幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
文化祭が終わってから私はいろんな人に話しかけられるようになった。
いつからベースやってるとか好きなベースのフレーズは何だとかいろいろ聞かれる。
私のベースの魅力が広まっていくのは実に嬉しい。だけど私よりももっと話題になってる人がいる。
「ねぇねぇ、最近隣のクラスの下村くんかっこいいな〜って思うんだけどどう?」
「ギターも歌もめちゃくちゃ上手いしそれにちょっと可愛くも感じるけどかっこいいあの顔!すっごくいいよね〜」
「しかもそれでいて優しいんでしょ?あ〜、あんな彼氏が欲しい〜!」
私よりも話題になってるのは楓だ。楓はギターボーカルをやってたしみんなの注目がそっちに行くのは致し方ない。
にしても違和感がすごい。
中学生の頃は全然モテなかったのにひとたびステージに出るだけで楓がこんなになるなんて思いもしなかった。
「でも下村くん彼女とかいたりして……?」
「確か坂戸さんだっけ?最近よく話してるよね」
坂戸……そんな子いたっけ?いや、いた。私のクラスの学級委員をやってる子だ。
ちょっと待て彼女?
いやいや、楓だったら私と虹夏に何かしら報告するはず。それにあの楓だ。彼女なんて出来るはずがない。
あとこのなんかモヤモヤというか、焦るような感じたことの無い気持ちはなんなんだ?
そんな感情を抱えながら隣のクラスへと私は向かった。
「そういや普段お前どういう飯作ってるのか?」
「確かに!気になるかも!」
教室に入ると坂戸と楓の友達みたいなのが楓と話していた。
「普通の料理だよ、ハンバーグとかカレーとか」
坂戸、なんかすごい興味津々に聞いてるしなんかスマホでメモ撮ってる……
あと楓もなんかニヤケながら話してるな。
よし、ちょっとイタズラしよう。
「普通の料理だけど毎日食べていて私を飽きさせないくらいに美味しい」
「まあ、リョウの言う通り……ってリョウ、お前いつの間に……!」
驚く様子を見せる楓に顔を真っ赤にする坂戸。
これは効果バツグンといってもいいだろう。
楓の作るご飯はとても美味しい。その事実を元にこんなに効果があるイタズラを思いつくなんて、やはり私は天才なのかもしれない。
「やっほー。あれ?坂戸顔赤いけどどうしたの?」
「あわ、あわわわ……」
それにしても坂戸のリアクション、なんか面白いな。もうちょっと続けるか。
「もうあれなしではいられなくなるくらい、絶品///」
「あ……え……」
完全に顔を真っ赤にしてフリーズした坂戸。
その様子に私は満足して教室を後にした。
昼休みが終わって午後の授業に入っても坂戸はこちらを見る度に顔を真っ赤にしていた。
ちょっとやりすぎたかもしれないと思っているうちにあっという間に午後の授業は終わった。
「お前マジで余計なこと言うなよ……」
「私は思ったことを言っただけ」
「イタズラはよくないけど……まぁ、楓の作るご飯は美味しいってのは事実なんだし、誤解も解けたんだから別にいいじゃん。気にしない気にしない!」
学校から最近バイトを始めたスターリーへ移動してる途中、楓に怒られた。
私の思ったことを元にした天才的なイタズラをして何が悪い。鼻の下少し伸ばしてたくせに。
「まぁ、美味しいって言ってもらえるのはありがたいんだけどさ……。ほら、普段のあれはたから見たら同棲してるカップルのそれじゃねぇかよ……」
「まぁ、確かに。でも、あれでしょ?前確か楓ってあたし達のこと恋愛対象じゃないって言ってたよね?」
楓が私と虹夏のことを恋愛対象にしてないって言ってたのは高校に入ってから日が浅い頃の話だった。
「そういや楓っていつになったら彼女作るの?」
「なんだよ急に……。まぁ、そのうちかな」
「中学の頃から彼女欲しいとか言ってたけどな〜。さすがに文化祭までには作れそうじゃない?ちょっと口悪いけど意外と顔いいし」
「なんかバカにされてる気がする。ってか虹夏の言う通りだったら今頃俺は可愛い彼女と弁当でも食べてんだろうな〜」
「彼女じゃないけど可愛い私と弁当を食べれてるからOKでしょ」
「いやいや、そういう話じゃないんだよな〜」
「ちょっと待って。もしかしてあたし達ってノーカンなの?」
「え、うん。ノーカンに決まってんじゃん。ってかお前ら女子だったn……痛い痛い冗談だからごめんごめん!」
楓が私と虹夏をおちょくって頬をつねられてるのは見てて面白かったな。
そんな面白い一幕を思い出してると焼き芋を売っているトラックがお馴染みの曲を流しながら通りかかった。
「ちょっとまってて、焼き芋買ってくる」
そう言って楓は焼き芋を買いに行った。
私はベンチに座って奢ってほしいという念を送ってみるが効果はなし。
昼休みのことを相当根に持ってるみたいだ。
しばらくして焼き芋が入った袋を抱えて楓が虹夏と一緒に戻ってきた。
「はい、虹夏。お前の」
「ありがと」
焼き芋を食べる虹夏の姿を子供みたいとからかう楓とそれに対して「誰が子供だよ」とつっこむ虹夏。
そんな二人が持っている焼き芋からは甘い香りが漂う。
食べたくなってきたな。半分頂戴という念を楓に送ったその時、急に冷たい風が吹いてきた。
「うおっ、寒いな」
「や〜、冬が近づいてるね〜」
「寒い、このままだと凍えてしまう」
冬の近づきを知らせるような北風に私は少し震える。
こんな寒さならたぶん焼き芋を分けてくれるだろう。
「ほら、半分やるよ」
「ありがとう。楓なら分けてくれると信じてた」
やっぱり楓は優しいな。そう思いながら分けてもらった半分の焼き芋を口にする。
焼きたての温かさと芋の甘みが体に沁みる。
しばらくして焼き芋を食べ終えた私たちはバイト先へと歩き出した。
「そういえば最近お姉ちゃんラブコメ系のラノベ読み始めてさ」
「へぇ、星歌さんが。意外だな」
「告白シーンかなんかを読んで〜『こんな青春送りたかった〜』ってすっごい大泣きしてたんだよね〜」
「面白いなそれ」
虹夏の話を聞いて楓が笑った。
それを見ているとなぜだかさっき学校で抱いたあの感情が再び沸き起こってきた。
歩きながらその感情の正体を探るべく考えているとあることを思い出した。
前にいたはむきたすで作った曲の中には青臭い青春ラブコメ系の曲があった。その曲の内容は幼馴染に恋する女子を歌ったものだった。
意中の相手が他の女子と話してるところを見て嫉妬するようなフレーズがあった。
ということはさっきのあの感情の正体は嫉妬っていうことになる。
そして楓がらみのことでこんな感情を抱くということは私──
楓のことが好きなのかな。
いやいや、楓は私のことを恋愛対象外って言ってた。それに私も楓のことは恋愛対象外なのになんでこんなことを考えているんだろうか。
自分の中に芽生えだしたなにかに困惑しながら私は夕日に照らされている道を二人とスターリーへと向かって歩きつづけていく。
タイトル変更は
-
してもいい
-
しなくてもいい