幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
A:気の所為です。
結束バンドの初ライブの翌日の放課後。
俺はリョウと虹夏と学校からスターリーに直行している。どうやら今後の活動方針などを決めるためにミーティングをするらしく、なぜかそのミーティングに部外者である俺も呼ばれた。
「なぁ、虹夏」
「ん?なに〜」
「やっぱり俺いなくてもよくない?」
「楓がいたほうがぼっちちゃんも話しやすいと思うけど」
「それに場が楽しくなる」
「まぁ、それならそれでいいや」
話しながら歩いているうちにスターリーに着いた。階段を降りようとすると、下にひとりがいた。恐らく1人で入れないのだろうか、ドアの前をぐるぐるとうろついている。
「なにしてるんだろ……」
「なんかぐるぐるしてる」
「待って、もうちょっと見てたい」
「鑑賞するのやめてあげて……」
「あ」
「「「あ」」」
俺たちに気付いた途端、ひとりはまるで待ちこがれていたかのような目でこちらを見てきた。
4人で一緒に中に入り、荷物をおいてテーブルに座る。
「さてさて〜。じゃあメンバーも揃ったことだし、それでは第1回結束バンドメンバーミーティングを始めようと思いま〜す。ハイ拍手!」
虹夏の掛け声とともにメンバー3名と部外者1名によるバンドミーティングが始まった。この雰囲気、部外者がいて本当に大丈夫なのかと思うが、今さら気にしないほうがいいのかもしれない。
「って言ってもあたしたちまだそんなに仲良くないから何から話せばいいかわかんないや」
「えぇ……」
「そんなときのためにこんなものを」
「おぉ〜いいねぇ〜」
リョウが鞄から取り出したのはサイコロ。出目の内容は《すべらない話》《学校の話》《好きな音楽の話》《ノルマの話》《バンジージャンプ》《ハラキリ》の6つ。おそらく去年のバンドミーティングで使ってたサイコロの使い回しだろう。
「あ、あの……出た目の内容を話すってのは分かったんでけどバンジージャンプとかが出たらどうなるんですか?」
「ん、バンジージャンプが出たら楓が紐なしバンジーするしハラキリだったら楓がこの場でハラキリするだけ」
「なんで俺が犠牲になる前提なんだよ」
「ロックだから。ほら、早く振って」
リョウに急かされてサイコロを振る。そっと投げて出た目は《学校の話》だった。
「じゃあ、学校の話。訳してガコバナ〜」
「いぇーい」
語呂が悪いと感じながらも話題は学校の話に入る。すると、早速ひとりが質問してきた。
「あっ、あの、3人は同じ学校に通ってるんですよね……」
「そうだよ〜。下高なんだ。下北沢高校」
「そう、こいつらとは小中高で同じ学校なんだよ」
「ぼっちは秀華だよね。楓から聞いたけど家、結構遠いんだよね?」
「あっ、はい。横浜の端っこのほうに住んでます……」
「へ〜、じゃあわざわざなんでこんな遠いところ選んだの?」
「高校は誰も私の過去を知らないところにしたくて……」
「ごめんごめん!この辺でガコバナは終わりにして次いこ、次!」
ガコバナはひとりの地雷を踏んでしまい、2周もせずに終わってしまった。俺はなんとかひとりの暗い表情を戻そうと、リョウに話しかける。
「そういえばお前、大して友達いないよな」
「えっ……!」
「うん。休日は一人で廃墟探索したり古着屋行ったりしてる」
「あっ」
ひとりはなにかに勘づいたのか、また暗い表情にもどってしまった。
ちなみにリョウの廃墟探索や古着屋巡りはたまに俺も付き合わされたりする。俺が行く時は何かしら買わされるのがお決まりだ。
「ぼっちちゃん大丈夫?普通に話していいんだからね?」
「はい……」
「ほら、楓、早くサイコロ振って!!」
「ああ、わかった」
再びサイコロを振る。次に出た目は《好きな音楽の話》だった。
「おお〜、なんだかバンドっぽくていいね〜。あ、あたしはメロコアとかジャパニーズパンク」
「私はテクノ歌謡やサウジアラビアのヒットチャートを少々……」
「わかりやすい嘘だな。あ、俺はj-pop全般が好きだよ」
「む、本当だし……」
「ぼっちちゃんはどんな音楽が好きなの?」
「せ、青春コンプレックスを刺激しない曲ならなんでも」
「青春コンプレックスって何?」
「あ〜、見せた方が早いかも」
俺はポケットからスマホを取り出して、最近人気のバンドの青春ソングを流す。するとイントロが流れ始めた瞬間、奇声を発しながら倒れて痙攣し始めた。
「こういうこと」
「へ〜。ってわかったから止めてあげなよ!」
「あ、わりぃわりぃ」
青春ソングを止めて、今度はデスメタの曲を流し始める。すると、ひとりは段々と元に戻っていく。
「そうだ!歌といえばボーカルのことなんだけど……。結束バンド、本当はボーカルも入れたくてさ〜。昨日はやめちゃったギターの子が歌うはずだったんだけど」
「それリョウがやればよくね?去年の文化祭でもコーラスやってたし」
「ボーカルまでやると私のワンマンショーになっちゃう」
「虹夏ちゃんがやるのは……」
「あたしは歌下手だし……というか楓もバンド入ってボーカルやればいいじゃん」
「申し訳ないがまだ答えでてないのでNG」
「早く答え出してよ?」
「善処する」
しっかりとした答えを出さないといけないから勘弁して欲しいものだ。
「まぁ、ともかくボーカルが見つかったらオリジナル曲とかやりたいな〜って。リョウ、作曲できるし」
「うむ。それにコンプレックスがどうこういってたけど、禁句が多いならぼっちが書けばいい」
「えっ……!?」
リョウは前のバンドでも作曲を担当していた。ただ、それについた歌詞が原因で一度リョウはバンド活動から離れてしまった。でもひとりが作詞するならきっと大丈夫だろう。今この段階でもそう確信できる。
「よし、じゃあ作曲はリョウ、作詞はぼっちちゃんってことで……次はノルマの話〜」
「あっ、あの……ノルマってなんですか?」
「あのね、昨日あたし達が出たライブはブッキングライブっていってね──」
虹夏が丁寧にノルマについて解説を始める。
多くのブッキングライブにおいて、結束バンドなどアマチュアのバンドが参加するものにはノルマが課せられており、スターリーでも同様である。ノルマは収益確保のためだけでなく、客数の確保にも重要である。売り上げがノルマ以上であれば、バンドとライブハウスは収益を分け合えるが、ノルマを達成できなければバンド側が不足分を自腹で支払わなければならない。
「つまり売れるまでにはたくさんお金が必要ってこと」
「ざっくりしすぎてるけどリョウのいってることでだいたい間違いないよ」
「へぇ……」
本当に理解出来てるか怪しい顔をしているが、一応聞いてはいたのだろう。
「で、昨日のライブ、来てくれたのはほとんどあたしの友達なんだけど……あの出来じゃ2回目は呼べないし……楓の友達はだいたい部活入ってるしリョウはそもそも呼ぶ人がいないしぼっちちゃんも……あれじゃん?」
「あっはい」
「どうやってもライブをするにはお金が必要なの」
「あっはい」
「だから、ぼっちちゃん──
──バイトしようよ、ここでさ」
虹夏の重い一言にひとりは絶句する。
たぶん、今ひとりはなんとかしてバイトを回避する策を練っているのだろう。
「虹夏……」
「あたしだって心苦しいけど、こうするしかないし……」
「いや、ありがとう」
「え?」
「ひとりに社会経験をさせる機会を与えるなんて……従兄として嬉しい限りだよ……」
社会経験をさせる機会をひとりに与える大天使ニジカエルに感動しているとひとりは鞄から豚の貯金箱を取り出してきた。
「ぼっち、何それ」
「あっ、その……これはお母さんが私の結婚費用に貯めてくれてるお金です……。たぶん使わないと思うので……これでどうかバイトだけは勘弁していただけたら……」
「ほう。じゃあ有難く使わせていただきます」
「なにお前は人の貯金に手を出そうとしてるんだよ」
「そうだよ!こんな大事なお金使えないって!」
「でも、私なんかがバイトしたら『お客様に不快感を与えたで賞』で○刑になるに決まってる……!!」
「なんで賞で○刑になるんだよ」
「頼むよ楓くん……私、死にたくないよぉ……!!」
涙ながらにひとりは俺の足に縋り付く。ここはやさしく慰めてあげたいところだが、ひとりのためだ。心を鬼にしよう。
「ひとり」
「楓くん……」
「働きなさい」
「え?」
「四の五のいわずに働きなさい!!」
「っ……」
俺はいつになく鋭い言葉でひとりに喝を入れる。一方喝を入れられたひとりは鉄○団の団長のような感じで倒れ込んだ。
「ちょっと楓……」
「いや、こうでもしないとひとりはずっとあのままだと思うし……」
「うーん……あ、ぼっちちゃん大丈夫だからね?あたしとリョウと楓もここでバイトしてるから。ほら、怖くないよ?」
「アットホームで和気あいあいとした職場です」
「紹介の仕方がブラック企業のそれなんだよなぁ……。まぁ、ひとり、俺もちょっと言い過ぎちゃったしそれに一緒に働けるってなったらすっごく嬉しいからさ、な?」
「ほら、楓の言う通りだよ!それに仕事もドリンクスタッフとか掃除で結構簡単だし、いろんなバンドを見れて楽しいと思うよ……?」
俺と虹夏、2人がかりで説得するとなんとかひとりは起き上がった。
重い口を開けて何かを言おうとするひとりをただ何も言わずに待った。
「……い」
もしかして断るのか?まぁ、ひとりの意思だしこっちも無理強いは出来ないしな……。
「……がんばりましゅ」
そうだ、ひとりは押しに弱いんだったわ。
こうして新たなバイト仲間にひとりが加わることになったのだった。
◇
バンドミーティングの翌日。
今日はひとりが初めてスターリーに出勤する日。俺は──
「楓くん……働きたくないよ……社会が怖いよ……」
「自分で頑張りますっていったんだし、とりあえずやるだけやってみたら?」
「働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない……」
「はぁ……」
──秀華高にひとりを迎えに行き、彼女の泣き言を聞きながら一緒にスターリーに向かうのだった。
次回、「逃げた喜多」
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