幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
今回はアンケートでいちばん多かったぼっちちゃん回です。
年が明けてからもバイトに学校、リョウに料理を作る毎日は変わらない。そんな日々を過ごしているうちにあっという間に三週間が過ぎていった。
そして、昨日から学校は入試休みに入り、リョウは──
「家族で旅行に行ってくる」
「いってらっしゃい」
「お土産はいいものを買ってくる」
家族旅行に出かけるため、しばらく家に来ない。
といっても家に一人でいる訳では無い。
「わわわわ私なんかが秀華高受けてすみませんんん!!!」
「家から出てすらないのに謝ってどうすんだよ」
従妹のひとりがいる。
普段は金沢八景に住んでいるが、秀華高を受けるため、俺の家に一昨日から泊まりに来ている。
ひとりの家から秀華高までは片道で2時間かかる。それに2日連続で朝早くに家を出て片道2時間の道のりを行くのはなかなかハードスケジュールなので、俺の家に泊まってくるよう、ひとりの両親が言ったらしい。
「きっと面接で”陰キャがイキって受験したで賞”で○刑になるに決まってる......!!」
「なんで褒められるはずの賞で○刑になるんだよ」
これからひとりは面接を受けに行く。しかし、極度の人見知りと緊張が合わさっているのか先程からネガティブな発言を繰り返している。
「昨日の筆記試験、結構出来が良かったんだろ?大丈夫だって」
「うぅ......」
「今日の面接は高校に行くための通過点なんだから、早く行ってこい。じゃないと遅刻するぞ?」
「あ、ああああ......」ツチノコヘンゲ
「ツチノコになってないで早く行きなさい」
「う、うん。でもオシャレな下北に私みたいな陰キャが歩いてたら......」
「はぁ......。じゃあ一緒に秀華高まで行ってあげるからそんなこと考えるな」
なんとかひとりを元に戻して、一緒に秀華高へと向かう。道中、「怖い!!社会が怖いい!!!」や「私みたいなのが下北にいてごめんなさい......」と独り言を呟いていたが、俺は気にせずひとりを秀華高に連れていった。
「それじゃあ、頑張ってね」
「うん......」
「大丈夫。ひとりならきっと行けるから」
「私なら......。えへっ、えへヘヘ......」
門の前で少し、ひとりを励ますと彼女は微笑みながら中へと入っていった。
少し猫背なその背中にはいつもとは別人のような、覚悟の決まったようなオーラが漂っていた。
ひとりを見送ったその足でスーパーに今日の夕飯である唐揚げの材料を買いに行く。
唐揚げはひとりの好物だ。そんな唐揚げは受験を終えた彼女のご褒美には最適だと思う。ご褒美と言うからには美味しいものを作らなければならない。
これから俺が買う唐揚げの材料は鶏肉と小麦粉と片栗粉の3つ。
まずは鶏肉。唐揚げは基本、鶏もも肉で作るものか、鶏むね肉でつくるものの2種類に分かれている。鶏もも肉の唐揚げはふっくらとしていてジューシーな味わいになっている。鶏むね肉の唐揚げはあっさり淡白な味わいが特徴だ。
鶏もも肉でも鶏むね肉でも唐揚げの作り方は変わらない。しかし鶏むね肉は加熱しすぎるとパサつきやすくなってしまうため、今回は鶏もも肉を買うことにした。
次に小麦粉と片栗粉。
美味しい唐揚げといえばやはり衣も重要になってくる。卵を使ってふんわり厚みのある衣もあるが、卵は使わずに小麦粉と片栗粉のみで衣を作ることでサクッとした食感にすることが出来るのだ。
ちょうど小麦粉と片栗粉を切らしていたなと思い出したり、美味しく作るならこれを入れようと考えながら買い物はかなり楽しい。俺は軽い足取りで次々と唐揚げの材料をカゴに詰めていく。
会計を済ませてスーパーを出て、スマホを確認する。するとひとりからロインが来ていた。
『終わったから迎えに来てください』
行きがあんな感じだったし、帰りもそうなるだろう。俺は唐揚げの材料が入ったレジ袋を手に提げてひとりを迎えに秀華高へと向った。
秀華高に着くとそこにはやりきったような顔をしたひとりがいた。
「受験、お疲れ様。よく頑張ったな」
「あ、うん。ありがとう……」
面接が上手くいったかは分からないが、顔を見るかぎり、きっと大丈夫だろう。
家に戻ると、ひとりは荷物をまとめ始めた。
どうやらご飯を食べ終わったら金沢八景に帰るらしい。
俺は支度をするひとりを見ながら唐揚げを作り始める。まずは鶏もも肉の下処理。スジや黄色い脂肪の塊は食感や香りを悪くしてしまう。
なのでこれらは早めに取り除くことが大事だ。
下処理をしたら次は鶏もも肉に下味を揉み込む。ボウルに鶏もも肉を入れて、そこに塩とコショウ、おろしにんにくとおろし生姜、料理酒と醤油の順に、それぞれを加えるたびにしっかりと揉み込む。料理酒と醤油を揉みこんだら5分置いて、最後にごま油を軽くまぶす。ごま油をまぶすことで下味と肉の旨味を閉じ込めてごま油が香る仕上がりになるのだ。
下味をつけたら次は衣づけ。小麦粉を下味を揉み込むのと同じように鶏肉に加える。こうすることで小麦粉が下味の調味料を吸って鶏肉に密着するようになる。片栗粉は表面にまぶす程度に加えて、フライパンに唐揚げが浸かるくらいの量を引く。
だいたい160度くらいの中温になったら、衣が剥がれないように優しくフライパンに入れる。
一度だけ肉をひっくり返して3分ほど加熱したら一旦取り出して油を切り、3分ほど置く。その間に火を止めて再加熱の準備をする。一度取り出すことでゆっくり余熱で加熱し、肉の硬化を防ぐことが出来るのだ。
3分ほど置いたら今度は180度くらいの高温でサッと加熱する。
菜箸で一度から二度、唐揚げを回転させて、こんがりきつね色になった唐揚げから順に取り出したら、唐揚げの完成だ。俺は2人分の皿にそれぞれ盛りつける。
盛り付けるときにごま油の香ばしい香りがキッチンを漂う。ひとりもその香りを感じたのか、少し笑みがこぼれていた。
たがしかし、皿が茶色だけだとなんだか味気ない。そこで俺は冷蔵庫からキャベツの漬物とレモンを取り出した。キャベツの漬物は青じそのドレッシングを漬けたもので、さっぱりとした味わいになっている。
キャベツの漬物とレモンの輪切りを皿に盛り付けてテーブルへと持っていく。
「ひとり〜、出来たぞ〜」
「あっ、うん」
テーブルに皿を置くとひとりの笑みはさらに明るくなった。
最後に冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注いで、今日の夕飯は完成だ。
「それじゃあ、ひとりの受験が終わったことを祝して……」
「「かんぱ〜い!!」」
ジュースが入ったコップをコツンとぶつけて鳴らす。俺とひとり、2人だけの受験お疲れ様会が幕を開けた。
「美味しい……」
「お、そういってもらえると嬉しいなぁ〜」
美味しそうに唐揚げを食べるひとりを見るとこっちもついニヤケてしまう。
美味しそうに食べるひとりを見ながら俺も唐揚げを口にする。
口にした瞬間外はサクッと、中はふんわりジューシーな味わいが口の中に広がる。キャベツの漬物との相性もバッチリで、ご飯がもりもり進んでいく。
「あっ......」
よほど唐揚げが美味しかったのだろう。ひとりはあっという間に唐揚げを食べきった。しかし、まだ足りないのだろうか、最後の一個を食べ終わると少し寂しそうな顔をしていた。
「ほら、食べな。今日、面接頑張ったんだろ?」
「あ、ありがとう!!」
唐揚げを2つ、ひとりに分けてあげると寂しそうな顔はまた笑顔に戻った。一種の幸福感のような、満足感のような。俺はそんな感覚を感じながら残りの唐揚げを食べる。
食べ終わってからしばらくして、ひとりが荷物を持って帰ると行ったので、俺は玄関まで見送ることにした。
「それじゃ、気をつけて帰れよ」
「うん。3日間ありがとう......」
なにか、ひとりに向けて餞になるような言葉はないだろうか......。
いや、ある。
「4月に下北沢で待ってるから」
「……っ!うん!!」
まだ合否の結果は分からないが、せめてもの餞にはなるだろう。
ひとりは飛びっきりの笑顔を見せて、家を後にして家路についた。
◇
それから2週間後、今日は合格発表ということもあってか、学校は午後からの半日授業になっている。
朝方、散歩で学校の近くを通った時、下高を受けたであろう中学生が沢山いた。俺はそれに去年の自分を重ねて懐かしさに浸ると共に、ひとりの合否が気になってしょうがなかった。
筆記試験の出来からして余程のことをしない限りは受かっているはずだが、自分の心配性からか、不安がどんどん募っていく。
そんな感情を抱いたまま、制服に着替え、学校に行くために家を出るとそこには─
──分厚い封筒を抱え、泣きながら笑顔になっているひとりがいた。
「楓くん......。私、受かったよ......!!」
「そうか、おめでとう」
自分が秀華高を受けたわけじゃないのに、何故か自分の事のように感じたのだった。
次回、「バレンタイン」
3500文字くらいが1番書きやすいってことに今更気づく物書きですどうも()
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2年生編を
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そのままこのシリーズに投稿してほしい
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別作品として投稿してほしい