幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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今回から秋のお話になります。そして今回はあの酒カスベーシストが登場します。
それとお気に入り160件突破しました。これからもこの小説をよろしくお願いします。



#10 しじみ汁


夏休みが明けてから2週間ほどたち、まだまだ厳しい残暑が残っている9月の中頃。

季節の変わり目なのか、夕方になると少し肌寒くなってくるような、そんな季節だ。

今日は虹夏が委員会で遅くなるから2人で先に帰っててくれと言われたのでリョウと2人で帰っている。

 

「今日はご飯大丈夫」

 

「わかった。けど珍しいな、お前がそんなこというなんて」

 

「誕生日のお祝いで焼肉食べに行く」

 

「へ〜、どんな感じの?」

 

「ここ」

 

そういってリョウが見せてきたのは都内の高級焼肉店の写真だった。コース料金を見ると諭吉数人分もする料金で、彼女がいかに親から愛されているかが伺える。

そろそろこちらもプレゼントとかを用意しなきゃな......。

 

「楓も来る?きっと親も歓迎してくれる」

 

「いいよ、気持ちだけ受け取っとく」

 

「そう……。じゃあね、あとから後悔してもしらないよ」

 

少し鼻につくような言い回しの言葉を残してリョウは彼女の家の方向へと歩いていった。

となると今日は久しぶりの一人飯になる。精一杯美味しいものを作って自分にご褒美を与えようと思い、鼻歌交じりでスーパーに向かい、あっという間に買い物を済ませた。

買い物を済ませたあと、少し寄り道をしようと思い、家の近くの公園によった。この公園は4月にリョウを拾った公園で、彼女曰く美味しい雑草(山田調べ)があるという。だからといって公園で倒れないで欲しいと思っていたら...

 

 

倒れてる大人の女性を見つけた。

 

 

倒れている人を見過ごせなかった俺はすぐさまその人に声をかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「み、水を、水をください...あとしじみ汁を...」

 

「しじみ汁はないですけど水ならありますよ」

 

注文が多いと思いながら俺はカバンから水が入ったペットボトルを渡す。

にしてもこの紫色の髪の毛、キャミソールワンピースに黒と白のスカジャンのこの謎コーデ、どこかで見たような気がする……。

 

「ありがとー!!」

 

「どういたしまして……」

 

まるで生き返ったかのような顔をして水を飲むお姉さん。

お姉さんからは独特なお酒の匂いがしていて、その匂いで俺はこのお姉さんの正体にすぐに気づくとともに、俺はやばい人を助けてしまったと勘づいた。

 

「あれ?伊織じゃん!元気してた〜?」

 

「伊織じゃなくて楓ですよ、きくりさん」

 

「え〜?あ〜、そうかも。似てるから間違えちゃった」

 

この俺と姉を見間違えたお姉さんは廣井きくりさん。

姉の大学時代の同期で、姉とはかなり仲が良く、姉が八丁堀に引っ越す前はよく家にも来ていた。

ただこの廣井さん、かなりの大酒飲みで姉と家でよくお酒を飲んでは酔っ払ってよく俺や妹の部屋で勝手に寝たりしていて俺や妹、母を困らせていた。

 

「大丈夫ですか……?そうとう酔ってましたけど」

 

「あ〜全然、大丈夫だよ。そういえば楓くん、今いくつ?」

 

「来月の24日で16になります」

 

「お〜、おっきくなったね〜。じゃあ楓くんの成長を祝してもう1杯〜!」

 

そういって懐からおにころを取り出して豪快に飲むきくりさん。だがしかし、さっきまで道で倒れていた人が急にお酒なんて飲めるはずもなく...

 

「お、おぼるるぅおえぇぇぇ...」

 

ナイアガラの滝もびっくりするような勢いで公園にきくりさんは思いっきり吐いてしまった。

 

「なんですぐに飲むんですか?ほら、地面じゃなくてこっちに...」

 

カバンから急いでビニール袋を取り出してきくりさんに渡して、俺は地面にぶちまけられた吐瀉物を処理した。

 

 

 

 

「いや〜、迷惑かけたね〜」

 

「落ち着いたならそれはそれで大丈夫ですけど、なんでここで寝てたんですか?」

 

「あ〜、昨日ライブの打ち上げでハシゴ酒しててね、1軒目が赤羽で、2軒目が新橋で〜......3軒目からはなんも覚えてなくて、それで気づけばここにいたって感じ」

 

覚えてないということはそうとう飲んでいたのだろうし公園で酔い潰れているのも無理はないし、さっきから俺の鼻を突き刺すような酒臭さもそれを物語っている。

きくりさんは新宿を拠点にバンド活動をしていて、ベースボーカルを務めている。

そんなきくりさんはベースのことを命より大事な私の魂とよく言っていた。

 

「ていうか打ち上げから流れ着くようにここに来たんならなんでベース持ってないんですか?」

 

「え? あ、どっかに忘れちゃった〜」

 

安い魂だなオイ。

 

「忘れたってことはもしかしてきくりさん幽霊にでもなったんですか?」

 

「バリバリ生きてるよ!?」

 

「まぁ、それはそれとしてどこに忘れたか覚えてないんですか?」

 

「全然覚えてないや! お願い楓くん!明日一緒に探して!」

 

「嫌ですよ……。明日学校ですし」

 

「え〜ん、ひど〜い!」

 

明日が休みの日ならまだしも、学校サボって酔っ払いとどこにあるかわかんないベースを探すのは普通に酷なんだよ。

 

「じゃあ俺はこれで…… 飲み過ぎには気をつけてくださいよ」

 

「うん、じゃあね〜」

 

公園を出ようとしたその時──

 

ぐぅぅぅぅぅ〜

 

 

きくりさんからお腹のなる音がした。

まずい、逃げなくては......。

リョウならまだしもこの人まで家にあげたら大変なことになる。ここは引っ込んでくれ、俺の良心......!

 

「楓くん......ご飯作って......」

 

「え?あ、あの......今日は……」

 

断れ、俺。申し訳ないけど断るんだ下村楓ェェッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、わかりました」

 

結局良心には勝てませんでした。

 

 

 

 

 

 

公園から家に帰り、きくりさんを家に入れた。あまりの酒臭ささに耐えられなかった俺はすぐにシャワーを貸した。

 

「楓くんも一緒に入る?だいぶ汗かいたでしょ」

 

「入りませんよ。着替えここ置いときますね、俺はご飯作ってるんで」

 

磨りガラス越しにきくりさんと会話を交わして、着替えをおいてキッチンに戻った。

今日は元々簡単なお惣菜で済ませようと思っていたが、客がいる以上全部お惣菜というわけにはいかなくなったので俺は冷蔵庫を漁ることにした。

みょうがに青ネギ。これなら冷や奴ができるから使うのは確定としても、それでも一品足りない気がしたのか、冷蔵庫をさらに探す。

しばらく探しているとしじみが出てきた。ちょうど味噌も見つかったので、俺はもう一品としてしじみ汁を作ることにした。

しじみをしっかり塩水で砂抜きして水洗いし、鍋に水と昆布、砂抜きをしたしじみを入れて火にかける。

5分ほど経ってから沸くくらいの火加減でじっくりと昆布としじみの旨味を引き出す。

アクを取り出したら火を一旦止めて昆布を取りだし、料理酒と味噌を入れる。

 

「ふぃ〜、シャワーありがとね〜」

 

「いえいえ」

 

料理酒と味噌を入れてふたたび火をつけるときくりさんがシャワーからでてきた。

すると、テーブルに置いてあったおにころを1つあけ、風呂上がりの牛乳を飲むかのように豪快に飲み始めた。

 

「ぷはぁ〜! 風呂上がりのおにころうめぇ〜!!」

 

「もうすぐご飯できるんで飲むのやめてくださいよ」

 

「え〜?いいじゃん、食前酒ってことでさ〜」

 

「いやさっき盛大に吐いたじゃないですか!」

 

「え?そうだっけ?まあお姉さんの肝臓は強いから心配しなくて大丈夫だよ」

 

きくりさんの酒癖の悪さに俺はドン引きしながらしじみ汁をお椀によそい、次に冷や奴を作る。

まずネギとみょうがを小口切りにして、豆腐をパックから取り出してお皿に乗せ、そこにネギとみょうがにしょうがとおかかをのせれば、冷や奴も完成。

 

ご飯ができたことをきくりさんに伝えるとその頃にはもう完全にお酒が回っていて、少しふらつきながら椅子に座った。この様子から察するにきくりさんはさっき公園で見かけた酔っ払い状態に逆戻りしていたのだ。

 

「いただきます(いただま〜す!!)」

 

さっそくしじみ汁を口にする。

特に味見をせずに作ったが、ダシが効いていてかなり美味しく仕上がっている。

 

「んあ〜沁みるねぇ〜!これでお姉さんのお酒もどんどん進むよ」

 

「あんまり飲みすぎてここでも吐かないでくださいよ?」

 

お酒を飲み過ぎないようにしてほしいとは思うが、お酒が進むといっているということは相当気に入ってくれてるのだろう。

 

「冷や奴も美味しいしおつまみのセンスもいいしほんと楓くん料理うまいね〜」

 

「冷や奴はみょうがとネギを切っておかかを乗せて醤油たらしただけですよ」

 

「いやいや、そんなことないって。こんなにおいしいものつくれるんだったらきっとモテるよ。いや、もうすでにモテてたりして〜」

 

きくりさん、その言葉彼女いない歴=年齢の俺にはかなり大ダメージなんですよ......。

きくりさんの何気ない言葉にダメージを食らっているとリョウからロインが来た。

焼肉を楽しんでる様子の自撮りとともに一言寄せられていた。

 

『いぇーい』

 

『#彼女と焼肉デートなうに使っていいよ』

 

悪意はないんだろうけどタイミングのせいかとてつもなくイラッとする......。

 

『楓ならこれからこの写真使う機会多くなるかもね』

 

今度あったとき顔面にグーパン食らわせてやりたい。

 

 

 

 

「ふぃ〜、食べた食べた〜」

 

ご飯を食べ終えるときくりさんはソファで横になっていた。

食器を洗い終える頃にはこちらの目のやり場に困るようなだらしない格好で寝ていた。

見えちゃやばいものも見えてるんだけど……。

今はこんなにだらしない大酒飲みのきくりさんだが、昔はよく姉の後ろにいた少し内気で人見知りな人だった。

 

「おねーさんそれ何?」

 

「ひゃうっ!?え、あ、こ、これね、ベースっていってねギターと似ているけど......こういう低い音が出るんだよ」

 

「へー、すっげぇ!俺も弾きたい!」

 

「あ〜、いいよいいよ教えなくて。こいつガキだから廣井が教えてもわかんないって」

 

「は?ガキってなんだよ!」

 

きくりさんのベースに憧れて教えてもらおうと思ったら姉に止められたことを思い出す。

その後何とか頼み込んでギターを2人に教えてもらったのも含めいい思い出だ。

あれからアコギを姉に貰い、独学でコードや奏法をまなびリョウやひとり並までとはいわないが、それなりに上達した気がする。

 

「んぇ〜、楓く〜ん、今何時〜?」

 

そんなことを思い出していたらきくりさんが目を覚ましてきた。

時計を確認すると既に10時を回っていて、それを伝えるとまた眠ってしまった。そしてそれに追従するかのように俺にも眠気が襲いかかってきた。とりあえず今日はこのまま寝てかせておいて、明日になったら帰ってもらおうと思い、俺は部屋で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

翌朝、いつもより少し早く目が覚めた俺は2人分のパンを焼き、コーヒーを入れた。

夏休みに入ってからリョウに朝ごはんも作るようになったため、2人分の朝食を用意するのは容易い。

 

「きくりさ〜ん、朝ですよ〜。起きてくださ〜い」

 

「ふぇ〜。楓くんおはよ〜。あ、もしかしてお姉さんにエッチなことしようとしてた?」

 

「寝起きの女性を襲う趣味は持ってませんよ。そういうコトはこう……段階を踏んでするものじゃないですか……って何言わせてるんですか!?」

 

「楓くんが勝手に口走っただけでしょ。でも楓くん、そう言うってことはもしかしてチェリーボーイでしょ」

 

「……っ!もう朝飯出来てるんでとっとと食べて食べてください」

 

「は〜い」

 

なんでベーシストはこうも変な考えを持ってる人が多いのだろうか。

軽く朝ごはんを食べたあと、制服にファブ○ーズをかけて酒臭ささを消してきくりさんと一緒に家を出た。

 

そして、いつも通りリョウと虹夏と合流し学校へと向かう。

 

「2人ともおはよう」

 

「おはよ〜」

 

「おはよう……。ん、楓、なんかうっすら酒臭い」

 

嘘だろ、ファ○リーズでも消えないなんてそんなことあるのか?

 

「もしかしてお酒飲んだの?」

 

「飲んでねぇよ」

 

「ま、まだ引き返せるから戻ってきな?」

 

虹夏に事の顛末を話すと「あ〜、あの人か…… 災難だったね〜」と納得してくれた。

 

一方リョウは──

 

「大丈夫、楓が警察沙汰になっても私と虹夏は友達でいてあげるから」

 

「だからやってねぇっての」

 

そういって一日中、いろんなタイミングで茶化してきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




今回地の文が若干長めになっちゃった...
1年生編も折り返しに突入したのでこれからのお話も楽しみにしていただけると幸いです。

評価、お気に入り、感想、アドバイスなど頂けると作者のモチベと筆のスピードが上がるのでぜひお願いします。
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