幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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普通に書こうとしてたら喜多ちゃん再加入のところをカットしかけてたので前後編にわけました。


#6 誕生、結束バンド

何なんだ、この地獄のような雰囲気は……。

 

「なんでもしますから、あの日の無礼をお許しください!どうぞ私をめちゃくちゃにしてください!!!」

 

リョウを見るなり、泣きながら土下座する喜多ちゃん。

 

「誤解を生みそうな発言やめて!!」

 

それを見てエナドリを抱えながらツッコミを入れる虹夏。

 

「……」

 

ただ無言で困惑するひとり。

 

「おぉ〜……」

 

土下座する喜多ちゃんに対して何食わぬ顔で反応するリョウ。

 

「えぇ……なにこれぇ……」

 

そして彼女ら4人をみてひとり以上に困惑する俺。

というか本当に何この状況、気まずすぎるよ。

 

「と、とりあえず移動しない?」

 

「そ、そうだね……」

 

5人で気まずい雰囲気のなか、スターリへと移動する。道中、道行く人の冷たい視線が俺にグサグサと突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スターリーに着くと、俺以外の4人はフロアにあるテーブルに座った。

 

「喜多ちゃん、本当のこと、話したら?俺は黙って見てるから」

 

「わかりました……」

 

俺は取調べのような雰囲気に気まずさを感じながらも喜多ちゃんに本当のことを話すよう諭した。

 

「私……本当はギター弾けないんです」

 

「え?喜多ちゃんって本当はギター弾けなかったの?」

 

喜多ちゃんがギター弾けないことに驚く虹夏。それもそのはず、俺は虹夏とリョウにはその事を先日喜多ちゃんにあって以降ずっと黙っていたのだ。

 

「だから合わせ練習頑なに避けてたんだね〜」

 

「はい……」

 

「急に音信不通になったから心配してた」

 

「先輩……」

 

沈黙がこの場を包む。俺はこの雰囲気をなんとか変えるため口を開こうとすると喜多ちゃんが重い口を開けた。

 

「あの……怒らないんですか?」

 

「いや〜、気づかなかったあたし達にも問題があるし……それにこの前はなんとかなったし」

 

これ喜多ちゃんが逃げる前に言っといた方がよかったのかもしれない……。

 

「で、でもそれだとなんだか許されてる気がしなくて……せ、せめて罪滅ぼしさせてください!!」

 

「そんなこと言われてもな〜」

 

急な喜多ちゃんのお願いに虹夏は困惑する。俺は少し遠くからスマホを弄りながら見ているのだが、喜多ちゃんの必死さがまるで目の前にいるかのように伝わってくる。

 

「じゃあ今日一日ライブハウス手伝ってくれない?忙しくなりそうだし」

 

「おお〜いいねぇ〜」

 

「そ、それだけじゃ」

 

「ほう、それなら……」

 

星歌さんが物置から持ってきたのはメイド服。渡されると喜多ちゃんはすぐに着替えてメイド姿になった。俗にいう陽キャというやつなのだろうか、とても似合っている。

 

「こういう恥ずかしい格好ならそこにいる男子くんも喜ぶだろ」

 

伊地知姉妹が少しニヤついた顔でこちらを見てくる。実際メイド服はそこまで嫌いでは無いがさっきまでの雰囲気のせいか、喜べる気が全くしない。

 

「まぁいい、まずは掃除から始めて」

 

「はい!!」

 

星歌さんからの指示で早速喜多ちゃんは掃除を始めた。流石といったところだろうか、飲み込みが早く、着々と仕事を進めていく。

 

「あいつ臨時の割には使えるな」

 

「ほんと手際よくて助かるよね〜」

 

「お陰様で睡眠を貪る時間までできてしまった……」

 

「時給から引いとくぞ」

 

なに臨時の子に仕事丸投しようとしてるんだよ。

 

「よし、じゃあ喜多ちゃん愛想いいし受付やってみよっか。楓〜、喜多ちゃんに受付教えてあげて〜」

 

「わかった」

 

虹夏の指示を受け、喜多ちゃんに受付を教えることになった。

受付業務は普段俺がメインでやっているもので、お客さんにチケットを売るだけでなく、バンドのグッズなども売ったりする業務だ。

 

「で、このピックみたいなやつがドリンクチケットなんだけど、ライブチケットを渡すときに一回『ドリンクチケットもいかがですか?』って確認してね」

 

「はい!」

 

「じゃあ早速お客さん来たみたいだから今の

やってみよっか」

 

「はい、ライブチケット1つですね!あ、ドリンクチケットもいかがでしょうか?」

 

やってきたお客さんに笑顔で接客する喜多ちゃん。チケットを渡すときも謎の効果音がついているかのような眩しい笑顔を見せている。

 

「まずは一通り終わったって感じかな」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

「さっきの話だけど、話して少しは楽になったんじゃない?」

 

「そうですね……。なんだかスッキリしました」

 

「まぁ、それならよかった。あ、虹夏が呼んでるみたいだし次のところ行こっか」

 

「あ、はい!改めてご指導ありがとうございました!!」

 

しっかりお礼をして、喜多ちゃんはドリンクコーナーの方へと向かっていった。

 

「喜多さん、いい匂いしますし手際もよくて完璧な感じがしますね」

 

「やっぱPAさんもそう思います?」

 

実際、受付業務を一緒にやってるときにかなりいい匂いがずっとしていた。恐らくあの子は学校でモテてるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事を手際よく進めていく喜多ちゃんとキョドってミスを連発しながらも喜多ちゃんに仕事を教えていくひとり。俺は自分の業務をやりながらその2人を眺めているうちにあっという間に今日のバイトは終わった。

 

「喜多ちゃんも今日はありがとね。結構助かったよ〜」

 

「こちらこそ今日はありがとうございました。これからもバンド、頑張ってください。陰ながら応援してますから。それじゃ」

 

「あ、ああ、ちょ、まっ、まっちょ……帰らな……」

 

暗い顔をして帰ろうとする喜多ちゃん。しかし、彼女を引き止めるのはリョウでも虹夏でもなく、緊張で顔面が崩壊しているひとりだった。

 

「こ、こここのまま帰って……ほ、本当にそれでいいんですか……」

 

「もう私は結束バンドには入れないわ。皆真面目にやってるし、一度逃げ出した人間がそうやすやすと戻ってこれる場所じゃないわ」

 

「でっ、でも喜多さん……さっき手当してもらったとき、ゆ、指先の皮が固くなってました……け、結構練習しないとそうはならないはずです……」

 

「でも……」

 

「ほ、本当は逃げ出した後も練習してたんですよね……ど、努力してたのなら……も、戻ってきては……」

 

あのひとりが必死になって喜多ちゃんを説得してる……。

あそこまで真剣になってるひとりは見たことないぞ……。

 

「あたしも喜多ちゃんにバンド盛り上げるの手伝ってほしいな〜!」

 

「伊地知先輩……」

 

「うん。それにメンバーが増えればノルマも4分割」

 

「「もうちょいマシな言い方はないのかお前は!!」」

 

「リョウ先輩のノルマ……ノルマ分?いや、その倍は貢ぎたい……!」

 

「その思想は捨てた方がいいと思うよ……」

 

「と、とにかく……みんなの言う通りです……そ、その……私も喜多さんとバンド……したいです……な、なのでも、もう一度……け、結束バンド……は、入ってくれませんか……?」

 

「後藤さん……」

 

「ひっ、1人で弾くよりは何倍も楽しいですよ……」

 

ひとりが喜多ちゃんに投げかける言葉に俺は彼女の成長を感じる。去年の今頃ならこんなことは出来なかっただろう。

 

「うん……私、頑張ってみるわ。結束バンドのギターとして」

 

「うん!じゃあ改めてよろしくね、喜多ちゃん!」

 

こうして、ひとりの引き止めによって喜多ちゃんは結束バンドに戻ってきた。

 

「あ、でも今のパリピバンド路線はやめたほうがいいですよ……毎日エナドリ飲んで踊り狂ってるんですよね?」

 

「それどこ情報!?しかも踊り狂ってないし!!」

 

「あっ、じゃあ私はここで……」

 

ひとりが先に帰ろうとすると、が「今日のMVPはぼっちちゃんでしょ」と引き止めた。それに乗じてリョウと喜多ちゃん、そして俺もひとりを褒めた。

 

「ぜ、全然大したことなんてして……うへへ」

 

「本当すぐ顔に出るな、お前」

 

「そういえば私のギター、いくら練習してもなんかポンポンって低い音がして……」

 

「それほんとにギターなのか?」

 

「そんなわけ……私ギターは弾けないけどさすがにそこまで無知じゃ……」

 

「それ多弦ベース」

 

リョウの無慈悲かつ的確な指摘に喜多ちゃんは倒れ込む。俺は気になったのでスマホで喜多ちゃんが持ってた多弦ベースの値段を調べた。

 

「うわっ、これ結構高いモデルのやつじゃん……よく買えたね」

 

「ローンあと30回残ってるのに……」

 

そう言い残して、魂が抜けたかのように喜多ちゃんは気絶したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喜多ちゃんが結束バンドに再加入してからはや数日。

スターリーはさらに賑やかになった。

 

「あ〜!!Fが抑えられない!!難しすぎるわ!!」

 

「あ、最初はそれっぽく弾ければ大丈夫ですよ……」

 

「うん、最初は誰だってそんなもんだよ。俺だってそうだったし」

 

結束バンドは普段は近くのスタジオで練習している。しかし金欠故か、たまにスターリーのスタジオを借りて練習している。そしてスターリーで練習しているときはたまにひとりと一緒に喜多ちゃんにギターを教えている。

 

「もしちゃんとFを鳴らしたいんだったらハイテンションコードとかやってみたら?」

 

「ハイテンション?」

 

「例えばFだったら1フレットの1弦と2弦を人差し指で、2フレットの3弦を中指、3フレットの4弦で薬指で抑えると高めの音にはなるけどFがなるよ」

 

「なるほど」

 

「で、この方法でいくとF#とかG#も鳴らせるようになるよ」

 

「あっ、でもソロでやるとかなり目立つのでそこは注意したほうがいいですよ……」

 

「だから最初のうちはハイテンションを使ってイメージを掴んでそこからバレーコードを練習していけばいいよ」

 

「……!後藤さん、楓先輩、ありがとうございます!!」

 

「どういたしまして」

 

「3人ともちょっときて~」

 

虹夏に呼ばれてスタジオからフロアに戻ると、そこにはホワイトボードが置かれていた。

 

「では、これからバンドミーティングを始めようと思いま~す。はい拍手!」

 

椅子に座った途端すぐに、バンドミーティングが始まった。

というかさも当然のように部外者の俺も呼ばれたけど何故だ?

 

「あの……」

 

「ん、どうした~?」

 

「どうして部外者の俺も呼ばれたんですかね……」

 

「あ〜、ちょっと手伝ってほしいことがあってね~。今日の議題の1つでもあるんだけど」

 

「はぁ……。それって?」

 

「アー写を撮ろうって話」

 

 

アー写というのはアーティスト写真の略称。

バンドが宣伝のためにライブハウスやマスコミに提供する写真のこと。もちろん結束バンドにもアー写はあるのだが……

 

「あっ、この前のライブのときは……」

 

「一応撮ってはいたんだけど、喜多ちゃんもぼっちちゃんもいないから取り直そうかなって思って」

 

そのアー写を撮影したのはひとりがサポートに入ったライブの1週間ほど前。その日は喜多ちゃんが不在だったのでリョウと虹夏だけで写真を撮った。そしてなんとか喜多ちゃんの写真を右上に編集で載せたのだが、まるで卒業アルバムで休んで顔写真だけ付け足された人みたいな感じになってしまった。

 

「この前のあれ撮るのも大変だったし編集するのも大変だったな」

 

「すみません……」

 

「まぁ今回のアー写も楓に撮るのを手伝って貰うってことで、明日近くのいいところで取りに行こう~!」

 

虹夏のやつ、俺の意見を聞かずに決めやがったよ……。

まぁ手伝うのは嫌じゃないけど……。

 

 

 

 

後編に続く




次回、「アー写でジャンプするバンドは神バンド」



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  • 大槻ヨヨコ
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  • ジミヘン
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