〇の妹   作:星屑村

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続きを待っていてくれていた方、お待たせしました。
今回はパピリオ編のつもりだったんですが妙神山編と言った方が正しいのかも……。


アナザーリポート2 蝶の妹

「ゼー、ゼー、ったくせっかく山ごと作りなおしたんならこのアホみたいにキツイ道まで再現しなくてもよかっただろうに」

 

俺は今日とある山に登っている。山の名は妙神山。世界にある108の神魔族の拠点の一つであり、人間を鍛える修行場としての側面も持っている。

とはいえ今回の俺の目的は修行ではない。つーかそんなキツくてツライのは嫌だ。

ようやく頂上まで登ると、デカイ門にくっついてる鬼の顔が話しかけてきた。

 

「おお、横島ではないか」

 

「久しいな、また修行を受けに来たのか?」

 

「いや、パピリオに会いに来たんだ」

 

「パピリオか、少し待っておれ」

 

「今呼ぶからな」

 

しかしそう言った瞬間勢いよく門が開けられ、小さな女の子が飛び出てきた。

 

「ヨコシマ!来てくれたんでちゅね!」

 

「ああ、元気そうだなパピリオ」

 

ニッコリ笑いながら嬉しそうに出てきたそいつに俺も自然と笑みがこぼれる。彼女の名はパピリオ、ベスパと同じくあいつの妹だ。

 

「パ、パピリオよ……」

 

「まだ呼んでないのに、なぜ……?」

 

「あんた達には分からなくても、私にはヨコシマの気配はよく分かるんでちゅよ!」

 

門を開けた勢いが強すぎたか顔をしこたま打ち付けたようで痛みに悶えながら問いかける鬼門に対しパピリオは胸を張りながらそう答える。そんな彼女を追いかけてか敷地内からもう一人女性が現れた。

 

「こらパピリオ!いきなり修行を放り出すとはって、横島さん!?」

 

「小竜姫さまー!今日もお美しい~!」

 

いつものように飛びかかる俺を沈めたのは小竜姫様ではなくパピリオだった。

 

「ヨコシマ!私に会いに来てくれたんじゃなかったんでちゅか!?」

 

「すまなんだー!若くてピチピチの小竜姫様の色気の前では仕方ないことなんやー!」

 

「なに寝ぼけたこと言ってるんでちゅか!あんな若作りしただけで胸が終わってるおばちゃんなんかより未来のある私の方がよっぽど……!」

 

言ってる途中でハッとした表情になったパピリオの首がギギギ、と音を立てるようにゆっくりと後ろを振り返る。

俺もそんなパピリオにつられて視線の先を見てみると――――

 

「よっぽど、なんですか?」

 

そこには一匹の鬼がいました。あなた竜神じゃありませんでしたっけ?

 

「しょ、小竜姫さま?」

 

「すみません横島さん。せっかくいらしてくださったところ悪いのですが、パピリオはまだ今日の修行の途中ですので少し待ってていただけませんか?」

 

口調はいつもの調子だが目がまったく笑ってないですよ、小竜姫さま。

 

「ヨ、ヨコシマ……助けて…………」

 

「パピリオ、妹を助けられない不甲斐ない兄貴を許してくれ……」

 

潤んだ目でこちらに懇願してくる彼女の願いは、しかし叶える為に俺はあまりにも無力であった。

 

「さあ、そのたるんだ精神を鍛え直しましょうね~」

 

「い、イヤーー!」

 

パピリオは涙を流しながらもしかしむんずと掴まれた腕を振りほどけず小竜姫さまに連れられ異界空間に入っていった。

 

「さて、中で待たせてもらうか」

 

「横島よ、お前もなんというか」

 

「少しは庇ってやってもよかったと思うぞ……」

 

「お前らが出来るって言うなら俺も考えないでもないけど」

 

俺の反論に鬼門達はそのまま黙ってしまったので、母屋の方へと歩くことにしたのだった。

 

 

 

「あれ、横島君じゃないか」

 

「ようジーク、久しぶり」

 

母屋には卓袱台に座ってお茶を飲むイケメンがいた。奴はジークフリード、ワルキューレの弟で確か魔界正規軍の少尉だとか。

 

「今日はパピリオに会いに来たのかい?」

 

「ああ。あいつは元気でやってるか?」

 

「……」

 

こちらとしても世間話みたいな軽い調子で聞いてみたんだが何故かジークの顔が暗くなる。

 

「お、おいどうしたんだよ?」

 

「あの子は特に問題も起こさず静かに過ごしているよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「なんというか、こちらのメンバーとはやっぱりまだ互いに他所他所しいんだ」

 

「え?さっきパピリオが小竜姫様にいらんこと言っておしおきがてらに連れてかれてたけど」

 

「アハハ……、それは久々に横島君に会えて二人も少しはしゃいじゃった部分があるんじゃないかな。普段は小竜姫どのが修行の為の必要事項やアドバイスを伝えてパピリオもそれに応じるといった感じで」

 

「そう、か……」

 

苦笑しながら告げるジークの言葉も考えてみればなんの不思議もない。

パピリオはそもそもアシュタロスの手下として姉達や土偶羅と世界中の神魔の拠点を破壊したいわば凶悪犯だ。当時妙神山にいた小竜姫様やジークにしたって俺達が逆天号で大暴れしたから助かったのであって一歩間違えたら殺されていたかもしれないし、ようやく戦いに参加した頃にはほとんど終わりかけでパピリオ達の心情の変化なんかも人伝に聞いたものでしかないのだろう。

それにパピリオ本人も精神や口調は幼いが姉達同様アシュタロスから知識を与えられている。故に今の自分が置かれている状況の意味が分かってしまってるんだろうなぁ。

やはりこういうのは本人たちに任せるのが一番なのだろうか。いや別に人間関係の調整に自信がないからって訳じゃないぞ?第一彼女たちは人間じゃねえし。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「ひーん、今日はいつもの数百倍しんどかったでちゅ……」

 

なんて若干思考がアホな方向に行きつつあると、俺たちのいる部屋に小竜姫さまとボロボロのパピリオが入ってきた。

 

「いえ!小竜姫さまにはいつもパピリオがお世話になってますから!」

 

「い、いいえ!そんなことは」

 

「ついでに兄貴の俺もお世話もお願いしま~す!」

 

「それは止めなさいって言ってるでしょう!」

 

この話の流れならいけるかと思ったがやはり小竜姫様のガードは堅かった。パピリオもそんな俺をジト目で見て

 

「ヨコシマ、まさかとは思いまちゅが私をダシにして本当は小竜姫に会いに来たんじゃないでちょうね?」

 

「そ、それは違うぞパピリオ!お前が元気にやってるか心配で来たのは本当だ!」

 

「じゃあなんで小竜姫にばっかかまうんでちゅか!」

 

グゥゥゥゥ!確かに兄貴を気取っておいてそれはマズったかも、と痛いところ突かれた。

 

「それは……!ははーん、お前さては小竜姫さまに嫉妬してんのか?」

 

「ど、どうしてそうなるんでちゅか!私だって大人になれば小竜姫なんか比べ物にならないぐらい美人になるんでちゅよ!」

 

「そうだよなー、小竜姫さまは美人だもんなー。羨ましくもなるよなー」

 

「話を聞くでちゅ!」

 

とっさの反論にパピリオも面白いくらい引っかかってくれてなんとか先程の失点を挽回することに成功したと内心ほくそ笑んだ。うやむやにしただけとも言う。

 

「目の前でこんなに褒められるとすごくこそばゆいですね……」

 

「アハハ……」

 

「それになんだかパピリオも物凄く楽しそうですし」

 

「確かに、あの子のあんな顔はここに来て初めてですね」

 

「やはり、さすが横島さんということですか」

 

「本人はそう思ってないみたいですけどね」

 

パピリオと話している隙に気付けばジークが小竜姫さまと仲良くお話ししてやがった。

 

「こらジーク!なに小竜姫さまと二人で仲良く喋ってやがるんだ!」

 

「えぇ!?いやそういうのじゃないですって!」

 

「ヨコシマ!話は終わってないでちゅよ!」

 

そんな俺たちの喧騒の中突然この場にいるメンバー以外の声が聞こえてくる。

 

「今日はなんだかえらく騒がしいのねー」

 

そう言いながら転移して来たのは猫目で趣味の悪い格好の女性、ヒャクメだった。

 

「趣味が悪いって酷いのねー」

 

「てめえも勝手に人のモノローグ読んでんじゃねーよ!」

 

「どうしたんでちゅかペス?」

 

「いい加減その呼び方も止めてほしいのねー!」

 

かつて逆天号でペット扱いされてた頃の名前で呼ばれることに対して涙ながらに抗議するヒャクメ。未だにそれで呼ばれてたんだなお前……。

 

「ペスが私の役に立ったら考えてあげまちゅ」

 

「サラッと無茶ぶり!?というかそれじゃまるで私が役立たずみたいじゃない!」

 

「え?」

 

「今更でちゅか?」

 

「それはちょっと」

 

「自分を客観的に見ましょうよ」

 

「小竜姫とジークまで!?」

 

 

 

横島「で、結局お前何しに来たんだ?」

 

俺とパピリオだけじゃなく小竜姫さまとジークにまで役立たず扱いされたのがよほどショックだったのか、未だにうっとおしく部屋の隅で泣いているヒャクメに話しかけてみる。すると現金なものでたちまちパッと笑顔になり、

 

「よくぞ聞いてくれたのね!実は横島さんの検査に来ました」

 

「俺の検査?」

 

「この間あなた彼女の力を使ったんでしょ?万が一変化があればいけないということで私が派遣されてきたのね」

 

彼女、というのはあいつのことだろう。確かにとっくに俺の霊基構造と同化しているはずなのにベスパを助けるためとはいえ力を使えたのはおかしな話かもしれない。にしても、

 

「なんでそんなこと知ってんだよ」

 

「ワルキューレから聞いたのねー。先日の件の報告書はデタントの都合で神界にもあがってきてるの」

 

ふーむ、あいつ自身大した敵でもなかった気がするのに大げさな気もする。だがなんかワルキューレも俺や美神さんがデタントにとって大事な存在みたいなこと言ってたしそういうこともあるのか。

 

「どういうことでちゅか?」

 

「ん、実はこの前な……」

 

話の流れ的に自分の姉絡みだと察したパピリオが説明を求めてきたので、俺はちょっと前に起こった事件について説明した。

 

「そうでちゅか、ベスパちゃんと仲直りしたんでちゅね」

 

「ああ、心配掛けたな」

 

「まったくでちゅ」

 

話を聞いたパピリオはホッとしたような顔で俺とベスパの和解を喜んでくれた。俺もそれが嬉しくて彼女の頭を撫でてやり、パピリオもそれを受け入れてくれる。

しかしそれを少し複雑そうな気持ちで見ている小竜姫さまの視線には気付けなかった。

 

 

 

「ということで検査を始めるのねー」

 

横になった俺にヒャクメはパソコンのケーブルを繋いで色々と調べている。でもそういえば美神さんの前世を調べに来た時もここからこいつの好奇心をきっかけに平安京くんだりまで飛ばされる羽目になったんだよなぁ。小竜姫さまもなんか心配そうに見てるけど大丈夫だよな、俺?

しかし幸いにも検査は何事もなくすぐに終了した。

 

「終わったのねー」

 

「それで結果はどうだったのですか!?」

 

「ちょ、落ち着くのね小竜姫!」

 

ヒャクメを掴んでブンブン振り回す小竜姫さま。なかなか珍しい光景だがなんでそんなに焦っているのだろうか?まさか!俺に惚r……

 

「取り乱すな、小竜姫よ」

 

その声で小竜姫さまもピタッとヒャクメを振り回す手を止める。ついでに俺の思考も。そしてここの最高責任者であるゲーム猿こと斉天大聖老師が入ってきた。

 

「あ、申し訳ありません老師さま」

 

「老師じゃなく私にこそ謝るべきじゃないかしら小竜姫……」

 

ややグロッキーになりながらも睨むヒャクメの視線からばつが悪そうに目を逸らしつつ猿に向き合う小竜姫さま。つられて俺も向き合うことにする。

 

「なんでここに?」

 

「儂はこの妙神山の責任者ぞ。ここにいてなにが悪い」

 

「いや悪くはないっすけど」

 

「ゴホン!それじゃあ改めて結果を伝えるのね」

 

話が脱線しかけそうになったところを引き戻そうとしたのかブン回されて一息付けるためか、わざとらしい咳払いをして遮るヒャクメ。そして俺もその言葉に自然と背筋がピンと伸びるのを感じた。

 

「結論としては現状なんにも問題はないのね。彼女の力を使えた原因は恐らくベスパの危機に対して横島さんが無意識の内に霊基構造の中から一時的にルシオラさんの力を引き出せたことによるものと考えられるのねー」

 

「それはそれで危険な状態ではないのですか?」

 

小竜姫さまの懸念も最もだ。人間は霊基構造を頻繁に引っぺがしたりなんかすれば死んでしまうはずである。ルシオラのわずかに足りなかった霊基構造を俺自身から補完して復活させるという手が使えなかったのもそのせいだし。

 

「今はまだルシオラさんの霊基構造が横島さんのそれに完璧に定着しきっているわけじゃないの。とはいえ普段からルシオラさんの力を使うことは出来ない訳で例えるならカサブタになってる状態なのねー。今回の件はいわばそのカサブタを剥がしてまた治りきっていない傷を表にしたような状態にしたのであって、強いてデメリットを挙げるなら彼女の霊基構造が完全に横島さんに馴染むまでの時間がまた少し伸びただけ」

 

「ということはこのまま普段通り過ごしてあいつの力を引き出すような大ピンチがなければ特に問題ないって事か」

 

「そうだけど、なんか嫌そうなのね横島さん?」

 

「だってこういう展開ってこれをキッカケに俺が半人半魔になってクソ強くなって無双!みたいになるのがお約束みたいなもんやんけー!」

 

訝しげなヒャクメにそう反論すると周りが皆ひっくり返った。ジークがでっかい汗を流しながら俺に尋ねてくる。

 

「横島君、君は一体なにを訳の分からないことを……」

 

「この漫画の二次創作全盛期どれだけそんなノリで始まる作品があったと思ってんだ!だいたい人間のままじゃ小竜姫さまと愛を育んでも俺すぐに死んじまうじゃねえか!」

 

「育みません!」

 

アブない発言まで交えながらの俺の熱弁は小竜姫さまのげんこつで強制終了と相成った。

老師が呆れながら俺を見る。

 

「お主はほんとに変わらんの……」

 

「これがなきゃ俺は俺じゃなくなりますっての」

 

「まったく……」

 

小竜姫さまからも呆れられ果たして何が悪かったのかと思うもすぐにパピリオが俺の手を取った。

 

「これで用事は終わりまちたね。ヨコシマ!さっそく今から遊びまちゅよ」

 

「ん?あー、おう、いいぞ。なにすっか?」

 

「色々でちゅ!まずはゲームステーションでちゅよ」

 

早く早くと急かすパピリオに連れられながら俺達はパピリオの部屋へと向かっていった。

 

 

 

一方、残された部屋では改めて小竜姫が斉天大聖に問いかけた。

 

「それで老師さま」

 

「なんじゃ」

 

「本当はなぜ出てこられたのですか?本来今日は神界で会議があったのでは?」

 

「ふん、いまだデタントの意義も分からぬ阿呆どもと話すことなどなにもないわい」

 

「それでいいんですか……?」

 

「今更儂がおらんとまともに回らん会議などないわ。それよりもこの妙神山に括られて最初の弟子たるあやつの方がはるかに重要じゃ。結局儂にはなにもできなんだったからな」

 

「それは我々も一緒ですよ、斉天大聖老師」

 

「ええ、その通りです」

 

神妙に呟く斉天大聖に暗い顔でそう述べるジークと小竜姫。ヒャクメはお茶をすすりながらしみじみとこう呟くのだった。

 

「結局横島さんがシリアス回避してもこうなるのねー」

 

 

 

「なんでこんなに強いんでちゅか!」

 

今俺達は格闘ゲームにいそしんでいる。このタイトルは文殊を習得した時の加速空間で老師相手に散々やりこんだからか、さっきからパピリオをボコしっぱなしだ。

 

「だからさっきから言ってるだろ、手加減しようかって」

 

「手を抜いてもらって勝ったからって全然嬉しくないでちゅよ!」

 

「気持ちは分かるが、っと」

 

今回もまた綺麗にハメ殺しコンボが決まり何度目かのストレート勝ちを達成する。

 

「あー!また負けたでちゅー!」

 

「これ雪之丞や老師と二カ月ぐらいぶっ続けでやってたからなー」

 

「へ?猿じいもゲームするんでちゅか?」

 

「ああ、俺と雪之丞が老師の修行受けに行った時はドハマリしてたぞ。まさにゲーム猿だったな」

 

「へー、意外でちゅ」

 

「意外ってあの猿現実じゃゲームしないのか?」

 

「なんか自分が俗界に常に現界していると問題になるからって、普段は母屋の方には来ないんでちゅよね」

 

「なるほどな」

 

「でもそんなにすごいんなら私も、っと今でちゅ!」

 

「甘いわ!」

 

「げ、カウンター!」

 

誘いこんだ隙に食いついてきたパピリオに華麗なコンボを決めたことで、テレビにはまたもや俺の勝利が映し出されている。流石にパピリオもしんどくなったのかコントローラーを投げ出して倒れこむ。

 

「ふー、さすがに疲れまちたね」

 

「俺も腹減って来た」

 

二人で軽く伸びをしながらそう笑いあっていると部屋にジークがやってきた。

 

「二人とも、昼食の準備ができたよ」

 

「お、ナイスタイミング!行こうぜパピリオ」

 

「わかったでちゅ」

 

 

 

先程検査を受けた部屋に戻ってみると、そこには卓袱台の上に大量の精進料理が並んでいた。小竜姫さまが少し申し訳なさそうな表情で話しかけてくる。

 

「我々は仏道に帰依している身なのでこのようなものしか出せませんが、どうぞご遠慮なく」

 

「ま、まさかこれって小竜姫さまの手作りっすか?」

 

「ええ、そうですけどなにか?」

 

「よかった……!小竜姫さまの手料理が食べられるなんて……!妙神山に来てホントによかった……!」

 

「そ、それは言いすぎでは?」

 

「そんなことは全然まったく無いっす!」

 

俺が感動に打ち震えていると老師が皿に箸をつけながらこう宣った。

 

「どうでもよいが早く食わんと無くなるぞ」

 

「ああー!俺にも食わせろー!」

 

ただでさえ普段からあまり腹いっぱい食べられる機会がない上にあの小竜姫さまの手料理。他の奴らにばかり食わせてなるものかと俺も皿に突撃していった。

その脇ではパピリオがヒャクメに話しかけている。

 

「ねえペス?」

 

「なんなのね?」

 

「私も少しは料理が出来た方がいいんでちょうか?」

 

「もちろん出来た方がいいわ。いい女は手料理で男の胃袋を掴むのねー」

 

「なるほど。ちなみにペスは出来るんでちゅか?」

 

「私の千里眼にかかれば焼くも煮るも火加減を誤ることなんてないのねー」

 

「それ以外の工程は?」

 

「……」

 

「……。ご飯、食べまちょうか」

 

「……グスッ」

 

一方食事に挑んだ俺は老師とおかずの奪い合いを繰り広げていた。

 

「こらうまい!こらうまい!」

 

「こら横島!お主には師に対する遠慮というものがないのか!!」

 

「うるせー!食事は常に戦争なんじゃー!」

 

だいたい普段から小竜姫さまのご飯食べてるだろうにたまの客人に譲らんとはとんでもないゲーム猿である。だが向こうも俺の言葉に反応したようで

 

「戦いとな?ならばこれを喰らうがよい!」

 

「ん……、ゲッ!?食卓で如意棒なんざ出すなよ猿!」

 

「お主が武神たる儂に戦を仕掛けたのが運の尽きと知れ!」

 

「二人とも止めてください!」

 

「ははは、ここの食事がここまで騒がしくなるなんてなー」

 

「ジーク!現実から目をそらしてはいけません!」

 

しまいには如意棒まで引っ張り出して俺をどかせようとする老師に俺も文殊で応戦しようとするも小竜姫さまの雷でお互い矛を収めなければならなかった。だって残った飯没収されそうだったし……。

 

 

 

そんな騒がしい昼食を終えた俺は腹ごなしにパピリオと母屋の周りを散歩することにした。なんか話題話題……、おっとそういや

 

「なあパピリオ」

 

「なんでちゅか?」

 

「お前の眷族ってどうしてるんだ?」

 

こいつにもベスパ同様眷属がいた。一度あいつらの鱗粉攻撃が直撃してルシオラが助けてくれたんだよな。今にして思い返すとあいつあのあと少し考え込んでたような気もするが、俺の精神にダイブした時になんか妙なもんでも見たんだろうか?

 

「あいつらなら今は封印されてまちゅ……」

 

「封印!?」

 

「私には一度保護観察中に眷族を使って反乱を起こした前科がありまちゅからね。ここにいる間は封印されてるんでちゅよ」

 

なるほど。あの時はパピリオやルシオラに除霊処分が下らないよう全力で隠蔽することにしたが流石にあの一件は今の神魔の耳に届いているのか。まあそれで危険分子として処分されてないだけマシなんだろーが。

 

「そっか、寂しくないか?」

 

これも後から思えばこれは明らかにやらかした発言だったと思う。それを聞いたパピリオはピタッと止まると段々わなわなと背中を震わせて叫んだ。

 

「寂しいに決まってるじゃないでちゅか!!ベスパちゃんは魔族の軍に行ってなかなか会えなくなったし知り合いなんて全然いない!ルシオラちゃんの復活だってヨコシマが結婚するまで待たなきゃいけないんでちゅよ!」

 

「!」

 

パピリオの叫びを受けて、しかし俺にはなにも言えなかった。

皆が俺に気を使って前を見れるようにしてくれても、傷跡が残ってる奴は他にもいるんだってことをちゃんと分かってなかった。

この間のベスパだってそうだったのにまして幼いパピリオには当然のことだったんだ……。

 

「ごめんな、パピリオ」

 

そう言って優しく抱きしめる。俺は幼女を抱きしめてドキドキするような趣味はないので問題ないだろう。何よりこの子だって妹だ。

 

「あ……」

 

「いっぱい寂しい思いさせときながらほったらかしたりして、本当にゴメンな」

 

「う、う、うわーーん!」

 

本当は内心いっぱいいっぱいだったんだろう、パピリオは俺の胸の中でわんわんと泣きだし、俺はただそんな彼女を優しくなでていた。

なんとなくだが、兄貴としてはなんかこうしなきゃって思ったんだ。

 

「Zzz……、Zzz……」

 

しばらくすると泣き疲れたのか、パピリオは眠ってしまったので俺は部屋に運んで布団を敷いてやり、その上に寝かせた。こうしてみると、あどけない寝顔だよなあ。

さっき自分でも美人になるって言ってたけどきっとその通りになるだろう。まあ魔族の成長速度を考えればその頃には俺はとっくにくたばってるんだろうけどな。でも縁があれば来世の俺とは会えるかもしれない。実は前世からの繋がりを持つ謎のグラマー元気美人……、アリだな!

 

「美人になれよ、パピリオ。来世の俺を誘惑できるぐらいな……」

 

「ん……ヨコシマぁ…………」

 

おいおい俺の夢見てんのか?可愛い奴め。

 

「お手……」

 

しかしその一言で思わずずっこけちまったよ。

 

「夢の中じゃペットに逆戻りかい……」

 

 

 

意外と時間が経っていたのか部屋を出るといつの間にかすでに夕方だった。時計を見てたわけではないので泣き叫ぶ彼女を受け止めていた時間が長かったのか彼女の寝顔を見ていた時間が長かったのかは分からない。後者だとちょっと社会的に危ない奴みたいだな。

それはともかくさすがに逆天号のブリッジで見たあの光景には及ばないが、それでもすごく綺麗な夕焼けに目を奪われて、気付けば自然とよく見える場所に立っていた。

 

「なあ、ルシオラ……」

 

いるはずのないあいつに向かって声を投げかける。ヒャクメの言い分通りなら意識もないのだろうが俺の中のルシオラはまだ溶けきらずに残っている。ならばこの声も彼女に届くといいな。

 

「俺ってさ、ダメな兄貴だよな。ベスパにしろパピリオにしろてめえだけ妹だと思うだけでなにもしなかったんだからさ。結局お前の時から何も成長してねーでやんの」

 

そう自嘲する俺に対してどこかでルシオラが呆れた顔でこっちを見ているような気がした。

 

「そうだよな。いつまでもクヨクヨしてちゃ俺らしくないよな」

 

口に出してみたおかげか夕焼けの効果か、もしかしたら彼女のおかげかどこかスッキリした気持ちになった。ガラにもなくセンチメンタルボーイを気取るのもここまでにしておいて、俺は母屋へと足を運ぶことにした。

 

 

 

母屋に戻ると全員がお茶を飲んでいた。しかしどこか皆の空気がぎこちない。これはもしや……

 

「なあヒャクメ、俺ってダメな兄貴だよな」

 

「さっきクヨクヨしないって言ったばかりなのねー、ってハッ!」

 

「やっぱり覗いてやがったなこの駄女神がー!」

 

「カマかけられたのねー!ちょ、ギブギブ」

 

こういうのに引っかかりそうなヒャクメにカマをかけてみると案の定覗きを白状しやがった。こんにゃろうと栄光の手でこめかみを思いっきりグリグリしてやるとジークもあせあせとしながら仲裁に入ってくる。

 

「お、落ち着いてくれ横島君!」

 

「なぜ庇う!さては貴様も共犯かー!」

 

「グ……!だ、だからそれはだね」

 

「共犯と言うなら儂ら全員が共犯じゃな」

 

「は?」

 

老師の発言に思わず面食らうとジークも諭すように語りかけてくる。

 

「パピリオは現在保護観察中なのを忘れたのかい?」

 

「でも、だからってよぉ」

 

いくらなんでもそんなプライバシーもへったくれもないようなのはあんまりじゃなかろうかと抗議してみるがジークも苦笑するばかりだった。

 

「君の言いたいことは分かるけどあの子の立場を考えると仕方ないんだよ」

 

「まあ、おぬしに本音を晒したおかげで儂らもあやつの抱えていた寂しさを改めて理解できた。詫びとしてこれからはもっとあの子に向かい合っていくと約束しよう」

 

「理解できてなかったのか?ヒャクメもいたのに」

 

「私はそもそも妙神山に括られている立場じゃないのねー。パピリオと会ったのもあの事件以降じゃ今日が初めてだし」

 

「ほんっとに役に立たないなー、お前」

 

「理不尽とは思うけどまあ返す言葉もないのねー」

 

そこでふと気付いた。さっきから小竜姫さまがまったく会話に参加していない。悲しそうな顔でうつむいたりこちらを見たりを繰り返している。

 

「小竜姫さま?どうかしたんスか?」

 

「横島さんは、その……」

 

「なんでしょう?告白というなら喜んでお受けさせていただきたいと」

 

「そうではなく!……横島さんは我々を恨んだりはしていないんですか?」

 

告白以上に突拍子もない問いかけに思わず小竜姫さまを凝視してしまう。その視線を受けてか小竜姫さまも覚悟を決めたかのような表情になった。

 

「先のアシュタロスの反乱の際、我々神魔は奴の覚悟と強さを侮りあなた方人間にほとんど力を貸すことなく終わってしまいました。特に横島さん、あなたには辛い役目を背負わせてしまったこと、心より申し訳なく思っています」

 

そう言いながらも段々と目線が下がってくる小竜姫さま。

 

「ルシオラを復活させる確証ある手段も提示できず、あなたに報いることもできていない。それなのに神魔は未だ完全にデタント一色という訳でもなく、先日の魔族のようなことはこれからも起こりうる。魔族だけでなく神族の中にも美神さんや横島さんを疎む存在がいることは私の耳にも届いています。そんな我々にどうしてそこまでいつも通り接してくださるんですか?」

 

改めて弱音を口に出したからか、小竜姫さまの瞳から一筋の光がこぼれた。見渡せばジークや猿にヒャクメもどこかやりきれないような表情になっている。しかしそんなこと言われてもなぁ、というのが正直なところである。ポリポリと頭を掻きながら答えることにした。

 

「そりゃアシュタロスのことは今でも憎いし俺たちを狙う神魔ってのも迷惑だなーとは思いますけど、小竜姫さま達は違うじゃないっスか。ルシオラのことだっていつかまた会える可能性を保証してくれたし」

 

「でも、それじゃ横島さんが!」

 

「そこまでにせい、小竜姫よ」

 

なおも食い下がろうとする小竜姫さまを猿が制した。

 

「横島が気にしないと言っておる以上、儂らの不甲斐なさと申し訳なさをこやつに押し付けるのは違うじゃろう。儂らに出来るのは二度とこんな目に遭う者が出ないよう精進するのみじゃ」

 

「そうですよ小竜姫どの。情けないと思っているのは僕らだって同じです」

 

「私なんてアシュタロスどころか人間にまで欺かれちゃってるのよ?落ち込むよりさっきみたいに横島さんが神魔のせいで大変なことになるって不安が現実にならないよう頑張っていかなくちゃねー」

 

「な!?また私の心をかってに読みましたねヒャクメー!」

 

「振り回されたんだからそれくらい許してほしいのねー!」と弁解するヒャクメに井桁を浮かべる小竜姫さま。にしてもなるほど、さっきやたら小竜姫さまが俺のことを心配してくれてたのはそういうことだったのか。にしてもこんないい感じのフォローが入ったら「そんなに申し訳なく思ってるんならルシオラ復活のための子作りへの協力お願いしまーす!」とか出来んやんけ。

 

「どうせ失敗するんだからわざわざ好感度下げるようなことしない方がいいのねー」

 

「てめえまた人のモノローグを勝手にー!」

 

いつの間にか小竜姫さまを宥め終わっていたヒャクメがしたり顔で宣いやがるのでどうやり返してやろうかと思っていると襖が開いてパピリオが入ってきた。

 

「皆してうるさいでちゅよ。おちおち昼寝も出来ないでちゅ」

 

「おはようなのねー」

 

ヒャクメは普通に声をかけるが先程の様子を覗いていた罪の意識か他のメンバーはややぎこちない。ひらめいた!

 

「おおパピリオ、なんかさっきの俺たちの会話ヒャクメがデバガメしてたらしいぞ」

 

「え、ちょ!?」

 

「なんでちゅってー!?乙女の秘密を覗き見るような子に躾けた覚えはないでちゅよペスー!」

 

「俺もそう思って愛する妹のためにヒャクメに折檻しようとしていたんだ」

 

「横島さんも噓と本当混ぜて陥れないでほしいのねー!?」

 

実際うやむやになったが覗きの仕返しをしようとしていたのも事実なので嘘とは心外である。怒りの剣幕のパピリオに思いっきりビビっていたヒャクメだったが俺同様老師たちの説得でしぶしぶ矛を収めた。

 

 

 

夜も更けてきたことでこのまままた小竜姫さまの手料理の晩飯や風呂で小竜姫さまを覗くという一大ミッションに心を躍らせていたのだが、この際パピリオときちんと腰を据えて話がしたいと言われ妙神山を辞することになった。こんな時間からあの山道を下るなんてとんでもないと思ったがジークが転移で家まで送ってくれるとのこと。

 

「絶対また来るでちゅよ?」

 

「おう、美神さんとこのバイトもあるからしょっちゅうって訳にはいかんがまた時間を見つけて来るよ。」

 

パピリオとは再会の約束を交わし、

 

「横島さん。……その、ありがとうございました」

 

「いやいやお礼なんて体d、いえ妹をよろしくお願いします」

 

小竜姫さまにはパピリオの面倒を頼み、(いや別にもっと頼みたいことあったけど首筋の刃の冷たさに日和った訳じゃないぞ?)

 

「妙神山に住んでいる訳じゃないんだからせめてお前が送れよなー」

 

「私はまだやることが残ってるもの。それに送られ狼は怖いのねー」

 

ヒャクメとは軽口を交わしあう。

 

「今度来たときはまた修行をつけてやろう」

 

「デッド・オア・アライブな目に誰が好き好んで飛び込んでいくかー!?」

 

次来るときは老師とバッティングしないようにしないとな。

 

こうして他のメンバーに別れを告げるとジークに連れられ気付いたらアパートの自室前にいた。

 

「それじゃ僕も帰るよ」

 

「おう、パピリオがまた小竜姫さま怒らせそうになったらフォローしてやってくれ」

 

「アハハ……、善処するよ。横島君、僕からもお礼を言わせてもらう。今日は楽しかった!」

 

そう言って再びジークは飛び上がると転移して消えていった。しかしイケメンの笑顔って奴はなんでああも癪に障るかね。そう思いながら玄関へのドアを開けようとすると―――

 

「よ、横島さん?」

 

「あれ?小鳩ちゃん今バイトの帰り?」

 

「ええ、そうなんですけど……」

 

隣人の小鳩ちゃんが顔を青くしたり赤くしながらあたふたしている。いったいどうしたんだと訝しんでいると、

 

「その!横島さんって実は男性でもイケちゃったりするんでしょうか!?」

 

トンデモナイことを言い出した。

 

「ちょ!?小鳩ちゃん一体何を?」

 

「だって今ちょっとかっこいい男性の方と爽やかに別れてましたし以前も目つきの悪い方と朝早くから出て行ってましたし!」

 

「いやいや単に知り合いってだけで俺が好きなのは美人の姉ちゃんだって!」

 

「でもこの間いらしていた女性とはなんだかお笑いみたいな雰囲気でしたし、もし男性の方がいいのなら小鳩は、小鳩は……!」

 

「ちゃうんやー!ワイは清く正しい美人の姉ちゃん好きなんやー!野郎なんざより小鳩ちゃんみたいなかわいい女の子の方が好きなんやー!」

 

「あのその、でもやっぱり小鳩は諦めませんからー!」

 

「だから話聞いてー!?」

 

俺の話を聞くことなく恐ろしい誤解をされたまま小鳩ちゃんは自宅に駆け込んでしまった。いくらノックしても出てきてくれず、明日改めて釈明しようとトボトボと俺も自分の家へと入っていった。

 

翌日小鳩ちゃんの誤解を解くどころか小鳩の純情を弄びよって!と怒りに燃える貧こと小鳩ちゃんの家に憑いている貧乏神の野郎によって学校中に俺がホモであると吹聴されてしまうことになった。

幸い普段の行いのおかげか本気で信じる者は少なかったものの、逆にそれがカモフラージュだったのでは?という憶測も飛び交い非常に肩身の狭い思いをすることになっちまったよ。

まあ幸い誤解が解けて責任を感じた小鳩ちゃんと気の毒に思ったのか愛子が休み時間の度に一緒にいてくれてフォローしてくれたおかげもあってかすぐに噂も立ち消えになったが。

 




この話は昔「蜂の妹」を書いた後すぐに書き始めたのですがあまりにも重苦しく、キャラもなんか違うなって感じにしかどうしても書けなかったので泣く泣くそのままお蔵入りになってしまったものをあれこれ頭を悩ませつつようやく完成させたものになります。
もし当時読んで続きを待っていた方がいらっしゃったら大変申し訳ございませんでした。ご意見等ありましたら御遠慮なく感想欄に書いていただけると幸いです。

次回で最終回ですが元々完成していた前回や曲がりなりにも途中まで書けていた今回と違い、プロットというか構想だけでまだ一切形にはなっていないため今回以上にお待たせしてしまうと思います。それでもよければまたお付き合いください。
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