神の起こす動乱にて俺を成す   作:kanami

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ちょっと試しに。


嵐の前の邂逅にて

「さて、現世にて命を失った君だが」

 

 目が覚めると、目の前には玉座に座る誰かがいた。

 輪郭は曖昧――光っていてほぼ視認できず、聞こえるのは声だけ。男性にも聞こえ、女性にも聞こえる不気味な声は俺に不愉快な感情をもたらした。

 

「大型の車両に轢かれそうになった少女を助けて死亡。死因としてはありきたりだが、生前の君をみるに、その行動はあまりにも不自然だ。まるで、なにかに導かれたかのように」

 

 言われてみればそうかもしれない。俺は誰かを助けるような善性のある人間ではない。その俺が命を賭して誰かを救ったという事実。誰よりも自分という人間を知る俺だからこそ、その不自然さに疑問を持った。

 

「まあしかし、理由などどうでもいいのだよ。自らが言うのはなんだが、これでも私は親切な神様だ。ゆえに、君にひとつチャンスを与えたいと思う」

 

 姿は見えないが、目の前にいるやつが笑っているのがわかる。信じられないほど不快な感情が胸に湧き上がるが、現状が理解できない以上奴の言葉を待つしかない。

 

「君を蘇らせてあげよう。記憶に関しては私が差異なく書き換えておく。そして君はもう一度君として人生を送ることができる。それを、この親切な私がそれを成そう。勇敢にも自らの命を以て儚き小さな命を救った者よ」

 

 こいつは俺のことを知っている。神と名乗るほどなのだから、たかが人一人の性格や心中を掌握していてもおかしくはない。少なくとも、俺の知っている神は複数の命運をたった一つの小石程度の波紋で支配していた。

 

 ああ、だからこそ――俺がこれから放つ言葉もわかるだろう?

 

「俺は、そんなものはいらない。あの腐った世の中はつまらないし、俺は元から死にたかったんだ。だから、いらない」

 

 自由なようで自由でない世界。創作にさえ規制がかかるような世の中で何ができる。なにが成せる。そんな世界に絶望していたからこそ、俺は死にたかった。あの世界で生きていたくはなかった。

 

「確かに君はそう思っていたのかもしれない。しかし」

 

 一度言葉を止めて、奴はまた大きく嗤う。

 

「君は死ななかった。死にたいと心の淵で考えながらも、一度もそれを実行したことがなかった。その気になればいつでも実行できただろう。手を伸ばせば己を切り裂く刃物がある。足を延ばせば首を絞めるロープがある。人は簡単に殺せるのだよ。例えそれが他人でなく己であろうとも。そう、だから……君はその実死にたくなかったのだよ」

 

「そん、な

 言葉を失った。腐った世の中で、俺は生きている価値がないと思っていたはずだ。それが本当は死にたくなかっただと? 死ぬ勇気がないとかじゃない。これはきっと――

 

「そう、君は死を恐れていた。だがそれは恥ずべきことではない。生き物というものは死を恐れるモノだ。例えそれが神であろうともね。誇っていい。君は誰よりも人間らしい。他者よりも自らを優先し、なによりも自らの死を恐れる。それこそ私が愛する愚かしくも美しい人間だと断言しよう」

 

 そう、俺は心のそこで死を恐れていた。死にたいといいながらも死にたくはなかった。世界が欺瞞で溢れていて、生きる場所がないと感じていても、俺は俺の命が大切だったんだ。

 

「私は親切だが同時に身勝手な神でもある。君が嘆き叫ぼうが君は生き返らせよう。だが、それだけではつまらんな。……ならばどうだろう。君に力を与えよう。勿論選択は任せよう。心躍るファンタジーとやらの魔法がいいかね? それとも、拳一つですべてをたたき潰せる肉体がいいかね? さあ、選ぶのは君自身だ」

 

 かけられる言葉に、胸が震えた。こいつの言葉は水のように耳に入ってくる。そしてその内容も魅力的だ。ファンタジーの魔法? 強靭な肉体? 無論それは誰もが欲しがるような力だろう。だけど、矜持ってもんがある。誰かに与えて貰った力を当たり前のように使うような人間でありたくはない。俺が屈折していて、どこかネジが外れている奴だとしても、最低限人間としての矜持があるんだ。

 

「いらない。力を貰えば世界が変えられるかもしれない。だけど俺は、そのままでいい。死ぬのは怖いさ。だけど、それは誰もが通る道だから。いずれまた死ぬならば、俺は腐った世界で生きていくよ」

 

 これが、俺の答え。

 

「ふふ、ふははははははは――」

 

 それを聞いて、神は高らかに声をあげて笑う。

 

「わかっていたとも。君がそう答えることもね。だが、私は親切で身勝手で我儘な神だ。ゆえに、実行させてもらう。そうだな、これがいい。君の敬愛するラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ、修羅道至高天、その力を与えよう。それ以外にスパイスとして他二つを君と世界に足させてもらうおう。なにがあるかは君が再び現世に帰ってからのお楽しみだ」

 

 言葉が途切れると同時に奴の一部が俺に触れた。同時に流れてくるのは神気の奔流。あふれるそれは俺の魂を蹂躙する。耐えがたい苦痛が魂を支配する。凡夫たる俺の器には不相応な黄金が、俺に入ってきているがわかった。

 

「ああ、少し間違えたかもしれん。だが、いいだろう。既に意識も朦朧としているだろうが、これで準備はなった。さあ、楽しませてくれ。新たな君が世界で何を成すかを。そして私はここで君を待とう。再び会うときには、なにもかもが変わっているだろうがね。さあ、行くといい。我が愛する愚かな人間よ」

 

 この言葉を最後に、俺は意識を失った。




神=蛇ではない。
更新は未定。
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