幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
満開だった桜も少しづつ葉桜に変わっていき、それに風情を感じる4月の中旬。
リョウや虹夏が同じクラスになったおかげか、新しいクラスにも少しづつ慣れてきた。
新しいクラスでも3人で一緒に雑談しながらのく昼飯を食べている。
「あ、そうだ。最近リョウとバンド組んだっていったじゃん」
「そういえばそうだったな」
「それで今日、メンバー募集も兼ねて路上ライブをするんだけど……」
虹夏がリョウとバンドを組んだのは春休みに入る少し前のこと。バンドを組むにあたって虹夏はまず最初に俺とリョウを誘ってきた。リョウはその場でOKを出したが、俺は保留にさせてもらった。文化祭とかでやるのであれば全然歓迎なのだが、インディーズでやるとなると話は別。俺は2人とバンドをやるのに相応しいか分からなかったからだ。
「楓にサポートとしてギターとボーカルやってほしいなって思って……。おねがい!」
手を合わせて懇願される。さすがは虹夏、俺が頼まれたら基本断れない性格なのを分かっている。
「別にいいけど、合わせ練習とかしなくて大丈夫なのか?」
「さすがにぶっつけ本番ってことはしないから多分大丈夫だとは思うよ」
「うん。それに楓のギターと歌は上手い」
そして悔しいがリョウも褒められると誘いに乗りやすいのもよく分かっている。
「わかった、やるよ」
「よ〜し、じゃあ放課後あたしの家に集合ね!!」
「はいよ」
こうしてリョウと虹夏の路上ライブにサポートとして加わることになった。
帰ったら軽くストレッチでもしておこうかな……。
◇
放課後、俺は一度ギターを取りに家に戻ってから虹夏の家に向かって歩く。また3人で演奏できるのは正直嬉しい。嬉しさのあまり歩くスピードが段々と早くなっていくのが自分でもわかる。そんなスピードで歩いているからか、すぐに虹夏の家についた。
虹夏に「着いた」とロインを入れる。すると「スターリーにいるよ〜」とすぐに返事が返ってきたので階段を降りてドアを開け中に入る。
「お〜、きたきた〜。はい、今日のセットリストとスコア」
「ありがと」
「あとはリョウだけだね〜」
リョウとは同じタイミングで家を出たが、「よもぎが私を呼んでいる」といってどっかに行ってしまった。
「呼んだ?」
「おわっ!?びっくりした〜。もう!いるならいってよ〜」
「遅かったな」
「だって……楓があんなに……///」
「なにもしてねぇしお前よもぎ取りに行ってたんだろこの馬鹿ナス」
「馬鹿ナスって、照れる……」
「あ〜はいはい、早速始めるよ〜」
リョウと漫才みたいな会話を交わして、軽めの合わせ練習を始める。
今日のセットリストはアニソンからPOPにロックと若者に人気な曲の詰め合わせの全10曲。応用テクニックが必要な難しめの曲も何曲かある。しかし絶好調の俺にはどうってこともない。ただ俺は楽しみながら合わせ練習をするのだった。
「よ〜し、じゃあ合わせはここら辺にしといて休憩しよっか!」
「うい〜」
「よもぎおいしい……」
合わせ練習を終えて、ライブが始まるまでの束の間の休憩に入る。汗をタオルで拭い、予め買っておいた水を飲む。こういうときに飲む水は無性に美味しかったりするものだ。
「今日のライブでメンバーが集まればいいな」
「楓が入れば少しは楽になるんだけどな〜」
「もう少し考えさせてくれよ……。そういえば何時くらいに駅に行くんだ?」
「6時半くらいには始めたいかな〜」
今日の路上ライブの会場は下北沢駅の駅前。虹夏がいっている時間帯だと恐らく仕事帰りの人が多い。なのである程度の観客は見込めそうだ。
「6時半か。設営の時間も考えたらそろそろ出たほうがいいかもな」
「そうだね。じゃああたしスネアとか取ってくるから待ってて〜」
「そろそろよもぎ食い尽くしただろ」
「いや、まだある。楓も食べる?おいしいよ」
「遠慮しとく」
にしてもよもぎね……。今度よもぎ団子でも作ってみようかな。
◇
下北沢駅の駅前まで歩き、早速設営を始める。普段駅前のような公共の場所で路上ライブをする場合、事前に許可が必要だ。虹夏にそれを確認すると「あ〜、お姉ちゃんがやっといてくれたよ〜」と行ってきたので恐らく大丈夫だろう。
俺はアンプの電源を入れてコードを繋ぎ、音響チェックをする。リョウはというと……。
「よし、これで収入が入る……」
うん、いつも通りで安心するわ。
「あたしは設営できたけどそっちは?」
「いつでも行けるぞ〜」
設営を済ませて、あとは演奏を始めるだけ。でもまだ何か足りない。そう思った俺は拳を出してグータッチのサインをする。2人もそれを感じ取ったのか拳を出す。
「じゃあ、始めよう。リョウ、虹夏」
「うん、2人とも今日はよろしくね」
「私のベースの引き立て役、頼むよ」
3人でグータッチをして、それぞれの位置につく。リョウはベースを、虹夏はドラムスティックを、それぞれ構え、俺はギターを持ってマイクスタンドの前に立つ。
虹夏の合図で早速1曲目、bouncyの怪獣の花唄を弾き始める。
「思い出すのは君の歌、 会話よりも鮮明だ。どこに行ってしまったの。いつも探すんだよ」
この曲は最初のほうはアルペジオ奏法を使い、段々と場を盛り上げるように音色を奏でていく。
「ねぇ僕ら、眠れない夜に手を伸ばして。眠らない夜をまた伸ばして。眠くないまだね、そんな日々でいたいのにな」
最後のラスサビが始まる頃になると、少しづつ立ち止まって聞いてくれる人が増えてきた。すぐにこの場を立ち去られても、罵詈雑言を言われたっていい。楽しんでくれている観客の人をもっと楽しませたい。俺はその一心で曲を弾く。
1曲目を弾き終わると大量の拍手が送られてきた。やっぱりこの感覚は楽しいと実感する。
「え〜、結束バンドです!今日はお忙しいなか聞いてくれてありがとうございます。メンバーはドラムの私、伊地知虹夏とベースの山田リョウの2人で、そこにいるギターの子がサポートメンバーの波城楓です」
虹夏にマイクを渡すと軽くバンドの紹介をして、トークタイムが始まった。最近の流行りや趣味についてなどなど、10分ほど話して2曲目の曲紹介に入った。
「次にやる曲はたぶん知ってるよ〜って人も多いんじゃないかなって思います。それでは聞いてください。ORIENT KUNG-FU GENERATIONさんのリライト」
曲紹介を終え、再びギターを構えて2曲目のリライトを虹夏のカウントで弾き始める。
「軋んだ想いを吐き出したいのは存在の証明が他にないから」
この曲の魅力といえばやっぱりその歌詞。印象的な言葉遣いに作詞者のこだわりを感じる。この曲の魅力を殺さないよう、俺はしっかりと歌い上げる。
「消してリライトして、くだらない超幻想、忘れられぬ存在感を。起死回生、リライトして意味のない想像も君を成す原動力。全身全霊をくれよ」
弾き終わると1曲目のときより倍以上の人が集まっていた。そこから飛んでくる黄色い声援に俺の喜びの感情はさらに高まっていった。
◇
その後、10曲全て弾き終えて俺たち3人の路上ライブは無事に幕を閉じた。そして今、撤収作業を終えて、3人でアフタートークをしている。
「いや〜、結構人集まったね」
「そうだな。もしかしたらメンバーになりたいって人もいるかもしれないな」
「収入もいっぱい入った」
そういってリョウはボウルに入った大量の小銭を見せてきた。といっても中にはお札も入っていて、恐らく3万円くらいは稼いだのだろう。
「もちろんそのお金は活動資金に回すからね?」
「私のニューギア代が……」
「いただいたお金で私利私欲に走るなよ」
にしても3万円なんてよく稼げるよな……。
投げ銭の恐ろしさを感じていると赤毛の女の子が話しかけてきた。
そういえばさっきのライブもリョウの目の前で見てくれてたな……。
「あの……すみません!」
「ん?どうした?」
「私を……その……リョウ先輩の──
──娘にさせてください!!!」
は?なにいってんの、この子。
「え、無理」
「そんな……」
いや、当たり前でしょ。急に娘にしろっていわれても普通断るに決まってるよ。
効果音がついててもおかしくないくらいに分かりやすく落ち込む赤毛の子。
「そういえば君、どっかで見たことあるような……」
「あ、はい!文化祭のときの喜多です!!」
喜多……。そうか、去年の文化祭で俺たちにとんでもない額を貢ごうとしてきた中学生か。秀華の制服を着ているってことはもう高校生になっているのだろう。
「あ〜、あのときの!!そうだ、喜多ちゃんってなんか楽器できる?」
「はい!一応ギターなら……」
「じゃあ喜多ちゃん。あたしたちのバンド入る?」
「是非入らせていただきます!!!」
虹夏がバンドに誘うと喜多ちゃんは謎の効果音が付いていそうな眩しい笑顔を見せた。
こんなに即決で大丈夫なのか?
俺は喜多ちゃんのあまりの即決ぶりに困惑しながらも、バンドメンバーが集められたことに安堵するのだった。
◇
あれから一ヶ月。虹夏をリーダーにリョウ、そして喜多ちゃんで形成された"結束バンド"は初ライブをスターリーで迎えることとなった。
しかし──
「どうしよう……」
「どうした、なんかあったのか?」
「喜多ちゃんと連絡がつかない……」
「嘘でしょ……」
──直前で喜多ちゃんが音信不通になり、2人で迎えることになってしまったのだった。
次回、「転がる従妹」
次回から原作時間軸に入ります。
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