ヘイルストーム   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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ラストメッセージ(2)

 その後何事も無く交代で番をしつつ、睡眠をとり、起床して準備をする。

 これからが本番なのだ。気を抜けるわけも無い。

 そして、出現する可能性の高い場所に隠れ、陣取っている間に、太陽は真上まで昇りきっていた。

 何故出現する場所が特定できるかといえば、これまでのハンターの活躍の集大成だと言えるだろう。個々のモンスターの習性や主食などで、ある程度どこに現れるかが解るのだ。

 

 アルベルトは何か球体に、草を巻いたような物を手の中で準備している――通称、ペイントボールだ。粘着質の草で、ペイントの実と呼ばれる木の実を包んでいる。それが対象にくっついて、更に衝撃で中の木の実が割れることによって強烈な匂いを発する。ある程度の距離までなら、対象の位置を把握できるというなかなかの優れものだ。

 岩影に隠れながら、一行は各自、不備が無いよう物品を点検している。

 

「いいかお前ら、ターゲットが現れ次第、合図に合わせ、全員で急襲する」

「おう」

「うん!」

 

 全員の返事を聞いて、さらに続ける。

 

「俺はペイントボールをぶつけて、後は大剣を振り回してヤツを止める。フェリは矢を射つつ、罠などのタイミングを計ってくれ。状況判断は全てお前に任せる。」

「らじゃ!」

 

 びしっと、敬礼の真似をするフェリアだが、あまりサマにはなっていない。

 

「そして、ヘイルは背後を狙え。一撃一撃確実に当てて、自分が狙われていると感じたらすぐ後退しろ。わかったな」

「……おっけ」

 

 それが、事実上の戦力外通告なのはヘイルにはよくわかっている。――だが、文句は言えないし言わない。

 これはドスランポスのときと違い、二人にとっては生死を賭けた戦いなのだ。……もちろん、ヘイルにとってはドスランポス戦は命がけのものだったが、二人はドスランポスの爪なんかよりよほど硬い装備を身に纏い、ドスランポスの鱗なんかよりよほど硬い武器を使っている。そして、慣れている。

 あの戦いは、二人にとってはキャンプの場所取り以外の何物でもなく、こなせて当たり前の事柄だったのだ。

 

 ――しかし今回は違う。

 

 二人の敵はドスランポスではなく――今から現れる奴がそうなのだ。

 そんな真面目な場面でも自分のことをないがしろにしない二人の優しさはとても嬉しいが、早く強くなろうという欲望も強くさせるのだった。

 

「しっ……、静かに……」

 

 フェリアが口元を押さえるジェスチャーをする。

 ……羽ばたきの音だ。奴が来たのだ。

 

 徐々に大きくなる黒影。そして着地。

 黒や紫といった毒々しい鎧に身を包み、大きなくちばしは見るものを圧倒させる――ヘイルの装備の元である、イャンガルルガだった。

 小声でアルベルトが呟く。

 

「こいつがこんなところにまで現れるようになるとはな……。さて、ここがどんな奴らがいるテリトリーか教えてやるぞ。……1、2、行け!!!」

 

 三人が、三様に走り出す――戦闘開始だ。

 未だ突然の急襲に驚いているイャンガルルガの顔面めがけて、アルベルトがその大剣を振りかぶった。金属特有の、銀のギラリとした光が怪しく輝く。――しかし、まだ振り下ろされない。まるで弓のように、肉体を極限までしならせ、絞って、力を"溜めて"いるのだ。

 

 そして、開放。

 

 めき、と音を立てイャンガルルガの頭に突き刺さる――までにはいかないが、硬い甲殻に裂傷を負わせた。――凄い。ヘイルは背後に駆けながら思う。

 当然にイャンガルルガは目の前に立ちふさがる剣士に攻撃をしようとするが、それは飛来した矢に防がれた。

 攻撃は最大の防御、という諺を体現するように、怒涛の矢が的確にイャンガルルガの弱点を突いていった。

 

 ヘイルは、これらに見合う攻撃をしないと、と大きく剣を振りかぶる。が――

 ガキン、とはじかれてしまう。

 

 しまった、と思ったが別にたいしたことは無かった。イャンガルルガは、ヘイルよりも、他の二人が脅威だと理解しているのだろう。

 ――ヘイルには、視線さえ送られることは無かった。

 

    ◇

 

 狩りは大成功だった。

 

 普通大型モンスターを倒すためには、速くても三日、四日かかるといわれている。

 しかし、彼らの行程は、初日でドスランポス征伐、残りの二日でイャンガルルガ討伐、とほぼ最短とされるものだった。

 

 二日目ではイャンガルルガを弱らせる。その後短い休眠をとり、早朝に奇襲を仕掛け、そこで仕留めた。それもこれも、皆、この村の次期英雄とされるアルベルトとフェリアの活躍によってだった。

 村にたどり着き、歩いて家に帰る途中。

 

「さっすがアル! 大剣なんて担いでるのに、ほぼ無傷で倒せたね!」

「ま、それもお前の援護あってのことだけどな」

 

 二人はヘイルの前を、意気揚々と歩いている。

 皆が、二人の帰りを、自分を含め祝ってくれている。それでも、ヘイルは嬉しい気分にはなれなかった。

 

 結局、アサシンカリンガでは刃が通りにくく、肉質の柔らかいところを狙わなければいけなかったのだが、それも危なくてできなかった。――二人はフォローだってしてくれた。お前の動きは悪くなかった、今回の戦いで得た素材で武器を新調すれば、難なく勝てる相手だ。とのアドバイスも貰った。

 そのときは嬉しがった、――振りをした。

 

 二人とも勝利を喜んでいた、何よりそれを邪魔したくなかった。

 それでも、ヘイルは惨めな気持ちで、胸がいっぱいだった。

 

「よし、今日は派手に飲むぜ!! なあヘイル! ……ヘイル?」

 

 突然後ろを振り向くアルベルトに驚き、少し固まってしまった。

 

「ん、あ、ああ。……派手にやろうぜ! なあフェリア姉」

「……ったくもう。二人ともまたぶっ倒れるまで飲むつもり? 言っておきますけど、今日は止めますからね!」

「んあー、連れないこというなよー、フェリー」

 

 ふん、知らない。と顔を背けるフェリアだが、その表情は後ろからは見えて、とても嬉しそうだった。

 それを見て、ヘイルは苦笑する。――自分のこの惨めな気分も、晒してしまえば二人は自分のことのように悲しんでくれるだろう。アルベルトならば叱責してくれるかもしれない。でも、そんなことで二人の今の気持ちを踏みにじるような真似は、絶対したくなかった。

 

「大丈夫だぜアル。フェリア姉のことだから、俺達がつぶれる前に自分が飲みつぶれるから、今日も変わらず飲み放題だ」

 

 だろうな! もう! あはは。

 そういったやり取りを繰り返すうちに、いつの間にかフェリアの家の前にたどり着いていた。

 

 フェリアに良く似た風貌の中年女性が庭先で何かの作業をしている最中だった。それをみたフェリアは顔をほころばせる。

 

「――母さん!」

 

 フェリアはその人物に駆け寄ると、ふわり、と抱きついた。

 中年女性は、驚きつつもしっかりとその身体を受け止め、満面の笑みを浮かべる。

 

「フェリア! 良かったわ、今回も無事で……」

 

 その優しい声は、フェリアの無事を心底喜んでいることが解る。

 その女性はフェリアに良く似て、綺麗で美しい顔立ちをしていた。……ただちょっとしわの数が最近増えてきたみたいだ。同じブロンドの髪色をしていて、フェリアと瓜二つで違うのは歳だけ、といった風だった。

 

「アル君もヘイル君も、良く無事だったわね。……お疲れ様」

 

 その声もフェリアに似ていて、心に染み渡る。

 

「いや、おばさん、今回は余裕だったぜ。なあヘイル」

「ええ、おばさんの心配するようなことはなにもありませんでしたよ」

 

 うふふ、それはよかったわ、とフェリアに良く似た口調でフェリアの母は言った。ヘイルとアルベルトはその女性に笑い返す。

 そして、何気ない世間話をいくつかした。アルベルトが受けを狙って言ったことがあまりにも面白くなくて逆に笑ったり、フェリアとフェリアの母が二人してとぼけた発言をしたときは、遺伝は恐ろしいな、とアルベルトと話したりした。

 

 ――そして、そろそろ長く話し込んでいるので、自分はここで帰ろうとしたときだった。

 

 そうだ、と思いついたように。世間話の延長線のようにフェリアの母は言った。

 

「そういえば、そろそろ式の準備だったわね」

 

 式……? ヘイルには心当たりは無かった。あまりにも、フェリアの母が普通に言うため、何かイベントでもあるのかと思ってしまう。しかしそれは違っていて――。

 

「――あー、おばさん。ギリギリまで内緒にしとく算段だったのに」

 

 アルベルトが口を尖らせて言った。

 どういうことだ。意味が解らない。

 

「――そうだよ、お母さん。せっかく驚かせようと思ってヘイルには黙ってたのにー、もー」

 

 フェリアも同じように口を尖らせている。それでも、フェリアは頬がにやけている。

 フェリアの母は、あらそうだったの、と穏やかに笑っている。――皆、幸せそうに笑っている。状況が理解できてないのは、笑ってないのは自分だけ。

 

 おい、あいつ気づいてないぜ。うそー。ほんとだって、お前言えよ俺恥ずかしいから。えー、わたしだってー。

 

 彼らのセリフが、理解できない。まるで、脳に入ってくるのを拒んでいるかのように。――頭が理解しようとしないだけだと気づくのに、ヘイルはかなりの時間を費やした。

 そして、唐突に。

 頭の回転が早まって。

 ……式? まさか。

 ――気づいたとき、ヘイルは頭にハンマーの一撃を食らったような衝撃が走った。

 

「――え、っとね。私達。近いうちに結婚します」

 

 恥ずかしさで頬を染めて、フェリアが言った。

 そのセリフを聞いたとき、ヘイルは心の奥底で何かが途切れるような感覚が走った。

 

    ◇

 

 いつの間にかヘイルは自宅のベッドで寝転んでいた。

 親は既に亡くなっていて、ここには自分ひとりが住んでいる。いつもは寂しく思うこともあるが、今はこの静寂が優しくて、嬉しかった。

 

 ……結局どうやってここまでたどり着いたのだろうか。笑ってごまかしたような気もする。ちゃんとおめでとうは言えただろうか。

 そんなことを思っていると、不意に視界が歪む。

 そしてまず、両眼の想像以上の熱さに驚いた。その熱は目の横を伝って、枕に消えた。

 

 泣いているのか、俺は。――ヘイルは思う。

 こんなになるとは思わなかった。俺と違い二人とも、そういうことになってもおかしくない歳なのに、そうなることを一切考えていなかった。――いや、考えなかったのだろう。それほどに自分は――。

 

「……フェリア姉が、好きだったんだ」

 

 口に出して言うと実感が湧き、更に涙が増える。ぼろぼろと零れ落ちて、枕を濡らしていく。

 そういえば、ずっとごまかしてきてたんだ。ずっとずっと、ごまかしていないとどうにかなりそうで、だからずっと自分に言い聞かせていて……。

 

 ――最初は親の付き合いで、あの二人に顔をあわせた。人見知りがちだった俺は、アルベルトにはあまりよくは思われなかったが、それでも根気良く話しかけてくれたのは彼女だった。

 

 走って転んで怪我をしたときも、優しい手つきで包帯を巻かれ、母のように叱ってくれたのは彼女だった。あの時はよくいろんなところに身体をぶつけて怪我を作ったものだった。

 父が死んだとき、自分よりも悲しんでくれたのは彼女だった。

 その後も、急に一人身になった俺を、しっかりと支えてくれていたのは彼女だ――まるで、手間のかかる弟のように、料理を作りに来てくれたり、掃除を勝手にされたり、良く話し相手になってくれたりした。

 

 ――あなたは決して一人じゃないと、強く抱きしめてくれたのも、フェリアだった。

 

 思い出しては、それがあまりにも鮮明な記憶で、自分自身に驚く。

 こんなにも、こんなにも、好きだったんだ。

 

「うぐ…………ぅ、ふっ」

 

 溢れ、流れていく気持ちを、枕に押さえつける。

 これじゃあダメだ。ハンターを始めたって直らないくらい弱虫で、泣き虫で。強くなれって、フェリア姉に言われているのに――。

 

 泣き止め、泣き止め!

 いつもの自分でいないといけない!

 このあと、皆と飲んで騒ぐんだ、だから泣き止むんだ!

 

 嗚咽は止まらない。

 それでもすこしずつ、無理やりに気持ちを塞き止めていく。――その時だった。

 

「――ヘイル?」

 

 部屋のドアノブを持ちながら、フェリアが目を見開いてこちらを見ていた。

 ――しまった、気づかれた。

 

 ヘイルは飛び起きるが振り向かずに、どうにかしてごまかそうとするが、涙はまだ止まらない。

 

「どうしたのヘイル! 何があったの!? どこか痛むの!?」

 

 フェリアが血相を変える。

 いつものように心配してくれる彼女の行動が、嬉しいはずなのに、今は一番痛かった。

 すぐにベットに座っているヘイルに駆け寄ってくるフェリア。隣に座り、真摯な瞳で見つめてくる。

 

「大丈夫……? どうして、泣いているの? さっきも様子がおかしかったし……心配になって見に来たんだけど」

 

 来て正解だったみたいね、と柔らかく微笑んだ。

 その微笑を崩すことなく、フェリアはヘイルに問う。

 

「――ねえ、どうして?」

 

 ずい、と、俯くヘイルの顔を覗き込むフェリア。その力強い眼差しに、ヘイルは心臓の鼓動が速まるのを感じた。

 

「いや……、なんでも。その……」

「いまさら私に隠すことなんて無いでしょ? ほら、悩みがあるなら言ってみて?」

 

 にこにこと、安心させるように笑う。

 それでも、言えないんだ、言えないんだよ。ヘイルは呻く。

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるヘイルに、心配そうな顔を向けるフェリア。

 

「本当にどうしたの? 先に言っておきますけど、聞くまで帰りませんからね。――ほら」

 

 おいで、とフェリアは、いつもしているようにヘイルを抱き寄せた。

 その胸の、深海のような深さと、陽光のような暖かさに、ヘイルは自分の中のわだかまりが溶けていくような錯覚を覚える。

 

 ――暖かい。ヘイルはこの暖かさが大好きだった。

 

 母は、幼く記憶もあやふやなときに死んだ。

 優しかったことは覚えている。……ただ、それだけ。だが、決して忘れることの無い幸せ。

 母が死んだことは、ヘイルにとって悪夢以外の何者でもなかった。毎日毎日泣いて暮らしていたような気がする。

 

 ――しかし、それは父も同じだったのだろう。残った父はハンターで、母が死んでから毎日毎日狂ったようにモンスターを狩りに行っていた。そして、家に帰ってきては酒に溺れ、酔いが醒めるころにまた狩りに出かける……。

 その頃から、ヘイルは父と長く話した記憶は無い。……会話というよりも、質疑と応答だ。そして、父はそのうちヘイルのことを居ないものだと扱い始めた。

 

 酒や賭博に溺れるも、狩りには真面目に行っていたのは……おそらく彼は死にたかったんじゃないだろうかとヘイルは考えている。その死の理由を、狩りに求めていたのかもしれない。

 

 しかし、そんな父も、ハンターとしてではなく――病魔に侵されて死んだ。ヘイルが10歳のときだった。

 

 最後の最後まで彼は他人であり続け、息子であるヘイルを認めようとしなかった。だから、ヘイルにも悲しみは無かった。ただ漠然と、世界に一人きりになってしまったと感じていたのだ。

 ――それでも、母のように包んでくれてくれたのはフェリアの暖かさだ。

 

 フェリアは、母の次に、自分という存在を認めてくれた人だった。いてもいいんだと、ヘイルに説いた人だった。

 そして、ヘイルも彼女に甘えた。

 彼女に相談する。彼女に助けを求める。彼女に……

 ――ヘイルは、思わず動きそうになる唇を止めることはできなかった。

 

「お、俺……、は……」

 

 長い沈黙を壊して、ヘイルは呟いた。涙はいつの間にか止まっていた。

 

 ――言ってしまっていいのか。これまで、築いてきた関係を壊してしまっていいのか。

 しばし逡巡する。しかし――。

 

「……ぅん? どしたの?」

 

 優しい問いかけ。いつもの、ヘイルを落ち着かせる口調。全てを許してくれるような暖かさ。

 ヘイルはその優しい促しに、耐えることはできなかった。

 

「――俺は、フェリア姉……のことが、好きです」

 

 ひゅ、と息を吸い込む音がフェリアから聞こえた。

 構わず、ヘイルは続ける。

 

「ずっと、ずっと前から……、フェリア姉のことが、好きでした。親父が死んでから……、いや死ぬ前から、フェリア姉の優しさがとても、好きで……それで…………それ、で…………」

 

 ヘイルはまるで血でも吐いているかのように内情を吐露し続けた。とても苦しかったが、同時に何もかもが楽になって言っているような、そんな感覚もある。その不思議な心地にヘイルは我慢することができなかった。

 

「……そんな。じゃ……私は…………」

 

 フェリアは驚愕していた。目を見開いて、抱き寄せたヘイルの珍しい頭髪を見つめている。

 恐慌しているのか、フェリアは文脈の整わないセリフを言う。

 

「ご……、ごめんなさい。私、アルが。……いやそれなんかより、私は、ずっと……これまで」

 

 あなたの前で……、とフェリアは消えるような声で呟いた。

 

 ――しばらく部屋は静寂に包まれた。

 

 その中でヘイルは、フェリアの暖かさに、ある誓いを思い出していた。

 ――転んでも、泣いても、自分には負けるわけにはいかない。

 

 この誓いを立てたのはいつだっただろうか、フェリアと最初に会ったときのような気もするし、ここ最近だったような気もする。ただその誓いは、いつの間にか心に芽生えた気持ちを言葉にしただけだ。

 ――フェリアの前では決して、不様なところを見せるわけにはいかない。転んで怪我したって、それで泣き喚いたって、自分自身に負けるところを、ヘイルはフェリアに絶対に見せたくなかった。

 

「フェリア姉……、俺、決めた」

 

 いつしか心の中には、弱い感情がなくなっていた。それもこれも、フェリアが現れてくれたからだとヘイルは思った。

 ヘイルは名残惜しくもあったが、するりとフェリアの腕を抜けると、フェリアをしっかりと見つめる。

 

 彼女は、いつもの優しくも強い眼差しを浮かべていると思っていた。だが違っていた。――まるで、助けを求める子供のように、今にも泣きそうな顔をしていて、ヘイルは驚き、そして悲しく感じる。

 

 ――自分の告白が、彼女をこんなにさせた。

 こんな思いがあったからかもしれない――その言葉が、詰まることなく言えたのは。

 

「俺、次の狩りで――最後にする」

「……え」

 

 呆けたように、フェリアが小さな声で呟いた。

 それに気付かない振りをして、ヘイルは見つめ続ける。

 

「俺、単独(ソロ)でやるよ。ハンター」

「そ……そんな…………」

 

 縋るような目線を送ってくるフェリア。――しかし、ヘイルは強く目をつむって見ないようにした。……決心が揺るがないように。

 本当は、もっとフェリアに甘えていたい。フェリアの暖かさに身を預けていたい。

 

 ――でも、いつまでもそれではいけない。

 

 その強烈な欲望に抗うには強い想いが必要だった。でもそれも今、フェリアから貰った。

 後ろ髪を引かれる思いでおもむろに立ち上がると、フェリアに背を向ける。机にある財布を取っ掴んで、フェリアを置いてヘイルは歩き出した。……そして、ドアの前で一度立ち止まる。

 

「……ありがとう、フェリア姉。フェリア姉のおかげで、俺立ち直れそうだ。――そろそろ酒場に集合する時間だよ、急ごう」

 

 そしてその後、ヘイルはフェリアを振り向くことは無かった。

 

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