幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。   作:かんかんさば

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この話は後編です。前編を読んでから読むことをおすすめします。


#7 アー写でジャンプするバンドは神バンド

バンドミーティングから1週間後。

今日は日曜日というのもあってか、下北沢駅には多くの人が来ている。

 

「楓~、ぼっちちゃん今どんな感じ?」

 

「さっきロイン来たときは池ノ上にいるっていってたからそろそろじゃない?」

 

俺は結束バンドのアー写撮影を手伝うため、下北沢駅に来ている。そしてリョウと虹夏、喜多ちゃんと待ち合わせして、今はひとりを待っている。

 

「それにしても晴れてよかったですね」

 

「絶好のアー写日和」

 

「アー写日和ってなんだよ……。あ、来た」

 

「お、おはようございます……」

 

「あ、ぼっちちゃんおはよ~ってどうしたそのフリップ!?」

 

肩に手提げカバンと謎のフリップを提げてひとりはやってきた。そしていきなり土下座を始めた。

フリップには「私は約束通りに歌詞を書き上げられませんでした」と書かれている。ひとりがなぜフリップにそんなことを書いているのだろうか。理由があるとすれば、それは今から一週間前に遡る。

 

一週間前のバンドミーティング。そこで決まったのはアー写の撮影だけではない。

「よりバンドらしくなるためには」と題して様々なことを決めた。

まずはバンドの公式SNSアカウント。

情報発信のため、イソスタのアカウントを開設し、喜多ちゃんがSNS担当大臣として管理することとなった。

次にグッズ。

虹夏がバンドグッズの案を出していた。どんなものかというと──

 

「じゃじゃーん!!」

 

「それさ、ただ結束バンドを腕に付けてるだけじゃん」

 

「え、かわいくない?カラバリも充実していていいと思うけど」

 

──それはカラフルな結束バンドだった。その結束バンドというのは彼女ら4人のことではなく、コードとかを束ねる"あの"結束バンドだった。

それを虹夏は腕に巻き付けて自信満々に紹介していた。

 

「あ、それって原価はいくらなんですか……」

 

「100本で500円くらいだったよ」

 

「よし虹夏。それ物販で一本500円で売ろう。サイン付きは650円」

 

「ぼ、暴利すぎる……」

 

「ただのぼったくりじゃねぇか」

 

リョウの提案に俺とひとりでツッコミを入れると、喜多ちゃんが「650円……。いや、6500円で買います……!」とリョウに払おうとしていたがさすがに止めた。

他にも年会費がとんでもないファンクラブ(リョウ考案)やフリートークのボケとツッコミのポジション決め(喜多ちゃん考案)など様々なことを決めた。

そして、最後に決めたのがオリジナルソングの作詞作曲。

といっても大方のことはこの前のライブで決めておいたので確認程度のものだった。

ただ──

 

「作詞なんて朝飯前!ちょちょいのちょい、ですよ~」

 

とひとりは自信ありげに言っていたのだが、未だに歌詞のアイデアが思いついていないらしい。

そして今に至る。

 

「今日は歌詞を約束通りに書き上げられなかった私を晒し者にする会では……」

 

「あたし達そんな外道な事しないよ?それに歌詞はそう簡単にかけるものじゃないってのもわかってるから。気にしない気にしない!」

 

虹夏の言葉にひとりは土下座を止めて立ち上がる。

 

「あ、はい……じゃ、じゃあ今日集まったのは……」

 

「あ〜、この前アー写撮ろうって言ってたでしょ?今日はそれを撮るために集まったんだよ」

 

「あ、あのそれって外で撮るんですか……?」

 

「そうだよ~。スタジオだとお金かかるからムリ」

 

結束バンドは金欠ゆえ、練習以外でスタジオを借りるほど贅沢はできない。撮影する時間だけの利用料金を出してあげようと虹夏に提案したが、「いいよいいよ~。外で撮った方がなんだか良さそうだし」と見事に断られてしまった。

 

「やっぱ金欠バンドのアー写は屋外が定番だからね!等々力とか有明で撮るのも考えたけどやっぱり下北沢発祥だしこの辺でロケーションを探そう!候補は階段、公園、よさげな壁!ってことでレッツゴー!!」

 

こうして結束バンドのアー写の撮影場所探しが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンバー4人と付き添いの部外者1人で下北沢の街を練り歩く。

小田急線の線路跡地に出来た線路街や裏路地のシャッター街を歩いてみたり。歩いていると、下北沢育ちの俺でも知らないようなところが沢山あり、新たな発見を感じた。

 

虹夏の言っていた階段や公園、歩いている途中で見つけたコインパーキングでそれぞれ写真を数枚ずつ撮ってみた。カメラマンである俺はちょくちょく喜多ちゃんなどにアドバイスを求めた。

 

「どうかな?」

 

「そうですね……撮り方は上手いから大丈夫なんですけど……」

 

「やっぱりここだとインパクトに欠けますね……」

 

さすがはイソスタグラマー。映える映えないの区別がハッキリわかってるみたいだ。

こうしてSNS担当大臣の指示を仰ぎながらしばらく歩き回ったが中々いい場所が見つからず、一旦自販機の前で休憩を挟むことになった。

 

「そういえば今日楽器持ってくればよかったわね……」

 

「あっ、確かにその方がバンドっぽくなるっていうか……」

 

「おい、2人ともそれ言うと……」

 

「そう、君たちはね?」

 

「う〜わ、始まった……」

 

喜多ちゃんとひとりの何気ない会話が虹夏の地雷を踏んでしまった。俺は2人の会話を止めようとしたが、もう手遅れみたいだ。

 

「ギターとベース?そりゃ持ち運べるしあった方が写真映するのはわかってるよ?でもさ、ドラムだと君たちが笑顔でギター持ってても私が持つのは木の棒2本だよ?すこしはあたしの身にもなろうよ……」

 

「まぁまぁ、今日は楽器なしで撮るんだからいいじゃn…っておいこら!木の棒で叩くな!!」

 

なんとか虹夏を落ち着かせようとするも、その辺に落ちてた木の棒で素早く叩かれる。

といってもそのスピードは元剣道部、関東大会個人入賞の俺からしたら捌くのは簡単で、初撃以外はたまたま持ってたラップの芯で全て受け止めることが出来た。

 

「楓先輩、あのスピードのやつをほとんど避けたわ……!」

 

「あっ、す、すごい……」

 

「楓、剣道やってたから」

 

「まぁこれでも関東大会入賞してるもんで。今はやってないけど」

 

その後、虹夏を落ち着かせてからまた撮影場所探しは再開した。

すると歩き出してすぐにひとりが建物を指さして立ち止まった。

 

「ん、どうしたひとり」

 

「あっいや、その……よさげな建物を……」

 

「おお~。でかしたぞひとり」

 

「うへへ……」

 

「お~い、3人とも~。いいとこ見つかったぞ~って、いねぇし!」

 

いつの間にか3人はどこかに行ってしまっていた。恐らくひとりに気づいていなかったのだろう。グループロインに場所が見つかったことを報告し、戻ってくるのを待つことにした。

 

「じゃあひとり、試し撮りしたいからそこ立って」

 

「うん……」

 

ひとりを壁の前に立たせて写真を1枚。パシャりと撮った。しかし、苦手故か、写真写りが悪い。

もう1枚試し撮りをしようとすると、3人が戻ってきた。

 

「すっごい!素敵な壁ですね!!」

 

「ぼっち、楓、でかした」

 

「うへへぇ……」

 

「おお~、いい壁だねぇ~。じゃあ早速よろしく頼むよ」

 

「じゃあ1枚とってみるから一度カメラに注目……はいチーズ」

 

いい写真であることに間違いは無いのだが、何かが違う気がする。

 

「どんな感じ?」

 

「一応こんな感じだけど……」

 

「うーん、やっぱりみんなの個性は出てるけどイマイチって感じだね……」

 

「ならここは日本で1番個性があって正統派ベーシストの私が手本を見せよう……」

 

「よく堂々とそんな嘘つけるな……まぁ、いいや。はいチーズ」

 

シャッターを切る瞬間に合わせてかっこよくポーズを決めるリョウ。

やっぱり、あいつは綺麗だな……。

 

「どう?」

 

「まぁ、かっこいいね。でもこれをほかの3人がやるってなるとちょっとな……」

 

「とりあえず国宝級の写真撮れたんだから楓は誇るべき」

 

「はいはいそうですね」

 

そこからしばらく、アー写のポーズを模索していると、虹夏が喜多ちゃんに意見を求め始めた。

 

「そういえば喜多ちゃん、さっき撮ってた写真、どれも可愛く写ってたけど、結構イソスタに自撮りとか上げてたりするの?」

 

「はい。こんな感じでちょくちょく……」

 

「イソ……スタ……ウガッ!!」

 

イソスタという単語を聞いた瞬間、ひとりは倒れて痙攣しはじめた。恐らく青春コンプレックスが発動したのだろう。

 

「えっ、後藤さん?ど、どうしたの急に!?死なないで!」

 

「あ〜、やっちゃったか」

 

「やっちゃったって、私なんかしました?」

 

「恐らくひとりはイソスタという単語を聞いて青春コンプレックスが発動したんだよ。イソスタにあげるようなキラキラした写真を1秒でも見るとああなってしまうんだ」

 

「え、そんなことあるんですか!?」

 

 

 

ひとりのこの様子をみて驚かないことから、虹夏も慣れてきたのだろう。

喜多ちゃんに青春コンプレックスについて説明しているうちにひとりはすっかり──

 

「私が下北沢のツチノコです……」

 

「後藤さん?」

 

「いつもこんなんだよ~」

 

「喜多ちゃんもいずれ慣れるから、安心しな」

 

「いくらで売れるんだろう……」

 

お前は人の従妹を売ろうとするな。

 

下北沢のツチノコ、もといひとりが地面でうねうねしていると虹夏がひとりにある提案をした。

 

「そうだ。いっそのことぼっちちゃんもイソスタ始めてみたら?メンバー個人のアカウントもあったほうがいいと思うし……」

 

「あ、ちょっ、虹夏……」

 

まずい、今の発言はまずいぞ……。

今のこの状況からして恐らくひとりにトドメを刺すんじゃ……。

 

「ア゙ア?゙ア!゙ア゙ア゙?ア゙ア゙?!ア゙ア゙!?ア゙ア゙ア゙?ア゙ア゙ア゙!!!」

 

ほら、トドメ刺してた。

電子音のような奇声を発するひとりをみて俺とリョウ以外は困惑するのだった。

 

しばらくして、ひとりが蘇生したのでアー写撮影を再開した。

いろいろポーズを変えて試してみるも、中々いいものは撮れない。

 

「う〜ん。なんかこう、躍動感が欲しいっていうか……」

 

「躍動感……。それならジャンプなんてどうですか?」

 

「「おお~」」

 

「ジャンプなら躍動感ありますし、みんなの素の感じが出そうじゃないですか?」

 

「よぉ~し、じゃあそれ採用!」

 

「有識者が言っていた。オープニングでジャンプするアニメは神アニメだと……」

 

「あ、確かにそうかも」

 

オープニングでジャンプするアニメ。だいたいきらら系アニメでよく見る光景だ。

ちなみにリョウはよく俺の家でご○うさやきんいろモ○イクなどをしょっちゅう見ている。

もちろん俺もきらら系アニメはよく見ている。

 

「だからアー写でジャンプするバンドは神バンドになる」

 

「ちょっと何言ってるかわかんないけど、準備お願いしま~す」

 

「う〜い、じゃあ3、2、1、ハイ、ジャンプ」

 

4人が地面を蹴って、飛び上がる瞬間を綺麗に撮れた。

こういうのって意外とブレないもんだn……

 

「いいの撮れた?って楓、青ざめた顔してどうしたの……?」

 

「あ、ああ……ぱ、ぱぱぱ……」

 

シャッターを切った瞬間俺は見てはいけないものを見てしまった……。

それは──

 

「あ、ぼっちちゃんパンツ見えてるぞ~」

 

 

ひとりの、男子が絶対に見てはいけない白い布(パンツ)だった。

 

「む、無価値なものを写してすみません……」

 

「ごめんなひとり、こんな愚図みたいなお兄ちゃんで……」

 

「ちょっと2人とも!撮り直すから元気だして!!」

 

その後、正気を取り戻した俺は4人がジャンプする写真をちゃんと撮ることに成功した。

 

「うん!これなら青春感あっていい感じだね!じゃあ後でグループに送っといて」

 

「あいよ」

 

スマホを開いて、グループに今日撮った写真を送る。もちろん、ひとりのあれは直ぐに消した。

帰り道、やけに3人が盛り上がるのを見ながら歩いていると、リョウが話しかけてきた。

今日一日、リョウのテンションはいつもより低めだった。といっても普段からダウナーな感じではあるが、10年以上の付き合いなのでテンションが低いことくらいはすぐにわかる。

 

「楓……」

 

「どうした?」

 

「……いや、なんでもない。それより今日の晩御飯は?」

 

「ふっ、焼きそば」

 

「じゃあ味付けはオイスターソースで」

 

「あれ高いから勘弁してくれよ……」

 

「なら塩で許してあげる」

 

「はいはい」

 

リョウが俺に何を言おうとしたかはわからないが、ひとまずアー写を撮ることが出来て満足した6月の夕暮れだった。




次回、「手作りアイスクリーム」

そういえば酒カスもといきくりお姉さんのスピンオフが始まるらしいですね(大歓喜)

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高評価くれー!!(承認欲求モンスター)

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  • 後藤ひとり
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  • 山田リョウ
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