幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
「よ〜し、これで材料は揃ったし家に戻って早速作ろう!」
「うん……」
パンパンになった買い物袋を持って寒空の下を虹夏と二人で歩く。
袋の中身は板チョコに牛乳、コーンフレーク、生クリーム、ココアパウダー、砂糖などなど。
私は今日、これから虹夏と手作りのチョコレートを作る。
なんと言っても今日は2月13日、バレンタインデー前日だ。今年のバレンタインデーは去年までとは違う。
去年まではコンビニのレジの前に売ってるようなちっちゃいチョコを渡していた。だけど今年は始めて手作りチョコを作ることにした。
私が手作りチョコを作るきっかけは今から2週間前に遡る。
「ええ〜!?本命チョコを渡したい相手がいるの!?」
「そんなに驚くことなの……?」
2週間前。虹夏に本命チョコを渡したい相手がいると昼休みに言ったのがきっかけだった。
私が本命チョコを渡したいと言った時の虹夏の驚きっぷりは半端じゃなかった。
「そりゃ驚くよ〜。だってリョウ、今までこんなこと言ってなかったじゃん。で、誰誰?」
「声大きい……」
「ああ〜ごめんごめん……。で、誰に渡したいの?」
「楓……」
「楓か〜、やっぱりそうなるよねぇ……」
「え?」
「あ〜、いや〜、なんでもないっ!で、どういう感じのにするの?」
「その相談に乗ってほしいから話したんだよ……。なにかおすすめは?」
「うーん、あたしも本命は渡したことないしな……。あ、無難に手作り渡してみたら?その方が気持ち籠ってそうだし」
こうして、私は楓に手作りの本命チョコを作ることになった。
今日までの2週間、虹夏と一生懸命計画を練って来た。
普段ご飯を作ってくれてる料理番を労うためにも、好きな人に少しでもこっちを見てもらうためにも美味しいチョコを作ろう。
そう決心して私は家庭科の授業以外ではつけたことがないエプロンと三角巾を付けてチョコを作り始めた。
今日作るのは生チョコ。初心者にも作りやすくて定番の品だ。
まず最初に包丁で板チョコを細かく刻み、バットにオーブンシートを敷いて下準備をしておく。
下準備が出来たら生クリームを鍋に注ぎ、中火で沸騰寸前まで温める。温めたらさっき刻んだチョコが入ったボウルに一気に注ぐ。湯気が出なくなるまで待ち、泡立て器でチョコが完全に溶けてなめらかになるまで混ぜ合わせる。
バットに混ぜ合わせたものを流し入れ、表面を平にして冷凍庫に入れる。
ここから1時間ほど冷やし固めるため、しばらく休憩する。
チョコ作るのってこんなにも疲れるのか……。
お菓子と料理じゃ全然違うのは分かってるけど、普段料理を作っている楓と虹夏って結構スゴイのでは……?
適当に流し見している動画を一旦止め、ふとキッチンにいる虹夏の方へと視線を向ける。
虹夏は一生懸命チョコをテンパリングしている。
義理チョコといえど日頃の感謝の気持ちを込めたいって虹夏は買い物の時に言ってたな。
「ただいま〜。お、二人して何作ってんだ?」
「あ、お姉ちゃんおかえり〜!今チョコ作ってんだ〜」
「そういえば明日ってバレンタインだったな。誰に渡すんだ?」
「あたしは楓に渡すつもり」
「ほう。で、リョウは?」
「私も楓に渡すつもり」
「あたしは義理なんだけどリョウはね〜」
虹夏、本命を渡すつもりって私の口から言わせようとしてる……。
虹夏がニヤニヤしながら私の方を見てくる。そして星歌さんも興味深そうな視線を送っている。
「ほ、本命を……」
「お、恋するロッキンガールじゃねぇか」
虹夏同様にニヤニヤしながら店長はそう言う。
しばらく三人で談笑した後、冷凍庫から固まったチョコを取り出す。バットから外してオーブンシートを剥がす。包丁を温めてチョコの四辺の斜めになっている部分を切り落として食べやすい大きさにカットしてココアパウダーをふりかけたら完成。
完成したものを三人で試食してみることにする。口に入れるとチョコの甘さが口いっぱいに広がる。
自分でお菓子を作ることってこんなにもいいことなんだ……!
「ん〜!おいし〜!これなら絶対楓喜ぶよ!」
「おん、おいしいなこれ」
「こんなに美味しいチョコを作れるんだからこんどからたまには楓にお菓子作ってあげたら?」
「疲れるからヤダ」
いいことはいいことだけど疲れるし手間がかかる。それにいつも主人が褒美を出すのじゃ料理番も飽きるだろうし。
残りのチョコを家に持ち帰り、楓に渡す分は冷蔵庫にしまった。そして残りは家族に食べさせることにした。
「ん〜美味しい!これリョウちゃんの手作り?」
「うん……」
「う、美味いぞ……!母さん、今日はリョウが初めてお菓子を作った記念で焼肉にしよう!」
「ええ!あなた!今日はお祝いよ〜!」
うわ、始まった……。
私の両親は一人娘である私のことを溺愛している。
今はただこのうざったい溺愛だけで済んでるが小さい頃は何処へ行くにも何をするにも必ずついてくるほどの過保護だった。10歳の頃にベースを始めると過保護は少しずつ減っていき、そこから私はロックにのめり込んでいった。
「ところでリョウちゃん、チョコは誰に渡すの?」
そりゃ聞いてくるよな。
だって今までしてこなかったことを急に娘がやり出すんだし。
でも相手が楓なんて口が裂けても言えない。これを言ってしまえば多分とんでもないことになる。だから──
「教えない……」
そう言って答えを隠した。
明日はバレンタイン。楓、喜んでくれるといいな。
2年生編を
-
そのままこのシリーズに投稿してほしい
-
別作品として投稿してほしい