛の方って誰なんですか?」

 

「え?聞いてないの?」

 

「ワルキューレが『いずれわかるさ、いずれな』とか言うもんだからこっちも気になってたのよね」

 

不思議そうなジトっとしたような目のおキヌちゃんと憮然とした表情でこちらを見る美神さん……あれ?

 

「まあ、別にいいですけどシロとタマモはどうしたんです?」

 

「シロちゃんがタマモちゃんをつれてお散歩に行っちゃったんですよ」

 

「じゃ、別にいいか。おい、出てきていいってさ」

 

するとカバンから一匹の蜂が出てきてベスパの姿に戻る。

 

「な!あんたは……」

 

「久しぶりだね、美神令子」

 

「ベスパさんが横島さんの護衛だったんですか!?」

 

「まあね」

 

これには流石の美神さんも予想外過ぎたのか一瞬警戒するような動きを見せるしおキヌちゃんの驚きも一入だった。

そんな俺たちを一瞥してからワルキューレもベスパに向き合う。

 

「ベスパ、経過報告を聞こうか」

 

「は、私の眷属達が数回にわたりターゲットとなった霊や妖怪を捕捉。すべて撃破しています」

 

「やはり横島の方に比重が置かれている可能性が高いな。引き続き警戒を怠らないように」

 

「イエス・マム!」

 

どうやら既に何体か知らぬ間に撃破されていたらしい。全然気付かなかった……。

 

「いつのまにそんなことやってたんだ?」

 

「言ったろ?やったのは眷属達さ。お前が寝ている間や学校にいる間に来てたらしい」

 

「そういえばあんたの眷属って妙神山の時に神魔をメタメタにしてたわね」

 

「私の寿命制限解除による弱体化に合わせて眷属達も弱くなったとはいえ、そんな簡単にやられるほどヤワじゃないのさ」

 

感嘆の声を出す美神さんに得意げに答えるベスパ。俺としても戦う以前に全部倒してくれてるなんてのは楽で結構なのだが。

 

「それにしてもその黒幕の魔族ってのはどうしたんだ?そいつを倒せば護衛なんていらないだろ」

 

「もちろん探してはいるがなにせ魔界も広い。一時的に開いたチャンネルなど手掛かりにもならんほどにな」

 

「今はまだ大口の依頼が来てないからいいけどいつまでも休業状態じゃいられないわよ?」

 

「美神さん!命を狙われてるんですよ!?」

 

いつも通りな美神さんのセリフに流石におキヌちゃんもやや語気が強くなってしまう。

 

「おキヌちゃんの言いたいことも分かるけど、私だっていつまでも守ってもらうようなのは御免なのよ」

 

「安心しろ、もう残りはそういないはずだ」

 

「そうなのか?」

 

「まあ、影響を受けたとは言っても短い時間な訳だしあの場所も特別霊や妖怪の溜まり場って言うほどでもないからね」

 

「じゃあ後ちょっとってことか、頑張ってくれよ俺の為に」

 

「間違っちゃいないんだがなんかムカツク言い方だね」

 

そんな俺たちのやり取りを目を丸くしている美神さんたち。ワルキューレが微笑みながら言う。

 

「なんだ、随分仲良くなったじゃないか」

 

「まあな、手は出せないが美人だし」

 

「私もさ、話してたらなんか馬鹿らしくなっちゃって」

 

「まああんたらがいいんならこっちも文句はないけど」

 

その時、窓からコツコツと音が聞こえた。

 

「あら?」

 

そう言っておキヌちゃんが窓を開けると小鳥が飛び込んできて瞬時に見覚えのある少女に姿を変える。

 

「「「タマモ(ちゃん)!?」」」

 

「はあ……、はあ……、シロが、シロがぁ…………」

 

「どうしたの!いったいなにがあったの!?」

 

「シロが、あの話を聞いた後ものすごく考え込んでて、気分転換に散歩に行ったの」

 

「それで!?」

 

「そしたらなんか突然すごく強そうな奴が出てきて『横島忠夫を出せ!』って」

 

「おい、そのすごく強そうな奴ってまさか」

 

「黒幕の魔族だろうな。どうやったか知らんが人間界に現れたか」

 

「シロがそれを聞いていきなり切りかかって行って、あっさり捕まって、急いで皆を呼びに……」

 

「じゃあ助けに行かなくちゃ!」

 

「待ちな、奴がどれくらいの強さかも分かんないんだ。下手に動くのは人質を増やすだけだ」

 

「でもよ!」

 

焦るおキヌちゃんを冷静にたしなめるベスパに俺も思わず食い下がってしまう。しかしそこにワルキューレの一喝が飛んだ。

 

「落ち着け!今から私達が現場へ先行し目標と応戦する。その隙に人質を取り返せ」

 

「それしかない、か……。横島クンはすぐに装備をまとめて!おキヌちゃんはネクロマンサーの笛の準備を!」

 

「ウス!」 「はい!」

 

「我らもいくぞ、ベスパは眷属を先行させろ!」

 

「イエス・マム!」

 

「私も……」

 

作戦をまとめる俺たちに弱りながらもタマモも動こうとするところを美神さんが止める。

 

「怪我人は休んどきなさい、足手まといなだけよ」

 

「あいつのことは俺たちに任せとけって!な?」

 

「うん……」

 

そして、俺らの戦いが始まった。

 

「ってなにかっこつけてんのよ!」

 

「これぐらいええやないですかー!」

 

 

 

美神さんのコブラに乗り込んで現場へ向かう途中、俺はふと思いついた疑問をぶつけてみた。

 

「ところで、さっきタマモが言ってた『あの話』ってのはもしかして……」

 

「あの戦いのことよ……」

 

 

 

美神さんによると昨日俺が事務所を飛び出した後―――――――――、

 

「あいつ、まだ話は終わってないっつーのに」

 

「逃げたわね」

 

「え?」

 

タマモの言葉に思わず振り返るおキヌちゃん。それを受けてタマモが更に続ける。

 

「横島はさっき『あいつになにもできなかった』って言ってたわ」

 

「言ってたでござるな」

 

それを聞いて美神さん達の表情が曇る。

 

「なにか訳ありってことかしら?」

 

「先生になにがあったのでござるか?」

 

そこで疑惑を確信に変えた二人の追及に三人は事件についてを話し出したのであった。

 

 

 

「それで、あいつらはなんて?」

 

「結構ショックだったみたい。何も言わずに屋根裏に引っ込んじゃったもの」

 

「そっすか……」

 

「やっぱり、シロちゃんはあれを聞いたから……」

 

「無鉄砲なシロらしいわ、こりゃ当分肉抜きね」

 

「ハハハ……」

 

弟子へのお仕置に同情しているとようやく現場、つまり数日前俺が除霊した場所に着いた。あいつらワザワザこんなとこまで散歩に来なくてもいいだろうに。

 

「そこらじゅうを邪気が覆ってるわ」

 

「お二人はどこへ行ったんでしょうか?」

 

「あっちの方っす!」

 

「あ、ちょっと!」

 

なんとなくだが俺には分かる気がした。きっとあっちにベスパがいると。

そして俺の予想通り、そこではベスパとワルキューレが魔族らしき奴と戦っていた。そいつは俺を見ると尊大に言葉を投げかけてくる。

 

「貴様が横島忠夫だな?」

 

「余所見とは余裕だな!」

 

隙ありとばかりにワルキューレが銃弾を撃ち込むも大したダメージがなかったらしい。気にもせずにそいつは話を続ける。

 

「貴様を倒せば俺も名を上げることができ、デタントなどというふざけたものもなくなる」

 

「こいつはどうだ!」

 

ベスパも霊波砲を放つが全く効いてない……って!?

 

「おい!テメエさっきからどうなってんだ!?あんだけ攻撃受けてダメージなしかよ!」

 

「俺はこの地に流れる地脈の力で強化されている。この地においては俺が絶対なんだよ」

 

しかし俺はこの状況に違和感を覚えた。いくらなんでもインチキ過ぎやしないか。もしかして?

 

「コラ横島ぁ!いきなり走っていくんじゃないわよ!」

 

「いやー!おたすけー!」

 

「美神さん!どうやらそれどころじゃありませんよ!」

 

ようやく追い付いてきた美神さんにしばかれつつ文殊を発動する。

刻まれた文字は≪探≫。これにより、俺の勘は的中したことが分かった。

 

「二人とも!そいつはダミーだ!本体は土ん中にいる!」

 

「了解!」

 

俺の呼びかけに素早く反応したワルキューレは地面を無茶苦茶に撃っていき、ベスパもそれに続くように霊波砲で地面を掘り起こしていく。

 

「や、止めろ!」

 

初めて動揺の色が浮かんだ魔族の姿が掻き消えて、替わりに地中から巨大なモグラが現れた。

 

「こいつが正体ね!」

 

「すごいです横島さん!」

 

「おのれぇ、なぜ分かった!?」

 

「本体他所に隠して消耗狙うなんててめえみたいな卑怯者のよく使う手じゃねえか!」

 

なんせ俺自身もアシュタロスに対して使ったことがある。我ながら説得力は完璧だった。

 

「くらいやがれ!」

 

「散々我々をコケにした借り、百倍にして返してやる!」

 

先程以上に熾烈になったベスパとワルキューレの攻撃に魔族は大きくのけぞる。

 

「援護します!」

 

更におキヌちゃんのネクロマンサーの笛によって魔族の動きが鈍くなる。

 

「さあ、ウチの事務所に喧嘩を売ったことを後悔させてあげる!」

 

しまいには美神さんがほとんど動けない奴に対して神通鞭でえげつないくらい嬲りまくる。

 

「極楽へ、逝かせてやるぜー!」

 

とどめは俺の≪滅≫の文殊

 

「グオーーーー!」

 

そんな断末魔をあげながら奴は消えていった。俺たちの勝利である。

 

「やりましたね!美神さん、横島さん!」

 

「ま、この美神令子にかかれば当然ね!」

 

「俺がとどめ刺したんスけど……」

 

「なにか言ったかしら?」

 

「い、いえ!なんでもありませんお姉さま!」

 

「よろしい」

 

そんな俺らと違い奴が消えた後を注視していたワルキューレがあることに気付いた。

 

「む?奴が消えたところを見ろ!」

 

そこには傷だらけのシロが横たわっていたのだ。

 

「シロ!」

 

「けっこうダメージもらってるみたいね。おキヌちゃん、ヒーリングしてあげて」

 

「は、はい!」

 

シロの近くにいたベスパが近付くがどうにもおかしい。まだなにかが引っかかる。

それはベスパも感じているようで若干警戒しているようだ。恐る恐るという風にベスパがシロに手を伸ばした瞬間、

 

「!」

 

すぐに後ずさったベスパの前を霊波刀がかすめていく。

 

「グルル……!」

 

そこに立っていたのは明らかに正気を失っている目のシロだった。

 

「シ、シロちゃん!?」

 

「チッ、あの魔族は悪霊や妖怪を操っていた。シロになにもしないでいるわけがなかったってことね!」

 

「どうするんだ?あいつを処分するか?」

 

「そんなことはさせん!あいつは俺んだ!!」

 

「「「俺んだ?」」」

 

とっさに口から出た言葉に美神さん達がジト目でこちらを見る。

 

「い、いや俺の弟子って意味っすよ?やだなぁ……」

 

「横島クン、そのネタ二度目よ?」

 

「はい、すみませんでした」

 

「なんかやるなら早くしてくれよ!」

 

俺たちにツッコみながらもシロの攻撃をかわしているベスパ、ところが突然その足が―――

 

「え?」

 

ふらついた。

 

シロ「グルォォォ!」

 

当然その隙を見逃すはずもなく、シロが霊波刀をふりかぶった。

 

「シロ!肉抜きにするわよ!」

 

「!?」

 

しかし美神さんの声に気を取られて動きが止まる。声の大きさか発言の中身か知らんがシロも美神さんに対する恐怖心が刷り込まれているのだろう。

だが、これはチャンスだ

 

「シロ!」

 

急いで栄光の手を出してベスパを庇うように二人の間に入り込む。

そしてシロを助けるために本日三個目の文殊を出したのだが、

 

「! そうか、そうなんだな!」

 

俺は文殊に文字を刻みシロに思いっきりブン投げ、それを受けたシロは

 

「あ……れ……?せっしゃは…………?」

 

正気に戻りそのまま倒れた。すぐにおキヌちゃんがヒーリングを施す。

今度こそこちらもほっと一息である。

 

「そうだベスパ!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ……なんとかね」

 

なんだか少し呆然とした表情をしていたベスパだったが俺の問いかけですぐにいつもの表情を取り戻した。

 

「だらしないなベスパ。あれしきのことで足にふらつきが出るとは」

 

「すまない」

 

「帰ったら訓練だ。みっちりしごいてやるから覚悟しろよ」

 

「いえす、まむ」

 

「声が足りんぞ!」

 

「イエス・マム!」

 

やけっぱちだった様な気もするベスパの返事に満足したワルキューレは美神さんに向き直った。

 

「よろしい、では我々はしばし休養を取ったのち魔界へ帰還する」

 

「わかったわ」

 

「美神さん、お礼言わないんですか?」

 

「だってこいつらがもってきた厄介事だし、私も仕事休まなきゃいけなくなったのよ?むしろ休業手当と迷惑料払ってほしいくらいだわ」

 

「相変わらずあくどいな……」

 

「当然でしょ!私は美神令子よ?」

 

「まったく、美神さんったら……ってあれ?横島さんは?」

 

「どうせトイレにでも行ったんじゃない?」

 

「ふむ、ベスパもいないな」

 

「ま、まさか……」

 

「や、や~ね~。横島クンもベスパには手を出せないって言ってたじゃない」

 

「で、ですよね」

 

「そういえば、彼女が横島に惚れたのは命の危機を救われたかららしいな」

 

「そ、それがどうしたのよ!?」

 

「いや、ただ思い出しただけさ」

 

「美神さん、やっぱり私……」

 

「仕方ないわね~。丁稚が道を外れないようにするのも雇用主の義務だし」

 

 

 

美神さん達がこんな会話をしているころ、ベスパに誘われて俺は少し離れたところにいた。

 

「で、話ってなんだよ?」

 

「……なんで助けたんだい?」

 

「シロのことか?」

 

「私のことに決まってるだろ!」

 

いきなり何を言い出すかと思えばそんなことかい。

 

「なんでったって、言ったじゃねえか。俺はお前を妹だと思ってるって」

 

「ふざけんな!わたs」

 

「ふざけてねえよ!俺はお前を恨んでない、ルシオラだってそうさ」

 

「なにを世迷い事を」

 

そう吐き捨てるベスパ。うーむ、もう少し根拠がないと信用してくれなさそうだ。

 

「俺がここに来た時、俺はお前の気配がなんとなく分かった」

 

「!」

 

「パピリオが言ってたんだけど、お前達三人はなんとなく姉妹の気配みたいなのが分かるんだろ?」

 

「そんなの、ただの偶然かもしれないじゃないか!」

 

確かにそうかもしれない、だがこっちは更に動かぬ証拠と言うやつだ。そう思いながら俺が取りだしたのはさっきシロを正気に戻した文殊である。

 

「極めつけはこれだ」

 

「文殊、にしちゃちょっとおかしいね」

 

「これはな、ルシオラが俺に霊基構造を分けてくれたあとに一時的に作れた文殊なんだよ」

 

「ルシオラの!?」

 

「シロを元に戻してお前を助けたいって思ったらこいつが出てきてな。これが証拠なんじゃないか?」

 

そう告げるとベスパは嬉しいような申し訳ないような複雑な感情を滲ませた目で俺とこの≪正≫/≪気≫と刻まれた文殊を見ていた。

 

「姉さんが……、私を………」

 

「こいつはお前にやるよ。不甲斐ない兄貴からのプレゼントだ」

 

そう言って差し出すと、ベスパは壊れないようにゆっくりとその文殊を受け取り少し気まずそうに言いだした。

 

「本当はさ、護衛のどさくさまぎれでお前を殺そうとしてたんだ」

 

「え゛!?」

 

「アシュ様の悲願を叶えてくれたったって割り切れるもんじゃない。ルシオラやパピリオ、そもそもメフィストが裏切ったのも全部お前のせいだしね」

 

「ま、待て!メフィストはアシュタロスの野郎が勝手に」

 

「でもさ」

 

「聞く気なしかよ……」

 

「なんか、そういうのが全部馬鹿らしくなっちゃった」

 

「ほ、ホントか!?今ここで闇討ちしたりしないんだな!?」

 

「ほんっとに、さっきまでのかっこいいお前が台無しじゃないか!」

 

「お前もいい加減慣れろ!」

 

「慣れるか!」

 

んなこと言ってもいくら恨まれてる自覚が多少あったとはいえ守ってくれてた相手からいきなり殺意ありました宣言なんぞされても落ち着けるわけがない。また漫才みたいな掛け合いが始まろうとした瞬間、

 

「よーこーしーまー!」

 

「横島さーん!どこですかー!」

 

「やべ、美神さん達が呼んでる!急いで戻るぞ」

 

「あ、おい!」

 

 

 

合流したら勝手にどっか行くなと美神さんにどつかれ、おキヌちゃんも不機嫌そうだった。シロはこっちの事情も知らずスヤスヤと寝てやがる、覚えとけよ……。

改めてワルキューレがベスパに告げる。

 

「これで任務終了とし、魔界へ帰還する!」

 

「イエス・マム!」

 

「じゃあな、ベスパ。いつでも遊びに来いよ、美女は大歓迎だ」

 

「ああ、最高のプレゼントをありがとう。“義兄さん”」

 

そして二人は帰って行った。

 

「義兄さん、か」

 

あいつもこれで俺を認めてくれたのかな。なんてしみじみ思っていると……?

 

「なんかいい雰囲気だったじゃないの?横島クン」

 

「最高のプレゼントってなにをあげたんですか?」

 

「ちょ、ちょっと美神さんなんでそんな怖いんすか!?おキヌちゃんもなんか黒いよ!?」

 

その問いに二人はニッコリと笑ったまま無言で近付いて、ってなんかこんな状況前にもあったぞ!?

 

「いやー!よー分からんけどお助けー!」

 

とりあえず事務所に帰る頃には再生できたよ。

 

 




三話完結の予定です。二話はまた近い内に投稿できれば……。
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