幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
一年の最後を締めくくる日、大晦日。
世間は年の瀬というのもあってか、いつもよりも一層忙しない。
もちろん俺も同様で、今日は朝から家やその周りを掃除して、家の中に鏡餅、玄関前に門松を飾るなど、まるで旧暦の師走という名がピッタリ当てはまるような、そんな忙しい一日を送っている。
「ねぇ、リョウ」
「ん?なに」
「今日は朝から俺は大掃除をして家の中に鏡餅とか、玄関前に門松を飾ったりとかしてるけどさ」
「うん」
「まさか、今日1日何もせずこたつに入って年を越そうなんて思ってないよな?」
「いや、何もしてないわけじゃない」
「じゃあ何を?」
「一生懸命雑巾がけしている楓をみかん食べながらこたつから応援した」
「応援でもなんでもねぇだろあんなの」
そして今日は大晦日だというのに家にはリョウがいる。
大晦日ぐらい家族で過ごせよと思ったが、どうやらリョウの両親は仕事でいないらしい。
彼女の家は病院を経営しているため、大晦日だろうと休みはない。
「それに客であり主人でもある私を働かせるのはよくないと思う」
「ほぼ毎日家に来てるくせにどの口が言ってるんだよこの金欠ベーシスト」
「褒めおさめにはまだ早いよ……」
ああ、今すぐこいつをこたつから引きずり出したい。
というかよく人が掃除してるのをみて手伝おうとか思わなかったな。
「あのね、今日彩乃が久しぶりに帰ってくるのよ。さすがにお前のその醜態を見せたくないんだよ」
「へ〜、彩乃帰ってくるんだね」
彩乃というのは俺の妹のこと。
4月に地方の中学校にスポーツ留学して以来会っていないので今日がおよそ9か月ぶりの再会になる。
そしてそんな妹が帰ってくるというのにリョウはお構い無しのようだ。
「それに今日は大晦日だし、長距離移動で疲れた彩乃のためにも年越しそばにしようと思ったけど……」
「うん」
「お前は抜きね。俺と彩乃が美味しそうにそばを食べるのを眺めてるといい」
「そんな、殺生な」
「そばが食えないのが嫌なら買い物を手伝え」
「それは無理。こたつが私を離してくれない」
「買い物行ってもこたつは逃げないから。ほら、行くぞ」
「寒い寒い!」
こたつからリョウを引っ張り出して、俺とリョウは家を出て、買い物をしにスーパーへと出かけることにした。
スーパーで蕎麦と天ぷら、かき揚げを買って、予約しておいたおせちを受け取って家に帰ってきた頃には時刻は既に6時を回っていた。
彩乃が帰ってくるのも6時くらいだったしそろそろだろうと思っているとドアチャイムがなった。
ドアを開けると、大きめのボストンバッグを手に持っている彩乃がいた。
「久しぶりだな、彩乃」
「うん。ただいま楓兄」
「外だいぶ暗かっただろ?とりあえず中入りな」
「は〜い。あれ?靴が2足あるってことはお母さんも帰ってきてるの?」
「いや、これはリョウのやつ。母さんは明日帰っt……」
「え!?リョウさん来てるの?」
「おい、靴はちゃんと脱げ!」
リョウが家に居ると知った途端、彩乃はテンション爆上がりしたかのような表情になり、靴を脱ぎ捨てリビングへと駆けていく。
そう、彩乃はリョウをものすごく慕っているのだ。
中学生の頃、たまに家にリョウや虹夏が遊びに来ることがあったのだが、そのときはいつもリョウにベッタリくっついていた。
「すっごい!文化祭で楓兄とバンド組んだんだ!!」
「うん。彩乃もロックの道に進むといいよ」
2人のガールズトークが盛り上がるのを見ながら俺はそばを茹で始める。
茹で上がったら、どんぶりに盛り付けて次はかけつゆを作る。お茶のパックにかつお節を15g程いれ、そこに醤油とみりんを50mlずついれて鍋で煮ていく。
ひと煮立ちしたらどんぶりにかけつゆを注ぎ、かき揚げとねぎ、三つ葉、大根おろしを乗せ、年越しそばの完成。
「はい、おまちどうさま」
「おぉ〜!美味そ〜!!それじゃ、いただきま〜す」
「いただきます」
こたつに年越しそばを置くと2人はすぐにそばを食べ始めた。
妹は長旅でお腹を空かしていたのか、とても美味しそうにそばを啜っている。
「はへでひいひょうひふほくふはふはっへふ!(楓兄料理すごく上手くなってる!)」
「楓は私にこういう美味しいごはんを毎日作ってくれる」
「へ〜、毎日作ってるんだ」
「最近は朝飯も作るようになったよ。結構手がかかるけどな」
「いや、私は人間ができてるから手はかからないと思う」
すぐにジュースをたかったり人の家に勝手にものを置いていくのにそんなことを堂々と言える自信は尊敬するよ。
そばを食べ終えてどんぶりを洗い終わり、俺はまたこたつへと入ってみかんを食べながらテレビの特番をぼーっと眺める。
この1年、思えば自分の周りの環境は大きく変化した。
高校生になったというのもそれはもちろんなのだが、やはり一人暮らしをすることになったことが今までの自分を根本から変えていった。
まさかリョウにご飯を作るようになるなんて思わなかったがリョウのおかげで人に美味しいと言ってもらえる料理が作れるようになったことに成長を感じる。
「そういえば、さっき毎日ご飯を作ってるって言ってたけどさ」
みかんをつまみながら、彩乃が俺に話しかけてくる。
「そうだけど、どうした?」
「もしかして───
──楓兄とリョウさんって付き合ってるの?」
は?何を言っているんだ、俺の妹は。
妹の何気ない一言で俺は動揺し、場は凍りつき、ただテレビの音だけが流れる。
「だって毎日ご飯作ってあげててさすがに友達のままってなんか変じゃない?」
年頃の中学生のことだ。そういう話題に興味を持つのも無理は無い。
でも付き合ってるということは事実では無い以上否定しなくてはならない。
「な、何言ってんだよ。俺に彼女なんているわけないだろw」
「あ〜、やっぱ楓兄だしいるわけないよね」
とりあえず否定することはできたが調子が狂う。
今までリョウと虹夏、2人と過ごしてきた十数年の間、異性としての好意を抱いたことなんて1度もなかったしそもそも二人は恋愛対象外だ。けれど、夏休みの花火大会のときにリョウが綺麗だと思った。というか料理番生活を始めてからリョウのことを綺麗だなと思うことが増えてきた。
なんだろうな、この気持ち。あと、なぜリョウは付き合ってもない異性の家に泊まるのだろうか。
俺はしばらく考えることをやめ、テレビを見ることに没頭することにした。
テレビを見ているうちに時刻は11時58分を回っていた。
いつの間にか彩乃は寝ていて、俺とリョウは何も言葉を交わさずにテレビを眺めていた。
『──年が明けるまで、残り1分となりました〜』
テレビ越しにアナウンサーが全国各地の様子を伝えながら、テロップにはカウントダウンタイマーが映っていた。
「もうすぐで年が明けるな」
「うん、明けるね」
1年の終わりをリョウと共に過ごすのは去年の今頃からしたら、とても考えられないことだろう。
「今年一年、ご飯作ってくれてありがと。来年も期待してる」
「こっちこそ、なんか世話になったな」
一人暮らしを始めて、最初のうちは家族がいない寂しさがあったが、リョウにご飯を作るようになってから、特にここ最近は寂しさは少しも感じていない。
そこに関してはリョウには感謝しかない。
『──5、4、3、2、1……あけましておめでとうございます!!』
テレビのカウントダウンが終わり、年が明けた。
年が明けるとともに外からは花火の音や除夜の鐘の音が聞こえてくる。
「あけましておめでとう、楓」
今、この瞬間にふさわしい言葉をリョウが俺に告げる。
ならば、こちらも伝えようではないか。
「こちらこそ、あけましておめでとう。リョウ」
次回、「初詣の甘酒」
今週もう一本短めの話を投稿出来たらと思ってます(できるとはいってない)
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誰にご飯を作る?
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