幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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侍ジャパンがWBCで優勝したので初投稿です。


#18 差し入れ弁当

寒さも段々と和らぎ、少しづつ春へと近づいているのを感じる2月の下旬。

今日はリョウではなく、きくりさんが家にいる。朝、散歩から帰ってきたときに家の目の前の電柱に寄っかかって寝ていた所を介抱したのだ。ちなみにリョウは親戚の集まりに行った。

そして今、俺はあるバンドへの差し入れの弁当を作っている。そのバンドというのは──

 

「いや〜、悪いね〜。急に差し入れの弁当作ってなんていっちゃって」

 

「別に大丈夫ですけど......。たしか、SICK HACKでしたっけ?きくりさんのバンド」

 

「そうだよ〜」

 

「メンバーって何人いるんですか?」

 

「う〜ん、あたし入れて3人だよ〜」

 

SICK HACKという、きくりさんがベースとボーカルを務めるバンドである。

きくりさん曰く、インディーズながら毎回ライブで500人は集めるバンドらしい。そんな人気バンドに俺が差し入れの弁当を作ることになったのか。それはきくりさんが日頃お世話になっているバンドメンバーに差し入れをしようと思っていたら、酔っ払ったときに壊した機材の弁償でお金が無くなってしまい、それで俺の弁当を差し入れにしようということになったのだ。

 

「そういえば、弁当作るっていってもなんで俺なんですか?虹夏とかに頼んでも良かったと思うんですけど」

 

「あ〜虹夏ちゃんにも、ヒック、頼んだんだけど経緯話したら、ヒック、断られちゃってさ〜」

 

でしょうね。断るときの虹夏の顔が容易に想像できる。

俺は人数分の弁当箱に中身を詰めて、風呂敷で包む。

 

「出来たんでそろそろ行きますよ」

 

普通ならここできくりさんにお弁当を渡して見送るのだが、弁当を作り始める時にきくりさんが「せっかくだしお姉さんのライブ見ていきなよ」といったので、きくりさんに連れてってもらうことになった。

 

「え〜、もう1杯飲ませてよ〜」

 

「ダメです。電車の中で吐いたらどうするんですか」

 

「そのときはそのときだよ。じゃあ出かける前に1杯......」

 

「飲むなら向こうについてからにしてください」

 

「あ〜!!おにころ返せ〜!!」

 

きくりさんからおにころを没収した。ポカポカと殴られるが向こうにつくまでは我慢してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まもなく終点、新宿です。JR線、京王線、地下鉄線はお乗り換えです。お降りの際は、足元に─」

 

 

下北沢から小田急線の快速急行で2駅。俺ときくりさんは新宿にやってきた。SICK HACKは新宿にある"FOLT"というライブハウスを拠点に活動している。

 

「フォルトさ〜、歌舞伎町にあるから打ち上げに困らないんだよね〜。まあ、近くの居酒屋ほとんど出禁になっちゃったけどね」

 

「そうなんですか……」

 

「いや〜、次はそうならないように飲むのを控えなきゃいけないな〜って思うんだよね〜。でも結局飲んじゃうんだけど」

 

「はぁ……。あ、もしかしてあのビルの中ですか?」

 

「うん。そこの地下二階が私の根城、新宿FOLTだよ〜」

新宿駅から歌舞伎町のほうにしばらく歩いて、FOLTが入っているビルにたどり着いた。

俺はフラフラになりながら歩くきくりさんの後をついていく。

 

「銀ちゃんおつかれ〜」

 

そしてそこには鋭い目つきをした店長さんらしき人が椅子に座っていた。

 

「は?」

 

「ド、ドウモ……」

 

いや怖っ!ロン毛にピアス、それに柄シャツっていかにもロックな感じの人なんだけど。

 

「あらやだ〜、きくりが男連れてきちゃってる〜♡」

 

「あ〜、この人はここの店長の銀ちゃん。見た目はイカついけど中身はピュアなおっさんだよ〜」

 

仕草がおっさん臭いお姉さんのきくりさんとイカつい見た目のピュアなおっさんの銀ちゃんさん。なかなか癖の強い組み合わせな気がする。

 

「吉田銀次郎37歳で〜す♡好きなジャンルはパンクロックよ〜。お兄ちゃん、名前は〜?」

 

「……あ、下村楓、16歳です。好きなジャンルはJPOP全般です」

 

「あら、楓ってかっこいい名前じゃな〜い♡」

 

「ありがとうございます......」

 

「ねぇきくり、こんないい子とどういう間柄なの~」

 

「ええ〜?大学のときの同級生の弟くん」

 

「へ〜、あら、下村ってことは伊織ちゃんの弟くん?」

 

「はい、そうです......」

 

会話の雰囲気が完全に女性同士のそれになっている。銀次郎さんを見ていると、世の中には色んな人がいるんだなぁと思う。

というか姉貴のこと知ってるんだ。

 

「そうそうきくり、志麻ちゃんがさっきからまた遅刻かって怒ってたわよ〜」

 

「うわマジ?よ〜し、じゃあ楓くん、楽屋行こっか〜」

 

少し青ざめた顔できくりさんは俺を楽屋に連れていく。

FOLTって結構広いんだな……。

きくりさんが楽屋のドアを開けるとそこには、浴衣を着た外国人であろう金髪のお姉さんとスカジャンを着たお姉さんがいた。

スカジャンのお姉さん、どっかで会ったことがあるような......

 

「遅いぞ。廣井」

 

「もう!遅いヨー!!」

 

「あ〜、ごめんごめん。時間忘れてた」

 

「またか……。次は絶対に忘れるなよ」

 

「善処しま〜す。あ、そうだ。今日、この子がお弁当作ってきてくれたんだ〜」

 

「どうも、SICK HACKでドラムをやっている志麻です。今日はわざわざありがとうございます......。って楓くんか?」

 

「あ、志麻さん!お久しぶりです!」

 

SICK HACKのドラムを務めている志麻さん、岩下志麻さんは姉貴の大学の同級生だ。

最後に会ったのは中学一年の頃だから三年ぶりくらいか。

 

「お姉さんは元気にしてるか?」

 

「はい、四月から音楽雑誌の担当になるらしくてここのところめちゃくちゃ張り切ってます」

 

「そうか、よろしく伝えといてくれ」

 

「わかりました。で、こちらの方は......?」

 

「私イライザ!18歳までイギリスにイマシタ!今日本二年目!ヨロシクネー!!」

 

「イギリスから来たってことは邦ロック好きなんですか?」

 

「No、コミケ参加したくて日本来たノ~」

 

コミケか......。お盆とか年末に東京ビッグサイトで同人誌を売ってるイベントだよな。

あれいつか行ってみたいって思ってたんだよな~。

 

「コミケ参加したくて日本に来たってことはアニメ好きなんですか?」

 

「Yes!日本のアニメ大好き~!本当はアニソンコピーバンドしたいデス~!」

 

「イライザはアニソンが日本の最先端っていっつも言ってんだ~」

 

その後、しばらくSICK HACKのメンバーさんたちと談笑した。

しっかり者の志麻さんにアニメ好きのイライザさん、そして酒カスのきくりさん。一見バラバラな性格をしている三人だがバランスが不思議と釣り合っていると感じた。

 

「あ、これきくりさんが言ってたお弁当です」

 

「アリガトウゴザイマス」

 

「ありがと〜」

 

俺は風呂敷からお弁当を取り出して、3人に渡す。渡すとすぐに3人は仲良く食べ始めた。お弁当の中身はきんぴらごぼう、生姜焼きに卵焼き。そして、ほうれん草のおひたしとうめぼし。 人に弁当をつくる機会はあまりないので自信はないが、口にあっていることを願う。

 

「美味しい……」

 

「この卵焼き、とってもdelicious!!」

 

どうやら口にあっているようだ。

俺は志麻さんとイライザさんが美味しそうに食べる様子を見ながら、予めコンビニで買っておいたサンドイッチを食べる。

 

「ぷはぁ〜。弁当もおにころもうめぇ〜!!」

 

また飲んでる。ライブ中に吐かないといいけど。

 

お弁当を食べ終わると志麻さんが話しかけてきた。

 

「そういえばこの前、伊織がここに取材しに来たんだ」

 

「そうそう、伊織がさ~『久しぶりにギター弾きたい』って言ってあたしと即興でセッションしたんだ~」

 

「伊織サンのギター、so coolデシタ」

 

姉貴が取材に来ていたとは……。姉貴はあまり仕事のことを話してくれない。だからこのようにどこそこに取材に来ていたなどを俺が知らないのはよくある話だ。

でも仕事サボってギター弾くなよ......。

 

「じゃあ、私たちそろそろリハーサルするから一旦カウンターに行ってて。多分銀ちゃんと大槻ちゃんがいると思うから〜」

 

「はい。じゃあライブ、楽しみにしてます!」

 

楽屋を後にしてカウンターへと戻る。すると銀次郎さんは笑顔で手を振ってくれた。ただ、銀次郎さんの横にいる茶髪にツインテールの女の子は目が合うと同時にこっちを睨んで、どこかへ行ってしまった。

 

「今のって誰ですか?」

 

「あ〜、ヨヨコね。ここを拠点に活動しているSIDEROSっていうバンドのボーカルよ。確か同い年だった気がするわよ」

 

「そうなんですね……」

 

あのツインテールの子、同い年なんだ。

 

 

 

「あら〜、シモキタのライブハウスでバイトしてるなんて素敵じゃな〜い♡」

 

「バイト結構楽しいんですよ〜」

 

「ねぇ、そこの貴方」

 

「へ?」

 

しばらく銀次郎さんと会話していると、ツインテールの子が戻ってきた。そして睨みながら俺に話しかけてきた。

 

「姐さんとはどういう関係なのよ」

 

姐さん?誰だそれ。

 

「姐さんって?」

 

「はぁ。きくり姐さんのことよ」

 

「あぁ〜。いや、ただの知り合いです……」

 

「あっそ。言っとくけど、姐さんはあんたみたいなボンクラがそう易々と関われるような人じゃないから」

 

この子、初対面の人に対してかなりおっかないな……。

てかボンクラってなんだよ。さすがに酷くないか?

ツインテールにベレー帽、そしていかにもメタルバンドのような服装。その風格に俺は圧を感じる。

 

「というか名乗りもしないのに誰ですか?」

 

「そうね、それは失礼したわ。私は大槻ヨヨコ。SIDEROSのボーカルをやっているわ」

「下村楓です……。特にバンドとかは入ってないです」

 

「下村?どっかで聞いたことがある名前ね......」

 

軽く自己紹介をしたあとSIDEROSについて調べてみた。どうやら結構有名なインディーズバンドのようだ。

 

「ヨヨコ。楓くん同い年だからそんなツンツンしないで仲良くしてあげたらどぉ〜?」

 

「考えときます」

 

なんか敵を見ているような感じで睨んでくるんですけど!?言葉と表情が真逆なんですけど!?

 

「そうだ、貴方、メタルロックの頂点に興味とかあったりしない?」

 

「まぁ、あるにはあるけど......」

 

「そうなの!?今度テスト......あ、思い出した!」

 

「え?」

 

「いや、何でもないわ。とりあえず、今度私のバンドの加入オーディションをやるから」

 

「は、はぁ......」

 

なんかこの大槻ってやつ、すごい向上心というか、オーラを感じた。

 

 

 

 

 

ライブが終わり、FOLTを後にする。きくりさんは打ち上げに行くと言っていたので、新宿駅で別れて1人で下北沢に戻る。

それにしても今日のライブ、なんか凄かったな……。志麻さんのドラム、イライザさんのギター、そしてきくりさんのベースボーカル。3人の高い技術力に俺はあっという間に引き込まれた。

 

『今日はありがとうございました!ライブ、最高に楽しかったです!!』

 

きくりさんに感想のロインを送る。

そういえばきくりさん、途中で歌詞が飛んだりお客さんに酒ぶっかけてたな……。

 

『お〜、それなら良かったよ。またお姉さんのベース聞きたくなったらいつでもおいで〜』

 

ロインを送るとすぐに返事が返ってきた。まさかすぐに返ってくるとは思わなかったが、また行きたいと思った。

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜。FOLT行ってきたんだ」

 

「そう。なんか趣味が1つ増えた感じがして楽しかった」

 

「私もそこよく行くんだよね。SICK HACKとかは結構お気に入り」

 

「あ〜SICK HACKいいよな〜」

 

翌日、いつものように家にご飯を食べに来たリョウに昨日の出来事を話す。どうやら彼女もフォルトに行っているようで、話が弾む。

 

「今度一緒にSICK HACKのライブいかない?」

 

「うん。そのときは私にドリンク奢ってね」

 

「それは自分で払ってくれ」

 

いつになるか分からないが、俺はリョウとFOLTに行く日が楽しみだ。そう思えた2月の下旬の昼下がりだった。

 




次回、「ホワイトデー」


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