幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
『明日はカレーがいい』
というリクエストを幼馴染であるリョウから受けた次の日の朝、俺は学校へと向かっていた。
昨日は買い物帰りに公園で倒れていたリョウを拾い、夕飯を作ったら料理番認定された。ただでさえ女の子にご飯を作るだけでも精神的に疲れるのにそこに料理番認定とリクエストだ。あいつのことだからこれからほぼ毎日夕飯を作ることになるだろう。そんなことを布団の中で考えてたおかげで俺は今かなり眠い。今日は昼寝をしてから買い物に行こう、そう思っていたら後ろから
「おはよ、楓!」
ポン、と肩を叩かれた。
「ああ虹夏か、おはよ」
こいつはもう1人の幼馴染、伊地知虹夏。明るくてみんなをまとめるしっかり者だが、実は寂しがり屋で辛い時や悩み事がある時は甘えんぼになるやつだ。
「なんか眠そうだけど、どうしたの?」
「夕べに少し考え事してた」
「そっか、あんまり夜更かしするとおばさんに心配されちゃうから気をつけてね」
「ああ、気をつけるよ」
この優しさ溢れる気遣い、天使だろ。無論、先日の入学式でも周りの席の人に話しかけていたり、式後のHRでも高校初日故の気まずく沈んでいたクラスの雰囲気をパッと明るくしていた。
「そういや今日、何あったんだっけ?」
「確か今日はオリエンテーションとLHRだけだった気がする」
二限で帰れるのはありがたい。しっかり寝てから料理を作る方が怪我のリスクとかも低くなる。
「楓、虹夏、おはよ」
「リョウもおはよう!」
「おはよ」
しばらくしてリョウが合流してきた。昨日からの寝不足の原因は8割こいつだ。残りの2割はというと自分の心配性故の考えこみである。
「そんなに考え込まなくても楓の作るご飯は美味しい。私の胃袋を掴んだんだからもっと自信持って」
「えっ」
地味に心を読んでくるな。それにその言葉だいぶ語弊があるぞ。虹夏はなんか無○空処食らったみたいにポカーンとしてるし。
しばらくして我を取り戻した虹夏に事情を説明すると「なんだそういうことだったのか〜。あんまりリョウを甘やかしちゃダメだよ?」 と理解を示し、甘やかさないよう釘を刺された。実際虹夏の言う通りだ。中学生の頃、試験の時に社会のノートを貸した際、貸したノートをしばらく返さなかった挙句、全教科のノートやプリントを貸せと言ってきたり、課題を写させろとせがんできたくらいだ。それでも自分の良心がリョウを助けてしまうあたり、つくづく自分は甘いヤツだと思ってしまう。
「過去の私を褒めても今の私を褒めたことにはならない」
だから褒めてないっての。
◇
昇降口で靴を履き替え、階段を登り自分たちの学年のフロアへとたどり着く。「じゃあね」と言ってリョウと別れ、虹夏と教室に入る。言いそびれていたが俺と虹夏は同じクラスでリョウは隣のクラスだ。話を戻そう。虹夏と一緒に教室に入ると教室にいたクラスメイトは元気よく笑顔で入った虹夏に視線が向いた──
─と思っていたら一瞬で俺に移ってきた。
そのクラスメイトの視線はというと女子からは『えっ?下村くんと伊地知さんって付き合ってるの?』や『やっぱり伊地知さんって行動力あるなぁ〜』のようなキラキラした視線。一方男子からは『は?なんやあいつ』とか『抜け駆けしやがって』とか『野郎、ぶっ○してやらぁ!』などと嫉妬や○意のこもった視線だ。高校生活2日目でこれは恐らくぼっち確定だろう。俺には今年中3になる従妹がいるのだが、そいつはかなりの人見知りでぼっちをこじらせている。そんな従妹が恐らく学校で感じているであろう気持ちが今になって分かってきた。どうか中学最後の年は実りある1年にして欲しい、そう思っていたらいつの間に朝のHRが始まった。担任の話によると一限のオリエンテーションは学校内の施設案内や購買などの使い方を教えてもらうらしく、二限のLHRは先日の入学式で出来なかった自己紹介をするらしい。先程の地獄のような視線からして、俺の○刑執行は二限になるようだ。
◇
一限のオリエンテーションが終わり、一限と二限の間の休み時間、俺はスマホとにらめっこをしていた。今日のカレーに入れる隠し味の材料を探していたのだ。雑草を食べようなんて思わないよう、すこしでも美味しいものを食べさせてやりたいと思う。やっぱ定番でいくとリンゴやはちみつとかなんだが、と隠し味として何を入れるかなんて考えてたらチャイムがなってしまった。担任が出席番号1番の子に号令をかけるように言い、その子が号令をかけて二限が始まった。
「それじゃあこれからこの前出来なかった自己紹介を始めるけど…まぁ、肩の力抜いてリラックスしていこう」
担任がそう言うと、早速自己紹介が始まった。
「出席番号1番の蘆名颯太郎です!出身中学は経堂中で、好きな物は筋トレとカラオケです!よろしくお願いします!」
1番の子は経堂中ね。それにしても趣味がいかにも陽キャって感じするな......。
「好きな筋肉はなんですか〜?」
「上腕二頭筋です!!」
質問に対するこの返答、陽キャで間違いないな。
「出席番号7番の伊地知虹夏です!出身中学は下北沢中で得意なことは料理を作ることで、趣味でドラムやってます!一年間よろしくお願いします!!」
さすがは虹夏だ。自己紹介でもキラキラしてる......。
「好きなアーティストはなんですか?」
「ワニマとかかな〜」
「俺も聞いてみようかな〜」
大天使ニジカエルの後光がさっきから色んな子に質問してる子を優しく包み込む。なんかすごい満足そうな顔してるな。
「出席番号16番の佐竹です......。出身中学は桜新町中で……中学の頃は吹奏楽部に入っていました……。い、一年間よろしくお願いします……」
あぁ、失敗したって顔してるよ。でも大丈夫、俺がもっと盛大に失敗するかもしれないし、それにもうクラスの男子諸君からのヘイトはもう十二分に買ったから……。
「出席番号25番の鈴村佳正です。参宮橋中出身で中学の頃はテニスをしてました。一年間よろしくお願いします。」
お〜真面目な感じなんだなぁこの人。ん?今25番が終わったってことは次は──
「お〜い、下村君、次君の番だよ?」
「あっ、すみません…」
どうやら○刑執行のようだ。
「出席番号26番の下村楓です。出身中学は下北沢中で中学の頃は剣道をしていました。好きなことはゲームです。一年間よろしくお願いしマ゙ずっ!?」
最後の最後で噛んでしまった……。
1年間笑いもの確定ですねこれは間違いない。
俺の噛んだ自己紹介は1部の人の笑いのツボを思いっきり刺激したようで、笑っている人は大爆笑している。先程噛んだ痛みと盛大に自己紹介を失敗して笑われてるショックのダブルパンチは俺に痛恨の一撃を与えた。ただ不幸中の幸いとしてまだ虹夏との関係は聞かれてない。今日も生き延びることが出来た!!
最後の出席番号の子の自己紹介が終わると担任は自由に色んな人に話しかけてみようと言った。どうやら○刑執行はこの時間になりそうだ。
「下村くん…お、お〜い、下村くん?」
さっそく誰かが話しかけてきたようだ。この雰囲気からして、さっきの桜新町中の子だ。
「下村くんってゲームやってるんだよね?なんのゲームやってるの?」
「あ〜最近よくやってるのはス○ブラとかだね。入試終わるまではやれてなかったから最近は腕が鈍っちゃったんだよね〜」
この子も趣味がゲームとは…この子とも仲良くできるかもしれない。俺のス○ブラの腕前はまぁまぁいい方だ。ただリョウや虹夏とやる際はある程度手加減なりハンデなりはする。中学生の頃に1回本気で2人を相手にした時、ボコボコにしてリョウは拗ねてしまい、虹夏はギャン泣き状態になってしまった。あの時2人の機嫌を直すのにはかなり時間をかけた記憶がある。
「へぇ〜ス○ブラ僕もやってるんだよね〜後でフレコ送るからロイン交換しない?」
「うん、帰ったらすぐ申請する。一年間よろしくね」
「こちらこそ!」
さっきの自己紹介のやらかしや虹夏と登校してきたことに関して聞いてこないあたりこの子は優しそうだ。いや、無関心なだけだったり聞かずに内心めちゃめちゃ妬まれてたりして…って、さすがにそんなとはないか。見た目からして優しそうだし。
「下村君、ちょっといいかな?」
「あっ、はい…」
桜新町中の子の次に話しかけてきたのは経堂中の子だった。見た感じ陽キャっぽい感じがするが、悪い人では無さそうだ。
だけどこの感じ、死刑執行されるかも…!
「さっそく聞くけど、下村君と伊地知さんって付き合ってるの?」
「えっ」
やっぱり聞いてくるよな。というかよく初っ端からそんなこと聞けるな。
「仲良く一緒に登校してくるってことはそういうことだよね?」
「あっ、い、いや、そういう事じゃなくて…」
ただありのままの事を言えばいいのになんで口が動かないんだ…!
「じゃなくて?」
「ごめん、一旦水飲ませて」
ここは一旦落ち着こう。友達だって言うのは簡単じゃないか。
「俺と虹夏、幼馴染なんだよ。小学校からの」
「え、マジ!?」
「うん、マジ」
「うわ〜羨まし〜な〜。あ、そうだ。ロインとイソスタ交換しようぜ」
「あ〜、いいよ」
誤解を解くよう、リラックスして説明すると直ぐに納得してくれた。やっぱり○刑執行だなんてことはなかったのだ。
そこから蘆名くんと会話をしていたらチャイムがなった。帰りのHRが始まり、そこで配られたのは部活動説明会の案内とアルバイト届けの2つだった。部活の方は入るとしたら中学と同じく剣道にするつもりだが、今の所入るつもりは無い。体力に自信があるとはいえ、一人暮らしに部活まで付いてきたら体力が持たない。だが、バイトの方はというとこれも部活と同じく体力は使うがお金がなければ生きていけない。一応親からある程度の食費は銀行の口座に振り込んでもらっているが、リョウの分もとなるとさすがに親からのお金だけでは心もとない。今度バイトを探してみるとしよう。
HRが終わり、俺は蘆名くんや他の男子たちと少し会話してから教室を出る。誤解は解けたとはいえ、まだ油断は禁物。虹夏に昇降口で合流しようとロインを入れ、他方面への誤解を予め防止しておいた。
自販機でサイダーを買って飲みながらスマホをいじってるとリョウがやってきた。
「楓、なんか買って」
「虹夏から甘やかすなって言われてるから無理」
「飲み物の一つや二つぐらいいいでしょ」
「ダメだ。てか今日カレー作ってやるんだから我慢しろ」
「むぅ」
飲み物の奢りを拒否すると、リョウは財布から小銭を取りだし、りんごジュースを買っていた。お金あんのかい。
「これで私の機材費用が少し減った」
「機材はお金貯めて買えばいいじゃん」
「見つけた機材はすぐに買うのがマイルール」
「そんなんだから雑草食う羽目になるんだろ」
「さすが私の幼馴染、褒め方わかってるね」
「褒めてないわ」
「2人ともお待たせ〜」
しばらくリョウと2人で待っていると虹夏がやってきた。どうやら先生を手伝ってたら遅くなってしまったらしい。3人揃ったところで俺と虹夏とリョウは学校を後にする。
「リョウのところは自己紹介どんな感じだったの?」
「みんな全然ロックじゃなかった。」
「そりゃそうだろ。初っ端からロックに自己紹介する学校とかヤバすぎだろ」
「そういえば楓、自己紹介のとき、最後の最後で思いっきり噛んでたよね〜」
「え、ウケる」
案の定いじられるよな。まだ微かに残る舌噛んだ時の痛みがヒリヒリしている。
そして噛んだ時の俺の真似をしている虹夏を見て、リョウはクスクスと笑っていた。
リョウと虹夏と別れ家に着き昼飯を済ませると、俺はすぐに寝てしまい、目が覚めると部屋の時計は3時半を回っていた。
枕元に置いていたスマホを確認すると、ロインの通知が溜まっていた。桜新町中の子とリョウからだった。桜新町中の子はフレコを送ってきてくれていた。フレコをゲーム機に入れてプロフィールを見る限り、相当やりこんでいるようだ。
リョウの方はというと─
『6時半にそっち行くから。カレーのお肉はなんでもいいけどルーは中辛で』
─今日作るカレーの味や中身のリクエストだった。
肉はなんでもいいと言っていたし、疲れにも効く鶏肉を使うチキンカレーにしよう。
そう決めて俺は家を出て、近所のスーパーに向かった。
◇
「ただいまぁ〜」
スーパーから帰り、誰もいるはずのない家に向かって呟くが、返事が返ってくるわけが無い。
母と妹が家を出て数日経つが、まだこの寂しさには慣れてない。でも新しい環境で頑張っている妹や母のためにも、俺は下北沢で頑張らなければならない。そう自分を鼓舞し、俺は買い物袋から材料を取り出し、じゃがいもと人参、ルーをキッチンに置き、鶏肉とリンゴを冷蔵庫へと入れる。スピーカーを起動し、お気に入りの音楽を流しながら、俺は具材を切り始める。音楽のリズムに乗りながら玉ねぎを切る。どっかで聞いた話だが、玉ねぎを切るとき、箸をくわえながら切ると涙が出ないらしい。
玉ねぎを串切りにして鍋にいれ、次に切るのはじゃがいも。じゃがいもは個人的にほくほくした食感が好きなので今回は男爵いもにした。縦半分に切ることを繰り返し、3つ買ったじゃがいもをそれぞれ6等分にした。まだ鍋に入れて炒めるまでは時間があるので、水にさらす。
最後に切るのは人参。人参は皮をむいて入れるのが一般的だが皮にもベータカロテンという体内でビタミンAに変換される栄養素が入っているため、家では剥かずに入れる。水洗いし、なるべく可食部を多く残すようにヘタを取り、乱切りにする。野菜を全て切り終え、時計を確認すると、まだ5時半だった。玉ねぎと人参をまとめてボウルにのせ、ラップをかける。
まだリョウが来るまで時間があるため、休憩がてら少しアニメを見ることにした。最近よく見るアニメはゆ○キャンにポ○テピ○ック、三月のラ○オンの3つだ。
この中でもお気に入りなのは三月のライ○ンだ。このアニメは孤独な高校生のプロ棋士が様々な人々と交流し、成長していく物語だ。プロ棋士が主人公の将棋漫画なので、将棋を指すシーンが多いが、魅力は将棋シーンだけでは無い。主人公含め登場人物が何かしらの問題を抱えていて、それに向き合ったり解決したりと見ているこちら側も共感できるシーンが魅力となっているアニメだ。 さっそくこの前の続きを見る。オープニングが流れ始めると、そこから俺がのめり込むのは早かった。この回は主人公とライバルの対決、主人公との死闘に粘った末、敗れたライバルの対局の悔し涙のシーンを見て感動し、見終わった時には大粒の涙を流していた。
涙を拭いて、カレー作りを再開する。リンゴを冷蔵庫から取りだし、水洗いしたあとすぐにすり下ろす。そのあと鍋にサラダ油を入れて熱し、鶏肉、人参、玉ねぎ、じゃがいもとすりおろしたリンゴを入れ、鶏肉の色が変わり、玉ねぎがしんなりするまで炒める。
そうしたら鍋に水を加え、煮込む。煮込んでいるとスマホからロインの通知がなった。メッセージの主はリョウで少し早く着くという内容だった。気をつけてこいと返信して引き続き鍋を注視する。
沸騰したら火を止め、沸騰が収まり、鍋にルーを入れる。ルーをかき混ぜながらよく溶かす。弱火で煮込みながら皿を食器棚から取り出し、キッチンの空きスペースに並べた。鍋から漂うカレーの美味しそうな匂いにヨダレが垂れそうになる。
今から皿にちょうど炊けた白ご飯とカレーを装うとしたその時、ドアチャイムがなった。玄関に向かいドアを開けるとそこにはギターケースを背負っているリョウがいた。
「ドア開けるのが遅い」
「ピンポン鳴ってからそんな経ってないだろ」
「か弱い乙女を外でほったらかすのはよくない」
「はいはいそうですね。とりあえず入れよ」
「お邪魔します」
リョウは家に入り手を洗うとリビングへと向っていった。昨日と同じくリョウはソファへとダイブした。だが昨日とは違って寝ずにテレビを眺めていた。ニュースに興味があるのかと尋ねるとそうではなく、どうやらこの後にやる音楽番組に興味があり、予めチャンネルを合わせたという。ニュースをぼけーっと眺めるリョウを見ながら、俺はカレーライスをよそう。
「そろそろ食べるぞ」
「え、もう出来てるの?」
「だってお前が来るのに合わせて作ったからな」
「さすが料理番、褒めて遣わす」
「褒めていただき光栄にございま〜す。とりあえず、皿おいとくから自分で好きな量注ぎな」
「わかった」
カレーライスをよそい終わり、リョウを呼ぶ。カレーライスをテーブルに並べると、リョウは目を輝かやかせてカレーを眺めていた。ホテルのレストランで出すカレーほどの自信はないが、美味しいそうと思ってもらえてるなら、それは嬉しい。
「「いただきます」」
スプーンでカレーを口に運ぶ。引き立て役として入れたリンゴが自らの味を主張せずにカレーの味を深みのある味わいにしている。
「このカレー、美味しい。隠し味にリンゴとか入れたでしょ」
「よくわかったな」
「私の好みにあっているからすぐわかった。今後も精進していくといいよ」
なんか上から目線でイラッとしたが、隠し味を見抜くその直感力、さすがはお嬢様。舌が肥えていると思う。
「「ご馳走様でした」」
カレーライスを食べ終え、リョウは直ぐにリビングへと向かい、テレビでやっている音楽番組を見ていた。人気アイドルが出てる時は退屈そうにしていたが、お目当てのバンドが出てくるとすぐさまノートとペンを取り出し、曲を聴きながらメモを取っていた。好きなことに対し熱中している彼女を俺はシンプルに尊敬しているし、憧れを抱いている。それに対して自分は、なんて浮かないことを考えるよりはまずは目の前のことをやろうと2人分の食器を洗う。
食器を洗い終えて、俺もソファに座り込む。リョウはというとグデーっと横になってる。足がこちらに当たっていてもお構い無しのようだ。
「楓、アコギ持ってきて」
「ん、どうした?」
「アコギ弾きたい」
「わかった、取ってくるわ」
俺は階段を登り、自室からアコギを取り出す。
簡単にコードを引く限り、あまりチューニングは狂って無さそうだ。少し弾きたいと思ったがリョウを待たせてるので、その気持ちを抑え、アコギを下へ持っていく。
夜なので弱音器をつけ、大きい音が出ないことを確認し、アコギをリョウに渡すと、さっそく曲を弾き始めた。さすがはバンドマン、カポを使わずに丁寧な運指でコードを奏で、透き通った声で歌う。
「互い違いに歩き出した、僕の両足は〜♪」
弾いているのはOfficial髭男dismのパラボラ。
正直、ロックが好きな彼女がポップを弾くのは驚きだが、春の新しい環境に対する不安や期待感を歌ったこの曲をリョウが選んだということは、恐らくリョウもそれなりの不安はあるのだろう。
「いつかきっと、いつかきっと〜♪」
曲を弾き終わるとアコギをこっちに手渡してきた。
「楓もなんか弾いて」
リョウがそういうので俺もなにか曲を弾くことにした。さっきリョウが弾いていたのは春の曲。ならこちらも春の曲を弾くのが無難だろう。そう思い俺が選曲したのはスピッツの春の歌。この曲はまだ姉が家にいた頃、よく聞かせてもらっていた曲だ。姉ほど上手く弾ける自信はないがそれでも頑張ろう。そう思いながら2フレットにカポを取り付け、曲を弾き始める。
「重い足でぬかるむ道を来た トゲのある藪をかき分けてきた 食べられそうな全てを食べた〜♪」
元々バンドマンだった姉よりは上手く歌えてない気がするが、リョウの聞いている様子からして、ちゃんと歌えているのだろう。
「遮るなどこまでも続くこの道を〜♪」
楽しそうに聞いているリョウを見ていたら、あっという間に弾き終えた。
「曲選のセンスいいし、ギターも上手い。でも私の方がもっと上手い」
「そりゃバンドマンに敵うわけないだろ」
◇
「お休み、また明日」
「また明日」
そう言って玄関まで見送り、手を振る。外に出て家へと歩き出すその様はまるでギターを嗜むお嬢様という感じだった。
「あいつ見てくれだけはいいんだよなぁ」
思わず出た独り言を呟き、ふとやってきた眠気を受け入れるかのように布団へと向かう。
明日は何を作ろうか。そう考えていると俺はあっという間に眠りについたのだった。
いや〜小説書くのって難しいですね()
お気に入り登録や感想、高評価がモチベにつながるのでぜひお願いします
出来れば☆9とか☆10が欲しいです(承認欲求モンスター)
今のところはオレンジバーを目標にしています。
タイトル変更は
-
してもいい
-
しなくてもいい