幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
#1 回鍋肉
ある春の日曜日の昼下がりのこと、スーパーで晩飯の材料を買って帰る途中、俺はたまたま通りかかった公園で女の子を見つけた。その女の子は左手に雑草の束を持ち、背中にはギターケースを背負って公園のベンチにもたれかかって寝ていた。その様子を見た俺は彼女に声をかけてみることにした。
「おい、起きろ。バカベーシスト。ここは寝るとこじゃないんだよ」
「......天才は寝る場所を選ばない」
「選ばないのは寝る場所じゃなくて手段だろうが。ほら、さっさと起きろ」
俺は女の子の頬をつまみ少しひねる。
「痛い痛い!」
倒れている人に向かってこの仕打ちをするとは、なんてひどい人間だ、と俺に対し思うかもしれないだろう。でも俺がこの女の子をバカベーシストと罵ったり、頬をつねるのには理由がある。
なぜならこの女の子...いや、こいつの正体はーーー
「起き抜けの美少女女子高生にこの仕打ち。それでも幼馴染?」
「あのなぁリョウ、昼間から草握りしめて公園のベンチにもたれかかって寝てる女子高生が幼馴染とか普通に恥ずかしいんだが?」
こいつの正体は山田リョウ、俺の幼馴染だ。どこまでもマイペースで浮世離れした趣味を持つ変わり者だけど、根は繊細で動物に例えると猫のようなやつだ。
「今どきの女子高生はこういうもの」
「そんなやつ全国どこ探してもリョウしかいないだろ。で、なんでまた雑草なんか食べてんだ?まさか所持金が底を尽きたとか言わないよな?」
「うん、そのまさか。あ、楓も食べる?甘味があってとても美味しい」
「雑草食べなきゃいけなくなるほど散財してないから遠慮しとく」
「あとで食べたいっていってもあげないよ」といってリョウは雑草をむしゃむしゃと食べ進める。
リョウの家は病院を経営していて、かなり裕福な暮らしをしている。両親からかなり多くのお小遣いをもらっているのだが、こいつは金遣いがとても荒い。もらったお小遣いをすぐ楽器や機材などにつぎこみすぐに使い果たしてしまう。だからこうして雑草を食べる羽目になってしまうのだ。
それにしても、雑草なんかで空腹が満たされるのだろうか。そんなことを考えていると、雑草を食らっていたリョウがじーっと俺の買い物袋を見つめてきた。
「その袋の中身、見せて」
「ああ、いいよ」
買い物袋を渡すとリョウはガサゴソと袋を漁り始めた。別にみられて困るようなものは入ってないが、なんで袋の中身なんか気にするんだろう。
「もしや楓、買い物帰り?」
「まぁ、そうだけど」
「ちょうどいま私はお腹が空いている」
「雑草があんだろ。それ食えばいいじゃん」
「これじゃ空腹は満たされない」
でしょうね。てか雑草ってつくしぐらいしか食べる用のものじゃないし。
「だから楓、私にご飯作って」
「あ~、いいよ。え、今なんつった?」
「ご飯作って」
ちょっと待て。いろいろツッコミが追い付かない。というかなんで俺が料理作れるってわかるんだよ。
いきなり飯を作れだなんていわれても。若干多めに材料を買ってるから二人分の料理を作る余裕はある。だが、俺は自炊を始めたばかりだ。友達に料理のイロハを叩き込まれ、そして昨日ようやく合格をいただいたばかりだ。かろうじて人に食べさせられるぐらいになったとはいえ、相手は女の子。下手な料理を提供する訳にはいかない。それに相手はリョウだ。これがリョウじゃなければ「こいつメシマズすぎてウケるんですけどw」とイソスタにでもさらされて社会的に〇ぬだけで済む。だが、リョウとなると話は別だ。こいつは何をしてくるかわからない。ライブで見せしめとしてハラキリショーをさせられるかもしれない。
「なんで俺が料理作れるって知ってるんだよ」
「虹夏から聞いた」
なんだ、あいつか。
「まぁ、それは別にいいとして、悪いけど今は料理を作ってあげられないわ」
「なんで?」
「昨日やっと虹夏から合格をもらったんだよ。かろうじて人様に食べていただける料理を作れるって認めてもらったけど、自信がないんだ」
「大丈夫、有識者は言っていた。極度の空腹時に食べるご飯はおいしいと。だから自信がなくてもきっとおいしいご飯を作れるはず」
「リョウ......」
ここまで言われたらしょうがない。ここは引き受けるとしよう。
「へたくそでも文句はなしな」
まぁ、野郎の素人飯の方が雑草よりも何十倍もマシだもんな。
とりあえずリョウにご飯を作ることが確定したところで、食材が足りてるかどうか袋の中身を見て確認する。2人分の料理を作るには十分足りていた。おかわりのことも考えて予め多く買っておいて正解だったみたいだ。
「ほら、行くぞ」
ベンチにもたれかかったままのリョウに声をかけてみる。結構疲れてる様子だが、さすがに歩く体力は残ってるだろう。
「楓」
「どうした?」
「疲れて歩けないからおんぶして」
ウッソだろお前。さすがに体力なさすぎだろ。
仕方ないのでリョウに背を向けてしゃがむ。するとリョウはのそっと俺に乗っかってきた。背中越しに女の子のいい匂いがほのかに香る。甘い香りに包まれながら、俺はリョウをおんぶして歩き出した。
「楓」
「ん?」
「今日なにつくるつもりだったの?」
「回鍋肉」
「へぇ、そうなんだ」
「聞いといて興味無さそうな返しすんな」
それにしても何だこの柔らかな感触は......!
こいつ、意外とあるんだな。いやいや、いくらリョウといえども邪なことを考えるのはさすがにダメだろ。
「楓」
「ど、どうした?」
一瞬、邪なことを考えてたことがバレたかと思い、ヒヤリとする。
「遅い、ペースもっと上げて。お腹がすいてしょうがない」
「人背負って歩いてんだから遅いに決まってんだろ」
やっぱり厚かましいなこいつは。
リョウに急かされ俺は歩くペースを上げ、家へと向かうのだった。
◇
「ただいま」
「お邪魔しますだろうが」
「ちっちゃい頃からよく遊んでたからここは実質私の家」
「あっそ」
靴を脱いで並べるとリョウは一目散にリビングへと向かい、ソファに倒れ込んだ。
「まず手洗えよ」
「洗面所まで歩けない」
「うるせぇ。さっさと洗えよ」
リョウをソファから引きずり下ろして洗面所に連れていき、手を洗わせた。手を洗わせるとリョウはまたリビングに戻り、そのままソファに倒れ込み、すぐに眠りについた。そんなリョウを後目に俺は袋から材料を取りだし、今日の夕飯の回鍋肉を作り始めた。
なるべく音を立てないようにゆっくりとキャベツとピーマン、ネギに包丁の刃を入れる。次に豚肉を水洗いし、野菜と同様ゆっくり刃を入れる。野菜と肉を切り終えたらフライパンに油を大さじ1杯ほどいれる。そして切ったキャベツとピーマンを炒める。このとき半分ずつ炒めておくとシャキっと美味しく仕上がるらしい。キャベツとピーマンをフライパンから取り出したら次に豚肉とネギを加え、豚肉に火が通ったら一旦火を止める。そして回鍋肉の素を入れて再び火をつけ、回鍋肉の素と豚肉、ネギを中火で絡ませる。最後にキャベツとピーマンを戻し、炒め合わせたら回鍋肉の出来上がり。
「ご飯の気配を察知」
「いつの間に起きてる?」
いつの間にかキッチンにいたリョウと俺。2人分の回鍋肉をそれぞれの皿に盛り付け、テーブルに並べる。並べられた回鍋肉をリョウは子供のように目を輝かせながら見ていた。
予め炊いておいた白ご飯をそれぞれの茶碗についでテーブルに並べた。
「「いただきます」」
2人で声を合わせ、回鍋肉に手をつける。自分で作って言うのもアレだが、かなり美味しく作ることが出来た。虹夏から合格の証を貰ったのは伊達じゃなかったんだな。
「お、おお、おおおおお」
リョウは驚きながらもパクパクと食べ進めている。恐らく口にあっているのだろう。
「楓ってこんな美味しいもの作れたんだね、感動」
「ま、まぁ、ありがと」
「てっきり砂糖と塩間違えるタイプの人かと思った」
「バカにしてんのか」
作ってもらって何様だよ。まぁ、美味しく食べてもらえるならそれでいいんだけど。
「そういえば、本当にいないんだね。おばさんも彩乃も」
「まぁな」
リョウの言う通り、俺はこの春から一人暮らしを始めた。俺の家は5人家族。両親に姉と俺、そして妹という構成だ。父親は俺が中二の頃に弁護士の仕事で大阪に単身赴任し、9つ上の姉貴は俺が中学に進学したと同時に独り立ちした。それ以降母親と妹と3人で暮らしていたがつい先日妹はテニス留学で広島へ、母親は私立の小学校にヘッドハンティングされ福島へと引っ越した。全然寂しくないといえば嘘になるが、一人下北沢に残るって決めたのは俺だし、家族みんなも俺を信じてくれている。だからとんなに寂しくても俺は1人で頑張って生きていく。そう決めたんだ。
「ごちそうさま。食器下げとくね」
「お粗末さまです」
◇
しばらくして食器を洗い終わるとリョウはケースからベースとミニアンプを取り出した。
「お礼に一曲プレゼントする」
「お、ありがと」
滑らかな手つきでリョウはベースの弦を鳴らす。演奏しているのは秒針を噛むという曲。スラップが効果的に使われていて、スタイリッシュで華やかな演奏をするその様は言葉以外に形容する言葉が見つからない。
弾き終わるとすぐにリョウは帰る支度を済ませた。
「ご飯ありがとう」
「全然大丈夫だけど、お金の使い方には気をつけろよ?」
「善処する。それじゃばいばい、また明日」
「うん、また明日」
少し会話を交わして俺はリョウを見送った。こうして他の誰かとご飯を食べるのは数日ぶり。俺はなんだか不思議な気分になった。
風呂から上がり、リビングでくつろいでいるとリョウからロインが来た。
『今日付けで楓を私の料理番に任命する。しっかり働くように』
『???』
『明日はカレーがいい』
『一丁前にリクエストすんな』
『嫌なの?』
『いやそんなことはないけどさ......』
『私は毎日美味しいご飯が食べられる。楓は寂しい一人暮らしの中で私という素晴らしい話し相手ができる。こんなwin-winな関係他にないでしょ?』
素晴らしいかどうかはさておき、確かにwin-winな関係だな...。
『わかった。料理番としてしっかり働かせてもらうよ』
『うむ、その意気だ。褒めて遣わす』
こうして俺、下村楓は幼馴染、山田リョウの料理番となった。
さて、これからどんな料理を
これは俺が料理番として主人の
或いは
次回、『カレーライス』
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タイトル変更は
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してもいい
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しなくてもいい